09くらえ! 必殺ビーム!
こんにちは。こんばんは。
戦闘表現が思ったように書けない今日この頃です。
もう、なんか、書いているうちに上手くなると信じて、書いていくことにします。
「こ、このダンゴムシ!!」
基本色は銀なのだが、仄かに七色のマダラ模様がキラキラしている殻を持つこの虫は、5歳児である俺よりも一回り大きかった。
基本的な姿はダンゴムシだというのに、身を丸くした直後に殻と殻の隙間から火を噴射して高速回転を始めると、ドラッグレースのように加速する車のように突撃してくる。
ボーリングで吹っ飛ばされるピンの気持ちを教えてくれるような勢いだった。
〈手伝おうかー?〉
「まだ大丈夫! もう少し待って!」
先ほど召喚した地蔵菩薩道標人に『雑魚過ぎて――』と言われたことで、なんか色々とキレてしまった俺は、勢いに任せて「俺もモンスターを狩る!」と言い、こうして戦闘中である。
思えば、ダンジョンに突入してからずっとアライラのビームでモンスターを焼いてたので、俺は一回も戦闘していなかった。
別に、アライラ任せにしていたわけではない。
モンスターを見つけると、俺が確認する前にアライラが倒してしまっていただけのことだ。彼女の眼とビームは、俺よりも敵を見つけるのが早くて、俺よりも攻撃飛距離が長いので、俺が何かする前にどうとでもできてしまうからに他ならない。
サボっていたわけではない。断じて。
「地の深淵に我が力を以て求める」
もう何度目かの突撃を回避して、俺は技を発動する。
「地獄門・地蔵合掌壁!」
ダンゴムシの突撃に合わせて合掌壁を召喚する。
地蔵合掌大道壁とはサイズが異なり、俺を護るための基本的な防御技だ。この合掌壁からバリエーションを数種取り揃えているのだけれど、合掌壁以外を使うのはまだ体への負荷が大きい。
アライラのような巨体を護るのであれば大道壁が適切だけれど、俺のような人間一人を護るのであれば合掌壁という基本技で十分だ。
しかし、ダンゴムシの突撃を防ぎつつ、合掌で叩き潰してやろうと思ったのだけれど・・・見事にすり抜けて俺に迫ってくる。
こういう場合も想定して、横っ飛びに逃げる準備をしていたのは幸いだった。
していなかったら轢き肉になっていたところだ。
「くそ、速いなコイツ!」
〈え? 言うほど速いかな?〉
速いのだ。
突撃時の速度は高速道路を暴走する車のごとく・・・変形を解除して虫に戻っても、その足で方向転換する速度も台所で見るあいつ等レベル・・・。
と、再び突撃してくるダンゴムシをアライラが前足であっさりと叩き潰した。
〈やっぱり、そんなに速くないよ? コイツ〉
・・・それは君がコイツ以上に速いだけだろ?
〈ま、ルッタは弱いみたいだし、これからこれから!っと、鑑定しとこ〉
『バビュント。異世界バケユビタに生息している昆虫。ダンゴムシの仲間。その殻はミスリルで構成されており、非常に硬い上に殻の縁は鋭い刃にもなる。そのため、武具を作る素材として人気があるが、捕獲しようとして轢き殺される者が後を絶たない。』
〈おー、ミスリルかー〉
「あの殻、ミスリルなのか・・・って、ミスリルってどういう金属なんだ?」
ゲームだとお馴染みの名前になるだろうけど、正直、リアルに実在しているとした場合は、どのような金属になるのだろうか?
〈ゲームだと、物理ダメージ耐性も高いけれど、魔法ダメージ耐性の方が優秀だったはず。どっちにしても、加工するにはかなりの技術がいるんじゃない?〉
「魔法か・・・うーん」
この世界には魔法術というものがあるけれど、このミスリルはそれらにも有効な防御力を持つのだろうか? 魔法なのか魔術なのか、結局外にいる頃には分からなかったしな。
それに、ファンタジーな使い方をしていなかったのも大きい。
主に道具に技を込めるやり方が主流だった。車を動かしたり、機関車を動かしたり、電灯をつけたり。攻撃系の魔法術で俺が唯一みたことがあるのは、猟銃の弾丸に魔法術を込めて畑を荒らす害獣を駆除した時くらいだろうか。
・・・それって、物理攻撃になるのか? はたまた魔法攻撃になるのか・・・。
「このミスリル。剥がして使えるのかな?」
〈鑑定の結果だと、使えるっぽいけど・・・コイツのは無理でしょ。私が叩き潰しちゃったし〉
そうだな。
見事に平たくなっている。こうしてみると、ミスリルって大した金属じゃないように見えるな。
〈あ、ほらほら、まだいるからね?〉
「ああ、次こそは狩ってみるよ」
そう・・・蟻ほどではないけれど、ミスリルダンゴムシもウジャウジャいた。
ただ、蟻と違って集団行動をしないようで、モソモソという感じで一匹だけ俺に向かってくる。しかし、ある程度まで近づいてくると身を丸くして転がるように突撃してくるのだ。
合掌壁で挟んで止めるのはタイミングが合わせられなかったので、今度は別の方法を取ることにする。
『陰陽道・地獄変』という道具には、基礎となる技が存在している。
主に初級・中級・上級という順に『地獄門』『地獄道』『地獄殿』という三段階だ。俺が、自称神より貰った巻物を開いて読んだときに、インストールされたと言える。
まぁ、巻物の内容自体は・・・ちっとも面白いものではない。延々と説教が綴られていて、最後まで読んでみても説教しか書かれていない。
読んでいる最中に何度寝落ちしたことか・・・。
そして、地蔵という関連は俺のイメージから来る技であるのだが、それとは別に、地獄変の共通技という物がある。
それを使うこととする。
「地の深淵に我が力を以て求める」
ダンゴムシ・・・もとい、バビュントの突撃を回避して、俺は技を発動させた。
「地獄門・縛鎖閻魔錠!」
錫杖で地面を叩くと、地中から飛び出す奇怪な生物が姿を見せる。
錠の頭に鎖の身体をしたそれは、蛇のように動いて前進するとバビュントに巻き付いて地に楔を打ち込むようにして一気に縛り上げる。
「よし、なんとか動きを封じたな」
変形できないように全身を縛り上げているので、突撃されることはないだろう。
方向転換で身を丸くする形態を解除するから、それを狙ってみたが・・・上手くいったようでよかった。
とりあえず、殻を叩いてみる。
「堅いな」
もっとこう・・・ガンガン!って音がするのかと思ったら、コンコンというドアをノックする音に近いことに驚いた。
アライラは叩き潰していたけれど、コレ・・・もしかしなくても叩き潰すのは普通に無理ではなかろうか?
「青い火の刃で解体できるかな?」
肉を捌いたナイフとして使っている長刀。これでバビュントを解体できないか?と刃を立ててみるのだが・・・。
「ダメだな。火が拡散して刃として通りそうにない」
・・・捕まえたのはいいけれど、倒す手段は・・・とりあえず合掌壁で叩き潰してみるか。
「地獄門・地蔵合掌壁」
地中から飛び出す石像の手が、合掌するためにバビュントを挟むようにして合わさった。
が、次の瞬間には合掌壁が砕けた。挟み潰したはずのバビュントは・・・ワシャワシャと足を動かして逃げるための行動をとっている。
「・・・む、無傷?」
閻魔錠で縛り上げているので、逃げることはできていないが・・・。
「いや。わずかに傷が出来ているか? 罅とか亀裂・・・じゃないな」
殻にわずかな傷を作った程度で、特にダメージらしいダメージでもないようだ。
不毛である。これ以上の戦闘は無意味としか言いようがない。今の俺に、このダンゴムシの殻を砕く術が無いのだから。
〈殻じゃなくて、腹から攻撃すればよくね?〉
「・・・」
こうして、ダンジョン突入から初めてのモンスター退治が成功した。
腹から錫杖で攻撃を仕掛けたら、あっさりと倒せたのである。いやはや、無事に倒せてよかったね。
ただ、死骸から殻を剥がすことはできなかった。
「こいつは・・・蜘蛛・・・というよりは、ダニかな?」
ダンゴムシの生息域を抜けて進んでいくと、今度は蜘蛛のような虫モンスターに遭遇した。松明代わりの錫杖を掲げつつ、それを確認する。
全身真っ白のダニ・・・なんだけど、アルビノって奴だろうか?
〈お、そいつはモチモチしてて美味しい奴!〉
え?
「モチモチ・・・しているのか?」
ちょっと、その体を錫杖で叩いてみた。
コンコンという音がする。結構な殻の強度を持っているのは、まず間違いないだろう。
「堅いみたいだけど?」
彼女が言うようなモチモチ要素はどこにあるのか?
というか、このダニ大人しいな。敵意すらも向けてこないぞ。叩いたのに・・・。
〈こいつはね。殻を砕いた後の中身がモチモチなのだよ! モッチャモッチャと食感が良くてね。食べているとこう・・・うははーってなるの!〉
・・・それは、たしかに食べてみたいな。
〈ま、とりま鑑定で〉
『モッチチチチ。異世界バキマオーに生息している昆虫。ダニの仲間。その殻はとても堅牢で砕くのは容易ではない。その体内は餅のように柔らかく栄養が豊富である。99回噛むと極上の餅となり、100回噛むと炸裂する。口内が吹き飛んで死人が後を絶たない。それでも食べたいモッチモチ』
〈なん・・・だと・・・〉
「99回噛むと極上の餅って・・・回数を正確に数えるのは面倒だな」
俺がげんなりとしている間に、アライラがダニを口の中に放り込んだ。なんて速い捕食なんだ・・・まるっきり動作が見えなかったぞ。
〈1、2、3、4、5、6、7、8、9、10・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〉
アライラが数を数え始めたことで、進みが止まる。
そんな彼女の背に居た地蔵菩薩道標人が、飛び降りてくる。
「しばらくは休憩だ」
すると、道標人は地面に字を書いた。
『では、ちょうどよいので稽古をつけて差し上げましょう』
・・・なんでそう、偉そうなんだろうか?
「まぁ、雑魚と俺を称したわけですし、道標人の実力を見せてもらいましょうか」
俺のイメージとしては、剣道の稽古みたいに軽い手合わせ系なのかと思っていたのだけれど・・・。
道標人の稽古は・・・稽古にならなかった。
「げふっ」
唐突に錫杖で顔を殴られ、腹を突かれ、手足を叩かれた。
え? なにごと?
『おバカ。稽古だからと油断してはなりませぬぞ。緊張感の欠片もなく棒立ちとは情けない』
「不意打ちした奴がいう事か!?」
『ほう、元気なことですな。実際の戦闘であれば、当に死んでいるという事を理解していただきたいものですが』
「稽古でしょう!?」
『ご冗談を。稽古と称して殺すことなど造作もございませぬ。地獄変を使うに値しない者を、粘り強く育成するなど無駄の極みでございますゆえ』
「・・・つまり、俺には育成する余地はあると?」
『ギリギリ。かろうじて。絶妙に。紙一重で。あります』
「泣いてもいいですか?」
『お好きに』
適正があるから渡されたはずのチートアイテムなのに、粘り強く育成する余地がギリギリ、かろうじて、絶妙に、紙一重って? どういうこと?
そもそも、チートアイテムなんだから稽古とか無用で強くなれるものじゃないの?
『さ、アライラ殿が食べ終わってしまうまえに叩きのめしてあげましょうぞ』
「それは稽古と言わないだろ!?」
アライラ! アライラ! お願いだから早く食べ終わって!!!!
道標人による稽古と称する拷問は苛烈を極めた。
構えが遅い。守りが薄い。攻撃がへっぽこ。などの説教を地面に書きつつ、一方的に錫杖であちこちを叩かれていたが、首に一撃が命中した時、あっさりと首の骨が折れたのだ。
まるで小枝が折れたような感じだった。対して、さすがに道標人も驚いた顔して何か大急ぎで技を使っていたが、俺は気絶してしまって覚えていない。
ふと、目を覚ました時・・・どこからか爆発音がした。
〈ぶごぼがぼべぼびゃびゅべべぼびゃぎゃぎょべぼ〉
見れば、アライラの口から煙が噴き上がり・・・牙がボロボロと零れ落ちてくる。
それを見て、俺は悟った。
「100回噛んだのか」
〈びゅっびゃー! びゅっびゃー! ばぼびべー!〉
・・・なんで魔力回線での言葉がバ行のみになっているんだろうか? あ、念話じゃないから変換するとこうなるのか。
まぁ、多分「なおしてー」って言っているんだろう。
「ちょっと、待て。今、牙の欠片を集めるから、邪眼で応急措置しておくんだ」
〈びゃーび〉
俺が牙を集めていると、道標人が体育座りで落ち込んでいる様子を見る。
「・・・どうしかしたんですか?」
声をかけてみると、地面に字を書いた。
『反省』
・・・さようですか。
「・・・なんだろう。とても台所で見かける奴に既視感を覚えるフォルムなんだが?」
黒光りする殻を背負う平べったい昆虫。
あー、嫌だ嫌だ・・・今すぐ冷凍スプレーで凍らせて新聞紙に包んだらビニール袋を三重にして突っ込んで、口を団子結びにしてゴミに出したい。
〈うーん。そいつは足が遅いんだけど、硬いんだよね。食べられないぐらい硬いのよん〉
君は食べられるかどうかで判断しすぎだよ。
一応、黒光りする殻を叩いてみる。
カンカンという音がした。どんな金属だろうか?
「こいつの鑑定は?」
〈ほいほい。鑑定〉
『ドーナン。異世界ハリドミイルマに生息している昆虫。ゴキブリの仲間。鉄を粉になるまでかみ砕き飲み込む。それを体内で錬金することで、希少な超合金を作る。超合金を錬金することで重量が増し、動くことが苦手であるため非武装の人間でも安全に確保できる』
やっぱり、アレの仲間なのか・・・でも、超合金を作る虫なのか・・・アレの仲間なのに鈍足とは・・・それてどうなん・・・あ、だからそんな名前なのか?
ま、なんにせよ捕獲したところで活用できないし、アレの仲間であるなら触りたくないし、こいつはスルーしよう。
・・・錫杖は殺菌する。青い火で丸ごと消毒だ。
「あ、またいくつかの穴があるな」
〈あう・・・どの穴を進む?〉
「というわけで、出番ですよ」
アライラの毛に埋もれて見えなくなっていたけれど、道標人が飛び降りて着地すると、穴に歩み寄っていく。
ここまでの道中、こうして分かれ道だったり複数の穴だらけだったりする場所で、道標人に次の道を示してもらっていた。
今回も同様に示してもらう。
錫杖を左右に振りながら、何かを詠唱するように口を動かす道標人。
〈ね? お地蔵さんは何を言っているのかな?〉
「そうだな・・・念仏とか?」
〈そっかー、私はお経だと思うな!〉
お経か・・・なるほど、確かに唱えていても不思議じゃないけど・・・。
「そういえば、念仏とお経ってどう違うんだ?」
〈え!? そ、それを私に聞かれても・・・〉
こういう時、スマホとかあれば即座に検索できるんだが・・・やはり要求する加護を間違えてしまったのだろうか。
二人で「うーん」と唸っていると、ザクッという音がしたので地蔵を見る。
地面に突き立てる錫杖を、道標人はゆっくりとした動作で人差し指を構え、突き立てた錫杖を小突くように押す。
ユラリと杖が倒れ、錫杖の先端が次に進む穴を示すように力を失った。
「・・・毎度思うが、アレで本当に大丈夫なのかな?」
〈当たるも八卦、当たらぬも八卦・・・かな?」
「きえーいって気合入れてそうだな」
まさか、神頼みってわけでもないだろうし、とりあえずは道標人を信じて進むしかない。というか、そのために召喚した地蔵なのだからな。
そうして、地蔵さんを乗せてから歩を進めていく。
代り映えのしない洞窟をのっそのっそと進んでいくだけの時間だ。なんか本でも読みたいと思ってしまうな。
〈ところでさ? お水はどう?〉
「うん? ああ、大丈夫。君が作ってくれた水筒袋は水漏れしてないよ」
休憩地を出る前に、アライラは蜘蛛糸で袋を編んでくれた。初めての試みだったせいか、歪な袋になってはしまったけれど・・・・。
非粘着性の糸で袋を編み、粘着性の糸で重ねて編む。その上に非粘着性の糸で編み重ねてから邪眼で防水処理を施した。
まぁ、結び口は紐なのでそこから零れてしまうけれど、それを気を付けて背負っている。錫杖を数本召喚し、コレを組み合わせて骨組みとしたら、袋を括り付けてリュックサック風にした。
アライラの蜘蛛糸で腕を通す輪っかにしたベルトを結んだので、背負うことができている。
本当は腰から下げる小さなものにしたかったのだけれど、次の水場がどの程度で見つかるのかも分からなかったので、リュックサック並みに大きくなった。
休憩地でなくてもいいので、なるべく早く水場を見つけたいものだ。
〈うっげ・・・あの蟻は・・・〉
突如、アライラが前進するのをやめた。
そして、あの蟻と言い出したので、俺もあの爆発した蟻を思い出して、アライラの背から前方に目を凝らす。
「あの蟻かー」
〈あの蟻だー〉
ウジャウジャいるなぁ・・・どこにでもいるのかな?
〈どうしよう? またビームとか撃ったら爆発するよね?〉
「いやいや、まずは鑑定をしてみよう。爆発するにしても、爆発する原因となるモノがわかれば、対処方法も考えやすくなるってもんだ」
〈ほうほう、鑑定!〉
『ガスアント。異世界ラナトコノにて人工培養された昆虫。蟻の仲間。腹部に燃料を貯蓄しているため、火気厳禁。独自に発火装置も備えているため、最前線にて侵略者たる人類への突撃兵器として運用される。また自走式燃料タンクとしても優秀であるため、最前線での各兵装への燃料補給が主な仕事となる。それゆえに、多方面で活用されている』
ガスアント・・・腹に燃料・・・自走式燃料タンク・・・。
なるほど、あの爆発はそういうわけか。これだけウジャウジャいるのだから、一匹でも爆発すれば連鎖的に爆発するのも頷けるし、その火力も凄まじいことになるのも納得だ。
〈うげー、突撃兵器だってぇ〉
「発火装置付きってことは、外的要因だけじゃなくて自爆することもできるわけか」
仮に動きを止めたとしても、自爆されてしまえば先の二の舞となるのは想像に難くない。そして、通り過ぎようとしても空間を埋め尽くす勢いで動いている蟻の大群を素通りできるかと言えば、まず無理だろう。
まぁ、アライラだけなら問題ないだろう。
爆発による空気の燃焼で呼吸困難になった俺と違い、彼女は平然としていた。
これはおそらく、彼女が持っている加護『環境即適応』の効果によるものだと推測できる。空気のない環境であっても活動できるように適応したんだろう。
仮に、連中を凍結させてしまえばどうだろうか?
いや、この場合だと自爆装置で結局爆発するだけだ。鑑定結果から、侵略者に対する突撃兵器というのであれば、行動不能になった場合の攻撃手段として、自爆装置を起動させるに違いない。
「アライラ。今から俺の言う通りに邪眼を使って欲しい」
この蟻の大群を抜ける手立てとして、一つだけ策を思いつく。ただ、アライラ頼みである。
〈うんうん、なにかな?〉
「邪眼六つで結界を重ねて展開してほしい」
〈邪眼六つで?〉
「そうだ。前に蟻の爆発で吹っ飛んだと思うんだけど、それから身を護るための防御として結界が必要になる」
俺は、順を追って説明した。
蟻は大群だ。火気厳禁であるが、発火装置がついている時点で自爆も可能であるということ。
一匹爆発すれば、連鎖的に全部が爆発する。
すると、爆発によって生じる炎と風は四方八方から押し寄せてきて、前回のように揉みくちゃにされつつ身体中を怪我することになる。
これを回避するために、全方位からの攻撃を防ぐことも可能な防御技として、結界を展開してほしいのだと。
一通りの説明を終えて、最後に付け加える。
「残る二つの邪眼は、一つで空気の確保をして欲しい。俺が死ぬ。そして、最後の一つでビームだ」
〈なるほど、そういえばルッタ。呼吸ができない感じで気絶してたもんね〉
そうそう。空気が焼けつくされれば、呼吸できなくなって俺は死ぬしかない。
〈おっけー! 防御重視の結界を展開して、空気を確保して、ビームで攻撃だね!〉
「それと、爆発の威力で足場が崩壊する危険もあるから、爆発と同時に奥へと駆け抜けるんだ」
前回は吹き飛んだことで第一休憩地に転がり込むというラッキーがあったけれど、今回は爆発に耐えきれる可能性がある。
すると、前回と同様の爆発になるとすれば、足場が崩壊する危険性は十分に考えれる。
結界で爆発に耐えられるのであれば、この道を一気に駆け抜けてしまう方が安全だろう。アライラの全速力なら、きっとあっという間に突破できるはずだ。
〈駆け抜けるの?〉
「そうだ。一心不乱に走り抜けてくれればいい!」
〈一心不乱に・・・〉
アライラが何かぶつぶつとつぶやき始めた。回線を繋いでいる俺にも明確に届かない声だ。
しばしの間をおいて、アライラが前足を振り上げた。
〈よーし! イメージができたぜー!〉
八つある目のうち、六つが光り輝く。
〈六連! 邪眼! プロテクトシャーットサンクチュアリウィズワールド!〉
・・・え? どういう意味?
俺が彼女の技名に思考が停止している間に、周辺に結界が展開された。これが6つほど重なって展開されたことで、卵の殻のようであると見れる。
〈さらに邪眼! 空気確保!〉
さっきとは違って、転んでしまいそうなほど適当な技名であった。
しかし、結界内がキラッと光ることで、結界内部に何かしらのコーティングがされたのだけは分かった。
〈そして最後の! 邪眼! ビーム!!!〉
俺は、アライラにしがみついた。
目から迸るビームの一筋。それが結界を通過して蟻を焼きつつ飛んでいく。
直後、一匹が大爆発をして炎上し、連鎖的に蟻たちは爆発を始める。案の定、四方八方で爆発が生じると、次々に爆炎と爆風が洞窟内で暴れ始めた。
「今だ! 走れ!!」
〈わああああああああああああああああああああ〉
グッと前のめりになったアライラは、全身をバネのようにしならせて力を巡らせると、俺の言葉に応じるようにしてスタートダッシュを決めた。
しかし、しがみついていた俺の手が、アライラの毛から滑りぬけてしまい、宙に浮く。なんでそんなことになったのかも分からないが、浮いた直後に道標人が俺の足首を掴んでくれた。
蟻の爆発音とは違う爆発音が轟くと、俺は身体がバラバラになりそうな衝撃で口から、鼻から、目元から、耳から血が噴き出した。
それと共に、バタバタと体が揺れて、アライラの身体に何度も全身をぶつけていた。
背負っていた袋も、これによって中身である水をまき散らし、俺は何もできないまま道標人に足首を掴んでもらって引っ張られ続けていた。
〈わああああああああああああああああああああ〉
彼女の絶叫が聞こえてくる。
これはもしかして、錯乱しているのではないだろうか?
ここにきて、ようやく道標人に引き寄せられて、彼女の背にしがみつき直せた。意識ははっきりとしているのだけれど、失血が激しいようだ。
それと、道標人に掴んでもらっていた足首は砕けているようだ。痛みが麻痺しているうえに、足首から先はグネグネと揺れている。
「なにが、起きているんでしょうか?」
道標人に尋ねてみるが、声が出ないのでなんも聞こえない。
〈わああああああああああああああああああああ〉
前足を交互に振り上げているのは、どういう走り方なのだろうか? 蜘蛛って六本足でも走れるものなのかな?
そんな事を考えていると、道を抜けて広い地下空間へと飛び出した。
しかも、道を抜けた先は下り坂だったようで、勢いのまま飛び出したことで宙を飛んでいる状況になる。
そうして、宙でワシャワシャ、シャカシャカと足を動かしていたアライラは、落下した。
「お、落ちてる! 落ちてるよ!」
〈わああああああああああああああああああああ〉
錯乱している! 間違いない! なんてことだ。状況把握もできないほどの乱れっぷりだ!
下り坂に着地しても、彼女の走りは止まらない。
加速はさらに増していき、見れば前方には巨大な穴があるじゃないか。
「とまれ! 止まるんだ! アライラ!!!」
穴に向かって駆けていくことに、俺はジェットコースターでもここまで怖くない!と思いつつ悲鳴を上げていた。
「わあああああああああああああああああああ」
〈わあああああああああああああああああああ〉
穴に向かって落ちるのかと思ったとき、ぴょーんという擬音が聞こえてきそうなジャンプで、穴を飛び越えていく。
そうして、向こう岸に着地したものの、アライラは止まることなく走り続ける。
俺は、口から魂を吐き出してしまいそうなほどに憔悴してしまう。
しかし、アライラが通過した後に、巨大な穴から何かが飛び出していた。その影を見て、俺は歯を食いしばる。
「アライラ、何かいる。相当でかい何かが!」
〈わあああああああああああああああああああ〉
いい加減に正気に戻れよおまえ・・・。
さらに同じぐらい大きな穴を飛び越え、それでも錯乱したまま走り続けるアライラ。
さっき見た巨大な影が、今度は上から降ってきて飛び越えた穴に消えていく。とんでもない長さの何かが、この地下空間にいるのだけは分かった。
そして、さらに同様の穴を飛び越えた先は壁だった。
顔から激突するように壁に張り付くアライラ。八本の足で壁をしっかりと掴みつつ、顔を上げる。
〈は! 何がどうなったん!?〉
正気に戻ってくれたようだ。
「とりあえず、蟻の大群は抜けたぞ」
〈あれ? なんでルッタは血まみれなのさ?〉
なぜだろう? 道標人がいなければ、死んでいたのは確かだけど、なぜ血まみれなんだろうね。
直後、アライラが張り付いている壁の下にある巨大な穴から、とんでもない巨大な何かが飛び出して、俺たちの間近を通り過ぎていく。
〈な、ななな、なにあれ?〉
「鑑定してくれ。それをさっきから言いたかった」
〈鑑定!〉
『ワーミン。異世界ノテテオに生息する大災害級ワーム。ミミズの仲間。本来は地殻の下、マントルに生息している巨大ワーム。未解明であるが火山の噴火などで地表へと飛び出してくることがあり、一度出現すると大災害となる大地震の発生を誘発する。しかし、その肉質は極上の物で、討伐することが出来れば100年は食料に困らない』
〈よし、狩ろう!〉
「ムリ言うな」
アライラが涎を啜る音を立てつつ言うので、俺が即時却下する。
〈極上の肉質と、100年は食料に困らないんだよ!?〉
確かに魅力的だけれども、あんな巨大なワームを狩ること自体がムリゲーなんだ。しかし、彼女の主張は続く。
〈私だってそろそろお腹が空いて来たし・・・コレを狩らないとか、じゃあ、いつ狩るの!?〉
「来世」
〈今でしょ!って言ってよもぉ!!! お約束でしょ!〉
古いんだよなぁ・・・俺だってかろうじて知っているネタじゃないか。ばかばかしい。
俺とアライラでアホみたいなコントをしていると、壁の頂上付近からさっきのワームが飛び出してきた。見れば、頭と思われる部位が開いて大口を開けている。
「回避だ!」
〈緊急離脱ジェーット!〉
壁から飛び退いたアライラは、その八つの眼から火を噴射する。
これがとんでもない速度を生み出し、彼女の体毛を掴んでいた俺の手が滑って抜ける。と、同時に、さっき何があったのかを理解した。
音速を超えたのだ。
加速した瞬間に音速を超え、その衝撃で俺は血まみれになっている。今、改めて血まみれになったので、丸っと全部理解してしまった。
そして、また道標人に足首を掴まれて成すがまま身体が彼女の体毛に隠れた殻に叩きつけられたりしている。意識が飛んでいないのが不思議だ。
そうして、来た道を全部飛び越えて、出てきた穴に見事滑り込んだ。
〈ふひぃ・・・なんだアレ・・・〉
八つの眼が火を噴いたのは数秒だけだったので、あとは減速していたのが功を奏したのだろう。加速したままだったなら、今頃滑り込んだ際にアライラの身体は洞窟の岩肌ですり下ろしリンゴ・・・のようにすり身になっていたに違いない。
アライラの上で、俺はもう力なく寝転がっていた。さっき、道標人に無事だった方の足を掴まれたので、両足とも動かない状態だ。
すると、道標人がアライラから飛び降りて、地面に字を書き始める。
俺からは見えないので、アライラに読んでもらった。
〈さっきの奴が、追いかけてくるから、ここで迎撃するべきだってさ〉
「どうやって?」
〈えーと、私の頭にルッタの錫杖を突き刺して、直接魔力を供給するんだって・・・え、刺すの?〉
「なるほど、なら、君は、君の知る限りで最強のビームをあいつにぶっ放してやれ」
〈さ、最強のビーム?〉
「そうだ。道標人への供給は維持可能範囲まで絞る。残るすべての魔力を、君に供給するから、それらを全部残さず余さず、あの巨大ワームに撃ち込んでくれ」
俺が、穴の外に目をやると・・・さっきの巨大ワームが大口を開けながらこちら目掛けて飛んでくるのが見える。
これを迎撃しないと、先に進めないわけか。
「時間が無いようだ。君の思いつく限りでいい。最強のビームだぞ」
〈おっけー! 最強のビームね! 大丈夫! お父さんとお母さんが、私に見せてくれたとっておきのアニメがある!〉
・・・君のご両親は、大変愉快な人たちだったんだね。
俺は、身体を起こして両膝で立つ。
錫杖を手に、アライラの頭に突き刺した。
〈ぎょわわわわわ! めっちゃ痛いんですけどぉ!〉
「我慢しろ! 魔力供給を開始するぞ!」
錫杖が俺の魔力を吸い上げ、アライラに直接送信を始める。
〈お、お、お、お・・・力が漲ってくる!〉
八つの眼がピコピコと明滅すると、一つずつあらゆる色に強く輝き始めた。
その間に、道標人も俺の身体を支えるようにして抱き着いてくる。膝たちだから、踏ん張りがきかないので助かる。
〈うげげ、もうすぐこっちに到着するぅ!〉
「大丈夫だ。こちらの供給が早い」
八つすべての眼が、光に満ちた。
〈おっしゃあああああああああああああ!!!!!〉
目の輝きと共に、全身が光り輝き、その毛が逆立つようにエネルギーを放出し始める。おそらく、供給による余剰エネルギーを逃がしているんだろうな。
「やれ! 君の全力をぶっ放せ!!」
〈くらえぇえ!!! 一点集束! 八連! 邪眼! バスターッ!! ビィームッ!!!〉
八つの眼から放たれるビームが、眼前で一つに収束する。これが、どういう理屈なのか不明だが、膨張した。
そうして、膨張したビームが道を拡張するほどの極太ビームを撃ちだした。
俺の視界が完全にビームの色に染め上げられて、何が起きているのかも分からない。それでも、物凄い圧が体にかかって、今にもアライラの背から吹っ飛ばされそうになっていた。
錫杖にしがみつきつつ、道標人が支えてくれたことで堪えきる。
ビームの光が止んだ。
そう思って目を開けると、はるか前方で巨大ワームが落下していくのを見る。さすがマントルに生息していたというだけのことはあるんだろう。
あれだけのビームを浴びたにもかかわらず、原形をとどめたままだ。
とんでもない地響きを立てて、墜落する。
「・・・どうにかなったんだな」
俺は、全身から力が抜けるのを実感した。
一方で。
〈わーい! さっそく食べよう! そうしよう!〉
アライラは元気に飛び出して、倒した巨大ワームへと食らいついた。
道標人は、俺を担いでアライラから飛び降りると、とりあえず手当をしてくれる。それから、ワームの肉を持ってきてくれた。
正直、食べる気力などなかったのだけど、無理やりねじ込まれる。
口に含んで驚いたのは、肉汁がまるで水のように喉を潤してくれたこと。肉そのものが歯ごたえもあって、胃に落ちると負担もなく消化されてしまったことだ。
これは、いくらでも食べられる凄い肉だと感心する。
アライラが凄い勢いでワームを食べ続け、俺はと言えば少し食べて満足した。
眠気がやってきて、道標人を見る。
『今はお休みくださいな。周囲の警戒は、私がしておきますゆえ』
「はい、お願いします」
この肉は少しだけ確保しておいてほしい。と、お願いし忘れて・・・。
俺は、寝た。
次は、洞窟迷宮脱出・・・まではいかないと思いますが、予定しています。
読んでくださり、ありがとうございました。




