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59 ひさしぶりの狩りへ

こんにちは。こんばんは。


小説大賞などに応募してみたのですが、ダメでした。

結果は惨敗でしたが、この作品はこのまま続けていきたいと思います。


さて今回は、まだ起きて日も浅いので比較的簡単なモンスターを狩りに行こう。ってお話になります。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

 マリーさんから貰った調味料の本を参考に、牧場の母屋にて味噌造りをやっているここ数日。


「そう。そうしたら容器に詰めていくのよ」

「はい」


 団子状に小分けした味噌を三つの木桶に詰めていく。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・それにしても。


「マリーさん。なんだか楽しそうですね?」

「え? わかるー?」


 ニコニコ・・・ニヤニヤ・・・いや、ニヨニヨ?としながら、積極的に教えてくれる。

 本を見ながら手探りでやっていこうと思っていたのだが、マリーさんは戦後生まれなので自宅で使う調味料の大半は自作経験があるという。

 ・・・と、いうことなので、本を確認しつつ教えてもらいながら味噌造りを進めていた。


「まさか、こんな場所で子供と一緒に手作り味噌とか・・・ここへ来た頃の私は一切予想もしていない事態に、私自身も半ば錯乱しているわ」


 錯乱!? 

 と、マリーさんはため息を吐きながら俺の頭を撫でた。


「じゃ、蓋をして重石を乗せるのよ」

「・・・はい」


 三つの木桶にそれぞれ蓋を乗せ、それらの上に重石それぞれ置いて・・・。


「本によると、春先に仕込んだなら夏を超えた辺りが食べごろ・・・と書かれていますが?」

「そうね。地球で作るなら6か月から10か月くらいが目安ってところかしらね」


 ニヤッと悪巧みをするような顔になって、マリーさんは教えてくれた。


「しかしッ! ここは異世界にして魔法術というファンタジーがあるわけだから、時短しましょうかッ」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

「あら? 嫌なの?」


 せっかくだから、しっかりと時間経過による熟成具合を確認していきたい気持ちはある。

 しかし・・・それをするには大きな問題がこのダンジョンにはあった。


「・・・気分的には嫌ですが、ここが【春の区画】である以上、本に書かれている目安通りになるとは思っていませんから」

「あー・・・それは、そうね・・・はは」


 春の気候に包まれた第一階層【春の区画】は、年中無休で『春』なのである。

 また、味噌造りに使用した道具類もダンジョン内にあるモノを活用していることと、仮に目安通りに寝かせておいたとしても、それで熟成するかどうかはやってみないと分からない。

 だから、とりあえず魔法術で熟成を進めてもらうとしよう。


「・・・マリーさん。とりあえず、熟成促進をしていただいてもいいですか?」

「いや、私じゃなくてルッタがやるのよ」


 へ?


「俺ですか?」

「そうよ」

「しかし、俺は魔法術が使えません」

「魔法術はいらないわ。必要なのは魔力よ」


 マリーさんの説明によれば、魔力を注ぐことで味噌の熟成を進めてくれる麹菌が活性化するらしい。


「畑と同じで、錫杖を差し込んでおけばいいはずだから、とりあえずはお箸サイズを基準に小さい物と大きい物の三つを用意して実験してみましょう」


 ということで・・・爪楊枝サイズの錫杖と、お箸サイズの錫杖と、菜箸サイズの錫杖を用意して味噌を仕込んだ木桶に挿した。


「じゃ、あとは明日まで放置しておきましょうか」

「畑も、翌日にはとんでもない事になっていますからね」


 最初はマリーさんも度肝を抜くほどの巨大怪獣並みジャガイモになってしまったからな・・・。



〈るぅぅっちゃぁぁぁぁあああああんんんんんんん!!!!〉



 アライラが、それはもう牧場の母屋を揺らすほどの声を上げて俺を呼ぶ。と、同時にマリーさんの顔が殺意で満ちた殺人鬼同然の顔で舌打ちしていた。

 ため息を吐きつつ、俺は牧場の母屋より外へ出ると・・・母屋近くまで迫っていたアライラは身体を小さくしながらブルブルと震えていた。

 ・・・マリーさんの殺気を感じ取った?


「どうしたのさ? そんなに震えて」

〈まままままままりーさんの殺気にびびびびびってるわけじゃないんだかんえッ!〉


 ビビっているのか。

 ・・・まぁ、それはいいとして。


「で? 大声で俺を呼んだのは?」

〈お肉が食べたいッ! お米も、野菜も、美味しんけどさッ!? 私はお肉が食べたいんだってばよッ!!〉


 あー、なるほど。

 狩りは数日後ってマリーさんが言っていたから、数日経ったので声を掛けて来たわけか。


「で? アライラーは何と?」


 ・・・。

 ・・・・・・マリーさん。

 ・・・目から殺気がビームのように放射されているんですが?

 俺の眼の錯覚ってことでいいんですよね? 本当に放射しているわけじゃないんですよね?


「狩りに出かけよう。と」

「あ、そういえば数日後って言ったんだったわね」


 あ、元に戻った。

 自分で言っていたことを思い出したことで、冷静になってくれたようだ。


「アライラ。気持ちはわかるけれど、大声を出すのは止めよう」

〈え?〉

「君の声を『声』として認識できるのは、俺と大道人だけだ。マリーさんには、虫の威嚇音が大音量で響いている状態なんだよ」

〈あ・・・〉


 そーっと、マリーさんを見てみれば・・・ちょっと渋い顔をして口をへの字にしていた。


「とりあえず、肉が食べたいから狩りに出る。って言っているのね?」

「はい。数日経ったので、そろそろ行きたいそうです」


 今度は、腕を組んで考え始める。

 その様子から、どこへ狩りに出るか?を考えているのだろうか?


「まずはルッタの調子をみたいから、少し手ごろな辺りでリハビリしておきましょうか」

「リハビリと言いますけど、俺の感覚で、戦闘はつい先日のことなんですが?」

「ルッタのリハビリもそうだけど、一番必要なのはアライラーの方よ」


 アライラに、リハビリが?


「お前は寝ていたのだから、感覚的にはつい先日の出来事となるでしょうけど・・・アライラーは一か月も農作業や模擬戦を繰り返していただけだから、実戦は久方ぶりになるわけよ」


 あー。


「だから、まずは手ごろなところでリハビリにしたいわけだ」

「すると、どの辺りで狩りを行うのがいいのでしょうか?」


 この近辺で手ごろなモンスターと言われても・・・俺の記憶では一癖あるヤツしかいないと思う。かと言って、海に潜るのもちょっと嫌だ。と思うのだが。


「沖へ出るとしましょう」


 ・・・沖?

〈おき?〉


 俺とアライラは、同時に頭を傾げていた。





 大道人に留守をお願いして、牧場から少し南下した場所にある浜辺から海へと出る。

 悩みどころは、海中からの奇襲に警戒しつつも高度を上げ過ぎて航空モンスターが出てこないようにすることだ。

 バンダーガーとの戦闘は、できるだけ避けたいところだからな・・・。


〈おーッ! 青く煙る水平線って、あんな感じなーん?〉


 ・・・?

 何を聞かれているのか分からなかったが、飛行形態中に展開されている邪眼カメラアイが俺にも分かるようにモニターを展開して景色を表示してくれるので、コレを確認してみた。

 彼女の言う通りで、たしかに青空と大海の境目となる水平線が多少なりとぼやけて見えるとは思うが・・・。

 何だろうか・・・これ以上はダメな気がする。


「マリーさん。そろそろでしょうか?」

「おや? ちゃんと気が付いていたようね・・・いいわ。この辺りで止まりなさい」

〈うん? この辺りが釣りポイントなん?〉


 ゆっくりと飛行から浮遊へと切り替えて、俺たちは浜からだいぶ離れた海上で停止する。

 そうして、改めて水平線の彼方へと目を凝らしてみると・・・ガラス張りのような壁が見えた。


「マリーさん。この先って、ガラス張りの壁になっているんでしょうか?」

「違うわ。ウィッチによる魔法術・・・だと思うんだけど、特殊な防護結界が施されているのよ。かつての景色を移すスクリーン風になっているけれどね」

〈なんのこと?〉


 そうか・・・この沖から向こう側は壁になっていて・・・景観を再現する魔法術の類が施されているわけか。


〈ねー? なんのことなーん?〉

「ああ・・・ここから先は、行き止まりになっているんだってさ」

〈ふーん?〉


 なんのことか、分かっていないようだ。


〈ま、そんなことより、狩りの時間だッ! 獲物を捕獲するために用意した網を投下するぜーッ!〉


 ・・・そうだね。

 ここがダンジョンで、綺麗な空が映し出されているだけの偽物である。ということなど、ご飯の優先度に比べたら微々たることだろう。

 では、これから狩るモンスターへと意識を切り替えていくとしようか。


「アライラ。慎重に・・・どんなモンスターが出て来るか分からないからね」

〈私とるっちゃん! 二人なら、どんな敵もちょちょいのちょいやで!!〉


 いや、それは・・・相手に次第だよね?



〈それでは狩猟開始! 狩猟開始! 海産物捕獲用ネットを投下しまーっす!〉



 アライラは、出発前に邪眼クラフトにて自身の蜘蛛糸を編んで作った捕縛網を投下する。

 落下中は団子状であるが、海へと着水すると同時に弾けるように広がって・・・まさに蜘蛛の巣のような形で海上に敷かれると・・・ゆっくりと水中へ沈んで行く。


〈・・・なんか、沈むの遅くね?〉

「あー・・・たぶん、網だけで重りとか付けていないからじゃないかな? ほら、漁師が海に投げ込む網って、丸い球体が網の端に等間隔でついていたりするだろう?」

〈そーなん?〉


 ・・・しまった。その辺のことをまるで気づかなかった。

 もう、うろ覚えではあるが・・・俺もテレビ特集などの漁師に密着番組で見たような気がする程度だ。

 アライラが網を編んでいる時に、コレを思い出さなかったのは・・・おそらく、俺の意識外だったのだろうな。

 一度引き上げてもらって、地蔵菩薩錫杖術で石の錫杖を用意して網に取り付けようか?

  

〈ならば! 加速させればええんやろん!?〉

「は?」


 アライラが急に妙な事を言い出した。


〈邪眼マジック!! 急速潜行ッ! それいけッ海産物捕獲ネーット!!〉


 アライラの邪眼カメラアイが捉えた映像を確認すれば、ゆっくりと沈んでいた網の沈む速度がビデオの早送りみたいに加速して、あっという間に海中へと姿を消していった。

 ・・・アレ、大丈夫かな?


〈なっにっがっかっかるっかな♪ かっかるっかな~♪〉


 どんなモンスターがかかるかも分からないのに、相変わらず大胆な事をするなぁ・・・。

 あの速度で沈んで行ったということは、そう時間も掛からずに獲物がかかるはずだ・・・今のうちに『地獄能・巻蛇槍貫撃』と『地獄能・巻蛇傘盾壁鎖槍』をしっかりと補強して―――。

 

〈いよっし!! なんか掛かったでーッ!!〉

「早すぎる!?」


 地獄変を追加召喚して、アレやコレやと何かし始める前に獲物が掛かったという・・・。

 邪眼で網の沈む速度を上昇させていたとはいえ、何かが掛かるのは早すぎると思う・・・いや、もしかしたら小魚の群れが浅い海域に居たとか?


 邪眼カメラアイが捉えた海の様子を、即座に確認する。

 先ほど投下したばかりの網を急速に引き上げていく蜘蛛糸が見えるわけだが・・・糸が引き上げられていくにつれ、海中の青色が濃くなっていくのが分かる。


「・・・なにか、大きな影が」

「大物かしらね?」

 

 映像を覗き込んでくるマリーさんも、少し険しい顔をしている。


「・・・・・・ん? こんなデカいモンスターは居なかったと思ったけれど?」


 首を傾げている。

 まさか、想定外の新モンスターが出てきたりするのだろうか?


〈ぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおあああああああああ!!〉

「アライラ? その気合は入れる意味あるのか?」

〈特にない〉


 だよな・・・。

 声に力を入れている割に、糸を引き上げる速度や負荷に変化は無いように見えるし・・・。

 そうしていると、海中より昇ってくる影は海面を破って海上へと飛び出して来た。



ざっぱぁぁぁばああああんんんんん。



 飛び出して来た物は・・・激しく海水を周囲へと撒き散らせる刺々しい巨大物で、見た限りであるが岩の塊に見える。


〈ん? 岩の塊?〉

「岩礁にも見えるけど・・・」


 岩礁ってもっと浅いところにある・・・そう、海水で見え隠れする深さぐらいにある岩のことを指すはずだから、俺の表現が違っている気がする。

 となると、この塊はなんだ?


「あー・・・アレかぁ」


 俺はマリーさんを即座に見た。

 どうやら、アライラが引き上げた物の正体に気づいたようで、喉に引っ掛かっていた小骨が取れてスッキリしたような顔になっている。


「マリーさん。アレって?」


 疑問が解消して、スッキリした顔をしているマリーさんの様子に思わず出現したモンスターの情報を得ようと聞いてしまった。

 が・・・。


「・・・アライラ。鑑定をしなさい」

〈それはそうッ! よし、鑑定ッ!!〉



『ビャビュアブルーア。異世界バケユビタに生息している四大クジラ貝の一種。巨大な岩塊と見紛う外観をしているため、貝として認識され難い。複数個体で身体を縦に重ねることで刺々しい岩の柱に擬態している様子は『海底の岩林』と呼ばれるほどに美しいと言われている。大昔、嵐の翌日には沖に浮かぶ島と勘違いして、多くの海洋冒険家や海賊たちが上陸した記録があり、異常繁殖した年には『海を歩いて渡れた』という。普段は岩礁などに擬態しているが、頭上を大型生物が通過すると浮上し、獲物へ体当たりして狩りをする。さらには海を飛び出し空を泳ぐクジラと間違われたことから、クジラ貝と呼ばれるようになった。らしい・・・』



 貝なのか!?

〈貝なんか!? ってことは、お味噌汁にすると美味しいってこと!?〉


 いや待てアライラッ!

「待つんだ! 貝と一言で判断してはいけない!! シジミやハマグリとアサリが定番だとは思うが、このクジラ貝?というのはそれらに形が一致しない! あまりにも殻の形状がゴツゴツとしているが、特徴として言うなら平べったい事に着目するべきだろう。そう、この形状から見て、おそらくは『牡蠣』の類ではないかと思うんだ。それなら、網焼きにして醤油とかレモン辺りで食べるのが美味しいだろう。フライにしてもいい!」

〈お、おう・・・〉


 調理道具はまだまだ足りていないが、それでも少しずつ増えてきているし・・・調味料の方もこれから作っていく予定だから、いずれはアライラ用の料理を作ってやれるだろう。

 そう思えば・・・あ! 牡蠣を使ったクラムチャウダーとかどうだろうかッ!!?


「おいおい・・・大丈夫?」


 マリーさんの呆れたような声音を聞いて、俺は即座に意識を戻す。

 チラッと、一眼レフを構えたマリーさんが俺を連射機能で撮影していた様子が視界に入ったが・・・今はそれどころではない。

 海上へと姿を現したクジラ貝という岩の塊を確認すると、貝から火が噴射されている様子が見えた。


「なにあれ?」


 巨大な岩の塊から噴射される火で、海水を吹き飛ばしながらゆっくりと上昇してくる様子と・・・その火がヒレを形作って、貝は確かにクジラのような姿へ変貌する様子。

 なんでそうなる?

 日中ゆえに、平べったい岩の塊から火が噴射されているだけにしか見えないが、これが夕暮れ時や、太陽光を遮って影を落とせば、下から見たら十分にクジラが空を泳いでいるようにも見えるだろう。


「アライラ!」

〈おっしゃ!!〉


 蜘蛛糸を切って、捕獲ネットを棄て・・・邪眼ジェットで浮遊状態から飛行状態へと移行する。

 同時に、クジラ貝のビャビュアブルーアも加速して俺たちを追って来た。その推進力には驚きを隠せない。


「あの火は魔力なのか? それとも、生体器官でロケットやジェットを再現している? いや、まさか機械という可能性もあるのか?」


 火が胸鰭、尾鰭を形作り・・・その巨体を押し上げつつも細やかな軌道修正などを可能としているのを見る限り、飛行能力は非常に優れていることだろう。

 ・・・むしろ、海中の方が弱いのでは?


〈まずはあいさつ代わりだッ! 邪眼! バスターッビィームッ!!〉


 アライラの邪眼一つから、バスタービームが発射され・・・ビャビュアブルーアへと着弾する。

 そのビームは、確かに殻に命中しているわけだが・・・ゴツゴツとした岩肌のような殻がビームを摺り卸すように受け流して拡散させていた。

 さらに、殻に生じた熱を吸収するように取り込んで推進力である胸びれと尾びれの火力が爆発的に増大する。



がしゅッしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッがッ



 ・・・今?

 クジラ貝の殻が、わずかに開いたように見えると・・・中から蒸気?のようなモノを噴射・・・いや、アレは排泄したというべきだろうか?


〈くぁーッ! まーたコレだーッ! バスター・ビームが通じねぇヤツ増え過ぎぃ!!〉

 

 まぁ、確かに・・・しかし。


「今回は相性の問題だと思うよ」

〈?・・・どゆこと?〉


 通じない相手が多いのも確かにその通りではあるけれども・・・。 


「今、ビームを正面から受けたアイツは、ビームを受け流しつつ生じた熱を吸収したように見えた。その際、余分な熱を排泄したようにも見えたから・・・許容量があるんだと思う」

〈つーことは? しつこくぶっ放せば倒せるってことですかい!?〉

「ああ。それで倒せるだろうけど・・・」

〈けど?〉

「今回は、ご飯を狩りに来ているわけだろ?」

〈む・・・むぅーん〉


 そう。

 倒すだけなら、まず大した労力ではないだろう・・・。

 今のアライラであれば、八連邪眼バスター・ビームの一斉射による必殺級の攻撃を命中させれば、クジラ貝のビャビュアブルーアを瞬殺することは可能であるはず・・・。

 しかし、今回は彼女のご飯を狩りに来ているので、安直に倒してしまうのはよろしくない。

 加熱処理は大賛成だが・・・やり過ぎて炭化してしまっては意味が無いのだ。


〈バスター・ビーム何発ぐらいが丁度いいかな?〉

「うーん・・・とりあえず、ビームは止めよう」

〈ダメなん!?〉

「アイツ・・・巨体のわりに速度があるからさ。ほらあれ」


 クジラ貝が物凄い勢いで接近してきていることに、アライラは気づいていないようだった。

 さっきの邪眼バスター・ビームを受けてから、速度がさらに増大していたのである。


〈目と鼻の先やんけ!?〉

「だから、回避ね」


 しかし、どうしたことだろうか?

 まったくもって、このクジラ貝のモンスターを危険だと認識できないでいる。

 ・・・どこか、感覚が呆けているような気がする中で、アライラは大慌てでクジラ貝の体当たりを避けると、その殻に足を引っかけて着地する。


〈ぅおーッ!? なんか乗れたってばねッ!〉

「・・・コレが海に浮かんでいたら、確かに陸地と勘違いしそうだ」


 ゴツゴツとした岩肌を思わせる表層ゆえか?

 海の上に浮かんでいれば貝と認識するのは難しいだろうな・・・。

 

 と、クジラ貝のビャビュアブルーアはバレルロールをした。


〈どひゃああああ〉


 そんな悲鳴を上げながらも、アライラは殻から振り落とされることはない。

 この殻がツルツルであれば振り落とされていただろうが、これだけ岩のようにゴツゴツとしていれば、大抵の虫型はしがみ付いていられることだろう。


「アライラ。こういう堅いモンスターを倒すなら、何が効果的だと思う?」

〈え? えー・・・っと・・・そやね? 良いのがあるってばよぉう〉


 あ、なんか悪い笑顔になってるな?

 

〈るっちゃん! ドリリング・ドライバーの準備を!〉


 ふむ?

「地獄能・巻蛇槍貫撃ッ!」


 俺は、アライラの希望通りにアライラ式ドリリング・ドライバーの元である地獄変の技を使用する。コレの円錐形をした刃を彼女の前足へ向けて射出した。


〈いくぜ! 元祖ッ!! ドリリング・ドライバーッ!!〉


 邪眼を輝かせて、俺の射出した攻撃に干渉して自身の前足へと巻きつけつつ巨大化し、変形させて装着する。


〈あ、るっちゃん。ついでに大道人用の錫杖も頂戴な!〉


 ん?

「錫杖・・・で、いいの?」

〈うん。ええよー〉


 そういうことなら・・・。

「地獄変!」


 この手に、追加で地獄変を召喚し・・・これにアライラと同等サイズの大道人用錫杖分の魔力を込めて投げる。


「地獄道・地蔵菩薩錫杖術」

 投げた巻物が、錫杖へと姿を変えると・・・。


〈アイ、ハブ、コントロールッ!!〉


 すかさず邪眼が光って、錫杖のコントロールを自身のモノとする。


「それで? 何をするんだ?」

〈こうするッ! いくぜぇえッ邪眼殺法!!〉


 叫ぶと同時に、錫杖がドリリング・ドライバーを装着している前足に追加装着され、ドリリング・ドライバ―と一体化・・・した?


〈どぅぅぅぅりりんぐぅぅううッ! ばんかぁぁぁあああッ!!〉


 その前足で、貝の殻を殴りつけるように叩きつけると、ドリリング・ドライバーが殻を削って窪みを作り、そこへ錫杖がネジのように回転しつつ錫杖の輪からロケットブースターのような火を噴射させつつ、その殻へと打ち込まれた。

 しかし、ドリリング・バンカー?



どごぉぉぉぉぁぁぁああああんんんぎゃぎゃぎゃぎゃららららららら



 物凄い衝撃音を響かせてから、かなり硬い物を強引に削るような音へと変わりつつクジラ貝は飛行姿勢を崩して墜落を始めた。

 と、少し遠くから破砕音が響いたように思うと・・・。


〈おっし! 貫通だッ!!〉


 どうやら、打ち込んだ錫杖が殻を突き破り、下まで貫いた音だったようだ。


〈ど? ど? これなら食うとこいっぱい残ってるから、ダイジョブっしょ?〉

 などと言っている間に、海へと着水する。


 巨体ゆえに浮いているようだが・・・穴を開けた部位から浸水しているようで・・・結構、勢いよく沈んて行っている。

 すぐに回収しないと、このまま海底へ沈んで行ってしまうだろう。

 倒したのであれば、魔改造ランドセルに入れて持ち帰ることが可能だから・・・。



ごぽ・・・ぼここ・・・



 今しがた倒したクジラ貝の浸水によって生じる音に混じって、海中から噴き上がって来ただろう泡の音を俺の耳が拾うと共に・・・。

 海中から、何か危険なモノが浮上してきている感じがする。


「アライラッ! すぐにここを離脱しろッ!!」

〈え? なんで?〉

「海中から何かがくるぞッ!!」

〈マジで?〉

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 ・・・いや、マジで?って聞き返しつつ行動してくれないのかッ!?


「緊急離脱ッ!!」

〈ジェーット!!〉


 俺の怒鳴り声に対して、いつものノリで合わせてくれるアライラは・・・そして八つの邪眼で一気に飛び上がる。

 これと前後して、海中へと沈んでいたクジラ貝が突如として跳ね上がる。

 それは、海中から飛び出して来たものによって押し上げられ、そして殻が砕かれて中身ごと粉々にされて飛び散っていく。



ばごががががごががががぐごごごごご



 こんな感じの破砕音を響かせながら、海中より飛び出して来たモノは・・・巨大な岩の塊が連なった超巨大な岩柱だった。

 まるで、シャトル打ち上げのロケットみたいな超巨大岩柱に、アライラが撃墜したクジラ貝は轢き飛ばされたのである。

 

〈なんで、さっき以上の巨大な岩塊が飛び出してくるねん!?〉

「違う! アレはビャビュアブルーアの集合体だッ!」


 巨大な岩の塊に見えるそれは、複数のクジラ貝ビャビュアブルーアが集まって柱のように連なったモノであることは、見てすぐにわかった。

 これが、シャトルの打ち上げみたいに大火力を噴射して海中から飛び出し、空へと昇ってくる。


 ・・・あ、そういえば。

 確か、鑑定の内容に『刺々しい岩の柱に擬態している』ってあったような気がするが、それってまさか・・・こうして獲物を見つけたら突撃できるようにするための形態なのか?

 だとしても、あのように柱のようにして飛び出してくるのは何故だ?

 上から順に火を噴いて飛び上がってくればいいだけのはずなのに、なんで一番下にある貝だけが火を噴いて飛び上がってくるのか?


 その疑問も、すぐに解消する。


 柱のように集合しているクジラ貝ビャビュアブルーアだが、最下層で火を噴いている数匹が離脱する。と、その上に居た貝が続けて離脱を始める。

 その際、火を噴射してから・・・と思っていたが、すでに噴射中であるのを見て、俺は思い違いをしていたことに気づいた。


「そうか、柱状に集合しているのは、推進力となる火を下へ送るための陣形だったのか」

〈ぅーん?〉


 先に倒したクジラ貝は、空を飛ぶ手段である火を『胸びれ』と『尾びれ』の形にして、あたかも泳いでいるように見せていた。

 が、この集合体は尾びれになる推進力に火力を集中させ、陣形の中央へ火を送ることで下方へと推進力を送っているんだ。

 アライラの邪眼バスター・ビームを受けた時も、そのエネルギーを吸収している様に見えたことから、熱エネルギーを取り込んで推進力に変換が可能だと推測する。

 コレを利用して―――。


〈おーい、るっちゃん! 何を考えてんのか知らんけど、さっきの貝モンスターが大群でこっち来てるってばよ!〉

「そうだった!」


 俺が連中の『刺々しい岩の柱』みたいな集合体ロケットについて考え事をしている間に、分離して各個に加速を始めていた。

 これに対し、飛行形態へと移行したアライラが空中機動でビャビュアブルーアの突進を避けつつ逃げ回ってくれる。


〈どないするん!? さっきみたいに穴開ける暇とか無い感じだしッ!〉

「確かに・・・だけど、まとめて倒すとご飯にできなくなるしな・・・」

〈それもそうッ!〉


 アライラの邪眼バスター・ビームは効きづらいが、一点集束八連邪眼バスター・ビームを撃ち込めば殲滅は出来るだろうけど・・・彼女のご飯を狩りに来ているのだから、本末転倒だ。

 そうなると、やるべき事は・・・あ、そうだ。


「・・・アレをやってみるか」

〈アレ!?ってなんなん!!?〉


 俺は、錫杖をアライラに突き立てて、縛鎖閻魔錠で身体をしっかりと固定する。

 そして、左右にそれぞれ『地獄変』を召喚して・・・これらを錫杖サイズまで巨大化する。掌に収まる巻物は、壁紙みたいな大きさになった。


「よし! アライラ、手裏剣機動でビャビュアブルーアを撹乱してくれ!」

〈むぅーん? ほいよ! 手裏剣機動! ビーム刃!!〉

 あ、ビーム刃はいらないって言い忘れた・・・まぁ、いいか。

 

 アライラが、手裏剣機動でビャビュアブルーアの迎撃を始める。

 空中で直角に軌道を変更し、ビーム刃で殻を斬りつけつつぶつからないようにギリギリを飛行し、ビーム刃が摺り卸されるだけで効果が無いことを確認することになった。

 それはそれとして・・・。

 俺は、左右それぞれの錫杖サイズにした地獄変に魔力を流し、手裏剣機動の回転が生み出す遠心力を利用して巻物を放り投げていく。


 放り投げたら、即座に次の地獄変を錫杖サイズに大きくし、また放り投げる。を繰り返す。


〈るっちゃん!? なにやってんのん!?〉

「この群れを、一網打尽にする。そのための仕込みだッ!」

〈そういうことかい!〉


 何が「そういうこと」なのか分からなかったが、先ほどまではなるべく群れの中へ突撃するのを避けていたアライラは、急に群れの中へと突撃を始める。

 ・・・いやいや、ジェットコースターよりも怖いんだがッ!?

 けれど、彼女なりに何かを思いついたからこその気遣いだと思うので、無駄にしないよう地獄変をとにかく放り投げていく。


 その、放り投げた地獄変は空中にて軸棒の両端から業火を噴射して姿勢制御を実行。

 滞空することで落下を防ぎ、俺の次なる一手のために待機してくれる。

 まだ、十分な数を用意できていないので、なるべくならばもっと効率的にバラまけるようになりたいところだが・・・悠長にしてもいられないか。


「地獄道・地蔵菩薩錫杖術!」


 直後、滞空して待機してくれる地獄変という巻物が、続々と『石の錫杖』へと姿を変えていく。

 まだ数が足りないので、地獄変は継続して放り投げているが・・・技を発動させながらやっていくしかないだろう。


〈アレで何するん!?〉

「ここからが本番だ!」


 手裏剣機動で回転する中、正直ちょっと酔いそうな感じなんだけど・・・とにかく次の技を発動させないと・・・。

 マリーさんが平然と胡坐で座っているのも、見慣れてしまったな・・・。


「地の深淵に、我が力を以て求める」


 手裏剣機動によって周囲へとばら撒かれる錫杖たちから、あらためて業火が噴出し、コレを推進力として各個で移動を始める。

 と、戦闘機小隊のように編隊を組んでクジラ貝の群れを包囲するように動いてくれる。


「並べ、並べ、石格子。繋げ、繋げ、縛鎖の蛇よ。」


 編隊を維持しつつ、錫杖の輪より縛鎖閻魔錠が飛び出すと、錫杖同士を繋ぎ始める。


「包んで囲むは、石の籠。抱えて閉ざすは、閻魔の錠。」


 異変を察知したクジラ貝が、錫杖の包囲から抜け出そうと動き出すものの・・・大量に放出した錫杖が逃げようとするクジラ貝へと体当たりをして妨害し、縛鎖閻魔錠で殻に巻き付き絡め捕る。

 そうして、包囲する錫杖は網籠のように錫杖同士で組み合わさって、クジラ貝の群れを石格子へと閉じ込めていく。


「亡者を捕えて拵えよう。焼いて焦がして炭にして、猛火へくべる牢を成す。」


 群れを成すクジラ貝を捕えた籠が、一気に縮小すうことでギュウギュウ詰めの状態にして行動不能へ追い込んだ。

 そこに燃え上がる業火で、牢の中に居る亡者を焼き焦がす。



「地獄牢・錫杖格子縛鎖石火籠」



 籠に閉じ込められ、業火で焼かれるクジラ貝は熱を吸収して脱出を試みるように火の胸びれと尾びれを動かすものの、石火の籠を焼き切ることは不可能だ。

 そうして、殻は熱を吸収しきれなくなり、ジリジリと焦げ始めて・・・。


「「「「「「びゃびゅあぶるぅぅぅぅぅぅぅあああああああああああああああ」」」」」」


 燃え上がる業火に焼かれる石籠から、断末魔のような鳴き声が聞こえて来た。


〈おー・・・だから、ビャビュアブルーアって名前なんやねー〉


 ・・・。





 浜へと降り立ち、巨大な籠をまずは置く。

 そうして、アライラが籠から少し離れたところに降りると・・・。


〈るっちゃん! アレはどうなってんよ!? 食えるんか!? 食えるんかッ!!?〉


 久しぶりの狩り・・・アレを狩りって言うのか?という疑問はあるが、久しぶりのモンスターご飯に気持ちが昂っているようだ。

 話によれば、俺が寝ている一か月間は畑で取れる野菜を中心に、魔力操作の訓練?として作った田んぼと米を食べていたので、お肉が食べたくて仕方なかったらしい。

 貝だけど、いいのかな?


「まぁ、ちょっと待て」


 俺は、籠に飛び掛かりそうな様子のアライラを留めて、ランドセルから巨大道人を取り出した。

 牧場裏?の崖に居た巨大道人の欠損した脚を修復して魔改造ランドセルに入れておいた。

 せっかく召喚したのだから、あのまま置いて行くなんてもったいないことはしない。


「巨大道人。籠からクジラ貝を一匹、取り出してください」


 コクッと一つ頷いて、巨大道人はビャビュアブルーアを焼く地獄牢の籠を開いて、一匹取り出した。


〈ほぉああ・・・これ、食べられるん?〉

「君なら、食べられるだろうさ」


 さて、巨大道人のサイズでも両腕で抱えるように持ち上げる必要があるサイズとは・・・。


「・・・しょうがない。いったん貝をその場に置いて、錫杖の用意を」


 コクリッと頷き返して、指示通りにクジラ貝を地面に置くと・・・巨大な錫杖を取る。


「よし。アライラ・・・あの錫杖を―――」

〈・・・うぉーッ! いただきまぁーすッ!!〉


 邪眼がピカッと光ると殻の上部分が「バギャッ」という音を立てつつ吹き飛んだ。

 そうして、ブワッと噴き出る湯気が周囲に広がり、蓋が無くなった事で空へ向けて立ち昇っていく。

 そんなクジラ貝のビャビュアブルーアへと飛びついたアライラは、その眼をキラキラと潤ませるように輝かせて・・・頭を突っ込んだ。


〈久しぶりの肉!!〉


 ・・・貝なんですけど?


「・・・主様? どうされますか?」

「仕方ありません。そのまま見守ってください・・・溺れそうになったりしたら助ける感じで」

「かしこまりました」


 殻を開くための小道具を用意しようと思っていたが、我慢できなかったアライラは飛びついてしまった。

 これにはマリーさんも呆れ顔になっている。


「久しぶりの肉。と、喜んでいるんですが・・・」

「まぁ、貝でも何でも生物の肉は久方ぶりだからね・・・人間用の食材は、数を揃えるのが嫌だから与えなかったし」

 ですよね。


「おーい。アライラ~ッ」

〈うーん?〉


 食べることを一切止めずに、しかし、俺の呼びかけには応じてくれた。


「味はどう? やっぱり牡蠣?」

〈せやね! 何に近いか?って話しをするなら、間違いなく牡蠣じゃないかな!? お祖母ちゃんが作ってくれたカキフライを思い出すってばよ!!〉


 ・・・カキフライに似た味なのか?

 まぁ、何にせよ・・・俺の見立て通りで『牡蠣』だったようだ。

 それにしても四大クジラ貝ということだから、あと三種もクジラ貝がいることになるな・・・。

 うーん・・・貝もいろんな種類が居るし、何がモンスターで出て来るだろうか。


「牡蠣に似ている味だそうですよ」

「知っているわ。なんせ、アレは【神殺しの獣】が出現した当時の私たちが、こっそりと狩って食べていたモンスターでもあるからね」


 えッ!?


「あ、今はもう食べてはダメよ? あの当時は、まだ持ち込まれて間もない頃だったけれど・・・今はこのダンジョンに適応しているから、どのような変化が起きているから分かったモノじゃないわ」

「そ、そうですか・・・」


 異世界から持ち込まれた多量のモンスター。

 それらモンスターが、この世界とは適応していない機能を有していたことで生じたバグにより【神殺しの獣】が発生した当時。

 神々は身を隠しながらも連中の研究を続け、敵味方で協力をしながら生き延びるために戦ったという。

 そんな生活における食料として活用されていた内の一匹が、このビャビュアブルーアであったようだ。


 巨大な牡蠣なので、肉厚で歯ごたえ抜群。そのうえクリーミーな味わいで美味しいのだとか。

 ・・・一匹・・・いや、一欠けらくらいなら・・・。


「・・・もう一度、言うけれど・・・食べたらダメよ?」

「はい」


 食べてみたかったなぁ・・・。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・はぁ。





次回は、牧場周辺のモンスターを狩る。というお話を予定しています。


それと【壺外編】も作っております。

ルキスロッコと合流した一方で、王都でもひと騒動発生する。というお話を予定しています。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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