55 【壺外編】04 んっはっはっはっは!
こんにちは。こんばんは。
今回は【壺外編】となっております。
ルッタ君らのいるダンジョン【災厄の壺】の外ではなにが起きているのか?・・・というお話になります。
去年から少しずつ書き始めて、書き直して、ようやくと形に成りました・・・第四話。
最後まで、お楽しみいただけたら幸いです。
「しかし、予算が残っていないのです」
そう言って、机に突っ伏すアリスリアは頭を掻きむしるような動作で、自分の頭を撫でる。
第一国家ハースニング。
今、この国で『異常者』と呼ばれる地球からチートシードという道具を使って転生した人間が、各地方で好き放題暴れている事が確認されている。
各地の領主らがこれらの問題に当たっているものの、魔法術とは異なる特殊な能力を使用する通称『チート能力者』な連中には、軍を率いたとしても敵う相手ではない。場合が多い。
だが、割とアホなヤツが多いようで、ちょっと罠にハメたりするとアッサリ引っ掛かる奴が多いらしい。
・・・日本人の転生者が多いようなので、平和ボケがイイ感じにマヌケを育ててくれたようだ。
とはいえ、基本的には悪人が転生してきているため、頭のいいヤツは身を潜めているだろうから、探すのも容易ではない。
さらには、転生者にレアリティが設定されていることも判明しており、私たちは悪の神に遊ばれていると見ていいだろう。
アイツら・・・今度こそ叩き潰してやるわ。などと行き込んでみても、長きに渡って決着がつかないのだから無駄だろう。
今は、国の各地に現れた『異常者』を駆除して回ることが先決だ・・・。
「アリスリア。予算が残っていないっていうのは、なんの予算よ」
「国の予算ですよ。すでに使う所は決まっていますし、先日のネルゾイ視察で余裕もなくなりました。ですから『異常者』を対処するための予算が捻出できないのです」
マジかー。
地球から不当に持ち出された転生者を倒さにゃならないってのに・・・。
「ねぇねぇ? アリスリアー? 何をそんなに悩んでいるんです?」
アリスリアが品種改良をした食用ヤモリをモッチャモッチャと食べまくっている第四王女のアニスニアが尋ねてくる。
特に何も考えていない顔をしているところが、どうにも能天気な子であるという印象を強める。
ちなみに、ヤモリの調理はクックルークが行っている。
先日、第四王女ならびに第五王女の専属執事として雇用され、今はこうして二人に仕えている。料理人であるため、ヤモリの調理もできるし紅茶など飲み物も準備できるという優秀さ。
だが、クックルークは本来別世界で『魔王』となった存在だ。
この世界を創造した邪の男神ダーゼルガーンの・・・親戚筋となる女神ローゼルザーンが、生物兵器『魔王』を参考に開発したわけだが・・・いろいろあって失敗し、『食の魔王』となってここにいる。
そのローゼルザーンはと言えば、現在は前侍女統括長より侍女教育を受けている。
何せ、この世界では平民のローゼルザーンをアリスリアが拾って来た。ということになっているからだ。
王女の侍女に平民を?って思うかもだが、第四、第五王女は癖が強過ぎて誰もが逃げるため、当人が雇用した者を使うこととなったわけだな。
文句があるものはいない。文句を言った者は二人の侍女となってもらう。と、宣言したことで誰も文句は言わない。
侍女として、使えるようになるのはいつになる事やら・・・。
「アニスニア姉さま・・・国の各地に出没している地球からの転生者・・・通称『異常者』を狩るための予算が捻出できず、悩んでいるのです」
「なんで悩むんです?」
「なんで?と聞かれますか・・・移動手段としての馬車、もしくは車。それらを護衛する騎士。まぁ、つまりは大規模な旅支度が必要なわけで・・・」
「んー? そんなに人が必要なんです?」
「私たちは王女です。王女が国を回るということは、それだけの準備が必要なのですよ」
「ふーん・・・私が一人で行って、その『異常者』を駆除して、帰ってくればいいだけじゃないんですねー」
「そうです。アニスニア姉さまが一人で行って・・・」
うん?
どうしたアリスリア? 何を口を半開きにしてアニスニアを見つめている?
「ところでアリスリアー。私、モモさんとまた遊びたいんですがー!」
モモさん。というと、ネルゾイの町で戦った桃木少年のことかしらね。
「また・・・いえ、さすがに立て続けにネルゾイの町へ行くことはできませんよ。前回は、行く理由も用意できたからこその出張ですからね」
「遊び相手がつまらないヤツばかりで飽きてきました。モモさんはとてもイイ感じだったので、ぜひもう一度遊びたいですッ」
「しかし、そう言われましても・・・」
やれやれ。
あれからしばし経つけれど、王都近郊にやって来た『異常者』も数名なれど駆除済みだ。
それら全員をアニスニアが倒して回ったが、どれも手応えが無くて不満そうにしていたのをよく覚えている。
戦う意味も感じられない相手は、無視したりするし・・・。
とはいえ、こいつの我儘でネルゾイへともう一度、訪れることはできない。
アリスリアも言ったとおりで、立て続けにネルゾイを訪問するのは外聞が良くないからな。
仕方ない子だ。と、私はアニスニアへ言う。
「アニスニア。いくらなんでも無理よ。城を抜け出して城下町へお忍びするわけじゃないんだからさ」
「えー・・・だったら自分の足で走っていきますよ」
とんでもない事を言いやがりやがった。
どこの世界に自分の脚で、国の北端へと出向く王女がいるんだよ・・・いや、もしかしたら探せばいるかもしれないか?
「いや、走っていくって・・・あそこはここ第一国家ハースニングでも王都より最北端に近い場所にあるのよ? いくら何でもお忍びで行く場所じゃないでしょうが」
「私の足を侮るなかれ! あの程度の距離なら日帰りなんて楽勝です!」
んなわけないだろ・・・。
いかに戦闘狂天使用の魔改造アバターであるとしても、陸路を走って王都から北の町まで日帰り往復などできるはずがない。
はずが無いのだが・・・アリスリアが腕を組んで何かを考え始めた。
その様子から、なんだかとっても嫌な事になる可能性を見てしまう。そして、災難に見舞われるのは私なのだと確信する。
「分かりました。ネルゾイへ行く許可を、お母さまに取ってみましょう」
「はぁ!?」
私が素っ頓狂な声を上げる横で、アニスニアが万歳三唱している。
「ちょ、おま・・・」
アリスリアのことだ。
おそらくは、パーラハラーン・・・いや、この国の女王アルファニアから許可をもぎ取ってくるだろう。つまりは、第四王女の専属侍女である私が、お供することになるわけで・・・。
「ネフェリスさま。実は今、もう一つ問題が生じているのです」
もう一つ、問題が生じている!?
「ユアヒム・レーン。つまりは、ダーゼルガーン様のアバターなのですが・・・怪我が深すぎて、ほぼ役立たずの状態になっています」
「はぁ!?」
ルッタを見捨てたクズ野郎ってことで、ネルゾイの町で隠居しているアルメルデ前伯爵様から拷問された阿呆・・・。
「治療は進めていますが、しばらくは使い物になりません。なので、ネフェリス様にユアヒム・レーンが担当するはずだった仕事の一つを、手伝っていただきたいのです」
「何を言ってんのよ! なんで私がそんなことを―――」
「ダーゼルガーン様から、正式な仕事の依頼があるのです。今はネルゾイに居られますので、お会いしていただきたいのですよ」
「どうせウィッチ。いや、その分身がいるでしょう? そいつにやらせておけって」
「・・・そうですね。詳しくは、現地にて。と、お願いしたいのです」
違うのか?
言葉にするのを嫌がっている・・・つまり、言葉にして発することで、悪神共に気づかれるのを防ぎたい何かがいる。ってことか?
ウィッチの分身で商人をやっているアイツではない。別の誰か・・・。
「・・・まぁ、依頼内容を聞きに行ってやらないでもないわね」
今は、そういう事にして・・・いや、待て! やっぱり無しだ!!
「いや、やっぱり嫌だ! アニスニアと一緒に走ってネルゾイまで行くことになるとか、私は嫌だからな!」
「ハイッ!!では、私が負んぶします!」
・・・アニスニアが当然のように割って入ってくるが、ちゃんと私たちの会話を聞いていたのかは怪しい。
「いいですね。それ、採用します」
「ちょっと待てコラ!?」
「計画を新規に練ってみましょう。素敵です! 財務大臣も胃痛で胃薬の服用量と回数が増えているので、これで解決します! ありがとう! アニスニア姉さま!」
言うや否や、部屋を飛び出していくアリスリア。
「ちょっとまてよぉぉぉおおおお!!」
私の叫びは、届かなかった。
〇
だいたい一週間後。
アニスニアが外行きの服を持っていなかった。
基本的に、服装には無頓着であるため、第一王女たち姉からのお下がりを着まわしていたが、この度正式に服を用意することとした。
そのために一週間ほど使って服を用意したわけだが・・・。
「芋ジャージとか、うろ覚えなのに懐かしさがこみ上げてくるんだけど・・・」
「かつて、実用性が高い作業着の一つとして、服飾関係の仕事をされていた勇者さまにより教授した物の一つですね」
アリスリアが得意げに語るが・・・しかし、アニスニアの妙な似合いっぷりにため息以外が出てこない。
「これ、動きやすくていいですね! ヒラヒラドレスよりこっちが良いです!」
そりゃそうだろうね。
「それと、二人にはグミヤモリを取り付けてもらいます。これで、二人の様子をモニタリングできますので」
そう言って、アリスリアがグミみたいなヤモリを私たちに差し出して来て、頭の天辺に取り付けるよう言ってくる。
見た目がグミそのものなので、アニスニアが食べようとするが、アリスリアが半ギレしながら止めた。
「それと、ネフェリスさまにはこちらの使い魔たる白ヤモリも連れてください。この子であれば、会話などに直接干渉できますので」
そうねー。
面倒くさいやり取りなどが必要であれば、アリスリアに任せられるものねー。
そんなこんなのやり取りをしていると、女王アルファニアが見送りに訪れる。
基本的にアニスニアへの説教だ。
「――――いいですね? お忍びなのですから、派手な立ち回り・・・いえ、大暴れとかしてはいけませよ!!」
「はーい! はーい! いっぱい楽しんできまーす!!」
女王アルファニアは、そして項垂れながらため息を吐く。
母親として、女王として、上司として、威厳を維持するための真面目な顔を持続することができないほどに、アニスニアは年相応の愛らしい笑顔で返事する。
だから、もう項垂れるくらいしかできないのだろう。
「ねふぇるま・・・ネフェリス!! くれぐれも王家の名が失墜するような事だけは回避するように! 命令! これ女王命令!! 創造神命令ね!!」
「・・・」
私は答えない。
その代わり、目を逸らすことで返答とする。
「おねが~いっ!! ただ一言『任せろ!!』って言ってちょうだいよぉ!! ただでさえ、アニスニアのせいで悪魔と契約したのでは?とか言われているんだからさぁ!!」
それは私の知った事じゃない。
破天荒な行動が、多くの人間に恐怖を与えてしまっているのは確かだからだ。
古来より、天使とは神からの御使いとする一方で、人間にとって不都合な天使を悪魔と読んだりする事は多々ある。
アニスニアの羽は光をテーマにする発光色・・・まぁ、黄色。
アリスリアの羽は闇をテーマにする暗黒色・・・まぁ、黒紫系? 黒が強めの青紫系かな?
このため、生まれた当初こそアリスリアは悪魔とか堕天使とか言われていたし、アニスニアは天使の化身と言われて崇拝されていた。
まぁ、城で働く連中だけは、生まれた日から『悪魔だ・・・』と顔面蒼白にしていたが。
今では『第四王女殿下は悪魔の化身説』が広まっていて・・・まぁ、王家って大丈夫なのか?ってなっている状態だ。
ここらで悪いイメージを払拭したいというのは分かる。
イメージとして、チートシード転生者の『異常者』が暴れているところを「颯爽登場! 王女天使アニスニア見参!」みたいな感じのヒーロー系展開で、民を助けて回ることを期待しているのだろう。
しかし、できるか? この子が?
「ムリだな」
「ムリとか言うな!! 諦めるなよ! 頑張れよ! お給料は弾むからさ!!」
「・・・」
「返事しろぉお!!!」
私は『任せろ』とは言わない。
ただ、静かに目を逸らすだけだ。
「ねふぇりぃぃすッ!! 返事をしてぇぇぇぇ」
「では、行って参ります」
「あ、出発ですね!? はーい! いってきまーすッ!!」
さぁ、出発だ。ということで・・・。
私は話を打ち切った。
▽
どぉん。
そんな音を上げながら、着替えとか諸々の旅支度をして二人分の荷物を詰め込んだキャンプ用大型リュックサック・・・正式名称は知らない・・・を背負っている私を背負って走るアニスニア。
正直、スタート時点で音速を超えるというのはどうかと思う。
魔法術と神の権能を重ね掛けすることで、音速を突破したダメージを受け流してノーダメにできたが・・・実に心臓に悪い。
あと、アニスニアは芋ジャージ姿なのだが、私は侍女服なのでスカートが捲れてしまう。
下着がチラ見えしないように魔法術で抑えるも、太ももがチラ見えしてしまうのは防げそうにない。長ズボンでも履いておけば良かったな・・・と思うが、まぁ、カボチャ下着なので言うほど恥ずかしいとは思わん。
それにしても、これだけの速度で移動できるのであれば・・・確かに日帰りとかも出来そうだな。とは思う。
本当に、アニスニアの身体能力はとてつもないな。
「あ!」
急ブレーキがかかり、アニスニアの背という壁に身体が押し付けられて、危うく窒息死するところだった。いきなりどうしたというのか!?
「急にどうしたの!!」
なんの前触れもなく、ただ「あ」という『なんか見つけたから止まってみよう』的なノリの「あ」であると思って、つい声が荒くなる。
だが、止まってから周囲を確認すると・・・何やらガラの悪い連中が荷馬車を襲っているようだ。
「ちょっと行ってきますねー」
私を降ろして、アニスニアがガラの悪い連中に小走りで駆け寄っていく。
「こんにちはー! なにかあったんですかー?」
場違いなほどあっけらかんとした言葉に、私はコケてしまいそうになった。
と、それは連中も同じみたいだ。
「な、なんだこのガキ?」
「すんげー美人なガキだな。売れば高値になるぜ?」
「まて、さっきまで居なかったのに、急にあらわれ―――」
と、連中が訝し気にしていると、爆風が押し寄せて男たちを吹き飛ばしていく。
多分、アニスニアが置き去りにしていった空気?とかソニックブーム?とか、その辺が追い付いて来た感じだろう・・・たぶん、そんな感じだろう。
野郎どもは「わー!なんだこの風ーッ!」と叫びながら吹っ飛んでいく様は、さながらトラックで跳ね飛ばされる転生前の主人公に近い様子だ。
死ぬほどのダメージにはならず、転生することはないだろうけど。
「く・・・なんだおまえは!?」
「あ、そこのあなた! チートシード転生者ですよね?」
「え・・・な、なんで・・・」
「どんな能力を使えるんですか? ぜひぜひ! 見せてください!!」
相手がドン引きしているぞ・・・私でも初対面でそれなら、ドン引きしていると思うわ。
「さぁさぁ! あなたはどの程度遊べますか? その力! 私が試してあげますよ!」
「は、はぁ? なんで俺がお前みたいなガキに試されないといけないんだよ!」
「今日まで雑魚ばかりだったので・・・あまり期待してないんです!」
「俺を他のモブキャラと一緒にすんな! 真の主人公のチートスキルを見せてやる!!」
「それではどうぞ!」
「調子が狂うからやめろ! ええい! チートスキル『ブレインダイブ』」
・・・名前からすると、脳に潜る?でいいのかしら?
奴がスキルを叫ぶと同時に、その両目が光り輝いた。と、瞳から波紋が広がって、アメーバのように粘性っぽい動きでアニスニアへと移動する。
「ふーん。これ、なんですか?」
迫るアメーバのような波紋を、手で鷲掴みにして引きちぎる。
「あーッ!! なんでそれを手で掴めるんだよ!? それはお前の脳に干渉するための精神波だぞ!? 掴めるはずないのに!!」
「・・・ふーん」
紙を細切れにするように、手に取った精神波を細かく引き千切って捨てていく。
確かに、精神波とかよく分からないが、実体ではないモノを鷲掴みにして引きちぎるっていうは、どうかと思うわ。
「ええい、動くな! お前の脳に干渉するんだから!!」
「・・・まだ掛かります?」
「ちょっと掛かる! 掛かれば超強力なんだけど、掛かるまで時間が掛かるから使い勝手が悪いんだ。この盗賊連中だって、アジト付近で身を隠しながら全員に掛けるのに時間かかりまくったからな」
「ふーん。えい」
「ぐは」
・・・。
・・・・・・アニスニアが、光の槍で男の心臓を一突きした。
「待つのは面倒くさいので、もういいです」
「お、おまえ・・・主人公の・・・技は・・・じ、時間かかっても、待つ・・・のが・・・礼儀だろ」
「ふーん」
心臓に突き刺さった槍が眩い光を放つと、それらが男の身体に浸透してその身体を完全分解してしまう。
チートシードの再転生を阻止するならば、これくらいやらねばならない。
下手に死体を残すと、チートシードが転生可能な肉体へと種を飛ばすことで復活しようとするからだ。ならば、塵も残さず消滅させるのが一番いい。
「さ、次へ参りましょう!」
「・・・はぁ」
・・・その後も・・・。
▽
「我こそは、世界を救う勇者なり!」
「よんでませーん」
「ぐあああああああああああああ」
▽
「皆様ごきげんよう。私は世界を救う聖女となる女!! 我がチートスキルで―――」
「おつかれさまでーす」
「きゃああああああああああああ」
▽
「俺は勇者! 魔王を打ち倒し、この地に俺の国を建国する!!」
「無用です」
「ぅわああああああああああああ」
▽
「異世界転生! 神に選ばれた主人公! つまり、俺の俺による俺のための物語!!」
「私たちの戦いはこれからですね!?」
「打ち切りまんがあああああああ」
こんな感じで、チートシード転生者『異常者』に遭遇し、片手間で撃破していった・・・。
・・・最後のはなんだ?
〇
「えーっと、もうすぐネルゾイに到着するわね」
ここまでいろいろと相手してきたけれど、どいつもこいつも転生させるほどの人材には思えない。
少なくとも、ガキみたいな連中ばかりを転生させるメリットとは?
簡単だ。
おそらくはチートシード転生者を殺し合わせて最強の転生者を作ること・・・それは私とダーゼルガーンの傑作である『魔王ハースニング』の製法に近いモノだ。
世界で一番強い人間をベースにして、アレやコレやと魔改造を行い、最後は世界そのものを取り込ませることで完成する『生物兵器』だが、情報量が膨大過ぎて適当に扱うと世界そのものが潰れてしまう欠点もある。
この世界への干渉を妨害する目的でハースニングを投入したが・・・まさか後々5人追加されてしまうとは・・・甘かった。
さて、悪神共の狙いがどこにあるのか?は明確でないので、推測はここまでにしておく。
いずれにせよ・・・雑魚であっても、この世界で生きる一般人には災害となんら変わらない脅威そのもの。
こんなのが、ばら撒かれている現状をどうにかしないといけないのは分かるんだが・・・こうして王女が自分で走って地方まで移動するという方法を使うのはどうかと思う・・・。
予算の都合がつかないのでは仕方ないのか?
正直、もうちょい何とかしてほしいと思うんだ・・・負んぶされているのも色々とツラい・・。
≪ゆぅきッ♪ あいじょぉうのペ・ル・ソ・ナ♪ はんぶんにッわったぁはーぁとまぁあーくぅ♪≫
大音量の音楽と共に、スピーカーから女の声が響き渡る。
・・・つか、スピーカーはどこに設置されてんの!?ってくらい響いてくるんだけど!?
これに驚いたアニスニアが急ブレーキを掛けて止まると、音が鳴る方を見て眼を瞬かせる。
「なんですかッ!? 今の音痴ッ!!」
確かに音痴だったけれど、アニスニアにもそういう感性があるのだと逆にビックリだ。
「いや、それよりもまず・・・いや、うん・・・確かに音痴過ぎてビックリしたけどさ・・・」
ダメだ。
何を言おうとしたのかド忘れしてしまった・・・なんて音痴だ・・・。
周囲を確認するように見回してみると、視界に入ってくるのはネルゾイの町だけ・・・だけなのだが、なんか町から異様なサーチライトが生じている。
そして、遠くでも分かる『ずん♪ ずん♪』な震動。相当な音が町で流れているのだと思われる。
「・・・町で、何かが起きている感じね」
「おー? お祭りでもやっているんでしょうか?」
そうね。
仮に音楽フェスティバルなら、間違いでもないでしょうけれど・・・アニスニアの言うお祭りは、屋台が軒を連ねる方なので、今回は間違いだろうよ。
「とりあえず、町に入ってみれば分かるわ」
「ですねー」
とたたたッと、私たちはネルゾイの町へ入る。
「妙だ。町の周辺には難民キャンプみたいになっていたというのに、人の姿が見えない」
「あ、鍋に火がかけっぱなしです! もったいない! ご飯は無駄にしてはいけないんです!」
んなのはッ!・・・いや、火事になるから対処しておく必要はあるか。
アニスニアの背から降りて、もぬけの殻となっている難民キャンプを見て回る。食事の支度中だったのだろう鍋などが火に掛かったまま放置されていたりする。
おそらくは、この騒ぎで急ぎ避難した。ってところかしらね・・・。
「ん-! この野菜! 美味しいですよッ!!」
周囲を見ていたら、アニスニアが鍋で煮込み中の野菜をガツガツと食べていた。
「ここの野菜って、すごく美味しいんですよね! お腹に溜まる感じが最高です!!」
「・・・ふむ」
ルッタ・レノーダの身体から漏れ出る魔力を栄養源として、野菜や家畜が異常成長していることで美味しくなっている。というのは聞いていたが・・・。
アレだけ山のようにご飯を食べているアニスニアが、ここの簡素な野菜鍋を食べただけで『お腹に溜まる』などと言うとは・・・。
≪ほらほらぁ~? どうしたのかな~?≫
先ほどの音痴声だけれど・・・歌っていない。
むしろ、挑発するような声が町に響き、実に不愉快な声音にイラっとくる。
「アニスニア。食べたなら行くよ」
「はーい!・・・おかわりとかありますか?」
「いらんわッ!」
他人様の食事を横取りして、さらにおかわりまで求めるなっつの!
町は人っ子一人姿が見えない。
家屋も、慌ただしく飛び出して行ったような痕跡こそ見られるが、人の気配はない。
そして大通りを進んで行くと、町の広場へと行き着く・・・そこで、音痴声が爆音で響いてきた。
≪ゆぅき、あいじょぉおぅのペ・ル・ソ・ナぁあ! はんぶんにわぁーったはぁーぁとまぁーくぅ~≫
マジで酷いな・・・これでノリノリなのが分かるんだから、当人は音痴なのだと気づいていないんだろう。
「ちょっと、音の発生源をぶっ殺してきていいですか?」
アニスニアが殺人鬼みたいな顔になっている!?
広場にあったのは、音楽のライブ会場と思われる特設ステージ。おおよそ、この世界ではありえない鉄骨の柱や色とりどりの照明・・・サーチライト・・・。
≪あら? これは可愛らしいお客様ね! 私の歌に魅了され、この場所へ誘われたのかしら!?≫
「いえ、耳障りなので止めに来ただけです」
アニスニアが辛辣とかその辺を飛び越えて、直な感情を叩きつけて来た!?
≪み、耳障り・・・は? なにが? なにが耳障りなわけ?≫
おまえの歌声が、私らからしたら耳障りでしか無いわけだが・・・ふむ。どんな奴が歌っているのかと思えば、容姿はこの世界基準で普通ね。
地球で言えばヨーロッパ系美女となるんだろうけれど・・・そんな女は、この世界では異質なブレザー学生服?っぽいコスチュームを着ている。
あ、ミニスカートとニーソックスの絶対領域とやらは一目見て強調しているデザインなのは理解した。
その頭にはマイク付きヘッドホンが装着されており、口元に伸びるマイクを通じて、声がスピーカーより拡張されているようだ。
・・・で? スピーカーはどこ? 見た限りでそれっぽいモノが無い。
「あなたの歌声です。音痴が過ぎるのもどうかと思います。ただの騒音です。不愉快です。美味しいご飯を食べている時は、美味しい音楽が耳を潤してくれるんです!」
・・・うんうん。わたしにはどういう食事風景なのか分からなかったわ。
普段から食事中に音楽とか・・・いや、アリスリアが持っているオルゴールなら、時折聴いているか。
≪わ、私の歌声が耳障り!? 音痴!! ふざけんなッ! 元トップアイドルの私が! そんなはずないでしょうが!!≫
トップアイドル!? この歌声で!?
私が驚きに声を失っていると、アニスニアもまた困惑したように私の袖を引っ張ってくる。
「トップアイドルってなんですか?」
「・・・さぁ?なんだろうね?」
こんな歌声でトップアイドルを自称されてもね・・・アニスニアに「なんですか?」って訊かれても、私だって「なんだろうね?」としか答えられないわ。
≪トップアイドルっていうのは、一番人気って意味よ!! バッカしゃないの!!?≫
つか、なんで私たちはコントをやっているんだ?
そんな事で、今の状況がいまひとつ理解できなくなりつつあるところで、顔に殴られたような傷跡が見られるモモギ少年が私たちへと歩み寄って来た。
「これは、第四王女アニスニアさま・・・王都よりはるばるのご来訪・・・碌な出迎えも出来ずに申し訳ありません」
キッチリとした服装と挨拶から、アニスニアの出迎えに出ていたのだろう。前に見た時よりも、体つきがよくなっている。
町で働くようになり、しっかりと食事を取れているのだろう。
「大変失礼ですが、しばしお待ちください。そこの『異常者』を切り捨てますのでッ」
腰に差している刀の柄を握り、コンサート会場に立つ女へと向き直る。
≪ふん。私の歌を愚弄する野郎は、そのまま寝ていればいいものを・・・≫
「そうはいかないんだ。町長より、君ら『異常者』から町を守るように命じられている。ここで寝ているわけには行かないのさ」
おー。
いい感じの少年となったようだ。うんうん。
≪異常者。異常者。神様によって転生した私を『異常者』扱いするのは止めてよね!≫
スピーカー音声に怒気が籠り、女が歯を剥いて威嚇するように睨みつけて来た。
≪私はッ! この世界を狂わしている『魔王』を倒すために、転生したのッ! 見てよこの身体ッ。目が覚めたら15歳くらいの女の子だったけれど、美少女でしょうッ!!?≫
嬉しくて興奮しているところを申し訳ないが、この世界ではどこにでもいる平均的な平民だ。この世界で美少女とか美女とか言われるようになるのは、子爵級の貴族から上の階級にある人間のみ。
なぜか?・・・を、説明したいが・・・こいつは聞く耳持ちそうにないし。
そうする必要があったから。・・・それだけのことだし。
「へぇ、君もそうなのかい!? 僕も『魔王』を倒すためにこの世界へと転生された一人なんだよ!」
≪はぁ!? え、どういうこと?≫
あぁ・・・転生したてでこの世界のことを何も知らないんだな。
「どうやら、神様はこの世界へと無差別に僕ら地球人を大量転生させているようなんだよ」
モモギ少年は、そうして今日までにレノーダ町長の元で勉強した事を語る。
古い時代から、悪なる神によって『魔王』が世界に投入され、コレを封印するために『勇者』を異世界から・・・つまり、地球から召喚していた歴史だ。
「勇者伝説って本がいっぱいあります! 呼んでみるといいですよ。印刷?っていう地球から召喚した勇者さまより学んだ技術で作られていますから、書店で普通に売ってますよ」
アニスニアが「にかーッ」て顔で教えてやると、女は苦いモノを食べたような顔になる。
≪・・・ッ≫
言葉が出なくなっているようね。
「どうだろう? 君は、まだこの世界にやって来て間もないし・・・知らない事も多いはずだ。僕や、そちらに居られる御二人に保護を求める。というのは?」
≪ふざけないでッ!! 私は異世界で一生を終えるつもりなんて無いのよ! 『魔王』を倒して、もう一度『地球』へ転生し直すの! このチート能力と一緒にッ!!≫
・・・こいつ、何を言って・・・。
「どういうことだ? もう一度、地球に転生し直す?」
≪あっはっは! そうッ! 神様は言っていたわッ!! この世界を狂わせている『魔王』を倒すことができたのなら、チート能力ごと地球へ再転生させてくれるとねッ!≫
地球への・・・再転生ッ!?
どういうこと? 今の地球は、チートシードによる人間の魂が大量に持ち出されたことで、他の神々によるアクセスを制限しているはず。
いや、もしくは・・・地球に強い未練を持つモノには、テキトーな事を言ってその気にさせているだけか?
用が済めば、処分してしまえばいいだけだから・・・。
「再転生? 僕は、そんな話を聞いていないが・・・?」
≪私の神様は、確かに言った! 魔王を倒したなら、チート能力を保持したまま地球へ! だから、私は魔王を倒すの! 今度こそ、アイドルになるためにッ!!≫
・・・。
・・・・・・。
・・・今度こそ、ね?
「へぇ、それじゃあまるで・・・前世はアイドルじゃ無かったみたいに聞こえるね?」
≪うッ!?≫
失言だったと認識したのだろう。
モモギ少年を殺す勢いで睨みつけ、そして脂汗を浮かべながら私とアニスニアを睨む。
≪そんなことはないッ! 私はッ・・・ほら、数あるアイドルグループの一つに在籍していた一人! 幾多の苦難を乗り越えて・・・えーっと、やっとグループリーダーに成れるっていうのに! 辞めた元メンバーが私の成功に嫉妬したからッ!≫
・・・本当か?
なんだろう? コイツの語るアイドル時代の話しは、誰かがどこかで語った話のように聞こえてくる。コイツの実体験などではない・・・そんな感じがするが・・・。
≪今度こそ・・・そう、今度こそッ!! 私は地球で名実ともにトップアイドルになる! そのためには、この世界で魔王を倒さないとダメなのッ!!≫
「ふーん。つまり、どんな手段を使っても、今度こそアイドルになってトップを目指す。ってことかな?」
女の顔から感情に一切が抜け落ちたようになり、目が乾くのも気にせずに見開いて、ただただモモギ少年を睨みつける。
≪・・・おまえ・・・もう一度殴られたいの?≫
「いいや? 君が保護を求めるなら、救いを。拒むなら駆除を。それだけの話しだよ・・・」
・・・別に、保護を求められても保護するつもりはないんだけど?
チートシード転生者は、碌な人間性をもっていないからね・・・殺処分した方が安全だし。
いや、地球の創造主に貸しを作るため、こいつらを保護する。というのも手段としては有効かもしれない。・・・ううん。ダメだ。止めておこう。
地球の創造主って最高神様の一人だから、私みたいな木端格の神では相対しただけで意識が飛ぶわ。
「・・・でも、君という人柄はだいたい分かった。アイドルに成れなかった腹いせに、誹謗中傷を繰り返して、最終的に自滅でもした・・・それが君の前世ってところかな?」
≪私が悪いんじゃないわッ!! わたしを落選したプロダクションが悪いのよッ!!!≫
まさに『豹変した』と表現するのが正しい殺意と怒気で顔がクシャクシャになる女に、私は小さくため息を。アニスニアは欠伸をかみ殺しながら「いつまで続くんです?」と空を見上げ始める。
≪だいたい! どいつもこいつも頭がおかしいのよッ!! 私が何をしたっていいじゃない!? わたしを落選させたのは、アイツらなんだものッ!! 警察に捕まったッ! 世間一般の罰だって受けたッ! なんで私がそんな目に遭わないといけないのよッ!!? あいつらが私を落選させたのがッ! 何もかも悪いのにさッ!!!≫
・・・えぇ。
≪この私がアイドルになれないのに! なんであんなブス共がアイドルになれるのよッ!!? おかしいだろッ!!≫
・・・う、うーん。
少なくとも、あの音痴で平成以降のアイドルは無理だろうな。昭和時代ならアイドルになれたかもだけど・・・。
つ・・・頭痛・・・あ、今さっき破損情報がちょっと修復されたっぽい? マジか? こんな女の逆恨みで?
・・・はぁ、さいあく。
「・・・何をしたんだい?」
≪あっはっは! 復讐してやったのッ!! 私をアイドルとして採用しなかった報いを! 見る目の無さを教えてやったの・・・なのにぃ!! あいつらは、私に復讐してきた! それで私は死んだの! 悔しい! ぐやじいぃぃぃぃ!!!≫
どうしようかなぁ・・・もうささっと終わらせちゃう?
チラッと横を見ると、アニスニアがヤモリのベーコンを入れた袋を抱え、ベーコンを齧り始めた。それはアリスリアが小腹が空いた時に食べるといいですよ。と持たせてくれたオヤツでもある。
それをガリガリと齧りつつ、ステージで絶叫している女を「まだ続くんですか?」と言いたげな目で見つめている・・・同感だが、うーん。
≪だいたいッ! 復讐するとか、頭おかしいでしょうが!! 先にやったのはあっちなんだから、私に復讐するとかお門違いもいいところよッ!! やられたからやり返しただけのにッ!! なんで私が死ななきゃならないのッ!? 意味わかんないッ!!≫
・・・さすがにちょっと、どういう思考しているんだ?ってなるわね。
何と言うか・・・まさに地獄の閻魔様にでも裁いてもらうのがいいだろう案件だ。
「君が、なにをやって、その結果がどのように結実したのかは知らないし、どんな復讐をされたのか知らないけれど・・・」
≪ぁ?≫
光などない。
あるのはただ、憎悪に濁って自身を見失っている眼。
その強い視線をモモギ少年へと向ける女だが・・・それ以上に眼、どころか顔全体が濁った様に歪み始めるモモギ少年を見て、私は一番ビビった。
おかしい。この世界はホラー要素なぞなかったはずなのに・・・。
「僕は中学生の頃にクラスメイト五人からイジメを受けていた」
自称アイドルが何かを言う前に、モモギ少年は続ける。
「一時は自殺する寸前まで精神を病んだけれど・・・僕は『復讐』することにした。5人の内、2人は殺れたけれど、残り3人は逃がしてしまってね・・・」
昔を懐かしむように、モモギ少年は僅かな笑みを浮かべて見せる。
その顔に見える感情が、いまひとつ読めない。
「それから時間はかかったけれど・・・やり遂げた時の達成感・・・アレは最高だった。 ずっと曇っていた心が晴れ渡るような気分は、筆舌に尽くし難い・・・」
・・・自分語りを始めたので様子を見ていたが、こいつを復讐へ唆した神の話しはしないのか?
いずれにせよ。
この女に、自分語りをするのは何故か?
「君はどうだった? 君を落選した連中へ復讐をして、どんな気分だった?」
≪・・・そんなこと・・・ザマァミロッ!て、思わず叫んじゃったわッ!!≫
「あっはっはっはっはっはっはっはッ!!!!!」
≪あっはっはっはっはっはっはっはッ!!!!!≫
・・・。
・・・・・・。
・・・ああ、こいつら。
瞬間。
モモギ少年の白い刀と、自称アイドル女の蹴りが激突する。
日本刀を真正面から受け止めるニーソックスに驚きを隠せない・・・どういう衣装だ? あれ・・・。
「君みたいな逆恨みで、僕が同類みたいに見られるのは我慢ならないなッ!!」
≪殺人鬼がッ! 私を理解したような顔してんじゃねーぞッ!!≫
自称アイドルの蹴り・・・アレは空手だな。
それも有段者のキレがあることから、おそらくは黒帯・・・そうか、なんとなくわかったわ。
二人の攻防は、そして始まる。
モモギ少年の構えは剣道のソレだ。基本の型でよく見るモノだが、踏み込んで小手を放つ。
コレを、正面から拳を突き出して刃に手の甲を当てつつノックするように小突いて刀の軌道をズラす女は、左脚を一歩前に踏み込んでから右足でモモギ少年の脇腹を蹴った。
なかなかに重く鈍い音が響くものの、脇に入った足に腕を回して捕まえる。
その足を引っ張る事で姿勢を崩しにかかり、片手で持つ刀を振り上げて反撃に出るモモギ少年だが、空手相手にそれは悪手だ。
女の右拳から繰り出される正拳突きが、そしてモモギ少年の心臓の胸に激突する。
「がッ」
≪ばーかッ≫
爆弾が炸裂したような爆発音を響かせて、モモギ少年が吹っ飛んだ。
「おー? 結構強い感じですかね?」
「そうね。見た目ほど弱くはない感じだけど・・・」
≪なに余裕ぶっこいているの! 私、子供相手でも殴れるからねッ!?≫
それがアイドルを目指す女の言葉かよ・・・。
広場の端にある食堂の壁に激突したモモギ少年は、血を吐きながらも立ち上がって、呼吸を整える。
「ふぅ・・・空手を使う人と戦うのは初めてだな」
口の中に残っているだろう血を、唾を吐くようにして排出すると・・・身体に付着した汚れを叩き落としながらステージまで歩いて戻ってくる。
「モモさーん。あとは私が引き継ぎますよ?」
「いいえ。僕の仕事なので、取られるのは困ります」
口を尖らせて不満を示して見せるアニスニアだが、特に駄々を捏ねる様子はない。
自身が、戦いを途中で他人に取られるのを嫌うからこそ、モモギ少年の言葉に文句を言わないのだろうね。
≪なに? まだやんの? あんたじゃ、私の相手は務まらないわ≫
「なに。まだ小手調べ程度だからさ・・・」
モモギ少年が、再び踏み込むと剣道の『面』を放って迫る。
対して、女は蹴り上げる足・・・その学生靴っぽい靴の裏で、刀を真正面から受け流す。
「パンツが丸見えじゃないか」
≪アイドルは、魅せる下着を履いているのよ? スケベ≫
蹴り上げられた足・・・その踵をモモギ少年の脳天目掛けて落とす女。
対して、モモギ少年は身体を捩じるように回転させつつ、刀を横に倒して回転と共に間合いを詰める。
その動作によって踵落としが不発に終わる女は、身体を支えていた方の脚で後方へと飛ぶことで間合いを保つ。
両脚で地をしっかりと踏むと、すぐさま左手と右手を突き出すように構えて、モモギ少年の攻撃に対応した。
刀を両手で挟むようにして掴む白刃取りを成功させると、これで身体の回転が止まるモモギ少年へ再び蹴りを叩きこむ。
しかし、今度はモモギ少年も自分の脚で蹴りを受けて防いだ。
と、モモギ少年は右手を腰の後ろに回して短刀を引き抜きつつ、女へと切りかかる。
≪ッぶな!≫
「ちッ」
・・・女は、確かに空手をやっていただろう。
しかし、モモギ少年は何か武術をやっていたのだろうか? 剣の構えも、学校で習う程度のモノに見えるし・・・おそらくは素人だとは思うが?
それにしては、身体の動かし方が上手いと思う。
≪少しはできるみたいね! 歌う暇がないわ!≫
「歌わせないために、攻めているんだけどねッ」
女は、挟むようにしている手をわずかにズラして、刀に力を籠めると・・・刃を折った。そんな事が出来るとか、いつの時代から来たんだ?
モモギ少年は折られた刀を意に介さず、右手の短刀でさらに切りかかるも、女が手首に肘打ちを仕掛けて来たので即座に身を引きつつ、折れた刀で追撃を仕掛ける。
女は手刀を振るってモモギ少年の左手首を叩き落とそうとするも、ここでさらにモモギ少年が踏み込んだことで、手首を狙った軌道がズレて肘に。
手刀がモモギ少年の肘に当たると、モモギ少年は即座に刀を捨てて女の腕を掴み、強引に自身を接近させる。
これに、女は人体急所となる股間目掛けて蹴りを放つ。が、そんなのは予想済みだったようで、モモギ少年は内股になってコレを受け止めると、右手の短刀で女の腹を刺しにかかった。
同時に、女も左拳でモモギ少年の顔を殴りにかかる。
「この辺りで終わりにしておこうか」
モモギ少年の短刀を握り、女の拳を掴んで止めた新手が現れた。
涼し気な顔で両者を交互に見る人物は、一見すると男性のように見える。なにせ、地球の古い時代のどこかの国の軍服を模した格好をしているからだ。
しかし、男装の麗人。それがヤツだ・・・残念なことに、私の知り合いである。
「モモギ少年! 飛び退きなさいッ!!」
私が叫ぶと、モモギ少年は即座に短刀を捨てて飛び退き・・・こちらに合流してくる。
・・・いや、別に仲間ってわけじゃないんだからさ? 私らと合流するのは止めてくんないかな?
「いや、今はそっちよりも・・・」
モモギ少年の事は、そこまで重要視しなくていい。
それよりも・・・こっちが最重要だ。
「久しぶりね・・・まさか、おまえまでこの世界に入り込んでいたとは・・・」
私は苦々しいモノを食べたような顔になっていた事だろう。
因縁の悪神・・・というわけではないが、その悪神が一人を師事している若い神の一人が目の前にいる。
「お久しぶりです。ネフェルマリー先輩・・・この度、『腐』の女神から正式に『悪』の女神に転じました。改めて名乗らせてください。『悪』の女神アイルンベネッターでございます」
なんとまぁ・・・。
「おまえ・・・『悪』に転じたのね?」
以前から、師事している神に憧れて『悪神』になるために奔走しているヤツだったが・・・。
「はい。悪の神になることを希望し続け、ようやくです。転じるために悪行を積み重ねるのは大変でした・・・ネフェルマリー先輩は、あっという間だったというのに」
やめろ!
パーラハラーンと殺し合いをして、色々とやらかしたからこその爆速『悪』化であって、私は『悪』になるつもりでがんばったわけじゃないんだッ!!
いや、落ち着け。
「この世界に入って来た理由は? 私に挨拶するためだけじゃないだろ?」
「もちろんです。我が師にして悪なる先達・・・『腐の男ト女神 ペロリガッター』様の命を受け。 この世界に地球人を転生させて混乱を招くべく種を撒いているところですッ」
やっぱりか・・・。
「・・・さて、これ以上は君が不利だ。ここらで終わりにして、しばしこの国を観光するのはどうかな?」
女へと向き直るアイルンベネッターは、モモギ少年との戦闘を終えるように改めて告げる。
これに、やや不満そうな顔をして・・・モモギ少年へと不愉快そうな目を向ける。
「しかし、さすがルキスロッコ先輩が選んだ人間だけの事はあります。この娘とは別方向へと性根が腐っているようだ・・・君も、私の観察対象に加えたいな」
「観察対象?」
異性としての熱を込めた視線ではない。
それは、実験動物を興味深く観察する研究者のような熱の籠った視線・・・モモギ少年に興味を示したのは、殺戮の女神に見いだされたからだろう。
と、アニスニアが私の服の袖を摘まんで引っ張ってくる。
「ネフェリスさん。ネフェリスさん。あの人はなんなんです? 強そうな感じこそしますが、戦うと危険だと私の本能的な何かが警告しているんですよ」
・・・戦闘狂も極まればなんとやら、か?
でも、アニスニアの感覚は正しい。
「・・・あれは女神。先日に『悪』の神々入りを果たしたようだけれど、元は『腐』の女神よ。それは万物を腐らせる権能を持つ存在。戦うならおススメはしないわ。特に、バーサーカーモデルのお前には相性が悪すぎる」
私が説明をしていると、アイルンベネッターが割って入った。
「やはりッ! そこの天使からは異様な圧を感じたわけだ・・・戦闘天使のバーサーカーモデルでしたか。あらゆる感覚野を戦闘に直結させている欠陥品と名高いそうですね」
「その欠陥品故に、安く雇えた。と、パーラハラーンが喜んで・・・そして今は頭を抱えて唸っているわ」
「はっはっは。あの方らしいですね・・・いやはや、しかしこうして実物を見るのは初めてですが・・・イイですね。侍女姿のネフェリス様と並べると・・・イイ。これはイイですね」
やべ・・・。
これはマズい・・・こいつの悪癖が刺激されたようだ。
モモギ少年も、訝し気にしているし・・・。
「おい!これで終わりにするなら、とっとと出て行きなさい! 今回は特別に見逃してあげるから!」
そうでもして、話を終わらせたいところなのだが・・・ダメか?
「ふふふふ。芋ジャージなのに、それが妙な似合い方をしているのがまた・・・イイですね。次の私の新刊ネタに使わせてもらいますねッ!」
「使うな!! なんでもかんでも薄い本の題材にしやがって!」
「そこはご自分を責めるべきでしょう? パーラハラーンとの死闘は、まさに我々『腐女神界』にとって、最高の題材です。腐教活動が実を結び、二人のカップリン――――ッ
私は、アイルンベネッターの口に拳を叩きこんでいた。
ヤツの顎が外れて口が本来の開口限界を超えて開き、上下の歯がそこそこに砕けて地に落ちる。そうして、拳は喉を塞ぐように突き刺さった。
直後に、私はアイルンベネッターへ叩きこんだ右拳・・・その右肘辺りを左手で鷲掴みにし、一気に握りつぶして千切り断つ。
「なッ!?」
モモギ少年が、心底驚いたような顔をしているが・・・それよりも先に、アイルンベネッターの身体を蹴って距離を取る。
すると・・・ヤツの口に叩きこんだ私の右腕・・・肘から先がボロボロと腐って散っていく。
「これはどうも・・・挑発したつもりはなかったのですが、琴線に触れてしまいましたようで・・・」
「毎度、分かっててやってんだろ?」
「もちろんです。それでなくては、我々の活動も意味がない」
口周りが血塗れになっているアイルンベネッターは、しかし笑みを絶やさない。
一方で、私は沸騰した血が少しずつ冷えていく。それでも、こいつをここで殺すと決めた以上は、ここで殺すけどね。
「ネフェリスさん。ネフェリスさん。なんで怒っているんです?」
・・・はぁ。
そうも能天気な顔で尋ねられたら、怒りを持続させるのもしんどくなるわ。
「今、ふじょしんかい。とかいう名前と、布教活動と聞こえましたから・・・もしかして、同人誌の活動でもしているってことですか?」
モモギ少年なら、察することも出来るか・・・。
「はぁ、さすがに地球の日本から転生して来ただけはあるわね・・・その通り。そこの女神アイルンベネッターは女神たちによって結成された同人サークル『腐女神界』のメンバーが一人なのよ」
「その通り。活動内容は、同人誌の作成! 地球人がやっているのと同じだ。なにせ私たちは、それに触発されて結成された新参者でもあるからね」
それは、『腐』の神々にとっては新たなる境地への挑戦とも言えることだ。
「私・・・いや、私たち『腐の神』というのは、万物を腐らせることしか能のない神なのだ」
アイルンベネッターは、そして舞台で踊る役者のような動きを始めて、語る。
「長きに渡り、万物を腐らせることしか能のない神として見下されてきた我々は、しかし、ある時に大きな変革がもたらされた・・・そう。ペロリガッター様が、もたらしてくれた!」
あー。
私は、ずっと以前に散々聞かされたのでウンザリする。
「すべては、ペロリガッター様が地球を旅行された際に見つけた! 『同人誌』という文化ッ! 地球の日本という国から持ち帰った新たな『腐』の概念が、私たちに新たな可能性をもたらしてくれたッ!」
・・・思い出してしまうなぁ。
―――いいのよ! 原作をしっかりと読み込み!原作をリスペクトしつつ、私たちの想いを二次創作で形にする!! そうして世に送り出し! 同じ志を持つ者と熱く語り合う・・・それがッ! 同人誌なのよッ!!
・・・・・・とか主張していたヤツだからな。
・・・つか、同じ志を持つ者たちと作る冊子の事を『同人誌』っていうんじゃなかったか?
いまさらか・・・。
「すべては、我々の『腐』に新たな可能性を開拓するためッ!」
アイルンベネッターは、そして服のポケットから文庫本サイズの本を二冊ほど取り出してアニスニアとモモギ少年に投げる。
「その本を見てくれれば、私たち『腐女神界』の腐教活動は理解できるだろう! 天使の君! 殺人鬼の少年! 遥かなる高みッ『貴腐神』への道を進みたいと願うなら、我らの門を叩くがいい!!」
・・・はぁ、そういう活動を否定するつもりはないけれどもさ?
怪しげな新興宗教みたいに押し付けるような布教をしてくるから、大勢が迷惑するわけよ。
「うーん?・・・これは漫画ですね? どうせなら食べられる物が欲しいですねー」
しまった! 内容を確認してるじゃん!?
「わーッ!! ちょ! アイルンベネッター!!! 子供に見せるような本じゃないだろがッ!!?」
「むしろ逆ですッ! 子供の内に精神を腐らせていかないと、こちらの二人みたいな性根の腐った大人に育たないではないですか!?」
「こいつら二人とは、また別ジャンルだろうがッ!!」
「・・・それもそうですね。いや、物を腐らせるのは得意なのですが、精神を腐らせるのは未だに分からないことばかりなもので、なんでも試したくなるのですよ」
「この世界でやるなッ! 自分で世界を創造してからやれッ!!」
「そのための資金などが無いのです。それに、せっかく『悪』の神に成れたわけですし、悪事をたくさんやりたいのですよッ」
くそがッ!!
「ふぅ・・・伝えたいことも伝えましたし、ここらで私たちは退きましょう」
アイルンベネッターが女に手を差し出す。
それはさしずめ、王子がお姫様をエスコートするかのような演技くさい動作だったが、当人は頬を赤らめて嬉しそうに手を取っている。
つか、口周りの怪我がいつの間にか回復している・・・。
「あ、逃がすわけには行かない!・・・ですよね?」
アニスニアが光の槍を出して構えつつも、私を見て首を傾げた。
「・・・いや、止めなさい。 このまま退かせた方が良いわ」
「なんでです?」
まるで意味が分からない。という顔で私を見てくるので、説明した。
「ヤツは『腐』の女神。万物を腐らせる権能を持つ神々の系譜。触れている物を腐らせることができるヤツは、空気はおろか光さえも腐らせることができるのよ」
「光まで!?」
途端に、アニスニアが興奮し始めた。
「面白いです! 私の光を腐らせられるのなら、きっと楽しい戦いが出来るはずです!」
おいおいおい・・・止めねばッ!
「戦うとしても、町中はダメッ!!」
私は、今にも飛び出そうとしているアニスニアを全力で引き留める。
「奴の『腐』の力は、伝播する。空気を腐らせたなら、そこから町の建造物、食料、生物、それら全てを腐食させ、腐敗させ、死を蔓延させるからッ」
「なんとッ! 血が滾る戦いができそうではありませんかッ!?」
・・・。
・・・・・・。
・・・なんでそうなる!?
「なるほど・・・確かに、これではパーラハラーン様が頭を抱えるのも納得ですね」
アイルンベネッターも、少しばかり焦った顔をしている。
私に攻撃されたばかりだ・・・おそらく、先のダメージは回復したように見せているだけで、何も治ってはいないはず。
そんな弱い拳を叩きこんじゃいないわ。
それに、アニスニアのような戦闘狂天使を相手するなら、ただでは済まない。単純な戦闘能力だけなら、武神や戦神に匹敵する天使だからだ。
どことなくマヌケに見えるが、戦闘における思考能力と判断能力は・・・。
「と、私たちは失礼させてもらいますよ」
「好き勝手に暴れ回らず、観光程度に見て回るなら、しばらく見逃して置いてあげるわッ!」
「わかりました。主要な目的は『魔王』討伐ですので・・・しばらくはこの国を見て回るとしましょう。いいかい?」
「アイルンベネッター様が、そうおっしゃるなら」
うっわ。恋する乙女みたいにしおらしくなってる・・・イケメンは、男女問わず徳だなぁ。
あ、それともう一つ聞いておきたいことが・・・。
「それではッ・・・次に会うまでお元気で」
こちらに一礼して、二人は今度こそ去っていった。
なんで『魔王』討伐を主目的にしているのか?を、確認したかったが・・・まぁいい、今は・・・自分で千切った腕の治療をしないとッ!
いだだだだだだ。落ち着いた途端にッ! 痛みががががががががががッ!!
はぁ・・・厄介な奴が入り込んできやがった・・・なんてことだ。
白ヤモリやグミヤモリを通じて、こちらの状況は分っているはずだから・・・すでにあの二人を追跡しているはず。
私は、とりあえず欠損した右肘から先を蘇生させる作業を実行する。
アバターの便利なところは、こうしてスペアパーツを用意できることだろうね。こういうのを地球の連中からすれば『チート能力』となるのだろうか?
「・・・なーんだ。恋愛漫画ですか・・・」
「だあああああああ!!! 開くな! 見るな! 子どもが見ていいモノじゃないんだよ!!」
アニスニアが、再び開いた文庫本サイズの同人誌を、私が速攻で取り上げる。
直後に、引き千切って魔法術で燃やした。こんなものは存在していちゃいけないんだッ!!
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私は、バトル漫画の方が好みです」
「・・・つか、おまえ漫画知ってんの?」
「はい。以前の職場に居た先輩に、日本の漫画を集めている方がいたので、仕事が無いときなどに読ませてもらったりしたことがあります。スゴイですよね! 読んでいると戦いたくなって血が滾って来ますもん!」
あー。そういう感じなのね・・・。
興奮気味になっているアニスニアを宥めていると、モモギ少年が深呼吸からため息を吐きつつ歩み寄ってくる。
「このたびは加勢くださり、ありがとうございました。どうにも分が悪かったので、二人が来てくださって助かりましたよ」
疲れたような顔をしているモモギ少年だが、そこまで苦戦していたのだろうか?
「苦戦するような相手でしたか?」
アニスニアが首を傾げて質問すると、モモギ少年は疲労がピークに達したような顔になる。
「ええ。ほら、あそこ」
そうして人差し指で指し示すのは・・・残った特設ステージの端っこで三匹の動物が両の目をハートマークにして口を「んがー」と開いたまま硬直している姿が見えた。
あいつら・・・あんなところで何をしているんだ?
「モモさん。アレらは何をしてるんです?」
「あの女の歌には洗脳効果があるようで、チート能力によるものでしょう。あの三匹がすっかり魅了されてしまって、あそこからまったく動かなくなってしまいました」
ああ・・・それで分が悪い。と言っているのか。
「える。おー。ぶい。いーッ」「かわいいよーッ せかいいちかわいいよーッ」「うおーッ! 腹減ったーッ!」
・・・あのバカ犬。
「おい、モモギ少年。あのバカ犬だけは洗脳掛かってないぞ」
私が指差しで指摘してやると、白い犬は驚いた顔でこちらに向き直り叫ぶ。
「やべ! バレた!!」
反応しなければ、バレなかっただろうに・・・。
「イヌ! サルやトリと一緒に洗脳されていたんじゃなかったのか!?」
モモギ少年が、まさか洗脳されていないとは思っていなかった様子で驚いて見せると、イヌは照れた様子で言った。
「いやー・・・あんな歌声を聞いたらさー。熟睡中でも飛び起きれるよー。マジでー」
・・・。
・・・・・・。
・・・くそ。同意できるのが悔しい。
「はぁ・・・まぁいいや。イヌ。お客様がお見えになったから、町長の元へお送りしてくれ。あと、一応騒ぎは収まりました。ということも伝えて欲しい。僕は後片付けをしてくるよ」
「はーい!っで? こっちはどうすん?」
元気のいい返事をして、未だに洗脳状態にあるサルとトリを示すように前足を向ける。
これに、モモギ少年は軽く息を吐いた。
「そのままでいい。僕の方で処理しておく」
「おけー。んじゃ、二人はこっちー。町長宅までご案内だーッ」
なんか嫌だけど、しゃーない。
日帰りしたかったが、アリスリアの想定通りに一泊していく流れになったか・・・大荷物も無駄じゃなかったわな。
さて、侍女の仕事を始めますかね・・・。
「久しぶりですね! 少し強くなったのではないですか?」
「もちもちー。アレから運?の神様がしつこく『異常者』を送り込んでくるんで、モモギが叩き切ってさー。おかげでモモギはレベルあーっぷ! お供の俺らもレベルあーっぷ! まさにウィンウィン!」
「へぇー? では、少し私と遊びませんか? 雑魚ばかりで退屈なんです」
「遊ぶ!? なになに! 俺、ボール! ボール遊びしたい!」
「ボール遊びですか? いいですよ!」
言うや否や、アニスニアは光の槍をただたんにボール状にしただけのモノを出す。
「ドッジボールをしましょう! 私とあなたの一対一です。手加減無用。全力を希望します」
「・・・あれー? ボール遊びってそんな殺気を剥き出しにするもんだっけー?」
「はいはいはい! 余計な仕事を増やさないで!」
私がアニスニアを睨み、その手に出現させた光のボールを奪うようにして両手で叩き潰す。
そうして、イヌを急かしつつアニスニアの手を取って引っ張った。
「ただでさえ予定が遅れたんだぞ! まずは町長さんに挨拶だろうが!! 王女としての仕事はキッチリやる!」
「ぅはーい」
不満そうな顔をしているアニスニアを、私はとにかく引っ張る。
「ほら、イヌ! しっかり案内をする!」
「はいッ」
そうして、私たちはネルゾイ町長の家へ到達し、挨拶を済ませる。
この時にアリスリアから持たされていた使い魔の白ヤモリを通じて、町長と話をしてもらい・・・とりあえずは一泊することを決める。
事前にこうなるだろうと予想されていたので、アニスニアの食事は準備済みだったようだ。
さらには一泊するための部屋も用意してくれていた。
はぁ・・・なんか色々あって疲れたわね・・・。
〇
翌日。
レノーダ町長宅で一晩を過ごした後・・・私たちはネルゾイの町中にあるノルトラン商会の支店にて、ユアヒム・レーンとリコリス・ノルトランを訪ねた。
町長よりモモギ少年を借りて、アニスニアと私を含めた3人で商会の商会長室へ案内される。
「よ。久しぶり」
「やぁ! 元気そうだね!」
包帯で全身を巻いているユアヒムと、ニコニコ笑顔が絶えないリコリスが迎えてくれる。
「久しぶりね。アリスリアから、仕事の依頼があるということで会いに来てやったわ」
私は、客人用のソファにアニスニアを座らせて、侍女として後ろに立つ。
客をもてなすための茶と菓子は、リコリスがテキパキと用意してくれた。
「それでー? どんなお仕事をご要望なのでしょう?」
アニスニアが、用意されたお菓子を頬張りながら尋ねる・・・マナー。注意しても無駄か。
「ああ。実はな・・・『対魔王兵器開発計画』の関係で、地球とも連絡を取り合っているんだが・・・」
それはアレか?
「転生させた人間が地球人だから、現状報告などをこまめにやっている。ということかしら?」
私の言葉に、ユアヒム・レーンは少しばかり言葉を詰まらせ、目が泳ぎ出す。
なんか隠してるな・・・なんだ?
「まー。そんなもんだ・・・それで、例のチートシードによる『異常者』の件で、先方から依頼された仕事があってな」
面倒ごとが始まる予感がする。
ユアヒムが言いづらそうにしているが、それを見てリコリスが引き継ぐように言った。
「かの『異常者』をチートシードごと滅するのではなく、回収して欲しい。とのご依頼でね? これ以上の消滅や焼滅は止めて欲しいそうだ」
・・・はぁ?
「ちょっと待ちなさいよッ! 依り代を殺せば、種を別の人間に飛ばして寄生し直すような危険物だぞ?」
私が抗議すると、リコリスは肩を竦めた。
「分かっているけれど・・・ほら、ユアヒム君?」
「ああ・・・実は、チートシードに取り込まれている地球人の魂が、種の消滅と共に消滅してしまうことが分かったらしい」
おいおい・・・。
それってつまり、魂が地獄世界へと流れつかないということ・・・魂が地球へと帰還しない。ということじゃないの。
「そんなことになってんの?」
「そうらしい。地球の方で地獄世界などに問い合わせをしたところ、確認できたことだ。どうやら、あの『種』がここでお前たちに消滅させられた後・・・どの地球人の魂も行方不明になっているようだ」
地球という世界の完成から、多くの神々が地球とは異なる独自の世界を創造するようになった現在であるが、それら数多くの異世界で生まれた命は、その死後に必ずただ一つの世界へと流れつく。
『地獄』
生物が、生きている間に蓄積した『罪』を清算するためだ。
そうしてから入念に洗浄して、元の世界へと還す・・・そういう役割を担う世界に、あの『種』に取り込まれた人間の魂が流れつかない。
種は、道連れにしているわけか?
いや・・・おそらくは、そういう風に調整した。と、見るべきか?
しかし、これだと私たちへの嫌がらせというよりも、地球への宣戦布告と思えてならない。いつも通りの嫌がらせという範疇を越えてしまっている。
「それでな? 先日、地球を創造した最高神様が・・・ルキスロッコと対面したそうだ」
・・・。
・・・・・・は?
「はぁあ!?」
私は驚いてアニスニアが座るソファの背もたれを掴んで身を乗り出していた。
「いや、まて! あいつ、いくつか隠れ家を持っていて、それらを転々としているから常に行方が掴めていないはずよ!」
そう。
殺戮の女神 ルキスロッコは、悪神の中でも相当な殺人狂だ。
地球だけでも、世界各地の戦場へアバターを降ろしては、殺りたい放題やって、また次の戦場へ。と、他の神々とは違って人間同士の戦争に参加しては戦場を転々として暴れ回った神の一人だ。
まぁ、私とほぼ同じ世代の神なので、神話などに載っては居ないわけだが・・・。
地球以外でも、地球を真似して世界創造を行った異世界で、やはり戦争などに紛れ込んでは殺りたい放題やって荒らしまわったことで、それらの狂った悪事の積み重ねにより、悪神へと至った。
ただ、意外なことに戦争などの舞台以外では殺しをしない奴でもある。村に盗賊が攻め込んできた。とかだと、賊を皆殺しにしても村人には手を出さない。などのこだわりを持っている。
「ああ。どうやら、今、地球にアバターが居るみたいでな・・・」
「地球にッ!?」
「そうらしい・・・日本とアメリカで戦争になっている。と聞いて、地球の神々に気づかれないようにしつつ大急ぎでアバターを降ろしたんだそうだ」
アイツならやるッ!
戦争と聞けば、殺し放題殺り放題ッと、大喜びでアバターを降ろすアイツなら!!
「ただ、地球の神々に気づかれないようにするため・・・地球人として生まれるようにしたらしい。そのせいで、戦争が終わってしばらく後の時代に生まれ、今ではひ孫までいるお祖母ちゃんだそうだ」
「マジかッ!?」
嘘だろッ!?
「しかも、結局一人も殺していないらしい・・・ただの人間アバターだから、神の力も使えないのでなんにもできないようだ」
「そ、そうなんだ・・・意外ね・・・はは」
アイツなら世界のどこかで戦争が始まれば、飛ぶように突撃していくだろうに・・・。
「・・・で、えーっと・・・アリスリア。続きを頼めるか?」
《かしこまりました。ルキスロッコ様のアバターと直々に交渉した最高神様が、そのアバターを通じて本体と連絡を取る事に成功し・・・今回のチートシードによる事件の落とし前をつけさせようと動き出しました》
おいおいおい・・・死んだわ。あの女神。
《意外にも、ルキスロッコ様はこちらの要請を受けて地球の最高神様と面会され、そこで多くの情報交換をしたそうです》
・・・おや? 流れが変わった?
《そこで分かったことがいくつかあります。順番に説明をしましょう》
①チートシードの開発研究は、ルキスロッコが行っていたモノで・・・まだ試験運用前の未完成品を悪神たちに持ち出されてしまっていたらしい。
②ルキスロッコは、チートシードの仕上げに必要な材料集めに出ていて、今回の事件を一切知らないことが判明した。マジか・・・。
③とりあえず、モモギ少年はチートシードの試験運用で使うために用意していた地球人とのことで、引き続き彼を使わせてもらえるのであれば、協力する。ということで・・・協力を取り付けた。
④そういうことなので、『異常者』を狩って回ることになっている私たちに合流して『チートシードの回収』を手伝ってくれることになった。
「え・・・マジでアイツが合流すんの? 代理とかじゃなくて?」
《はい。すでにアバターは第六国家へ降りています》
第六国家・・・アメツ・・・あー。
「日本刀・・・じゃない。アメツ刀の調達か?」
《その通りです。協力するなら、まずは日本刀が欲しい。とのことで、第六国家にてアメツ刀を購入し旅支度を整えるとのことで・・・船旅で第一国家までは約一年はかかります》
・・・第六国家アメツは、地球で言うところの日本によく似ている国だ。
古くから、魔王アメツ封印のために召喚されるのは日本人だけれど、第一国家と違って刀鍛冶師が召喚される場合が多い。
まぁ、昨今は農業系や料理系の勇者が多くなっていたが・・・。
そのため、今や地球の日本では途絶えてしまった古い時代の太刀を鍛える技術がいくつも伝授されており、しっかりと継承されている技術で鍛えられた刀が・・・なんと武具市場などで売られていたりするとか。
アイツの事だ・・・おそらくは市場で刀を見繕い、気に入った鍛冶師に渾身の一振りを鍛えさせようとしているのだろう。
ユアヒムはため息交じりに言う。
「しゃーない。つい昨日までは敵だった女神が、まさかの味方だ・・・信じられなくて不眠症になりそうだ」
あー・・・まぁ、そうね。
「まぁ、それならそれでいいんじゃない?」
「よくねーよッ!」
何はともあれ、強力な力を持つ敵の一人がこちらに付く。それはとても大きなことだ。
もしかしたら・・・今回の周期で、連中との因縁にいくつかのケリを付けられるかもしれない。
「あのー。お仕事のお話は、これでおしまい。ってことでいいですか?」
退屈そうにしているアニスニアが、私たちの様子を見て確認するように訊いて来る。
これに、アリスリアは周囲を一度見回してから、頷いた。
《そうですね。とりあえず大切な連絡はできましたから、少しばかり休憩を挟むのもアリでしょう》
「はい! それでは、モモさん!!」
アニスニアが、そしてモモギ少年の手を取る。
「私と運動ましょう!!」
・・・そういや、それが目的だったな。
▽
「さぁ! 勝負です!!」
町からそれなりに離れた荒地にて、アニスニアとモモギ少年は対峙する。
元々の目的は、こうして戦うためなので・・・モモギ少年はどこか遠い目をしながら諦めたような顔で空を見上げていた。
「おい、モモギ! マジでやるのか!?」「いくらなんでも、キツイって!」「俺ッ! あの子とは戦いたくないッ! 怖いよッ!」
召喚したお供三匹も、アニスニアにビビり尽くしている。
「・・・仕方がない。僕らの全力をぶつけて、なんとか乗り切るんだッ」
お供たちが「「「いやだーッ」」」と泣き叫んでいるが、アニスニアは純粋な笑顔で準備運動をしている。
「前の姿にはならないんです? 準備万端?」
「待ってください! 今、今すぐに! 準備を整えますから!」
・・・あの自称アイドルに凄んでいたモモギ少年だが、どうにも腰が引けているな。
「大丈夫だと思う? ルキスロッコと合流する前に、モモギ少年が死んだりしないでしょうね?」
ルキスロッコの奴が、私たちに協力する。
それはイイ事だけれど、真性の悪である女神をどこまで信用できるだろうか・・・少なくとも、モモギ少年が死ねば、協力はご破算となる。
《万が一の時には、私が止めに入りましょう。ネフェリス様は援護をお願いします》
「頼むわ」
ユアヒム・レーンとリコリス・ノルトランは商会に残った。
あの二人には別の仕事があるから、ここまで付き合ってはいられないようだ・・・が、攻めてリコリスのヤツには付き合って欲しかったな。
一応、ウィッチの分身みたいなモノなんだし、援護ぐらいはできたんじゃなかろうか?
「それにしても・・・どうせ、アニスニアと国を巡って『異常者』を狩りに出るとはいえ、まさかルキスロッコとまで国を巡ることになるとは・・・」
不安である。
《私としても、驚きを隠せません・・・アレほどに敵対していたというのに・・・》
「まぁ、ヤツは義理堅い性格でもあるわ。他人の研究物を使いたい場合は、しっかりと交渉するしね。今回は、自分の研究物を完成もしていない段階で持ち出されて量産されている事が、何よりも腹に据えかねているってことだと思う」
いわゆる『筋は通す』ってヤツなのよね。
「まぁ、問題となるのは・・・物事をなんでも『殺せば手っ取り早い』で済ませようとするところね」
《一応、アバターは地球に降りている身体をベースにして、地球の最高神様と共同で調整したモノになりますから、正確はだいぶ丸くなっているはずです》
地球では、人殺しをせずに家庭を築いているんだったか? アイツが? 信じられん・・・。
「・・・丸くねぇ・・・平和主義者になっているとは、思えないけれど」
《仮にそうだとしても・・・それを受け入れるほどに、今回の件はご立腹。ということでしょう》
確かに。
あいつは、そういう所はしっかりと筋を通すタイプだからこそ、自分の研究物を無断で持ち出されるのは絶対に許さないだろうよ。
キッチリと、相手に落とし前を付けさせようとするのは、ルキスロッコも同じこと。
「・・・それにしても、とうとうアイツらの仲間割れも本格化し始めたわけか」
《それはどういう意味ですか?》
「ああ、あの連中はお前さんを堕天使にしようとして失敗したころから、ソリが合わなくなっていたようでね。どうにもまとまりが無くなり始めていたのよ」
《・・・そうでしたか》
アリスリアにとって、あの事は思い出したくも無いだろう。
嫌がらせをどうするか思いつかなくて、あのような事をするとは思ってもいなかったが・・・ルキスロッコとペロリガッターが、アレに反発したからこそ・・・。
とはいえ・・・ここまで明らかな対立は初めてのことであるのは間違いない。
『殺戮の女神 ルキスロッコ』『腐の男ト女神 ペロリガッター』
『愛の男神 ラスブーアピンド』『毒の女神 リィンカーサッセ』
そして、事実上の4人をまとめるリーダー『空の男神 キョノムイハイ』
なんだかんだで、この五人から長く嫌がらせを受け続けて来た中で、明確にこちら側へ付くのは初めてのこと。
ルキスロッコは、研究のために長期間の旅に出ており。
おそらく、ペロリガッターは同人誌作成のためにほとんど参加していない事だろう。アイルンベネッターを寄越して来たのは、一応の関わりだけは保ため。と、予想する。
・・・と、なれば・・・主に悪神三人より選ばれた『悪人』の転生者が、この世界で暴れ回ることとなるはずだ。
すでに、ルキスロッコが選んだモモギ少年とは遭遇し、こちら側にいる。
ペロリガッターの使いであるアイルンベネッターも、当面は国の観光で大人しくなる・・・ことを期待したい。
「チートスキル!」
「「「「アルティメットッ!!」」」」
「オーッ! 待ってましたーッ!」
アイルンベネッターはどの程度、チートシードを持っているのだろうか? また、どんな厄介な悪人を選んだのだろうか? アイツなんでも腐らせるから、一番予想しづらいのよね。
・・・リィンカーサッセは、おそらく毒物関係の犯罪者である可能が最も高い。
ラスブーアピンドは、間違いなく性犯罪者辺りだろう・・・奴自身が、男女関係なく襲うからな。
そして、キョノムイハイは・・・。
「「「「桃太郎伝説ッ!! 仙桃人ッ!!!」」」」
「わぁ♪ 前の状態よりもピカピカして見えます! 強くなっていますね!! ステキですね!!」
そして、二人の決戦は幕を開ける。
もはや開幕から全力全開で攻撃を叩き合わせると、激しい雷のようなエネルギーが空へ向けて飛び上がっていく。
爆風が巻き起こり、渦を描いて周囲の砂を散弾銃の弾みたいに撒き散らしていく。
「だあああああああああああああああああああ」
「あははははははははははははははははははは」
・・・。
・・・・・・。
・・・あ、こりゃマズいわ。
「アリスリア。頼むッ」
《はい、大丈夫です。すでに準備は整えてありますから》
できるヤツが居てくれる頼もしさ・・・。
「もっとッ!! もっとッ!!! あなたなら!!!! もぉっとぉ!!!! 最大出力を越えられるはずですよッ!!!!」
「「「やだこの子ぉ!! 顔が変形しているように歪んでるんだけどッ!!?」」」
お供三匹の悲鳴が聞こえてくる。
気持ちは分かるが・・・がんばれ。
「んっはっはっはっは! なんだい?この状況はッ! まさに魔王と勇者の一騎打ちみたいじゃあないかッ!!」
は?
この場に居合わせた全員が、そして唐突に現れた人物へ注目し唖然とする。
「る・・・ルキスロッコ!?」
私は、どうにか唐突に現れた人物の名を呼ぶことに成功し、ヤツはこちらを見て歩き寄ってくる。
「おぅ! 久しぶりじゃあないか!っつかおまえッ!? なんだって、そんなガキなんだい? ネフェルマリー。それはアバターだろ?」
べっしべっし。と、頭を平手で何度もたたかれて、私は払い除けながら答えた。
「私らは、国の運営をしていく立場だからよ!」
「あー。運営ね・・・ごくろうなあこった。不老タイプのアバターにしておけば、老化による服の一新やら能力の低下なども無いというのに」
「おまえらはそれでいいかもだけど、私ら創造主側の事情ってもんがあんのよ!」
「知っているよ。だから私は世界創造をしないんだッ」
ちぃ・・・こいつは・・・。
東洋人。
地球なら間違いなく日本人の姿と言えようその恰好は、女侍。
笠を頭にかぶり、和装に身を包むその腰には、二振りの日本刀・・・いや、この世界では『アメツ刀』と呼ばれるモノを挿している。
《ルキスロッコ様・・・聞いていたよりもお早い到着・・・驚きを隠せません》
「ああ? 先方より、出来る限り早く合流しろ。と言われていたし、ネフェルマリーのヤツがここに居ると連絡を受けた・・・だから、こうして間に合わせたんだ。つまり、 あたしなりの気遣いだ。感謝しなッ」
・・・こいつは。
「あなたがルキスロッコ様ですね!」
アニスニアが、目をキラキラと輝かせて光の槍を向けて来る。
「ん? おい、ネフェルマリー。アレがヴァルキリーのバーカーサー・モデルってヤツかい?」
「そうよ。アレが・・・いや、バーサーカーな! バーサーカーッ!!」
「どっちでも一緒だ。戦闘バカなんだろ?」
否定できないのが、なんでこうも悔しいと思えるんだろうね!
「匂う! 匂います! 悪の匂いが香ってきますよッ!!」
あ! キラキラと輝くような笑顔が、悪に塗れたラスボスみたいな歪んだ笑顔にッ!!
ヴァルキリー時代に組み込まれている悪神対策プログラムの一つか!?
確か、ある一定以上の悪性を検出したりした場合に限り、問答無用で駆除する。それが戦闘狂モデルであるアニスニアには組み込まれたままになっているわけか。
パーラハラーン!? そういうのは解除しておけよッ!!
「あぁ・・・悪ッ! 悪よッ!! 悪は滅ぶべし!! 滅ッ!!!」
光が多量の色彩を重ねて、そのエネルギーが増大すると先のモモギ少年に放った『一投』とは一線を画すシャレにならない『槍』が形成される。
まさに滅殺という言葉がふさわしい『一撃必滅』の技―――ッ
「ふん。悪神対策で創ったというバーサーカーモデルも、この程度かねぇ」
アニスニアは、そして動かない。
今にも、必滅の一投を放とうとしているのに、その顔は『悪は滅ぶべし』と叫んだ時の歪んだ表情から、きょとん。とした顔になっている。
私はルキスロッコの手元を確認する・・・。
・・・その手には、鞘より抜かれて・・・すでに振るい終えた様子で刀が握られていた。それの姿だけで、結果を察する。
直後に、私はアニスニアへと駆け寄って両手をアイツの腹辺りに伸ばす。
ボロッ
アニスニアの頭が、首より転げ落ちた。
「っと、セーフッ!!」
先に腹の辺りへと伸ばしておいた手に、ピッタリとアニスニアの頭が落ちてくれたので、キャッチに成功した。
そこから、即座に頭を元の位置に戻して蘇生術を実行する。
「しばらく動くなッ! 切断面が綺麗なので、すぐ蘇生できるから!!」
それだけ言って、私はアニスニアの首を繋げ直した。
ふぅ・・・あっぶなぁ・・・地面に落ちでもしたら、雑菌などの殺菌滅菌で治療に時間が掛かる所だったわ。
「・・・あのぉ・・・わだじ・・・なにざれだんでずが?」
声が、まだ正常ではないが・・・。
「お前は、首を切られたのよ」
「どおやっで?」
「・・・えーっと、つまり・・・お前の『戦闘』をまるごと『斬り殺した』のよ」
「へぁ?」
あー、説明するの難しいんだよなぁ・・・。
「んっはっはっはっは! ネフェルマリーよッ? 説明が下手ッ!」
刀を鞘に納めつつ、大笑いしやがって・・・。
「うるさいな! おまえの『権能』は説明が難しいんだよッ!」
ルキスロッコがニヤニヤとした様子で、さらに言う。
「そりゃ難しく考え過ぎているからなッ・・・ま、だからとて教えてやる義理もないッ」
「むむむむむ・・・」
本人は簡単な考え方と視点を持つだけで理解可能としているが、仕組みを理解するまでが難しい。
それこそが、ルキスロッコのチート染みた『権能』なんだけどね。
「さて、自己紹介の代わりにはなったろ? あたしは、先方に挨拶をしてこようかねッ・・・と、なんで首を切られたか?っは、 しっかり考えなッ! んっはっはっはっは!」
・・・チートシードの回収。無事にできるかなぁ?
うぅぅ・・・胃が、痛くなってきた・・・気がする。
次回は、牧場に戻ったマリーと、帰りを待っていたウィッチのお話を予定しています。
次の【壺外編】は、未定です。
あと、敵キャラが歌っていたのは、お恥ずかしい限りですが・・・私が考えた歌詞です。
≪勇気愛情のペルソナ。半分に割ったハートマーク≫と言う感じなのですが、この一文だけで続きが何も考え付きませんでした。歌詞って難しいです。
既存の歌に同じ歌詞があった場合は、その部分を削除して≪音痴な歌声≫と、対応したいと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




