54 ――VS ノイズ
こんにちは。こんばんは。
今回のお話は、道標人視点になっております。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
〈うっひゃーッ! 倒したぞーぃいえーいッ!〉
アライラー殿が大変嬉しそうにしておりますが、倒したのはクレイセンゼイマムのみであり・・・まだ残っている敵がおります。
「ルッタ! ルッタ! 呼びかけに反応は無いけれど、脈と呼吸はある・・・気絶しているだけか?」
マリー殿が苦々しい顔で、主殿の治療を継続してくださっている。
その手際を見れば、このまま任せておいて問題ないことは分かるため、私がここよりするべき事はただ一つだけのようだ。
ただ、このまますべてをマリー殿に任せるだけではいけませんね。
「マリー殿。これよりさらなる血液の噴出などが起こるようであれば、こちらのミニ地獄変を包帯として、今の包帯の上から重ねて巻いてください」
「・・・ええ。助かるわ。ありがとう」
私が追加召喚したミニ地獄変をマリー殿が受け取り、私がこれからすることに気が付いた様子で主殿の治療へ意識を戻していく。
さすがですね。
それにしても・・・よもや『地獄煉』に到達するとは・・・前例がない。ということはありませんが、かなり稀なケースとなる。
技に技を組み合わせ、詠唱にて昇華させていくのも確かな手順の一つだが・・・普通、戦闘中にすることではない。そのような時間を捻出することなど、普通は得られないもの。
だからこそ、色々と同時に処理して一気に『技』を発動することが重要なのだが、主殿はそれをやってのけているから大したものよ。
アライラー殿や、巨大道人のような戦力があればこそ。とも言えるか?
いずれにせよ・・・このような常識外れのダンジョンにて、モンスターと戦わせること自体が異常でしかない・・・邪神の考えと言うよりは、かの魔女の謀か・・・。
まぁ、この【災厄の壺】は、現状の地獄において、ぜひとも導入したい修行場でありますが・・・仮にこのダンジョンへ精鋭を連れて来たとしても、一週間は生き延びられますまい。
十王たちならば?
・・・いや、現在は言うに及ばず。最盛期とも言える頃であっても、最下層まで行けるか? 主殿が到達した時に、その情報を得られれば分かることか。
そもそも、此処はまるで・・・。
「それで? これよりいかがされますか?」
主殿が目を覚ましたのか?と思いましたが、どうやら巨大道人が喋ったようだ。
〈どう?って言われてもねー〉
アライラー殿が悩み始めますが・・・マリー殿は主殿の治療に集中しているため、私が一瞥すると頷き返すだけ・・・。
「いずれにせよ。残りの敵を倒さねば、ここより出ることは叶いますまい」
そう、まだ『勝った』と言うには早すぎるのです。
〈お地蔵さん・・・今の、どっちのお地蔵さん?〉
・・・うーむ。
「そうですね。私と道標人では声は同じで喋り方も似ていますから、分かり辛いですね」
「ううむ・・・とはいえ、喋り方を変えるのも今さらですし・・・では、ここより私が話を進めますので、巨大道人はしばし待っていただく。で? よろしいかな?」
「構いません。あとをお任せします」
〈・・・いや、マジでどっちが喋ってんのか分からんわぃ!!〉
まぁ、どちらも主殿によって、地蔵菩薩像をモデルに召喚されている身ですからね。
基本的な部分は主殿のコピーでもありますから、むしろ声が主殿と違っていたらオカシイまでありますし・・・。
声変わり後の声は、まだ幼子たる主殿に情報がありませぬし、前世の声変わりした声・・・は、情報こそあれど、前は前。今は今。という主殿のキッパリとした区切り方で使う事はできませぬ。
というか、主殿の記憶を読み取ると、異世界転生事態を拒んでいる様子でしたし・・・意外にも、そういう所はアッサリしているようだ。
・・・まぁ、そういう考えをする理由もあるようで。
〈そんでー? 残りの敵って?〉
「ノイズですよ」
・・・。
何か反応があると思っていたのですが、アライラー殿から特にない?
〈・・・は? 今さっき倒したやんけ?〉
私の言葉を理解しかねていましたか・・・。
「先ほど倒したのは、クレイセンゼイマムです。御覧なさい。かの機械天使は確かにスクラップとなりましたが、テレビの砂嵐みたいなモノが液状となって足元に流れ落ちているでしょう?」
〈ちょっと私からは見えんねん! 視点高すぎーッ!〉
あー。
そうでしたね・・・巨大道人の帽子みたいになっているわけですし、そこから真下を見ろ。と、言われても見るのは至難と言えましょう。
「巨大道人。ゆっくりと後退してください」
私の指示を受け、巨大道人はゆっくりと後退を開始して『地獄煉・巻蛇転刃斬鎖槍』を引っこ抜きながらクレイセンゼイマムより離れる。
未だにクレイセンゼイマムの槍が、巨大道人の胸に刺さったままであるが・・・ムリに引き抜く必要もあるまい。
ある程度まで離れると・・・。
〈あ、見えた! うっわ、マジでノイズの水溜まりっぽいのが出来てるやん!〉
「アレを処理します。ここからは私の仕事となりますゆえ、アライラー殿は邪眼にていつでも自衛できるよう緊張を維持してください」
〈だいじょーぶ! ずっと緊張しっぱなし!〉
嘘だー。絶対に嘘だー。
勝ったと思って油断しているのは明白ですよ・・・まったく。
〈んじゃ、出る時は言って! 腰を浮かせる・・・腰?を浮かせるからさー〉
・・・確かに、椅子に座っているならば、腰を浮かせる。というのは間違いではないでしょうが、蜘蛛である今の彼女が体を少し浮かせる場合、なんと言うのが正解なのか?
腰?と疑問になるのもわかりますね。
「大丈夫ですよ。むしろ、隙間を作らないでください・・・ノイズが一瞬の隙を突いて来る可能性は十分です」
〈え? でも、それじゃあどうやって外に出るん?〉
私は、そして正面に貼り付けられている壁紙モニターの地獄変へと前進し、そうしてその中へと入った。
〈おーい? お地蔵さん?〉
中の様子は、彼女には見えませぬからね。
私が、壁紙モニターと化している地獄変を通じて、巨大道人の口より外へ出たことに気が付いていない様子。
巨大道人の開いた口から、私は唇の上に足を置いて身を乗り出す。
「大丈夫です。すでに外へ出ましたので」
〈んえ!? イリュージョン!!〉
最初に吹き付けるは、身を焦がすほどの熱波。
先の戦闘にて、両者の推進力による燃焼とビームの熱量と、大爆発の影響によるものでしょう。人間が外に出ようものなら、身体が発火して「あっ」と言う間も無く炭と化すでしょうな。
しかし、私の身体は地獄石で出来ておりますので、この程度の熱では変色などしません。
「ま、ま、ま、まー・・・だだよー」
巨大道人より、私が下りて行くのとほぼ同時に、液状化していたノイズが一所に集合して人の形に自身を作り上げていく。
そうして、発声練習をするかの如く・・・まーだだよー。ですか・・・。
「どうも、初めまして。先ほど相手をしていた方とは別の者にございます」
「は、は、は、はじ、はじめー、ましてー」
合掌からの一礼をすると、真似するように一礼してくる。
「さて、これより行いますは、あなたを地獄へとお送りいたしたく思っております」
「じ、ご、く?」
・・・雰囲気が、変わった。
「か、み、は! わ、れ、ら、を、おみ、す、て、に、なら、れたッ!!」
「ゆえの・・・【神殺し】ですか?」
「む、ね、ん、なり! か、み、の、お役に、立てぬ、われ、らの、不甲斐なさ! 悔しさ! そ、して!」
ノイズは、顔を形作る。
テレビの砂嵐を歪めて、目を作り、鼻を象り、口を開く。
「救いをくださらなかった! この恨みを!! 悪なる我らの神に捧ぐ!!!!」
・・・む!?
私は頭上にて影がチラついたために確認をするべく顔を上に向ける。
するとどうだ? クレイセンゼイマムの残骸から装甲や機械が飛礫となって私に襲い掛かって来た。
「地獄能・巻蛇傘盾壁鎖槍」
地獄門・縛鎖閻魔錠と地獄道・地蔵菩薩錫杖術を掛け合わせた防御重視の技。
コレを作って、傘として展開することで、頭上より降ってきた飛礫を防ぎ、受け流した。が、私は軽いバックステップにて、この場より飛び退くこととする。
この残骸の飛礫は、まだ終わりでは無いようだ。
「大人しく、地獄へ送られてはもらえませぬか?」
「こ、と、わ、る!! この、恨み、晴らさず、して、死ねるもの、かッ!!!」
ならば、仕方ありますまい。
「で、あるならば! そなたらの【神殺し】たる『大罪』は看過できませぬゆえ・・・相応に対処させていただくこととする!」
右手に傘を持ち、私は左手を袖の中へと引っ込める。
そして・・・。
「地獄葬・縛魂石珠結毘環」
紐のように細い縛鎖閻魔錠で複数の石の珠を繋いだ道具・・・簡単に言えば『石の数珠』を取り出す。
錫杖を鳴らし、数珠を構え、私は素早く足で『韻』を踏む。
「地獄門・縛鎖閻魔錠」
ノイズの足元より、錠の頭に鎖の身体をした蛇が複数体飛び出すと、ノイズを拘束するべく巻き付いていく。
「纏い業火」
鎖より業火を燃やして、かの魂を拘束と同時に焼いていく。
「ぎゃああああああああああああがッ!!!」
バシャア。という勢いで液状化したノイズは、そして閻魔錠から脱出すると地面を高速移動して私から離れ、そうして再び人の形を取り直す。
これに続けて、クレイセンゼイマムの残骸からさらに装甲や機械が飛び出してくる。と、今度は飛礫となって私を襲うのではなく、自身に向けて集め始める。
「なるほど、自らの装備とするか」
見る見るうちに、人の形をしたノイズが機械天使の姿を再現していく。
サイズが変わっただけで、先の戦いを再現しよう。ということか? 勝つための道筋を立てているのだろうか?
「ここからが、本番だ!!」
「受けて立ちましょう!」
小さなクレイセンゼイマムと化したノイズは、そして爆音を響かせながら地を蹴り砕くようにして駆け出すと、高速へと瞬時に到達して突進してくる。
その右手には円錐形の刃を持つ槍を。
その左手には円盤状の大きな盾を。
「ざあああああああああああああ!!」
「地獄門・地蔵合掌壁」
突進してくるノイズの進路を塞ぐようにして、私の姿を隠せるサイズの地蔵合掌壁を召喚する。これに『石の数珠』を投げて連動させた。
「地獄能・地蔵合掌縛魂壁」
ノイズは、その槍を構わず合掌壁へと突き出した。
奴の攻撃力ならば、壁を砕くなど容易だろう。さほどの障害にもならぬと判断すればこその攻撃だ。が、槍による攻撃で壁がダメージを受けたと同時に、地獄能を発動。
石の数珠が、蛇のごとく身を伸ばして槍へと絡みつき、ノイズの腕へと巻き付きながら走って体へと数珠を届かせる。
「拘束!」
数珠が業火を灯すと同時に、ノイズが纏うクレイセンゼイマムを再現した鎧を砕きながら体を絞め上げて縛り拘束した。
「合掌壁よ! かの魂を包み潰せ!」
合掌された石像の手が離れ、腕が動いてノイズを包むように手で挟む。
「う、うごか・・・な・・・」
「魂を縛る術は、怨霊たるそなたを地獄へ送るための拘束具である。地獄葬にて、この世を去るがよい」
錫杖を鳴らした。
同時に、ノイズを包んだ手から業火が噴き上がって、魂を焼き、地獄へと・・・ムリか。
「ざああああああああああああああああああああああああッ!!!」
無数のノイズ色に光る腕が、合掌壁による包みを破壊して飛び出してきた。
それらが宙にて迷走をしていると見れば、しかし、すぐに手の平がこちらへと向く。
「四象の理に、我らの無念を込めて、命ずる!!!」
・・・詠唱?
無数の手に、魔法術における人間が使う基本属性『火』『水』『風』『土』が発生すると、それらが一斉に私と・・・そしてノイズを包む合掌壁目掛けて放たれる。
これほどの攻撃量を、この場で捌くのは難しい。一度、退くしかあるまいな。
「我らの無念を、軽んじるな!」
「軽んじてなどいませぬ・・・むしろ、一番に重要なことですゆえ・・・削がねばならぬのですよ」
今のは、魔法術だ。
主殿の知識を参照するならば、この世界の魔法術は『命ずる』が詠唱に入る。
おそらく、悪なる神に造られた人間だった彼らも、この世界の魔法術ルールに則っているのだろう。そのための力を『無念を込めて』というのが、なんとも・・・。
彼らは、相当に恨み憎しみを抱えているというわけか。
「しかし、それほどの数・・・私の二本腕では足りませぬな」
それに、この道標人は地獄煉はおろか、地獄葬にも届いていない段階で召喚された身体であるため、先に地獄葬を使っただけで身体にはヒビが入っている。
・・・このままでは、身体が持たぬ。
この状況に対処する術は・・・。
「巨大道人! 地獄煉を投げてください!」
「かしこまりました」
〈え!? 武器なんかどうすんの!?〉
アライラー殿が驚きに声を上げている中、巨大道人は指示通りに『地獄煉・巻蛇転刃斬鎖槍』をこちらに向けて投擲してくれる。
「私を、アップデートするのですッ!」
〈おー。なーるほどーッ〉
そ、それで納得するのも、なかなかどうして・・・。
いや、今はそれを気にしている時間も、思考を割く場合でもない。
「地獄変!」
この手に、新たな地獄変を召喚し・・・封を解いて投げられた地獄煉へと投げる。
だが、当然のようにノイズが投擲された地獄煉に反応して、そちらへ進路を変更しつつ魔法術の詠唱をし始める。
「四象の理に、我が無念を込めて、命ずる!」
四つの属性を無数の手に出現させ、これらを束ねつつ捩じっていく。それは、まるでドリルのごとく。
「ええい! 地獄門・地蔵合掌城塞壁ッ!!」
「ドリリング・ドライバーッ!!」
やはりか!
四つの属性がドリル状に束ねられた魔法術を、主殿が放ったドリリング・ドライバーを真似て放つ。その利便性を理解しているとは。
ノイズの前方に、城塞規模の地蔵合掌壁を出現させて四属性を束ねた魔法術ドリリング・ドライバーを白刃取りするように受け止めつつ、両の掌が削り砕かれる前に鷲掴みさせることで握りつぶしに掛かる。
止め切れずとも、これで時間を稼げるために、私は急いだ。
こちらに投擲された地獄煉へと投げた地獄変が接触すると、巻物が蛇のごとく動いて巻き付いていくと、包帯のように全体を包み込んでいく。
そして、巻物に記された文字が業火に燃え上がると、地獄煉と共鳴して槍を燃やして融かし、ドロドロと墨に呑まれて虹色に光る文字と化す。
・・・アライラー殿の影響が残っているようだ。
自動で巻物が閉じられていくところに石の数珠を投げて絡め捕り、回収する。
「地獄道・地蔵菩薩道標人。状態更新!」
私は口を開いて、地獄変を挿入する・・・いわば、丸呑みですが、別に呑み込んだわけではありません。
地獄葬でヒビの入っていた身体から、業火が噴き上がるとヒビが消えてくれる。
さらに頭身も上がったようで、視線が高くなった。これはよい。もしかしたら、身体が成長したのやもしれぬ。
そう思って自分の状態を確認してみたが・・・単純に、造形はそのままでサイズアップしただけだった・・・ちょっとこう、青年くらいの体形を得られるかも?と期待したが・・・はは。
「ざあああああああ!!」
ノイズの声が響くと、城塞壁が破裂するように砕かれて石礫が撒き散らされる。
クレイセンゼイマムの鎧に身を包むノイズの姿は、機械天使とは程遠い禍々しい異形へと鳴り果てていた。
推進器である背後の装置からは、無数の腕が伸び出ていることからも・・・そこに天使はおろか、人間的な印象すら失われている。
「こ、ろ、す」
無数の手で魔法術を同時発動させると、先に作ったドリリング・ドライバー。魔法術による四属性を束ねたそれを複数作り出して、撃ちだすのではなく、腕を触手のごとく振るって攻撃に転じた。
避け、払い、転がり、叩き、流して飛び退く。
地獄煉を取り込んだことにより、私の・・・道標人の性能は向上した。
運動性能も上がっているために、回避すること自体は難しい事ではなくなったものの、敵の手数が多いために反撃へと転じることができない。
「地獄道・地蔵菩薩大道人。六人」
地面に錫杖を突き立てて、この状況を打破するべく増援を召喚する。
「石像、を!」
六人の大道人が地上へと飛び出してくると、私を狙っていた攻撃の全てを六人の大道人へ向け直し、一気に潰しにかかる。
「それを予想していないとでも!?」
私は、大道人たちの頭上へと数珠を投げた。
「「「「「「地の深淵に、我が力を以て求める!」」」」」」
六人の大道人が声を揃えると同時に、錫杖が鳴る。
その六人分の魔力を使い、私は技を発動した。
「地獄葬・六間縛魂削錠鎖陣障壁!!」
石の数珠が、その珠を増やして六角形の陣を描くと、六角形の線をなぞるように回転を始めて、ノイズのドリリング・ドライバーによる攻撃を受ける。
そして、数珠の回転によってノイズ式ドリリング・ドライバーを削り、無力化していった。
「この!」
ノイズの怒声と共に、ドリリング・ドライバーが一度引き戻される。
このタイミングだ。
「今です! 大道人たちよ!」
「「「「「「応ッ! 六像合身ッ!!!!!!」」」」」」
主殿の記憶に、アライラー殿の発案した『六像がっしん。ゴッド・アライラー』というモノがある。それがどういうものであるのか?は、私にも予想が出来ませぬが・・・六人の大道人を合身・・・つまりは一つに合体するという事は、なんとなく察する事が出来る。
つまり、阿修羅像のごとく・・・手足を増やすのだ。
「地獄葬・地蔵菩薩道標人・修羅ッ!!」
〈ぅおおおおお!! 六像がっしん!!!って、ダッサ!!! なんやねんそれーッ!〉
ええ・・ダサいって、これはアライラー殿の案でございましょうに。
六人の地蔵を合身させる。すなわち、手足を増やして手数を増やすということなのでは?
〈お地蔵さーん! るっちゃんが目を覚ます前にケリをつけるんだ! 絶対にキレるってばよーッ!!〉
・・・確かに。
今の私は、頭に私自身を含めて七人分の顔があり、背中に六人分の腕が生え、腰より六人分の脚が生えている状態・・・。
「道標人。この合体は失敗です!」
「腕が多過ぎるくせに、背中に集中して生えているせいで、腕が動くとぶつかってしまいます!」
「腰より生えた足も重すぎて、バランスを取るのが難しいかと!」
「数を減らすべきでしょう!」
「提案ですが、腕を三人分、足を三人分残して統合し、補強する方がよろしいかと!」
「目と鼻と口も、六人分残す必要はありません。こちらも視力強化や嗅覚強化に聴覚強化などの補強に回す方がよいと思われます!」
おや? なかなか優秀な子たちですね。
「採用します! 形態修正!!」
「修羅。改め、地獄葬・地蔵菩薩道標人・阿修羅!!」
〈阿修羅を名乗るなら、あと一人分は余計じゃねーんッ!?〉
そこは見て見ぬふりにてお願い申し上げたい。
さすがに、これ以上の状態修正を行っている時間はない。三人分の目と鼻と口は頭に残し、腕と脚も同様に。
そして、一人分の手に『地獄能・巻蛇槍貫撃』を持たせ、一人分の手に『地獄能・巻蛇傘盾壁鎖槍』を持たせ、一人分の手に『地獄葬・縛魂石珠結毘環』を持たせる。
本体たる私は錫杖を右手に、数珠を左手に持ち、臨機応変に敵の攻撃へ対処できるよう構えた。
「ざああああ!!! 手足が増えたところで!!!!」
「おぬしがそれを申すなッ!!」
魔法術ドリリング・ドライバーにて私を追撃するノイズに、私は逃げるのではなく正面より飛び込んでいく。
背より生えたる二本の槍と、二本の傘で魔法術ドリリング・ドライバーを迎撃する。
その一方で、正面にてヤツが構えているクレイセンゼイマムの槍を模した武器が突かれるので、数珠を振るって絡めた。
数珠を持たせた背の腕にて、素早く『印』を結び、腰より生える足で素早く『韻』を踏み、技を叫ぶ。
「地獄葬・砕魂壊浄散界焼石ッ!!」
絡めた数珠より業火が噴き上がり、数珠の一つ一つが鉄を融解させる熱量にて魂を砕き壊す。これにて汚れを散らしつつ浄化し、焼却していくのである。
が、クレイセンゼイマムの装甲は頑丈であった。
主殿が、アレを破壊するために『地獄煉』を使うのも理解できる。
「ざあああ!! 四象の理に、我らの無念を込めて、命ずる!!」
「地の深淵に、我が慈悲を以て説き申す!」
魔法術ドリリング・ドライバーを追加してくるか?と思うたが、四つの糸を束ねて捩じる事で綱を作り出し、コレを鞭のようにして振るい攻撃してくる。
傘にてコレを受け流し、反撃を・・・と、鞭のように振るわれ襲い来る綱と、傘が接触すると、瞬く間に傘を構成する鎖が劣化して砂のように崩れ出した。
四属性による過干渉で、鎖を劣化させたということか?
ええい。地球の科学には疎い上に、主殿もそこまで知識は無いようだ。分かることと言えば、地獄石が砂のように崩れてしまった。ということ。
これに対応する技を使わねばならぬが・・・いや、今はさらなる優位を得ることが先であろう。
ノイズの攻撃を避けながらとなるが、阿修羅となったのは『地獄場』を展開するためでもあるのだから、泣き言は言っていられぬよ。
「底に起きるは罰の土。削り悼むは積みの果て。盛る業火は揺らめき光る。其の者縛るは獄の鎖錠」
錫杖を振るい『音』を鳴らし『印』を結んで『韻』を踏む。
「我は地獄の使者なりて! この地に喚ぶは刑の端! 是にてその罪、悔い改めよッ!!」
詠唱しつつ『地獄変』を新たに六つほど召喚し、コレを六方向へと投げていく。ヤツに邪魔されぬように業火を纏わせ守りつつだ。
「地獄場・悼土罰削業火鎖錠界」
六方向へと投げた『地獄変』の封が解かれ、紙を広げながら地に軸棒を突き立てる。そして六つ分の『地獄変』を一つにまとめた私の背丈ほどになる『巨大な地獄変』を召喚して、私の足元へと突き立てて、強引に地に押し込んだ。
巻物が地を砕き、地獄の大地を再現するべく耕し整えて『地獄門・縛鎖閻魔錠』が表層を駆け巡って足場を埋め尽くしていく。
そうして鎖を地に敷き終えると、発進する列車のごとくゆっくりと動き出し、鎖は地獄場の範囲を回り始める。
鎖が業火を噴射して、ノイズを襲う。
「こ、れ、は!?」
「言わば、業火のメリーゴーラウンドッ!」
動く鎖の上を走り、ノイズへと攻勢に出る。
地獄場とは、すなわち結界術の類。
ノイズとの戦闘を私の優位に進めていくべく展開した技であるが、地獄煉で多少の強化をしたとはいえ、この道標人では長時間の維持は不可能。
これにて『地獄殿』を叩きこむ『間』を作らねばッ。
「鎖よ! ドリリング・ニードルッ!!」
ノイズの足元より、地に敷き詰められる鎖から新たな鎖が生え出して、コレがドリリング・ドライバーの形に巻かれると、その刃が針のごとく細く伸びて襲う。
「ぐッ」
奇襲を仕掛けたが、見事な反応でニードルの一つを槍にて逸らされた。
「まだまだ!!」
「ちぃ!」
一気に畳み掛けるべく、足元よりドリリング・ニードルにて続々と攻撃を行う。さながら、針山地獄のように、周囲は針が山を成していく。
「ざあああああ!!!」
クレイセンゼイマムの残骸が結界を越えて飛来する。
どうやってこの『地獄場』へと入れたのか?と思ったが、迂闊なり。クレイセンゼイマムの残骸を結界内に入れていた。
避けるべきだったが、まるで意識に無かったようだ・・・ええぃ。
飛来する残骸を無数の腕に纏わせ、円盤盾を作り上げる。と、円盤盾と円盤盾を組み合わせて、魔法術による刃を生成して盾ごと回転させた。
その触手のごとき腕を鞭のように振るい、尖端となる円盤盾が鎖を破壊しながら私へ襲い掛かってくる。
「まるでヨーヨーかッ!」
馬鹿正直に受け止めることはしない。
同じく、受け流すようなこともしない。
回避。ただこれ一択で、盾ヨーヨーを避けると・・・魔法術で作ったドリリング・ドライバー・モドキで追撃してくる。
傘で受け流し、私は着地と共にノイズへと駆ける。
「地獄能・地蔵合掌鎖腕削動撃」
地獄門・縛鎖閻魔錠を束ねて腕を作りあげ、この鎖で作った両の手を合掌させてノイズを挟む。直後に、腕を形成する鎖が動き、さながらチェーンソーのように挟み潰している対象を削り刻む。
鎖同士もぶつかることで、火花が腕のあちらこちらから散る中で・・・激しい切削音が響き渡る。
「さらに! 纏い業火!!」
ノイズを削り潰しにかかる鎖の腕から業火が噴き出してさらなる追撃を掛ける。
しかし、次の瞬間には鎖の腕が高熱量のビームによって融解して、大穴を開けられると共にノイズが飛び出して来た。
その盾より、クレイセンゼイマムがビームを使う際に文様のようなモノが光っていたが、それと同じ文様が光を失っていく様子が見えたことから、アライラー殿のバスター・ビーム改と同等のビームで突破された事を理解する。
「そなた、ビームまで使えるのかッ!?」
「ざあああああああああああああッ」
いつの間にか、盾と盾を組み合わせた盾ヨーヨーの数が増えており、四属性魔法術を束ねたドリリング・ドライバー・モドキも数が増えている。
地獄場の展開で、優位を得たと思ったが・・・そうは上手く行かぬようだ。
私はノイズに向けて距離を詰める。
ノイズも私との距離を詰める。
そうして、互いの槍をぶつけ合い、互いに盾と傘をぶつけ合い、無数の触手腕から放たれるドリリング・ドライバー・モドキと盾ヨーヨーの攻撃を、私の増設した腕に装備する槍と傘と数珠・・・そして、地獄場にて展開している鎖を用いて、技を繰り返し放つ。
「地獄能・転鎖倒刃業火掌」
「おおおおおおおおおおお」
「地獄能・巻蛇傘槍掘削撃」
「ががががががががががが」
「地獄葬・爆石壊殻結毘環」
「ざざざざざざざざざざざ」
地獄場という私を優位にしてくれるはずの結界内で、間髪入れずに技を連発しているというのに、これら全てを見事に捌いて来る。
幾度目となる攻防より、ノイズは跳ねるように飛び退いて私との距離を取る。
と、ヨーヨーにして振り回していた盾を分解し、それらを並べてこちらに向けると・・・それらすべての盾が光を放つ。
〈んぎゃ!? アレはッ! 八連邪眼バスター・ビームの構え!!〉
「それをも真似るか!!」
今から距離を詰めても間に合わぬ。
「一点集束! 我らの無念をここにッ!」
「地獄能・地蔵合掌鎖腕障壁ッ! 六壁ッ!!」
複数の盾ビームが、一点集束されて強力なビーム攻撃となり私を襲う。
コレに対抗するべく、地獄場に敷き詰められた鎖を束ねて合掌壁を作り上げ、障壁として六つ展開した・・・が、ビームはアッサリと障壁を呑み込んで直進する。
「だが! 地蔵合掌鎖腕障壁、改め! 地蔵合掌鎖腕爆壁ッ!! 発破ッ!!!」
我が身を槍を突き出しつつ傘を前面に向けて防御姿勢を取り、一点集束された盾ビームから耐えている間に、先に展開してさほどの意味もなさない障壁を発破する。
六つの鎖腕障壁は、鎖腕爆壁となって一斉爆破。
この爆発でビームを内側から周囲へと吹き飛ばし、散らす・・・同時に、私は駆けた。
「ざ!?」
爆発による衝撃に耐えるように、姿勢を低くしているノイズ。
周囲へと広がっていく煙を突っ切って、私が二本の槍を突きながら二本の傘を横薙ぎに振るって、『突き』と『斬る』の二重攻撃で強襲を掛ける。
対して、ノイズは私の上へと跳び上がって槍を私に向けた。
「掛かった! 地獄葬・鎖弾爆撃機関砲陣」
瞬間、地獄場からランダムなれど複数個所から一斉に鎖が発射され、中空へと跳び上がっているノイズに命中する。
着弾時に、鎖は炸裂してノイズを攻撃する。
コレが地獄場より絶えず下方全周囲から射撃され続けることで、爆発により降りる事も叶わず連続炸裂で武装も身も削る。
何かを叫んでいるかも分からぬが、この隙を逃す手は―――ッ!?
「まぁぁあああだだぁよぉぉおおおおおッ!!!」
なんと、ヨーヨーにしていた盾も、槍も、それらを分解して円盤状の盾にすると、自分の身を包む殻のように構え出す。
直後に、その全てが盾ビームのように光輝いて・・・。
「まさかッ!」
下方よりノイズ目掛けて全周囲から鎖の爆弾を射出する私に対し、ノイズもまた自らをミラーボールのようにして、小さなビーム弾を撒くように射出し始める。
鎖とビームの相殺合戦は、そうしてあちらこちらで連続した爆発を引き起こしていく。
「ぅぐッ!」
立て続けに起こる爆発を避ける事が出来ず、私もまた吹き飛ばされて転げまわることとなった。
「で、あるならば!」
地獄変を召喚して地獄場に差し込みつつ、錫杖を振りつつ手で『印』を結び、足で『韻』を踏んで技のさらなる実行を進める。
「地獄場、改め!! 地獄牢・悼土罰削業火爆鎖錠界!」
結界として展開される地獄場を、ミラーボールのような姿になってビームを撒き散らすヤツのみを包み覆う牢として再構築。
ビームと鎖爆弾の炸裂合戦を牢として包む込み、好きなだけ爆裂祭りに身を焼き焦がしてもらう事とする。
「・・・この隙が、最後の好機なり」
私は再び錫杖振って『音』を響かせ、手で『印』を結び、足で『韻』を踏む。
「形態変更。地獄葬・地蔵菩薩道標人・金剛」
阿修羅のごとく、複数の顔に腕と足を生やしていた身体を、元の地蔵へと集約させ、代わりに強度を可能な限り高める形態である。
・・・これであっても『地獄殿』を扱えるかは、大博打だ。
右の錫杖を地に突き立ててから手放し、左手に持つ数珠を袖に引っ込める。
そうして左右の手に何も持たぬまま、静かに合掌する。
「地の深淵に・・・我が 裁定 の認可を、求める」
「現、在る憎悪に罪を問う。」
合掌する左右の手をゆっくりと離しつつ、これまでとは異なる『地獄変』を召喚する。
「不浄の無念を抱えし者よ。未練を抱えて眠れぬ者よ。」
召喚された『地獄変』の封は解かれ、ゆっくりと回転しながら紙を広げていくと、記された文字が業火に燃えながら輝き・・・紙が地に着くと水面のように波紋を広げながら地中へと沈んで行く。
「亡き世に留まる事なかれ。命は輪に乗り廻るモノ。想いは継へと託すモノ。」
カラカラ。と、カラカラ。と、『地獄変』という巻物は薄くなっていき・・・。
「我は閻魔の代行者。」
そうして巻物の軸棒だけを残して、紙は地の底へと沈み消える。
「此処にて裁きを定めよう。我が手に来たれッ! 閻魔の判子ッ!!」
残る軸棒を縦に構え、業火に燃え上がる軸棒が伸びると地に突き刺さる。そうして、何かと噛み合ったかの如く『ガチャン』という音を立てて・・・同時に、軸棒を中心に六方向へ亀裂が走った。
―――『裁定。承認』―――
「地獄殿・閻魔裁定判子ッ!!」
地に突き立てた棒を引き抜くようにして持ち上げる時、地中より岩塊が共に飛び出してくる。
その重量を活用して振り子のように振るいながら、某を手の平で滑らせるように回転させ、岩塊を空高くに掲げるようにして持ち上げる。
「判決ッ! 地獄往きッ!!」
掲げた岩塊を亀裂が埋め尽くすように生じて、業火が噴き上がると・・・地獄往き。と私が宣言したと同時に、岩塊は砕けて巨大な判子が姿を見せる。
閻魔大王が使う道具ゆえに、こうしてハンマーのようにしなければ振るえないのが問題か。
いつまでも掲げていられるような重量でもないために、ハンマーの柄となった軸棒を手の中で滑らせて、柄頭を地に降ろして支えにする。
同時に、先に六方向へと走った亀裂から業火が噴き上がり、私の身体に纏われることで閻魔大王の冠とマントを模した業火の装飾が装備された。
これにて、閻魔の代行者たる準備は整った。
しかし・・・直後に私の身体には亀裂が生じていく・・・準備が整って数秒もせずに、身体が砕け散ってしまいそうだ。
「ええい・・・やはり地獄煉レベルでは・・・」
歯を食い縛るも、道標人の身体はどんどん亀裂に塗れていく。
「ざあああああああああああああああああああああああ」
地獄牢が膨張するように膨れ上がり、同時に赤熱から白色化して破裂するように融解すると、その中から落ちて来るのは小さなクレイセンゼイマムと化したノイズである。
ヤツを閉じ込めていた地獄牢は、そうして力を失い崩れ落ちていく。
「こ、ん、ど、は、か、つ」
見れば、ノイズは先のクレイセンゼイマムと同様に槍と盾を一体化しており、マリー殿の言う戦闘天使の最大必殺技『一投』という形態を再現している。
圧倒的な破壊のエネルギーを込めた一撃・・・アレで地獄牢を突破してきたわけか・・・。
「・・・もはや、勝ち負けなど無いぞ?」
「か、つッ!!!」
駆けた。
私とノイズ・・・特に何を合図にしたわけでもなく、我々は駆けだしていた。
ハンマーである以上、振り上げて、振り下ろす。その動作があるため、槍との一騎打ちは分が悪い。おそらくは、私がハンマーを振り下ろすよりも早く、槍は私の身体を破壊するだろう。
しかし、このハンマーは奴に触れれば、それで地獄往きとなる・・・なんとしても、相打ちに持ち込まねば、主殿たちが危険だ。
間合いに入った。
「其の魂に、救済をッ!!」
振り上げた閻魔裁定判子を、力の限り振り下ろす。
ごぉぉぉぉぉぉぉざぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ
「ッ!?」
耳を破壊するような轟音と共に、ノイズが放った『一投』による一突きは、私の身体ではなく閻魔裁定判子と激突している。
・・・まさか!?
先のクレイセンゼイマムと巨大道人の戦いにて、敗北したのは武器を先に破壊しなかったから。と判断したのか!?
確かに、地獄煉・巻蛇転刃斬鎖槍を破壊していれば、ヤツにも勝ちの目はあっただろうが・・・。
ノイズは【神殺し】化により、『大罪』を得ている存在。
私が振るう『地獄殿・閻魔裁定判子』は、罪人を裁定するための判子。
よって、奴の使うあらゆる攻撃は・・・。
がががががががががががッ
ノイズが再現した『一投』は、そして業火に包まれながら砕けて炭化していくと・・・そのままノイズが纏うクレイセンゼイマムを模した鎧を砕きながらヤツを地に叩き伏せた。
同時に、ヤツを地の底へと落とす地獄への路は開かれ、どのような生者も死後へと送る絶対にして理不尽なる裁きは下される。
「まぁぁぁあぁあぁぁあああ」
ノイズの絶叫と、そして背中より伸びる無数の腕が、大地を掴む。
「ええぃ! 往生際の悪い!!」
よもや、こんな方法で地獄往きに抗うとは・・・ありきたりにも思うが、いざやられると意表を突かれた。
いかん。
私の身体が・・・持たぬ・・・。
「おっしゃーッ! 久々の大道人・アライラーッ登場ッ!!」
はぁ!?
アライラー殿の声を聞き、私はそちらに視線を向ける。と、巨大道人がアライラー殿の声音で雄たけびを上げながらこちらに走ってくるではないか。
「なにを!?」
「お地蔵さんの援護をして欲しいってお地蔵さんに言われたから! やるぜーッ!!」
そう答えつつ、力の限り飛び上がる。
「八連邪眼ッ! エントリーッ!! 」
予想よりも遥かに高く飛び上がる巨大道人のままの大道人・アライラー・・・つまりは、アライラー殿が操作している巨大道人ということだが。
その大道人・アライラーが・・・飛び蹴り・・・を放って、こちらへと迫ってくる。
「くぅぅらええええッ!! 邪眼究極奥義! 超特急で地獄に送ってやるぜきぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅ」
・・・えぇ。
思わず脱力してしまいそうな技名であるが、その勢いで『地獄殿・閻魔裁定判子」を踏みつぶし、ノイズを踏み潰して地獄往きの路へと強引に押し込んでくれる。
ハンマーの柄は折れ、私は投げ出されていた。
「んあー? あ、足が抜けないんですがー?」
ノイズの姿は失せた。
往生際に抗っていた腕も、地獄へ共に落ちられなかった分は業火に焼かれて散っていく。
「路は閉じました。巨大道人の脚は、残念ながらノイズと共に地獄へ落ちましたよ」
「え!? あ、ホントだ。あっさり抜けた」
太ももの半ば辺りまで地に埋まっていたものの、地獄往きの路が閉じたことで切断されたのでしょう。
巨大道人が脚を確認するように覗き込んでいる。
〈足が無くなっちゃったけど・・・あれ? 大道人・アライラーが解除されてる!?〉
「緊急事態ゆえの措置ですので・・・あ、とりあえず、クレイセンゼイマムの槍を杖代わりにして歩きますからお気になさらず」
巨大道人が、自分の胸に刺さったままの槍を引き抜いて、杖のようにして立ち上がった。
・・・というか、ずっと刺しっ放しでいたのですね。
「ふぅ・・・助かりました。アライラー殿。大道人」
一息ついて、私は改めて援護してくれた二人を見る。
主殿も、よく頑張ってくださいました・・・あの洞窟迷宮からさほどの時は経っていないと思いましが、想像以上の成長具合に嬉しい限りです。
〈んー? やー、倒せてよかったんよー〉
照れくさそうにしているアライラー殿に、私は自然と笑顔になる。
残念ながら、この身体はもう持ちませぬから・・・。
「・・・さて、私はここまでになります」
〈え!?〉
すでに、身体が崩れ始めている・・・地獄殿の反動は、やはり大き過ぎたようだ。
「今はまだ、主殿でも使うのは無謀なレベルの技ゆえに、当然の結果です」
地獄煉すら、相当に危険な状態に追い込む負荷が掛かる以上・・・その上を行く『地獄殿』は当分扱える物ではありません。
こうして、身体が砕けずに一回の使用を耐え切ったことが、ある種の奇跡です。
〈そっかー・・・でも、また会えるっしょ?〉
「ええ、私は道標。道に迷ったならば、いつでもお呼びください」
にははー。と笑うアライラー殿は、そして楽し気に私へと言い返してくる。
〈とか言ってー。また召喚しろって夢の中へ催促しに来るんでしょー?〉
・・・。
・・・・・・。
・・・ああ、そういえばそうでしたな。
「ふふふ・・・っはっはっは! これは一本とら―――ッ
〈あッ!!〉
身体が砕けた。
なんとも締まらぬ終わり方だが・・・これでよい。
ここで締めるモノでは無いのだから。
次に呼ばれる時が、実に楽しみです・・・頑張ってくださいませ・・・二人とも。
あ、それとマリー殿・・・次はお猪口一杯分で、ダンジョン産のお酒を用意してくださいませ・・・。
私のお願い、届くと良いが・・・。
ふふ・・・。
次回は・・・未定です。
ルッタくんと、道標人の違い。が、しっかり書けているといいのですが・・・。
不安です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




