52 『得体の知れない』モノ
こんにちは。こんばんは。
『得体の知れない』モノとは? ということで、どう書けばいいのか分からずに悩み続けていつの間にか8月になっていました。
皆様、いかがお過ごしですか? 私はダメそうです。
今回のお話は、前回からの続きとなっております。ようやくと海底ピラミッドに突入です。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
海底ピラミッドに到着した。
それは大変喜ばしいことだけど、疲れた・・・なんだか頭が『くわーんくわーん』と甲高い音を立てて反響しているような感じがする。
ワイングラスに水を入れて、縁を指でなぞると音が鳴る・・・あの静かな音色が頭の中で大ボリュームで鳴り響いているイメージが適当だと思われる。
頭がツラい。
つい先ほどまで全方位を視認していたはずなのだが、今は視野が狭まっていて・・・次第に痛みを感じるようになる。頭痛というよりも、血が眼球に流れ込んでいるような感じがする。
呼吸も乱れて来たため、少し深呼吸をすることで整える。
「ほら、回復」
「あ、どうも」
マリーさんから回復系の魔法術をもらって、少しだけ身体が軽くなったように思う。しかし、軽くなったような気がするだけだろう。
「さて、リヴァイアサンも引っ込んだことだし、私たちは当初の目的通りに中へ入るとしましょう」
・・・引っ込んだ?
俺は、海底ピラミッドの天辺を見る。
まるで流れて来た昆布が引っ掛かっているような・・・いや、そうとしか見えない絵面を見て、アレで引っ込んでいるというのは、どうにも・・・こう・・・何と言うのか・・・。
と、そんな事を真っ先に考えてしまったが、優先するべきことは別にある。
「マリーさん。リヴァイアサンが『得体の知れない』と言ったモノについては、どうするつもりですか?」
かの【神殺しの獣】が『得体の知れない』と表現するような『何か』が、あの海底ピラミッドには居るのだから、どうするのかを決めないと中へ入るのは危険すぎる。
しかし、マリーさんは特に悩むような様子は無く・・・何かを思い出すような顔になっている。
「ふむ。確かに看過できない事ではあるけれど・・・向こうから接触してくるだろうから、積極的に探す必要はないわね」
・・・向こうから、接触してくる?
「え? 向こうからって『得体の知れない』モノから、接触してくると?」
「そうよ。リヴァイアサンの言う『得体の知れない』モノ・・・私の予想では『バグモンスター』ね」
えぇ・・・。
「前に戦ったトイレットペーパーみたいなモンスターが居たでしょう? あんな感じの何かが出てくるはずよ」
またトイレットペーパーがモンスターになって出てくると!?
「あ、一応言っておくけど、トイレットペーパーの姿になるかは分からないわ。前に戦ったヤツは、どういうわけかトイレットペーパーになっただけで、海底ピラミッドに居るのも同じ姿になるとは限らないからね」
「・・・なにか、心当たりが?」
「あるわ」
と、言いつつも「あるにはあるんだけど・・・」と言葉を濁して、悩み始める。
俺とアライラが遭遇したバグモンスターが『トイレットペーパーの姿形』をしていたせいで、説明しづらいのだという。
ただ、日本の妖怪話みたいな感じで『恐怖心』などから想像や連想によって生まれるイメージから、姿かたちを得るのがバグモンスターであるらしい。
らしいのだが、前回の『トイレットペーパー』が意味不明過ぎて、マリーさんは悩んでいるそうだ。
「とりあえず、悩んでも仕方が無いのだと理解しました」
誰のせい。と責任を押し付け合うのは意味がない。
向こうから接触してくるのであれば、こっちは迎撃することを考えなければいけないだろう。
「それで? ピラミッドに入るには、どこに行けばいいのでしょうか?」
「・・・そうね。まずはここへ移動して頂戴」
そう言うと、いつものウインドウを開いて目的地を示すマップを表示してくれる。
現在地から矢印が伸びて、ピラミッドの『ココ』と示された。
俺は、巨大道人を新たな目的地へと歩かせる。
ロケット・ブースターを使うような距離でもないため、とりあえずは担いで歩くことにした。一応、不測の事態に遭遇した時のために『ドリリング・ドライブ』はそのまま維持している。
「これから向かってもらう場所は、艦船ドックになるわ」
「艦船ドック?」
「そう。日本にもあるでしょう? 船などを建造するために使われる大きな施設。横並びで十隻は同時建造可能な広い空間があるのよ」
・・・そんな巨大空間があるのか。
「普通の船着き場もあるんだけど、巨大道人のサイズを考えると・・・艦船ドックの方が余裕があるからね。そちらへ行こう。ってわけ」
なるほど、ただでさえ怪獣サイズのアライラを帽子みたいに被れる大きさの大道人だから・・・確かに、艦船ドックのような広い空間の方が、巨大道人を中へ入れるには最適だろう。
このピラミッドが扉のように開いて、巨大道人を受け入れるのか?
幾何学模様を描いてピラミッド自体が変形することで、巨大道人でも通れるような通路となってくれるのか?
神々の技術で造られた施設なのだし、きっとスゴイ事が起こる。と、信じてもいいよね?
「・・・なんか、安っぽいな」
期待を胸に膨らませていたものの、マップに示された目的地に向けて移動している途中・・・ピラミッドの外壁を・・・ふと見て呟いていた。
なんだろう?
アライラの邪眼でライトを当ててもらうと、白く光る壁をしているようだなのだが・・・まるで食器のような光沢だ。
そこに、なんとなく見える汚れの付き具合から、プラスチックっぽさを感じずにはいられない。
海底という水圧に耐えているはずなのだが・・・どうにもプラスチック容器に食器みたいな光沢を付与した加工品みたいな印象だ。
「ふふ。安っぽいと思った? 正解よ」
「え?」
「そう思われるように、悪の神々が張り切って建造したピラミッドだからね。がっかり感半端ないでしょう? コレを建てた連中が生きていたなら、腹を抱えて大喜びしているでしょうね」
・・・そうか『嫌がらせ』か。
海底ピラミッドという神秘的なモノが、間近で見ると安っぽいプラスチック風な印象を受けるというがっかり感を持たせるために、あえて『こういう風』に造ったわけだ。
なんて地味なやり口だろうか・・・。
ピラミッドの姿を睨んでいると、視界の端で何かが動いたのを捉えた。
「ん?」
俺の勘には何も感じられなかったが、視界の端で何かが動いたのであれば、何かが居るということになる。
すぐにそちらへと視線を向けてやれば、ノイズが視認できた。
これは・・・えーっと、確か『スノーノイズ』という奴だっただろうか? 地上波デジタル以前のテレビでは、よく見られたらしいもので『テレビの砂嵐』と呼ばれていたはずだ。
ちなみに、コレの音を泣いている赤ん坊に聞かせると、泣き止むらしい。動画サイトなどでいくつかアップされているのを見たことがある。
しかし、このノイズは明確に異様な点があった。
「潜水艦!?」
「は?」
確かにノイズなのだけど、その形だけは潜水艦となっている。
俺の驚きに、マリーさんが訝し気な顔になったようだけど、俺はすぐさま迎撃準備に移った。こんな近くまで接近されていることに気づかなかったことに、焦る。
「「「「「「おはよう」」」」」」
幾重にも重なった声。
老若男女で一度に喋っているような感じと、言語が統一されていないようで日本語や英語・・・あらゆる国の言葉が重なり合ったような大合唱だ。
しかし、俺には何を言っているのかが分かり、それが「おはよう」であることを理解できた。
そして潜水艦から、四発の魚雷が発射される。
「ちぃ!!」
舌打ちをしたつもりだったけれど、いろいろと気持ちが焦ってしまったのだろうか? 舌打ちに失敗して妙な声が出てしまった。
だけど、巨大道人を操作して担いでいた槍を横薙ぎに振るう事で、魚雷を一掃・・・。
「すり抜けた!?」
俺のイメージでは、ドリリング・ドライバーの穂先が魚雷を叩き払って爆発させるものだったのだが、回転している刃がノイズ魚雷をしっかりと叩いているにも関わらず、魚雷は何にも接触していないかのように直進してくる。
すぐさま、空いている腕を持ち上げて、魚雷の直撃を回避するために防御姿勢を取った。が、魚雷は腕もすり抜けて巨大道人に直撃・・・した?
爆発音も無ければ、爆発する衝撃すらない。
そもそも、爆発もしていないのか? 後ろを振り返っても、魚雷が通過したような様子は無い。その上、接近していたノイズの潜水艦はスゥーっと背景に同化するようにフェードアウトしていく。
「いったい何が・・・」
「どうしたというの?」
バッと振り返ると、腕を組んで訝し気な顔をしているマリーさんに睨まれていた。
どうやら、端から見ると一人で錯乱しているような様子に見えたらしい。が、すぐに止める事はしないで、どのように着地するのかを見ていたらしい。
俺が呆然としたのを見て、改めて声を掛けたのだという。
「では、説明をお願い」
「はい」
一連の流れを説明すると、マリーさんは難しい問題を解く学生みたいな顔になった。
「テレビの砂嵐みたいな状態の潜水艦。魚雷が放たれるも被害なし。幾重にも重なった声による挨拶。ねぇ・・・中途半端なホラーって感じね」
ホラーですか・・・。
「アライラーは? 何か見たり聞いたりしたかしら?」
〈んにゃー。なんもー〉
「何も見ていないし、聞こえてもいなかったそうです」
「ふん? ルッタと魔力供給などで繋がっているアライラーが、何も観測できていない?っか。だとすると・・・」
「道標人はいかがでしたか?」
「・・・主殿が騒ぎ出したところで、私も意識を集中してみましたが・・・辛うじて、何かが居る。という感覚を得た程度で、明確な姿形は分かりせなんだ」
道標人でも分からなかったと・・・。
「おそらく、この海底ピラミッドまでに主殿が被った負荷が、感覚野を極限まで研ぎ澄ましておるのでしょう。通常であれば、本能的に切り離されてしまう超常を、今は拾ってしまっているのやもしれませぬ」
「それって・・・」
「はい。いわゆる『覚醒状態』という奴なのではないか?と、私は考えております」
そ、そうか・・・そういうのって、アライラが詳しそうだな。
「アライラは、そういう話を知っているか?」
〈知ってるも何も、少年漫画じゃ『定番』じゃん? またの名をご都合主義ともいうけどさー〉
「むむ・・・確かに、そうとも言えますな・・・むぅ」
ちょっとまだ呑み込めていないが、確かに強敵との戦闘でいろいろと極限状態だったような気がするな。
で? 今の俺がその状態だと?
「で? 今の俺がその状態だということでしょうか?」
「まぁ・・・おそらく?」
なんで首を傾げる?
「少なくとも、私や道標人でも認識できていない何かを認識しているのは、ルッタのみ。となれば、なにかしらの『覚醒』が起こっているというのも、間違いでは無いのかもしれない。見た目に変化はないけど」
マリーさんの指摘に、自分の手を見る。
特に変な感じはしないな。血管を流れる血の色が綺麗だな。って思う程度だろう。
「それで? もしかして俺が見たモノが、件の『得体が知れない』モノでしょうか?」
「それについては断言できないわ」
「ですね。我々が相対したわけではございませぬゆえ・・・」
まぁ、そんなところだろう。
結論を急いではいけないということだから、ここでこれ以上の問答は無意味になる。俺がそう考えていると、マリーさんが言った。
「はいはい。とりあえずはピラミッドに入りましょう。ルッタ。移動の再開を」
手をパンパンと叩いて、俺と道標人の間に割って入るマリーさん。
多少の不満はあるものの、とりあえずは海底ピラミッド内に入るために移動を再開する。
目標地点までの距離は、もうすぐと言える距離まで接近できていた。ピラミッドの周囲は砂に埋もれているばかりで、海藻の一つも見当たらないから歩きやすい。
そうして、目標地点に到達すると・・・。
「ここでしばし待ちなさい。今、大型潜水艦などが入るための入り口を開くからね」
新しいウインドウを展開して、キーボードを打ちながら何かしらにアクセスしている事が見て分かる。流れるようなキーボード操作で、次々に画面が切り替わっていくのは鮮やかだ。
《パスワードを入力してね!》「「「「「「ひさしぶり」」」」」」
ッ!?
マリーさんの開いているウインドウから、機械音声でパスワード入力を求められた直後に、ノイズ交じりの幾重にも重なる声が「ひさしぶり」と挨拶をしてくる。
・・・間違いない。あの声はマリーさんに向けての言葉だ。
ということは、ピラミッド内に居る『何か?』はマリーさんと何かしらで関わりのある存在であると予想できる。
パスワード入力で、キーボードを叩いているマリーさんは、先の声が聞こえていない様子だ。それと、なんかやたらと入力するワードが多い気がする。
パスワード入力欄の横には、『ヒント』として何か象形文字のような図柄がビッシリと敷き詰められている枠がある。
何かしらの法則があると思うが、マリーさんは特に悩む素振りも無いままにパスワードを入力し終えた。
「はぁ・・・相変わらずクソ長いわ」
『はろー。ようこそ我らの秘密基地『なんちゃって海底ピラミッド』へ。ゆっくりしていってね』
悪の神って、こうノリだけは良いんだな。つか、『なんちゃって』なんだな・・・。
「さ、開門するわ」
マリーさんの言う通りで、パスワードを入力し終えたことで、何かしらの機械が駆動する音を拾う。
それがどこから発生しているのかは不明だが・・・こういう場合、ピラミッドの一部が変形して開かれるとか。もしくはSF的な転送装置が光りの柱を立ててピラミッド内外への出入りを可能とする門が発生するとか。
俺が、パッと思いつくだけで二通りを想像する。
だからこそ、悪の神がクソッタレだという事を失念してしまった。
地中より、海底に積もる砂を吹き飛ばすようにして風が噴き上がり、渦を描いて砂を巻き込むと周囲に排除していく。
そうして、現れたのは・・・『蓋』である。
紛う事無く『蓋』が出現する。と言っても、長方形の蓋だ。マンホールとかビンなどの丸い蓋とは違う。俺がデジャブを感じる蓋は、ペダル式ゴミ箱の蓋であり―――。
俺が見覚えのある形状の蓋を思い出していると、今まさに『パカッ』と蓋が開いた。
「開いたわね。さっそくと・・・どうしたのよ? なんか不機嫌オーラが出ているけど?」
「・・・こうも。ええ。こうも・・・えぇ・・・言葉が出ないほどの怒りとは言うモノを、今、俺は、腸が煮えくり返るという感情を久しぶりに実感しているところです」
「なんで?」
マリーさんが目を点にしているが、本当に、こうも神秘を真っ向から否定する仕掛けばかりで、俺の海底ピラミッドへのイメージを崩してくれた悪の神には怒りしか湧いてこない。
なんていう奴らだ・・・もはや犯罪うんぬんではない。気が済むまでサンドバックにしてやらないと気が済まない。
歯軋りしてしまうほどに歯を食いしばって、この感情をなんとか抑える。
この怒りは・・・そう。中に居る『得体の知れない』モノにぶつけよう。そうしよう。
深呼吸をして、俺は巨大道人を前進させる。
開いている蓋・・・門から中を覗き込むと、地下へと繋がる縦穴のトンネルが広がっている。壁には等間隔でオレンジ色の照明が設置されており・・・。
〈わー。道路のトンネルっぽいねー〉
たしかに。
顔から表情が抜け落ちたように、俺は顔から力が抜けた。
なんかもう、僕は疲れたよ。
どこまでも神秘性というモノが否定されており、いずれもが未来的な技術というよりも現代科学で再現できそうな施設であることに、気持ちが萎えてしまった。
こんな海底にある施設が、誰がどう見ても安っぽい造りになっているのだから当然か?
「・・・そうか。コレが『手の込んだ手抜き』っていう奴なのか」
〈それは違う気がするっすわー〉
「そうかい?」
何かで見た動画だったか?で、そういう評価を受けた映像作品が紹介されていたような気がする。
しかし、表現としては間違っていないはずだ。
水槽に沈めて置けるような安っぽいオブジェクトが、海底という水圧に平然としているのだから、見た目こそ手抜きだけど、その中身は実に手が込んでいると言えない事はないはずだ。
どんな素材で建造されているんだろう。そこに神秘性を見出して、俺のテンションを維持することにした。
・・・そうしないと、今すぐにでも「お家に帰る!」って叫んでしまいそうだ。
約八割方、とりあえずは牧場の家に帰りたいと心の底より思っている。本当にもう、時間が無駄なので帰りたいと思っている。
ため息を吐いて、俺は巨大道人を飛び込ませた。
フワァッとした降下の中で、縦穴のトンネルを見回す。
〈うひひ。ここから出撃!とかしたら、きっとテンション爆上がりするんだぜッ!〉
「そ、そぅ?」
「「「「「「こんにちは」」」」」」
ハッとなってすぐに周囲を見回せば、下から浮上してくるノイズの潜水艦が巨大道人をすり抜けて通過していく。
本当になんの意味があって、このような事をしてくるのかが分からない。
「・・・主殿。また出ましたか?」
「え? ええ。ノイズの潜水艦が、ついさっき通過していきました」
道標人が口を引き結んで考え事を始め、マリーさんも頭を掻いてウインドウに表示されているモノを計器類へ変更して調べ始める。
結局、二人ともが敵の正体を掴めずにいるわけだ。
縦穴の底へと到達した。
思っていたほどの深さは無かったため、見上げれば入口が・・・あ、蓋は閉じられているようだ。
「次は横穴よ。ほら、そこ」
マリーさんが指を差し示す方向を見れば、隔壁が開いて通路が出現する。
そして、進路を示すように矢印が光り輝いて教えてくれていることからも、何かしらでトラブルでもあったのだろうか?
過去に何かがあったとしても、それは俺が気にすることでもないため、俺はオレンジ色の照明が等間隔に並んで通路を照らしてくる様子を見ながら、開いた道を進む。
本当に、トンネルの照明みたいで自分が異世界に居るという感じが薄くなっていく。
「マリー殿。この海底ピラミッドにはどれだけの神が居られたのでしょう?」
「ん? まぁ、数十人ってとこね。100人は居なかったはずよ」
それでも、結構な数が入ってきていたようだ。
地球でもそこまでは居ないんじゃないだろうか? 残っている神話や伝承からしても・・・。
「まぁ、当時この世界に入っていた神の数なんぞ、地球の一割くらいの数だったろうからね」
・・・地球の方が、入っていた神様の数が多いのか。
「すると? このピラミッドは数十名の神々で運営されていたと?」
「いいや【神殺しの獣】が出現する前の話しだけど、その数十名の神々がそれぞれに施設を運営するための人間を製造して配置していたから、労働人員だけなら数千人は居たわね」
えぇ・・・。
「では、潜水艦などの建造などは?」
「その労働用人員にやらせていたわ。神々はただ『造れ』と指示を出すだけよ。出来上がって納品されたモノを使い潰して楽しんでいたわけね」
「ふむ・・・」
「神々はアバターだから、仮に潜水艦が撃沈したとしても肉体は再製造可能だし、当人は・・・例えるならば、ゲームのコンティニュー画面みたいな空間に移動して・・・あー・・・この海底ピラミッドにあるアバター製造機で再製造された身体に乗り換えて復帰していたわ」
マリーさんの説明に疑問があったので、俺が聞いてみると。
どうやら、本来の仕様・・・というか、正規の手順であれば試験大陸グランテストを構成する四つの区画を繋ぐ中央区画が神々の港として運用されていたため、アバターの再製造などは中央区画の役割で、アバターを損失した場合はここからリスタートになるのだという。
「テレビゲームみたいですね・・・」
「当たり前よ。地球で爆発的流行したテレビゲームを真似ているんだもの。ファ〇コンで遊んでみたいと、私の友人知人がアバターで地球に入り込んで訪ねて来たこともあったわ」
・・・えぇ。
「まぁ、私も発売日に買いに行ったし、かなりやり込んだからね・・・ふふ。今にすれば、懐かしいわね」
なにやら昔を思い出すように、どことなく得意気な顔になっている。
しかし、ボソッと「新しいゲーム機が発売される度に遊びに来るから、面倒くさくなったけど」と愚痴っていた。
地球にて、アバターで生活する神さまは多くないらしい。
過去にやらかした連中が原因となり、地球にて神々がアバターを用いて生活するのは大変厳しいらしい。
「して? ピラミッドにて労働に従事していた人間たちは、今もピラミッド内にいるのでしょうか?」
道標人が、話の流れをぶった切るように軌道修正を掛けてくる。
これにマリーさんが目を瞬かせて思考を切り替えた。
「いいえ。悪の神々が造った労働人員は、端的に言えば、悪の神々に都合がいいように調整されている道具でもあったから、ダンジョン化に合わせて全て殺処分されたわ」
この世界の創造主である邪神と光神の用意した人間たちとは比べるまでもなく、混ぜてしまう方が危険だったらしい。
この世界を再び悪の神々に引っ掻き回されないように予防するため、殺処分は避けられなかったそうだ。
「なるほど・・・すると、主殿が見るノイズの正体は・・・残留思念やもしれませぬな」
「残留思念? 霊的要因ということでしょうか?」
生前に、何か強い思い入れなどがある場所。物。などに、不可思議な事象が発生する場合があるという都市伝説の類だ。
ある土地に足を運べば「帰れ」という声が聞こえた。などのオカルトは度々話題になるだろう。
「霊的要因というよりは、悪とはいえ神によって造られた人間が大量に殺処分された。というのが問題でしょうな。神々の力は霊的要因など軽々と超える力を持ちます。地球における人の理では説明できぬ超常が生じるは不思議なことでもありますまい」
なるほど、確かに道標人の言葉には頷けるところがある。
マリーさんの説明を聞く限りで、悪の神々に都合のいい人間だったのであれば、いわゆる神通力と言われるような力を持っていたかもしれない。
死後、そういった力が海底ピラミッド内に残っていて、バグの影響で『得体の知れない』モノに変質していてもおかしくは無いし、数千人の人員が居たのであれば・・・。
「一つに集合して、一体のバグモンスターになっている可能性がある・・・」
とんでもない事に気が付いてしまった。
「さよう。主殿が幾重に声が重なって聞こえるという理由の説明としては、ある程度の理に適っておるでしょう?」
「あとは、なんでこちらに接触を試みているのか?ってところね」
マリーさんの疑問に、道標人も腕を組んで悩む。
俺もまた、巨大道人を前進させつつも悩む。
目的がハッキリとしないのだ。最初の接触は、魚雷を発射して攻撃を仕掛けて来たし、その次は体当たりみたいな感じだったが・・・すり抜けた。
マリーさんが繋いだパスワード入力画面からも声を送ってきたし・・・。
「もしかして、マリーさんが目的なのでは?」
「え? 私?」
「はい。だって、マリーさんはかつての海底ピラミッドに何度も足を運んでいたのでしょう?」
「ま、まぁ・・・確かにそうだけど・・・」
「マリーさんを知っているからこそ、マリーさんに接触したいのではないでしょうか?」
「ふむ。在りうる話ですな」
「ありえるの!?」
「在り得ます。なぜかと問うならば、マリー殿は生きているのに、彼らは殺処分されたから。が有力でしょう」
「なんでよ?」
「残留思念と言われるような強い思いというのは、怒りや憎しみが最も多いのです。話を聞くに、止む負えぬ事情だったとはゆえ、多くの命が失われました。が、悪の神によって製造された彼らが、悪の神に見捨てられたと考えたならば?」
「・・・ぃや、それは・・・ぇぇ」
どうやら、恨まれたりする事に心当たりがあるらしい。
「こうして、今も生存されている『悪の神』に『どうしてあの時』と縋りたいのやもしれませぬ」
「・・・待て、怪談になっているぞ・・・まずは冷静に。ホラーを体感するために来たわけじゃないわ」
明らかにマリーさんの顔色が悪い。
その様子から、おそらくはホラー系は苦手なのかもしれない。
「別に、ホラー系は苦手とか無いけれど、好きでもないからね。そういう話は止めましょう」
「止めたところで、連中はマリー殿に接触を図る事でしょう? 一応、対策なり考えておく方が良いでしょうな」
確かにそうだ。
仮に度々俺が目撃するノイズが、残留思念のバグモンスターだった場合・・・マリーさんを狙うとなれば・・・マリーさんなら大丈夫か。
そんな話をして、アレコレと考えている間に通路は隔壁に閉ざされて、阻まれた。
少し周囲を見回していると、マリーさんが思い出したようにウインドウを開き直して隔壁の解放操作をしてくれる。
どうやら、ノイズのバグモンスターに関してアレコレ考えていたようだ。
こうして、解放された隔壁の向こうには・・・とんでもない広さの空間があった。といっても、見渡す限り海水なのだが・・・。
「ルッタ。上よ」
マリーさんに言われて、上を確認してみると・・・海面がある。その向こうには光もあるようでキラキラと光って見えた。
これはスゴイ。
まさに水槽のような場所であるようだ。
解放された隔壁を潜り、ようやくと海底ピラミッドの艦船ドックに入ったことを知る。
「ドックはこの上にあるんですか?」
「上と言うか・・・まぁ浮上してみれば分かるわね」
苦笑するマリーさんに従って、浮上するための方法を考える。
まずは泳ぐ。けれど、巨大道人の重量では不可能だ。
次にドリリング・ドライブ・ロケット・ブースター。を使用する。が、コレは火力があり過ぎるので、水槽のようなこの空間では壁に突撃してしまうだろう。
施設破壊はダメ。と注意を受けている。
「アライラ。邪眼で浮上を行ってくれ」
〈ほーい〉
そういえば、なんだか思いのほか静かだな・・・アライラ。
「アライラさ? なんだか静かだよね?」
〈む? むーん・・・いやさ? 私だけお地蔵さんに張り付いているし、室内の様子はよく分からんし、声は拾えているけど、あんまし話しの内容もピンと来ないし、そういう時は黙っとくのが良い。と知っているのさ〉
「そっか」
〈あぅ・・・反応うっす〉
薄いと言われても、それ以外でどんな反応をするべきなのだろうか?
「君一人だけ室外に居るというのを、割とマジで失念していて申し訳なくなったんだ」
〈忘れていたんかい!?〉
声を掛ければ反応はあるし、時折は話しかけてくるから室外にいる。という事が意識から抜けていた。けれど、こうして考えてみると彼女ってこの室内では天井だったりするんだよね。
・・・脚の付け根が天井なのだけど、まったく気にもならなくなっていたな。
〈ええい! 邪眼マジック! お地蔵さん、浮上開始!〉
ごごん。
そんな音が聞こえた気がしたけれど、特に巨大道人が動く気配がない。
〈あれ?〉
「もしかすると、重量のせいで邪眼一つだと無理なのかもしれない」
〈むー・・・二連邪眼! 浮上せよ! お地蔵さん!!〉
ごごごんん。
少しだけ浮き始めると、巨大道人の身体が重力に引っ張られるようにダラリと垂れ始める。のだが、浮上速度が圧倒的に遅い。
秒速何ミリメートルなんだ!?
「アライラ。今って浮上しているよね!? 浮上していると思うんだけど、浮上しているように感じないんだけど!?」
〈重すぎるっしょ!? このお地蔵さん!!〉
というわけで、三連邪眼で浮上を試みるも・・・まさに、点。点。点。点。と丁寧に発音するぐらいが丁度いい速度で浮上を始める。
ここまで海底を何の問題も無く歩けたのも頷ける重量だ。
〈だぁー! もぉー! 八連邪眼ブースト! 緊急浮上!! 飛び出せッ! 大道人・アライラーッ!!〉
面倒くさくなったアライラが、そして八連邪眼によるブーストを掛けて、巨大道人を急速浮上させる。その勢いが、まるで潜水艦から発射されるミサイルのような速度で海中を移動し始める。
そんな勢いで、巨大道人は一気に海面を突破して外へ飛び出した。
ざっぱーん。
そんな波打つ音を撒き散らし、そうして勢いを失った巨大道人は再び海中へと沈んで行く。
「アライラ! 浮き輪! 邪眼で浮き輪を作って! 八連ね!」
〈八連邪眼バリア! 浮き輪モード!!〉
巨大道人を覆うバリアが展開されると、今度は巨大道人の全身が海上に浮かび上がると、直立できないために横倒しになって波に揺れ動く。
そうして、海上でユラユラと天井を見つめて、ただ思った。
「・・・最初から邪眼バリア・浮き輪モードでよかったんじゃない?」
〈ホンマそれ・・・〉
俺もアライラも、それを思いつかなかったのだから仕方ない事だ。
仕方ない事だけど、こうして浮き輪モードで海上をユラユラ浮いているのだから、たったそれだけの事で、浮上なんて面倒な事をしなくて良かったのだと分かる。
浮き輪モードで、勝手に浮上したわけだからね。
とりあえず、このまま全身が海上で寝転がっていても意味がないので、邪眼バリア・浮き輪モードの効果を頭から肩までに絞ってもらい、泳いで移動することにした。
平泳ぎのように腕を動かしつつ、バタ足でドックまで移動することにしたのだ。
マリーさんによって、艦船ドックとなる施設内の見取り図を見せてもらい、複数隻の艦船を並べて置けるだけの広大な設備が整っていることを知り、神々は用意する物の規模が大きいことに驚く。
まぁ、使う者はもういないので、どこのドックに入っても問題ないらしい。
なので、まっすぐ移動して入れる場所に入った。
海水が満ちているドックの底に足を乗せ、ようやくと一息吐けそうな段階になる。
あまり詳しくは無いけれど、とりあえず船を入れるスペースに入ったら、水を抜いたりするのだろうから隔壁などもあるはずだ。
まぁ、巨大道人は艦船では無いので、そういう必要もないか。
「さて、さっそくと上陸しましょうか」
「そうですな。主殿、ドック内の奥まで移動して頭を接岸させてもらえますか?」
・・・頭を接岸させる。という言葉に俺の想像力は何も想像してくれなかった。どうするんだ?という疑問符しか出てこない。
「頭を陸に近づけてくだされば大丈夫ですよ」
なるほど。
とりあえず、なんだかお風呂にでも入ったような気分になるドック内で、持っていたドリリング・ドライブ・ロケット・ブースターを陸上に置いて、ドックの縁に手を付ける。
そうしてから、頭を陸地へ寄せていく。
ちゃぷ
違和感は、すぐに俺の意識へ浸透してきた。
海面が上昇している。それは、巨大道人が進入したドックの一つにあることで嵩が増しているからとも思えたが、先ほどの『ちゃぷ』という音は、背中に海水がぶつかった音だった。
そうして後ろの方へ視線を向けてみれば、わずかに海面が盛り上がっており・・・それがこちらに向けてゆっくりと波と共に寄ってくる。
上陸のために岸へ置いた槍をすぐさま掴む。
逆手で持ち上げたコレのドリリング・ドライブを駆動させ、高速回転中に業火を纏わせた状態にして、上半身を捻じりつつ後方へと振り返りながら槍を・・・ドリリング・ドライブを海に叩きこむ。
ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ
激突した。
海水が回転するドリリング・ドライブに巻かれ、そしてコレに激突するノイズ塗れで回転する円錐形の刃を持つランスによって、弾けるように周囲へ水飛沫が散る。
そうして海水が飛び散ったのを追いかけるように、火花が目を焼くほどの光を放ちながら飛び散っていく。
「なんだ!?」
俺が叫びつつ、巨大道人の左手に地獄変を召喚させる。
つい、俺が自分の手で召喚しているつもりでやってしまったが、相当な負荷で血を吐いた。それでも、手を止めている場合ではない。
「ドリリング・ドライバーッ!!」
間髪入れずに、アライラの技を叫びながら地獄変を海中へと投げ込む・・・のだけど、地獄変がいつの間にかドリリング・ドライバーに変じていて、アライラがロケットパンチのように撃ち出すのとほぼ同じ要領で左手から打ち出されていた。
・・・打った後でびっくりして、ちょっと思考が停止する。
直後。
ドリリング・ドライブと激しい火花を散らしていたノイズ塗れのランスが引かれ、ドリリング・ドライバーを回避しただろう何かが海中から飛び出してくる。
その姿に、マリーさんが目を剥いて叫んでいた。
「クレイセンゼイマムが動いているッ!?」
海中から飛び出し、空中へと上昇したソレは・・・天井にぶつかって力なく落下を始める。しかし、すぐさま姿勢制御から滞空して何事も無かった。と言うように立ち姿を見せている。
基本的な色は白。胸部装甲を青に染め、腹部を赤に染め、一目見た限りだと西洋騎士の鎧を着ているように見えるが、その体形は女性を彷彿とさせるデザインでまとまっている。
そして全身各部位より、ナイフのように鋭いノイズ塗れに光る羽を展開されているが、ノイズ塗れのせいか? 虫の羽を彷彿とさせていて気持ち悪い。
「マリーさん・・・アレはなんですか?」
「かつて、悪の神々が異世界より持ち込んだ大型モンスターの狩猟大会用に用意した戦闘用機械天使『クレイセンゼイマム』よ」
・・・。
・・・・・・はぁ。
〈いくら何でも、好き放題やり過ぎじゃね?〉
「ホントにな・・・」
次回は、神造物はメッチャ強い。というお話を予定しています。
書き始めた当初は、人語をペラペラ話せるギャグモンスターにしようと頑張っていたのですが、無理でした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




