46 マリーと道標人
こんにちは。こんばんは。
今回のお話はマリーと道標人の会話が主になります。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
レーザーポインターのような光がアライラーの身体に照射されると、自身の身を隠す『隠れ蓑結界術』が見破られていることにようやく気が付いたようだった。
ブォームが持つ特殊な能力は、危険を察知する事であるが・・・これを『第六感』と推測する者もいる。しかし、連中はどれだけ完璧に身を隠していても、正確に察知してしまう。
神の権能でさえ看破する性能には、舌を巻くしかないでしょうね・・・ダンジョン化の前でも、食料として狩ろうと試みたが・・・逃げ帰ったのをよく覚えている。
なにせ、ブォームの放つ一撃は戦略兵器級だ。汚染物質とかが発生しないところがチート級なのだが、とにかく群れで撃たせたら・・・日本の東京は壊滅するでしょうね。
基本的に、連中は温厚で人間が近くを通っても気にすることはない。
しかし。
今回はアライラーという大蜘蛛が接近していたこと、その進路には子牛がいたこと、正直・・・よくもここまでブォームが攻撃を仕掛ける条件を満たせたものだ。
まぁ、今の私であれば魔法術でどうとでも対処可能ではあるが・・・今回はもう一人、心強い同行者が居てくれたので、そちらにお任せした。
「ふぅ・・・いやはや、とんでもない破壊力ですね」
地蔵菩薩大道人を六人・・・これを一気に召喚すると、六方向に錫杖を差し出して地に突き立ててからそれぞれに合掌。
この時に突き立てた錫杖から・・・『縛鎖閻魔錠』だったかしら?・・・を放って隣同士で連結しつつ重ね巻きして金網フェンスのように展開する。
最後に、鎖に業火を巡らせることでブォームが放つ一撃から私たちを守り切った。
技名は『地獄能・地蔵合掌業火六法障壁陣』と、言っていたかな。
鮮やかな技の展開だったが・・・気になる点がいくつかある。
まず、ルッタのように『地獄道・地蔵菩薩大道人。六人』と言わなかったこと。『地獄門・縛鎖閻魔錠』とも言わなかったこと。
要するに、過程をスキップして『地獄能』という技を使って見せた。
では、どうやって?
ルッタは詠唱を一つずつ行って、技に技を重ねる事で『地獄能』というカテゴリにしていたが、道標人は最初から『地獄能』で技を発動させていた。
「・・・道標人。確認したいのだけど」
「はい? 何をでしょうか?」
私の勘違いで無ければ・・・。
「地の深淵に・・・と、詠唱を始めた時、錫杖を振り回して『音』を鳴らしていたわね? しかも、その間に両手で『印』も結んでいた」
「・・・よく見ておられる」
では、やはりそうなのか?
道標人が言う『扱う』というのは、段階を経て重ねていくのではなく、一度に作ってしまう事。
「ただ、一つ見落とされております。錫杖を棒回し風に振り回した事も『技』の発動に組み込まれていますよ」
・・・音を鳴らすために振り回していただけでなく、同時に錫杖を振り回すことで何かしらの役割を持たせていたと?
詠唱の間に三種類の工程を一度に済ませたというのか・・・。
「ふふ。まぁ、一つ一つできるようになってくださればよいだけの事・・・主殿の成長はこれからですゆえ、今後とも見守っていく所存」
・・・ぅーん。
ルッタって、結構な不器用だからなぁ・・・ムリだろうなぁ。
今も地球での常識が邪魔をして、このダンジョン内で自由な発想が出来ていないし・・・いや、先日のワーンでようやく常識から脱し始めたように見えるが、相当なストレスで疲労上昇度が半端ないのよね・・・。
あの子、疲労が蓄積すると判断力どころか思考能力が急激に落ちていくし・・・。
ブォームでの判断ミスは、その辺が顕著に出ているだろう。ちょっと無理をさせ過ぎてしまった気もする。大人しく、キャンプしていればよかったかな?
「ところで、さっきの『地獄能』は閻魔大王の技なのかしら?」
「いいえ。今のは主殿・・・つまりは、ルッタ・レノーダがいずれは至るだろう技の一つですね」
・・・ルッタが至る技の一つ?
「閻魔大王の化身でありながら? ルッタの技を使ったと?」
「化身と言いますが、私は道標人ですよ。主殿が新たな地蔵の召喚をする際、地獄変を通じて閻魔大王が・・・あなた方風に言うと『情報』の一部を混ぜ込んで乗っ取ったわけですが、その情報量は1割も満たしていない少量。ゆえ、この身は主殿の擬似的な分身体。そこに閻魔大王のわずかな因子が混ざり込んでいるだけに過ぎません」
「・・・なら、その喋り方は?」
「主殿のこだわり。地蔵に対するイメージ。地蔵はこうであるべきとする意志により、基本口調となっているだけです。まぁ、大王様の因子に影響され、少々偉そうになっているのは自覚しておりますが、閻魔大王様はこのような喋り方をされませんので、誤解無きようお願い申し上げまする」
ロールプレイ・・・みたいなものかしら?
・・・そういえば、あの子が召喚した大道人。外と音声メールのやり取りをする時に代行させると普通にルッタの口調で喋るのよね。もっとこう、喋り慣れない感じになるかと思ったんだけど。
それ以外だと、いつもの通りに喋るし・・・そうだわ。あの子、自分が呼び出した地蔵には敬語を使って話してたわ。
アライラーが大道人を操作して好き勝手喋っていた時、終始イラついていたし・・・ストレスの上昇値がちょっと測定ミスを疑うぐらい跳ね上がっていたし・・・。
なんだ? その地蔵に対する妙なこだわり・・・。
・・・アライラーが大道人とのドッキングを強請らなくなったのは、命の危険を感じたからかもしれない・・・のかな?
「ところで、そろそろ移動しませんか?」
道標人の言葉を受け、改めて周囲を見る。
ブォームの子供らは、今も震えあがって動けないでいるようだ。その一方で、こちらを警戒している親牛たちは、再び攻撃をする準備に入っている。
確かに、この状況ではゆっくりと話しはできないな。
なので、この状況に対処するべく、まずは腕を振り上げた。
握り拳から人差し指を立てて、その先端・・・指先に魔力を集中させて光に変換する。この時に注意しなければいけない事は、敵意などの危機感を煽るような『気』を乗せない事だ。
そこから輪を描くように振るい、子牛も親牛も視線を集中させていることを確認してから、子牛に立てた人差し指を向けた。
ビクッと反応はするも、攻撃の意思がないのは察しくれているので、攻撃などは来ない。
気が立っていると、ここで攻撃される場合もあるから注意が必要なのだけど・・・とりあえずは、大丈夫そうなので安心したわ。
そして、子牛に向けていた人差し指を、ゆっくりと親牛たちの方へ向けていく。この時に、子牛たちの視線が指先の光を追いかけていることをしっかりと確認することだ。
できるなら、子牛の視線移動に合わせてやるのがいい。
「「「「もぉぉぉぉう」」」」
光の移動先に、親がいることに気づいた子牛たちが泣きっ面で駆け始めると、気付いていなかった子も釣られて動いて、それから親がいることに気づいてダッシュする。
いいもんだわ。
私の子供らも、私を見失うと「おかーさぁーん」と泣きっ面で探してくれたものだ・・・あぁ、あの頃に帰りたいなぁ・・・幸せだったんだなぁ・・・ぁぁはぁ。
「見事なモノですね」
「・・・ふ。何年ここの管理人として見回りをしていると思っている?」
「知りませぬゆえ、なんとも思いませぬ」
・・・可愛い顔して割と辛辣なのよねぇ。とはいえ、これはこれで微笑ましくも思うんだけど、ルッタだったなら・・・ね? 地蔵の無機質な表情で言われるとこう・・・。
ま、それはそれとして・・・ブォームとは戦闘を避けた方がいいのは当然のこと。
一撃の破壊力もさることながら、最終手段には『自爆突撃』がある。これ、一匹でどこぞの〇2地雷レベルの威力で大爆発する技だからなぁ・・・。
見た目こそ、怪獣サイズのホルスタイン種だから・・・地球人なら大多数が油断するだろう。
・・・こうして今、何も知らない子供らがミスって死にかけているのだから、初見殺しとしては大成功の部類だろうな。
ウィッチが「けらけら」と笑っている姿が目に浮かぶ。
「では、大道人たちよ。アライラー殿を運んでくださいませ。マリー殿は主殿をお願いいたします」
「任されたわ」
アライラーの上で気絶しているルッタを抱き上げて、身体の様子をチェックする。
あの爆発の中で、火傷一つも負わないとは・・・妙に血塗れになり易い子であるというのに、身体の損壊はアライラーの方が深刻というのが、またなんとも・・・。
当初こそ、ダーゼルガーンのイカレタ調整だとバカにしていたが、こうして調査を進めていくとそれが間違っていることに気づいた。
ダンジョンへ落ちる前の生活などを聞き、落ちてからの冒険を聞き、明らかに体の耐久力に差があることを知る。
外では技一つで血塗れになり死にかけたというが、ダンジョンに落ちてから最初に使った技で、血塗れになる事は無かった。
・・・未だに解析できないエラー領域も多く、本当に謎だらけの子供だ。
ダーゼルガーンだけじゃない。おそらく、他に神が複数関わっているとしか思えない。あと、ウィッチも何かやっているんじゃないだろうか?
次にあった時にでも、聞いてみるか。
「大道人二名は、錫杖で担架を作ってからアライラー殿を乗せるのです。他四名は周囲を警戒。ブォームの群れが遠ざかったとはいえ、逃げ遅れている個体が居るやもしれませぬから、注意を厳に」
「「「「「「承知しました」」」」」」
一方で、アライラーの状態は・・・といえば、全身が丸焦げとなっている上に八つの脚が5本ほど欠損している。
欠損こそしていない脚も、握りつぶした新聞紙のようにグシャっとなっている。
・・・なんだろう? 毎度の光景になったなー。
それにしても、伸びしろがあると思っていたアライラーが、実はまったく伸びしろが無いというのも考えどころだな。
ルッタの湧き続ける魔力が無ければ、ほぼ何もできないという最大の欠陥を抱え、独力で強くなる術がない。
前に、アライラーの戦闘能力に依存している。と、ルッタに言ったのだが・・・実はそれ以上にルッタへ依存しないとなんにもできないのがアライラーだ。
戦闘能力そのものが魔力依存という罠・・・どうしたら改善できるのか?
ダーゼルガーンのテキトーな設計のせいで、私が手を加えるのもなかなかできないし・・・こっちも調査を進めて、改めて新規に図面を起こすしかないのが・・・くそ・・・あのバカ野郎。
アライラーの場合、データが集まれば集まるほど即席で用意した道具。っていうのが分かる欠陥構造をしているから、本当にあの野郎をぶっ飛ばしに外へ出たくなる。
対魔王兵器開発計画は杜撰であることは間違いなく、ライブ感で実行しているからこそのアライラーなのだろう。
「なにか、お悩みで?」
「・・・・・・・・・・そうだけど、話しなら牧場でね」
もう、目と鼻の先となった牧場を指さして、道標人はニコッと同意してくれる。
私たちは、そして【春の牧場】と到達した。
〇
「ふむ。牧場の母屋は、なかなかに大きな家でございますね」
道標人がリビングを見渡すようにしてから、どこか楽し気な様子で感想を述べる。
まぁ、それもそのはずだ。
この牧場は【春の区画】で唯一の牧場であり、多くの家畜を飼育する都合上、人手が必要となるため数世帯は暮らせるように設計されている。
このため、少し離れた場所には平屋であるが家屋が数軒。
この母屋でも4世帯は共同生活可能という大きさだ。牧場経営の事務所などを兼ねてもいるので、色々と部屋が必要だったりするわけだが。
そんな母屋のリビングにあるソファに座る道標人。しかし、石像であるためにソファへと沈みこんでしまって起き上がれなくなっていた。
「何をしているんですか・・・まったく」
「いやはや失敬・・・つい童心を刺激されてしまったようで・・・」
ちょっと照れくさそうにしているのが、妙にカワイイな・・・コレが地蔵菩薩像の魅力なのかも?
「ところで? 主殿の容体はいかほどでしたか?」
「問題はありませんよ。溜まっていた疲労と、ブォームからの攻撃で気絶してしまったようですが・・・今は静かに寝息を立てています」
「それは何より」
私の見立てになるが、おそらくは二~三日ほどは寝込むはずだ。
アライラーがそれまで保つか?とも思ったが、気にする必要は無いだろう。
「アライラー殿の状態ですが、身体の損傷は激しいものの命に別状はない様子。先ほど、ちょっと主殿の魔力供給線から精神を覗き見ましたが・・・まぁ、大丈夫でしょう」
なぜに言葉を詰まらせた?
・・・聞いてみようか? ルッタがときおりアライラーを起こす時「10連一回でSSRが来たよ」とか言うと、即座に起きるのを見たことは多々ある。
どこまでソシャゲに未練があるのか? 夢でも度々見ているようだし、どんな夢を見ているのか?と興味はとてもある。
しかし、道標人の反応がどうにも悪いので、あまり良い夢ではないようだから・・・とりあえず、聞かないで置くか。
「マリー殿は、アライラー殿をどのように考えておられますか?」
「・・・問いの意図が分からないわ」
道標人は、どこか真剣な様子でソファに・・・座らず、ソファの前で正座を始める。
ソファに合わせたテーブルの高さに顔が来ているので、私の位置からだと見切れているのが・・・また何とも・・・カメラ構えてもいいかな? いいかな?
「マリー殿。ちょっとちゃぶ台みたいなテーブルを用意してもらえますかな?」
「・・・・・・・・・・・・・んん。うん。今持ってくるわ」
私が葛藤している時に、ちゃぶ台を要求されたので反応が遅れに遅れた。
大丈夫。私が考えていた事は気づかれていないはずだ。
まぁ、とりあえず・・・ちゃぶ台は無かったので長方形のちゃぶ台を持って戻る。
コレをテーブルと入れ替え、ソファなども端へと寄せて二人で対面するように座った。
「お茶とかいる?」
「いえ、それは後程いただきます。まずは、こちらを見ていただきたく」
そう言うと、地獄変という巻物を召喚してテーブルに置き、封を解いて紙を拡げると、長方形ちゃぶ台の端に巻物を移動させて、台の上に広げられるだけ紙を拡げる。
地球は日本でも同じで文字が記されているわけだが・・・日本語ではない。漢字でもない。地球の古美術商にでも見せようものなら「子供の落書きですね」と査定しそうな字だ。
「・・・何が書かれているのか? 私には読めないけれど、ここに記されている言葉が、閻魔大王より遣わされた内容なのでしょうか?」
「特に、そういうことでもありませぬ。ここに記されたモノは概念であり・・・読み手によっていかようにも読める文字なのです」
・・・なるほど、誰でも使える技と同じく、地獄変の正統な所持者であれば『誰でも読める文字』という概念なのか。
確か、ルッタは地獄変を『説教ばかり』の書物だと言っていた。
ここに記されているのが概念文字だとするなら、ルッタがイメージしている地獄の様相が反映されているのだろう。
地獄で連想するのが『地蔵』と『説教』という・・・その辺りでも奇妙な子だなー。
「さて、これよりお見せしますは、私が主殿・・・すなわち、ルッタ・レノーダ殿に召喚を促すこととなった理由にございます。・・・が、ルッタ殿とアライラー殿には秘密としていただきたく思いまする」
あの二人には秘密にしておいて欲しいと?
私は、疑問を抱いていることを知られない世にポーカーフェイスを通し、腕を組んで道標人の言葉を静かに聴く姿勢を取る。
すると、巻物に書かれている文字が光りを放ち、紙の上から浮き上がって外へと解放されると、これらがテレビの形に組み合わさっていく。
そのテレビは・・・ブラウン管テレビ。しかも昭和時代のチャンネルはダイヤル式という細かさ。
「・・・これは?」
「主殿の情報によれば、マリー殿は昭和時代の御方だそうで? 映像を表示する道具となれば、こういったテレビの方が分かりやすいかと思いまして!」
「・・・・・・私は、三児の母でひ孫に名づけだってしてやれるぐらいには、生きた女だぞ?」
「・・・これは失礼」
余計なお世話だ。懐かしいとは思うが、現代の液晶テレビでも十分よ。
・・・いや、どうだろう? 令和の初期くらいに死んだしな。ルッタ達の現代で、テレビがどれだけ進歩したのかは分らないし。
とすると、一番馴染み深いブラウン管テレビは分かりやすくていいのかもしれない。
「まー。でも・・・懐かしいモノを見れたので、ありがとう」
フォローはしておこう。
「いえいえ、では映像を再生します」
〇――地獄の某所(映像再生)――〇
≪道標人よ。ここへ≫
≪は! ここに≫
一人称視点のようだ。
召喚されてすぐに下を向いて跪いていることと、最初の声音には聞き覚えがある。
閻魔大王だろう。
≪おや? 閻魔大王・・・その石像は?≫
≪え? あー・・・いやいや。そう大したものでは―――≫
≪あーッ! また抜け駆けですね!?≫
≪あらあら・・・毎度毎度と勝手になにやってくれてやがりますかね? この大王・・・≫
≪その石像・・・地球ではお地蔵様って呼ばれている像ですよね? 道標人? 今までそのような技はお使いにならなかったはずでしょうに?≫
畳みかけるように、男女の声が閻魔大王を襲う。
≪い、いえー。違うのですよ? これはアレです。地獄変が新たな使い手の子に渡ったため、相応しい子であるかを見定めるべく・・・≫
≪それを抜け駆けというのですよー?≫
≪むぐ・・・≫
≪これはもぅ・・・今日は大王の抜け駆けしてごめんなさいパーティでも開いてもらいますかね≫
≪いいですねぇ・・・ぜひそうしましょう? ね? 大王様?≫
≪あ、いや・・・それは・・・≫
〇――再生停止――〇
「間違えました」
道標人がバツの悪そうな顔で、口を引き結ぶようにしつつリモコン操作をするような持ち方で、新たに召喚したのだろう地獄変を手にしている。
「失敬。私が召喚された時に、地獄を統べる十王様方が会議中でして・・・」
再生時間の操作で、再生したい場面まで早送りしていく。
その操作を待ちつつ、私は念のために道標人へ質問した。
「なぜ、閻魔大王が道標人を召喚できるのです?」
「先にもお話したように、私には僅かながら閻魔大王の情報が含まれております。これにより、ルッタ殿が使う『地獄道・地蔵菩薩道標人』は大王との共有技となったわけでございます」
ははぁ・・・なるほど・・・それで閻魔大王も召喚できる仕組みなのか。
「ただし、私はあくまでも道標人でございますので、大王様に召喚された際のルッタ殿の記憶情報は、前に主殿に召喚された時までの記憶しかありませぬ」
なるほどね。
ルッタ本人に道標人を呼んでもらわないと、記憶情報の更新はできない。
そうこうしていると、再生する所をリモコンと化した地獄変でワタワタと頑張っている道標人が視界に入ったので、すかさずカメラを構えて撮影していた。
むふー。結構カワイイわ~。
「あ、ここです。こ・・・何を撮影されておられる?」
「趣味です。気にしないでください」
カメラをリュックへ放り込み、何も無かったことにしてもらうようお願いしてみる。
「・・・まぁいいです。今はこちらを優先しましょう」
あからさまなため息を吐いて見せてから、映像の再生が始まった。
〇――映像再生――〇
地獄変を生み出した地獄世界とは、地球に伝わっている地獄とはだいぶ異なるものだ。
地底世界というわけでなく、活火山こそ多いものの環境的には地球との大差はないぐらいだったりする。
だから、青空が広がっているし、草原だって・・・いや、そういえばあの世界における草原は、燃える火のような草だったな。
夜は地上から空をライトアップする炎の海原みたいにメラメラと綺麗な草原をしている。
こうして映像として見ても、私が訪れた頃から変わっていない自然環境のようで、どことなく安堵している。
しかし、映像に異物が登場するのはすぐだった。
それはスライムのように液体が密集して動くモンスター・・・と思ったが、八つの脚で草原をカサカサと移動する様子に鳥肌が立つ。
さらに、その姿は蜘蛛を形作っており、スライムのような質感でありながらも虫という姿であるのが、実に不気味だ。
私は映像の再生中にあるが「これ、もしかして・・・アライラーを?」と問う。
道標人は「ええ。見ていればわかる事ですが、このモンスターはアライラー殿の模倣体です」と答えてくれる。
直後、映像に移っていたスライム風大蜘蛛モンスターは八つの眼からビームを放って、包囲を進めていた地獄世界の主な人種である鬼たちを蹴散らしていた。
何名かは地獄変から技を使って攻撃を防いでいたものの、包囲するべく移動していた人員の半数以上がビームで吹っ飛ばされている。
あのビームは、間違いなくアライラーが使う邪眼ビームだ。
「私が大王様の命で、現場に駆け付けた時にはアライラー殿の姿で暴れ回っておりましてね。後に門番たる牛頭馬頭。また、門の職員らに話を聞きましたところ・・・やって来た当初は吐瀉物そのものだったとのことでした」
・・・なるほど、北の谷底で何かが居る。とルッタが戦闘を是が非でも避けようとしていたのは、コレが原因か。
あの子の危機察知能力も、ブォームに負けず劣らずね。
「どうやら、閉ざした地獄の門を『一点集束。八連邪眼バスター・ビーム』で吹き飛ばし、こうして中に侵入してきたようなのです」
アライラーの必殺技か。アレなら、それも可能か・・・。
それにしても、暴れ方が凄まじい。
縛鎖閻魔錠という技で取り押さえようとするも、身体に鎖を巻きつけたと同時に溶解して取り込まれている。
職員たちがそれぞれに技を放つものの、アライラー・モドキは凄まじい瞬発力で回避して見せている。怪獣サイズの巨体でありながら、シュバッと移動する姿には鬼たちも翻弄されているようだ。
「これ・・・間違いなく今のアライラーより強いわ」
「はい。私も、こうして今の主殿とアライラー殿の実力を見させていただきまして、こっちの方が強いと確信しております」
モドキなどではない。こいつはコピー・アライラーという方がいいだろう。
元よりも強化されているというわけではない。
この戦闘を見る限り、攻撃の威力やレパートリーはアライラーと同じだ。だが、こっちのコピー・アライラーが、アライラーより強いのは判断力の高さだ。
牛頭馬頭を含む地獄変を修めているだろう地獄職員たちが薙ぎ倒されているのは、彼らの攻撃を見てから瞬時に対応を判断して動いているからだ。
アライラーであれば〈おっとっとっと〉とか言いながらワタワタしつつ逃げ回っているだろう。そんな状況でもバスター・ビームで応戦しながら回避行動で間合いを常に意識している。
正直、あの子がこれくらい出来るのが理想なんだが・・・。
そして何よりも驚いたのは―――。
「ドリリング・ドライバーが使えるのか」
「はい。私も最初は困惑しました。あのようなドリルをロケットパンチみたいに打ち出す技は知りませんでしたので」
実際に地獄変を使っているわけではない。
溶解液を鎖状に変形させて、ドリリング・ドライバーを再現している技だが・・・コレを避け切れずに巻き込まれてしまった職員の身体が、一部とは言え瞬く間に溶けて無くなったのを見て、本家本元よりもエグイ攻撃になっていることにドン引きする。
「あの職員。本当に大丈夫なの?」
「大丈夫です。鬼はあの程度で死ぬほど脆くありませぬ。地獄変を正規に習得している者でもありますから、心配は無用ですよ」
ルッタの生命力が高い理由は、地獄変の影響からかしら?
すると、空に・・・地球におけるカラス天狗によく似た有翼人種が現れる。
修験者のような恰好をしているが、皆がその手に地獄変を持っていることで、地獄では標準的なアイテムだったりするのか?と、私は認識を改める必要があると思った。
使う技は遠距離からの爆破系攻撃のようで、何か技を発動させると一斉にコピー・アライラーへと撃ちだして、空中からの爆撃を開始した。
しかし、空中へとドリリング・ドライバーが打ち上げられると、その直後にバスター・ビームが放たれて、先に打ち上げられていたドリリング・ドライバーと激突。
ドリルの刃を成す鎖・・・その環の部品から小さなビーム弾が周囲へと放たれて、空中からの爆撃を行っていたカラス天狗っぽい鬼連中が続々と撃墜されていく。
その様子は、スプリンクラーみたいで・・・空に向けて広範囲にバラまかれるビームには私も急降下で避けるか、バリアで防ぐかに迷うだろう。
・・・いや、強すぎー。
え? ルッタとアライラーの技を併せて使うという発想・・・こんな技、あの子たちは使っていないはず。いや、似たような技を使っていたか?
どんどんと、地獄中から増援が駆けつけてくれるのだが、コピー・アライラーはとうとう『手裏剣機動・ビーム刃』で集まってくる職員を一掃し始める。
キュアーンの強力な溶解液とアライラーの技が組み合わさったことで、もはや精鋭部隊ですら歯が立たずに撤退を余儀なくされている状態だ。
壊滅状態とはこういう状況を言う。という資料としては大変優秀な状況だわ。
わらえない・・・。
「私が主殿に召喚を促した最大の理由はご覧の通り・・・この結果、地獄の十王様・・・閻魔大王を除く・・・方々によって、ルッタ・レノーダによるテロなのでは?という疑いが掛かり、私めが参った次第です」
確かに、こんなものを見せられたら、疑いたくもなるか。
〇――再生終了――〇
「あれッ!? この後、十王達が駆けつけて倒すんじゃないの!?」
ここまで圧倒的に力の差を目の当たりにしたのだから、当然次は王たちが登場して、騒動を鎮圧するという流れだろうに!
地獄を統べる十王の実力。ぜひ見たい!
「申し訳ありません・・・ちょっとご勘弁を・・・」
え?
道標人がエラく申し訳なさそうな顔をしている・・・。カメラを思わず構えてシャッターを切るぐらいにカワイイ! そのまま! そのまま!!
「いちいち撮影をしないでいただきたい・・・と、まぁ、それは横に置きましょう」
「で? なんで勘弁してほしいの?」
問題はそこだ。なぜ勘弁してほしいのかを知りたいのだ。撮影は続けるが、そこは横に置いて置いてもらおうか。
「だから、撮影を・・・えーっとですね。長年に渡るデスクワークが祟っているのです」
デスクワークが祟っている?
まって、長年に渡るデスクワークが祟っている?
「まって、長年に渡るデスクワークが祟っているというのは、運動不足とかそういう?」
「そして皆、大酒のみばかりなので・・・」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・察し。
「ま、まぁー。倒すことはできたものの・・・あー、大変お見苦しいグダグダな戦闘になってしまいまして・・・どうか、ご勘弁を」
そっかー。
私が初めて地獄世界に降りたとき、閻魔大王って言えば大男だったけどイケオジ感出てた記憶がある。
さっき、最初の方で道標人が床を見ているだけのシーンで十王達の会話が聞こえて来ていたが、姿が映っていなかったのを考えるに・・・。
「まー。今回の件で十王様方への生活改善案が提出され、食生活の見直しと鍛え直しが始まりましたので、ご心配なく。すぐにでもキレッキレな栄光の十王へお戻りになられることでございましょうぞ」
いつの時も、希望だけは捨ててはいけない。
年齢を重ねると、なかなか厳しいのよねぇ・・・。
その辺は、ちょっと私も思い出したくないわぁ。
うん。
次回は、牧場でしばし休息。を予定しています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




