45 初心者にすら至っていない
こんにちは。こんばんは。
今回のお話は、牧場まであと少しなので頑張るお話です。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
春の気候と言えど、夜はまだまだ冷え込む事の多い時期・・・と思ったけれど、現在地が第一階層【春の区画】でも北地方にいることを考えれば、寒いのは当然か。
半纏を脱ぐとクシャミが出るぐらいには冷え込む夜のキャンプ地で、俺は半纏を着こんでアライラと今後の話をしていた。
〈とりあえず、バスター・ビーム改を打ち込んでおけば、あの鎧っぽいのにダメージはあるはずやん〉
「しかし、アレだけの機動力だから、回避・・・もしくはブレイクダンスの回転にビームを巻き込んで受け流すという防御と回避を同時に行うような荒業を使ってくるかもしれないぞ」
デッジマーを倒すべく、あーだこーだ。と、あーでもない。こーでもない。を繰り返している最中だ。
正直、実戦で突破口を見出すのが手っ取り早いと思えるぐらい、俺とアライラの会話は不毛の域に突入している。
「お二人とも、デッジマーの攻略はしばらく考えずとも良いですよ」
そんな所に、道標人が割って入ってくる。
「そもそも、かのモンスターとの戦闘は、私の我儘を聞いていただいたゆえのこと。主殿の実力を見せていただきましたので、当初の予定通りにまっすぐ東を目指していただいて構いません」
実力を見たって・・・。
「道標人。ほんのわずかな戦闘を見ただけですよね?」
「十分です。召喚時に主殿の記憶情報もいただいておりますから、実際に自身で見て、情報を照らし合わせることで実力の程は把握できました」
・・・なるほど。
「では、道標人から見て、今の俺はどの程度の評価となりますか?」
洞窟迷宮から、多少は成長しているとは思っている。
マリーさんに想定より弱いと言われてしまったが、地獄からの使者である道標人から見ても、俺は弱いのだろうか?
「ハッキリと申しますと・・・弱いのは確かですね」
・・・そうか。やっぱり弱いのか。
「しかし、転生前は十代の少年であり、今現在は5歳児であることを考えれば、むしろ異常なほど強い。とも評価できます。まぁ、環境が悪いですね」
「環境が?」
「さよう。このようなダンジョンに居れば、マリー殿が言うように『弱い』という評価になってしまうのは、このダンジョンには『強い』モンスターばかりだからと言えるのです。ならば、主殿はどう頑張っても『弱い』という評価にしかなりませぬ」
へぇ・・・。
たしかに。どう頑張っても『弱い』以外の評価ができないな・・・。
「ならば、気落ちしているだけ時間の無駄と言えまする。やる事はただ一つ。強くなる。でしょう?」
「・・・ふふ。確かにそうですね」
俺が弱いのは、環境が悪いから。
強くなれない原因ではなく、評価するための環境が悪いということ。
うーん。
第一階層に到着してから今日までを思い返してみれば、確かに俺が弱いという評価になるのは当然か。アライラが居なければここまで来れていないわけだし。
ならば、ダンジョンの外で生活をし続けていたとして・・・俺はどうなっていたのだろうか?
外で地獄変を使った時は、技の使用だけで全身血まみれになっていたし・・・賊にも襲われたことがあるけど、自滅しかけたし。
・・・アライラの鑑定で、俺はバグ進化によって超人化しているわけだが、これがどこまで今の俺に影響しているのか?がよく分からないしな。
まぁ、少なくとも頑丈な身体になった。というのは間違いないとは思うけど。
「まぁ、そんなに思い詰める必要は無いという事よ」
マリーさんが、俺の頭に手を置いて言う。
「言うなれば、おまえはまだ『初心者』なのだから、これから―――「―――初心者?」
道標人だ。
彼が、マリーさんの言葉を塗り潰すように、言葉をぶつけて来た。
「今、マリー殿は主殿を『初心者』と申されましたか?」
「・・・ええ。違ったのかしら?」
沈黙。
アライラがどこか落ち着かない感じで身を引いているのは、道標人から恐ろしい圧が出ているからだろう。
マリーさんも、冷や汗を流し始めている。
しかし、道標人は短く息を吐くと、自身の失言であると言わんばかりに頭を掻き始めた。
「参りましたね・・・つい反応してしまいました。どうか、お気になさらず」
「さすがに無理です」
正面から、道標人を見つめて言うと、彼は自分の頭をペチペチと叩き始める。
「いやはや、私もまだ未熟者ということか・・・仕方ありません。本来、地獄変の使い方などを指導することはご法度ですが、一つだけお教えしましょう」
どんな事を教えてくれるのだろうか?
「地獄変の使い手で『初心者』というのは『地獄能』を扱えてからとなります。残念ながら、主殿は初心者にすら至っておりません」
・・・。
・・・???
ん? どういうことだろうか?
〈お地蔵さん! るっちゃんは『地獄能』?ってヤツをよく使ってるよ!〉
「そうですね。使っているだけです。使うだけなら誰でもできますからねぇ」
〈どゆこと?〉
どういうことなんだろうか?
「どういうことなのか?は、ご自分でお考え下さい。自分で答えを出すことこそが、地獄変も応えることなりましょう」
それ以上は、なにも言わなくなった。
道標人が教えてくれたことを考えること。コレが俺に出された課題というわけか。
〈もっと教えてくれてもよくなーい?〉
「よくないのです」
〈むーん・・・じゃ、今度は私が強くなるにはどうしたら良いかを教えて!〉
「主殿が作るご飯をしっかり食べていれば、あなたは強くなりますよ」
〈えー?〉
アライラと道標人で何か楽しそうに話をし始めたようだが、俺はそっちに構っている余裕は無かった。
地獄変を使う上で、道標人より得た貴重な情報を自分なりに読み解かなくてはいけない。
ポイントは『初心者に至っていない』ということ。
地獄変における初心者というのは『地獄能』を扱えるようになってから・・・俺は使っているだけ? 使うのと扱うのって、言葉的な意味はどう違うんだろうか?
つくづく、地球のインターネットに接続できるような道具が欲しいと思う。
「ルッタ」
考え事をしていると、俺の頭に手を置いてから優しく撫でてくれるマリーさんが声を掛けて来た。
「あまり深刻に考えてはダメよ? 地獄というのは、常になぞかけをしてくるのだと思いなさい」
「謎かけですか?」
「そうよ。考えないものに考えるよう促すこと。こっちに道がある。あっちに道がある。さぁ、おまえはどの道を進む?と、常に問いかけて考えることを促してくるのが地獄という場所なのよ」
空を見上げて、昔の自分を思い出すように語る。
「・・・昔、閻魔大王から逃げた私だけど・・・そんな感じで帰り道を教えてもらったからね」
あー・・・あの頃は若かったなー・・・って顔でしたか。
まぁ、でも・・・。
使うと扱うの違いって、今、考えるのはそこじゃないよな。ってことは確かなので、本題をしっかりと考えよう。
・・・どうあれ、進む以外に選択もない。ってことか。
▽
考えても、答えが出ない事は多々あるモノだ。
今すぐでない答えであるならば、とりあえず保留にしておくのも手段だろう。
言い訳でしかないが、こんな草原のど真ん中でキャンプし続けるのも厳しいので、まずは海へ潜るための拠点を予定している『春の牧場』を目指すとしよう。
ってことで、デッジマーとの再戦を回避し、まっすぐ東ルートを進むこととする。
〈でー? モンスターはどこにおるん?〉
マリーさんから地図を見せてもらい、現在地は次のモンスター縄張り地域に侵入済みだ。
周囲をよく見まわして、モンスターの影を探しているわけだけど・・・影も形も見つからない。まるで、北西で谷の途中でモンスターを無駄に警戒していた時のようだ。
「実はモンスターとかいませーん。とか?」
「いるわ」
そうですか。居るんですか。
ならばなぜ見つからないのか?
「アライラ。邪眼センサーでの索敵は?」
〈反応なし。地中にも居ないっぽいから、マジでどこに居るのか分かんねぇい〉
お手上げ状態じゃないか・・・。
こういう時、地獄変で敵を探す技とかあるのか?
ちょっと地獄変を召喚し、巻物を拡げてみる・・・うーむ。
〈ちょっとー。索敵サボらんといてー〉
「あ、ごめん。地獄変でも索敵系の技が無いか?と思って読んでいたんだけど・・・」
〈それ、そういう取説系じゃないんでしょ?〉
「まぁ、そうなんだけど・・・不思議な事に、技がこう・・・脳裏に浮かんでくることがあるわけで」
〈あー。前に谷でやったアレね? 咀嚼谷だっけ?〉
「そうだね」
あの時も、大量の吐瀉物を一気に処理する術を考えるために地獄変を読んでいた。
すると、かの『怪口怨嗟咀嚼谷』という技が思いついた。
考える事で、地獄変が応えてくれる。というのは、こういう事なのではないか?と思い、今、それを実践してみているのだが・・・そう簡単なモノではないようだ。
あの時と、今での違いは・・・。
「マリー殿。主殿の邪魔をするのは止めなされ」
「しー。邪魔しているのではない。道中の記録を撮っているだけよ」
「何をキリッとした顔されている。撮影中のだらしない顔で、実に邪な欲求からの行動ではありませぬか!」
「あー! そこは黙ってて! 集中している時のルッタは、私が何をしていても気づかないから撮影チャンスなのよ!」
「はぁ!? どういうことですかマリーさん!?」
集中こそしていたが、聞き捨てならない会話の内容だったので意識が引き戻された感覚だ。
「あ、ほらバレちゃったじゃないの」
「あなたは、もう少し自重なさい」
二人でコントをやっているようだが、笑って拍手をしてやれるほど俺という人間は成熟していない。
「・・・今まで、無断撮影してたんですか?」
「ふ。自分の子供たち、そして孫たちを思い出してね。懐かしい。地球での思い出は形として持ち出せなかったからね・・・」
「開き直ってカメラを構えるなッ! 叩き割るぞッ!!」
もちろん、今の俺ではマリーさんのカメラを叩き割るなどできるわけもないが、意思表示だけはして置かねばならない。
そうとも。
俺は怒っているのだと、意思を示すことは重要だ。
さらなる追求をして、マリーさんを追い詰めていく必要がある。と思ったときだ。
〈るっちゃん。空がちょっとオカシイ感じなんだけど?〉
アライラの報告を受けて、即座に空を見上げる。
道標人も同様に空を見上げているが、マリーさんはカメラを丁寧にリュックへしまっている様だった。
「空が変というのは?」
今は、アライラの報告に対する方が重要なので、確認する。
〈うーん・・・なんか、こう・・・たまーに・・・空が歪む?〉
空が歪む?
空がどのように歪むのか?と説明を求めようとも思ったが、自分で見た方が早いと思うので注視する。
しかし、俺の視界には普通に青空が広がっているようにしか見えないのだけど・・・。
〈あ、ほら、あそこ〉
・・・え? どこ?
前足で〈あそこー〉と指差すようにしてくれているが、ちょっとよく分からない。
そもそも、陽射しもあるせいで眩しいのだ。
太陽を隠す雲とかが通りがかってくれると助かるのだが、今日はいい天気である。陽射しは気持ちよくて、春の暖かい気温に眠気が誘われる。
そんな時に限って、俺の視界にキラキラとした線が見え始めた。
〈あーッ! アレアレ! アレやで!!〉
「あの、陽射しを照り返すように光っている・・・線? いや、輪郭?かな?」
アライラが言う通りで、空がの一部分がときおり歪み、それらが陽射しを照り返すように光る事で形を記す線のように空へ広がって・・・ぇぇ。
空に巨大な鳥の輪郭が描かれると、コレが俺たちに接近してくる事態になってしまった。
〈んが!? なんか物凄い巨大な鳥が降ってくるんだけど!!?〉
「あんなモンスターが空に居た!? いくらなんでも邪眼センサーに反応しないのはオカシイだろ!」
敵が、仮に姿を消すことのできる擬態能力を持っているとしても、万能邪眼のセンサーに動きさえ捉えられないのは明らかに異常だ。
これだけ巨大な鳥なのだから、羽ばたけば風が起こるはずだし・・・いや、バンダーガーのような航空モンスターなのかもしれない?
高高度はバンダーガーだが、空を飛ぶモンスターがアレだけというのも不自然ではあるか?
〈ええいッ! 輪郭が見えたんだから、本体はその中央だろがい!〉
「そうだ・・・バスター・ビームで身体を撃ち抜けば終わりだ・・・終わりかな?」
〈フラグ建てんなし! 邪眼! バスター・ビーム改!〉
なんだろう?
こういう時って、攻撃が命中することなく空へと消えて行く場合が多いと思うんだ。
そんな事を思ったからなのか?
邪眼バスター・ビーム改は、鳥の輪郭で、本体があるだろう中央部を・・・特になんにも起きる事なく通過して行った。
〈なんで!?〉
「姿を消す擬態能力じゃない? まさか透過能力!? 攻撃まで透過させたのなら、合点は行くか!?」
しかし、それなら輪郭が見えるというのはどういうことか?
攻撃を透過する能力なら、そもそも陽射しを照り返すような輪郭線など発生しないはず。
〈あわわわ! どんどん迫ってくるんですけどぉーッ!〉
「緊急離脱! あの質量に圧し潰されると、バリアでも耐えられないだろうからな!」
〈緊急離脱ジェーット!〉
八つの眼を使って、一気に空へと飛び上がりつつ、キャンプ地を目指して後退することとなる。
巨大な鳥モンスターからも一気に距離を取れるから、少しだけ気持ちに余裕もできる。安全の確保は最優先されるのがこのダンジョンだ。
「アライラ。突然の事で忘れていたけど、鑑定を!」
〈あ!・・・鑑定!〉
『鑑定対象を視認してください』
〈ホワッ!!?〉
「はぁ!?」
鑑定対象を視認してください!?
あそこで見えている鳥モンスターは、実は視認できていない!?
ど、どどど、どいうことだ? え? ただの透過能力とかそういう感じではなく、もしかしてどこか遠くから空に投影されているだけってこと?
今は昼間だから、輪郭くらいしか映らないけど、夜なら見事な姿が映えるということ?
おちつけ。
アライラの邪眼センサーに反応せず、鑑定でも視認できていない。
・・・うん。意味わかんね・。
何かしらのカラクリがあるのは間違いないのだけど、そのカラクリが何なのか?
「仕方がない」
〈撤退?〉
「いいや、こうなったらあの巨大な鳥モンスターを丸ごと消滅させるしかない」
〈はー?〉
突拍子も無いことを言っているのは分かっている。
分かっているけど、もはやこんな正体不明の敵を相手にアレコレ考えるのも面倒くさくて疲れるだけだ。
それなら、一撃で消し飛ばすのが一番いい。
「手順は簡単だ。前に戦ったワーンの攻撃で、カメラのフラッシュみたいに放たれたビーム攻撃は覚えているか?」
〈おー・・・アレね? それをどうするんの?〉
「・・・一点集束。八連邪眼バスター・ビーム改を、それに変更するんだ」
〈おぉ!! その手があるか!!〉
正直、そんなにうまくいくとは思えないけれど・・・熱線として発射しているビームを、フラッシュのように広範囲へ拡散させて、どこまで威力が維持されるのか分からないし。
そこはもう、万能邪眼の働きに期待するしかないだろう。
「よし! やるぞ!!」
〈よっしゃーっ!〉
錫杖を彼女へ突き立て、魔力の急速充填を行う。
〈魔力充填120%!!〉
・・・・・・今、思ったんだけど? なんか魔力充填120%が定着していないかな?
ちょっと喉の奥から血の香りが上って来て、俺の鼻を刺激してくるんだけども・・・って、声に出そうものなら吐きそう。
〈一点集束! 八連邪眼!! バスタぁぁぁぁああああああああ・・・・・・・・・・・あー。ふらああああああああっしゅ!!!〉
・・・フラッシュ以外のカッコよさげな言葉が思いつかなかったんだな?
ぐだってしまったものの、カメラのフラッシュみたいにわずかな一瞬だけの光が炸裂すると、次の瞬間にはこちらを追いかけて来た巨大な鳥モンスターが、その輪郭線をわずかも残すことなく消し飛んでいた。
そして、草原が火の海に変わっていた。
「・・・消火! 消火!!」
なぜ、草原が火の海になっているのか?
それはおそらく、フラッシュの範囲が広過ぎたからだろう。巨大な鳥モンスターをまるごと消し飛ばすために、可能な限りの広範囲で放ったのだから、こうなることは予想もできたずだったが・・・。
〈うおおおお! 邪眼マジック! スクランブルウォータースライダー!!〉
それ、微妙に意味がオカシイと思うんだけど?と、指摘しようとしたら、血が口から飛び出した。ちょっと、立て続けに大技を使い過ぎているな。
と、彼女の邪眼・・・それも八つ全てから水が噴き出して・・・物凄い絵面だ・・・。
〈非常消防士! アライラー! 消火活動を突貫します!!〉
・・・おねがいしまーす。
▽消火活動▽
▽
▽
▽活動終了▽
こうして、日暮れまで広範囲で燃え盛る草原を駆けまわり、ようやくすべての火を消し終えた時には・・・全身血まみれでマリーさんから治療を受けていた。
というか、駆け回っている最中に全身から血が噴き出たので、もはやマリーさんから治療を受けながら血を噴いている状態で消火活動をしていた。
「・・・さっきのバスター・フラッシュは、今後、地上には使わないでくれ」
〈言われなくてもー・・・ふへ・・・誰が使うかぃ・・・つかれたぁー〉
本当に、物凄い範囲の草原を文字通りに火の海にしてしまったため、邪眼マジックの水は出しっ放しにするしかなかった。
それはつまり、俺の魔力供給がフル稼働している状態だ。
機械だって、最大稼働を長時間し続ければ壊れるものだし、俺は生身の人間だ・・・でも、なんで俺は失血死していないんだろう?
「ふむ・・・まだ夜まで時間もあるし・・・このまま牧場まで移動しましょう」
マリーさん・・・それはちょっと・・・。
〈マジかー。今日はもう、ここでキャンプしようぜー〉
アライラが不満を口にするが・・・次の瞬間に悲鳴が上がる。
〈ぁいだだだだだだだあだだあだだだだだ〉
どうしたんだろうか?
筋肉痛?のわけもないだろうし・・・。
〈ちょ! ちょ! 誰か! 私の足! 私の足!〉
「足って言うけど、八つある足のどれ?」
〈そこ、そこの・・・えーっと! 右後ろ足・・・一番後ろの右足!〉
「・・・道標人。申し訳ないのですが、ちょっと見て来てもらっていいですか?」
「かしこまりました。見て参ります」
俺のお願いに、素直に受けてくれたのはちょっと驚いた。
基本的に手助けしない方針だと思っていたが、さすがに俺がこれ以上の技を使うのは危ないと判断したのだろうか?
そうしていると、道標人が「これは!?」と言いながら、何か技を発動してアライラの脚を切断してしまった。
〈ぎゃあああああああああああああ〉
「も、申し訳ありませぬ。コレはもう切り落とさねば取れませぬゆえ」
そう言って、道標人が引きずりながらアライラの前に投げたのは・・・彼女の右後ろ脚。そして、これに何かが巻き付いていた。
〈ぎゃっぎゃ・・・って、なんか巻き付いてるんだけど!?〉
「なんだ? アライラ。その巻き付いている物を鑑定してみて」
〈よ、よーし・・・鑑定!〉
『メート。異世界ヨテマヨチに生息する虫。群れで行動するこの虫は、あらゆる生物の姿を模倣する知能を持っており、互いに連結することで一本の紐のようになって模倣する生物を形作る。これにより、地上で鈍足の獣に化けて接近したり、空中で最弱の鳥に化けて強襲したり、人間顔負けの多彩な戦術で襲い掛かる。しかし、生物を模倣するとはいえ輪郭だけであり、電線程度の太さであるため発見しづらい。これにより、襲われるまで気づかない場合が多く、獲物に接近すると巻き付いて絞め殺してくるために逃げるのも難しい。ちなみに、茹でてワサビ醤油で食べるとカレーの味がするらしい(未確認)』
〈最後の情報・・・いる?〉
「いらない」
ため息が出た。
そして、疲労が一気に押し寄せてきた。
さっき、空に羽ばたいていた巨大な鳥モンスター・・・の輪郭はこいつが・・・いや、群れで連結したこいつ等が描いていた擬態だったわけだ。
電線程度の太さって・・・遠くから見たら糸とさして変わらないし、カメレオンみたいに色を誤魔化す能力などがあれば、それこそ気づけないだろう。
あらゆる生物を模倣するとかいうが、輪郭だけ・・・それ、つまり『ワイヤーアート』みたいなモノじゃないかな?
でも、そう考えると納得もできる。
輪郭の中央部にいくらビームを放っても効果が無い理由は、本当にそこには何もないから。
初めから、輪郭線を攻撃していればよかったわけだ・・・。
「―――と、そんな感じのモンスターだったわけだね」
アライラが飽きないように手短に説明をする。
〈はぁ・・・で、生き残った奴が居て、私の足に巻き付いて来たって感じー?〉
「そういう事なんだろうね」
群れが無事だったなら、アライラの全身に巻き付いて絞め殺すこともできただろうが、残ったのは僅か・・・というか、一匹だけっぽい・・・いや、もしかしたらこのエリアをもう一度探し回れば、まだ生き残りがいるかもしれない。
でも、もうそんな気力はない。
残った一匹を邪眼ビームで焼き殺し、切断した脚を『カタチナセ』で修復。
そうして、今日はここでキャンプを・・・。
「さぁ、牧場を目指しましょう」
マリーさんに強要されたので、このまま牧場を目指します。
〇
〈目標視認!〉
牧場の施設も、もうすぐそこだというのに・・・最後のモンスターが立ちふさがった。
この難局を乗り切れば、牧場に到達できる。
「そうだね・・・」
しかし、最後のモンスターはどんな強敵なのかと警戒していたのだけど・・・。
〈・・・ねぇ? アレって牛だよね?〉
「うん。牛だね・・・ホルスタインって言うんだっけ? 黒と白の定番・・・」
そう。
牧場前、最後のモンスターは・・・『牛』そのものだった。
モドキでもなんでもない。間違いなく『牛』である。牧場の定番。黒と白のホルスタイン種。
唯一・・・そう! ただ唯一違う点を挙げるのならば・・・それはもう・・・サイズだけ。
怪獣サイズのホルスタイン。
・・・。
「とりあえず、鑑定を」
〈ほーい。鑑定!〉
『ブォーム。異世界バケユビタに生息する牛の一種。通称『旅する牛』と呼ばれている。草食獣であるが一つの場所に留まる事が無く、世界を旅するように食べ物を求めて移動する。性格は温厚で、戦いを仕掛けることはほぼ無く。追い詰められた場合に限られる。また、危険を察知する能力に長けているため、災害時には避難場所をいち早く発見する能力に優れ、彼らの居る場所は安全であるという目印として活用されている。・・・が、狩る場合は注意が必要。絶体絶命の窮地に追い込むことなかれ。おそらく、あなたは知るだろう。追い詰められたモンスターは、噛むだけでは済まさないことを』
「なにが起きるのかを説明しろッ!!!!!!!」
意味深な事が解説されているが、中身が無いのが非常に腹立たしい!
絶体絶命の窮地に追い込むな? こんな開けた場所で早々に起こるようなことでもないだろうし、仮に追い込んだとしたら、何が起こるというのか?
窮鼠猫を噛む。
そんな事態が生じるのであれば、避けたいところだが・・・。
〈君は知るだろうッ!〉
「なにッ!? 突然どうした!?」
急に声を上げたので、驚き過ぎて心臓が口から飛び出すかと思った。
〈あ。つい・・・あの文言を見ると、声を出して言いたくなるセリフでさー〉
「な、なんだそれ・・・」
あの文言て『おそらく、あなたは知るだろう』の部分か? アライラが声に出して言いたくなるようなセリフなのか?・・・それよりも、なんか余計に疲れた。
あー、もういい。とにかく進もう。
「どうやら、下手に追い込んだりすると、酷い反撃を受けるってことだろうから・・・とりあえず刺激しないように注意して牧場まで移動しよう」
〈・・・今日のご飯に一匹ぐらい狩っても良くね?〉
ウッスの肉も、まだ心配するほど消費しているわけではないが、できる限りで温存しておきたいのも事実だ。
しかし、すでにフラグを乱立しているのは間違いない。
ここで狩りを行えば、きっと俺達は知るのだろう・・・鑑定に記された通りの何かを。
「今日は牧場に入って、しっかり休んでから改めて狩ろう。何が起きるかも分からないんだから」
〈むーん・・・りょーかーい〉
不満そうではあるが、疲れているのは彼女とて同じこと。
片手間で狩れなかった時のことを考えれば、素直に牧場で休むのが一番だと分かってくれたはずだ。
「隠れ蓑結界はそのまま維持。念のため、ブォームに接近しないよう大回りで牧場を目指そう」
〈ほいほい〉
トコトコ。と、この身を隠しつつブォームとの距離をしっかり開けながら、牧場へ向けて移動を再開する。
十分に距離を開けているし、隠れ蓑結界で隠れているから気づかれる心配はない。
―――はずだったんだ。
「ぶもぉぉぉぉぉぉおうぅぅぅぅぅぅぅぅ」
けたたましい鳴き声が聞こえると、群れのブォーム達が一斉に鳴き始めて黒ブチ模様が赤く光り出す。それと同時に、顔が一斉にこちらを向いた。
「な、なんで?」
〈あ、るっちゃんアレー〉
俺がブォーム達の動きに驚いていると、アライラが前足で前方を指さしながら声を掛けて来た。
その指し示される先には・・・子牛が数頭・・・。
「「「「「「もぉぉーぅ! もぉぉーぅ!」」」」」」
すべてが震えあがって涙をボロボロと溢しながら、助けを求めるように鳴いており・・・それに親牛たちが反応したのだろう。
だけども・・・なんでこっちを見ているんだ?
「アライラ。隠れ蓑結界は?」
〈ちゃんと機能してるけど?〉
・・・。
・・・・・・あ、危険を察知する能力が高いって・・・第六感レベルなのか?
「「「「「「ぶもぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉっぉ」」」」」」
親牛たちが一斉に鳴き始めると、頭の角が光りを放って空高くに伸びあがる。これと同時に、両目が光り回転して瞬き出すと、こちらに向かてレーザーのような光線を放ってきた。
「レーザー!?」
〈うわわッ!!〉
驚きの攻撃に、アライラは即座に飛び退いて回避してくれるが、レーザーには攻撃性が無かった。
〈あれ? 特に痛くも無いし熱くも無い?〉
地面に当たっても燃える様子はなく、アライラの身体に命中しても穴を空ける様子もない。
ただ、このレーザーには見覚えがある。
そう・・・。
「レーザーポインターッ!? アライラ、緊急離脱だ!!!」
このとき、俺は判断を間違えた。
レーザーポインター。と驚いている場合ではなかったんだ。
ここで即座に「緊急離脱!」と言えていたならば・・・。
〈緊急離脱ジェー―――〉
角より伸びた光が、殺意を帯びた真紅の撃鉄と見紛うように角を頭の中へと押し込んで、その光が回転する両目から殺意に満ちたエネルギーが瞬くように輝きながら、こちらへ飛んで来る。
そして刹那のタイムラグから、俺の視界が赤、白、そして黒へと塗りつぶされて、鼻を刺激する微かな空気の焼ける臭い、耳を破るような轟音から音が消え失せ・・・。
俺たちは、閃光にのま―――。
次回は、マリーと道標人。を予定しています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




