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44 デッジマー。マッジデー?

こんにちは。こんばんは。

四月になりました。寒暖差のせいで、まったく四月であるという実感が得られない今日この頃です。


今回のお話は、前回に続いて北東を目指すのですが・・・ちょっと寄り道します。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

 気怠さを覚えながらも、朝のラジオ体操をすることで身体を慣らしていく。

 昨日は疲労からか、目を閉じてすぐに寝てしまったようで・・・目が覚めたらテントの中で寝ていたことにちょっと驚く。

 そうして、朝日が昇る様子を見つめながら、今日という日が始まったことを嬉しく思う。

〈るーったー〉

 ・・・綺麗な朝日が昇っているというのに、なんだか調子の狂う声が響いてくる・・・というか、寝坊助なアライラが珍しくも早朝に起きてくるとは驚いた。

「おはよう。ずいぶんな早起きだね」

〈そんな事より、すぐにお地蔵さんを召喚するんだ!〉

 は?

「え? なんで?」

〈早くしろ! 間にあわなくなっても知らんぞッ!?〉

 話がさっぱり見えない。

 なぜ早朝の初っ端から『お地蔵さん』を召喚する必要があるんだろうか?

「・・・今すぐに召喚しないと、マズいことでもあるの?」

〈うん、そんな感じ〉

 よく分かんないけど、まぁ・・・とりあえず召喚するか。

「地の深淵に我が力を以て求める」

 いつも通りだ。

 気怠さこそ感じるが、身体の調子はいつも通り。これなら負担も少なく呼べる。

「地獄道・地蔵菩薩大道人」

 そう。

 いつも通りにアライラと同サイズとなる地蔵を召喚し、こうして彼女の要求に応える。

「おはようございます。・・・して? なにかご用で?」

〈ご用って、それはお地蔵さんでしょ! 人の夢に入って来てさー。るっちゃんに召喚するよう言ってちょうだいとかー。なんなん!?〉

「ええ?・・・私はアライラー殿の夢にお邪魔しておりませんが?」

〈はー! 人がせっかくもう少しで大勝利できるかもしれなかったというのに!?〉

 ・・・。

 ・・・・・ふむ。

「アライラ。ちょっと落ち着いてくれ」

〈なーにー?〉

 まずは、話を整理する必要があるだろう。

「まず、夢の中に現れたお地蔵さんというのは? そこから説明してくれないと、分からない」

〈むーん・・・面倒だ。私の記憶を見てくれい!〉

 邪眼が光り、中空へと表示されるスクリーン・・・そうして、アライラが見た夢が始まる。

「ちょっと待った!!」

〈うん!?〉

 スクリーンには、宇宙空間が表示されており・・・背景とは思うが、光線系の光が飛び交っては爆発が生じたりしている。

 あと、宇宙要塞と思われる物体が背景に混ざっていることから、きっと最終決戦みたいな夢なんだろう。

 うん。これは間違いなく長くなる。

「アライラ。とりあえず、前置きはいらないから本題を出してくれ」

〈ッ!!?・・・そんな! 私の激闘を見たくないと!?〉

 どんな夢であるのか?は確かに興味がある。

 しかし・・・。

「君が地蔵の召喚を急げと言ったんだろう? 召喚を急がせたいなら、地蔵が出てきた場面までスキップしてくれ」

〈むぐぐ・・・ええい、えーっと・・・確かこの辺・・・〉

 そんなタッチパネル風に前足を当てて該当再生時間にスキップ操作できるのか・・・便利。



〇-アライラの夢、中略-〇


「ふははは! どのみち私の勝ちだ! 虹演出が始まれば、最高レアキャラは確定する!! 人が数多望む大勝利だ!!」

 八つの眼が備わっている人型ロボットが、あちらこちらに被弾して破損している状態で高笑いしているのは、不気味過ぎるな。

 何と戦っているのかはさておき・・・地蔵はどこだ? 


「地獄冥・夢心静透現想歌・業火の祓い」


 かん。

 錫杖を突いて音を鳴らすと共に、業火が噴き上がって夢空間全体を焼き払い始める。

 そうして、宇宙空間は燃えて姿を失っていく。

 幾多の星々が光り瞬く背景・・・この中で虹色に光る隕石のような物があり、コレを見て彼女は『虹演出』として最高レアキャラが確定した。と判断したようだ。

 叔母が遊んでいたソシャゲも似たような演出があったな・・・よく悲鳴上げてたけど。

 

 そうして、夢空間が業火に焼き尽くされて、後に残るはアライラただ一人。


「いやはや、まさかアライラー殿の夢とは・・・はぁ・・・主殿の夢枕に立つはずが、なにゆえか」

 宇宙空間を失った夢世界は、よくある青空と、よくある草原・・・に見間違えるくらい草みたいな炎が燃え揺れている大地が広がっている。

 その中で、大蜘蛛のアライラがどこか呆然とした様子で立っていた。

〈あー? あーれー? あ、お地蔵さん?・・・あ! まさか私の大勝利を邪魔したのは!?〉

 地蔵から声を掛けられて、ようやくと意識が再起動する彼女が怒りを露わにするものの、威嚇された当人は首を傾げて見せた。

「大勝利? 何を以て勝利とするのかは分かりませぬが・・・アライラー殿、精神修行でもなさっておられるので?」

〈してねーし! してねぇーしぃ!!〉

 全力で否定しているが、どうにも苦しい。

「まぁ、そうでございましょうな・・・ところで、すぐに目を覚まして、主殿に私を召喚するようお願いして来ていただけますか?」

〈はぁー? なんで私がー?〉

「なぜか? 理由は不明ですが、アライラー殿の夢に入ってしまいましたゆえ、私はお願いするしかありませぬ」

〈そ、そんなことのために、私は夢を・・・ちくしょーッ!〉

「あ、私は―――」


〇-夢。終了-〇



〈って感じよ!〉

「・・・最後、地蔵が何か言おうとしていたようだけど?」

〈え? 今すぐ起きろって言ったのはあっちだし、お地蔵さんなんだから、お地蔵さんを召喚するだけだと思ったんやけど?〉

 なるほど、あんまり地蔵の技名には興味がないようだな・・・大道人とか呼んでいるんだけど。

「まぁ、いいか。とりあえず召喚する地蔵は見当がついたし・・・」

〈ふーん?〉

 俺の事を主殿と呼ぶ地蔵。

 おそらくは、地蔵菩薩道標人だろう。と推測する。

 なんでアライラの夢でため息を吐いているのか知らないが、その辺りの事も召喚してから確認を取ればいいだろう。

「とりあえず、大道人は機能を停止してくれ。ランドセルに収納しておくよ」

「かしこまりました」

 せっかく召喚した大道人だ。緊急時に取り出せるようにストックしておくのがいい。

 機能を停止してただの巨大な地蔵となった大道人を、魔改造ランドセルに収納する。ちゃんと収納されている事を確認してから、改めて召喚に移る。

「地の深淵に我が力を以て、求める」

 洞窟迷宮にて、俺たちを第一階層まで案内してくれた地蔵。

 まさか、このようなタイミングで再び召喚することになるとは、ちょっと考えていなかった。

「地獄道・地蔵菩薩道標人」

 錫杖を地面に突き立てる。

 そうして、俺から八連邪眼バスター・ビーム改に同等の魔力を一気に持っていかれて、吐血した。

 俺、以前呼び出した時と同じぐらいの魔力で召喚するつもりだったので、この不意打ちに身構えていなかった。

 うぐ・・・口の中が血で・・・。


「地蔵菩薩道標人! ただいま参上つかまつり!」


 ぽーん。

 そんな擬音を当て嵌めたくなるような声音で登場する道標人。

 ちょっと殺意が湧いたのは言うまでもない。ちょっとかわいい感じの声で、何をほんわかした口上で登場しているんだよ・・・。

「ふぅー。無事に召喚されましたか・・・アライラー殿。感謝申し上げまする」

〈あー・・・うん。どうも・・・〉

「おや? 何を吐血されておられるので? 主殿?」

「まずはどうされましたか?と、聞くのが人情というモノでは?」

「わたくし、石像ですので・・・地蔵としての慈悲は持ち合わせておりますが、人情はちょっと」

 ・・・くっそ。

 ちょっと怒りで全身に力が籠ったら、鼻からも血が出てきた。

 頭に血が昇って、危険が危ない状況になりつつ・・・まずは冷静に、深呼吸を・・・げっふ。

「で? アライラの夢を邪魔してまで俺に召喚を求めたのは、どのような理由ですか?」

「はい。キュアーンとかいうモンスターの吐瀉物を送ってきた件にて、事情聴取・・・みたいな感じでお話をお聞かせいただきたく、地獄の閻魔大王様より使いの者として参上した次第」

 ・・・ごっほ・・・ぐふ・・・ごふ。

「いや、大丈夫ですか? さすがに吐血し過ぎと言うか・・・お尻からも血が駄々洩れておりますが?」

「ええ。ちょっと、ストレスで一気に内臓がクラッシュしたようで・・・」

 目の前が真っ暗になりそうなほどの激痛が全身を奔走している・・・冗談抜きでヤバい。


「ちょっと! 何がどうしたというの!!」


 マリーさんが飛び込むようにして俺に迫ってくると、スライディングしながら俺に抱き着いて、治療の魔法術を掛けてくれる。

 あー。俺もこの魔法術を使えるようになりたい。

「なんでこう! 目を離している隙ばかりに―――ん?」

 俺の治療をしつつ、俺の目の前にいる道標人を見るマリーさん。

 すると、どうしたことか?

「・・・・・・・・・・・・はぁ!? ぇぇぇぇぁぁあああああああああああああ!!!!!」

 奇声を上げたマリーさんが、顔を青ざめ・・・いや、真っ白にして逃げて行った。

 え? どうしたの?

 俺も何がなんだか分からずに呆然としたが、アライラも呆然としたようで・・・俺たちは逃げていくマリーさんを見つめながら言葉一つ発することなく、固まってしまった。

 しかし、道標人だけは冷静だ。

「ほぉ・・・あの方は、かつて地獄を訊ねて来た『ネフェルマリー』様ですね? いや、ずいぶんと印象が変わりましたな」

「・・・え? お知り合いなのですか?」

 道標人が知っている人物・・・というか、マリーさんて地獄に行ったことがあるのか? 前にそんな話をしていたかな? えっと、ちょっと思い出せない。

「私が知り合いというわけではありませぬが、かつて地獄を訊ねらして来た際・・・恋を拗らせて罪を重ねておられたので、しばし地獄で罪を清算されていかれては?と、閻魔大王様に」

 あー。

 そういえばパーラハラーンという女神と神世界でいう所の警察沙汰になるような殺し合いをしたことがあると言っていたっけ・・・。

「ふふ。恋を拗らせた恋の女神――「――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁてや、こらああああああああああああああッ」


 逃げていたマリーさんが「まてやコラッ」と絶叫しながら戻ってくると、道標人を抱えてどこかへ走り去っていく。

 ・・・どうしたんだろう?

 ぴゅー。っとすっ飛んでいく様子を見送りながら、俺たちは呆気に取られて何もできなかった。

〈・・・マリーさん。キャラ崩壊してね?〉

「・・・そうだね」

 そういう時もあるさ・・・うん。

 とりあえず、俺の身体はアライラの万能邪眼で治療してもらった。





「いやはや、恋する女神様の暴走は、止まらないのですな」

「いいから本題を始めてくださいよ」

 戻ってきた二人は、そして何かを話し合ったかのように口裏を合わせて大まかな経緯を説明してくれた。

 まぁ、要するに、地獄変の事を知るために地獄世界にアバターを送ったネフェルマリーだったが、予想外の閻魔大王による出迎えにビビって逃げ出したことがあるそうだ。

 それだけのことらしい。

 そういう事にしておこう。

「ところで、恋を拗らせた恋の女神というのは?」

「だ、ダーゼルガーンに恋していた頃でもあったから、恋する女神ってことよ」

「・・・はい。そうですね。なかなかの暴れっぷりだったとか? 見て見たかったですな」

 ・・・なんか隠し事があるようだけど、気にしないでおこう。

 マリーさんが道標人にビビっているのは、どういうことなのか?と思ったが、さっき「閻魔大王の使い」と言っていたから、おそらく閻魔大王の圧を感じたのだろう。

「では、道標人。閻魔大王の使いの者と言っていましたが・・・もしかして、前の召喚でもそうだったのですか?」

「んー・・・」

 あ、口籠った。

「そうですね。以前の召喚時も同様で・・・すでに主殿の道標人として私は組み込まれております」

 そうか、だからなんか偉そうな感じだったのか。

 それに俺の知らない技とかも知っていたし、使い方も知り尽くしている感じだったし・・・。

 道標というから、そういう地蔵なんだと思っていたが・・・それとはまるで別だったわけか。

「なるほど、だいたい分かりました」

「え? 今ので分かったので?」

「とりあえず、地獄変の使い方を指導してくれるのですよね?」

「いえ、しませんが?」

 ・・・・・・してくれないの?

「私は道標でございます。道を示すことはしましょう。が、懇切丁寧に教えることは道標の役割ではございませぬ」

 あ、そういう・・・そっか。

「それはそれとして、なにゆえ、あのような吐瀉物を地獄に送ってきたのか? 事情を教えていただきたく。責めるつもりはございませぬが、地獄とて阿鼻叫喚となり・・・門番である牛頭馬頭が泣いて逃げるという職場放棄をするほどの惨事となりましたゆえ」

「申し訳ありませんでした」

 俺が予想したよりも遥かにヤバい事態になっていた・・・これは、しっかりと説明をして誤解されないように気を付けないといけない。

 マリーさんをチラッと見てみれば「私は知らんぞ」と言わんばかりに顔ごと目を逸らされた。

 状況説明の補助をお願いしたかったが、やむ負えない。


「では、説明させていただきます」


▽説明中▽

▽説明終了▽


「ふうむ・・・なるほど、そういう事でございましたか・・・」

 地獄変を召喚し、コレを地面に置いて広げると・・・錫杖を置いて右手を服の袖に引っ込める。

 そうしたら、再び手を出した時には筆のようなモノが握られており、ふと気が付いたら左手には硯のような物があって、すでに墨のようなものが入っていた。

 見た限り、どっちも石みたいなんだが?

 コレらを習字のように並べると、俺の説明を地獄変に書き込んでいく。

 そうして、説明を終えたところで、聞いてみた。

「あの、その硯っぽいのと筆っぽいのは?」

「見たままでございます。とりあえず、話を報告する必要がありますため・・・」

 俺の説明を書き終え、さらに何か一言二言を書き加えたところで筆をおく。

 巻物を手にして広げた分を巻き取り納めると、錫杖を手にして地面に魔法陣のようなモノを描いてから業火で火を点ける。

 と、穴のような物が開いて、ここに地獄変の巻物を放り込んだ。

「これで地獄の閻魔大王様へ届きます。ご協力、感謝申し上げる」

「いえ、どうも・・・えーっと?」

「なんでございましょう?」

「道標人は、どうされるので?」

 巻物を持って、地獄へと帰るモノと思っていたが、どうやら違うようなので確認してみる。

 すると、道標人はニコニコしながら答えてくれた。

「はい。私は主殿の実力がどの程度向上したか?も確認したいので、しばしダンジョン探索に同行したく・・・よろしいですかな?」

 最後の確認は、俺にではない。

 マリーさんに顔を向けて、同行の許可を求める。

 一応、俺が召喚した地蔵であるはずなんだが・・・まぁ、保護者として同行してくれているマリーさんに確認を取るのは当然か。

「私は構わないわ。ただし、私の方針には従ってもらうからね?」

「ええ。余計な口出しなどはしないよう気をつけまする」

 さっき、二人で何かを話し合った際に、その辺も折り合いをつけていたのだろう。

〈んー・・・それって? つまりは、一緒に戦ってくれないってこと?〉

「はい。そうなりますな・・・聞けば、旅路は主殿とアライラー殿の修行も兼ねているとか。であれば、手出しは無用というモノ」

 やっぱり、そういう話しで合意済みだったか。

 戦力を増やす。という意味では、道標人を少し当てにしていたんだけど・・・まぁ、いざという時の保険が増えたのだと考えればいいか。

 とはいえ、マリーさんは本当にギリギリまで助けてはくれないようだから・・・道標人はどの程度で助けに入ってくれるのか?は、どこかで確認しておきたいな。

 ・・・いや、それだと死にかけるから止めておこう。


「さて、マリー殿。現在はどのような目的で移動されているのでしょう?」

 俺が召喚した時点で、ある程度の情報は得ているはずだ。

 この旅路は、北東の海を目指している物であることも、承知しているはず。

 とはいえ、それはそれとして、自身でもしっかりと情報を確認しておくわけか。あくまでも、俺からの情報であるため、間違いや勘違いなどが無いようにするには、確認することも大事か。

「現在は、北東の海・・・『海底ピラミッド』を目指して移動中よ。そこには、かつて悪の神々がノリと勢いで作った研究施設があってね」

「ふむ・・・主殿を強化するのが目的であるとか」

「強化自体は目的では無いわ。想定よりも弱いので、より強くするために詳細を調べておくのがいいだろう。という判断よ」

「・・・ふむ。なるほど・・・主殿はそこまで弱いので?」

「アライラーが強い分。少し、依存傾向にあるわ。判断力と魔力ポンプとしては、順当に成長しているとは思っているんだけどね」

「なるほど・・・私個人として、何か言えることはありませぬ。マリー殿。ここより先に、二人の実力を見る良き相手はおりますか?」

 ・・・何をさせるつもりだ?

「二人の実力を?」

 マリーさんも訝し気な顔をするが、すぐに平静な様子に戻る。

 そして、北、東、南方向へ顔を動かしながら、思案する。

「北東の海を目指す上で、拠点となる場所があるのだけど・・・」

 中空にウインドウを開いて地図を表示する。

 先日、俺たちに見せてくれた移動先を矢印で示す地図だ。

「このまま真っ直ぐ北東を目指す途中、春の牧場があるのだけど・・・ここを海に潜るための活動拠点として使う予定よ」

「ほほぉ」

「え・・・初耳なんですが?」

 先日の話しで、そんな事は聞いていないぞ。

「今、教えたからね。初耳なのは当然よ」

「・・・なぜ、先日に教えてくれないのですか?」

 教えてくれれば、こっちも幾分か気が楽になるというのに。

「変に教えて気を抜かれると困るし、牧場と聞いて、家畜がたくさんいると想像してワクワクされても困るし」

 ・・・いないのかぁ。

「あ、ほらその顔。いないと分かってあからさまにテンションが下がっているじゃないの」

 う・・・。

「だから、実際に到着するまで教えなかったのよ」

「それで? とりあえずの目標地点として、牧場を設定しているのであれば・・・その道中で相手にするモンスターの中で、お二人の実力を見るに最適なモンスターはおりますので?」

 道標人が話しを戻す。

 確かに、このまま北東を目指すようにと言われていたが、迂回すればまた違うモンスターが縄張りとしているエリアがある。

 つまり、進む道によっては難易度が変動するのが、この旅路だ。

「牧場へのルートは三種類。北回りルート。東ルート。南回りルート。で、北回りは運が良ければ四種のモンスターを同時に相手するだけで済むけれど・・・運が悪いと一種を相手することになる」

 ・・・ん?

 運がいいと四種類を一度に相手するだけ? 悪いと一種? 逆じゃない? どういうことだ?

「東をまっすぐ進むルートであれば、二種のモンスターが縄張りを並べているわ。とはいえ、今のこの子らであれば、さほど苦戦する相手ではないでしょう」

 なら、それでいいんじゃないかな?

「南回りは・・・かなり強いモンスターが居るわ。今の二人だと・・・最悪死ぬでしょうね」

 うん。そっちは無しだな。

「では、南回りで行きましょう」

〈はー!?〉

「待ってください道標人。マリーさんの話を聞いたでしょう? 最悪死ぬくらいには強い相手らしいんですよ?」

「そうですね。最悪・・・ということは、最良であれば死なぬということ。地獄変の使い手が、それで死ぬようでは務まりませぬよ」

 あー・・・そういうことですか。

「・・・分かりました。とりあえず、南回りで行ってみましょう」

〈えぇ・・・できれば、それほど苦労しないルートが良いんだけど?〉

 運が良ければ四種のモンスターを一度で相手するだけ・・・という北回りが一番危険な気がするな。運が良ければ。というのが、もうフラグだよな・・・絶対運が悪い一種のモンスターを相手することになるだろうし。

 そして、それは道標人も分かっているんだろう。

 だから、かなり強いモンスターがいるけど、最悪死ぬだろうというルートを勧めてきたわけだ。

「アライラ。まずは今まで通りで、モンスターを調べてからだ。慎重に行こう」

〈つまり、いつも通りってことねー? りょーかーい〉





〈お? 見えた見えた〉

 邪眼カメラ・アイが、モンスターの群れを発見する。

 まだハッキリとした姿を捉えたわけではないが、相当な数のモンスターが群れとなって密集していることは見て分かる。

 ただ、その密集具合に・・・ノットンと共通する点を見た。

「・・・なんか、回転しているように見えるが?」

〈ダンゴムシが独楽みたいに回っているとか?〉

 結構な数のモンスターが回転して何かをやっている。そんな絵面が映っているわけだが・・・ただの回転ではないだろう。

 ノットンは、クレーターをライブ会場として活用しており、中心部ではボスを筆頭にしたイケメンファイブなる五匹のノットンがアイドルさながらに踊っていた。

 それらを囲むようにして、雌たちが声援を送り・・・その雌たちを囲むようにして雄たちがずっと踊っている・・・バックダンサーみたいな感じだったが・・・雌に振り向いてもらえないという何とも悲しい構図だったな。

 さて、今確認できるこのモンスターたちはどうだろう?

「アライラ。もっと接近できそうか?」

〈やってるところやで〉

 邪眼カメラ・アイが接近するごとに、モンスターたちの姿が鮮明になっていく。

 ノットンとは違い、クレーターなどが無いこの場所で何をしているのか? 草原ではあるけれど、モンスターたちが密集する周辺は草が剥げているようだ。

 そうして、より姿が鮮明になってくると・・・。

「四足歩行・・・虫とは違う様子だな」

〈前にフラミンゴっぽい擬態してたヤツみたいに、脚を隠してるのかもよ?〉

 あり得るので、笑えない。

 その可能性も考慮しつつ、映像を見続けていると・・・回転している個体が、ときおりピタッと止まってポーズを取っている事に気が付く。

「なんだ? アライラ。このピタッと止まる瞬間を別ウインドウで表示できるか?」

〈えーっと・・・ほい〉

 別ウインドウを開いてもらい、回転するモンスターがピタッと止まる瞬間を一時停止にして見る。

 コレを、回転している様子と見比べてみた。

「・・・脚が、伸びている」

〈え?〉

「このモンスター。ピタッと止まるのに合わせて、脚が伸びているんだ・・・回転している時の脚は短いのに、ポーズを決める時だけ足が倍以上に伸びている・・・どういう収納方法だ?」

〈それって、虫系なら割とできるんじゃね? 私もほら、まっすぐ伸ばせば結構長くなるし〉

「確かに・・・」

 蜘蛛のモンスターであるアライラの脚は、パッと見でもさほど長くは感じないが・・・しっかりと伸ばして見れば背筋がゾワッとするぐらいには長くなる。

 つまり、このモンスターは虫系モンスターである可能性が高いということか。


 と、邪眼カメラ・アイがさらに接近して、より姿がハッキリしてくる。

〈おっと、邪眼カメラ・アイの飛距離限界〉

「・・・よし、こっちも接近するぞ。慎重に、周囲の警戒も忘れずに」

 隠れ蓑結界で姿を隠しているが、見つからないという保証もない。だからこそ、周囲への警戒も同時にやっていく必要がある。

 それでも、俺とアライラはモンスターの正体を突き止めるべく、にじりにじり。と接近を試みる。

 これに連動して、邪眼カメラ・アイもにじりにじり。と接近し・・・アライラがモンスターのやっている事が何であるのかに気が付いた。

〈るっちゃん。私、この回転が何かわかった気がする〉

「本当か!?」

〈うん。多分・・・これは、ブレイクダンスってヤツだよ。アニメでこんな感じで踊りながら戦うキャラを見たことあるわ〉

 ブレイクダンス。

 えーっと、確か・・・アメリカで発展したダンスだったか? 頭にヘルメットを被って、独楽みたいにクルクルーって回りながら踊るヤツ・・・うーん。

 俺の前世知識では、まるで役に立たないが・・・こうしてモンスターたちの様子を見れば、俺の覚えている限りの知識とまるで当てはまらないのは明確だった。

 腕で地面を掴むようにしながら体をエビ反りさせつつ腰を捻じり、勢いを殺さずに両足を振るう事で遠心力を味方に付けると、まるで小さな竜巻のごとく地面を転がりながらも激しい力を振り回す。

 一見すれば攻撃的で危険に思えるが、それらが抜身の刃を連想させる力強さを有していることから、間違いなく舞の一種だと理解できる。

 そして、ここまでハッキリしてくると、群れの構造も見えてきた。

 

 中央で踊るひと際大きい個体を、若干サイズダウンした六体ほどの個体が囲んで踊っている。それは、中央で踊る個体をより偉大に見せるための添え物みたいな踊りだ。

 しかし、芸術性が高く・・・素人目で見ても、ずっと見ていられる踊りであることから、間違いなくノットン系のイケメンファイブと同類だろう。

 中央のひと際大きい個体がボスと見て間違いない。

 そんな中央で踊る個体を囲んでいるのは、おそらく雌個体。ノットン雌とは異なる声援を送っているが、雰囲気が同じだ。

 そうして、それらを取り巻いている個体たちは、おそらくその他雄個体だろう。

「ノットンの同類と推測するが・・・どうだろう?」

〈あー、ノットンかー。なんかどこかで見た構図だなーって思ってたんよ〉

 同意を得た。

 やっぱり、あそこで群れているのはノットンに似た生態のモンスターであると見ていいだろう。

〈でもさ? ノットンよりは雰囲気は良くね?〉

「え?」

 映像を再度確認する。

〈ちょっと分かりにくいけどさ? 外周で踊ってるのって、雄と雌って感じじゃない?〉

 そう言われてみると、ノットンと同じで観客の雌に振り向いてもらえない雄だと決めつけてしまったが・・・確かに雄個体と見るには、雌と思われる個体も踊っているようだ。

〈あっちはライブ会場だけど、こっちはダンス会場って感じ? 楽しそうだよね~〉

 なるほど。

 オスもメスも一緒に踊って交流する群れ。というわけか・・・ノットンが悲惨すぎる気もするんですが?

「アライラ。鑑定はできそうか?」

〈うーん。もう少し接近しないとダメッぽ〉

「なら、もう少し接近してみよう・・・アレだけ踊っているから、気付かれるってことは早々無いだろうけど・・・」

 ノットンたちも、クレーターに接近していた俺たちにまるで気づいていなかったようだから、このモンスターたちも同様だろう。

 そう決めつけてしまったのが、間違いだった。

〈む!?〉

 慎重に接近を試みていたアライラだったが、邪眼の一つが「ピコーン」と音を立てつつ仄かに光り出したことで、動きを止める。

 そして、邪眼カメラ・アイを消して戦闘姿勢を取ると、頭を南へと向けた。

〈警戒範囲に敵影感知・・・群れ? 小隊規模って感じだけど・・・〉

「・・・あ、まさか食料調達の戦闘部隊か? ノットンにもあった奴だ」

 モットン。という亜種だったが、今回も亜種が居るという事か?

 いや、それよりもこちらに接近してきているのか?

「アライラ。反応は近づいて来ているのか?」

〈うん。なんか探している感じで動きは遅いけど・・・こっちに接近してる・・・〉

 どういうことだ?

 今、俺たちは邪眼による隠れ蓑結界で姿はもちろん、臭いも音も隠している状態だ。

 キュアーンも見失って探すことを諦めるくらいには、隠密性は高い技であるはずなのに・・・敵は接近中という。

 偶然か? はたまた、何か連中を惹きつけるモノがあるのか?

 と、小規模な群れではあるが・・・確かにブレイクダンスをしているモンスターと同種が接近しているのを目視できた。

 鼻を動かして、周囲を探っているようだ。

「アライラ。鑑定」

〈よし来た。鑑定!〉



『デッジマー。異世界ノテテオに生息する鶏の一種。当個体は雌個体であり、雄と雌で名称が異なっている。ちなみに、雄はマッジデー。基本的な体構造は同じもので、地面を転げるようにして踊る生態から皮膚が異常進化しており、さながら鎧を着こんでいるように見えることからサイの仲間だと誤解されていたが、近年の研究によりノットンと別進化を果たした鶏であることが判明した。鎧のような皮膚も羽毛の異常変形物であることが判明している。雌の特徴は、全身を覆う鎧が雄に比べると柔らかいものの、軽くて加工しやすく、女性狩人や新人狩人の防具素材として重宝されている。しかし、高い知能と戦闘能力から入手は大変難しい』

 


 亜種というわけじゃなく、雄と雌で名称が異なるタイプのモンスターなのか・・・。

〈デッジマー。マッジデー? ネーミングセンスが酷すぎーッ〉

 それは確かに・・・。

 ・・・・・・いや、ちょっと待って!?

「鶏!?」

〈んお!? 名前のネタ感に見落としたわ! え? 鶏なの!?〉

 改めて、接近中のデッジマーという雌個体を見る。

 四足歩行にて、周囲に頭を振りながら接近してくるモンスター。硬質な皮膚は鎧のようで、鑑定の通りに鎧を着こんでいるような姿は、地球でのサイを彷彿とさせる。

 前足も後ろ足も太くたくましいと見て取れることから、これが鶏というのがしっくりこない。

 頭だって、サイに近しい印象があるというのに・・・だ。

〈アレ、どう見てもサイだよね?〉

「鑑定でも、長年サイの一種だと勘違いされていた。とあるし・・・見た目だけで判断するとサイなのは、誰でも同じなんだろうさ」

 だとするならば・・・。

「アライラ。あっちの体格がよりガッシリしている方を鑑定してみてくれ」

〈ほい。鑑定!〉



『マッジデー。異世界ノテテオに生息する鶏の一種。当個体は雄個体であり、雄と雌で名称が異なっている。ちなみに、雌はデッジマー。基本的な体構造は同じもので、地面を転げるようにして踊る生態から皮膚が異常進化しており、さながら鎧を着こんでいるように見えることからサイの仲間だと誤解されていたが、近年の研究によりノットンと別進化を果たした鶏であることが判明した。鎧のような皮膚も羽毛の異常変形物であることが判明している。雄の特徴は、堅牢な鎧そのものにある。雌に比べれば重量があり、加工も難しいが狩人たちの盾として再利用される場合が多く、対モンスター用の建造物では外壁、他に乗り物などの装甲板としても需要が高い。しかし、倒すのが一苦労なので高級品である』



「・・・モンスター素材の正しい利用方法って感じだな」

〈一狩り行こうぜ!な雰囲気を感じられるねーッ〉

 そんな気軽に狩れるモンスターでは無いようだけど・・・あの鎧っぽいのはどこまで高い防御力を持っているのか?が重要だな。

「丁寧な説明だけど、結局のところ防御性能に関する情報が無いんだよなぁ」

〈あらマジだわ・・・便利な素材モンスターってくらいしか分かんないのが、よくできてるわぃ〉

 一見すると、凄い防御力を持つ鶏!って印象を受けるんだけど、よく考えると「便利な鎧っぽい皮膚を持つ素材モンスター」程度の情報しかない。

 戦闘能力は?

 ブレイクダンスみたいな生態?習性?の説明は?・・・無いんだなこれが・・・。

 ・・・誰だよ。こんな『鑑定』をアライラに与えた神はッ・・・絶対、邪神じゃないだろッ。

 せめて地球の現代兵器・・・例えば戦車の大砲が直撃しても大丈夫。とか、その辺の説明があってもいいんじゃないかなッ!?

〈ところで、るっちゃん〉

「んー?」

〈アイツらさ? どんどんコッチに近づいてるんだけどー?〉

「え・・・」

 アライラに言われ、そちらを見やれば・・・確かに、的確にこちらへ近づいている。

 何かを探している。それは最初から変わらないのだが・・・間違いなく、俺たちをピンポイントで探し当てに来ていることは明白だった。

 では、どうやってこちらの位置を割り出しているのか?

 

 デッジマーは、鼻を動かしては何かを見つける度に動きが止まり、見失うと頭を振って鼻を動かし続けている。

 それは、つまり・・・。


「しまった! 俺たちの臭いを追跡されているんだ!」

〈え? でも、隠れ蓑結界で全部丸ごと隠してるんだぜ? 見つかるはず無いんだぜ?〉

 そう。

 普通に考えるなら、見つかるはずがない・・・と思うじゃん?

「結界って、臭いとかが外に出ないよう構築されているのか?」

〈さぁ?〉

 ・・・。

 ・・・・・・はい、コレだ。

「結界から外に出た臭いを追跡されているんだと確信した」

〈マジでッ!?〉

 

「くぅおっか?」

 そんな不気味過ぎる声が響くのと、結界の存在に気づかれるのはほぼ同時。


 俺もアライラも、ハッ!となってそっちを見れば、結界の境目にデッジマーが目を見開いてこちらを覗き込むようにしており・・・。

 次の瞬間、前足を叩き合わせるようにして振るう事で、結界を叩き壊した。

 高い知能があるって、鑑定にも書いてあったな・・・そういえば・・・にしても、前足を叩き合わせる動作は、鳥が翼を羽ばたかせる動作によく似ていた。

 よくある羽毛なら、きっと飛び上がれる腕力だっただろう。


 そこから間髪入れずに、先頭を行くデッジマーが地面へと前転しながら踊りを開始して、その後方にいたデッジマーとマッジデーも隊長に追従するべく前転から踊りに入っていく。

 と、ノットンの空中移動にも引けを取らない地上の高速移動には舌を巻いてしまいそうだ。が、ノットンのように滑るように移動しないようで、どこか安堵を覚える。

 すると、隊長格のデッジマーが体をしならせて蹴りを放つ動作を見せる。

 

 この時、俺はダンスでポーズを決める際に足が伸びることを知っていたからこそ、左右のどちらかへアライラに避けてもらうことで、カウンターのバスター・ビームと手順を思考した。

 が、なぜかカウンターのバスター・ビーム後にアライラがすり鉢で擂り潰されたようなミンチ姿を想像してしまう。

 この想像をした直後、コレはダメだ。そう結論が出た。

「アライラ! 後ろに跳べ!!」

〈ほい!?〉

 疑問形なれど、ちゃんと真後ろに飛び退いてくるアライラ・・・そんな彼女の下顎辺りに、デッジマーの蹴りが炸裂した。

〈ぶべッ!!〉

 短い悲鳴を上げながら、蹴りの勢いで空へと蹴り上げられてしまう。

「いや、足ながッ!?」

 雄であるマッジデーのポーズ映像を思い出して、その二倍近い長さが出ている事に驚く以外の言葉も表情も出てこない。

 その長さゆえに、蹴り飛ばされても収納されている脚が伸び切るまで空へと押し上げられてしまったわけだから、相当だ。

 その収納方法も生物的とは言い難い。

 まるで折りたたみ傘のように足が折りたたまれているのだ。通常個体なら太もも二個分ぐらいの収納だが、先の隊長格は太もも四つ分は折りたたまれていた。

 逆関節とか、そんなレベルの関節ではない。

「姿勢制御! アライラ、飛行形態で落下を止めるんだ!」

〈邪眼! あ? 飛行モード・・・で? ファイターモード!!〉

 蹴りで意識が飛びかけていたようだ。

 なんだか思考が歪になっていて、俺の指示にも条件反射レベルで反応こそしてくれたようだが、言葉が定まらずに迷走していた。

 それでも、しっかりと飛行形態へ移行して、自由落下を防ぐのだから・・・。


 しゃあん。


 どこか、金属音にも似た音が響いてくると、俺はすぐさま地上を確認する。

「なんだアレ」

 見れば、隊長格のデッジマーがアルマジロみたいに丸くなって地面を転がると、部下も同様に丸くなって回転しつつ、隊長格をパチンコ玉のように弾き始めている。

 まるでサッカーなどでパスを回すように・・・部下たちは隊長格を囲むように隊列を組んで、隊長格をボールとするなら、部下たちがパスを回している感じで弾いている。

 ただし、回される度に隊長格は加速しており、部下たちは隊列を狭めていく。

 と、最後に部下たちが蹴り攻撃のポーズで隊長格を空へと打ち上げた。そのための加速と、包囲隊列を狭めていたのか?

「アライラ! 回避だ!」

〈なんぼなんでも、そんなストレートを喰らうかよ!〉

 

 ひょいっ。と、身体を横へ倒してデッジマーの直撃コースから離脱する。

 その横を剛速球さながらに通過するデッジマー。


 通過した直後に、両腕を可能な限り広げた姿は、鶏が翼を羽ばたかせている姿によく似ていた。


 ただ、これだけで「このモンスターは、確かに鶏だ」と納得できる既視感。

 同時に、長い腕を展開して・・・鎧のようなそれが広がる事で急制動がかかり、両足を揃えてこちらに向けているのは、まさに一撃必殺級の蹴りを放とうとしている構えだった。

「地獄変!」

 左手に巻物を召喚し、封を乱暴に解きつつ巻物を拡げるようにデッジマー目掛けて投げる。

「地の深淵に、我が力を以て求める!」

 急制動による力の溜めを行う事で、中空にありながらも放たれる蹴りは脅威そのものになるだろう。それを対処するべく、俺は技を発動する。

「地獄門・地蔵合掌大道壁!!」

 広げた巻物から地蔵の大きな腕が飛び出した。

 本来、合掌することで壁を成す技だが、放たれるデッジマーの蹴りを正面から受け止めるのはダメな気がするから、その足首を掴むために両手を操作する。

 その足首を掴む・・・という狙いも、初速から新幹線を越えるだろう速度で発射される蹴りに合わせられなかった。

 が、脚を掴むことには成功した。

〈ほわわわわわわッ〉

 アライラの飛行形態時に機首となるお尻に、デッジマーの脚をギリギリ手前で止められたのは、運がよかったと言わざる負えない。

 脚を掴んでいる地蔵合掌大道壁が赤く変色していたが、おそらく摩擦熱だろう・・・あまり意識していなかったが、足首を掴もうとせず、本当に足を正面から受け止めていたら、あっさり破壊されていた。

 ・・・冷や汗が出る。


「バレルロール!!」


 それでも止められたのだから、反撃しなければ危ない。

 怒鳴り声っぽくなってしまったが、アライラがすぐさま反応して一回転。

 この時、デッジマーも俺たちの回転に引っ張られる形でグルンと回転する。その遠心力を利用しつつタイミングを見て掴んでいた脚を離した。

 さすがにノットンのような空中移動能力は無いようで、投げられたと見るや身を丸くして地上へと落下し、回転することで落着時の衝撃を受け流したようだ。

 最後にシャチホコみたいなエビ反り姿勢のポーズを決めていたのは、連中の習性なのか?

「・・・分が悪い。このまま昨日のキャンプ地まで撤退だ」

〈りょーかーい!! 戦略的撤退! 戦略的てったーい!!〉

 加速することで、デッジマーたちの姿は一気に小さくなっていく。

 はぁ・・・っとため息が出てしまうな。


〈ねぇ? 最初の蹴りさ? 後ろに跳ばずに左右どっちかで回避して、ビームで反撃じゃダメなん?〉


 その疑問はもっともだが・・・。

「それではダメですね」

 俺が答えようとした矢先に、道標人が言葉を発する・・・そういえば、居たんだった。

〈お、おぅ・・・〉

 小声で〈そーいえば、いたんだった〉と呟くアライラ。そうだよね。そう思うよね。

「先のデッジマーなるモンスター・・・かの蹴りは相当な長い脚から繰り出されておりましたね?」

〈そーですねー〉

「間合いを見誤っていたあの状況で、左右どちらかへの回避は・・・脚を引っかけられてから引き寄せられて、ブレイクダンスなる回転時に地面へと組み敷かれていた事でしょう」

〈・・・おー?〉

「つまり、すり鉢で擂り潰されるゴマのごとく、アライラー殿がミンチになっていた。と思われまする」

〈おぉ!?・・・すり鉢って薬草を調合する道具じゃないの?〉

「え? ええ・・・まぁ、そうですね。用途は様々かと・・・」

 ・・・アライラの頓珍漢な言葉に、意表を突かれて話が脱線する道標人。

 ・・・・・・ふと、マリーさんを見てみれば「私のポジションが取られた」と言わんばかりにジト目で道標人を睨んでいる。

 

 兎にも角にも、デッジマーとマッジデーとかいう名前だけならギャグでしかないモンスターを、どう対処するか考える必要があるだろう。

 特に雄のマッジデーとは戦っていないため、情報が無い。

 なんとか雄単体と戦闘ができればいいのだが・・・隠れ蓑結界を看破された以上、相当難しいだろう。

 

〈へぇ、ゴマならゴマすり器で良くね?〉

「ええ、現代ならそうでございましょうが、昔はすり鉢を使っておりましてね?」

〈え! 昔ってゴマすり器無かったん!?〉

「ハンドルを回すタイプは、確か昭和時代の発明品だったかと?」

〈へー、そーなん?〉

「え、えーっと・・・」


 ・・・しっかり休んでから、改めて考えよう。

 俺は、空を眺めながら息を吐いていた。

 



次回は、引き続き北東を目指すお話を予定しております。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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