表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/59

43 ワーン

こんにちは。こんばんは。


今回は、湖を越えて北東の海を目指すお話となります。


最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

「え? 北東ですか?」

「そうよ」

 アライラの朝食を取りに、昨日に続いて湖へとやって来た俺たちである。

 タンラントーの姿を警戒しつつ、昨日と同様に釣りでハンナマウルを捕獲し、串焼きにして頬張っている彼女と共に、作ってきた弁当を食べていた。

 そんな中、マリーさんがオニギリを食べ終えて水筒のお茶を飲んだ所で言ってきた。

「さて、早速だけど・・・おまえたちには北東を目指してもらうわ」

 ということで、俺は確認のために言葉を繰り返した。

 

 と、今は最北の村からやや南下した東方面にある湖に来ているわけだから、やや北上しながら東を目指すということか?

 現在地などをイメージしつつ、目指す場所を考えていると・・・。

「まず、私たちは湖に居るわね」

 マリーさんが普段から使用している中空に浮かぶように開かれるウインドウが出現し、ここ第一階層【春の区画】でも北地方の地図を表示する。

 そうして、村の位置からやや外れた湖に点が表示されて『現在地』と表記された。

「ここから、東をやや北上してもらいたいのよ」

 指示と同時に地図が動き、現在地から矢印が伸びると東方向をやや北上しながら伸び続けて、陸地を越えて海に。

「・・・これ、海に出てしまうようですが?」

「その通り。目指すは海よ」

〈海・・・え? このダンジョンて海とかもあんの!?〉

 アライラが驚くのも無理はないが、それよりもマリーさんが俺を鋭く睨みながら「なんて?」という圧を放ってくる。

「海が、あるんですか?と驚いています」

「ん? 説明していなかったかしら? アライラーにはしていなかったか? まぁ、どちらでもいいわ。おさらいも兼ねて教えてあげるわ」

 マリーさんの話によれば、このダンジョンが、まだ試験大陸だった時代に異世界モンスターが大量に持ち込まれたわけだが、その全てが陸上生物というわけではなかった。

 当然のように水棲生物も持ち込まれており、淡水魚だけでなく海水魚もそれなりの数になる。

 と、異世界モンスターはどれもこれもバグったわけなので、ここ【災厄の壺】に全部封印することとなるわけだが、海の生物も同様に封印する必要があったため・・・。

 範囲こそ狭いが、モンスターを全部押し込んでムリヤリある程度の海域まで含めて【災厄の壺】に封じ込めた。というお話である。

 なので、第一階層から第四階層には、東西南北である程度の海も存在しているらしい。

 ここ【春の区画】は大陸東にあったため、東の海という事になる。また、生息しているモンスターは春が旬の怪魚揃いらしい。


〈はーッ! 海鮮! 海鮮を堪能できるってことじゃないですか!!? そうよね!? そうだと言え!!〉

「そうだよ」

〈ならば、海を目指すしかなかろう!! 海鮮丼を食べるために!!〉

「いや、海鮮丼て・・・そもそも、どんなモンスターが居るかも俺たちには不明なんだぞ? 海鮮丼の前に俺たちが食われるかもなんだぞ?」

〈知らんな! 知らないんだから知るしかない! だって知らないんだからね!〉

 頭が海鮮丼の山盛りになってしまったのか? もはや言っている事が自分で理解できていないように思える。

 となれば、海鮮丼音頭を取り出した彼女は放置して、本題を聞かせてもらうしかない。

「で? なぜ急に北東の海へ?」

「その海底に、かつて私たち悪神が建造した施設・・・通称『海底ピラミッド』があるからよ」

 か、海底ピラミッド!?

 あ、アレだよね? 地球でも謎の存在として語られている『海底ピラミッド』のことだよね?

 日本でも沖縄に存在しているとされ、見つかってから数十年経った現在でも議論が絶えないというあの『海底ピラミッド」だよね?

「・・・分かりました。行きましょう」

「どうした?」

 マリーさんが不気味なモノを見る目で俺を睨んできた。

「どうしたもこうしたも、地球にだって存在している謎の建造物ですよ? やっぱり、生きている内に見てみたいな・・・って思うのは普通なのでは?」

「私たち悪神が造ったピラミッド型の海底研究所だから、神秘もなにもありゃしないわ」

 ・・・。

 ・・・・・・そうですか。

「あからさまにやる気を無くすんじゃない。さっきまでのワクワクとした目の輝きが無くなってるぞ」

「・・・ちょっと、夢を失っただけです」

 とはいえ、拗ねている場合でもないだろうから、ここらでしっかりと目的を教えてもらおう。

「で? なんで海底ピラミッドを目指すんですか?」

「私の仕事がらみよ。ダンジョン管理人としての見回りも兼ねて、おまえたちを連れて行きたいの。特にルッタ。おまえをね」

 ・・・なぜ、俺?

 観光スポットというわけでも無さそうなのに、俺を連れて行きたがる意味とは何か?

「まず説明するけれど、目的地である『海底ピラミッド』は研究所でもあるの。かつてはこの世界を創造した神への嫌がらせ実行用隠れ家。で、【神殺しの獣】が出現してからは対抗策研究の最前線。そこにルッタを連れていく理由は・・・さて、分かるかしら?」

 分かるもなにも・・・予想は立つ。

「つまり、俺の地獄変を研究するってことですか?」

「お前を強くする方法を調べるためよ」

 ・・・え?

「いや、マリーさん? とりあえず、俺は当面・・・アライラの魔力ポンプとしてがんばる。という方針では?」

「確かに、前にそう言ったわ。まだ体も成長途中だから、本格的な鍛錬はしばらく後でいいとも思った。けれど、ここまでにルッタとアライラーを見ていて思った事は・・・ルッタが雑魚過ぎるということ」

 そんなハッキリ言わなくたっていいじゃないですか・・・。

「私の想定よりも強くなっていないことが・・・さすがにちょっと、どうにかしないとマズい・・・と思ったわけよ。魔力ポンプとしては性能が向上していると評価できるのだけども・・・」

「時間が解決してくれると、信じましょう」

「そういうわけにもいかないから、ちょっと強化案を考えるためにも、海底ピラミッドに行きたいの」

 そこまで俺は弱いのか?

 いや、そう言われて思い返してみても・・・戦闘面での俺はほぼ役にたっていないのは確かだ。状況の判断や指示などはやっていたものの、多少判断が遅いかもしれないが、アライラだってしっかりと対応できている。

 こうなると、戦闘は基本的にアライラ任せとなっており、俺がやっている事は魔力の供給とドリリング・ドライバーのドリルを用意することぐらいか?

 なるほど、戦闘能力という面では・・・雑魚過ぎるな。

「なにも、おまえを改造しようというわけではないわ。研究施設でルッタの詳細を調べ、現状でも可能な強化案を模索するのが目的だからね」

「なるほど・・・そういう事でしたら、理解はできます」

「物分かりが良くて助かるわ」

 まぁ、おそらくは別の思惑もあるんだろうな。

 どのみち、こういう施設なども足を運ぶ必要はあったのだろうし、早いか遅いかの差であると考えるのがいいか。

 それに、これはまたとないチャンスなのかもしれない。

 思い返した時に思い出したのは、俺が超人にバグ進化しているということだ。前は、そこまで気にしなかったが、今は少し不安を覚えている。

 何かのキッカケで、俺もまたバグによる異常が発生するのではないか?

 もしくは、すでに異常が出ているのか?

 これを機に調べてもらえるのは、むしろありがたいことだろう。


「では、朝食を済ませ次第、出発しましょうか」

「分かりました」

〈はーい〉



 朝食を終え、北東の海を目指してまずは東へと飛び立つ。

 歩いて進むより、空を飛んだ方が早いのは確かであり、地上からの奇襲を受けても逃げられるようにと飛行形態で湖を飛び越える。

 チラッと湖を見下ろしてみれば、昨日のタンラントーと思われる個体が倒れている姿を見つける。仮に死んでいるとしても、リポップするだろうから心配することは無いだろう。

 それよりも、食べたハンナマウルで腹を下したのか? ただの凍死か? 気がかりだ。

〈どうかしたん?〉

「ああ、ちょっと遠ざかる湖を見ていただけだよ」

 余計な事を言って引き返すような事態は避けたいので、タンラントーの事は言わないでおこう。


 そうして湖を無事に超えると、春の暖かな日差しに照らされる草が、北から吹く肌寒い風に揺られて波打つように動いて見える草原が広がっていた。

 

 陸の海原とでも言えるのではないだろうか? それほどに、草原の波打つ姿は綺麗に映える。

 だというのに・・・。

〈うっわ・・・なんか浮かんでるよ〉

 アライラの言葉と同時に、俺が視線を草原から正面へと移すと・・・そこには無数の巨大な綿毛が玉となって浮かんでいた。

 それはまさにタンポポの綿毛と言って差し支えない姿をしており・・・しかし、風が吹いているにも関わらず、これに流されずにいることからもモンスターであることは明白だった。

 あとは、これら綿毛モンスターがどのようなモンスターなのかを知る必要がある。

「アライラ。ここで一旦停止してくれ」

〈おっけー!〉

 湖を飛び越えて、優雅に飛ぶことも叶わず空中で停止する。

 浮遊が可能なのはアライラも同じこと。それよりも、不用意に近づかないよう注意する事だ。

 とはいえ、綿毛モンスターに動きは見られない。

「・・・アライラ。鑑定を」

〈うん。鑑定!〉



『ワーン。異世界バケユビタに生息する植物。原理不明の浮遊能力を行使することで、一定の高度で浮遊し続ける。太陽光を主食としていると思われ、太陽光を得られる場所へ移動する習性がある。移動中から周囲にいる生物を排除することで、常に安全の確保を行う。このため、災害級モンスターに指定されており、接近が確認された場合は速やかに避難することが推奨される』  



〈くっそ迷惑系モンスターやん〉

「ああ。あとは、ワーンの攻撃方法を知りたいところだけど・・・」

 周囲にいる生物を排除して安全を確保する。という文言からも、何かしらで排除手段を持っているのは確かだ。

 その攻撃手段とは何か?

 太陽光を求めることからも、ある程度の予想はできるわけだが・・・。

〈突撃してみる?〉

「・・・君の眼なら、不意の攻撃にも反応はできるだろう。だけど、わざわざ危険を冒すことはないよ」

〈んじゃ、いつものように小手調べからやってく感じ?〉

 どうしようか・・・。

 小手調べとして、まずは邪眼ビームから様子を見ていくのが良いとは思うけれど・・・

「バスター・ビームを初手で撃ち込んでみよう」

〈え? いいの?〉

「うん。邪眼ビーム改は、すでに威力不足が否めない・・・現に、ここまでの敵にはほぼ効果が無かったわけだし」

〈むーん。そう言われると、そうだった気がする不思議〉

 不思議なのは、それらを覚えていないっぽい君の方だと思うんだが? いや、結果の良し悪しを気にしていない場合は、こうもなるってことなのか?

「まぁ、いずれにせよ。初手で倒せたらラッキー。程度で、バスター・ビームをやってみてくれ」

〈オッケーッ!!〉

 この一発で倒せてしまえば、それでいい。

 倒せないとしても、攻撃に対する何かしらの対応は見せるはずなので、そこからワーンの攻略法を見つけ出せれば・・・。

〈邪眼! バスター・ビーム!!〉

 最近では『改』を付けた威力強化の方を多用していたが、こちらだって最初の内は腹が熱くなったりして負担を感じていた・・・はずだったんだけど。

 こうして使ってみても、俺に負担というほどの負荷が掛かっていないように思える。

 これはやはり『改』を多用したことで、俺の身体が鍛えられているという解釈でいいのだろうか? 苦しいよりは、マシだが・・・そろそろ『バスター・ビーム改』も次の段階へ、威力増強を図るべきなのかもしれない。

 

 思考が逸れていく中で、バスター・ビームの輝きが俺の意識を引き戻してくれる。と、ワーンに命中したビームが弾かれている様子を見た。

〈ちぃ・・・ビーム・シールドか〉

 ・・・ビーム・シールド?

 俺の見立てが間違いでなければ、アレはただのシールドではなかった。

 綿毛玉から複数の綿毛が飛び出して、玉を守るようにヘキサゴンを描きつつ整列をする。それらが一斉に光を放って障壁を形作るように光を展開させていた。

 それだけを見れば、シールドでも間違いじゃない。

 しかし、光の障壁は中央部から四方向に波立つように動き始めて・・・バスター・ビームが命中すると同時に、障壁にて波打つ光がベルトコンベアのように動いてバスター・ビームを四方へ拡散・・・いや、掻き分ける・・・いや、なんて言えばいいんだこれ?

 受け流す・・・ベルトコンベアのように光の障壁を四方向へ稼働させることで、ビームを受け流してみせた。・・・うん。

「生物のはずなのに、ずいぶんと機械的な方法でビームを受け流してくるな・・・」

〈へぇ・・・るっちゃんの言う通りで、威力不足気味っぽいね〉

 まさか、バスター・ビームがあっさりと流されてしまうとは思わなかった。

 こう・・・多少は食い下がるように「バリバリバリバリ」って迫るモノだと思っていたが、こう「バシャー」って感じでアッサリとしていたな。

 こうなると、バスター・ビーム改も大した成果を出せないだろう。

 最大必殺技の『一点集束。八連邪眼。バスター・ビーム改』も耐えられてしまう可能性が高いか。

〈一点集束の八連邪眼してみる?〉

「・・・やるだけやってみるのが一番か」

 綿毛玉に生えている綿毛は大量だ。

 あの球体状でシールドを展開されてしまえば、先のバスター・ビームよりも受け流すのは容易だろう。

 ならば、まずはバスター・ビームが通用する状態に戦況を誘導しないといけない。

 

 次の手を考えていると、ワーンにも動きが見られた。

 シールドを展開した綿毛たちが元の位置へと帰還する中、新たに球体から抜けて飛んで来る綿毛がある。

 やはり、どう見てもタンポポの綿毛だ。

 白い綿に種が吊るされている。そんな見た目でスーッと飛んで来る。

〈アレ、なんだと思う?〉

「俺たちに対する攻撃だろう。先のシールドから考えるに、ビーム系の攻撃をしてくるとは思う」

 しかし、なにか妙だ。

〈オッケー! いつでも回避できるように身構えとくね!〉

 なんだ?

 ビーム系攻撃と予想はしたが、それならすでに発射していてもいいはずだ。

 綿毛が接近する必要など、実のところ・・・ない。

 なのに接近してくるのは、命中率を高めるためか? はたまた・・・回避不能の―――。

「アライラ! 八連邪眼バリアを全力展開しろ!!」

〈へぁ!?〉

 俺が指示を叫ぶのと同時に綿毛が停止すると、種が割れて仲より眼球と見紛う造形の芽が飛び出して来て・・・。

「地獄門!! 地蔵合掌大道壁ッ!!!」

 飛び出た芽が開いた。

 

 視界を制圧する閃光と、アライラの声。

〈八連邪眼バリア!!〉


 視界が白一色に染まるタイミングで、アライラがバリアを展開するが、紙一重で遅い。

 攻撃を回避することに意識していたための、遅延である。

 そうなると分かっていたからこその『地獄門・地蔵合掌大道壁』だったわけだが・・・瞬きをする間に石は赤色化して、視界が白一色に染まる中で白色化して融解し、視界が回復する間に蒸発して消し飛んでいく。

 バリアの展開が、紙一重で間に合ったからこそ、俺は生きているが・・・八つのバリアが気づけば六つほど蒸発しているのを見て冷や汗が止まらなくなった。

 地蔵合掌大道壁の展開が無ければ、俺とアライラは消し飛んでいただろう。

 しかし、大道壁で隠せなかった部分があった。

 アライラのお尻付近まではカバーできていなかったようで、体毛が焼けて消し炭となり、殻が熱を帯びて赤色化しているのに気づく。

〈あじゃじゃじゃじゃじゃ〉

 アライラが悲鳴を上げる。

 熱を帯びた殻によって、その下にある守るべき肉が焼けているのだろう。

「奔れ!! 業火!!」

 錫杖を突き立てて、内と外から業火を放出してダメージを受けている部位へと急行させる。

 そして、熱を帯びている殻を内と外から包み込んで遮断し、それらを滅却することで処理した。殻ごと処理してしまったので、すぐさま『カタチナセ』で殻を融通する。

 これと同時に、アライラへ指示した。

「撤退だ! 分が悪い!!」

〈緊急離脱ジェーット!!〉

 再度、閃光を放たれても対処するのが難しいため、ここは一度撤退するのがいいと判断する。

 まるでカメラのフラッシュ機能みたいに、バシャッという間の熱攻撃だ。その分、射程距離が短いのだろうことは、接近してきたことからも予想できる。

 だからこそ、緊急離脱ジェットの加速力で一気に距離を取るわけだ。

 

 しかし、安全に離脱させたはくれないようだ。


 綿毛玉から綿毛が飛び出てくると、これらが続々と束なって・・・まるで綿の花束みたいに密集する。

 それらの種がこちらを向いて、先と同様に眼球のような造形の芽を開く・・・と。

「・・・アライラ! 緊急離脱を中止しろ!!」

〈さっきからなんなん!?〉

「一点集束。八連邪眼バスター・ビーム改を使うから! すぐにジェットを解くんだ!!」

〈え? お、おう!!〉

 綿が太陽光を集めているのか? 次第に白から赤へと変色を始めていく。

 それらのエネルギーが種へと注がれている様子が見え、芽より熱エネルギーが放出されて一点に集束していく。

〈あっれッ!? あっちも一点集束してる!!!?〉

「急ぐぞ!! 間にあわなくなる!!」

 彼女の頭に錫杖を突き立て、魔力の急速充填を開始。

 だが、仮に準備が間に合うとしても・・・こちらの邪眼は八つだが、あちらの綿毛が倍以上。

 綿毛一本から太陽光を吸収して得られるエネルギーがどれほどなのかは分からないが、単純明快に綿毛一本で邪眼一つ分と考えるとした場合・・・ビームのぶつけ合いをしたら勝つことは不可能だ。

〈魔力充填120%!!〉

 このまま、バスター・ビームを放ったところで生存は無理だ。

〈一点集束!!〉

 考えろ。

 バスター・ビーム以外での状況打破。そのために必要なのは、今日までに経験した突拍子の無い敵からの攻撃。

 その中で、不意に思い出したのは・・・シャッビンカン。脳裏にチラついた姿は・・・バスター・ビームを真正面から受けておきながら、突破してきた昆虫の姿。

 マリーさんが言っていた『ビームを溶かす』とかいう・・・なに言ってんだ?案件。

 そんな事ができるのならば・・・。

〈八連邪眼!!バ―――〉

「バスター・ビームの前にドリリング・ドライバーだ!!」

〈すッ!?んごっ! はッ!? え? どりッ!!?〉

 段取りが悪くて申し訳ないとは思うが、これが起死回生の一手になると信じたい。

 魔力の充填が終わった直後に、すぐさま『地獄能・巻蛇槍貫撃』を準備する。

 鎖の身体に錠の頭を持つ蛇『縛鎖閻魔錠』と『地蔵菩薩錫杖術』で手にしている錫杖を槍に変えるこの技で、円錐形の刃となる閻魔錠を射出する。

 この時、本来はやらないことだが、円錐形の刃に別の縛鎖閻魔錠を繋いで伸ばしておいた。錫杖と繋がった状態にしておく。

〈ど、ドリリング・ドライバーッ!!〉

 一点に集束されたエネルギーを避けて、射出した刃がアライラの邪眼によって巨大なドリルへと変異すると、コレをロケットパンチの要領で打ち出してもらう。

「続けてバスター・ビームだ!」

〈は、八連邪眼!! バスタァーッ!! ビィームッ改ッ!!〉

 あっちをやってこっちをやって。と忙しく技を出しているせいで、ノリと勢いが低下しているようだ。

 ドリリング・ドライバーを打ち出して、すぐにバスター・ビーム改も発射される。と、ワーンもまた特大のソーラー・ビームを発射した。

 その巨大さは、こちらのバスター・ビーム改と比べて3倍ぐらい太いものだった。

〈んん!? こっちのビームよりデカいんですけどッ!!〉

 サイズ差が威力の差になるわけではない。

 しかし、それはそれとしても・・・大きいというのはこちらが丸呑みされてしまうイメージを持つのに十分な恐怖を煽ってくる。

 それでも、バンダーガーとの撃ち合いだってある程度の拮抗には成功していたのだから、まるで歯が立たないということは無いだろう。

 それに。


「地の深淵に、我が力を以て求める」


 ドリリング・ドライバーに今も繋がっている閻魔錠を通して、魔力を追加供給する。

 イメージするのは、ビームを掘削するドリリング・ドライバーだ。


「先に道はなけれども。退く暇も無き常の。ならば転じて業火を灯せ。掘って削って貫き拓けッ!」


 バスター・ビーム改に先行して、ソーラー・ビームに正面衝突するドリリング・ドライバー。そのドリル刃となる鎖の環から業火が噴き出して、スコップのように鋭利に、スプーンのような丸みを帯びて、形を成す。

 これが、ドリルの回転力で風切り音をひと際耳障りに響かせる。


「地獄能・巻蛇掘削槍転撃・業火刃」


 技の発動はなった。

 しかし、特大のソーラー・ビームに呑まれて姿が消えて行く。

 失敗したのか? それとも成功したのか? ソーラー・ビームの光が強すぎて影さえも消えてしまったことで、確認もできない。

 そうして、続くバスター・ビーム改も特大ソーラー・ビームの中に呑まれていく。

〈ちょ!? ちょちょ! ぶつかり合いにもならない!!?〉

 渾身の必殺技が、一切の激突演出すらなくソーラー・ビームに呑まれてしまった事に大焦りのアライラだ。

「アライラ! 飛行形態から姿勢制御ッ! 撤退中止で反転! ソーラー・ビームへ突入しろ!!」

〈はぁあ!? っと、ファイター・モード! からのアクセル・ターン!〉

 クルッと反転するその動作が、果たしてアクセル・ターンなのかは疑問だが?

 邪眼ジェットでワーンの放つ特大ソーラー・ビームへと突入してくれる。が、やっぱりビビっていたようで・・・。

〈はががががががががが・・・・・・あれ?〉

「だからこそのドリリング・ドライバーだよ」

 光が強すぎて、成功しているのか分からなかったが・・・こうしてソーラー・ビームのトンネルへと突入できたということは、成功したようだ。

〈え? なにしたん?〉

「ビームの掘削だ」

 特大ソーラー・ビームは、その中央部がトンネルになっていた。

 もちろん。それは先に放ったドリリング・ドライバーに業火を以て掘削用ドリルに追加改造を施したからに他ならない。

〈はー。あ。さっきの新技って〉

「そう。新技って程の事じゃないけどね・・・半ばヤケクソ気味にやってみただけだし」

 ビームを溶かす溶解液の事を思い出し、谷で鉄を採掘した時のことを思い出して・・・もしかしたらビームを掘削することもできるのでは?と、思い至った。

 至れた。

 そんな事ができるわけないだろう。という意識が強かったが、この状況で生存率がもっとも高いのは、できるわけない案だ。

 だから、もはやヤケクソになって思考をそっちへ移行させた。やるしかない。まさにそんな状況。

 ・・・正直、冷静になってみると急激に心臓の音が全身に響き出して、今にも破裂するような熱と圧を―――。

「ゴホッ・・・ごっ・・がぼ・・・うぅぶ・・・ぼごぉほッ」

 血が、喉を逆流して勢いよく吐き出した。この時、鼻の方にも入り込んで、そっちからも飛び出してくれる。頭痛と苦しさで立っていられなくなる。

 咳き込んでアライラの上で膝を付いて蹲ると、続けて全身各所で肉が裂けて血が噴き出る。

「ルッタ!」

〈るっちゃん!?〉

 マリーさんもすぐさま俺を抱きかかえて、魔法術による治療?を施してくれる。

「アライラー。すぐに―――」

 なぜ、急に血を吐き出して、全身からも噴き出たのか?

 一点集束・八連邪眼バスター・ビーム改とドリリング・ドライバーの併用が、身体に過負荷となってしまったのか?

 ソーラー・ビームの掘削に成功したことで、緊張が薄まった事による圧への耐性が弱まったのか?

 その答えは、ワーンに突き刺さっている巨大な矢にあった。


 ソーラー・ビームのトンネルを越えた先で、ワーンの本体?と思われる玉に突き刺さっている巨大な矢を見る。


〈おー? なんあれ?〉

 アライラも困惑する巨大な矢であるが・・・。

 ワーンに突き刺さっている先端部は、ドリリング・ドライバーで今も回転し続けてワーンの身体を削っている。

「・・・どうやら、先に放ったドリリング・ドライバーとバスター・ビーム改が合体して矢になったようね」

 が、合体?

 巨大な矢が刺さり、浮遊し続けることが出来なくなったワーンが草原へと墜落していく様子を見つめながら、コレを飛び越えていく。

 その最中に、マリーさんが解説してくれた。


「先に放ったドリリング・ドライバーに、バスター・ビームが追突したことで、何かしらの化学反応にも似た何かしらが発生し、二つの技が一つの技にフュージョンした。それが、あの巨大な矢ってところね」

 その何かしらの何かしらを知りたいのですが?


 血が滲む視界で、草原へと落着したワーンが枯れて崩れていく姿を見つつ・・・俺たちは先へと進んだ。





「アライラー。この辺りで一度降りなさい」

〈ほーい〉

 マリーさんの推測だと、二つの技が一つの技にフュージョンする際、俺から必要分の魔力を取ったことで・・・気を抜いていた事もあって過負荷に耐え損ねた結果、全身血まみれになったらしい。

 あくまでも、マリーさんの推測だ。

 けれど、気を抜いたのは確かだし、タイミング的にもほぼ正解なのだろうと思う。異論は特にない。


「ルッタがこの状態では、このまま進むのは無理だからね。今日はここで休むとしましょう」


 草原に着陸し、アライラの上から俺を抱きかかえて降りてくれるマリーさん。

 魔法術かサイコキネシスか分からないが、器用にも自前の魔改造リュックからレジャーシートを取り出して広げると、この上に俺を寝かせてくれる。

「今、テントを張るから待っていなさい。あ、ランドセルに入れている大道人は出しておきなさい。アライラーの面倒を任せるわ」

「はい」

〈私は世話が必要な子供かよ〉

 アライラが不満を呟いているが、サイズ的にも大道人は出しておいた方がいい。

 新たに召喚するのは、現状厳しいので・・・機能停止させてランドセルに入れておいた大道人を取り出して、再起動させた。

「おはようござ・・・またご無理をされましたか? 主様」

「はい。とりあえず、情報更新です」

 持っている錫杖を翳し、大道人も錫杖を差し出して接触させる。

 これで、俺の記憶を大道人と共有する。

「ふむ・・・承知しました。主様はお休みくださいませ。アライラー殿には私が付きますので」

「おねがいします」

 とりあえず、俺にできることはやった。

 それにしても、技と技がフュージョン・・・合体と融合・・・どっちだろう?

 今はどちらでもいいか。

 まさか、それぞれに放った二つの技が一つになるとは思っていなかった。そういう事もあるのか・・・と知れたことは、何よりの収穫かもしれない。

 今後、二つの技を合体させて一つの技として発動できるなら・・・いや、それって『地獄能』ですでにやっていることでは?

 アレとはまた別の技になるのだろうか?

 地獄変による技と技なら、地獄能の技と言ってもいいかもしれないが、アライラの技と合体しわたけだから、別であると考えるべきか。

 ドリリング・ドライバーと同じようなモノで、地獄変ではなく万能邪眼が自動的に発動させた合体である可能性は十分にあるか。

 まぁ、とりあえず・・・あの技が再現できるかを確かめる必要があるだろう。

 

〈ルッタ! さっきの合体技だけど、ドリリング・バスター・アローッ!でどう?〉

「・・・君がそれでいいなら、特に言う事は無いよ」

〈じゃ、ダサいので別の名前を考えてみるー〉


 ・・・俺がどう答えても、〈別の名前を考えてみるー〉になった話じゃないか。

 はー・・・まったく。

 急激に疲れが増してくると・・・俺の意識が遠のいて・・・。


 いつの間にか、眠っていた。




次回は、引き続き北東の海を目指す。を予定しております。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ