41 マリーとウィッチ②
こんにちは。こんばんは。
皆様いかがお過ごしですか? 私はお正月を過ぎてからバタバタと忙しい状態です。
今回のお話は、いつもより短くなっております。
マリーとウィッチの関係をしっかり表現できていると良いのですが・・・。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
第一階層【春の区画】も北地域。
かつて春夏秋冬を四つの区画に分けて配置した際、区画を連結する中央区画との関係から冬と春の区画は隣接する事となった。
このため、北から北西に掛けては冬の気候が影響を及ぼし、雪残る肌寒い春の環境が拡がっていた。
しかし、悪神たちによる嫌がらせによって、冬の区画が極寒を超越するもはや絶対零度とか永久凍土では表現不足の氷結世界となり果てた。
この影響で、春の区画は北西が極寒の地となり、北の鉱山まで影響を受けて雪が降り続ける地域となってしまったが、冬の区画に住んでいた住民たちはすぐに適応したのでさしたる問題ではない。
私とて、こうして第一階層から第四階層を数万年も単独で周回しているために、地形やモンスターの配置はしっかりと覚えている。
それでも、ダンジョン管理人となった当初は相当に苦戦し続けた。
「やっぱり、相棒の有無が大きいか・・・」
対魔王兵器開発計画。
邪の男神によるクソみたいなザル計画の始動によって、このダンジョンへと落ちて来た子供『ルッタ・レノーダ』と、巻き込まれて大蜘蛛のモンスターに転生させられてしまった『アライラー』という二人組が、この第一階層へと到達した。
それが、ダンジョンに入ってから2週間?ぐらい?と、正確な日数はよく分からない様子だったが、一か月も経過していないことは確かだろう。
そんな日数で降りてこられたのが信じられなかったが・・・私の時なんて、第一階層に降りるだけで数年掛かったというのに。
この世界における人間をベースとした改造アバター。
そこにネフェルマリーから完全に切り離されるための処理を施され、管理人としての必要な情報をウィッチより盛り込まれたことで魔改造がされている。
そんな魔改造されていても、チート能力で圧倒的力があるわけでもなく・・・日々の積み重ねを続けることで、少しずつ強くなっていった。
地道な努力を数万年。
それだけの時間を費やしても、第四階層では刹那の油断が命取りになる。
ヘラヘラと笑いながらお散歩していられる階層ではないが、それでも単独で周回できるだけの実力は身に付いた。
しかし。
私が第一階層の北地域に到達するまでの苦労を思い出すと、遥かに短期間でこの地域までやって来れたルッタとアライラーには嫉妬を覚えてしまう。
まぁ、よくある話ね。
アライラーのような相棒が、当時の私にいたならば・・・何かが違っていたのだろうか?
「相棒が欲しいのかな?」
・・・。
・・・・・・。
「いきなり後ろから話しかけるな。驚き過ぎて呼吸が停止しただろうが・・・」
気配はおろか、一切の前触れなどもない。
何もかもが無造作に発生するウィッチの行動。これだけは、管理人として確かな実力を身につけられたと確信している今の私でも対応できない。
「はー。外の仕事は大丈夫なの?」
「一応、キリの良いところで抜け出して来たよ。なにせ数が多いからね。優先順位をつけて駆除して回っているところさ」
「そこまで?」
「そうだよ。真性の悪人というのは、本当に知恵が回る天才さ。学校で好成績を出しているとか、品行方正とか、そういう人間は凡人なのだと証明するように、彼らは自分を隠すのが上手い」
・・・だからこそ、人を騙し、操り、頃合いを見切って次へ動く。
「正直、洒落や冗談では済まない転生者を最優先で駆除しているんだ。ノーヒントのかくれんぼ。最悪だろぅ?」
「探すの面倒くさくなって家に帰っちゃうヤツね」
「そうそれ」
依頼された仕事とはいえ、途中で投げ出したくなるヤツを引き受けてんのか・・・。
「ちょっと面倒くさくなったから、気分転換も兼ねてこっちに来たの。バグモンスターの事も気になるしね」
どんな仕事であっても、気分転換は必要だから否定はしないけど・・・言い方をもう少し考えなさいよね。
「まずは報告書に目を通しなさい。話はそれからよ」
「おや? まぁいいけど。どれどれ」
私が差し出した報告書を受け取り、パラララーという速度で束を捲っていくウィッチ。
パラパラ漫画ではないのだけど・・・なぜかコイツはこれで全部を読み込んでしまうから不思議なヤツだ。
「ん・・・んー? トイレットペーパー型のモンスターて・・・なんで?」
「私が聞きたい・・・けれど、アライラーの鑑定でも困惑している様子だったから、素であんたも知らないモンスターだったわけね?」
「そりゃあー・・・まー・・・うん。ちょっと予想とは違ったなぁ」
「何を予想していたのよ?」
「こういう場合、アライラーちゃんの鏡映しみたいなモンスターが出てきてさ? もう一人の自分とデッドヒートした挙句、どちらも同じ必殺技をぶつけ合うんだけど・・・」
「本物がさらなるパワーを込めた超必殺技で勝利するって感じを予想していたわけだ?」
「そう。それッ」
ウィッチは、報告書を繰り返しパラパラ漫画のように捲る動作を繰り返しながら続けて言う。
「一点集束八連邪眼バスタービーム改のぶつかり合いで互角になるんだけど、ならばもう一段階!的な勢いで『改2』とか『カスタムトゥーッ』とか言い出して、押し切るモノだと思っていたよ」
ありそう・・・。
「それがまさかのトイレットペーパー型とはね。これ蛇かな? 中華風の龍かな?」
「分からないわ。どちらにしても、見た目とは裏腹に実力は相当あるわ・・・出現直後だったから倒せたけれど、数時間ほど放置されていたらバンダーガーより強くなっていたかもしれない」
初見の攻撃を即座に対応して見せる思考の柔軟性。
アライラーの一撃必殺ビームを即座に回避してみせ、ドリリング・ドライバーは無力化を図り、手裏剣機動・ビーム刃はビームを削り取るという対応で迫ってくる。
危険だった。
「決め技は・・・邪眼奥義? ドリリング・・・えーっと? ドリリング・バスター・ブレイカー・シュート? ずいぶんとムダに長い技名だね」
「アライラーにはそういう傾向がある。咄嗟に思いついた技は強そうな名前を並べる感じよ。で、少し考え直したところで独自性が出るというところ」
「あはは! SYURIKENマニューバだって! うはははは!! え? なにこれ? 英語風な発音だったの?」
「ルッタの話しだと、英語風の巻き舌っぽい発音だったそうよ」
うん。
ルッタが再現するのに恥ずかしそうにしていた顔が可愛かったからなぁ~・・・いい仕事をしたわね。アライラー。褒めてやろう。写真に収めたし? 現像したら写真を見せてやるとするかね。
「へぇ・・・技の重ね掛けができたんだ」
・・・そこに気づいたか。
「シャッビンカンの時に、ロケットとジェットの重ね技をやって失敗していたけど、ドリリング・ドライバーにバスター・ビームを重ねるか」
「まだ意識してやっている事ではないわ。ノリと勢いでやったらできただけの技ね」
「でも、いい前進だ。今後はこういう技も使えないと厳しいモンスターは増えていく。特に第二階層からはね」
「そうだけども、まだ早い。ルッタも血まみれになるぐらいには負荷も掛かっているわけだし」
「成長はしているということだよ。邪神君の加護がいい仕事をしていると評価できるね」
「・・・そうね」
しかし、残念なことに少しは成長している程度の成長でしかない。
神の加護でブーストしているにもかかわらず・・・だ。
ダーゼルガーンが与えた加護は、確かにルッタを『天才』の領域に押し上げているが、目立った効果は発揮できていない。地味過ぎるわ。
しかし、注目するべきは危機察知能力の方だろう。
元々、自身に迫る危険を察知する能力は高かったはずだ。神の加護『天才』の効果で、察知力が異常に強化されているのは間違いない。
埴輪騎馬兵のビーム矢。
アレを初見で回避して見せたのは、戦闘経験の豊富な武神や戦神ばかりだったが・・・あの子は日本人のはず。
あの初見殺しのビーム矢に気づいてアライラーに回避指示を出せたことが、私を驚かせたのは言うまでもない。
「さて、そろそろ本題に移ろうか」
・・・本題?
ルッタとアライラーの経過報告は、本題では無かったと?
「チートシードだよ。前に渡した種のこと」
アレか・・・。
なるほど、外で依頼された仕事をやっているから、対象が使っている道具の情報は知っておきたいというわけか。
「ちゃんと解析は済ませてあるわ」
自分の魔改造リュックサックから、チートシードの調査報告書を取り出してウィッチに手渡す。
ずいぶん前に書き上げて置いたものだったので、今日まで存在を忘れていたわ。
「割とあっさりしているね?」
「まぁね。大げさに右往左往するような代物ではないからね」
そう。
かのチートシードは、そこまで脅威というほどのアイテムではない。
むしろ、外にいる私であれば対処など容易な代物だ。と、解析して思ったのだが・・・もしかして対処が上手く行っていない?
何をしているんだ? ネフェルマリーは・・・。
「君の興味を引けないぐらい、大したモノではないということなのかな?」
「いや、そういうわけではないけれど・・・すでに外の連中が正体を解明しているでしょうし、私の役目は念のためって感じでしょう?」
そうとも。
ウィッチが持ってきた『チートシード』は、この世界に干渉してくる悪神の一人が作った道具の派生形。かつて、研究していたものの完成することが無いと結論が出て、開発を断念した代物。
ネフェルマリーであれば、そのことに気づくのはさほど難しい事ではないはずだ。
まぁ、最初こそ「どこかで見たことあるような?」という感じだったが、調べてみれば「あ、あれか」となる程度のものだ。
すでに詳細などは外でもらっているはずだが・・・。
「で? チートシードを私に調べさせた最大の目的はなんなの?」
「・・・ルッタ君は、十分に強くなる可能性はあるかな?」
話を逸らした?
・・・いや、違うな。こいつ。
「残念だけど、今のチートシードを使ったところで、ルッタを強くするのは無理よ」
「なら、今のチートシードでなければ、ルッタ君を強くする事は可能なのかな?」
回りくどい言い方をする。
だが・・・だとするならば。
「チートシードを改造して、ルッタを強くしろと?」
「そうだね。今の彼は耐久力と生命力以外は並みの人間・・・よりはマシ程度の能力なんでしょ? なら、そういう外的要因でお手軽強化を狙ってもいいかな?って思ったんだよね」
確かに、それはすでに私も考えたことだ。
チートシードを上手く改造して、ルッタの能力を向上させることはできないか?とね。
しかし、ここで最大の障害となるのが『地獄変』だ。
アレ、かなり厄介な道具みたいでね・・・どうにも、ルッタが魔法術を使えない状態であるのを修正しようとしたことがあるのだが、私が地獄の業火で焼かれそうになった。
正確には、警告と言わんばかりに業火を放ってきた。
「難しいわね。ルッタには『地獄変』が組み込まれている。厄介なことに、コレがあの子の内面セキュリティを担っているから、外部ツールの追加や干渉は即時削除されかねないわ」
「え・・・あ、そうなの?」
気づいていなかった?
コイツに限ってそれは無いと思うけど・・・しらばっくれているにしては、どうにも演技臭くはないな。
「なら、その辺をどうにかできないか研究してみて欲しいんだけど」
「どうやって? 今はルッタとアライラーの保護者をやっているのよ? 都に行って帰ってくる程度ならまだしも、第五階層の研究施設を使うとなれば、しばらく子供らを放置することになるわ」
正直、今このタイミングであの子らを放置するのはマズい。
ようやくとこの階層にいるモンスターに対応できるよう成長してきているのに、間違いなく、ここらで調子づいて舐めプする可能性があるから、目を離せない。
私が地球でお母さんだった時、長男はいう事を聞くいい子だったから油断していたが、次男は目を離すと道路に飛び出していく子で、なんど車に轢かれかけたことか・・・。
今が大事な時期である以上、離れるわけには行かない。
「別に、第五階層へ行かずとも、この階層で研究すればいいでしょう?」
なにを言って・・・いや、まさか・・・。
「海底ピラミッドへ行けと?」
私が嫌がらせを始めてから「俺も私も」と悪神が集まり出して・・・「見過ごせん」と善神たちも集まり出して、「まるでお祭りだな」と悪神たちが『お祭り運営委員会のテント』・・・みたいなノリで建造した施設。
現在は第一階層【春の区画】は北東の海底に隠すようにして設置されているピラミッド型の研究所。
そんな施設も、この世界がバグによる【神殺しの獣】という驚異に晒されたことで、対【神殺しの獣】武器、防具を研究する場所に使われ、前線基地と化した。
まぁ、結果は大したものを作れなかったけれど・・・。
地球の神々などからも情報を貰って、伝説や神話に登場する武器を作ったりもしたが・・・連中には通用しなかった。
そうして、現在は封鎖されている場所でもある。
「ここ数万年。あそこには足を踏み入れていないでしょう?」
「それはそうよ。だって、あそこは危険物も多くあるし・・・いや、何よりも『アイツ』が管理守護しているじゃないの。見回りで近づいたら食われかけたんだぞ」
そうとも、海だって私の見回り範囲だから海底だって潜って見て回るけれど、あの辺りにはここ数万年近づいていない。
なぜなら「見回りの仕事だ」と言ってんのに、『アイツ』が縄張りだと主張するかのように噛みついてくるからな・・・。
「うーん。仕事は協力するようにと言っているんだけどねぇ・・・とりあえず、私の方で注意はしておくからさ。見回りも兼ねて『海底ピラミッド』まで行ってきて」
えぇ・・・。
すんごい嫌なんだけども・・・。
本当に嫌なんだけどもぉ・・・。
「そこまで嫌そうな顔しないでちょうだいよ。行ってくれたら、地球産の道具類を持ってきてあげるからさ」
・・・。
ふむ・・・悪くない。
スマホ・・・いや、今スマホなりパソコンなりを用意しようものなら、アライラー辺りが暴れ出す可能性があるか?
あるな。
ルッタの話を聞く限り、相当にソーシャルゲームへの未練が強いようだし・・・。
「なにか欲しい物はあるかな?」
「・・・調味料の作り方が載っている料理関連の書物を」
ウィッチが、少しだけ口を開いたまま硬直する。
そうして、さほどの間を置かずに聞き返して来た。
「え? 料理関係の? そんなのでいいのかい?」
「ええ。ルッタが、アライラー用に料理を作りたいと言っているんだけど、油や調味料といった物の作り方が分からないと途方に暮れているのよ」
「おー・・・あ。スーパーとかコンビニに行けば買えるからかな?」
「その通り。祖母から料理の手ほどきは受けているそうだけど、細々とした知識はないようだし・・・転生してからは料理などできる環境では無かったそうだから、色々と忘れているみたいなのよ」
「なるほどねぇ・・・うん。わかった。地球でそういった書物を探してみよう。すぐに用意するのは難しいと思うけど、出来うる限り早く用意して届けるとするよ」
「ええ。よろしく」
「うん。ということで、海底ピラミッドの方はよろしくね?」
「・・・分かっているわよ」
「ふふ。じゃ、今日はこの辺で帰るとするよ。お仕事がんばってね~♪」
景色に溶け込むように、その姿をフェードアウトしていくウィッチ。
仕事途中で抜け出して来たような話であったからか、ずいぶんとアッサリ帰っていった。
「さて、私も村に戻るとするか」
少しだけ、昔を思い出す。
神の元アバターである私が、この第一階層すら余裕で攻略できないという現実に心を折られて泣いた日のこと。
ウィッチはヘラヘラしながら私の傍を離れずにいてくれた。
「・・・相棒というよりは、嫌な先生って感じだったな」
なんだかんだで、私が第四階層を踏破するまで一緒に居てくれたのは、ウィッチだったからな。
ふと、少しだけ微笑んでいる事に気が付いて、気持ちを引き締める。
いつか、あの子らも・・・。
「っくしゅ・・・ちょっと冷えたか」
ため息を吐きつつ、私は帰路についた。
・・・今は、頑張らないとね。
次回は、村周辺の探索。もしくは、壺外編。を予定しております。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




