表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/59

04 彼がダンジョンへ落ちるまで

こんにちは。こんばんは。

年度末の時期だからか、なんだか忙しい日々を過ごしています。

皆さんも、体調などにお気を付けください。寒暖差と花粉症で鼻が辛いです。


〈こうして振り返ってみると、私ってば騙されていたんだ・・・〉

「ああ、確かに」

 死んだこと、相手の態度、転生というイベントの発生。

 目まぐるしい状況の変化で、相手の言葉を深く考えることが出来なくなっていた結果だろうな。

〈あの時の蜘蛛がどうのこうのって、まさかこう繋がるなんて・・・〉

 異世界転生と言えば、ほぼ人間への転生だからな。人間以外に転生する話ってそう多くはないと思うが、基本的に自分がそうなるとは思わないだろう。

 俺だって、人間以外に転生する可能性を考えなかったからな。

〈しかしだよ? なんで私を蜘蛛に転生させて、この人をルッタに転生させたわけ? 納得がいかない!〉

 ・・・多分、その理由は説明できる。

〈蜘蛛じゃなくてもいいじゃないか! モンスターなんてそれこそいっぱいいるんだから! 人型のモンスターにしてよ!〉

 えー。

「あ、あのー」

〈うん? なに?〉

 ジィっとこっちを見つめる蜘蛛の眼が、俺を射抜くように圧を強めてくる。不機嫌のようだ。

「もしかしなくても、俺が原因だと思うんだ」

 沈黙。

「それでね? どうして俺が原因なのか?を推測するために、聞きたいことがあるんだ」

〈どうぞ〉

 前足を突き出してきて、俺を促してくる。

「なんで、麒麟似の怪物に襲われていたんだい?」

 静寂。

 世界が静止したかのような錯覚を覚えた時、彼女は怒鳴り声を轟かせた。

〈し、る、かぁあッ!!!!〉

 前足で何かを掬い上げるように地面スレスレから天へと振り上げた。まるで、かの有名なちゃぶ台返しという技みたいな動作だ。

 そして、蜘蛛さんの八つある目から涙?がボロボロと溢れ出して地面へと落ちる。

 ジュワッて音を立てつつ、地面が溶けた。・・・こわッ!

〈あそこのダンジョン入口っぽい穴から出て、ここの壁を登って、横穴見つけたから入って、そこから縦にずーっと延びた穴を見つけたから登って、天井が見えてきたところで下から「んぐぅわああ」って咆哮を響かせながらサンダーブレスでブワァアアっと攻撃っしてきたんだよぉお!〉

 あの麒麟似の怪物と戦ったことを思い出して、感情的になっているようだ。

 というか、地蔵の巨大彫刻の真向いに入口っぽい穴があったのか・・・見れば古代人?の彫刻が施された門のように整えられている。

 いかにもダンジョンへの入り口って雰囲気が出ているな。気づかなかった。

〈せっかく数日かけて登ったのに、邪魔されるばかりか死にかけるとか! なんで邪魔するんだよって話なんですよ!?〉

 ・・・いや、それはもうわかるだろ?

「それさ? 君が外に出そうだったから、阻止するために追いかけてきたんじゃないかな?」

〈え?〉

 麒麟似の怪物が、なんのために彼女を攻撃したのか? という理由を推測すればそれしかないだろう。

「君が言った天井。それは間違いなく外に繋がる蓋でもあったんだ」

〈・・・は?〉

 あ、なんかもう思考が停止しているな。

「だって、俺はその上から落ちてきたんだからさ」

〈・・・えぇ〉

 なんでそこでドン引きするんだ? 意味わからん。

「信じられないか? なら、もう一度、俺の話をしよう。聞いて欲しい」

〈待った〉

 おっと、まさか止められるとは思わなかった。

〈話だけだと想像しづらいから、記憶を直に見せてほしい〉

 え?

〈とりあえず、語りたい話・・・っていうか記憶を思い出してね。あとは私の万能邪眼・・・万能・・・邪・・・万能じゃ・・・万能邪眼が・・・くっそ、なんで邪眼になるかなぁ!〉

 イラつくなって。

「とにかく、君の万能邪眼で俺の記憶を読み取ると?」

〈そして一緒に見よう〉

 一緒に見る? あ、そうか、さっき彼女が自分の回想を投影して見せてくれてたな。アレか。

〈じゃ、始めるから回想をよろしく〉

 え、いきなりだな。・・・とりあえず最初からを思い出すことにしようか。

 そうして、思い出せる限りのことを思い出していると、彼女の眼がキラキラと明滅をはじめ、一つの眼が映像を壁に映す。

〈3・・・2・・・1・・・〉




-回想-


 転生した世界の名前は分からない。だけれども、俺が生まれた国は『第一国家ハースニング』であるようだった。

 生まれた町は、第一国家ハースニングの北方。

 アルメルデ伯爵領と呼ばれる領地の一画で、鉱山を有する町だ。名を『ネルゾイ』という。

 俺を生んでくれた家は、レノーダ男爵家。

 この男爵は俺の祖父となる人物で、祖父が若いころの女王陛下より一代限りとして賜った爵位であるらしい。

 そのため、俺の父は平民である。現在は町の長を務めている。

 詳しい話は聞けていないのだが、大雑把に説明を受けたことがある。

 祖父が若いころに国が第二国家からの侵略を受け、戦争となったことがあった。当時のアルメルデ伯爵様は戦場にて何を血迷ったのか、単独で敵陣に突撃してしまったらしい。

 敵に包囲されて絶体絶命の状態だった伯爵様のもとに、祖父が颯爽と助けに入ったのだという。

 祖父の登場に、援軍を恐れた敵部隊が周囲の警戒で隙を見せたことで、伯爵様と祖父が見事に脱出し、味方と合流するまで守り抜いた。これが爵位を貰った理由となる。

 とはいえ、伯爵様は女王様に怒られて、伯爵と領主は息子に譲ることとなり、男爵となった祖父に貴族の常識などを教えるように言われて、祖父の出身だったネルゾイの町に隠居させられることとなった。

 つまり、現在は前伯爵様であり、前領主様というわけだ。

 ちょうど―――――――――




-現在-


〈長い! 長いよ! ルッタさん!〉

 回想が途中で停止したから、何かと思えば・・・。

「・・・余計な記憶を再生しているのは君だろうに」

〈こういう時、微調整がうまくいかないって、もどかしいのよね!〉

 ああ、確かにイライラしてくるよね。

 とはいえ、ちょっと短気過ぎないかな? ここは根気よく付き合ってくれてもいいのでは?

 せっかく、外の世界に関する情報も教えてあげられているというのに。

「というか、その眼は今日まで使ってこなかったのか?」

〈そんなことはないさ。このダンジョンで生まれてからというモノ・・・この眼が無かったらマジヤバい状況だらけだったぐらいだよ〉

「そ、そう・・・」

〈ただ、他の使い方を考えている余裕が無かったの。ほぼ毎日ビームを撃っている日々だったんよ〉

 言いながら、目の一つからビームが撃ちだされた。なぜか〈ブッピガン〉とか言いながら。

 しかし、そのビームは確かに壁に着弾して、壁を真っ黒に焦がした。砕いたり熔かしたりはしていないが、俺が受けたら丸焼きでは済まないだろう。

「でも待ってくれ。それなら麒麟似の怪物には使わなかったのか?」

 こんな凄い技を持っているのだから、使わないはずがない。だというのに、俺が見たときはアレコレと工夫するかのように戦っていた。

〈最初に応戦する時、最大出力で撃ったんだよ。八連! 邪眼! ビーム!!って〉

 八つの眼が一斉に閃光を放つと、壁を焦土にして見せる。結構近くに居た俺の肌もチリチリと焦がしてくる熱を持っていた。

〈だけど、あの麒麟に命中することなく、拡散して消えちゃったんだよね・・・〉

「八つもあって、一つも命中しなかったと?」

〈そう。あ、私がノーコンというわけじゃないからね? 麒麟がチートモンスターだったんだからね!〉

 あ、はい。

 まぁ、ともかく・・・。そういう理由で、あのような戦い方をしていたわけか。

 かなり不利な状況だっただろうに、頑張ったんだな。

〈ってことで、いろいろ飛ばして回想を進めるよ!〉

「え? うん、どうぞ」




-回想-


「お、坊ちゃん。5歳になられたそうですね」

 ネルゾイの町は鉱山を有する土地だ。

 当然、廃棄予定だったこの山も、俺の『枯渇しない魔力』という加護の影響を受けて鉱石の採掘量は奇跡の大復活を遂げていた。

 そのため、さらなる採掘量増加のために迷路のような坑道を拡張する計画が始動したのである。

 なにせ、閉山が決まっていたことで、町を出ていった鉱夫が大慌てで帰ってくる上に、仕事を求めて他の領地からも人材が流れてきていた。

 つまり、人口増加によって、人手が余りまくっている状況だった。

 そういう事もあって、さらなる坑道の拡張計画が始動し、俺も魔力を撒くために護衛騎士と共に坑道内を歩いて回ることが仕事となっていた。

 通路をすれ違う鉱夫たちとも、挨拶を交わして―――――――――



-現在-


 またストップですか・・・。

〈ちょっとどういうこと!?〉

 回想を飛ばしたから、話が分からなくなっているな。まったく、素直に見ていればいいものを。

〈なんでこのおっさん! 安全ヘルメットにデニムの服を着てるの!?〉

 えー、そっちに驚くの?

 俺の回想を見て、蜘蛛さんが目を丸く・・・元から丸いか。

「俺だって、同じ格好をしているだろ?」

〈あ! 言われて、今気づいた・・・〉

 えぇ・・・。

 まさか、気づいていなかったのか。

 地球では見慣れた緑十字の模様が描かれた黄色いヘルメット。工事現場での着用ではお馴染みの安全第一だ。

 そして、トレーナーとデニムのオーバーオール。

 さらには、牛皮を重ねて作った安全靴っぽいブーツ。

 これら全てに魔法術という謎技術が用いられており、防御力は鉄の強度に匹敵するという。

〈え? ここ異世界とちゃいますのん?〉

「異世界です」

 蜘蛛さんが、唐突にエセ関西弁を使いだした。

 まぁ、無理もない。俺も最初はタイムスリップしたのか?って思ったからな。

 魔法術とかいうモノを見ていなければ、異世界に転生したとは信じられなかっただろうな。

「まぁ、ちょっと回想の足元を見てくれ」

 俺が、映されている回想の足元を指さしてやると、蜘蛛さんは映像に迫って一点を凝視する。

〈これ・・・電車のレール?〉

「ここではトロッコ用のレールだね。物はほぼ同じだよ」

〈へぇ?〉

 なんかもう、理解が追い付いていないみたいだな。

 そうもなるか。剣と魔法のファンタジー。それが異世界転生の醍醐味と言えるぐらいには、浸透していることと思うが、この世界は剣と魔法のファンタジー?ってなるんだよね。

〈せ、説明を求む!〉

「どういう説明をすればいいのかな?」

 一言で説明と言われても、広すぎて難しいから困る。

〈えーっと、じゃあ、この世界は地球でいうところの何時代?〉

 ・・・また難しいことを聞いてくるな。

「そうだな・・・えぇっと、近代ヨーロッパ時代かな?」

 俺は、この世界には自動車があるということ、飛行機などはないが、飛行船の類はあるということを教えてやる。

 また自動車だけでなく鉄道も存在しており、魔法術を駆使した蒸気機関車が運用されていることも教える。

 しかし、車はまだ高級品であるために、平民へと行き渡ってはいない。

 そのため、馬車なども現役だ。平民はみんな馬などを交通手段として使っている。

〈あれ? でも確か・・・魔王の封印で文明レベルを上げるためのエネルギーを浪費しているから、ちっとも発展しないとか言ってなかった?〉

「そう、そうなんだよ。だから俺も戸惑ったんだが・・・鍵は、勇者という存在にあったんだ」

〈ゴクリ〉

 俺は、超大雑把に説明する。

 魔王退治は当初、現地人で行われた。しかし、現地人では封印までしかできない。倒せない。なので、地球から勇者になれる者を召喚して、退治してもらおう。

 はい、無理なので封印作業を継続します。

 はい、魔王の封印で文明レベルが上がりません。こうなったら、地球から召喚する者を勇者から職人に変更しよう。

 やったぞ。職人たちが現地人に技術を教授してくれるおかげで、文明レベルが上がった!

「というわけです」

〈なんやねんそれーッ!〉

 ツッコミを入れたい気持ちはわかるけど、エセ関西弁はやめておけ。

「ま、つまりこの世界は自分たちで新しい技術を作ることはできないけれど、地球から呼んだ勇者によって新技術を教授してもらうことで発展することに成功しているわけだな」

 この問題は、得た技術の維持はできるものの、独自に研究を重ねても発展させることができないということだ。

 改善点はいくらでもあるが、その改善点に行き着くことがない。

 だからこそ、あの自称神は魔王を倒してこの世界が独自に発展していってくれるようにしたいのだろう。

「俺が前伯爵様の屋敷で読んだ『勇者伝説』の本は結構な数があった。それらを読んで見ると、それまでになかった道具や習慣、料理、服飾などが増えていき、それらを順番に並べることが出来るほど独自の発展が見られないんだよ」

〈それ、勇者伝説なの?〉

「もはや歴史書と言ってもいい代物だけどね」

 再び静寂が訪れる。

 またも世界が静止したような錯覚を得て、蜘蛛さんがため息を吐いた。

〈とりあえず、回想の続きを見よっかな〉

「ああ、そうしてくれ」

 見ていた途中で停止中の回想は、こうして再生される。




-回想-


 通路をすれ違う鉱夫たちとも、挨拶を交わして拡張工事中の区画へとやってくる。そこでは、王都から派遣されてきた学者先生が調査員を数名ほど連れて、仕事に励んでいた。

 この場所は、拡張工事中に発見された謎の鉱物で出来た岩盤らしく、工事責任者が町長の父へ報告し、父が領主様に報告し、会議などを経て王家に調査員の派遣を依頼したことでやって来た。

「こんにちは。学者先生」

「ああ、これはルッタ坊ちゃん。お仕事ですか? お疲れ様ですね」

 柔和な笑みを浮かべて労ってくれる。

 この学者先生は『ユアヒム・レーン子爵令息』といい、レーン子爵家の次男坊であると紹介された。貴族でも珍しい学者家系のお人だそうだ。

 専攻は考古学らしいのだが、地質学などにも精通しているようで、今回の調査に選ばれたらしい。選ばれる基準などは知らないが。

 まぁ、俺も坑道を歩き回るのが仕事なのだが、この行き止まり区画まで来たら、あとは帰宅するだけだ。

「どうですか? ツルハシでも、魔法術でも、削れない壁は・・・」

「はい、やはり機材が足りませんね。初日の調査でそれがわかりましたから、現在は王都から機材が届くのを待つしかない。という状況です」

 すると、工事責任者の人が学者先生に言う。

「やはり、宮廷魔法術師様をお呼びするのが一番良いと思うのですが?」

 王家から認められた国でも一番を争うに足る実力を持つという魔法術の使い手。それらが宮廷魔法術師として召し抱えられ、必要に応じて王家の命令で国中に派遣される。

 そんな実力者を呼ぶ必要があるほど、この岩盤は難解な材質なのだろうか。

「私も同意見なのですが、どうにも派遣は難しいようなのです」

 同席している工事関係者が、皆、難しい顔になって学者先生を見た。

「私も王都を出発する際に聞いた話なのです。それによると、アルメルデ領の近隣領地から王家に対して『贔屓し過ぎている』と、騒ぎ立てているようでして・・・」

 言いがかりにも程があるというものだろう。

 しかし、俺の考えを他所に、集まっている者たちは腕を組んだりして頷いていた。

「あー、確かに・・・ここ数年のアルメルデ領は好景気だもんなぁ」

「ネルゾイを中心に、商人が大挙していますからね」

「働き口を求めて、他領地の若者まで押しかけていると聞きますし、まさに最盛期を迎えていると言えますな」

 そっかー。でも、それと贔屓は別だよね? ただの嫉妬ですよね?

「だからこそ、領主様はさらなる坑道の拡張を指示しているのでしょう?」

「しかしなぁ・・・こんな分けわからない鉱物の岩盤に阻まれてしまっては・・・」

 各々に好き勝手なことを言っているが、雰囲気は悪くない。和気藹々という奴だろう。

 この学者先生が、あまり貴族と平民という格式にこだわりがないからこそともいえる。いろんな意見は、謎解きに偶然のヒントとなる場合がある。と言っているぐらいだ。

 それに、現領主様も工事を急げとは言っていないらしく、事故や怪我などをしないように注意を促しているらしい。

「少なくとも、鉄ではない。これは、間違いんないでしょう」

 学者先生が苦笑しながら言う。

「もしかして、神話に描かれている『神々の時代』に存在した伝説の鉱物『アダマンタイト』だったりしませんかね?」

「いいですね。それであれば、鉄のツルハシでは砕けませんよ」

 笑い声が響く。

「そうだ」

 学者先生の一言。

 それが、俺に悪寒を覚えさせた。

「ルッタ坊ちゃんに、ぜひお願いしたいことがあったんです」

 俺と、視線が合うように片膝を地につけると、続けて言った。

「・・・なんでしょう?」

 さっきまでとは、何か雰囲気が違って感じる。

「はい、物は試しといいます。ぜひ、問題となっている岩盤に触れてもらいたいのです」

 掘り進めないという謎の鉱物で出来た壁を指さす学者先生。

「それは、なぜですか?」

「坊ちゃんは、常時魔力がその小さな体から溢れ続けています。そんな膨大な魔力を謎の鉱物が受けた時、どのような反応が出るのか確かめたいのです」

 ・・・そういうモノなのか?

 話が、そういう方向に流れると、護衛騎士の一人が前に出る。

「お待ちください。ユアヒム様」

 俺の後ろに付いて、護衛騎士が続けて言う。

「確かにルッタ様は、多大な魔力をお持ちですが・・・魔法術を扱う才には恵まれておりません。溢れている魔力だけで、鉱物に何かしらの変化が生じるとは思えません」

「ふむ。確かに変化は見られないかもしれない。しかし、変化が見られるかもしれない」

 学者先生がスッと立ち上がって、護衛騎士と視線を絡めた。

「護衛ですから、不用意な行動をさせるわけにはいかない。というのもわかりますが、ただ岩盤に触れてもらうだけです。大丈夫ですよ」

「し、しかし・・・」

「ね?」

 護衛騎士は、一歩下がって一礼する。

 学者先生は子爵令息だ。その上で、女王陛下より調査命令を受けてこの場にいる人物でもある。その権力は一介の騎士など遠く及ばない。

 凄まれてしまえば、下がるしかないのが騎士という身分か。

「申し訳ない。護衛という任務を果たしている君に、無理を言ってしまったね」

「いえ」

 俺は、学者先生に手を引かれて、岩盤に近づいた。

 まぁ、これが町のためになるのであれば、協力するのは当然だと言える。俺、町長の息子だし。

「万が一、なにか不測の事態が生じたなら、私が責任を取って坊ちゃんを君に投げますから」

 投げるのかよ・・・。

 結構荒っぽいことを言う人だな。って思いつつ、問題となっている岩盤に触れるため、この右手を伸ばした。

 指先が、触れる・・・直前で、轟音が響いた。


 ズズン


 そんな音が、足元から聞こえてくると、現場は一斉に怒声を上げ始めた。

「今のは!?」

「地震かもしれん! マズいぞ!」

「ルッタさま! こちらに――――」

 護衛騎士が俺に手を伸ばしながら駆け寄ってくるが、俺が伸ばした手が届く前に、直下から爆音と共に地面が激しく振動する。


 ドン


 そんな音を轟かせて、坑道が縦に動く。

 こんな中で動ける者はいなかった。俺に駆け寄ろうとしていた騎士も、倒れて四つん這いのまま固まっている。

 地震が頻繁に起こる日本出身の俺ですら、体験したこともない揺れだった。これが直下型地震というのだろうか?

 天井に亀裂が走る。

 よくあるゆっくりと裂け目が広がっていく演出などなく、バシッと天井が裂ける様子は、恐怖心を煽る。俺の顔も青くなっていることだろう。


 バシッバシッバシッバシッバシッバシッ


 そんな音を連続で発しながら、天井も壁も足元さえも亀裂が走り続けていく。

「逃げろ!」

 下からは、爆発音と震動が轟き続けて、止まる様子も感じられない。

 なりふり構っていられない。だから、それまでずっと隠していた地獄変を右手に召喚して、石の錫杖へと変える。

「地獄道・地蔵菩薩錫杖術」

 これが、石の錫杖を呼び出す技の名だ。

 俺が地獄変を召喚するよりも少し前に、天井が崩落を始めていた。

 この場にいる全員の眼が、そちらに集中していたことで、誰も俺を見ていなかった。

 だから、素早く渾身の力を込めて学者先生を叩き飛ばす。魔法術を使う才能はなかった俺だが、地獄変を介することで魔法術に似たことはできるのだ。

 学者先生は、うまく護衛騎士に受け止めてもらえた。

 直後に、天井が落ちて土砂と鉱物が降り注ぎ、俺と彼らの間は埋もれて阻まれる。当然、土砂と鉱物に潰されてしまうから、錫杖に魔力を流して青い炎を作り、これを身に纏うように広げて身を護る。

 しかし、次の瞬間には浮遊感を覚えた。

 それから続く落下に、ただただ呆然とした。

「嘘だろう?」

 対魔王兵器として、異世界転生をしたはずなのに、これはどう考えてもバッドエンドじゃないか?


 俺の身は、ただ深淵まで続くだろう穴を落ちていくのだった。




-現在-


「というわけだね」

〈つ、続きは!? 続きはどうなるの!?〉

 いや、続きもなにも、俺が君と麒麟似の怪物を見つけて、介入して・・・って続くだけなんだが。

「続きは、このまま再生すればいいだけじゃないかな?」

 あ、数十分は落下している様子しか映らないか。

〈そっか、よーし! ここまで見たんだから最後まで見ちゃうかな!〉

 映画を見るノリだな。

〈ねーねー?〉

「うん?」

 蜘蛛さんは、俺に前足を伸ばしてくる。

〈ポップコーンって持ってる?〉

「持っているわけねーだろ!」

次こそ蜘蛛ちゃんの名前を決めたいと思います。あと、ダンジョンへ突入・・・する予定です。

読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ