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39 しっかり後片付けをしなさい

 こんにちは。こんばんは。

 更新が遅くなってしまい、たいへん申し訳ありません。

 今回のお話は、前回の続きになります。


 今後の展開も考えて、お話を作ることに悩んでいたら・・・いつの間にか12月に突入していて慌てております。

 どんどん寒くなっている今日この頃ですので、体調に気をつけていきたいと思います。皆様も、どうかお気をつけて。


 最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


 谷へと続く丘陵地帯の境目で、アライラは立ち止まった。

 ただ、あと数歩前進すれば隣のエリアに入るという距離で立ち止まっている。というのも・・・彼女の視界には、おそらくエリアの境界を越えた先に見える異様な雰囲気に悪寒を覚えたからだろう。

 俺がそうなので、同じだと思いたい。

 さて、ここからどう行動するか?と考えていると、アライラが不意に前進して境目ギリギリで止まる。と、片方の前足をプルプルと震わせながら隣のエリアへ侵入させる。


 ジュ。


 ただ一音だけが響いたのと同時に、隣エリアに入れた前足が急速に溶けだして蒸発してしまった。

 普段であれば〈ぎゃー〉とか喚き出すだろう彼女も、今回ばかりは目を点にしているのだろう雰囲気でゆっくりと引き戻す。

〈・・・これ、マ?〉

 もはや取り乱す間もなく足が無くなったことで、冷静になっている感じに見えた。

「とんでもない溶解速度だな・・・昨日は蔓延し始めた段階だったから、なんとか逃げ切れたのかもしれないが、今はもうダメだな」

〈えぇ・・・こういうのって次の日にはリセットされてるもんでしょ?〉

 確かに、俺もそのように考えてはいた。

 しかし、こうしてアライラの脚を瞬時に溶かして見せたのだから、リセットされていないのは明らかだ。

 このダンジョンでは、倒したモンスターは翌日か一定の時間経過でリポップする事は確かなようであるし、戦闘で破壊した土地なども自己修復のような事が行われて元通りになっているようではある。

 なので、モンスターの汚物なども同様に処理されるモノと予想はしていたのだけど・・・。

「マリーさん。これはダンジョンの仕様なのでしょうか?」

「私にも分からないわ。これまでにこのような事態は経験が無いからね」

 そうでしょうね。

 アライラと一緒に考えた大作戦は、一応マリーさんに相談した上で決行したものだ。

 OKするかどうかに悩んでいたことからも、結果の予想はできなかったのは間違いない。だからこそ、俺たちの考えた作戦を『ダメ』と言うのではなく『やってみればいい』と言ってくれたのだろう。

〈で? どうするん?〉

「どうすると言われてもな・・・」

「とりあえず、こうなっている原因はキュアーンの吐瀉物であることは間違いないのだから、やった以上はお前たちでしっかり後片付けをやりなさい」

 ・・・やっぱり、そうなりますよね。

「もちろん、私も付き合うわ・・・私にも責任の一端はあるわけだからね」

 おお。ありがたい事です。

 今回ばかりは、マリーさんの言葉に甘えよう。正直、かなり厳しいことになりそうだからね。


「下手しなくても、バグが発生するだろうからね・・・手早く処理したいし」


 ボソッと、なんだか物騒な言葉を漏らしていた。

 ・・・チラッとマリーさんを見ると、特に表情は変わらず無表情である。ポーカーフェイスという奴だろうか? 先ほどの呟きについて尋ねたいところだけども。

 やめておいた方が良さそうか。

〈はー。掃除かー。掃除って嫌なのよねー〉

「気持ちは分かるけど、今回ばかりは嫌がっていられないぞ」

〈うーん。分かってるけどさ? こう・・・掃除ってテストの前日とかじゃないとヤル気でないんだよねッ!〉

 ・・・気持ちはとても分かるけども、テスト前日は勉強しよう? 俺も君のことを言えないけども。言えないけどもッ。

 なんか、いつもより凝った夕飯とか作りたくなるし、皿洗いとかお風呂掃除とか徹底したくなるけれども。

 だいたい祖母に「いいから勉強しな」と台所やお風呂場から追い出されるんだよなぁ・・・あ、思考が逸れた。

 


 とりあえず、彼女の溶けて無くなった前足の修復を行う。

 いつも通りに『カタチナセ』で、すぐ終わる。



「さて、中に突入するわけだが・・・」

〈このままだと私が一瞬で溶けて無くなっちゃうんですが?〉

 分かっているとも。

 だからこそ、突入する準備が必要なのだから・・・ただ、どうするかを考えているところだ。

「まず突入するまえにやる事は二つある」

〈ほう? 二つですか? やりますねぇ〉

 ・・・なんだ? アライラはすでに何をするべきなのかを分かっているというのだろうか? 俺が言う必要は無いのかもしれない?

 いや、どうせ俺が何か言えば〈そうそれ。私もそれが言いたかったんだよね〉と言ってくるだけだろう。

 気にすることでもないし、話を進める方が優先だな。

「まず、結界のように俺たちを覆うバリアの展開。そして、空気の確保。これがやるべき事だ」

〈そうそれ! 私もそれが言いたかったんだよねッ!〉

 ・・・うん。そうだよね。

 予想した通りの反応なので、特に何も言うことは無い。

「では、まずバリアを展開してくれ。結界みたいにドーム状のバリアでいい」

〈ほいほい。邪眼マジック! ドームバリア!!〉

 ・・・アレ? そういえば、以前はプロテクトなんとかかんとか言ってなかったかな?

 いや、俺もよく覚えていないし、別に効果が一緒であれば構わないことだけど・・・。

「次、空気の確保」

〈・・・それってさ? 酸素ボンベとかそういう感じ?〉

「え? 酸素ボンベ?」

 ・・・邪眼が酸素ボンベになるってことかな? それとも外付けのタンクとかが接続されるとか? あ、なんかよく分からないことになった。

「いや、えーっと、ちょっと待って・・・ごめん。酸素ボンベのイメージに失敗した」

〈そーなん? 海に潜るときに背負う奴とか、そんな難しくないと思うけど?〉

「君の言う酸素ボンベって、邪眼を酸素ボンベにするってことでいいのかな?って思ったんだ」

〈・・・はー? あー? なるほどねー?〉

 君もイメージできていないようだね。

 まぁ、それはもういいとして、俺のイメージをちゃんと伝えておこう。

「俺の言う空気の確保っていうのは、異常な空気を清浄化するってことだね」

 アライラの脚を数秒で溶かしたほどの溶解性気体が蔓延しているだろう『北の谷』がある隣エリア。そんなところに入るのだから、当然のように空気を吸ったら身体が中から溶けてしまうだろう。

 それを防ぐためには、溶解性の空気を清浄化すること。もしくは、草原エリアの空気をバリア内に取り込みながら移動するか。

 邪眼の性能を考慮すると、空気の清浄化がもっとも発動させやすいと予想できる。

 なぜなら、空気清浄機をイメージさせる方が楽そうだからな・・・万能邪眼だって、そっちの方が分かりやすいと思うし。

〈・・・は! 空気清浄機か!?〉

 どうやら、俺の予想は当たったようだ。

〈よーし! 邪眼デバイス! 空気清浄機!!〉

 意気揚々と邪眼で空気の清浄化を実行するアライラ・・・だけれども?


 ・・・。


〈・・・なんか変わった?〉

「さぁ? バリアにこれといった変化はないようだが・・・」

 そう。

 技は発動した。

 発動したのだけれど、どのように効果が発揮されているのかが分からない。

「・・・とりあえず、これで隣のエリアに入ってみよう」

〈マジで? 大丈夫なん?〉

「突撃はしないでくれ! まずは、バリアの一部を隣のエリアに入れるんだ」

〈ほぉ?〉

「入った瞬間に君の前足が溶けて無くなったんだから、バリアだってどうなるか分かったもんじゃない。なら、まずはバリアの一部を侵入させて反応を見るんだよ」

〈むーん。そゆことなら・・・いっきまーす!〉

 トコトコ。

 バリアだけを隣のエリアに侵入させるべく、ゆっくりと前進するアライラ。

 まずは様子見が目的なのだから、それでいい。のだけど、バリアが隣のエリアに入った直後、ドロッと溶けだしてあっさりと消えてなくなった。

 なので、トコトコ。と後退するアライラ。

〈・・・穴。空いてね?〉

「・・・うん。空いたね」

 いつもなら大げさなリアクションを取るアライラも、これほど地味であっさりとした現象であると、反応できないようだ。

 反応できないからこそ、一周回って冷静に状況判断できているのは笑うところだろうか?

〈ムリゲーじゃん?〉

「いや。まだ無理と決めるのは早い」

 アライラが超特急で諦める選択をしたので、俺は否定する。

「バリア一つに邪眼一つ。空気清浄機に邪眼を一つ。まだ邪眼は六つある」

〈あー・・・バリアを重ね掛けする?〉

「そうだ。バリア事態は溶けて無くなるまでに時間があった。君の脚と比べても、十分に抵抗していたのは確かだ」

〈紙耐久でごめんなさいねー〉

「それはいい。それよりも、君が言う通りでバリアを重ね掛けするんだ。けれど、ただ重ね掛けしてもいずれは溶けて無くなってしまう事がわかったから、バリアが溶けて無くなったら即補充する。をしないといけないわけだ」

〈・・・おー〉

 その反応は、ちゃんと理解できたのかな?

 どうにも怪しいので、実験をしてみるのが一番いいだろう。


 そうして、まずはバリアを何枚重ねると、バリアの補充が間に合うのか?を見ることとなる。

 二枚のバリアを展開して隣のエリアに侵入させ、一枚目のバリアが溶けて無くなるタイミングで三枚目のバリアを展開してみる。

 すると、二枚目のバリアが溶けて無くなった直後に三枚目が展開された。

 このことから、バリアは四枚展開して置き、一枚目が溶けて無くなったタイミングで、一枚目のバリアを四枚目として再展開する。こうすることで、邪眼の使用を四つに抑えることに成功した。

 空気清浄機として邪眼を一つ使用するから、残る邪眼が三つになる。

〈そこまで切り詰めなくてもよくね?〉

「いいや、この中で何が起きているのかも分からないんだ。守りに使うも攻撃に使うも、フリーの邪眼は一個でも多い方がいい」

 突拍子もないモンスターが再び出現する可能性も考慮しないと、いざという時に身を守れないからね。

 

〈四連続邪眼ドームバリア・椀子そば・・・もうちょっと名前をどうにかしたいなー・・・の重ね掛け、よーし! 邪眼デバイス、空気清浄機の発動よーしッ!〉

 ドームバリアの一枚目が消失してから再展開する。を邪眼に自動でさせ続けるために、アライラがイメージできたモノが『椀子そば』だった。

 どうやら、勝手に補給してくれる。という点で、椀子そばを思いついたらしい。

「ふぅ・・・魔力供給の心構えよし・・・」

 長時間のバリア展開を維持するための魔力供給をする。ただでさえ、何かしらの邪眼技を維持し続けるのに血反吐を吐いている俺だ。

 谷周辺の汚物処理は、俺にとって最大の試練となるだろう。

〈それではアライラー清掃員! これより異常地域の清掃活動に入ります!〉

「よろしくお願いします」

 こうして、俺たちは溶解異常地域へと足を踏み入れることとなった。



「ごっふ・・・アライラ。すまない。引き返して・・・」

〈やっぱダメじゃん!〉

 大急ぎで引き返してもらったことで、大事には至らなかったが・・・マリーさんが様子を診てくれているのですぐにでも状態は知れるだろう。

〈まだ谷どころか、いつもの出迎え埴輪兵の場所まで行けてないじゃんよー〉

「バリアの消耗速度を見ただろう? エリアの境目でちょこっとバリアを入れていた時とは接触面積が違うせいか、物凄い勢いで溶けていたじゃないか」

〈それはそうだけどさー〉

「正直、想定以上の溶解速度だ・・・バリアの質を高める必要もあるぞ」

〈・・・じゃ。改で行こう〉

「俺を殺す気か?」

〈そう言って死んだ奴はいないって、なんかの漫画で読んだことある〉

 どうしよう・・・何と言い返せばいいのか思いつかない。

 これでは言い負かされたみたいだけど、そもそも生きているから言えるのであって、死んでいたら言えないんだから当然と言えば当然だと思うが・・・。

 いや、そういう話をしているんじゃないんだよね。

「とにかく。改は待ってくれ。まずは基礎的な技をしっかりと練り上げる方が先だ。それから改とすることで、より技の精度は高まっていく。そうだろう?」

〈おー・・・確かに。どんな達人も基礎を疎かにしてはいけない。って漫画で言ってた!〉

 ため息しか出ないなぁ・・・はぁ・・・。

 あと、君は達人ではない。コレは断言する。君は達人ではない。

 

 結局、マリーさんから今日は止めておくように言われたため、集落に戻ってしっかりと休むことになる。

 状態は悪いということではないが、異常が発生している地域を清掃するとなれば、しっかりと休んでから挑む方がいい。という判断であるらしい。

 入れば身体が溶けて無くなる地域への突入に対して、準備にアレコレやっていたこともあり、疲労が思ったより溜まっていたのかもしれない。

 なので、その日はゆっくりと休ませてもらう事にした。



 そうして翌日。

 マリーさんが処方してくれた薬を飲んで一晩寝たら、なんだか身体の調子がとてもイイ感じだ。

 聞くと怖い思いをしそうなので、聞かない事にしているが・・・きっと大丈夫だろう。子供に変な薬を飲ませるような大人では無い。と信じることにする。

 

「それでは、昨日のリベンジと行こう」

〈目指せ! 北の谷!!〉


 昨日と同じく、四連続で邪眼によるドーム状のバリアを展開してもらい、空気清浄機の機能を邪眼で再現してもらう事で、北の谷を改めて目指す。

 強力な溶解性の気体が充満している現在の丘陵地帯では、アライラが展開したバリアが数秒で溶けて無くなってしまうため、常に維持と補充を行うための魔力供給が必要だ。

 バスター・ビームのようなまとまった魔力が必要な技とは異なり、割と低コストで展開できるのは良いことと思うが・・・それも数が重なればお安くない。

〈おー〉

 谷まで続く道を移動する途中で、アライラが道の端に溶けた物体を見つけて立ち止まる。

 何を感心しているのか?と、俺はアライラを軽く小突いてから聞いた。

「どうかしたの?」

〈おー? うん。この溶けているヤツなんだけどさ〉

 前足で指し示すのは、原形も留めていないぐらいに溶けてしまった何かだ・・・が・・・。

〈これ、いつもの埴輪兵じゃね?〉

 言いつつ、アライラは溶けた物体のある場所を前足で突いて示す。

 それは・・・穴だが・・・あー・・・。

「埴輪の顔っぽいのが確かにあるな・・・」

〈ね? 埴輪兵が出てこないのって、みんな溶けてるからじゃん?〉

「なるほど・・・思えば、キュアーンは金属を主食にするモンスターなわけだから、埴輪兵に使用されているハミョルトン・・・だったか?の隕鉄もあっさり溶かしてしまえるわけか」

 ということは、このエリアに充満している溶解性の気体を上手く利用すれば、埴輪兵への対処は今後も楽になるか・・・。

 いや、活用しようにも・・・俺にその技術が無い。

 今もバリアで遮断しつつ、空気清浄でバリア内の安全を確保しているわけだしな。

〈むしろ、まだ形をギリギリで保っているのが凄いってヤツ?〉

「そうかもしれないな」

 粘土のように柔らかいために、その活用法が無くてゴミ扱いされていたらしい埴輪兵の素材である特殊な隕鉄。

 それが、溶解してもまだ辛うじて形を保っているというのは・・・もしかすると、まったく別の活用方法があるのではないだろうか?

 要研究・・・と言いたいが、俺はそういう人間ではないので結果を出すのはムリと言えるほど無謀なことだ。

 

「とりあえず、埴輪兵を警戒する必要は無くなったな」

〈よっしゃ! 一気に谷まで、ひあうぃごーッ!!〉


 そんなノリノリで、アライラが谷までの道を走破した。

 だが、俺は谷に到着してすぐにアライラへと言う。

「すぐに身を隠せ! 明らかにオカシイぞ!」

〈なにが!?〉

 道中にて、アライラは特にオカシイと感じることは無かったのだろう。

 しかし、俺は違う。

 この丘陵地帯と呼べるエリアにて、入った物を瞬時に溶かし始める溶解性の気体が充満しているわけだが・・・その原因となっているはずだったキュアーンの吐瀉物を見かけていない。

 道から外れた場所の小山で『お腹の急降下大作戦』を決行したわけだが、作戦の成功と同時にキュアーンは盛大に吐瀉物を撒き散らしていた。

 俺の見間違いでなければ、方々に汚物をばら撒いていたのは確かに覚えている。

 なのに・・・ここへ来るまでに吐瀉物を見ていない。代わりと言ってもいいか迷うところだが、埴輪兵の溶けた物体は、ところどころで見かけた。

 すでに壊れているのだろう。

 まるで電池を抜いたオモチャのように、動く気配を感じさせない哀愁を漂わせていた。

 

 その一方で、順調に谷まで歩を進めることが出来た俺たちは・・・まさに谷底から声のようなものを聞き取った。


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお


〈風とか、そういう感じの空耳かな?〉

「いや、本当に谷底から聞こえている感じだぞ・・・底に何が居るんだ?」

 アライラの言う通りで、谷という環境から風の強弱で声のような音が発生することは実際にあったりするとか聞いたことはある。

 えーっと、確か・・・隙間風を谷スケールにした感じだっただろうか?

 いや、今はそれどころでもない。そういう人の声に聞こえるような隙間風という事は、現時点では在り得ないからだ。

 だって、風が吹いていないのだから・・・。

「アライラ。底に降りないでくれよ。降りたら死ぬぞ」

〈でもさ? 降りないと汚物処理できなくね?〉

 確かにその通りでもあるんだけど・・・それ以上にマズいことがある。

「バリアを見てくれ。谷に到着した時点で、バリアの溶解速度が速まっている」

〈え? ゥあ! マジだ・・・え? バリアもう一枚追加しとく?〉

 ・・・。

 ・・・・・・その方がいいか。

「そうだね。ドームバリアをもう一枚追加してくれ」

〈ほいほい。邪眼! ドームバリア! 追加発注!!〉

 ・・・そんな技名でしっかりとバリアが追加されるのだから、万能邪眼は本当に便利だな。

 そして、バリアが追加されたことで、唐突に鼻血が出てきた。

 ぐ・・・ダメだ。

 この鼻血・・・詰め物しても絶対に止まらないタイプだから、垂れ流しにしておくしかないな。すでに四枚の状態でここまで来ている事も考えると、五枚目の追加は厳しいものだったようだ。

 とはいえ、まだ鼻血程度だ・・・とりあえず、身体のどこかしらが裂けて血が噴き出すまでは現状維持で大丈夫のはず。

 前のように、とんでもない瞬間的過負荷でも発生しない限りは、気絶しないはず・・・。

 

 アライラだからなぁ・・・瞬間的に魔力供給の負荷が過負荷に達する技をいつ使うか、予想ができないのが恐ろしい。


〈ほんで? 谷底に降りないなら・・・どうすんの?〉

 おっと、そういう話をしていたんだったな。

 頼むから、俺が気絶するような技を思いつきとノリでやらないでくれよ?

「とりあえず、俺が地獄変を用いて有効な技を模索してみる」

〈・・・そんなんできるん?〉

 右手に石の錫杖を持っているので、左手に地獄変の巻物を召喚して結びを解き、そしてアライラの上で転がして書を拡げる。

 別に内容を読むのではない。

 何かしらで行き詰まった時に、何かしらの行動をしていると・・・そう。不意に妙案が思い浮かんだりすることはある。

 それに近い状況を作るのを目的とした行動だ。

 地球では、いろいろとやれる事はあった。

 夕食作りや、庭の花壇を手入れ、部屋の掃除とか、新聞に挟まっている広告などで折り紙を作ったり。

 集中することによって、雑念を可能な限り排除していくことで、思考をよりクリアにしていく・・・と言った感じだ。

 ただ、この世界に来てからは勇者の本を読むくらいしかできず、貴族の家で軟禁生活だったこともあって、大したことができていなかったからな。

 それは今も同じか。

 だからこそ、行き詰まっているのならば、俺が唯一所持しているチートアイテムを読むのが、一番だろう。とはいえ、この巻物はとにかく説教ばかりで面白い物ではないけれどね。


〈るっちゃーん?〉

「ああ、谷だな。地球でも、よくある表現の一つとして、地獄谷などがある」

〈え? あー、うん。そうね?〉

「なら、そういう事なのかもしれないな」

〈うんうん? なにが?〉


「地の深淵に、我が力を以て求める」


「空に響くは怨嗟の声音。怪奇の叫びは恐怖に震え、誘う牙は生者を砕き、滴る罰は亡者の食事」


「罪負うモノを噛み潰せ、死出の唇は底へ通じる門となる」


「地獄門・怪口怨嗟咀嚼谷」


 土は盛り上がる。

 谷の向こう岸と、俺たちの足元で土が流動すると、それは山のように盛り上がって谷全体に広がっていく。

〈おわわわわわ〉

 唐突に足場が盛り上がったことで、アライラは大急ぎで逃げ出すものの流動する土の勢いに足を取られて逃げるのもままならないようだ。

 だが、別に逃げる必要もない。

 土の流動が止まる時、谷は大口を開いて怨嗟を放つ。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


 元から聞こえていた怨嗟のような音と混ざり合い、そして谷はゆっくりと大口を閉ざした。

 谷が閉じる動作は強烈な震動を起こし、あまりにも強烈な地震にアライラが足を投げ出して地面に張り付くように伏せった。

〈ななななななななんなんなんなん〉

 彼女が取り乱すのも無理はない。

 地球の日本で生活していても、これほどの横揺れを起こす地震は経験したことは無いはずだ。あくまでも、前世の記憶によるところは大きいが・・・。

 大規模な横揺れが、破砕音を放ちながら縦揺れと衝突音を響かせた。

「始まるぞ」

〈もう始まってるよね!?〉

 いや、コレはまだ予備動作のようなもので・・・。

 説明をしようとした時、先ほどとは比べ物にならない速度で横揺れが発生すると、破砕音がひと際大きくなって響きつつ、感覚を狭めて縦揺れと衝突音が連続して発生する。

〈いやーッ!! この世の終わりやぁーん!!!?〉

「まぁ、日本でやったら直下型地震になるんだろうね?」

 まさに起きている事象は、世界の終わり・・・少なくとも、日本という国が物理的に崩壊するだろう大地震が発生しているわけだが。

「でもね? これ、ただ咀嚼しているだけだから」

〈はー?〉

 そう。

 これは地震ではない。

 規模が大き過ぎたために、アライラも地震であると断ずる他にない状況となったが・・・コレは地震ではない。


 地獄門・怪口怨嗟咀嚼谷。

 

 これは言うなれば、広範囲の罪人を一気に地獄へ落とすための技になる。

 アライラ的に言えば・・・そうだな・・・MAP兵器とかそういう表現になるんだろうか? 叔母がなんかのシミュレーションゲームでMAP兵器が使えねぇ!とか愚痴っていたのを思い出す。

 谷の両岸で土が流動し山のように盛り上がったのは、唇とするため。

 すなわち怪異の大口を模した装飾のようなものだが、その本質は門に通じている。観音開きを唇の形状で再現していると思ってくれればいい。

 そして、大口となった谷は歯・・・というよりは牙を模した岩が生え出して、落ちて来た罪人の肉を噛み砕き擂り潰し、その血肉を魂と分けつつ、共に地獄へ呑み込んでいくわけだ。

 一人一人、丁寧に地獄送りするのが理想だが・・・罪人が多過ぎるならこの技こそが最適解となる。

 まぁ、その結果が天変地異の大地震となるのだから、二次被害どころでは済まないだろう。

「って感じだから・・・」

 アライラが右から左へ流さないように説明するにはどうするかな・・・。

〈え? なに? 周囲の音が煩すぎてほぼ聞こえないんだけど!? なんつったんの!?〉

 ・・・うん、まだ説明してないんだけどね? 今は悠長にやっている場合でもないから後日改めよう。

 だって、谷の範囲が思いのほか広かったようで・・・俺の身体からは大量の血が噴水のように噴き上がっているのだから。


「ムリをし過ぎよ」


 ポン。と、マリーさんが手を頭に乗せると、俺の身体から噴き出した血が止まる。

 そして、魔力の供給が途絶えてしまった。

 これと前後して、咀嚼谷も終了した上にアライラが展開していたドームバリアも消えてしまう。

「バリアと空気は私の方で引き続き展開するから、おまえはしばらく休みなさい」

 言うのと同時に、指を鳴らしてバリアが展開される。

 アライラが展開したバリアと違って、この異常事態になっている空気に触れても溶解する様子がなかった。

 どうやら、マリーさんはアライラよりも数段強力なバリアを軽く展開できるようだ。

 分かり切っていたことではあるけど。

〈おー・・・なんか谷が元通りになった〉

 その言葉を聞いて、俺も谷へと視線を戻す。

 確かに、巨大な口となっていた谷は元通りになっていた。

 それと同時に、キュアーンの吐瀉物なども姿を消しており、どうやら一気に片付けることができたようだ。

 ただ、本来の用途ではないので・・・あとで地獄変から何かしらの反動がある気がするな。


「さて、このまま北上しましょうか」


 ・・・。

 ・・・・・・え!?

「北上!?」

「そうよ。キュアーンは嘔吐と下痢をしながら谷底へ落ちて、そうして北上していった。なら、吐瀉物が残っている可能性は十分にあるでしょう?」

 そ、そうか・・・咀嚼谷で一掃したつもりでいたけれど、どこまで届いたのかは把握し切れていない。

 それに、おそらくは技の効果は最大でもこの丘陵地帯となるエリアまでだとすれば、キュアーンがエリア外へと移動していた場合は取りこぼされている事だろう。

 掃除が完了した。とは言えないわけか。

「・・・では、北上する場合、どの辺まで移動することになりますか?」

「ふむ。キュアーンの寝床である第一階層【春の区画】も最北端。レアメタル鉱床として栄えた鉱山よ」

 ・・・。

 ・・・・・・今、最北端って言った。

 そういえば、ここがとっても寒い地域なので勘違いしていたが、ここは北西の地域だ。

 北の谷とか言っていたから、ついつい北にいると思っていたが・・・最北端というわけじゃない。

「1時間・・・いや、2時間ほど休んだら、このエリア内を一通り見て回り、吐瀉物が残っていないかを確認する。北上はそれからにしましょう」

 ・・・なので、とりあえず寝ることにする。

 寝ることで身体を休め、怪我の回復を高めることにした。

〈じゃあ、私も寝るー〉

 その場で身を小さくすると、すやーっと寝てしまうアライラ。

 何気にスゴイ特技な気がする・・・けれど、5年間の洞窟迷宮サバイバルで身につけた技能とも言えるか。

「おまえも、しっかりと休むようにね」

「はい」


 こうして俺は全身の力を抜き、眼を閉じる。

 後片付けは続くのだから、しっかり休んで臨まねばならない。

 あとは・・・マリーさんが呟いていたよなバグとか発生しない事を、切にいの―――。 

 ・・・しまった。これ、フラグ立てたって奴か?

 

 マズったな・・・。




 次回は、さらに北へ。を予定しています。


 敵も味方も悪性キャラの別作品を書いてみているのですが、おかげで【壺外編】の敵キャラをどう書くか。の方針が改めて決まりましたので、こちらも続きを下書き中です。


 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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