38 えぇ・・・
こんにちは。こんばんは。
今回のお話は、前回からの続きになっていますが・・・大変お見苦しい事態になってしまいました。
先にお詫び申し上げます。
最後までお楽しみいただけたら、幸いです。
〇―夢―〇
「ぐうぐう!」
とたとた。と床屋の看板に歩み寄って、小さな両手でバンバンと叩いている子供がいる。
歳の頃は、まだ歩けるようになって日が浅い感じだ。
「こらこら。叩いたらダメ」
そう言って、床屋の看板を叩く子供を抱き上げて引きはがす学生服を着た女性が現れる。怒っているのかと思えば、可愛いモノを見た時に出る声音だったので・・・たぶん、笑顔だろう。
とすれば、この女性は叔母に違いない。
また、俺自身でも思い出すことの無い幼過ぎる頃の夢か・・・地獄変が見せているのだろうか?
そんな事を考えていると、看板から引き剝がされた俺は、その腕の中でジタバタと暴れ出して「ぐうぐうッ!!」と大声で騒ぎだす。
ちなみに、発音的には「ぐるぐる」だ。
抱きかかえている叔母は、両手両足をバタバタと動かす俺の力強さに自身の限界を感じたようだ。
「あー、わかった。わかったからー。ほら、叩いたらダメだからねッ」
「めッ」
解放された俺は、再び拙い足運びで床屋の看板に張り付き・・・そして上と下を繰り返し覗き込み始めた。
透明な筒の中で、白と青と赤が回転しながら上から下に流れていく様子が気になっているようだ。
「ぐうぐう?」
俺は顔を叔母に向け、問いかけるように言葉を発する。
これに、嬉しそうで楽しそうな叔母は、おそらく鼻の下を伸ばしながら「うんうん」と疼きつつ、俺へと歩み寄って、その頭を優しく撫でる。
「これはねー? 中の線が上から下へと流れると、また上に戻るワープ技術が使われているのだ!」
「わーふ?」
・・・うーん。なんと酷い嘘であることか。
「そうよ。ワープ。えーっと、なんて説明すれば分かるかな? こう、そのー・・・えーっと・・・」
と、彼女の頭を鷲掴みする鉤爪のような指が、その肌に食い込んで締め上げていく。
「あったたたたたたたたたたぁあい!!」
悲鳴を上げつつも、抵抗することで頭を鷲掴みにする手から逃れた叔母。
こうなると、叔母に不意打ちを行ったのは母だろう。この二人は何かと喧嘩みたいなことを繰り広げていたからな。
「やめてよ! お姉ちゃん!! 痛いでしょうが!」
対して、腕を組んだ母は・・・たぶん。殺気を込めた目で叔母を睨みつけているのだろう。
「いつも言っているだろ? 私の子に嘘を教えるな」
「嘘じゃないよ。子供には夢を詰め込んであげるのが一番だからね!」
「私の子が、頭空っぽとでも言うか!!?」
「えー・・・そういうつもりじゃなかったんだけどもー?」
そんな二人が何かを言い合うようだが、俺は気にも留めずに床屋の看板を凝視しているようだ。
・・・さて、この夢は俺に何を教えたいのだろうか?
〇―現在―〇
ウッスを倒して、帰宅したあとのこと。
前に考えた蒸籠モドキを作ろうと、アライラに手伝ってもらうために声を掛けたのだが・・・。
〈・・・お腹の急降下! 下痢! 食あたりに! ラッパの―――〉
などと言い出したので止めた。
どうやら、彼女がパッと思い出したのは正〇丸のようだが、字が違う。
『蒸籠』と書いて訂正しつつ、改めて手伝ってもらったわけだが・・・思ったように作ることが出来なかった。
そもそもが、竹や木材などを円形に組んで作る道具であるから、石材で代用するのは難しかったようだ。
で、いつも通りに丸焼きで我慢してもらった。
当然、アライラは怒ったので・・・鉱石を追加で採取して、蒸し器を作ることを提案する。けれど、彼女は蒸し器の事を知らないようだ。
そもそも蒸籠さえもいまひとつイメージが出来ていないようで、肉まんとかを作る道具だと説明したら〈それは電子レンジやろ?〉と素で返されてしまった。
・・・中華まんと蒸籠って、割とセットなイメージで通っていると思っていたんだけどね?
どうやら、袋詰めされている市販品しか食べたことがないそうだ。あとはコンビニで売っている肉まんくらいだと言っていた。
しかし、マリーさんが何か、ただ一言だけ呟いたら〈アレか!?〉と反応をすると同時に、よく分からないダンスを始めたので黙ることにした。
〈でもアレって竹でしょ? 石じゃ無理じゃね?〉
なんか、釈然としない・・・。
でも、アライラだしな・・・で納得しかけてしまうのが、どうにも苛立たしい。
「・・・だから、鉱石を取りにいって蒸し器を作るんだ。お鍋の形をしているんだけど、底に小さな穴が空いている感じの調理道具だよ」
〈おー。それで肉まんが作れるんだね!〉
「今はムリです」
〈Oh・・・〉
「まぁ、今後のダンジョン攻略次第だな・・・小麦粉とか薄力粉とか諸々の材料を調達できるようになれば、君用の肉まんも作れるようになるはずだ」
〈そっかー。当面は調理道具を準備するってわけねー?〉
「そういうこと」
前にも同じことを言った気もするけど・・・まぁ、いいか。
〈よーし! 明日はいっぱい鉄を掘るぜーぃ!!〉
▽翌日▽
朝も早よから谷へと出発し、いつもの埴輪兵を・・・埴輪兵が出てこない?
〈るっちゃん・・・なんかおかしくね?〉
「ああ・・・空気がピリついているというか・・・身に覚えのある圧を感じるというか・・・」
周囲を警戒しつつも、ゆっくりと谷へと接近を試みる。
しかし、アライラもこの異様な雰囲気にはノリと勢いでの突撃はしないでくれているので、ありがたい。
そうして、谷がアライラの眼で直視できるよう、小山に登って覗き見ることにした。
ちょうどいい感じの山があるので、そちらに移動する。
「どうだ? 谷の様子は・・・」
〈うーん。静かなもんさー・・・なーんにもないぜー〉
・・・そっかー。なんにもないかー。
「円筒埴輪は?」
〈・・・うん。無いよ〉
「撤収! 撤収! 今すぐここから離れるぞ!!」
〈了解! 邪眼じぇー――――〉
「飛ぶな! 見つかるかもしれない!!」
〈ジェーんとるめーん! んもぉ! また走るのかよーッ!〉
ぴょーんと、小山から飛び降りて身を隠しつつ草原エリアへと移動を始める。
「きゅああああああああああああああんんんんんんんんんんんんんんん」
身を隠してすぐに、そんな咆哮を上げながら谷の中より飛び出してくるキュアーン。
姿を確認したいところではあるが、ここで身を乗り出すような事をしたら見つかってしまうかもしれないため、とにかく身を隠す。
「アライラ。ウッスの時に使った技を使ってくれ」
〈あいよーぃ! 邪眼マジック! 隠れ蓑結界術!〉
よし。
これで姿はもちろん、臭いや音なども遮断できたはずだ。
「きゅあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん?」
それは、真上から聞こえて来た。
〈る、るるるるる、るっちゃん・・・〉
「し、静かに。静かに・・・」
ゆっくりと上を見上げると、周囲を見回すようにドリルの先端を振り回しているキュアーンの姿があった。どういう術なのか分からないが、こちらの位置を正確に把握できていたようだ。
ただ、直前で見失ったことで、こうして周囲を探るようにドリルの先端を動かしているのだろう。
目が付いているのか?
鼻? 耳? もしくは邪眼センサーのような探知系能力?
これだけでは何とも判断できないが、とにかくギリギリで身を隠せたのだということは分かった。
「きゅあーぁ・・・」
どことなく、がっかりした様子で谷へと戻っていく。
「まだ動くな。谷へと姿が消えてからだ」
〈ほい〉
十分に時間を置いて、それからゆっくりと集落へ向けて移動を始める。
そうして、無事に帰りついたのだった。
▽また翌日▽
〈いるしー〉
「なんで住み着いているんだ?」
昨日の事もあって、今日は邪眼カメラ・アイを飛ばすことで超長距離からの偵察を行った。と、早々にカメラ・アイに気づいたキュアーンが谷より飛び出して、まっすぐにカメラ・アイを破壊した。
どうやって察知しているんだ?
隠れ蓑結界で隠れている俺たちには気づけないぐらいには、鈍いのか・・・高性能ではない? それともアライラの技がキュアーンよりも優れている?
まるで分からん。
〈ねー・・・こうなったらもう、鍋作りとか諦めて次に行かね?〉
「話はあとだ。とにかく離れるぞ」
〈ほーい〉
▽
〈で? 鍋作りとかもうやめなーい?〉
「やめない。南か東へ行く前に、必要な調理器具は作る」
〈なんでー?〉
「・・・想像して欲しい。食材が揃った。さぁ、料理を作るぞ。あ、鍋が無い。ごめーん。丸焼きでいいよね?」
〈よくねぇーッ!〉
そうでしょう。そうでしょう。
中華鍋モドキはあるけど、とりあえずその辺は無いこととしておこう。
せめて寸胴鍋や蒸し器ぐらいは作っておきたい。しばらく谷へ行かなくてもいいように、いくつかの調理器具は作っておきたい。
埴輪兵と関わりたくないし、ハニワンダーと再戦するのはイヤだ。
アイツ、俺には意味が分からない言動ばかりだから、マジでヤだ。
アライラやマリーさんが言うには「元ネタは分かるけれど使い方がねぇ・・・」とのこと。
・・・アライラと、さほど違いを感じなかったけども?っと、思いはしても言葉にはしない。
〈るっちゃん! なんとかしてキュアーンを撃退しようぜ!〉
「うん。どうにかしよう・・・とは思うんだけど、相手が悪すぎるんだよな」
〈だよねぇ・・・〉
なにせ、相手はバンダーガーと互角に戦えるモンスターだ。
先日の戦闘では、上手い具合に両者を戦わせることができたけれど、かなり危なかった。戦闘の余波で俺たちが死んでいても不思議の無い激戦だったからな。
それでも、今の俺たちで倒すのは難しいのも事実だ。
バンダーガーとの戦闘でも・・・結構いい線行っていたような気がする。
敵の弾幕を掻い潜り、艦載機代わりの鳥モンスターに妨害を受けつつもバンダーガー本体へと取り付ける寸前までは行けたのは事実。
体毛の下から飛び出して来た寄生虫に捕獲され、そのまま投げ飛ばされてしまわなければ・・・あの戦いはどうなっていたのか?
今はキュアーンとの戦闘を考えるべきか。
かと言って、情報が少なすぎるのが問題なんだよな・・・バンダーガーとの戦闘でも見ることができたのはごく一部の技だろうし。
俺にとって最大の収穫は、ドリルみたいな姿をしたモンスターではなく、クラゲのようなモンスターが触手を身体に巻いて回転しつつ魚みたいに泳いでいる・・・摩訶不思議なモンスターだということだ。
こうして改めて考えてみると、どうやって周囲の情報を集めているのかが謎過ぎる。
回転しているんだから鼻や耳もさほど意味を成していないだろうし・・・センサー類の特殊能力だとしても回転していては正確な情報収集はムリじゃないだろうか?
謎だ・・・生物に詳しい人なら、ズバリと答えてくれるのかな?
〈おーい? るっちゃーん〉
「ん? どうかしたか?」
〈いや、思考の海に沈んでいる感じだったから、サルベージしてみた〉
「・・・そうかい」
ちょっと考え事をしていただけなんだが・・・うーむ。
そうだな。
一人で考えていても埒が明かないし、ここはダメ元でアライラに聞いてみるか。
「キュアーンは、どうやって俺たちの位置情報を得ていると思う?」
〈え?〉
「最初に遭遇した時から不思議だったし、そもそもなぜ俺たちを追いかけて来たんだと思う?」
〈えーっと・・・猫がネズミとかを追いかける感じだったり?〉
それはあり得ない事だとは思う。
しかし、キュアーンは鉱物を主食とするモンスターだ。
ゆえに、谷にいる埴輪兵を食べるべく出てきたのだろうという事は想像できる。谷の間を移動してきたことからも、おそらくはもっと北が本来の生息域だろう。
そんなキュアーンが、谷の周囲をウロウロと泳いでいる理由。
最初の遭遇時には、こちらにドリルの頭を向けてジッと見つめるようにしていたこと。そして、先日は俺たちへと一直線に迫って来ていた。
直前にアライラの結界術で身を隠せたから、なんとか逃げられたけれども。
なぜ?・・・ふと、何気なく自身が手にしている石の錫杖を見る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
「キュアーンの目当ては、コレか!?」
〈えー?〉
身近にあり過ぎたことで、まるで気づかなかったが・・・石だって鉱物の一種と考えていいはずだ。とすると、地獄変によって召喚されている石の錫杖は、ヤツにとっては未知の味になるはず。
前に、谷底には大道人が二人ほど隠れ潜んで鉄鉱石を採掘してくれていたが、その際に身体の一部を欠損していたことでキュアーンの口に破損した部位が紛れ込んだ可能性がある。
そして、偶然にも食べたモノの中に「なんだか食べたことのない新しい味が混ざっている」というような感想を得たのであれば・・・初遭遇の際にこっちをジッと見ていたことにも納得がいく。
俺やアライラを見ていたのではなく、俺が手にした錫杖を見ていたんだ。
それが、キュアーンの味覚に触れた新しい味と同類であることを見抜いて、襲い掛かってきた。
・・・ただの憶測に過ぎないことだが、ほぼ正解だろう。という確信がある。
だとすれば、これら地獄変を用いてキュアーンをある程度まで誘導することができるかもしれない。
そう。例えば、奴を一撃で葬る罠へと誘導するとか・・・。
どんな罠を用意すれば、ヤツを一撃で葬れるだろうか? まったく想像もできないな。
「アライラ」
〈うん?〉
「・・・なんでもいい。キュアーンを倒す・・・もしくは弱体化させる罠のようなモノを考えてくれないかな」
〈え!? 私が!?〉
「そう。こういうのって、ゲームなどに詳しい君の方が思いつくものかと思うんだ」
〈えぇ・・・そう言われても・・・〉
「頼むよ。俺も考えるけれど、とりあえず君のご飯を準備しようと思う」
〈うん。じゃあ、ちょっと考えてみる・・・〉
「よろしく」
▽▽
アライラのご飯を用意するに当たって、今日は中華鍋モドキを使ってみることにした。
実は、蒸籠モドキが想像通りに作れると思っていたので、鍋に水を汲んでもらっていたのだ。アライラの邪眼マジックより飲料水としての水だ。
とりあえず、火にかけて沸騰させ、この水を鍋全体に馴染ませるように塗っていく。
油じゃないのだけど、せっかくなので油の真似事だ。
また、蒸し料理にするために、ウッスの肉は綺麗に解体して布で覆っておく下処理もしていた。
布は、アライラに蜘蛛糸を出してもらって編んだもの。コレで肉を丁寧に包み、蒸籠で蒸し焼きにするつもりだったわけだ。
しかし、蒸籠モドキの作成に失敗したため、これもランドセルに収納して保留中だった。
今日はこれらを使って料理をしていこうと思う。
と言っても、やる事はただ一つ。
丁寧に布で包んだウッスの肉を水が沸騰している中華鍋モドキの中に投入するだけだ。水の量は、蒸し料理用に少なめなので、肉全体が沈むことはない。
半身浴というか・・・足湯的な浸かり方と言えるだろうか?
まぁ、コレだと煮込み料理になるんだろうか? ただの沸騰した水に布で包んだ肉を浸しているだけなのだけども・・・。
んー。
醤油とか欲しいな・・・いや、醤油でなくても野菜類はやはり欲しいよな。
〈おーい! るっちゃーん!〉
大道人が沸騰する湯に浸かる肉を持ち上げて、浸かっていない面を入れ替えて浸し直していると、アライラから声を掛けられた。
その様子は「いいことおもいついたーッ」という感じで前足をブンブン振りながらの疾走具合。
まさに悪戯でも思いついた子供みたいな雰囲気がある。
〈聞いて! 聞いて! キュアーンを倒す最高の作戦が閃いたんD.A.Z.E.〉
「・・・ふーん?」
意外な事に、こんな短時間で思いついたという・・・けれど、ほぼ間違いなく思いつきだろうな。
〈アレ!!? なんか想像と違うリアクション! 〉
「どんな反応を期待したの?」
〈な、なんだってーッ!?て感じの反応〉
「・・・なんだってー」
〈棒読み!? ノリ悪すぎでしょ!! とにかく! いい事思いついたから聞いてちょうだい!〉
「うん。さっそく教えて」
〈それでは回想! 行ってみよーッ!〉
「えッ!?」
〇回想〇
〈さぁ、るっちゃん! 丸焼きとは違う料理を作ってちょーだい!〉
どんな料理かなー。
たのしみだなぁー。
この前のまるごとローストチキンかな? でもあれ、お地蔵さんたちが物凄い黒焦げになってたから、二度とやりたくないって、るっちゃん言ってたしなぁ・・・。
「わかってるよ。ただ、道具を作る必要があるから、手伝ってくれ」
なんと、すぐに調理が始められるものじゃないとな!?
ええい、鍋を作ったから新しい料理が食べられると思ってたけど、まさか道具を作るとか。
・・・むーん。
〈ちなみに、道具って何を作るん?〉
「蒸籠。まぁ、蒸籠モドキになるけどね」
・・・。
・・・セイロ?
いや待て、地球に居た時に聞いたことがあるぞ!
そう。アレは私がネトゲの定期メンテで暇していた時の事・・・久しぶりにお父さん・・・いや、お母さん・・・どっちでもいいや。
昔、録画した金曜のロードショーでやったアニメ映画のビデオを見てた時に見たテレビCM。これがなかなかいい感じのだったので、なんとなく覚えてしまったフレーズ!
〈・・・お腹の急降下。下痢。食あたりに。ラッパの――――〉
「違う。やめろ」
ひぃ! ルッタからラスボスの圧がッ!?
私が『大道人・アライラー』で会話していた時になんか急にキレ始めた時と同じ、殺意の波動がががががががががが。
〇回想終了〇
・・・。
〈とまぁ、この時の会話を思い出してね? 閃いたのですよ!!〉
「こんな会話だったか?」
〈え? なんか違った?〉
いや、〈お腹の急降下~~~〉の辺りは確かにしていたんだが、俺がそんな殺意を放っていたと言われると、別にそんな覚えはない。
まぁ、確かにイラっとしたのは確かだ。
料理の話しなのに腹痛の話を持ち出して来たわけだし・・・。
・・・ちなみに、アライラが言いたい物は『正〇丸』なのだろうが、はて? そんなリズミカルなCMなんてあったのかな?
今、考えることはそこではないのだけど・・・どうにもアライラって俺と同世代の人間だったのかが疑問だ。なぜかマリーさんと話が合うこと多いし・・・特に漫画とアニメ方面。
もしかして、両親がオタクだったので、幼い頃から古い名作アニメを見て育った・・・的な?
「・・・いや、本当に今、考えることじゃないな」
〈え!? 私、考案の『お腹の急降下大作戦』がボツ案なの!?」
「君の考えた作戦ってそっち!?」
〈そういう話をしていたッ!〉
「えぇ・・・」
そんな無茶な・・・キュアーンに何を食べさせてお腹を下そうとしているんだろうか?
「・・・まぁ、とりあえず内容を教えてくれ」
〈うん! キュアーンのお腹を壊して、下痢にしてグロッキーになったところを一気に叩こうぜ!って話しやね!〉
・・・作戦としては悪くないのだけど、俺が聞きたいのはお腹を壊す手段の方だ。
「ッで? どうやってお腹を壊す?」
〈じゃがいも〉
・・・ん?
「一応確認のために聞き直すけど、どうやってお腹を壊すんだ?」
〈ジャガイモ〉
聞き間違いじゃなかったか・・・ジャガイモって、つまり、それは、アレだよね?
「先日、偶発的にできてしまった巨大ジャガイモのことでいいのか?」
〈そー。それッ〉
やっぱりアレを使おうというのか・・・でも、確かにアレをキュアーンに食べさせるっていうのは、面白い着眼点だ。
俺もしばらくは処分保留としていたので、頭の片隅にも残していなかったから思いつかなかったな。
〈あのサイズを口に突っ込んでやれば、きっとお腹壊すって思うんだよねッ!!〉
「あのサイズだからな・・・バンダーガー以外ならほとんど圧し潰せるだろうな・・・」
キュアーンの上空から、収納しているランドセルより投下すれば、質量兵器と同等の結果は得られそうだしね・・・。
確かに、アレだけのジャガイモを食べさせれば、お腹も下りそうな気はするけれど・・・。
〈私が思うに! 鉱石とかを食べるモンスターは肉や野菜は食べないと思うんだ! つまり! 食べないモノを食べてお腹がビックリして下痢や食あたりでグロッキーになるって寸法よ!!〉
・・・なるほど。
考え方としてはマジで悪くない。
動物が食べているからと、人間でも食べられると思って食べたモノが後々命取りになる事は多々ある事例だ。特に外国の料理には要注意。
外国人が食べているのだから、自分たちも大丈夫。と、本場の外国料理を食べたら腹痛で病院に担ぎ込まれた。って事例もあるらしいからな。
激辛料理や、生食系の食事はやめておけ。できる限り日系企業か日本人経営の日系飲食店を探せ。前世で祖母も言っていた。
話が逸れてしまったが、キュアーンは主食が鉱物である。
ならば、それ以外のモノを食べた時にどのような反応を示すのか? それを確かめることも考えて、アライラの提案する巨大ジャガイモで腹痛作戦は悪い案ではない。
彼女の言う通り、これで腹痛を起こしてダウンしてくれれば、こちらとしてもトドメを決めやすくなるだろう。
だが、最大の問題は・・・。
「どうやって食べさせるか・・・だな」
〈どう?って目の前に置いてあげればよくね? ジャガイモって見た目だけなら土とか石とかに見間違えることあるし〉
・・・あのねぇ?
「鉱石を食べるモンスターは肉とか野菜を食べない。と推測したくせに、ジャガイモを置いておけば食べると考えるのは、さすがにバカ過ぎるでしょう」
〈ふっふっふ・・・ふははははははッ! 違うな! 間違っているぞッ!! ルッタ・ルッタ!〉
「ルッタ・レノーダです」
〈あ! えーっと、ルッタ・レノーダ!〉
「で? 何が間違えていると?」
〈ん? えーっと、ごめん。なんの話しだったっけ?〉
「だいどーじーん! ド忘れ治療にショック療法を!」
〈まてーぃ! そんな治療があってたまるかい!〉
「でッ!? 俺が! 何を間違えているって!!?」
〈簡単なことだ! ジャガイモをキュアーンの主食である鉱石と間違わせればいいのだよ!〉
・・・。
・・・・・・うんうん。
「だから、どうやって間違わせるんだ?」
〈・・・・・・・・・・・・邪眼マジック! 重ね着フェイク・鉄鉱石!!〉
と、アライラが邪眼を使った技を発動させて、俺は手に持っていたはずの錫杖が鉄鉱石に変わっていた。
・・・けれど、俺の手には変わらず錫杖の手触りがあるので、見た目だけなのだと分かる。
〈どうだぁーッ! ルッタの手にあるのは! どう見ても鉄鉱石でしょう!?〉
「しかし、手触りは杖のままだ・・・妙な感じにはなるけれど、これではすぐに看破されるだろうな」
〈それは、るっちゃんが触っているからっしょ! 見ただけなら鉄鉱石以外の何物でもないっしょ!〉
「確かに、視覚を騙すというのなら有効な手段だと思う・・・けれど、君こそ最大の間違いをしている」
〈なんだとッ!?〉
「・・・キュアーンは、どうやって外部情報を収集していると思う?」
〈・・・・・・さぁ?〉
結局、そこで行き詰まるんだよなぁ・・・。
こういう相手を騙す技を使うには、相手が何に騙されてくれるのかを知る必要がある。
見ただけで分かる相手ならいい。
目がある。鼻がある。耳がある。触角が生えている。昆虫のような複眼が付いている。諸々探せばあるだろうけれど、そういった外部情報を集める機能を持ったモノによって、騙し方というモノがあるわけだ。
そして、今回の相手であるキュアーン。
ジッと、彼女を見つめながら考え事をしていると、急に焦ったような声を出し始める。
〈あ。あ。あ。アレだ! ほら、アレだ! うん、うん、えーっと・・・〉
・・・とにかく、なにも分からないし、思いつかないという事は分かった。
しかし、アライラが前足をグルグルと振り回している様子を見て、不意に回転する床屋の看板がイメージに浮かび上がる。
「・・・そうか。回転。巻く。うん・・・それなら邪眼マジックでなくて、ほぼ確実にキュアーンを騙せるかもしれない」
〈お? なにか閃いた感じ?〉
「ああ・・・手伝ってくれ。これは、大がかりになる」
〈くぅーっくっくぅ・・・任せとけぇーっへっへっへ〉
・・・ちょっとアライラのノリに付いていけない俺である・・・。
〇
〈うひー・・・やっぱりやめなーい?〉
「ここまで来て?」
丸一日を費やして、巨大ジャガイモをキュアーンに食べさせるための仕込みは済ませた。
あまりにも大きいから、大道人たちも大苦戦したし、俺自身も魔力の使い過ぎで血を噴いたりした。とはいえ、頑張って用意した物だ。使わないというのもなんか嫌だ。
あとは、置いておけば食べてくれる・・・か、どうかは怪しいので、とりあえずは置いて様子を見てみよう。ということになる。
なぜかと言えば、アライラが戦闘に積極的では無いからだ。
俺は、奴と戦闘をしてタイミングを見計らってジャガイモをぶつけるのがいいだろう。と提案したが、戦うのはイヤだとごねられた。
今日までフルボッコにされるぐらいには、自分で突撃していたというのに・・・だ。
気持ちが分からないということは無い。
キュアーンにはビームがまるで通じないし、さすがの彼女もノリと勢いだけではムリだと分かっているのだろう。
なので、巨大ジャガイモはまた作ればいいから。ということで、とりあえず食べるかどうかを見るために戦場へとやってきた。
谷に近づきすぎるのも危険であるため、ちょうど草原エリアと谷の中間地点辺りに設置することで話は決まる。
あとは、この作戦をマリーさんに伝えて、実行してもいいかどうかの判断を仰いだ。
・・・マリーさんにはとても渋い顔をされてしまったんだけどね。
なにせ、作戦名は『お腹の急降下大作戦』だ。マリーさんは「実に子供の考えそうな・・・」と嬉しいようながっかりしたような、でも子供らが自分たちで頑張っているから余計な口出しをせずに見守りたい。というような雰囲気で葛藤しているようだった。
ただ、ボソッと「バグが出る可能性もあるし、一応ウィッチにも報告して警戒だけはしておくか」と呟いていたのが、最悪なほど気になっている。
バグ・・・虫を意味する言葉だったと思うが、現代地球においてはコンピュータ関連の用語として用いられている方が有名だろう。
この世界において、持ち込まれたモンスターには対応していないシステムがあったりするらしく、それらが誤作動かなんかで世界に負荷を掛けた結果がバグ進化による【神殺しの獣】誕生・・・だったかな?
神々が最も恐れる『対神モンスター』で、最高神ですら【神殺しの獣】に勝つのはムリだろうとの話だったはず。
だからこそ、このダンジョンは『災厄を全て封じ込めた壺』として存在しているわけだ。
・・・・しかし、マリーさんの様子からは【神殺しの獣】という絶望が生じるという雰囲気は感じ取れなかった。
せいぜい、処理が面倒なトラブルが発生する。程度の反応だ。
それに、本当にヤバいのが出ると予想しているのであれば、確実に止めてくるだろう。ということから、そこまで不安に思う必要がないと判断した。
とはいえ、アライラはやる気を無くしているので、とにかくジャガイモを設置して様子を見ることにする。
「ほら、あの辺りがちょうどエリア境界線と谷の中間ぐらいだから、そこまで頼むよ」
〈ほーい〉
ササッと小山を飛び越え静かに移動するアライラ。
周囲を警戒しつつ、キュアーンが谷から外へ出ていないことを確認して、俺は魔改造ランドセルを開いた。
仕込み済みの巨大ジャガイモを選択し、コレを外へ放出する。
取り出し時に地面に落着する地響きが発生し、コレを聞いてキュアーンがすぐに反応するだろうと、アライラは八つの脚を駆使して超特急で逃げてくれる。
そうして、隠れ蓑結界術で姿を隠しつつ、エリア境界線近くの小山の影に隠れて様子を見た。
〈かかるかな?〉
「たぶんな。なにせ、ジャガイモに縛鎖閻魔錠を五重に巻いたんだから・・・たぶん、外観や臭いではバレないはず」
そう。
キュアーンがどのように情報を収集するモンスターなのかが、結局分からないままなので・・・ヤツが反応しているだろう地獄石の鎖を隙間なくガッチリ巻いてみたのである。
俺が地獄変を介して召喚する装備は、いずれもが石。
そして、ランドセルに収納すると『地獄石の~~』と表示されるため、この世界ではまずお目に掛かれない石の一種なのだろうと推測。
つまり、珍味なのだと判断した。
・・・俺も珍味って聞くと食べてみたくなるし、そこは異世界でモンスターだとしても、同じ気持ちになるはずだ。
という俺の考えを肯定するかのように、谷からキュアーンが飛び出してくる。
「きゅあきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ」
飛び出したキュアーンは、即座に縛鎖閻魔錠を五重に巻いた巨大ジャガイモにドリル先端を向けた。それから喜んでいるのがよく分かる鳴き声を上げる。
・・・やっぱり、狙っていたのは俺の持つ地獄石の錫杖だったんだろう。
その行動は素早く、言葉にするなら『ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんん』と表現するのが適切だと思えるほどに加速して接近する。
まるで身体が伸びたように見えるほどの移動速度だからね・・・。
こうして、とりあえずキュアーンは表層を偽装してやれば引っ掛かるということが分かった。コレはいい結果だ。今後は同様の手を使って作戦を立てていくとしよう。
確かな手ごたえを感じつつ、ジャガイモへとダイブして穴を空けて食べ始めるキュアーン。
ここからが、最大の山場だ。
果たして、キュアーンはお腹を下すのだろうか?
「ぎゅあぎゅあぎゅあぎゅあぎゅあぎゃぎゅあぎょあおおおおあああああ」
耳の鼓膜を鈍器で叩き破るような音が、偽装したジャガイモの中より響き出し、そしてとんでもない悲鳴を上げるキュアーンが飛び出してくる。
その姿は、とんでもない物を食べてしまった動物のようにのた打ち回っているように見えた。
と、ドリルが止まって触手が開かれる。
何本あるのかも分からない触手で地面に着地すると、次の瞬間にはラグビーなどで使われるボールのような形状をした本体の前後が大口を開いた。
と、前方からは茶褐色の液体を吐き出し始め、後方からは黒紫で夜空の星みたいな輝きを持つ液状化した物体を排出し始める。
「ぎゅああああああああああああぎゃあああああああああああああ」
苦しくて仕方がない。
そんな様子でのた打ち回るキュアーンは、触手を多足の虫みたいに動かして谷へと突撃していく。と、そのまま谷底へと転がり落ちて行った。
しかし、汚物が噴き上がって谷を汚していく。
〈るっちゃん〉
「うん?」
〈私、あいつの動きには心当たりがあるよ〉
「へぇ?」
〈そう。アレは・・・業務用アイスクリームを一人で食べ切った時にお腹を下した私みたいだなって〉
「えぇ・・・業務用を一人で食べたの?」
〈えへへ・・・映画を見ながら、一度やってみたいなって思って・・・ふ〉
「誇らしく語るな・・・」
だけど、そうなるとつまり・・・。
「作戦は成功した・・・でいいのか?」
〈・・・いんじゃね?〉
だが、キュアーンは谷底へと落ちて、そのまま谷に沿って北上しているようだ。
今から追いかけるか・・・。
〈んご! げっほ! げっ・・・ぇ・・・ごっほ・・・ぉ・・・〉
アライラが、急にせき込み始めたかと思ったら、まるで今にも胃の内容物を吐き出しそうな声を出し始めた。
と、気付けば隠れ蓑結界が消失している事に気が付く。
これと同時に、俺の鼻にとんでもない刺激臭が飛び込んできて、全身が溶けるような熱を感じ始めた。と思ったら、アライラの身体が「じゅー」と音を立てて溶け始めている。
「マズい! あら! んご・・・げぇ・・・ごっほ・・・」
声を上げるために呼吸したのがマズかった。
とんでもない刺激臭と溶解液のような熱を吸い込んでしまったようで、吐き気に声が出せなくなる。
だが、ここで倒れるわけにもいかない。
「業火!」
錫杖をアライラに突き立てて、息を吐き出すのみで大声を出す。
これにより、アライラは息を吹き返し、溶け始めていた身体もどうにか持ち直したようだ。
「げっほ・・・が・・・ってったいだ! ってったい! んげろーッ」
〈はいよーッ!〉
気が付くと、この丘陵地帯が至る所で煙を噴き上げている様子が目に入った。
谷を中心に、異様な力がエリアを満たしていく異常も見て取れる。それが、キュアーンの吐き出した汚物なのだと理解するのは、ここを脱して集落に帰りついた頃だ。
とりあえず、エリア境界線近くに居たのは正解だった。
すぐに隣エリアへと逃げられたことで、大惨事は免れたのだから。
〈はー・・・ビックリしたー〉
「ホントにな・・・まさか、あんな効果のある汚物を吐き出すとは思っていなかった」
〈・・・やっぱアレ、ゲ〇とゲ〇かな?〉
「・・・たぶんね」
〈うーん。結局、トドメもさせずに逃がしちゃったし、どうする?〉
「とりあえず、今日はしっかりと休んで・・・明日にでも目的の鉱石を取りに行こう」
〈ま、それが一番かぁ・・・〉
しかし、キュアーンを撃退・・・撃退?できたことに満足をしてしまっていたことで、かのモンスターが残した吐しゃ物と排泄物が及ぼす力を考えていなかった。
倒したモンスターが、翌日にはリポップしているのと同様に、アレらも翌日には消えていることだろう。と思っていたからだ。
だから・・・それらが消えずに残り続けていることを知った時は、頭を抱えた。
そうして、俺とアライラは後始末をするように、マリーさんから言い渡されるのである。
〈さすがに汚い!〉
「・・・」
こうして、俺は改めて思った。
・・・モンスターは正攻法で挑み、こういうやり方は今後やらないようにする。と。
うん。
次回は、後片付けをしつつキュアーンを追いかけてみよう。を予定しています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




