37 うっすっすっす
こんにちは。こんばんは。
今回のお話は、前回からの続きとなります。
最後までお楽しみいただければ、幸いです。
「マリーさん。この巨大ジャガイモはどうしたら良いと思いますか?」
「待ちなさい。まずは普通のジャガイモなのかを調べるから」
〈・・・私よりも大きい時点で普通じゃないよねー〉
「そこ! 黙れ!」
マリーさんの鋭い怒声がアライラに向けられる。
これにビクッと震えたアライラは、俺に小声で話しかけるような素振りで確認してきた。
〈もしかして、私の言葉が分かるようになったんかな?〉
「いや、何を言っているのかは分からないけれど、なんとなく察せるようにはなってきたんじゃない?」
〈むぅ・・・〉
マリーさんは、地球にて生活していた頃は三児の母を経験し、祖母を経験し、ひ孫に名づけを行ったと言っていたから、子供の考え方をそれなりに分かっているのだとは思う。
だから、アライラの発する音などの雰囲気から、言葉を推測することができるようになってきたのだろう。
〈まぁ、それはそれとしてさー。蒸かし芋とか作れんの?〉
「いや・・・どうだろう? 切り分けるのも一苦労しそうだしな・・・」
アライラですら見上げるほどの巨大ジャガイモだ。
調理するにしても、切り分けなければ無理なのは確かだが、切り分けたとしてもどう調理するか悩む。
「こういうのは、やっぱり油で揚げてしまうのが手っ取り早いよな」
〈むぅ・・・やはり油。油はすべてを解決してくれる〉
なかなか鋭い事を言う。
アライラの言う通りで、焼くにしろ。揚げるにしろ。油はとても便利で重要なモノだ。
ジャガイモの丸焼きでもいいかな? いや、こんな巨大なジャガイモを丸焼きにするための丸焼き機を用意するのが大変か。
「ルッタ」
マリーさんが俺を呼ぶので、駆け寄った。
「とりあえず、普通じゃないのはサイズだけみたいだけど、おまえはどうしたい?」
どうやら調べ終わったようで、普通じゃないのはサイズだけだと言うなら、中身はジャガイモがそのまま大きくなっただけのモノってわけか。
「そうであれば、しらばく保留にしておきたいです」
「保留に?」
「はい。これだけ大きいですからね。刻んでアライラ用のフライドポテトなどにした方が、いいかな?って思うんです」
マリーさんが、巨大ジャガイモを見上げて頷く。
「確かに、これだけのサイズであればフライドポテトの形状に刻んでやるだけで相当な量を取れる。悪くない考えだと思うわ」
「はい・・・ただ、どこに保管しておこうか?って感じでして」
「・・・それなら、おまえが背負っている魔改造ランドセルに入れておきなさいな」
・・・?
え? こんな巨大ジャガイモが、こんなランドセルに入るのか?
「入りますか? アライラよりも大きいのに?」
「大丈夫よ。ウィッチが魔改造した物だからね。この程度の巨大ジャガイモなら余裕で入るはずよ」
そうなのか?
入れたら「許容量オーバー」とか警告表示が出現してしまわないのだろうか?
「まぁ、試して見なさい」
「はい」
背負っていたランドセルを降ろして、鞄の蓋を開き巨大ジャガイモに接触させる。
すると、集落に影を落としていた巨大ジャガイモは、フェードアウトするように姿を消していった。
〈おー・・・消えたね〉
「・・・えーっと、ランドセルの収容物を確認します」
時間割表を入れておくポケットの透明アクリル製窓をタッチして、ランドセルに収納されている物を一覧で確認して行く。
と『超巨大ジャガイモ? ×1』と表示されていた。
「・・・入ってます」
「うん。では、原因の調査と行きましょう」
▽
ジャガイモが巨大化した原因は、俺が畑に突き立てた錫杖だった。
種芋を埋めた横に挿した一本・・・だけではなく、柵として立てた四本の錫杖。そして、それらを結んだ閻魔錠により、魔力の供給効率が劇的に上昇してしまったらしい。
魔力の共振?が発生して、土壌を耕すどころか栄養そのものを堆積した土に見える何か?に変貌させてしまったのだという。
これにより、マリーさんでも解明できない謎パワーで種芋が巨大化を始め、発芽して急成長し、あのような巨大植物を空に伸ばしたのだろう・・・とのことだ。
マリーさんでも推測の域を出ないようで・・・アライラに試しで鑑定してみて欲しいとお願いするほどだった。
〈ほいほい、試しに鑑定!〉
『土?』
アライラの鑑定が『土?』と疑問符を付けるという事態になった。
「鑑定も、匙を投げるのか・・・」
〈逆に怖いんだけどッ!?〉
という事で、大道人に周辺の土・・・いや、土?をかき集めてもらい・・・業火滅却で焼却処分する。
処分した後に、マリーさんに聞いてみた。
「あの土?でいろいろと実験してみるのがよかったのでは?」
すると、マリーさんは青ざめた顔で答えてくれた。
「ダメよ。アライラの鑑定ですら『土?』と判断しているのだから、下手に実験して不測の事態が生じた場合の安全確保ができないわ」
・・・確かに。
かの『土?』を使って別の野菜を栽培してみたとして、今度こそ新種の植物モンスターが生まれてしまう可能性だってあるだろう。
いや、マリーさんが最も恐れているのは・・・。
「とにかく、当面は野菜の栽培は中止よ。私の方で安全に栽培できるようシミュレートしてみるから、別の事をして待つように」
「はい。わかりました」
〇
そういう事で、今日はアライラのご飯を狩りに出ることとなった。
〈なんで今頃になって、自分でご飯を狩りに行かなきゃダメなんよ?〉
「ジャガイモの栽培実験は思わぬ結果になってしばらく中止になったし、マリーさんはより安全な方法を模索してくれているからね」
俺自身も、谷へ行って埴輪兵器たちと戦うのはしばらく嫌だった。
そうなると、できることは集落周辺に生息しているモンスターを狩る事だろう。集落で遊んでいるわけにもいかないし、休むにしても腕が鈍るのは避けたい。
元々は修行も兼ねているのだから、ここらで鍛錬も含めてご飯狩りをするのがいいだろう。
「ご飯の調達だってマリーさんに頼り切りではダメだろ・・・腕だって鈍っちゃうし」
〈むーん・・・そうかもしれないがッ!〉
『ひらがな』だって5年も使っていなかったら大半を忘れていたのは、アライラだろうに。
ゲームのようにステータスが数値で管理されているわけではないのだから、しっかりと日々の鍛錬は大事なのである。
だからこそ、今日はしっかりとヨーロロン狩りの手順を思い出して、ウッス狩りに挑もうと思っているわけだ。
〈ま、私のバスター・ビームをブッパすれば、ウサギぐらいはワンパンよ!〉
「その代わり、跡形も無く消し飛ぶだろ」
〈むーん〉
そう。
今のアライラは、確かに強くなった。
少なくとも、邪眼バスター・ビームの威力であれば、相手が多少強くとも殺すだけならできるはずだ。
しかし、目的は狩ることであり、殺すことではない。
高火力で標的を消し炭にしては、ご飯として食べることができない。必要なのは、食べられるように殺すことなのだ。
そうなると、火力の調整が可能な邪眼ビームで仕留めるのが理想だが・・・通じる相手と通じない相手がいるから厄介だ。
ヨーロロンとて、当初はビームが通じなくて焦ったわけだし。
ノットンもそうだった。
初見での戦闘はいずれも苦戦を強いられてしまうぐらいには、どのモンスターも強力だ。それこそチート能力持ちと言えるだけの実力がある。
ただ、攻略法さえ見出すことができれば、わりと簡単に倒せるようになる。
だからこそ、慎重に事を進めていきたいところなのだが・・・。
〈お? おーッ! ウサギ発見! ウサギ発見!〉
「いッ!? ちょ! 大声を出すなッ! 気づかれる!」
〈えー? 距離はまだあるし、大丈夫だって・・・ぅん?〉
楽観的な言葉から、なにやらきな臭い反応に続いたことで、俺はアライラの視線を追うように前方を見る。
俺の視力では、まだ豆粒程度にしか見えない姿がチラホラと見えない事も無いが・・・。
「アライラ。何が見えている?」
〈・・・なんか、耳を立ててこっちをジッと見ているウッスの群れが見えるかなー〉
・・・。
・・・・・・。
「一時退却! 急いで逃げろ!!」
〈がってんしょうち!!〉
▽
「追ってはこないか・・・」
〈ふぃー・・・そうみたい〉
来た道を大急ぎで引き返して、ある程度の距離まで後退した所で後方となった東を見る。
ウサギが群れで押し寄せて来ていたらどうしようか?とも思ったが・・・どうやら追いかけては来ていないようなので、一安心だ。
しかし、念のため・・・。
「アライラ。邪眼カメラ・アイを飛ばして目視偵察をやってくれ」
〈ほいほーい。邪眼! カメラ・アイ!〉
邪眼の一つから魔力の塊が飛び出すと、それが機械的なレンズを再現してキュイーンと駆動音を鳴らすと、フワフワとした浮遊状態で東へと飛んでいく。
「よし。モニターを」
〈ほーい〉
邪眼カメラ・アイが捉えた映像をマリーさんがよく使うような中空に表示するウインドウと同じような感じで中空に展開してもらった。
さておき、カメラ・アイがウサギの群れを補足する。
〈ウサギの群れだね〉
「ウサギの群れだな」
特に異世界モンスター。という印象を受けないウッスというウサギ系モンスター。見た限りでは、地球の雪国などで見られる白い体毛のウサギにしか見えないが・・・。
判断を誤ってはいけない。
見た目こそ地球に居るウサギっぽいが、間違いなく異世界モンスターなのだ。
「・・・よし。とりあえずヨーロロンと同じ手順で、一匹ずつ誘導――――」
その時だった。
邪眼カメラ・アイが群れに接近すると、ウッスたちの耳が一斉に動き出す。
「カメラ・アイを停止」
〈おっ〉
群れへの接近が停止すると、ウッスたちは耳を動かし続けているが、方向が定まらない感じだ。
・・・これは、もしかして。
「アライラ。カメラ・アイのズームを最大に・・・そしたらズームアウトしてくれ」
〈おっけー〉
カメラのズームが行われると、ウッスたちの耳が再び活発に動き出し、ズームアウトが始まると・・・耳がカメラ・アイのある方に一斉に向きを揃えた。
〈ひッ〉
アライラが恐怖を覚えたような声を上げたのと同時に、ウッスたちは一斉に邪眼カメラ・アイへと顔を向ける。
そして、四足で地面に伏せていたウッスたちは、一斉に二足歩行・・・カンガルーのような立ち上がり方をすると、右拳?をカメラ・アイに向けて殴るような動作で・・・。
〈あっ!〉
ブツン。・・・と、映像が途絶えた。
「耳だな。たぶん、視界は補助機能で本命は耳だ。ヨーロロンやノットンのように幻覚を見せても意味は無いと思う」
〈・・・ということは、幻聴?を見せてやればいいってこと?〉
「幻聴を見せるのは無理だ。ただ、音が鳴る方向を乱してやればこちらを補足するのは難しくなると思う」
まず、音を拾って敵味方の識別を行い、どの方向から接近しているのかを確定させる。それから、視界をそちらに向けて、情報を補うのだろう。
鼻はどうだろうか? 目と同じく、耳の補助器官であればいいが・・・。
「・・・よし。手順はヨーロロンと同じで、群れに幻覚と幻聴の魔法術をかけて撹乱しつつ、群れの中の適当な一匹を誘導する」
〈うーん? 空から奇襲は?〉
「ムリだ。あの高性能な耳なら風切り音を的確に拾って、すぐさま俺たちに気が付くだろう」
〈うげー・・・確かに、カメラ・アイのズーム音で位置バレしちゃったもんねぇ〉
とりあえず、手順を確認する。
まず、邪眼マジックを掛けられる距離まで接近しないとならない。最大の難関がある。
これは、邪眼マジックで自身を結界で覆い、移動時の音が響かないようにすることで接近を試みることにする。この時、視界に捉えられないよう姿も消し、臭いなどが鼻で拾われないようにもする。
聴覚。視覚。嗅覚。
ウッスというモンスターが、敵を補足するべく使ってくるだろう感覚野の三つに引っ掛からないように、結界で自身を覆い身を隠すこととした。
〈バレてない?〉
「うん。少なくとも、耳はさほど動いてはいない。草木の揺れる音に反応しているようだけれど」
〈やべぇ・・・今、私は心臓がドキドキと鳴っています・・・〉
緊張しているのか。
〈段ボール。被った方がいいかな?〉
「意味わからないから、このままでいい」
〈むーん〉
ソロリソロリと慎重に接近を試みる中、ウッスは特に反応を示す様子はない。
「どうだ? 邪眼マジックの射程距離に入った?」
〈も、もうちょい・・・もうちょい・・・〉
緊張して距離が分かっていないのか? それとも、本当にもうちょいなのか?
〈む。む。邪眼マジック射程圏内・・・どうする?〉
「よし、いつものように叫んだりせず、ひっそりと邪眼を発動してくれ」
〈む。む。むーん・・・邪眼マジックー。集団催眠スモック〉
スモック?
アライラが、なぜかスモックなどと言った直後・・・ウッスたちが一斉に中空を見上げると、なぜか二足歩行になってシャドーボクシングをし始めた?
群れが一斉にシャドーボクシングを始めたと思ったら、今度は互いに殴り合いを始める。
「・・・なにをしたの?」
〈え? 集団催眠スモックだけど?〉
「スモックって、幼稚園とか保育園の子供たちが着る服の名前だったはずだけど?」
〈え? 煙じゃないの?〉
・・・。
・・・。
「煙はスモーク。スモークサーモンとかスモークチーズとか言うでしょうが!」
〈うん? でもさ? こーかがくスモックって言わなかったっけ?〉
「それはスモッグ! グッ!」
〈おー・・・おぉ・・・そっかー・・・ぅえっへっへっへってことは?〉
俺とアライラは、そして殴り合いをしているウッスたちに視線を戻した。
「ウッスたちは、集団催眠でスモックを幻視しているのかもしれないな・・・」
もはや、ウッスの群れは乱闘会場となり、それはもう敵を討つ!という気迫に満ちた目つきで同士討ちしている。
すでに気絶して倒れた個体も複数確認できた。もしかしたら、死んでいる個体もいるかな・・・。
地球のスモックなんて衣服を、異世界モンスターが知るわけもないだろう。ということは、スモックを敵性存在として認識したことで、仲間をスモックと誤認している可能性は大いにある。
というか、邪眼の作り主である邪神は、よくスモックなんて知っていたな・・・。
〈これはー・・・あれかなー?〉
「うん。結果オーライってことで」
うーん。故意にやったわけでは無いとしても、なんだか罪悪感を覚えてしまうけれどね。
▽▽
しばらく息をひそめていると、ウッスの群れは同士討ちを繰り返し、そうして最後は一匹だけが乱闘会場の中央で拳を空に掲げていた。
〈ゆーあー、ちゃんぴおーん?〉
・・・なんか、哀愁が漂って見える背中だ。
「しかし、これはチャンスでもある」
〈というと?〉
「あのウッス以外は皆、倒れているわけだが・・・何匹が気絶しているだけで、何匹が死んでいるかも不明だ」
〈うんうん〉
「なので、ビームの雨を降らせてすべてのウッスを一斉に仕留めるんだ」
〈・・・は! マルチロックオン! フルバースト! それはッ! 舞い降りるビーム!!〉
は?
〈邪眼ジェーット!〉
なんで!?
結界を解除し、アライラは飛行形態となって空へと飛び上がった。
当然、この爆音に生き残った最後の一匹は即座に反応し、こちらを見上げる。
〈八連邪眼! マルチロックオン!!〉
何をしているのか分からないが、アライラの八つある邪眼がウッスを点として捉えている様で、これらにピコンピコンピココンと、赤い丸が重なっていく。
〈邪眼ビーム改ッ!! フルバーストッ!!〉
八つの邪眼から、ビームが連射される。
邪眼ビーム改ではあるが、その形状は投擲槍のように細長く鋭い物となっており、射撃から着弾までがこれまでに比べると若干早いと感じさせる。
コレを次々に連射して、しっかりと地面に転がっているウッスの頭部を貫いていく。
「うっす!!」
しかし、生き残った最後の一匹は気合の籠った鳴き声を発することで、迫るビームをかき消した。
「発声で消したのか? なにかビームを阻害する力場が出ているのか?」
〈ならば! ドリリング・ドライバーッ!!〉
アライラの声に合わせて、俺の錫杖から巻蛇槍貫撃の円錐形をした刃を射出する。
そしてアライラの技として巨大化し、長大化してからロケットパンチのように、ウッスへと撃ちだした。
「うっす!」
片足を持ち上げて、片足を軸に腰を捻りながら回転をすると、持ち上げた足を鞭のように振りながら加速して、後ろ回し蹴りとなってドリリング・ドライバーの側面を蹴った。
〈甘いな! 回転している刃に巻き込まれて、ジ・エンドだぜ!〉
アライラの勝ちを確信した言葉はフラグとなった。
足がドライバーに接触する直前・・・わずかな隙間がドライバーとウッスの足に生じているように見えた。
その隙間が、なにか奇妙な力場が生じているように、ドリリング・ドライバーの刃が滑っているように見える。
そして、横からの圧が加わったことで、ドライバーはバシーンっと横回転しながら蹴飛ばされていった。
〈うっそーッ!?〉
「うっすーッ!!」
〈なにわろてんねん!!?〉
「落ち着け! 挑発に乗るなッ!!」
まさに「ニヤリッ」という笑みを口の端に浮かべたウッスに、アライラが瞬間沸騰して突撃しようとしたため、俺が錫杖を頭に突き刺して止めた。
〈いったーい! その止め方やめろし!!〉
「あんなタダ同然の安売り挑発を買うなら、こうするしかないだろう!?」
「うっすっすっす」
〈なに笑ってんだテメェ!?〉
「なに笑ってんだおまえ!?」
ハッ!?
アライラに引きずられるように、俺も沸騰してしまった!
「地獄門! 地蔵合掌大道壁!!」
アライラを止めるためにも、ここは猫だまし的手法でウッスとの間に壁を作る。
〈うおっぷ!? また邪魔したな!〉
「突撃して勝てるはずないだろ!? ビームはかき消されるし、ドリリング・ドライバーは蹴飛ばされるし、明らかにチート級の技を使っているぞ!」
〈それを暴こうって言ってんでしょ!?〉
「言ってないだろッ! 君は!?」
ええい。このままでは埒が明かない。
ヨーロロンもそうだったが、どう見ても雑魚モンスターだろ。って見た目しているモンスターほど想定よりも強いから困りものだ。
今まさにヨーロロンの二の舞をしようとしているアライラを止めるしかない。
「・・・いや! もうアレだッ! バスター・ビームで一気に決めろ!」
〈なんと!?〉
「あ、でも八連はダメだ! せっかく倒れている他個体のウッスも消し飛ぶから、邪眼一つでバスター・ビームを撃つんだ!」
〈オッケーだ! 邪眼! バスター・ビーム改!!〉
邪眼が一つが眩い光を伴って、邪眼ビームとは一線を画す破壊力を持ったビームが放たれる。
常々使う八連は俺に多大な負荷を掛けてくれるが、こうして一発だけのバスター・ビームも十分に腹を傷めるだけの負荷が掛かる。
・・・いや、むしろ八連の時より明確に痛みを感じる?
もしかして、俺の生存本能辺りが、八つ分のバスター・ビームによる負荷から生じる痛みを遮断しているとか?
よく吐血するけど・・・実はかなりヤバいダメージを負っているのかな?
〈や、やろぉ!!〉
アライラの悪態が聞こえたことで、思考を切り替えて視線を戻す。
と、ウッスが跳ねるようにバスター・ビームを回避している様子を見た。
〈避けるなぁあ! 当たらないだろうが!!〉
そんなハニワンダーと同じことを言わないでくれよ。
避けなきゃ当たってしまうんだから、避けるのが普通だろ・・・。
「落ち着けって・・・ウッスは回避したんだ。邪眼ビームは謎の発声だけで防いでいたのに」
〈そっか! 確かにそうだった!〉
「つまり、邪眼ビームと違ってバスター・ビームは回避するしか手段がない」
〈ぐっへっへ・・・いっちょやってみますかぁ?〉
ウッスはバスター・ビームを回避してホッとしているようだったが、俺たちの雰囲気が変わった事を感じ取って、向き直る。
どのような動きをしても対応できるように、脚に力を込めているのだけは見て分かる。
「アライラ・・・間違えるなよ?」
〈大丈夫! 要するに回避できないようにすればいいわけだからね!〉
八つの眼に、バスター・ビーム分の魔力を急速充填した。
〈くらえ! 八連続! 邪眼! バスター・ビーム改!!〉
かつて、ノットンに行った八連続邪眼ビームのバスター・ビーム版。
八つの邪眼から、一発ずつバスター・ビーム改が発射されて、ウッスを狙い撃つ。が、当然待ち構えていたウッスは横っ飛びでビームを回避して見せる。
しかし、この技は連続攻撃だ。
回避されたのならば、着地点に狙いを定めるのは当然の事。
二発目が、ウッスの回避先となる着地点を狙い撃つ。も、素早く横っ飛びをやってのけて回避した。
「さすがに速いな」
〈まだまだぁあ!!〉
三発目が発射されると、ウッスは地面に向けて拳を振り下ろし・・・その拳から謎の力場を放出して地面にぶつけると、その身体を無理やり上空へと持ち上げる。
「なッ!」
予想外の動きに、四発目のビームが空を切る結果となり、自然落下してくるウッスに五発目が発射されるが・・・。
「ウッス!!」
大きく息を吸い込んだウッスが、それを吐き出すように大声を放つ。
その大声が推進力を生みだして、かなり強引だが五発目のビームを回避して見せた。
〈なんじゃとて!!?〉
やっぱり一筋縄ではいかないのが、このダンジョンに居るモンスターか。
五発目の回避時に、若干地面に向けて加速を掛けていたことで、ウッスは見事に着地する。そこへ六発目のバスター・ビームが撃ちこまれるが、地面に横たわっている他個体のウッスを巻き込まないようにしていたことが裏目に出た。
地面に一体化するように身を低くしたウッスが、その背中を焦がしながらも六発目をやり過ごして見せる。
〈くぅ! あの判断力が私も欲しい!〉
確かに、アライラに必要な能力だと思う。
と、ウッスは七発目が出るわずかな隙に、すぐさま立ち上がると・・・上体を逸らして頭を後方へと流し、腰を捻って頭を大きく振るい出す。
その行動が何なのか分からなかったが、七発目のバスター・ビームが発射されることで決着となる。
はずだった。
腰を捻りながら、頭を大振りで鞭のように振るう行動。
体をくの字に折るように、頭を地面と水平にするかのように、その身体を大きく振るって見せる動作の意味とは?
不意に、マリーさんがウッスを持ち帰った時の鑑定結果を思い出す。
その文言に『幻の左』という記述があったことを、思い出して、俺はウッスの左耳を見た。
右と左で、長さの異なるウッスの耳。
短い右耳と長い左耳。
これまでに見た、ウッスが使う謎の技・・・。
「そうか・・・マズい! アライラ!! ジャンプだ! 飛び跳ねろ!!」
〈ぅえ!? おぅ??〉
俺の指示を受けて困惑しつつも、アライラはすぐさまジャンプしてくれる。
同時に、ウッスが振るう頭の先・・・長い左耳が謎の力場を発生させているのが分かった。
それはまるで鞭のようで、しなやかに、そして空気を切断するように静かに、バスター・ビームを切り裂いてアライラの真下を通過していく。
空間を歪めるほどの力を持った何かが通過したのだ。
だが、こちらの八発目は、避けることも防ぐことも反撃することもなく、その頭を貫いた。
「危なかった」
〈え? 今のなにが通過したん? バスター・ビーム改がスパッと切れて霧散していったんですけど!?〉
落下しながらも、アライラがウッスの攻撃に困惑している。
本当に、どういう技なのかが分からない。こういう時こそ、鑑定に教えてもらいたいところだが・・・きっと無理だろう。
ドシン。と着地した。
〈あっぎゃああああああああああああああああああああああ〉
着地と同時に、アライラが悲鳴を上げながら体をひっくり返した。
俺はマリーさんに抱きかかえられてアライラの上から脱出し、ひっくり返りながらも暴れ回る彼女から離れる。
「あ、アライラ! どうしたんだ!?」
〈あ、脚が! 私の足がああああああああああんんんんん〉
・・・脚?
そう言われて、脚を見てみるが・・・暴れ回っていたらどうなっているのか分からない。
「アライラ! 痛いかもしれないけれど、一旦止まってくれ! どういう状態なのかも確認できない!」
〈ふぐっふ!〉
歯を食いしばるような感じで、アライラが動きを止めてくれるので、俺は大道人を召喚してマリーさんから離れ、アライラの脚を確認しに戻る。
そうして、脚を見てみれば・・・。
「なんだこの切断面・・・」
鏡面仕上げだ。
生物の身体を切断して、なぜ鏡面になるのかは不明だけど・・・アライラの脚・・・その先端部位が綺麗に切り落とされている。八つ全部。
「まさか、さっきの一撃で?」
〈そんなのいいから! はよ! はよ治してーッ!!〉
それもそうだ。
俺はすぐさま『カタチナセ』という自分でも何なのかよく分からない技を使い、アライラの欠損した脚を修復する。
またも、多少なりと小さくなったように見えるが、誤差だろう。
〈くっそ・・・勝ったのに勝った気がしないってばよ! くっそー!〉
まぁ、そうだね・・・。
▽
「ほら、ウッスの死骸は集め終わったから、そろそろ帰るよ」
〈むーん。まだ生き残りとかいない? 今度こそ一撃必殺で瞬殺してやんよ!〉
ヤル気満々なのはいい事だけど、ここで追加戦闘とかやめてほしい。
ただでさえ、先の一匹もかなり強かったというのに・・・まさか、あそこまで手こずるとは思ってもいなかったし。
「帰るぞ」
〈えーッ! もう一戦! もう一戦!〉
「じゃ、今日はご飯抜きでいいなら付き合うよ」
〈帰るぞ! ウッス肉の・・・え? 丸焼きかな? 鍋使った新メニューとかある?〉
急に冷静になったな。
でも、まぁ・・・。
「油が無いからね。丸焼きになる」
〈・・・むーん。そっかぁー〉
・・・。
・・・・・・そうだ。
「アライラ。ちょっと時間が掛かってもいいなら、違う料理を出せるかもしれない」
〈・・・え!?〉
「だけど、道具作りをするから手伝ってくれ」
〈おっけーッ! 頑張っちゃうよ!! ささ! 帰ろ―ッ! いますぐ帰ろ! さっ帰ろッ!!〉
邪眼の技で俺を浮遊させて頭の上に乗せると、それは見事な加速でスタートダッシュを決めて帰路につく。
全滅させたはずなので、あと一匹などいないとは思うけれど・・・思う・・・けど。
なんとなく、後ろを振り返る。
と、そこにはウッスが一匹立っていた。
明らかに毛色が他の個体と異なっている・・・茶色のように見えたけど、赤みがかった茶色の毛並み。
まさか・・・生き残りがいた?
「あれがボス個体よ。今までどこにいたんだか・・・」
え、まさかボス個体は不在だったのか・・・。
「・・・あの? ボス個体は強い・・・ですよね?」
「そうね。さっきアライラーが倒した個体に比べれば・・・強いわ」
そうか、さっきの個体に比べれば、強い。か・・・。
となると、ノットンボスほどの実力は無いと見ていいかもしれない。
「いや、それもよくないか・・・」
戦ってみないと明確には分からないが、そこまで高く見積もらなくても大丈夫かもしれない。
〈ぅん? なになに? なんかあんの?〉
「何もない。ご飯を作る時間が減るから、すぐに帰るぞ!」
〈オーッ!〉
よかった。気づいてなくて、本当によかった・・・。
ふー。
次回は、まだなにも考え付いていない状態です。どうしたものか・・・。
ここ最近、壺外編の敵キャラが思いつかずに困っております。
悪性キャラというのは、どの程度までの異常性が許容されるのかが分からず、悩んでいる状態です。
少年漫画でもドギツイのがあったりするので、いいのかな?これ?ってよく疑問を感じます。
今度、悪性キャラを主人公にした別作品を作ってみようか?とも思っています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




