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36 おきろルッタァァアア!!

こんにちは。こんばんは。

前回で、道具を作るための材料を入手したので、では次の目標を決めよう。というお話になります。

特に戦闘はありません。


最後まで、お楽しみいただければ、幸いです。

 春を再現した階層で、寒気が春の気候を負かしている北西エリア。

 第一階層【春の区画】も北地方までやってくると、真冬のように寒い・・・のは、この地がダンジョンになる前の時代に隣接していた【冬の区画】から流れ込んできた寒気が、そのまま再現されているから、らしい。

 そんな寒い土地にある遊牧民族が使っているようなテントが、日本の住宅事情のように建ち並ぶ集落が、今現在の活動拠点となっている。

 俺が寝起きしているテントは、動物の毛皮が絨毯として敷き詰められている他、フワフワの毛皮を布団のように加工した掛布団でとっても温かい。

 しかし、トイレがこの集落では一か所しかないのは不便だ。

 集会所として活用されていた集落中央に建てられている木造建築の施設にしかない。

 そうして、トイレを済ませて外に出れば・・・夜空に綺麗な星が見えた。

 ここはダンジョン内部であるため、空に広がる星々は偽物でしかない。とはいえ、今や日本の都会では見れないような星空についつい見入ってしまう。

 吐く息は白くなるが、俺自身は寒さをさほど感じていない。

 マリーさんに作ってもらった服と半纏のおかげだろう。真冬のように寒い環境下でも凍えるような思いはしていない。

 

 さて、そんな俺は一週間も寝込んでいた。

 この集落は【春の区画】でも北西に位置しているが、ここからさらに北上すると雪が降り積もる丘陵地帯・・・と思われる土地になっており、そこには谷がある。

 そもそも、俺が・・・いや、俺たちがここへ来た目的は、アライラのご飯となる料理を作る調理器具を得るべく・・・まずは材料となる鉱石から集めよう。ということになった。

 そうして、マリーさんが作成してくれた地図を頼りに北上し、命の危機に見舞われつつも目的地手前となる集落へ到着したわけだ。

 当然、ある程度の休みを経て『北の谷』へと赴いたわけだが、そこには谷を縄張りにするモンスターがいた。

 

 埴輪だった。


 どうやら、異世界にて開発された人造兵器の類であり、このダンジョンではモンスターとなって襲い掛かってきた。

 中でも、谷底にて待ち受けていた埴輪は日本語を流暢に喋る・・・スピーカー音声であったけど・・・モンスターであったことから、会話を試みたものの・・・どうやらそういう鳴き声のモンスターであるそうだ。

 そういうことであれば、と叫ぶ言葉をスルーしようとしたものの・・・何を言っているのか分かってしまうために、言動が理解できず困惑してばかりだった。

 ただ、アライラの鑑定を見て、今現在の彼女であれば余裕で倒せる相手だと分かり・・・無事に倒すことはできた。

 だけれども・・・戦闘後に知恵熱のような症状で倒れてしまったそうだ。


 それも今は回復し、今日はさっそくと調理器具を作ることになる。

「まずは、何から作ろうかな」

 少しだけ、心が弾んだところで、寝床であるテントへ戻ったのである。





〈邪眼クラフト! 中華鍋、作成!〉

 八つの邪眼がピカーッと光り、アライラは錫杖でインゴットをペチペチと叩き始める。


 谷で採掘してきた鉱石の山をアイアン・インゴットにした。それから、集落の共同厨房テントにて置いてあった中華鍋に似た鍋を持ち出して、アライラに見せる。

 漫画で見たことある。と言っていた彼女ではあるが・・・実物を参考にしてもらう方がより精度の高い物を作れると思ってのことだ。

 そうして、邪眼で構造解析?を行い、アライラが入れるぐらいのサイズを設定して作ってもらった。

〈私を唐揚げしようっての!?〉

「ここのモンスターって、君とほぼ同サイズばかりだろ?」

〈それもそうだね!〉

 よく分からない会話を経て、中華鍋モドキは完成する。


〈うーむ・・・そしてインゴットが無くなりました〉

「まさか、中華鍋モドキを作るのに全部消費するとはね」

 山のように積まれていた鉱石は、インゴットになって人工山のように聳え立っていた。それが、今や中華鍋に・・・。

〈でもさ? こんな大きな鍋をお地蔵さんが振れるん?〉

「そこは大丈夫だ。ちょっと試して見よう」

 まずは、通常の大道人を召喚する。もちろん、アライラと同サイズぐらいの大道人だね。

 そうしたら、魔力を追加して巨大大道人にする。

〈おー。確かにこのサイズなら鍋も振れそーねー〉

 巨大大道人が、置いてある巨大中華鍋を手にして持ち上げた。

「どうですか? 振れそうですか?」

「はい。問題ないかと・・・ただ、調理する食材にもよるかと思います」

 ま、そうだろう。

 野菜炒めやチャーハン辺りは問題なく振れると思う。

 ・・・まぁ、他の調理器具はどうするかなぁ。

「どうするかなぁ・・・谷には行きたくないしなぁ」

〈え? 中華鍋もできたし、谷に行く必要はなくない?〉

「何言ってんの。寸胴鍋とかフライパンとか、用途に合わせてサイズも取り揃えておきたいんだ。それにヘラとかお玉とか、小道具だって必要だ・・・やっぱり、しばらく谷へ通わないとダメっぽいなぁ」

 嫌だ。

 あー、嫌だ。

 また、あのハニワンダーと戦うことになるのか?

「いや、今度はアライラに一撃で粉砕してもらえばいいか」

〈え? 何を粉砕すんの?〉

 埴輪を全部丸ごと余すことなく・・・と言うのは、実際に谷へと向かった時でいいか。

「ハニワンダーは一撃で粉砕してくれ」

〈あ、はい〉

「だけど、今すぐじゃない。しばらく、埴輪は見たくない」

〈あー、そーなるかー〉

 そうです。

 ハニワンダーの言動は、俺には理解できないものが多過ぎた。

 本当に、しばらくは見たくないし相手もしたくない。いくら色々と調理器具を作るために鉱石が必要になるといっても、俺の頭がアレを拒否しているのだ。

 相手したくない。

 面倒くさい。

「ということで、とりあえず次の目標を決めてしまおう」

〈目標?〉

「そう。この集落まで来たのはアライラが食べる料理を作るための調理器具となる材料を手に入れるためだ。それは覚えているね?」

〈まぁね〉

「その目的は・・・まぁ、概ね達成できたわけだ」

〈おー・・・鍋一つだけだけどね?〉

「足りない材料は、また取りに行けばいい。俺は、しばらく埴輪を見たくないから、しばらくは谷に行かない。それだけ」

〈うんうん〉

「まずは、この次にやる事を決めよう。そのための準備とか特訓とかも始めた方がいいだろうし」

〈で? 次は何をゲットすんの? 鶏肉?〉

 ・・・鶏肉はノットンを狩ればどうとでもなる。

「鶏肉も確かに必要だけど、普通のノットン雄ならどうとでもできるから、それは後回しでいい」

〈ふむ・・・〉

 とはいえ、戦闘特化の亜種であるモットンや、ノットン雌は単体を狩るとなると厄介だろう。ノットン雄でさえ、意味わからない動作で空を舞っていたわけだし・・・。

 そして、ノットンでもっとも高い実力を持つイケメンファイブ・・・中でもノットンボスが危険なのは確かだ。

 アライラの一点集束・八連邪眼バスター・ビーム改を受けて群れが全滅した中でも、無傷で出てきたほどだ。

 確かにアライラは強くなってきているが、ノットンの群れに突撃して無事に帰ってくるほどではないだろう。鶏肉を狩りに行くときは、やはり慎重に行動するようにしたい。


 だが、それ以上に先に手に入れたい物がある。


「油だ。食用油をゲットしたい」

〈・・・おー。そういえば、前も言っていたね!〉

 そう。

 唐揚げが食べたいと言う彼女に何度も説明してきたが、鍋が無い。油がない。唐揚げ粉も無い。という状況だ。

 もちろん、人間用のモノならば、村とか集落などである程度はそろえることが出来るだろう。

 しかし、食べるのは人間では無い・・・怪獣と言って相違ない巨躯を持つ蜘蛛のモンスター。いかに人間から転生したとはいえ、その身体は現在蜘蛛のモンスターなのだ。

 つまり、人間用の食材で代用する場合、とんでもない量が必要になる。

 俺を転生させた邪神から『お金に困らない』加護をもらったが、この問題はお金じゃないので加護が適用されていない感じだ。

 マリーさんには「それだけの量・・・用意するのは誰かしら? 私は嫌だからな?」と静かに言われた。

 人間用は却下だ。

〈で? どこで手に入るん?〉

「うん。ちょっと待って。マリーさん」

「何かしら?」

 巨大中華鍋モドキを興味深そうに調べていたマリーさんへと声を掛ける。

 ちなみに、俺たちが何かをするときは、必ず立ち会ってくれる。前に、勝手な事をして怒られたので、しっかりと声を掛けた。

 その上で、俺たちがやる事を黙って見守っている感じだ。・・・監視している。が正しいのかもしれないが。

「食用油を蓄えているモンスターとか、血液が植物性油のモンスターとか、そういうのは居たりしませんか?」

「いないわ。あー、このダンジョンには、居ないわ。異世界バキマオーになら、大量にいるんだけどね。便利なモンスターだから嫌がらせにならないし、当時の私は持ち込まなかったわけ」

 ヨーロロンは嫌がらせになるから連れ込んだわけですか・・・。

 困ったな・・・どうやってアライラが食べる料理用の食用油を調達すればいいんだろうか。

 

 俺は腕を組んで考える。

 地球で主に使っていた油と言えばキャノーラ油・・・うん。よく安売りしていたんだよね。

 前世の祖母は、食用油を多種多様に取り揃えていた。まぁ、仕事で使うモノでは無く、自分が食べて満足する料理を作るために取り揃えていたけれども。

 使い方なども教えてもらっていたが・・・やはり前世から5年も経っていると思い出すのが辛いな。

「ルッタ」

 考え事をしている俺に、マリーさんが声をかけてくれる。

「菜の花であれば、自生しているわ」

 なんと!?

「この第一階層【春の区画】でも東から南にかけてのエリアになるけれどね。見回り時に見かけたことはあるわ」

「・・・というと?」

「ダンジョン化前の・・・【神殺しの獣】との戦闘であちこち吹っ飛んでいたから、言うほど残ってはいないって話しよ」

「そ、そうですか・・・」

「しかし、おまえなら栽培することも可能なのでは無いかしら?」

「え? 俺がですか?」

「そうよ。外では鉱山や畑に魔力を撒いていたのでしょう?」

「それはそうですが・・・」

「その要領で、菜の花の畑を作り、魔力を撒いて栽培すれば・・・」

「そうか、菜種油ですね!」

 そういえば、キャノーラ油って菜種油の一種だったかな?

〈おー。菜種油なら私も知ってる! 菜の花で作る油だよね? 花を絞れば油が出てくるんでしょ?〉

「え? いや―――」

〈ほら、アレだ! 雑巾を絞るみたいにギュッと搾り上げれば、油がブワッと出るんでしょ!?〉

「出ません」

〈なんで?〉

「菜種油だよ? 漢字で書くと、菜の種の油だよ? 花を絞っても油はでないよ・・・たぶん」

 というか、菜の花を雑巾絞りで絞り上げている様子を想像したら、なんだかホラーみたいで気持ちが落ち込んでしまいそうだ。

 とはいえ、菜種油を自作した事は当然無いので、作り方など分からないんだけども。

〈むーん・・・じゃ、コーヒー豆を擂り潰す感じで搾るんだ!〉

 ・・・あー、臼のようなモノを用意してってこと?

 確かに、種から油を搾るなら・・・いや、どうなんだろう?

「マリーさん! 菜種油の作り方ってご存じですか?」

「知らない」

 ですよねー。

「主婦をしていたけれども、スーパーで売っているわけだしねぇ・・・特売日に数本買いだめとかよくしたわ」

「俺もそうです・・・まぁ、普通はそうですよね・・・」

 そうだよな・・・なんでもかんでも知っているわけないか・・・。


 でも、栽培か。

 確かに、俺の魔力を鉱山や畑に巻いていた事を考えれば、アライラの食べる物が増やせるかもしれない。

 というか、今日まで食べて来たモノは肉ばかりだから、野菜などで栄養バランスを・・・栄養バランス?

 アライラを見上げる。

 人間のように、栄養を考えた食事が必要なのかどうか、ちょっと疑わしい。

「でもまぁ、食べる物の種類が増えることがいい事か」

〈え? なになに? 食べ物が増えるの?〉

 こと食に関しては反応がいいな。

「そうだね。アライラ用の野菜などを栽培してみようかな?って考えたところだ」

「ふむ・・・それはいい考えね」

〈えー、野菜かー・・・あんま好きじゃないんだよね・・・野菜・・・〉

 そうだろうね。

「でも、好きな野菜だってあるだろ?」

〈うーん・・・フライドポテト! ポテトチップス! アレは大好物です!〉

「油が無ければ作れないんだけども・・・」

 どうしてこう、人気になる食べ物というのは油を使った料理ばかりなのだろうか・・・それさえなければ、もっといろいろと楽なんだけどな。

「まぁ、無い物は仕方ないとして・・・とりあえずジャガイモの栽培でもしてみようか」

〈おー。肉じゃがとかも美味しいよね!〉

 砂糖や醤油にみりんなどが必要だけど・・・そういう調味料はどうしたものか・・・いや、もう本当に悩ましい限りだな。

 アライラの邪眼による邪眼クラフトで作成できると話は早いんだけど・・・。

 当面は保留だな。

「肉じゃがは当分無理だから、とりあえずはジャガイモの栽培を試して見よう」

〈おっけー〉

 ・・・うん? なんだか話の本筋から脱線しているような気がするけれども?

 まぁ・・・いいか。

 当分は調理器具を作る鉱石集めもしないといけないし、野菜の栽培を試しつつ鉱石を採掘しに谷へ通い、調理器具を増やしたら東か南を目指すことにすればいい。

 マリーさんともしっかり相談して決めるとしよう。

「ところで、マリーさん」

「うん?」

「ジャガイモって、集落で栽培していたりしましたっけ?」

「あるわ。ついてらっしゃい」

「はい!」



 集落の畑にはいくつか見慣れた野菜が栽培されていた。

 その中からジャガイモを掘り出して、種芋になりそうな物を選んで持ち出した。

「では、畑を作ります」

〈じゃ、私はこれでお休みよー〉

「大道人。引き留めて」

 ガシッと、アライラの脚を大道人が掴んで止める。

〈えー、私に何させようっての?〉

「邪眼で土に混ざる雑草などを除去して欲しいだけだからさ」

〈へーい〉

 あまりやりたくない感じだが、細々とした作業は邪眼の方が手早く済ませられるので、ここは手伝ってもらいたい。

 

 まず、ジャガイモを植える畑の場所だが・・・。

 これはアライラが寝泊まりしている集落外のテント・・・の真向いに決めた。

 集落の南門から出てすぐに畑が見えるので、確認などが楽になる。また、アライラが寝泊まりしているテントの真向いなので、セキュリティ面でも期待ができる。

 ・・・このダンジョンに、ここまで野菜を盗みに来るモンスターが居るかどうかは不明だが。

 そういうことで、畑の範囲を決めて錫杖を四方に突き立てる。

 柵代わりにするべく、閻魔錠で四本の錫杖を結んだ。これを目安に、大道人に地面を掘り返してもらう。

 巻蛇槍貫撃で地面を砕きながらかき混ぜることで、土をいい感じに柔らかくできると思った。

 が、いざ地面に突っ込んでみれば、地面が爆発したように土が噴き出して、散弾銃のごとく俺に襲い掛かってきた。

 見守っていた位置が近すぎたわけだな。

 幸い、無傷だったが・・・激しい痛みには襲われたので、しばし悶絶していた。

「大丈夫ですか?」

 大道人から声を掛けられても、しばらく返事が出来ないくらい痛かったが、とりあえず無傷だったので作業を再開してもらう。

 ただ、今度はアライラに畑の範囲を邪眼による結界で覆ってもらう事で、土が飛び散るのを防いでもらった。

 始めからこうしておけばよかった。

 しばらく、何度も槍を突き立てて土をかき混ぜ、柔らかくしていく。

 そうして、十分にかき混ぜ終わったところでアライラの邪眼による雑草除去を行った。

〈邪眼・・・こういうのって、ギャザリングに含むんかな?〉

「・・・ギャザリングってなに?」

〈むーん・・・ま、いいか。邪眼ギャザリング! 範囲指定! 雑草除去!!〉

 邪眼が光り、畑とするべく耕した?土が明滅すると・・・混ざっていた雑草やそれらの根が綺麗に消えてなくなった。

 さすが、万能邪眼だね。

「・・・で? ギャザリングってなんだい?」

〈うん? ネトゲじゃ普通に使われてる言葉なんよ。ギャザクラってね。ギャザは素材集めのクラスやジョブの事で、クラは道具を作る方ねッ!〉

 ネトゲ知識だったか・・・。

 後でマリーさんに聞いてみるとしよう。

「さて、あとはこの種芋を植えるだけだ」

 ジャガイモの植え方ってあるのかな?

 いや、地球でのやり方は間違いなくあるだろう。しかし、知らないのでどうしたものか・・・。

「マリーさん。ジャガイモの植え方って知っていますか?」

「普通に栽培するわけでもないし、細かい事は気にせず埋めて置けばいいわ」

 ・・・大丈夫かな?

 マリーさんも知らないのであれば、何事もやってみるしかないよね。

 畑の中央に、ジャガイモを植える。

 そして、その横に錫杖を突き立てた。こうする事で、錫杖から魔力が供給されて畑を潤すはずだ。外ではこういうやり方はやっていなかったが、効率は増すはずだ。

〈・・・あのさ? 仮にジャガイモが大きくなったとして、収穫したら何を作るん?〉

「え? そうだなぁ・・・蒸かし芋で作ってみる?」

〈ま、まさか! じゃがバター!?〉

「バターが無い。あきらめて」

〈ちくしょーッ!!〉


 さて、植えたジャガイモはどの程度で育つかな?





〈おきろルッタァァァアアアッ!! そなたはカワイイぃぃぃいいいッ!!!〉

「どういう起こし方だよッ!!?」

 錫杖を通して、アライラの大音量になる声が頭に響いて来たことで、俺はキレながらも布団より身体を起こす。

 うぐ・・・まだ眠い・・・うぅ・・・眠い。ねむ・・・。

「ルッタ! 起きているの!? アライラがトチ狂ったわッ!!」

 俺が寝床で使っているテントに、マリーさんが今にもアライラを殺しそうな声音でやって来た。

「日も昇らない内から大声でギーギーと・・・ルッタ! あの子はなんて言った!?」

 ・・・うん、マリーさんが俺以上にキレてる。

「あの、待ってください。アライラは俺を起こすために大声を出したようでして、用件まではまだなんです」

「はぁあ?」

 ・・・眠いとは言っていられない。けど、まだ眠気で頭が上手く働いてくれないけれど、とにかくマリーさんに説明をしないと。

 マリーさんは、虫が出す音を威嚇音として捉えているため、アライラが声として発している音を嫌っている。が、言葉としての音なのだと理解してくれてもいるので、耳障りだけど我慢している。というのが現状だ。

 だから、アライラがなんと言ったのかを教えれば、納得してくれるだろう。

「起きろルッタ。そなたはかわいい・・・と言っただけなんです」

 怒りに歪んでい顔が、一瞬で真顔になった。

「やっぱりトチ狂ったようね」

「・・・否定できないのがなんとも」

 確かにマリーさんに言われて、改めて思う。

 なんでいきなりあんな言葉を大声で発したのだろうか・・・わからん。

「と、とりあえず・・・彼女の様子を見に行きます」

「待ちなさい・・・まだ眠いでしょう? ほら。私の手に掴まりなさい」

「はい」

 差し出される手を取って、俺はテントを出る。

 眠いながらも外の空気はまだ冷たくて、顔に冷気が掛かったことで、少しだけ意識がハッキリする。

 そうして周囲を見回してみれば、確かに日も昇らない時間帯のようだ。辺りは薄暗く、外灯の類は無いので周囲にあるモノを確認するのは大変だ。

 しかし、視線を空の方へと向けると、空が白んでいることから、もうすぐ夜明けとなってこの集落も陽の光を浴びることになるだろう。

 そんな集落にて、南門の方角を見た俺は・・・実はまだ夢を見ているのか?と目を疑った。

「マリーさん・・・南門の外・・・に見えるアレは、マリーさんにも見えていますか?」

「は? 南門の外・・・おぉ?」

 俺をジッと見ていたマリーさんに、集落の南門を指さしつつ外を見てもらうために声を掛けると、マリーさんは妙な声を上げてゆっくりと、それを見上げた。


 空へと伸びる巨大な植物が綺麗な薄紫色の花を咲かせていた。


「そんなバカなッ! あんなウル〇ラQに出てきそうな巨大植物は自生していないはずなのに!」

 ・・・?

 集落の中からでも、集落を覆う結界の外にあるモノは見える。

 しかし、昨日までは影も形も無かったはずの巨大な花が咲いていれば、誰だって驚くだろう。

 ただ、あの花には見覚えがあった。

「アレ・・・たぶんジャガイモの花ではないかな?って思うのですけれど」

「は? え?」

 地球にて、インターネットで見たジャガイモの花の画像を思い出す。細部まで思い出せるわけではないが、花だけをピックアップすれば似ている。という感じにはなる。

「・・・確かに、夫と北海道を旅行した時に立ち寄った花畑で見たことある気がするわ・・・アレ、ジャガイモの花だったのか」

 ・・・そういえば、興味ない事は詳しくないし、覚えてもいない。とか前に言っていたかな?

 まぁ、その辺はひとまず横に置くとして、今はこのジャガイモの花?と思われる巨大植物の正体を確かめないといけないだろう。

「ええい! とにかくアライラーと合流するわ!」

「はい」

 俺は、マリーさんに抱きかかえられて、外へと運ばれた。



〈あーッ! やっと来たーッ! おっそーいッ!!〉

「いや、眠くってさ・・・じゃなくて、何があったの?」

 マリーさんがキレるぐらいの大音量で声を発したのだから、何か相当な緊急事態があったのは聞くまでも無い。

 というか、集落からでも見える・・・空へと伸びる巨大な植物こそが原因なわけだ。

〈見てよコレぇえッ!!〉

 そう言って、アライラは怒り心頭という様子で前足を寝泊まりしているテントに・・・あッ!?


〈寝てたらいきなりテントが崩れてさッ! ハンモックから投げ出されて顔で着地ですよ!? なんなん! いったいぜんたいなんなんなんッ!?〉


 なるほど、大声で俺を起こしたのはこういうことか・・・。

 狭い集落ではゆっくりと休むことが出来ないアライラのために作られたテントは、横倒しになっている巨大な茎によって潰されていた。

 根元を見れば、ジャガイモの畑から伸び出して、途中までは空へ向けて伸びているものの、すでに伸びている茎に負けてしまったのか? 自重で倒れてしまったのか? そこは分からないけれど、茎が折れて倒れたことだけは見て取れた。

 他にも畑から茎が飛び出しているが、いずれもが横倒しになって地面を抉っている。

 ・・・どういう状況なのかが、分からない。

「とりあえず、落ち着いてくれ。君が怒っている理由は、この状況を見て分かった。だから、まず確認したいんだけど」

〈うん。なに?〉

「大道人はどうした?」

〈やっべ! 忘れてた!!〉

 アライラが大急ぎで崩れているテントをガッシャンガッシャン退かしていくと、横倒しになっている茎に圧し潰されている大道人が出てきた。

「あ、おはようございます。もう朝・・・あれ? 体が動かないのですが?」

 スリープ状態で今の今まで何が起きているのか気づいてなかったのか・・・。

〈今引っ張り出すから、ちょっと待って!〉

 邪眼でスポンと引っ張り出された大道人は、とりあえず無傷・・・ではなく、亀裂が生じていた。とはいえ、これくらいならすぐさま修復できるので、チャチャッと済ませる。

 

「さて、コレをどうするか・・・」

「はぁ・・・まさか一晩でこれほどの巨大植物に成長するとは・・・」

〈ジャガイモって、花咲かせるんだ・・・知らんかったわー〉

 まぁ、普段目にするジャガイモは、スーパーで売っている物ばかりだしな。

 ・・・いや、アライラの場合はフライドポテトやポテトチップスばかりかもしれないか。

〈んで? ジャガイモって埋まってんの?〉

「埋まっているはずだけど・・・」

「そうね。埋まっているわ」

 マリーさんが中空に表示するウインドウを小さくしつつ、俺とアライラの間に入ってきた。

「種芋として埋めたジャガイモは、確かにあるようだけど・・・どうにも数値が異常なのよ」

「異常・・・ですか?」

「そうって言うか・・・あの巨大植物の茎を見れば、ジャガイモが小さいままのわけも無いのだけど」

 確かに・・・。

 ジャガイモの花を咲かせている茎は、どう見ても『大木』では不適切な・・・っていうか、これもう茎じゃなくて幹だよね?ってなる。

 あまりにも巨大化し過ぎて、畑の範囲を完全に超えていた。

「そういえば、錫杖と閻魔錠で作った柵は・・・」

「あそこに刺さっているわ」

 マリーさんが指し示すのは上の方。

 花の影で見えづらいが、花と地面の中間あたりに四本の錫杖が刺さっているようだ。

「どうしますか?」

「とりあえず、地中のジャガイモを確かめてみるしかないでしょう? アライラー。邪眼で引っ張り出しなさい」

〈ぅえ!? 私が!?〉

「え? 私が?って言ってます」

「そうよ。おまえの邪眼でやるのが一番いいわ」

〈えー、なんでー?〉

「え? なんでですか?って言ってます」

「・・・説明するより、やってみれば納得するわ」

〈むーん・・・しかたないなー〉

「はーい。わかりましたーって言っています」

「しかたないなーって言ったんだろ? 雰囲気で分かるからな?」

 す、鋭い・・・。

〈アライラー! 突貫します!〉

 マリーさんが目に殺気を滾らせた直後に、アライラは大急ぎでジャガイモに向き直る。

 そして、邪眼に魔力を込めて即席の技を発動した。

〈邪眼ギャザリング! ジャガイモ一本釣り!!〉

 邪眼が一つだけ光ると、ジャガイモの花が震動し始めた。

 その震えは次第に力を増していき、地響きが始まると大地震のような爆音と揺れが生じる。


 ごごごごごごごごご


 まさにこんな表現が適切だと思うほどの轟音が響き、アライラも慌てて技の発動を止めた。

〈ぉわわわわわわ! なんやねん今の揺れ!! 日本の大地震でも稀な揺れかたするやん!!〉

 ・・・アライラって、エセ関西弁がよく出るよな。

 まぁ、多分・・・アニメの関西系キャラに影響されているのだとは思うけれど。

「納得した? 私が引っこ抜こうにも・・・足元にジャガイモがあるから茎だけ毟り取る結果になるわけよ」

 そういうことか。

 アライラの邪眼でジャガイモを引っこ抜こうとして、大地震規模の揺れが生じるほどに巨大で、地中に埋まっているということだ。

 ・・・どんだけ巨大化したのだろうか? 種芋は。

「というわけで、今度は八連邪眼でやりなさい。ルッタ。お前はいつもの地蔵を6人用意して、ドリルの槍を持たせ、アライラーの邪眼発動と同時に地面を掘削しなさい」

 なるほど、そうすることで引っこ抜きやすくするわけですか。

「わかりました! すぐに準備します!」

「アライラーも! 邪眼への魔力充填を始めなさい」

〈さー、いえっさー!〉


 こうして、ジャガイモ掘り作戦はテキパキと準備が終わり、いざ、掘り起こしの時がきた。


〈いくぜーッ! 八連邪眼! あ、ギャザリング!! ジャガイモ一本釣りッ!! フルパワーッ!!〉

 八つの邪眼が一斉に光り輝いて、直後に直下型の大地震が発生する。

 大道人たちも、アライラの技発動に合わせて地獄能・巻蛇槍貫撃で地面を掘削しているが、相当に大きいようだ。

 

 ずぅどどどどどどどどどど


 などという音が辺り一帯を支配するかのように響き渡り、そして地面が爆発するように空へと噴き上がった。と、太陽も覆い隠すような物体が飛び出して来た。

〈ええええええええええ!!?〉

「んなぁ・・・」

「マズい! ルッタ!」

 マリーさんが大慌てで俺を抱き上げると、そのまま急いで逃げ出した。

 何かが落下してくるのは理解したが、アライラもマリーさんに続いて逃げ出している。と、大道人たちの姿が見えないが・・・はて? どこに?

 俺が首を傾げて数秒後。

 世界の時間がゆっくり流れるようになったのかと錯覚するような、動作で巨大なジャガイモが地上に落着した。

 爆音と爆風としか今の俺では言い表せない音と風が吹き荒れ、襲い来る土砂を後ろ回し蹴りで弾き飛ばしながらマリーさんは安全確保をしてくれる。

 一方で、アライラは襲い来る土砂を上から被って〈あひゃー〉とか言いながらも、シャカシャカ足を動かして逃げ切った。

〈い、いくらなんでも、このサイズはヤバいって〉

「・・・というか、集落は大丈夫なんですか?」

「それは問題ないわ。ウィッチの奴が施した結界は、集落を球体状に覆っているからね」

 ほら。と言わんばかりに指で指し示すマリーさん。

 確かに、集落は一切の被害を受けていないようだ。いや、だけども・・・巨大ジャガイモが太陽を遮っているせいで、影が差している。

「退かさないと、日照不足になりそうですね」

「・・・そうね」

 

 ちなみに・・・大道人たちは槍がジャガイモに刺さってしまったことで、宙ぶらりんになっていた。


 はは・・・。


 

次回は、集落周辺のモンスターを狩ってみよう。というお話を予定しています。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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