表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/59

33 〔壺外編〕03 私は暇つぶしがしたい

こんにちは。こんばんは。

三連休を使ってどうにか仕上がったものの、いろいろと大雑把な出来となっていることと思います。


ここ最近は気温もとんでもない数字を叩き出しておりますが、皆さま、いかがお過ごしですか?

私は冷房の効いた部屋で眠気に誘われておりました。


どうぞ、最後までお楽しみいただけたら、幸いです。

「西地方にある山間部にて、狩猟をしていたハンターの1グループが、一人の若い男性によって皆殺しにされたようですね」

 西地方か。森などの自然が豊かで、自然の恵みを主力にしている領地が多い・・・とかだったはず。

 しかし、狩猟組合が幅を利かせていて、領主も付き合いには苦悩しているとも聞いたな。昔、武闘派に統治を任せていたら禿山にされてヤバい事になったから、ちょっと脳筋だけど穏健派に入れ替えたはずだ。

 昔と言っても数千年前だけど・・・。

 ガチの穏健派に入れ替えたら、狩猟組合が調子に乗って領地運営を始めたことがあるので、戦闘に長けた穏健派・・・から脳筋穏健派に調整していったら割と上手く行った・・・そんな具合。

「別グループの連絡役の男性が一部始終を目撃しており・・・どうやら、狩猟した獲物を持ち帰ろうとしていたところに現れたようです。得意げに『血抜き』を披露して見せたようですが、プロの皆様方にダメだしされて逆ギレ・・・」

「それで皆殺し?」

「そのようです。主人公のありがたい教えは、黙って感謝しろよモブキャラ共が・・・と吐き捨てていたそうですよ」

 ・・・あー、最初に戦ったチート転生者と同レベルね。

 それにしても、各領地から上がってくる報告は、どれもこれも程度が低いガキの癇癪ばかりだ。やってることが殺人鬼なのに、殺人動機がクソガキ過ぎてうんざりしてくる。


 これが山を為すほどの報告書として、城に集まってきたのだから眩暈がするわ。


「参りましたね・・・」

「そうね。とてもじゃないけれど、過去に類を見ない数の暴力で攻め込まれているわ」

「それだけじゃありません。この世界で生きる人間を乗っ取る形で転生しているために、被害の拡大はこの世界の在り様に大きな影響を残します。魔王封印から繰り返される1000年で、人間たちにどんな悪影響がでることか・・・」

 確かに。

 シードに込められた地球にて悪行をした人間の魂が、この世界の人間を乗っ取る形で転生していることは、とても重大な問題だ。

 オカルトな話しでもあるが、前世の記憶を持って生まれてくる子供。というのがいたりする。そういうのは本当に少ないが自然と現れるものだ。

 言うなれば、前世の強烈な記憶が思念となって魂に残留して、それが人格に影響する場合もあるわけだ。ただ、多くの場合は成長と同時に薄まって、無くなっていくものだけど。


「どうすんのよ・・・これ」

「どうするも何も、各地を巡って一人一人駆除していくしか手はないでしょう。転生者を倒せる者は人間たちにもできることではありますが、チートシードの対処は宮廷魔法術師レベルの火力を瞬間的に出せるモノに限りますからね」

「・・・つまり、私たちがやらなきゃ誰がやる?って話しなのか・・・」

「その通りです。アニスニアとネフェリス様の『チート転生者ぶらり駆除の旅』をしていただくこととなります」

 ・・・は?

「ちょい待て、なんで私とアニスニアなんだ?って聞かなくてもだいたい理由は察するけれど、旅とか第一国家ハースニングを一週して来いってことか?」

「嫌ですか・・・あ、それなら『ネフェリス! アニスニアと! チート転生者撲滅旅行記!!』っということで計画を進めましょう?」

 ・・・あ、これダメなヤツ。

 私は、書類を半自動的に処理しているアリスリアに近づいて、その顔を掴んで覗き込む。

「私は大丈夫ですよ」

「そう? 普段からは考えられないような発言だったから、心配になったわ」

 とりあえず、茶を淹れる。

 アリスリアには紅茶だが、私は緑茶だ。

 第六国家アメツとの貿易で入ってきた緑茶だが、地球でもヨーロッパでは緑茶が主流だったという話しがあるそうだ。

 なんか、緑色は毒物。という考えが広まると、緑茶は廃れて紅茶に代わっていったとか・・・。

 これはえーっと、そう。いつだったかの勇者が、緑茶を貿易で仕入れることに成功した日に語っていたな。一緒に仕入れたお米でオニギリを作り、コレが食べたかったと感動していたっけか。

「少しは、あの三姉妹に仕事を回したらどう?」

「すでに回しています。あの三人は今もパーラハラーン様の元に残っている数少ない古参ですが、私と同性能を発揮できないので、常に悲鳴を上げていますよ」

「おまえと同性能の天使なんて、早々いないわ」

「そうですか? 私一人であの子たち12人分の仕事ができるんですよ? あの子たちだってやればできるはずです」

 ・・・コイツ、もしかして人造人間ならぬ神造天使じゃね? 生物というよりは機械なんじゃね?

 ん?

「いや、まさか・・・この部屋だけでも書類が山になっているのに、アイツらの執務室も?」

「ええ、書類の山です。想定よりも遥かに、チート転生者が暴れ回っているという事なのですよ」

 ・・・世界が終わるよりも早く、あの三姉妹が過労で死にそうだな。

「ま、地球はセキュリティが厳重だから、魂の持ち出しなんて早々できるはずがない・・・と思っていたんだけどねぇ」

「その点で、地球の最高神様に問い合わせて見たのですが、どうやらチートシードという新しい道具にはまったく気づけなかったようです」

 あの最高神が?

「連中は、複数の新米悪神に魂の持ち出しを行わせていたようで、コレを囮にシードで魂を持ち出されてしまった・・・と」

「・・・あの連中、とんでもない物を作り出したもんだわ」

 事態の深刻度は、本当に久々なこととなるが・・・この世界に異世界モンスターが持ち込まれて以来だろう。

 バグ進化で【神殺しの獣】を経験した悪神の連中も、異世界から異世界にモンスターを持ち込むのは絶対に禁止として善悪共通のルールになるぐらいには、トラウマになった。

 しかし、人間は異世界から異世界に持ち込んでも大丈夫だったことで、そっちに遊びの手を広げていた。

 地球人を転生または転移させてチート能力を与え、異世界で無双させては秩序を混乱させて楽しんでいる。それも段々とエスカレートしていったが・・・まぁ、当然のように対策されるし摘発もされる。

 堂々巡りのいたちごっこだ。

「こちらで入手したチートシードの情報を、地球の最高神様へ送ったところ・・・シードを持ち込まれて、魂を詰めて持ち出された痕跡が大量に発見されたのだそうですよ」

「既存のシステムでは気づかれないまったく新しい神造道具・・・データさえあれば対策可能だが、これだけの被害が出た後ではね・・・」

「ええ、最高神様がだいぶお怒りになられていて・・・とにかく、今はメッチャ怖い・・・と、地球で働いている私の友人が泣きっ面のメールを送ってきました」

「あぁ、そりゃそうもなるわ」

「とにかく、チートシードのサンプルを増やして、今後は他の神々とも情報を共有していく方針です。なるべくならば、転生する前に悪神のアバターを取り押さえたいところですが・・・」

「データにある奴らは、入ってすぐに見つけられるんだろ?」

「新たに悪神となった新米を使っているから、厄介なのです」

 確かに・・・。

 おそらく、今、この国で転生者をばら蒔いているのは、いずれも新米の悪神たちだ。

 それらを見つけつつ、転生者も駆除していく。正直、仕事量がハンパじゃないな・・・巡らなきゃダメかなー。巡りたくないなー。

「とりあえず、増援は見込めないの?」

「ムリです」

「だよねー・・・」 





「やぁ! 初めまして! ネフェリスちゃん♪」

「誰だ?テメェ」


 本日、第一国家ハースニングの北方にある鉱山を有する町『ネルゾイ』から、先日の視察で連れ戻し忘れた考古学者のユアヒム・レーンが王都に戻ってくるという知らせを受けた。

 ユアヒム・レーン。

 邪の男神ダーゼルガーンが使用する今代のアバターである彼は、対魔王兵器開発計画における作戦実行のミスでなんやかんやと責任を問われて身動きが取れなくなっていたため、私たちが迎えに行くこととなった。

 しかし、ネルゾイでは悪神たちによる転生者を利用した襲撃を受けてしまったせいで、仕事が忙しくなり、なんだかんだでアイツの事を忘れてしまったまま帰って来てしまったわけね。


 で、とりあえずは付き添いありで王都に帰還することが決まったので、こうして引き取るために出迎えをすることとなったわけだ。

 アリスリアと私の二人でね。

 どうやら、アニスニアは別の仕事があるので城で待機するらしい。

「いきなり威嚇するのは止めてよね? これでも真面目に仕事しているんだからさ」

「その雰囲気・・・おまえ、ウィッチか?」

「ちょこっとだけ正解。厳密にいえば・・・えーっと、ウィッチの代理・・・かな?」

 なに言ってんだ? こいつ・・・。

 どうにも歯切れの悪い説明をする女に、私は疑わしい目を向ける。

 そもそも、この二人はとんでもない目立ち方をしていた。

 ユアヒム・・・ユアヒム?の方は全身を包帯で巻いた様子で松葉杖を使って身体を支えているし、女の方は信じられないほどの美女だ。

 神たる私さえ、さすがにそこまで美形に設定していないというのに・・・アレか? 美の女神が嫉妬した人間の三姉妹をイメージして作ってんじゃねーだろうな?

「話しは聞いております。ノルトラン商会の現会頭を務めていらっしゃる。リコリス・ノルトラン様ですね?」

 宙に浮いている若干三歳児の第五王女が、それはもう大人顔負けのカーテシーでご挨拶。

「これは丁寧なあいさつをありがとう。こちらも礼を返すのが正しいのだろうけど、このまま外で話すのも悪目立ちが過ぎるというもの・・・我が商会にて、仕切り直しといきましょう」

 すべてを魅了する微笑。

 妖艶にして魔性の神秘性。

 この女・・・正しく魔女という在り方を実行しているのか?

「あ、どうにも魔女の概念が表立ってしまってね。別に魅了する気とか無いからあしからず」

「大変ですね。ウィッチの血を分け与えられたというのも」

「そーなんだよー。アリスリア様は分かっていらっしゃるぅ♪」

 ・・・ん? どういうこと?

 とりあえず、ここは余計な事は言わずについていく事としよう。

 松葉杖で移動速度が遅いユアヒムを持ち上げて、補助しつつな。



 ノルトラン商会。

 確か、過去にノルトラン男爵という人物が居て、その人物が営んでいた商会が大変優秀な成績を収めたことで地方貴族の爵位を賜ったという家だったと思う。

 外国との貿易も盛んで、特に第五国家と第六国家のような超長距離にある国との貿易が安定していることが強みの商会だったか。

 しかし、ノルトラン男爵家は他の商会による襲撃を受けて家は無くなっている。

 詳しくはないが、爵位を得たのが気に入らないとのことで武装集団を雇って襲撃したという資料を読んだ事はあるわ。

「で、その襲撃時に死んだノルトラン家の赤ん坊が、今の私なのさ」

 そして、私たちはリコリスの案内でノルトラン商会の商会長室に通されている。

 長であるリコリスが連れて来た客が、王女であること見て素早く行動する職員の練度は凄まじい限りだ。茶と菓子を素早く準備すると、あっという間に退室していった。

「・・・なんで生きてんの?」

「ふっふっふ。ウィッチが蘇生魔法術と自分の血を分けてくれたことで、こうして復活したのです!」

「厳密には、血に含まれていた魂の一部が、死んだ肉体を乗っ取ったと言うべきでしょう。憑依転生に近いですが・・・コレは憑依分身と言うのが正しいかもしれません」

 あぁ、なるほど。

 赤ん坊の身体にウィッチの血と魂が加わって、成長と共にウィッチの遺伝子が強く発揮されてしまった結果、ウィッチ化しているわけか。

「うんうん。おかげさまで、今では多くの顧客を獲得し・・・国一番の商会にまで上り詰めてしまったよ」

 魔女としての力を存分に発揮して、すべてを手に入れたというわけか。

「道のりは大変だったでしょう? いかに魔女としての概念から得る美貌と魔性と神秘性を駆使しても、取り扱う商品次第では詐欺と言われてしまいますからね」

「顧客満足度をしっかりと考慮した高品質の良品を取り揃えたのは、素人ながら頑張ったよ」

 ・・・そうか、何でもかんでもチート級の何かしらで解決してきたわけでもないのか。

「今、ユアヒム君に巻いている包帯も、我が商会で開発した治癒魔法術織り込み式包帯なんだ。包帯に治癒魔法術を組み込んで、さらに薬液にも漬け込んで丁寧に作った包帯なんだよ」

 そう言って、商品説明をするウィッチ・・・じゃなくてリコリス。ちょっと面倒だな。

 しかし、ユアヒムの様子はとても苦しそうだ・・・効いている様には見えない上に、包帯の所々で膿を吸ったような黄ばみが見られる。

「・・・まぁ、自信を持って紹介したい商品ではあるけれど、ユアヒム君の身体にできた穴の治療は・・・さすがに手ごわ過ぎるね。量産できる品ではないから、今もお抱え魔法術師に替えを用意してもらっている最中だよ。彼女への特別手当が結構キツイ」

 どんだけの拷問を受けたんだ・・・ユアヒム。

 

 っと、このままではノルトラン商会で取り扱っている商品のお披露目会になりかねないな。

「で? ユアヒムの付き添いがアンタなのはなんで?」

「うん? 彼は我が商会のお得意様だからね。考古学研究で必要な道具類を大量発注してくれるいいお客様だ・・・今回は、対魔王兵器開発計画のために必要な雑貨も追加発注してくれたからね」

 ・・・。

 ・・・へぇ?

「違うぞ! 純粋に、ユアヒム・レーンとして、考古学者として、仕事の清き付き合いだけだ。邪な欲求のために関係を強めているとか無いからな!?」

「なんも言ってないだろ?」

「その眼が語っていただろうがッ! とぼけるなよ? なんだかんだでお前との付き合いもずいぶん長くなってんだ。目を見れば言いたい事ぐらい察することはできる!」

「ま、そういうことにしておいてやるわ」

「あっはっは。大丈夫だよネフェリスちゃん。ユアヒム君は私の好みじゃないから、恋愛とかマジ無いない」

 あっけらかーんっと、リコリスが否定するので、ユアヒムは結構なダメージを負ったようだ。

 少しぐらい、意識してくれてもいいじゃん。的な顔で項垂れている。


「さて、交流も程々に本題を進めましょう」


 アリスリアの発言を受け、ヘラヘラとしていた私は顔を引き締める。

 それは、ウィッチの憑依分身?となるリコリスも同意のようだ。ケラケラと笑っていた顔を、私同様に引き締めた。

 その中で、ユアヒムだけは恨めし気にリコリスを睨んでいる。

「本日、王城にて臨時国家大会議が開かれることは、お二人ともご存じでございますか?」

「知ってる」

「うん、知っているよ・・・それを覗き見するのが目的だからね」

 だろうと思った。


 国家大会議。


 年に二回。夏と冬に行われる第一国家ハースニングにて各領地を治めている貴族が集結して行われる大規模な会議だ。

 やる事は簡単で、各領地で半年間に集めた情報を国全体で共有し、問題などの解決を話し合ったりする場所だ。また、各領地の貴族たちが親交を深めたり、新たなコネを作ったりする社交の場でもある。

 ただし、今回の国家大会議は緊急事態が発生した場合に行われる臨時のモノ。

 本来であれば各領地の貴族が集結する会議であるが、臨時の場合は長距離通信魔法術によってリモート会議で行われる。

 なら、ずっとそれでよくね?って思うわけだが、長距離通信魔法術は魔力の消費が激しいために毎度毎度使ってはいられないのよね。

 いついかなる時にも即時対応できるよう、魔力貯蔵装置に魔力を溜め続けて置く必要があり、年二回で毎度使っていてはいざという時に使えなくなるわけだ。

 ちなみに、魔力貯蔵装置はとても大きい。

 地球の施設で例えるならば、石油コンビナートとかガスコンビナートとかで見られる巨大なタンクを想像すれば簡単だ。私が始めて装置を見た時は、一目で「似てるなー」って思ったからね。

 それだけ大きいのに、タンク一つで最長4時間しか通信を維持できないという燃費の悪さに加え、1時間使用するために魔力を半年貯めないといけないというね・・・。

 

 毎度使ってられるかッ!て、貴族たちが逆ギレするため、年二回は王都に足を運んでいる。

 まぁ、普段から領地運営で忙しい領主たちにとって、王都に足を運ぶのは小旅行みたいなものだから、楽しみにしているヤツも多いんだけどね。


「一応、覗き見する下準備はしてあってね」

 リコリスの奴が、サラッととんでもない事を言い出した。

「だけど、それを見るには王都に居ないとダメなんだ。だから、ユアヒム君を連れて来た。今回の会議は、彼こそ見ておくべき案件だからね」

「なるほど、確かにユアヒム様にはぜひとも知っておいて欲しい内容ではありますね」

「え? なに? なんで俺が知る必要あんの?」

 そりゃおまえ・・・ん?

「ウィッチ?・・・まさかと思うけれど、コイツ・・・」

「うん。知らないよ? 今、この国で起こっている異常事態をね」

 はぁ?

「知らないって・・・教えてないの!?」

「うん。こっちで臨時の大会議を見て驚いている顔が見たくてさ」

「なるほど。私も見たいわ」

 いい趣味しているじゃないか。こういう配慮は嫌いじゃない。

「おい、待て? 俺はルッタの近況を教えるけれど、詳細は王都にあるからって言われて、ここまで腕や足が千切れそうな痛みを我慢して、足を運んだんぞ?」


「千切れればいいのに」

「千切れてしまえばいいのでは?」

「千切れても別に構わないでしょ?」


 包帯を巻かれていても、分かるモノはある。

 顔を真っ青にして、涙目になっている様子から「なんで俺がこんな目に?」と考えているんだろう。いつもの事だ。そもそもが邪の男神・・・やることなすこと邪でしかないのに、自分が邪であるのが当然であるがゆえに、邪であるという認識がない。

 だから、自然と他人を不愉快にさせ、本人はまるで自覚無しでいるから悪意もない。

 こっちも、悪意を感じられない純粋な邪の好意に不愉快を得るため、嫌う者が増える。そうして邪の神というのは、神々でも嫌煙されがちな一派だ。


 それは、悪と紙一重の境界線上にあるからとも言える。


 邪の神は、純粋な善であり、不純な悪でもある。それを行ったり来たりするシーソーのような神だ。善行も悪行も無自覚で行うために、どっちつかずとなっているわけだ。

 ゆえに、悪の神も距離を置いている。

 悪行をしているから仲間だ。と思ったら、次の日には善行を行って敵対してくるなんぞザラだ。

 1000年前、アリスリアが光の眷族天使から邪の眷属天使に転向して、初の仕事となった勇者召喚。それを見事に邪魔したのは上司であるはずのユアヒム・・・つまりはダーゼルガーン。

 魔王を倒す対魔王兵器を開発するための道具を用意し、あろうことか魔王封印作業中だったこの国へ乱入し、勇者と戦って・・・。

 幼い頃から「好き!」と言って追い掛け回していた幼馴染のパーラハラーンですら、激怒してぶん殴ったほどだ・・・アバターだけでなく、本体までタコ殴りにしていたからな。

 コイツに一目惚れした昔の私は、本当に小娘だったのだと気落ちしたのは言うまでもない。


「はぁー。まぁ、そう言われるも仕方ないとして・・・だな・・・」

 涙目だったが、服の袖で拭ってからため息を吐いて現状を受け入れるダーゼルガーン。自身がそういう扱いを受けるのは当然である。とならないところが、コイツの良いところか。

「とりあえず、ルッタ・レノーダの近況はどうなってる?」

 確かに、私も前に身内会議で第一階層に到達したと聞いて以来の情報更新はない。

 リコリスがウィッチの代理を務めるのであれば、【災厄の壺】にて行われている対魔王兵器開発計画の進捗は報告してくれるはずだ。

「それに関しては、ちゃんとウィッチから報告書を預かっているよ」

 そう言うと、リコリスは報告書の束をユアヒムに渡す。

「じっくり読んでね♪」

「・・・この量を?」

 そうは言うけれど、私やアリスリアが処理している書類の山よりは少ない。

 つまり、それぐらい読めるだろ?って話しなわけで・・・。

「じゃ、ユアヒム君が報告書を読んでいる間に、私たちは国家大会議の覗き見を準備しようか」

「そうですね。効率的です」

「任せるわ」




 

 大会議室には、続々と貴族たちが集まり出していた。

 扉から入城するのではない。緊急の会議であるため、リモート会議用に各領主の家紋が刻まれた幕が壁に張られ、椅子には各領主の家紋が刻まれた物が円卓に並べられる。

 各領主の家紋入り椅子は、領主の姿を立体映像として表示できるほか、壁に張られた幕は領主の下で働く地方貴族たちの顔が表示される。

 地方貴族。

 地球ではどういう定義だったのか?・・・ちょっと今の私では分からないので割愛するが、この国における地方貴族とは、各領地内にて領主による地域管理者として雇用された者の家系を指す。

 地球の日本で言うなら、東京都知事が領主で、東京都の各区長が地方貴族。って感じかしらね。

 さすがに領主だけでは土地が広いと管理しきれないので、こういう人手を雇うようになり、そうしていろいろと役職などを与えて行ったら、貴族として取り立てる感じになり、地方貴族なんて呼ばれるようになった。

 では、領主と地方貴族の決定的違いとは?

 至極簡単なことで、女王陛下より爵位を賜った者を貴族。各領地の領主によって爵位を賜った者が地方貴族。という分類。

 さらに地方貴族は最高でも伯爵位までしか得ることはできず、領主より上と同等の爵位は得られない。例えるなら、子爵領の領主が抱えている地方貴族は、最高でも男爵位までなど。

 さらに、女王より爵位を賜った者は、男爵であっても地方貴族の伯爵より地位が上になる。

 分かりやすい例を挙げるなら、ネルゾイの町長を務めているレノーダ町長の親。レノーダ男爵は地方貴族の伯爵より偉い人物なのだ。

 ただ、男爵だの子爵だのと呼んでいては分かり辛いので、地方貴族の場合は『地方伯爵』という爵位の前に『地方』をつけることで区別しているのが現在だ。

 実際、大昔に地方伯爵が女王より爵位を賜った男爵に偉そうな態度をとったことで、地方伯爵家はお家取り潰しの上に一族全員殺処分となった事もある。

 数千年前だな。アレでパーラハラーンが「こりゃ区別しないとダメだわ」と面倒くさそうに、魔王復活でもない時期だったが自身のアバターを用いて女王をやっていた事がある。

 なんやかんやで、修正しないといけないときは自分でしっかりと処理しているのは、まぁ、評価してやろう。普段は仕事を部下に任せているグータラ女神だけどな。

 

「いやはや、普通の爵位と地方爵位ってそういう違いがあるんだね?」

「なんだ? リコリスは知らなかったの?」

「うんうん。ウィッチは基本的に世の物事には干渉せず、あくまでも世界の異常時に手を貸すのを信条としているから、そういう人間たちのいざこざには関わらないんだよ」

「・・・その割に、今回の魔王復活周期には関わりまくっているじゃないか」

「そりゃそうさ。対魔王兵器開発計画。コレが本格的に始動したんだよ? 彼が計画を立案して準備に数万年かかった『あー? そんな計画もあったねー? あったかな?』ってなるぐらい忘れられていた計画がね」

 ・・・そういや、私もそんな反応だったな。

「そうですね。私もリコリス様の指摘通りなリアクションでした。ダーゼルガーン様が泣きながら『忘れんなよ! これ超重要な計画なんだぞ!』て駄々っ子していましたからね」

 ・・・いい大人が何してんだか。

「うるさいな。地獄変の入手に手こずったんだ。どんだけ、俺が我慢強く交渉し続けたと思ってんだ」

「そんで前回の失敗でしょう? 労いたいと思うわけないじゃん」

「・・・くッ」

 

 今も、1000年前の失態は尾を引いている。

 特に現在のアリスリアが、職場における上司たるダーゼルガーンへ冷たい態度を取っているというのは、部署が違う私の元にも届いている。

 まぁ、その内容を思い出していては、本題から逸れてしまうので、今は止めておこうかな。

「うーん。壁に表示される地方貴族?の顔が、遺影に見えて面白いね!」

「遺影を見て面白いという感想はいかがかと・・・」

「あっはっは! 冗談なのだから、笑っておくのが吉ってものさ。実際、領主は問題を起こさなくても、こういう地方貴族は色々な問題を起こすのでしょう?」

「・・・そうですね。この国では禁止されている奴隷売買などを、領主にも気づかれないように行っていた地方貴族もいたほどですから」

「あー、いつの時代でもいるね。特に第二国家を始めとした全国家と繋がる海の窓口だと、どうしてもそういう商売に手を出す輩は現れるよね」

「ええ。現在では、地方貴族として爵位を与える前に、対象者の情報を王家に報告するよう制度を改めてありますが・・・そろそろ直接面談した方がいいのかな?って思うところなのですよ」


 古来より、王家は他人を見る目がある。と言われるほどに、人格を見抜く能力がある。

 

 女王と王女は、夫とする男性が悪事を起こさない人物だとしっかり見定めてから結婚するため、王族で悪事を行ったものは歴史上で存在していない。

 捏造できる立場でもあるから、人間からすれば信憑性は半々と言ったところだが・・・。

 少なくとも王族には、善悪を見抜く能力をパーラハラーン自身が絶対継承するように設定しているので、間違いなく悪事を働いた事はない。

 国のトップは、常に民から信頼を得るように手を回しているわけだ。

 創造神さまはやる事がえげつないねぇ・・・地球の最高神様だってそんなことしてないのにね。

「それにしても、どうやってこんな覗き見ができるようにしたのよ?」

「ウィッチだよ」

 リコリスはウインクして舌をペロッと見せると、続けて答える。

「先日の対魔王兵器開発計画に関する報告時に、城内を覗き見する道具を仕掛けてくれてね。この受信機で欲しい映像を収集できるようになっているんだよ♪」

 ・・・ほぉ?


「用意周到ね? まるで国家大会議をやるのが分かっていたかのよう・・・」

「予想は簡単さ。今までにない大規模な攻勢を掛けられているのだからね」


 く・・・確かに、国を治めるためには新たな脅威に関する情報を国全体で共有しておく必要があるのは間違いない。

 特に、各領地を治めている領主たる貴族には・・・だ。

「その覗き見装置を使って、よからぬことをしようって気はないでしょうね?」

「・・・ふむ? よからぬこととは?」

 あ、しまった。

「ふむふむ。よからぬこととは?」

 ええい、墓穴を掘ったとはこのことか・・・。

「私やアリスリアの着替え中を撮影したりすることよ」

「しないよ。ノルトラン商会の信用問題に発展してしまうじゃないか。そういうのはダメ。絶対」

 ・・・案外、まともな思考の持ち主なのね。

「それに・・・ハースニング・・・いやいや、宮廷魔法術師のベルドガナ君のブロマイド写真が売れ行き好調なので、そういう事する必要ないしね」

「ちょっと待て? アイツの盗撮写真を売ってんの?」

「人聞きが悪いね。ちゃんと本人には了承を得ているよ? 売り上げの半分を持っていかれているので、利益はちょっとアレなんだけど・・・重版もすでに三度目さ」

「リコリス様? 私たちの写真集などは作っていませんよね?」

「さすがに王族のモノはねぇ・・・女王陛下の凛々しい仕事中のお姿写真はこっそり貴族達に売っているけど」

 ・・・まぁ、アイツはいいか。

「実は、アニスニアちゃんとアリスリアちゃんとネフェリスちゃんの写真が欲しいと、要望されては・・・いるんだよね」

 はぁ?

 なんで、私たちの写真が?

「ほら、第一、第二、第三王女の三人は、一応、民間の写真屋に写真を撮らせて何度か公開しているでしょう? 複製禁止ではあるけれど・・・貴族たちは大金出してこっそり複製写真を持っているんだよ」

 へぇー・・・そーなんだー。

「で。まだ公式にも写真公開がされていない第四、第五王女の写真も欲しいみたいでね。理由を聞くと、息子を婚約者とするためにも、まず息子を焚きつける必要があるからって言うんだね」

「待て、だったら私の写真はいらないだろ?」

「分かってないなぁ。君は公爵家のご令嬢なんだよ? 息子の結婚相手にぜひ欲しいと思うのは、貴族なら当たり前じゃん?」

「・・・そういうもん?」

 私には、どうにもピンとこない考え方だ。

 そう言えば、私がこの世界で公爵令嬢として活動してきた中で、結婚したことは一度も無かったな。いい男とか、全然出てこないし・・・。女公爵していた時も血縁の子供を養子にして育てたし。

 どの男も・・・こう・・・ピンとこないのよねぇ。

 ・・・思えば、ユアヒム・・・というかダーゼルガーンのアバターとも結婚した事なかったな。

 まるで恋の対象から外れている・・・ふーむ。

 


「お? そろそろ始まるんじゃないかな?」

 リコリスが魔法術具をに視線を移す。

 今、私たちが囲んでいるテーブルの上には、一台の映写機が設置されている。別に、ドラムフィルムが取り付けられているわけではない。

 ウィッチの奴が城に設置した何かしらから送信されてくる情報を映像として映し出してくれる装置のようだ。

 そして、今回は臨時の国家大会議が音付きで映し出されている。

「女王陛下の入場ですね」

 アリスリアが言うと、私を含めて全員が映像に意識を向けた。


『じょお~おう~へぇいかのぉお~・・・おぉ~なぁあぁりぃいぃい~~ッ』

 

 ・・・。

「今のは、日本の時代劇かな?」

「そういえば昔に居たよな? 時代劇が好きな勇者」

「そうね。勇者の剣が刀じゃないから嫌だと、駄々をこねたバカ勇者がいたわね」

 懐かしいわ。

 奴自身は・・・えーっと、水道局に務めている技術者だったかな? インフラ整備の一環を担った伝説の勇者様が一人として、今も書物となって歴史に残っている。

「懐かしい限りです。刀は無理です・・・と、お帰り願ったら『それはそれで嫌だ』と面倒くさい方でしたね」

 あ、アリスリアが思い出して苦々しい顔になっている。

「結局、剣を腰に挿して侍のような恰好の服を用意して諸国漫遊とかなんとか、当時は日本の時代劇など知りませんでしたので『なんだ?コイツ?』と実に苛立たしかったです」

「あの無表情の下でそんな事を考えていたの!?」

 仕事一筋の生真面目天使かと思っていたが、内心はやはり思うところがあったわけか。

「ネフェリス様も、当時は悪代官とか言われて斬り殺されかけていたではないですか」

「・・・あ、そういやそうだ! 勇者の旅をバックアップしていた上に、領地は栄えていたっていうのに! あの野郎・・・」

 思い出したら腹立たしくなってきた。


 けれど、それは別に私だけじゃない。


 あの侍気取りの勇者は、魔王再封印のために国の各地を巡りながら、悪代官を懲らしめる正義の・・・まぁ、そんな感じで各町で騒ぎを起こしていた。

 実際に、奴隷売買とかしているヤツが居て、アレのおかげで色々と問題の解決もできたのは事実だ。しかし、それ以上に無害な貴族が謂れもない罪を被せられて領民と摩擦が生じる方が大きかったのよね。

 私も、あの野郎のせいで頭抱えることになったし・・・。

「アレ? 魔王の封印後はどうしたんだっけ?」

「呼び出した手前・・・私が結婚相手として尽くす予定でいましたが・・・時代劇が見たいから帰る。っと、お帰りになりましたよ」

「そういやそうだったわね・・・」

 あの勇者は、本当に貴族連中からは評判が最悪だった。

 水道関連が充実した事は喜ばしかったが、それ以外がクソ過ぎて・・・王女と結婚する前に捕まえて殺してしまいましょう!って貴族らが一致団結していたくらいだし・・・。

 そうそう。帰ったと公式に報告があった時は『全貴族が泣いた(歓喜)』して万歳三唱していたっけね。その万歳三唱は、もっと古い勇者の教えだったか・・・。

『お集りの皆々様・・・女王陛下のご入場でございます。頭が高い!ひ――――』

『もうよいッ!! も、もうよいから、此度の会議は臨時であるぞ? 長々と時間を費やすものではない。 皆、席に座るがよい。さっそくと、臨時国家大会議を始める!!』

 顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするくらいなら、この入場方法はいい加減に見直すべきだろうに。夏と冬の国家大会議とは違って、ここ最近は急激に仕事の量が増加しているから、悠長に優越感を得ていられないのだろう。

 ただでさえ、チート転生者の報告書類を娘たちに押し付けているわけだしな。

 

『では、アイライアよ。緊急案件を皆に伝えよ』

『はい、女王陛下。それでは、本日の会議における進行役を、私、第一王女のアイライアが務めさせていただきます。皆様、どうぞよろしくお願いします』


 ・・・中世から近代にかけての会議ってこんな感じだったかなぁ?

「ねぇ? アリスリア」

「はい? なんでしょう?」

「地球における中世時代ってこんな感じで会議を進めていたんだっけ?」

「・・・いえ、さすがにそこまで細かい事は私も存じておりません。が、この会議は2000年・・・いえ、3000年前の勇者様が教授してくださったものだったかと」

 そうだったか?

 はて? 3000年前の勇者ってどんな奴だったかしらね?

「たしか・・・レベル表示が無いとかバカじゃねぇの?って言っていた奴だった?」

「その頃だと、私はリハビリ中で休職していた頃ですので、報告書を読んだぐらいでしたが・・・担当したのは、今の第三王女である姉さまでしたね」

 そういえばそうだったな・・・。

 日本の平成時代からやって来た奴で、テレビゲーム感覚で滅茶苦茶やってあっさり死んだバカ勇者だったわ。仕方ないので新たに勇者を呼び直したっけね。

「あの頃は酷かったですね。質の悪い勇者ばかりで、5回ぐらい再召喚したと報告にありましたよ」

 今のアリスリアが、当時居ないだけで勇者の質がそこまで落ちるとは、誰も予想もしていなかった頃かぁ・・・。

 大変だったなぁ・・・早く職場復帰してくれ!って毎日のように祈っていたもんなぁ・・・。


『それでは、本日の議題は【異常な行動をしている者たち】でございます』


 本題が始まったか。


『すでに各領地を治めている皆さまには、通達されている事と存じます。今日までに、数多くの報告をいただきましたこと、陛下に代わり、お礼申し上げます。陛下を始め、私たち王族一同で報告書を確認しましたところ、現在、この国で起こっている異常事態は国の平和を守る者全員で共有しておくべき情報であると判断しました。よって、この場にて各領主方々に【異常な行動をしている者たち】に関する情報を改めて報告していただき、この場に集まる貴族皆様で、国の危機に対応していきたいと考えております』


 ふむ。

 まぁ、確かに情報を共有し、国が未曽有の危機に瀕しているという事を自覚してもらうには良い方法であるとは思うけれど・・・。

 女王が爵位を与えた者たちだから、無様を晒すことは無いだろう。

 こうして、臨時の国家大会議は始まった。

 まずは第一国家ハースニングで唯一の公爵家から報告が始まる。


『ダグラウス・コイノーであります。公爵領現領主と務めております』


 おっ! 現代における我が祖父じゃないの・・・見るのは久しぶりだわ。


『先に陛下へとご報告申し上げました『異常な行動をしている者たち』の調査報告にて、まず修正する事がございますので、申し上げます』


 現代の父は、次期公爵として勉強中の身であるけれど、今回の会議では補佐を務めているようだ。ホログラム外から腕が伸びてきて、書類の手渡しを行っている。

 公爵領から上がった報告は、こうだ。

 ある日、公爵領の地方伯爵が管理する地域の村で強盗が入った。

 通報を受けて駆け付けた衛兵が、強盗を見て「動くな!」などのお決まりな言葉を放った。

 これに対して強盗は「俺は勇者だぞ!? NPCの家から金銭などをもらうのは当然だろうがッ!」と怒鳴りながら逆ギレしてきたらしい。

 誰でも思う事だが、衛兵たちは「コイツは、何を言っているんだ?」っとなって困惑したそうだ。地球だって、強盗がこんな事を言い出したら警官が目を丸くして首を傾げてしまうだろうにね。

 そうしていると、強盗は「チートスキル」というこの国の言葉ではない言語で魔法術の詠唱と思われる何かしらを実行し、衛兵の一人・・・その頭が一瞬で沸騰して弾け飛んだという。

 で、魔法術による攻撃を受けたことで、衛兵たちは一目散に撤退した。

 この国では、魔法術による攻撃を受けた場合は魔法術師と合流することが義務付けられている。

 魔法術を使える衛兵もいたりするが、数は圧倒的に少ないための決まり事だ。その場に居合わせた衛兵には、魔法術師がいなかったために素早く撤退できたわけだ。

 そうして、村の十人を避難させて数名の衛兵で強盗を監視することに切り替え、現在は遠巻きにしている・・・という報告書が届いていた。

 

『昨日。私の妻が、この強盗を駆除いたしました。その際、謎の種子が飛び出して来たのですが、コレを超火力の魔法術で一気に焼却したとのこと。事前に知らされていた情報通りでありました。皆様も、処理にはくれぐれもお気を付けください』


 ・・・すげーな。私の祖母ってそんな強いのか。

 超火力で一気に焼却するのも、対処法として大正解だ。もたついていると、根を張って来て寄生されてしまうからな。

「さすがはコイノー家ですね・・・」

「いやはや、さすがは公爵の奥様だね」

 そうだろう? 私の血族だからね。当然よね。

 褒められて嫌な気になることはない・・・のだが、なんか二人はため息を付き始めた。

 意味深な様子に、私は問い詰めてやろうと口を開く・・・が、会議は次に移った。


『アーリデス・ウィーゼクトであります。侯爵領現領主を務めております』


 ウィーゼクト侯爵家は、主に宰相を務めている政治色の強い家柄だったか? 侯爵家では最も格が高い一族で、女王の知恵袋・・・とも言われる優秀な連中だったな。

 まぁ、領主を務めている侯爵様と宰相を務めている者は別だ。現侯爵は次男で、宰相は長男だね。優秀な子が宰相を務めるのが、ウィーゼクト侯爵家の習わしらしい。

 単に女王様の近くで共に仕事ができるという目的しかない連中だけどね。

 

『ハウーマン・テラムズイスであります。侯爵領現領主を務めております』


 テラムズイス侯爵家は物流など経済に関わる連中だったかな? 国庫の管理もやっている一族だったと思う。私が女公爵やっていた時など、予算申請を何度却下されたことか・・・ぶん殴りたい連中だ。

 とはいえ、大昔は商人だったが、当時の女王であるパーラハラーンが貴族に採用したんだと記憶している。金勘定なら信頼していい実績を残しているからね・・・気に入らねぇ。


『ボルドガナ・バンズガンズであります。侯爵領現領主を務めております』


 バンズガンズ侯爵家は、第一国家ハースニングの軍事を司る家柄だ。軍の総大将的な地位に居る。その正体は、生物兵器『魔王』であるハースニングのために用意された依り代の一族だ。

 1000年に一度の復活を円滑に行い、封印を効率的に行えるように用意された一族なので武力に長けているわけだ。

 とはいえ、今代の子息令嬢は問題児ばかりで現侯爵は頭を抱えていると聞く。

 長男は女性に対して暴力的であり、三男は長男とは対照的にナンパで鬱陶しいそうだ。そして末子である長女は他の女性を指さして「ブス」と連呼する上に、美男子には甘い声音で媚びるらしい。

 ・・・どうしてそうなった?って次男のベルドガナこと、今代のハースニングに聞いてみたら「分からない」と、遠い目で諦めた様子だった。

 

 いずれの御三家も、報告内容はほぼ同じ。

 勇者を自称する不審者による犯罪行為に、衛兵では対処できないため魔法術師による対処を行っているが、謎の種子に寄生されてしまった者が新たな『自称勇者』になることで現場ではパニックが起こっているらしい。

 恐怖による混乱だそうだ。

 どの家も、自称勇者はどうにか倒せるらしいのだが、その死体から飛び出してくる種の対処が出来ずに被害は拡大する一方であるそうで・・・。

 現在は結界術などで死体を種ごと閉じ込めて時間稼ぎをしたりする以外に手が無いのだそうだ。

 

 伯爵家以降になると、倒すにしても被害が甚大になるために監視を付けて放置している状況だと言う。

 さらに、別の自称勇者などが現れて、どういうわけか殺し合いをし始める場合もあるのだという。分けが分からないが、激しい戦闘で町が壊滅した所もあるそうだ。

 

 自称勇者の数も次第に増え始めていて、どう対処すればいいのか手詰まりになりつつある。



「この会議で話題になる自称勇者っていうのは、結局なんなんだ?」

 ユアヒム・レーンが訝し気な様子で私たちに問いかけてくる。

 思わずため息を吐いてしまいそうになるが、ウィッチの分身モドキであるリコリスが教えていないと言っていた事を思いだして堪えた。

「ユアヒム。あんたがネルゾイ在住の前伯爵様のお屋敷で手厚い拷問を受けている間に、悪神共による攻撃が始まったって話しよ」

「なに!? なんだってその話を俺にしてくれないんだよ!?」

 リコリスへと振り向きながら、ユアヒムは怒鳴る。

 しかし、リコリスは肩を竦めて返答した。

「だって、ずっと全身が痛いと唸って辛そうにしているんだよ? ちょっと移動中に教えるのも酷でしょう?」

「・・・まぁ、そうだな」

 あっさりと大人しくなった。

 全身に特別製の包帯を巻いて、なお治療が遅々として進んでいない現段階のユアヒム。全身を痛みが襲っているのだろう事は、想像できるが・・・。

「ところで話しは変わるけれど、ユアヒム。あんたはどうしてアルメルデ前伯爵のお屋敷で大人しく拷問を受けていたわけ?」

「え?」

「え?っじゃないだろ。仮に魔法術を遮断する結界術を組まれていたとしても、神の権能を使って脱出することはできたはず。それをせずに拷問を受けていた理由は?」

「ぃや・・・そぉれはその・・・」

 なんで言い淀んでいるんだ?

「言いたくないなら構わないよ。ねぇ? ネフェリスちゃん」

「・・・まぁいいわ」

 ユアヒム・・・いや、ダーゼルガーンが言い淀むということは、何かしらでヤバい奴が相手だったからこそ。というのは予想がつく。

 しかし、アルメルデ前伯爵はこの世界の住人だ。

 パーラハラーンと共に世界を創造したダーゼルガーンのアバターがビビるほどの存在では・・・。

 いや、もしかして私達と同じで別の神がアバターをこの世界に差し込んでいる可能性があるのかもしれない。そして、ダーゼルガーンがビビる相手となれば・・・。

「ネフェリス様。何か思い至る方が居るのやもしれませんが、今は言葉にしないでください」

「・・・アリスリア。あんたも、予想が付いたのかしら?」

「ええ。どうやら、チート転生者だけでなく、我らこの世界を運営する関係者以外の神々が干渉している可能性が出てきましたね」

「悪神共だけでも手をこまねいているところだっつのに・・・」

 それに関しては、本体の方へ連絡を入れて調査してもらうしかないだろう。

 今、私たちにできることは、チート転生者の駆除だ。コレをやらないといけない・・・。

「では、話を戻しましょう。ユアヒム様。最初のご質問である『自称勇者』に関する説明をさせていただきます」

 アリスリアが、事務処理のように現状で起こっている事を説明し始める。

 ダーゼルガーンの対魔王兵器開発計画における地球人の魂を転生させた行為は、悪神連中にも情報が筒抜けだった。

 連中は、ダーゼルガーンがそういう手を使うのなら・・・という事で、地球の日本という国から大量の人間を『チートシード』という神造道具の『種』に込めて持ち出したのである。

 この『種』をこちらの世界に住む人間に植え付けると、正規の手続きなどを必要とすることなく転生を可能としてしまう便利グッズであるばかりか、チート級の特殊能力までゲットできる優れものだった。

 そして種に込めた魂は、いずれも地球にて悪事を働いた人間ばかり。

 こうして、常識なんぞ知るか! 俺こそが常識だ!っと言わんばかりの異常者が「俺は勇者だ!」と自称することで各地に混乱を招き、犯罪が横行している状態となっている。

 さらに、自称勇者とは異なる異常者も確認されている事から、チート転生者の総数は不明。

「加えて、チートシードの転生者にはレア度なるモノがあるそうで、C、R、SR、SSRという区分がされていることも判明しています」

「・・・それ、アレだよな? 地球のガチャってヤツ」

「そう。それ」

 ネルゾイの町で、SRと思われるかなり強いチート転生者と相対した。

 名を・・・名を・・・モモタロウ? 桃・・・もも・・・モモタロウと愉快な畜生共。あの漫才三獣士にぶった切られたのを思い出したら言葉が悪くなってしまったわ。

 アニスニアが久々と歓喜しながら結構ガチでやり合っていた実力者だ。

 ただ、世界観が・・・今更だけど、世界観が・・・く・・・せめて土曜か日曜の朝にしてくれ。

「この準備の良さは見習いたいな」

「そうですね。この手際は見習うべき部分でしょう。胸糞悪いですが・・・」

 そうだ。

 まさかこんな短期間でここまでやられてしまうとは予想もしていなかった。

 これまで同様にアイツらが直接関わってくるなら、超特急でご退場願えるのに・・・新米悪神を雇用して種をばら蒔くとか・・・ちょっとそれ反則ッ!!て叫びたくなる。

 

 一通りの説明を受けて、ユアヒムは気怠そうに話を変えた。

「それはそれとして、ルッタの現状はどうだ?」

「渡した書類に書いてある通りだよ?」

「そう言うけどな・・・書類に目を通すのも辛いんだよ。簡潔に現状を教えてくれ」

 確かに、椅子に座っているとはいえ、辛そうな様子だ。

 書類とにらめっこしている時も、視界がぼやけていたりするようで、何度も目の焦点を合わせようとしていたようだし・・・。

「仕方ないね。その説明は私がしてあげよう」

 リコリスがそう言うと、ユアヒムに渡していた書類を回収しながら語り始めた。

「前にも君に教えたけれど、彼・・・ルッタ・レノーダ君は無事に第一階層に到達したよ。アライラーちゃんと協力してギリギリでね」

 第一階層へと降りる最初の難関・・・洞窟迷宮か。

 私が持ち込んだ私たちでもさほど苦戦することなく倒せる雑魚が詰め込まれたエリアだったはずだが・・・改めてもらった書類を確認した時に度肝を抜かれた。

 私が持ち込んだ時よりも遥かに強くなっているのだ。

「ギリギリ? 最初の洞窟迷宮は、ネフェルマリーが持ち込んだ最初期の異世界モンスターで、どれも嫌がらせ用のザコだったはずだろ?」

「当初はそうだったんだけど、【神殺しの獣】の存在・・・かのバグに影響されて進化・・・まではいかずともバグ成長しているんだよ」

「・・・バグ成長?」

「そう。いわば限界突破? レベル上限バグ解放? 数値で示されないこの世界では、いずれも正解となる表現ではないけれど、例えとしてはその辺りが適当になるよ」

「つまり、アレか? 俺が調整したルッタでは歯が立たないとか・・・あったり?」

「歯が立たないどころか何かされても気づかないレベルで雑魚だったよ。ルッタ君」

「・・・」

「あ、でも安心してね? 君が思い付きで計画にねじ込んだアライラーちゃんのおかげで、何とかなったから」

「・・・アライラー?」

「ほら、君が地球で彼を事故死させる前に巻き込んだ子だよ」

「あー、あのデブッ子か? 俺の計算では、アレがルッタの前に居るはずじゃなかったんだぞ・・・」

「その話は、また別の機会にね。それより、君が急遽組み込んだその女の子が、大活躍してくれたって話し」

「え? アレ、そんなに活躍したの?」

「そうとも。予定通りに【麒麟】に処理させようとしたらしいんだけど、降りて来たルッタ君を見たウィッチが大慌てで雷撃のチャージを中断させたぐらいには、焦ったって愚痴っていたよ」

 おいおい。マジかよ・・・。

「でもね? すでに雷撃のチャージは少なからず行われていたから、チャージ済みの分を撃ちだしたんだってさ」

「で? どうなった?」

「ルッタ君の機転で、どうにか凌ぎ切ったらしい。結構ギリギリだったけど、あの一瞬が、魔女として生きて来た中で一番心臓に悪い時間だったそうだ。あっはっはっは」

 そりゃそうだ。

 計画が本格的に始まった瞬間に「はい。終了」となりかねない事態だったわけだからな。

 地球でも似たような事は多くあった。新企画!と銘打ったイベントの開催を告知しておいて、イベント当日に中止になります。と、張り紙が更新されていたりな。

「君の事だから、ハースニングに及ばなくとも、ある程度の性能で仕上がっている子を寄越してくると信じていたら、コレだもんね」

 そう言って、報告書に記されたルッタ・レノーダの能力を数値化した情報のページを指で示す。

 このページを維持しつつ、ユアヒムに渡した。

「おい、ちょっと待ってくれ。ここまで数値が低いのか!?」

「分かっててやったんじゃないの?」

「いいや、地球からこっちに持ち込んだ際はもっと能力値は高かった! 少なくとも、二歳児の時点でアルメルデ前伯爵家に侵入した賊は返り討ちにしていたんだぞ!?」

「えー? 嘘だー」

「いやいや、マジだって!・・・ぅん? 生命力と耐久力が俺の設定値より上昇している・・・なのに、身体能力が人間並み? そんなバカな・・・」

 ・・・だとすると、考えられるのは一つだけだろうな。

「それ、ルッタ・レノーダが超人にバグ進化しているからじゃない?」

「は?」

「ほら、そのページの一番上に書かれているでしょう? 解析結果に超人種。ってさ」

「あ、ホントだ・・・超人種? なんだそれ?」

 ユアヒムが素で困惑している。

 という事は、コレはガチで起こった想定外の事態。

「マズいですね。ユアヒム様が狙ってやった事ではないのだとすれば・・・」

「そうね・・・人間でもバグ進化が起きるという可能性が出てきてしまったわけね」

 まだ可能性の段階だ。

 事例が一人。では、断定するには早すぎる・・・が、楽観していられる状況ではなくなった事だけは確かで・・・早急に情報を集めて検証していく必要が出てきた。

 ・・・仕事が増えていくんだけどッ!?

「まさか、ただでさえ過重労働だというのに、超最優先事項が唐突に突き刺さってくるなど、いかに私でもそろそろ血反吐を噴き出してしまいそうなのですが?」

 アリスリアが顔を青ざめさせながら言う。

 ただでさえアリスリアとアニスニアの面倒を見ている中で、今後は国を巡ってチート転生者狩りをすることになりそうだというのに・・・まずは何から片付けて行けばいいんだっつの。

「そう言う事なら、人間のバグ進化に関する情報の収集と検証は私とユアヒム君で引き受けよう」

 リコリスが宣言すると同時に、ユアヒムが「えぇ!?」と驚いている。

「・・・君ね? ルッタ君をこの世界に転生させたのは君の本体なのだから、彼に関する事は責任を持って片付けて行かなければいけないでしょう?」

「そ、そうかもしれないが・・・」

「はい! では私たちは【人間のバグ進化】案件を担当するってことで♪」

 手を叩いて楽しそうに仕事を引き受けたリコリス。

 一見すれば、率先して仕事を引き受けてくれた。と解釈できるが・・・チート転生者狩りを手伝わせることが出来なくなったという事実を理解して拳を握ってしまった。

 抜け目ない奴・・・。

「では、当初の予定通り・・・ネフェリス様とアニスニアで―――」



 きゃぁあーぁッ



 窓の外から悲鳴が聞こえてくる。

「・・・なにかな?」

 リコリスが部屋の窓から外を覗き見ると、顔色を変えた。

「アリスリア様? どうやら、事件が発生しているようですよ」

「そう・・・ですか。仕方ありませんね。ネフェリス様、すぐに対応してください。私は王城に置いて来た使い魔を通して、アニスニアを呼び出しますので」

 あー、はいはい。

 そうですか・・・そういうことですか・・・チート転生者案件ですかー。

「仕方ないな・・・ちょっと行ってくる」

「くれぐれも油断の無きように・・・」

「分かっているけど、この前みたいな芸人系が出てきたら・・・ちょっと無理かも」

 大丈夫、同じ失敗は繰り返したりしないわ!って言えたらカッコいいんだけどさー。

 ムリムリ。

 今日までに何回同じ失敗してんだか、自分でも数え切れんわ。

 恥ずかしい事に、対策を立ててもこうして悪神にいいようにされている以上、大丈夫と言えないわ。

「アニスニアと合流後、すぐに援護しますから」

「なるべく早くね!」

 

 ▽


「だからー、この人が絡んできたから仕方なかったんですって」

「仕方なくで、人殺しが正当化されるわけないだろう!」

 私がノルトラン商会の建物より出て、人が遠巻きながらも集まっている地点まで駆け寄ってみると、野次馬の向こう側には東洋人の青年と衛兵が居た。

 東洋人・・・この世界で東洋人という括りをするならば、第五国家ズイシュンの東地方に住まう民族と、第六国家アメツぐらいだ。

 第五国家と第六国家は別の神が管理する追加陸島なので、第五国家の東洋人と第六国家の東洋人には血の繋がりとかルーツとかそういうのは存在しない。

 そして、あの男はそのどちらにも通じない。


「・・・日本人か!?」


 私は確証の無い推測を確信を持って判断する。

 あの男は、純粋な日本人で間違いない。異世界に転生するのではなく、転移してきたというのか?

「はー・・・ついてないなー。暇つぶしでこっち側の観光をしていただけなのにさ」

「ええい! 詳しい話は場所を変えて聞かせてもらうぞ!」

 衛兵が、東洋人の男を連行するために手錠を取り出す。

 しかし、東洋人の男は「面倒くさい」という顔で指を鳴らした。その瞬間に、私は飛び込む。

「どぉおりゃぁあッ!!」

 気合を込めて、衛兵が取り出した手錠を殴りつけ、同時に衛兵の身体を蹴飛ばして手錠から離しつつ、私も飛び退いた。

 と、手錠が閃光を放って得体の知れないエネルギーの刃を手錠の形に放出した。

 その範囲は、衛兵を呑み込むぐらいの小さな範囲だが・・・地面が割れているところを見ると、範囲内であれば切断されていただろう。

「い、いきなり―――」

「私はネフェリス・コイノーだッ! 死にたくなければ野次馬共を避難させつつ撤退しなさい!!」

 私に怒鳴りつけようとしてきた衛兵を、逆に怒鳴りつけてやる。

 するとどうだ?


「こ、コイノー?」

「コイノー公爵令嬢様だ!」

「逃げろ! 巻き添えくらって大怪我するぞ!!」

「俺! 家財を取ってくる!」

「バカ止せ! 死にたいのか!!」

「かーちゃんの形見だけでも!!」

「くそ! 手伝うから早く済ませるんだよ!!」


 ・・・なんで私が来ると、だいたいこういう反応が帰ってくるんだよぉ。

 アニスニアが暴れるのが原因であって、私が破壊しているわけじゃないんだぞぉお!! 見ろよ! この私を!! 幼気な美少女でしょうが!! 破壊の女神じゃねぇーんだよ!!

「・・・ふーん」

 背筋にゾワッとする視線を受け、私は日本人を見た。

「こんにちは。僕、異世界に転生した日本人だよ」

「日本人? 転生したなら、日本人はオカシイわ。第五国家ズイシュンの東方人か、第六国家アメツの極東人。と、呼ばれるんだけど?」

 とぼけているのか? それとも知らないのか?

 それを確かめるための質問をしてみたのだけれども・・・。

「ふーん。日本人を知っているのか・・・御伽噺も同然の勇者伝説に、日本人の記述はあるけど・・・その反応は、直に知っている感じだね?」

 ・・・こいつ、頭いいわ。

「だとすれば、可能性は二つ・・・君が僕と同じチートシードを用いてこの異世界に転生した日本人である・・・もしくは、僕を転生させた神が言う悪い神の手先か」

「おまえが手先だから! 私は良いもんの神側よ!」

「そっか。それならそれでいいよ。俺も、俺を転生させた神が善だなんて思ってないし・・・」

「そうなの?」

「ああ。あの神には、僕と共通するモノがあった。そんなモノを持つ神が、善であるわけがないからね」

 ・・・なんの事だろうか?

 もう少し、話を聞いてみるか?

「どうして、そのおっさんを殺したわけ?」

「ん? あぁ、不幸な事件さ。暇つぶしに、こちら側の地区にある食事処を観光していたらさ? このおっさんが俺に絡んできたんだよ。テメェは、ズイシュンか? アメツか?ってね」

「で?」

「ちょうど暇つぶし中だったし、ウザいからさ。殺したんだ。手っ取り早い解決法さ」

「やめてくださいとか、話し合いで解決できただろうに」

「ムリムリ。それこそムリムダムチムチャだよ」

「なんでかしら?」

「人間だよ? 人間相手に話し合いなんて、暇つぶしにすることじゃないよ。どうせなんの解決にもなりはしないんだから、とっとと殺して黙らせてしまった方が賢明だ」

 コイツ・・・アレ? コイツの考えた方は・・・。

 いや、殺戮の女神ルキスロッコの手先かと思ったが、コイツは・・・違う。

「でも、そういう事を言うってことは、君は話しをするだけで終わりにしてくれるのかな?」

「生憎・・・チートシードで転生した奴は、駆除対象なのよね」

「あっはっはっはっは!!」

 男は笑う。

 それはもう、可笑しいと。

 しかし、その眼に浮かぶ色は空っぽで、何一つとして笑っていない。

「・・・参考までに、あんたを転生させた神の名は?」

「うん? 僕を転生させた神は、女神ルキスとか名乗っていたけれど?」

 モモタロウと同じ・・・か?

「男と女、どっちだった?」

「声で判断するなら、男だったかな」

 ・・・そうか、マズいな。

 私が敵対している悪神は5人いる。

 今回のチートシードによる一連の転生者たちは、その性質から殺戮の女神ルキスロッコが主だって行っているだろうと予想はしていたが・・・。

 この日本人は、ルキスロッコとは別の神によって選定された人間だと確信する。

 なぜなら、殺すことに執着していないからだ。

 前にネルゾイで一戦交えたモモタロウ少年も、最終的には相手を殺すことが目的て動いていた。が、コイツにはそれが感じられない。

 そして、この日本人によく似た思考をする男神が一人いる。 


 かの男神は、やることなすことに目的が無く。

 気の向くまま、欲の求めるまま、ただ意識が進むことをやって、そして最後はすべてを捨ててどこかへ消える最悪の神。

 地球の最高神を含む最高神たちがもっとも警戒している悪の最上位神。

 最高神の位ではないが、もっとも最高神に近い上位神である。


 ・・・だが、まだ確証がない。

 

 私は、直感と反射で横っ飛びをしつつ地面に肩をぶつけて回転し、即座に飛び上がって建物の中へと飛び込んだ。

「うん。いい反応だね」

 日本人の男は、そう褒めてくれる。

 しかし、私はちっとも嬉しくない。

「くそ! 殺気も意識も一切向けずに放つ技があるのかよ!!」

 自分の、切断されて欠損した右足の中指から踝辺りまでが無くなっているのを確認しつつ悪態をつく。むしろ、あそこで動けなかったら死んでいたわ。

 だが、これで確信した。

 一切の気配を発することなく、相手を殺す技を放つ。

 こういった技は殺戮の女神ルキスロッコでは、まずありえない思考パターンだ。アレは殺すことが大好きだから、殺気も殺意も隠さず放ってくる。

 しかし、空の男神は違う。

 そういった気配を一切放たない。

 いわゆる無造作に行動をする神なのが、ヤツの特徴だ。

 だが、私は今日まで連中と幾度も戦っている。その経験から来る直感と、条件から来る反射が、私に回避行動をさせてくれた。

 ええい、以前までの私なら完璧に回避できたが、今の私ではムリだ。

「じゃ、次はどうかな?」

 声が、頭上から聞こえてくる。

 私は振り向くよりも先に、建物の壁を蹴り壊していた。

「おっと」

 そんな呑気な声を聞きつつ、私は身体を捻りながら魔力を拳に込めて虚空を殴りつけつつ、床を滑るように建物から脱出して即座に地面へと寝転がりながら身を小さくして起き上がる。

「ほら、忘れ物」

 そう言って投げてよこした物は、私の左腕だった。

「うん。凄い凄い・・・ここまで僕の攻撃を避けた子は君が初めてだよ。凄いね。偉いね」

 一切の感情が籠っていない空っぽの誉め言葉。

 だと言うのに、それは実体験から来る感情の困った誉め言葉に聞こえてくるから、耳がオカシイと思える。

 いつ、肩からバッサリと切断されていたのだろうか・・・。

 ネルゾイに居たモモタロウ少年よりも、遥かにヤバい奴が目の前に現れたな・・・こいつがSSRとみて間違いないだろう。

「ふーん・・・ま、だいたい分かったし、これでおしまいだね」


「いい加減にしてくださいよ」


 私の全身にかかる得体の知れないエネルギーが、そして取り払われると・・・全身をローブで包んだ小さな・・・ぅん?

 その左腕に、ウナギのかば焼きが山盛りになった丼を抱えている。

 その右手には、お玉のように大きなスプーンが握られている。

「おいこらアニスニア。あんた何してんだコラッ!!」

「アレ!? ネフェリスさんじゃないですか!? 酔っぱらいの喧嘩じゃないんです!?」

 この状況を酔っぱらいの喧嘩と解釈するお前の両目は節穴かッ!?

 って怒鳴りたいけれど、まさにヒーローのようなタイミングでの登場に、ちょっとトキメキを感じてしまった自分が居るせいで、怒鳴れなかった。悔しい。

「どちらさま?」

 男の問いに、アニスニアは素直に答えた。

「第一国家ハースニングの第四王女!・・・四女だから第四王女でいいんですよね?」

「そうよ」

「第四王女のアニスニアですよ!」

「そうか。君はバカなんだね?」

「よく言われます! 元気があって、可愛いねッ!とも!」

「ふーん・・・暇つぶしで相手するのは面倒そうだ」

「面倒と思うなら暴れないでください! 私は今から美味しいご飯を食べようっていただきます!の直前だったのですよ!」

「そうなのかい? それは悪かったね。ごめん」

「ならばよし! ささ、お帰りくださいな。ご飯の邪魔です」

「ちなみに、何を食べようとしているんだい?」

「興味がありますか? いいでしょう。この王都でしか食べられない素晴らしい丼料理!」

 左腕で抱えている丼を器用に手の平へと移動させて、翳すように突き出した。

「その名を『うな充丼』です!!」

 ・・・うな重丼?

「うな重丼・・・」

「おっと! 違いますよ!? うなぎが充実していて充足していて絶品丼なのです!」

 あー、確かに山盛りのウナギが特徴的ではあるな・・・。

「まさにうな充を求める者が求めて止まない逸品です! これを食べずして何を食べるか旅人よ!」

「・・・ここから北地区には、絶品料理を食べられる高級レストランがあると聞いたけど?」

「あー、あそこですかー・・・ダメダメですよ。あんな切れ端のような肉を皿にちょこっと乗せただけのしょうもない料理など食べる価値もありません。フォークとナイフで気取ったところで、私のお腹は幸せを得られないのです」

 ・・・おいおい。高級食材をふんだんに使った王都でも指折りの高級料理を扱う店の料理になんてことを・・・。

「そもそも、王城で出される料理も美味しいですが量が無さ過ぎて不満なのです! 王女だからとなんでチョコチョコとチョコレートでもない料理をちょこっと食べないといけないのですか!?」

 不満が溜まっていたのか・・・。

 そりゃまぁ、王女がガツガツと掻きこむように食べるのは許されない時代背景だしさ・・・。

「真に美味しい料理とは! 尊さと美味しさと心楽しさが揃っていなければ、美味には至らないのですよ!」

 アレ? 愛しさと切なさと心・・・うッ頭が・・・なんだ今のフレーズ? 頭痛が痛いんだが?

「つまりは! この丼なのです! 美味しいですから、ぜひぜひあなたも食べるといいですよ!」

「それは、どこで食べられるんだい?」

「月食亭という料理屋さんです」

「ちょっと、地図で場所を教えて欲しいんだけど」

「仕方ありませんね」

 男が地図を取り出すと、地図を広げながらアニスニアに歩み寄ってくる。

 さすがに奇襲を狙うにはあからさま過ぎるから、私はアニスニアに注意するよう促すか迷った。

 しかし、アニスニアは丼を抱え直して広げられた地図を覗き込む。

「おまえーぇ! 少しは警戒をしろ!!」

 思わず怒鳴ってしまったが、アニスニアも男も私の言葉を無視してきた。

「あ、ここです。このお店で注文すれば食べられますよ」

「なるほど。ありがとう。あとで寄ってみるとするよ」

「それがいいでしょう。美味しいご飯は誰でも幸せを実感できますからね!」

「じゃあ、僕はもう行くよ」

「はい。お達者でー」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・なんで手を振りながら見送ってんの!?

「あ、アニスニア!? なんで逃がしてんの!?」

「え? いえ、あの人弱いけど強いので、戦うと『うな充丼』を取り落としてしまうかもですから」

「・・・弱いけど、強い?」

「はい。アレはいわゆる幻影? 分身? ドッペルゲンガー? えーっと、なんていうのが正解でしょう?」

「本物じゃないってこと?」

「そうです。アレは本物じゃないです。たぶん、本物が暇つぶしでテキトーに用意した何かしらの何者ではないかと思います」

 ・・・そうか、日本人の風体をしていたのはこの世界に転生した奴が作り出した分身のようなモノで、その姿が転生前の姿だったというだけか。

 そう言えば、あいつは今までのヤツと違って「チートスキル」という技の発動前に発していた詠唱を行っていなかった。

 つまり、スキルが最初から発動していた。

「あのままやり合っても、決着にはなりませんしー。ご飯が冷めてしまうのでととっと終わるならそれに越した事も無いかと思いましてー」

「いや、さすが戦闘好きだわ・・・私はまるで気づかなかった」

「むふー。そもそも、あの人はモモタロウさんのように鍛えてもいません。ポンッとチートスキルを手に入れて、ポポンッと強くなったタイプですね。弱いんですが、強いんですよ」

 そういう意味か。

「戦うだけ無駄ですからね。私はご飯を食べにお店に戻りますね」


「いいえ、アニスニアにも付き合ってもらいますよ」


 そんな冷たい声音が聞こえると、宙に浮かぶ幼女がこちらに近寄ってくる。

「・・・あー」

 アニスニアが顔を青くしてすり足で後退していた。

「城で待機するように、陛下から命を受けていたというのに・・・こんなところで何をしているんですか? アニスニア姉さま?」

「あー、やー、まー・・・パトロールです!」

「減給半年で手を打ちましょう」

「まーッ!? ぎゃわーッ!!!」



▽北地区にある高級料理店近辺▽



 普段であれば、営業中の高級レストランは明かりが消えていた。

 窓には血しぶきのような汚れが飛び散っており、その異様な雰囲気によって立ち寄ろうとしていた貴族か商人は足を止める。

 ここに入るためには、正装をする必要がある。

 身分の低い者が紛れ込んで来ないようにするためだ。

「こんばんは」

 僕は、閉店の札も出ていない暗い店内へと入る。

「店じまいですよ」

 静かな声音が、そうして店内に響く。

 嗅ぎ慣れた血の臭いと、至る所に飛び散っている肉片。

「癇癪でも起こしたのかな?」

「そうだね。ついつい・・・なんせ、ここは僕のような平民が来る店ではないそうだ。それを最初に教えてもらえなかったからね。ついつい。ね?」

 高級を謳い文句にする店では割とありがちな事だが、身の程知らずを晒し物にする場合がある。

 彼も、そういう扱いを受けていたということか。

「せっかく、席が空くまで店の外で待っていたというのに、実は平民お断りだって・・・ふふ。愉快な話だよね?」

「そうだね」

 僕から言えることはそれぐらいだ。

 バンズガンズ家の次男として、兄がやらかした事件のために冷遇されていた時もあったから、彼の気持ちを理解できないわけではない。

 しかし、これは酷いな。

「客ごと?」

「そうだね。僕を笑いものにしていたから、無差別いいかな?って」

 ・・・。

 ・・・・・・違うな。

「面倒だったんだろう? 殺す相手と見逃す相手を分けるのが」

「うん。そうだよ」

 ・・・なるほど、ネフェリスが苦戦するわけだ。

「君のチートスキルで、痛めつけたメイド少女は分かるかな?」

「あー、第四王女ちゃんに助けられていたメイドちゃんかな? あの子はそこそこ強かったね。暇つぶしにはちょうどいい感じだった」

「では、第四王女様はどうだったかな?」

「・・・暇つぶしで相手する子じゃないね。僕が相手する子じゃないよ」

 暇つぶし・・・か。

「なら、僕の相手はどうかな?」

「・・・暇つぶしで相手するのは、嫌だね」

「それはよかった」


 次の瞬間、僕の放った魔法術で店は爆発四散する。


「チートスキル! 暇をつぶしたいだけなんだけど!?」

「風の理に我が力を以て命ずる!」

 僕が放つ技と男の放つ技がぶつかると、再び真空の刃が周囲へと飛び散って、周辺の建造物が次々に損壊していく。

 しかし、すでにこの場は衛兵による避難が完了しているので気にすることではない。

 それよりも、ネフェリスの右足と左腕を欠損させたヤツの技を警戒するのが先決だ。彼女とて弱いわけではないが、あのように一方的な戦闘になるのは早々無いことだ。

 今代の彼女は、どうやら新機能とやらを搭載しているせいで今までより弱体化しているらしいが。

「はぁ・・・やっぱり暇つぶしで相手するヤツじゃないな・・・もうやめない?」

「そうはいかない。君を含め、チートシードの転生者は世の理を大きく狂わせる存在だ。ここで倒させてもらう」

「えー・・・面倒くさいなぁ・・・暇つぶしは腰を据えてやるモノじゃないんだけどなぁ」

 ・・・暇つぶしね。

「君は、暇つぶしで人を殺すのか?」

「いや? 別に暇つぶしになれば何でも構いやしないよ?」

 どうにも、よく分からない子だな。

「だって暇つぶしだもの。片手間で出来ることなら何でもいいよ。読書だっていいし、散歩だっていい、人殺しもその内さ」

「なら、読書なり散歩なりすればいいじゃないか?」

「うーん・・・その通りなんだけどねぇ・・・僕は、まだ転生したばかりでいろいろと見て回りたいんだよね。観光がしたいんだ。この世界、まずはこの国からね」

 その途中で、邪魔が入ったから・・・か。

 僕が居た世界でも、同様の考えで人殺しをするヤツは居たが・・・この少年はそれ以上に危険だな。

「というわけで、僕は第四王女ちゃんに教えてもらったお店に行くよ」

「残念だけど、ここで退場願おう」

 睨み合う。

 

「チートスキル。暇つぶしの邪魔をしないでくれ!」

「魔の先達に敬意を以て、借り受ける!」


 生物兵器『魔王』

 そんな肩書を二人の神によって与えられてしまった僕は、魔王として封印されている現在では全力を発揮することはできない。

 それでも、この世界で活動するために用意された依り代は完成度が高い。

 僕が、魔王となる前に戦い続けていた魔族の軍勢。

 人間を超越する圧倒的力を持つ種族の能力は、人類最強と持ち上げられていた僕でも何度死にかける思いをしたことか。

「魔将軍、ガルンダラド・スキル!!」

 高密度に練り上げた魔力を以て、彼のチートスキルを薙ぎ払う。

 そうして、僕は技を彼に放ち返す。

「カタフェイケルユァーズ!!」

 それは巨大な斧。

 それは大地を砕く破壊の一撃。

 かの一撃は人類の軍勢を砕けた大地の底へ誘い、命を土に還す絶望の一瞬。

「ぁああ、もぉおーッ!!」

 一撃を命中させる必要はない。

 ただ地面に叩きつけるだけでいい。

 彼は苛立たしいという感情を隠すこともせずにバックステップで僕から離れていくが、この一撃はその程度では回避できる技ではない。

 バックステップの着地と同時に足場は砕けて沈み、彼を土の底へと誘うように呑み込んでいく。

「だからさー? 暇つぶしでやることじゃないからやめてよね?」

 その声は、僕の後ろで響く。

 即座に、斧を後方へと振るうことで、彼からの反撃を防いだ。

 そこから、少年は欠伸をかみ殺すようにしつつ歩いて距離を開けてくる。

「とりあえず、僕は観光の続きをするよ」

「させるわけには行かないんだよね」

「・・・どうしても?」

「そうとも」


「はぁ・・・仕方ないなぁ」

「魔の先達に敬意を以て、借り受ける!」


「魔将師、ナイアケェレル・スキル!!」

 この輝きは光。

 すべてを砂よりも細かな粒に分解する輝き。

 命を呑み込み、空へと還し、煌めきと共に天へと消える儚い灯。

「ア・カーナベラフォルレン」

 光は、かの少年を包み込んだ。

 人影が光に呑まれて崩れていくと、空へと昇る輝き共に消滅していく。・・・はずだった。

「ま、こんなもんだよね」

 そんな事を言われたのは、初めてだ・・・宮廷魔法術師として放てる最強技の一つなんだけども。

 しかし、あの技を受けて無傷というのが信じがたい。

「これ以上は暇つぶしにならないから、これで終わりにしておくよ」

 そう言うと、少年の身体が世界と同化するようにフェードアウトしていく。

「・・・まさか」

「そう。チートスキル・アルティメット『I Want to Kill Time』って技なんだ」

 初めから、ここに・・・いや、この王都に本体は居なかったということか。

「バイバイ。また気が向いたら遊びの来るからさ」

「来なくていいよ」

「あっはっはっはっは!」

 

 そうして、少年は消えたのだった。



▽王城▽



 暇つぶしにならないからと、あっさり引き下がるとは・・・。

「以上が、ベルドガナ様からの報告と私のグミヤモリが記録した戦闘映像です」

 アリスリアの報告が終わると、女王アルファニアは頭痛に悩まされているように片手を頭に添える。

 ここは、王族専用の会議室。

 ウィッチから対魔王兵器開発計画の報告を受けた場所。

 今、ベルドガナ・バンズガンズから直接の報告を受け取って、私たちは「なんてこった」と項垂れている。

「ローゼルザーンよ」

「は、はい!?」

 今はアリスリアの侍女として雇い入れたローゼルザーンもこの場には居る。

 それは、チートシードに関する情報を少なからず持っているからに他ならない。

「この少年が、チートシードのSSRというランクで間違いないか?」

「・・・え? いや、私には分かりません。そういうレアリティがあるって話しは説明されていますけど、引き当てたわけじゃないし」

 アルファニアは「つかえねぇ・・・」と愚痴を呟いている。が、ローゼルザーンには聞こえていない。

「まぁ、落ち着けよ女王陛下さまー」

「フルボッコにされたネフェリスちゃんが何か言ってますねー」

 ・・・。

 ・・・。

「やんのかコラぁ!!?」

「どんだけ弱いか、私が確かめてやんよ!!」

 売り言葉に買い言葉。

 しかし、手拍子が響いたことで私たちは止まる。

「はいはい。苛立たしいから発散したい気持ちは分かるけれど、今はその時でもないでしょう?」

 ウィッチが・・・リコリスではない。本物のウィッチが、仲裁してくれる。

 そして、本題に移る。

「なるほどね・・・魔王ほどの力はないようだけど、神々のアバター相手なら十分に戦えるチート転生者が出てきたわけだ」

「そうですね。本体の方で解析を掛けてもらいましたが、能力値が異様に高いです。素体が当世界の人間とは思えないですね」

 アリスリアの言葉に、連中が作ったチートシードが相当にヤバい物だと再認識された。

 こうなってしまうと対応できる者は相当に限られてしまう。

 各地方に対処を任せるのは無理だろう・・・ってことで、私はアニスニアと一緒に国を巡ることになりそうだな。

「ここまでアッサリと引く判断能力は、大したものです。勇者を自称している相手ばかりかと思いましたが、ランクが高くなると文字通り『格』が違っているようですね」

「正直、何を考えているのか分からないのが不気味過ぎたわ」

 暇つぶしの事しか考えていないように思うが・・・アレはもっと違う事を考えているようにも思える。

「ああいう手合いが、他にも出てくるとすれば・・・」

 アリスリアがアルファニアを見ると、会議室にいる全員が視線を向ける。

「・・・こうなれば、アニスニアを各領地へと派遣して、チート転生者を駆除させるしかないだろう」

 女王モードの口調で、アルファニアは告げる。

「それと、アニスニアだけでは手が足りない。ウィッチよ。報酬はお支払いする・・・だから、あなたにも国を巡ってもらい、チート転生者の駆除を手伝ってもらいたい」

「構わないよ。まずは手付金って感じで前払い分をいただこうか? その方が私も契約を違えないように働けるというモノだ」

「分かった。それに関しては日を改めよう。報酬を用意せねばならないからな」

「承知しました。女王陛下」

 そして、今度は私を見てくる。

「さて、ネフェリス。アニスニア一人では制御が効かないのは知っての通りだな?」

「分かってますよぉ」

 嫌だけど、こればっかりは仕方ない。

「とはいえ、ネフェリスだけでもアニスニアは御せないことも分かっている。よって、アリスリアも同行させよう」


「えッ!!?」

 

 皆の視線がアリスリアに向いた。

 あの子は、素っ頓狂な声を上げて驚くことが少ないため、コレは貴重な顔と声になる。

「お、お待ちください。そうなると、書類仕事の人手が足らなくなるのでは?」

「・・・大変悩ましい話だが、私と娘たち三人・・・加えて文官を使う事にする」

 なに!?

 あのサボり魔であるパーラハラーンが仕事をやるだと!?

「この状況だ。優先するべきは国の安定・・・くっそ嫌だけど・・・おっほん・・・女王としての責務を全うするのみよ」

 ・・・本音が隠せないぐらい嫌なんだな。

「しかし、陛下? 私とアニスニア。それとネフェリス様だけでは子供だらけで外に出るなど外聞が悪くなりますよ?」

「民には、そなたたちが化け物と知れているがな・・・確かに三歳児、五歳児、九歳の侍女見習いだけと書き出して見ると体裁が悪い」

 ホントにな。

「形だけで構わぬ。先のネルゾイ視察と同様に近衛騎士を同行させよう。娘たちの近衛騎士たちからそれぞれ同数のベテランと新人を選抜し、護衛部隊を編成することとする」

「それと、私たちの保護者枠はどうされるのですか?」

「・・・ふむ」

 そう。

 一番の問題は、立場がしっかりとしている保護者枠だろう。

 前の時は宮廷魔法術師のベルドガナだったが、今回はどうするのか? 書類仕事がある以上、王女三姉妹を付けるなどできないだろうし・・・。

「あー、そういえば・・・侍女統括長が退職願を提出していたな・・・」

 ・・・え!?

「ちょ、ちょっと・・・」

「うん。彼女に命ずるとしよう。国内一周旅行もできる上に、近衛騎士による護衛付きだ。きっと良き思い出となるだろう」

 ・・・Oh。

 なんか、ごめんなさい・・・侍女統括長・・・マジ、ごめん。



 そうして・・・。



 後日、侍女統括長は女王陛下の命令書を読んで、白目を剥いて倒れたそうだ。

 ・・・とりあえず、お見舞いで健康食品を送っておいた。




 

次回は、本編の続きで『北の谷へ再度チャレンジ』となります。



〔壺外編〕の次もこれから考えて行こうと思いますが、こちらはどうか気長にお待ちいただければと思います。

できる限り、早く更新したいと思っていますが・・・がんばります。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ