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30/59

30 いいんじゃない?

 こんにちは。こんばんは。

 ふと気が付いたら、初投稿から一年が経過していたようです。

 私は当初、一年あれば第一階層は終わるだろうと思っていたのですが・・・改めて物語を作る難しさを実感しました。


 今後とも、細々?と書いて行きたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。


 今回のお話は、『北の谷』へ行く前段階となります。

 最後までお楽しみいただけたら、幸いです。


 目が覚めると、見知らぬ天井だった。

 久しぶりの見知らぬ天井に、なんとなく感動している自分がいる。

 体を起こして周囲を見回してみると、前世・・・日本のテレビ特集で見たことのあるモンゴル遊牧民が使っていたとされるテントに似た雰囲気をしている。

 ・・・テントなのかな?

 中央には太い木の柱が建っており、傘の骨組みを思わせる形で屋根が支えられている。そして、床には動物の毛皮がいくつも重ねられて絨毯のように敷き詰められている様で、毛皮の掛布団はとても暖かい。

 壁際にはタンスと思われる家具などが見られるが、テーブルなどの家具は見当たらない。

「おや? 起きたようね」

 テントの入り口が開き、マリーさんが入ってくる。と、俺を見て微笑んだ。

「おはようございます。俺、何日ぐらい寝てましたか?」

 また二週間とか経過していたらどうしようか・・・。

「ま、二日ぐらいね」


 二日。そっか、二日か・・・結構派手に倒れたような気もするけれど、二日で回復できたのか。良かった・・・とも素直に思えないな。

 なんだか自分が異様におかしくなっているように思う。

「何か、異常が発生しているのかしら?」

「え? あ、いえ・・・二日で起きられて、良かったなーって思いまして」

「そう? 何か身体に異常があるようなら、言いなさい」

「はい」

 マリーさんが優し気な笑顔を見せてくれる。

 それが、今の俺にとってはとても嬉しくて、安心できるものだ。まぁ、前世の母や叔母にどことなく似ている人だからなのかもしれない。

 顔は思い出せなくても、雰囲気に似通ったところがあるからだろうな。

「動けるようであれば、こちらに来なさい」

 促され、俺は立ち上がってマリーさんの傍まで移動する。

「靴はそこにあるわ」

 指で指し示され、俺はただ指示に従う様に靴を履く

「あの、ここって以前仰っていた『北の谷』へ向かう中継地の集落でいいんですか?」

「そうね。バンダーガーとの戦闘は私も想定していなかったけれど、よくがんばったわ」

 褒められて、ちょっと嬉しい。

「まッ、アライラーがノットンのライブ会場に落ちたりしなければ、襲われることも無かったのだけれど」

「は?」

 どういうことだろうか?

「いやね? 大道人・アライラーで調子に乗った挙句、ノットンのライブ会場へ落ちたでしょう? アレで、ノットン雌たちが空を警戒するようになって、ちょうど飛んできた虫を駆除するために攻撃してきたのよ」

 ・・・なんだと。

「つまり、自業自得・・・が、分かりやすいかしら?」

 アライラぁあ・・・あんのド阿呆はぁあ・・・。

 全身に力が漲り、今にも髪の毛が逆立ちそうなほどに腸が煮え始める。なんということだろうか。しばらくご飯を抜きにするべきか? それともアライラ自身を丸焼きにしてしまうべきか?

 ・・・と、マリーさんが俺の肩に手を置いた。

「まぁまぁ、とりあえずは外に出てみなさい。まずは苦労して到着した新たな土地を見てみなさいな」

 優しい気な笑顔に、煮え始めた怒りがスゥーっと消えて、俺は頷き返す。

「・・・分かりました」

 ちょっと冷静になって考えてみると、自業自得なのはアライラであって・・・俺は巻き込まれた感じなのではないだろうか?っと考えたら、また苛立ちを覚えてしまった。

 そんな心境でマリーさんに促されるまま、俺はテントの外へと歩き出す。


「・・・さ、ささ、寒い!!」


 一歩外に出て、身体を外気に晒した直後に、俺はテントの中へと逃げ込んでいた。

「し、信じられないほどに寒いんですけれども!」

「そりゃそうよ。過去に隣接していた【冬の区画】から寒気が流れ込んできているもの」

「その【冬の区画】ってそんなに寒いんですか?」

「いいえ、元々は最低でもマイナス60℃くらいの環境で調整されていたのだけれど、悪神共が異世界モンスター用に手を加えてね・・・」

「あー」

 本当に最低な事をしてくれるな・・・悪神。

「今の【冬の区画】なら踏み込んだ時点で氷漬けになっていたことでしょうよ」

「・・・えぇ」

「あそこは、氷点下・・・を測定できないのよ。測定器じゃ一瞬で凍結してしまうからねぇ」

 つまり、即死の世界が【冬の区画】ってことなのか・・・。

「あ、誰かがコールドスリープできて良くね?って言っていたけれど、ムリムリ。雪の飛礫で凍結直後に粉々に砕かれるから、即死してしまうわけなのよ」

 ・・・安全が確保されているからこそのコールドスリープ技術ってわけなのか。というか、実際にコールドスリープなんて技術は可能なモノなのか?

 ふーむ・・・。

「ここは【春の区画】の気温が【冬の区画】から流れ込んでくる寒気を温めてくれているから、だいぶ過ごしやすくなっているのわけだ」

 温まっているのに、ここまで寒いのか・・・。

「さすがに【冬の区画】へ降りるなら、その恰好では一瞬で凍結して死んでしまうけれどね。ここらであれば、まだ『すごい寒い』で済むってわけよ」

 言うと、マリーさん自身が所有している魔改造リュックから服を一式取り出して、俺に差し出してきた。

「というわけで、ほら。コレがお前用に私が作った新しい服よ!」

 ・・・受け取る。

 そして確認を行う。どんな悪趣味な服装なのかと、俺は疑っていたからだ。

「・・・あれ? 今、着ているモノとデザインが同じですね」

 そう。手渡された服を床に置き、一つ一つ広げて確認してみると・・・トレーナー。デニムのオーバーオール。軍手。靴下。靴。と、俺が身につけているものとなんら変わりのないセットだ。

 違うのは、毛糸の三角帽子と・・・半纏。

「あの? この半纏は?」

「私の傑作よ! やはり、幼子には半纏が一番似合うのよッ!」

 ・・・え?

「いえ、部屋で着るものとしては、半纏はアリかと思いますが・・・ジャンバーとかコートなどは?」

「ないわ! 幼子には半纏一択よ! そのために私がこだわり抜いた一品よ!」

 ・・・目がキラキラとしているのは、本当に全力で作ったものなんだろうと分かる。が、半纏で外に出るというのはどうなのだろうか?

 庭に出る。というなら分かるが・・・外出着として半纏は選択肢に入らないと思う。

「・・・もしかして、昭和時代って半纏で外出するのが普通だったんですか?」

「そうね。夫と二人で銭湯に行くときとか、半纏を着て出かけたものよ。それに、ちょっと近所のお店に行くときなどは半纏を着て出かけていたわ。特に子供の頃は、半纏でおでかけなど普通だったわ」

 へぇ・・・昭和時代って半纏で外出とかしていたんだ・・・ふむ。俺にはそんな経験がないので、いまいちイメージができないな。

「ところで、他の外着はないんですか?」

「無いわ」

 そうでしょうね。そうなのでしょうね。

「では、着替えますので外に出て行ってください」

「はいはい。じゃ、待っているからね」

 やけにあっさりと外へ出て行ったものだな・・・。考えすぎだったのだろうか?

 いや、でも中を覗く魔法術を使ってくる可能性はあるな。そういう魔法術があるのかどうかは分からないが、ありそうだから困る。

「さっさと着替えよう」

 考えていても意味は無い。とにかく、外に出られるように着替えてしまおう。

 

▽着替え中

 ―――――

 着替え終了▽


「お待たせしました」

「想像よりも早い着替えに驚きだわ」

 そう言いつつ、俺が出てくると同時にカメラのシャッターを切るのはやめて欲しいのだが・・・。

「まぁ、それはそれとして・・・やはり半纏が似合う。うんうん。うんうん!」

 とても嬉しそうにしている。

 カメラで撮るな。とは言えない空気になったので、とりあえず放置でいいや。

「それにしても、本当に寒くなくなりました。これはどういうことなのでしょうか?」

 マリーさんの用意してくれた服を着て、ニット帽と半纏を装着した姿でテントの外に出ると・・・先ほどは凍るのでは?と思えるほどに寒かった外が、なんともない気候に感じられるのである。

 試しに帽子と半纏を脱いでみても、肌寒い。と感じる程度だ。

「どうもこうも、おまえが今日まで着ていたモノよりも私の作った物の方が性能が上ってだけよ」

 ・・・そうか。

 マリーさんの実力は、外の魔法術師など足元にも及ばない領域にいるし、なんなら俺は当然として、アライラですら一撃でぶっ飛ばされるのは間違いない。

「というか、マリーさんなら半纏とかニット帽などがなくても大丈夫なものを作れるのでは?」

「さすがに無理よ」

 あー、なるほど。

 初めての服作りで品質は低いのか。いわゆる低品質・・・なのだけど、元の実力が高いので高性能に仕上がっているということかな?

「これから多少は雪があるだろう北まで行くのに、ニット帽と半纏がなくちゃコラ画像になるでしょうがッ」

「はい?」

 え? えーっと? えぇ?

「侮るなよ? 雪景色で遊ぶ子供の写真を撮るべく作った我が傑作のファッションだぞッ!!」

「・・・そー・・・なんですか?」

「そうよ。お前が寝込んでいた二週間。なんども下見に行って研究を重ねたからね! その後も微調整を繰り返して仕上げたのだから、間違いなく傑作となっているわ」

 そんなことをしていたのか・・・。

 情熱の燃やし方を間違えているのではありませんか?

「ちなみに、ニット帽と半纏以外の服は。おまえが今まで着ていた服と同じでいいと言うから、上位互換になるよう仕上げたのよ? どうかしら? なんの違和感も無く着れるでしょう?」

「はい。まるで違和感がありません」

 新品の服へ着替えたというのに、今まで着ていた服と着心地に変化がない。いや、こっちの方が着心地が良いのは否定できない。

 しかし、俺・・・そんな注文をしていただろうか?

 いつだろう? なんかそんな事を言った気もするから、なんとなく思い出せないのが気持ち悪くなる。

「ふふふ。ふふふ。っひひひ。やっぱりこのくらいの子供には半纏が似合うわぁ・・・ジャンバーとかコートなど邪道だわ・・・くふふふ」

 ・・・変態だぁ。


 しばらく、カメラで俺を撮り続けていたマリーさんは、ようやくと落ち着きを取り戻してくれる。

「さて、アライラーのところまで行くわよ」

 そう言えば、アライラは無事なのだろうか? バンダーガーの象牙を折って、撃退することに成功したとは思うんだけれど・・・。

「アライラは集落のどの辺に居るのでしょうか?」

「集落の中にはいないわ」

 え? 居ないの?

「ふむ。集落は村と比べても狭いからね。あの巨体がまったりできるスペースは確保できないの」

 そうなのか・・・。

「この集落は、中央に集会所となる木造建築が一つあるわ。日本の昭和時代にあった木造の学校みたいな施設ね」

 ・・・ちょっと想像ができないのですが?

「で、集落の北は家畜の飼育場。集落の東西は野菜などを栽培する畑となっていて、南が住居となっているわけ」

「すると、ここは集落の南に位置していると?」

「その通り」

 肯定されて、俺は改めて周囲を見回してみるが・・・テントばかりだ。

 日本をモデルにしていないとしても、ちゃんとした家は欲しいのではないのだろうか?

「おまえの思っている事はだいたい分かるわ」

 分かるんですか・・・。

「ちゃんとした家を用意してやりたかったのだけれど、元々、この辺りは草原地帯で木々が少なかったことと、異世界モンスターが縄張り争いで闘争に励んでいたことで、木材の収集もままならず・・・」

 それで、遊牧民族が使っていたテントが所狭しと日本の住宅事情のように居並んでいるわけですか。

「私たちも、集落として自給自足できるように環境を整えるので手一杯だったこともあり、こうしてこの集落は遊牧民族のテントだらけになったわけね」

 その当時を知らない俺だけれど、このテントの住宅密集地を見つめるマリーさんの眼が、どこか虚無へと踏み込みそうなほどに光を失っている様子を見てしまう。

 過去を悔いている・・・と言うよりも、あまり思い出したくない黒歴史に居た堪れない感じだろうか。


「さ、アライラーは集落の南門を抜けた先でテントを建てて生活しているわ」

「テント!?」

 

 どうやら、アライラはこんな寒い場所でキャンプをしているらしい。

 蜘蛛って、寒さに強い生物なのか?って思ってしまったが、彼女には『環境即適応』の加護がある。よって、どんな環境下でも即時適応して活動できるわけだ。

 ちょっと心配になったが、大丈夫だと確信すると特に何を思うでもなくなる。

「ほらほら、さっさと来る」

「あ、え? ちょお!?」

 まるで荷物でも抱え込むように、俺を脇に抱えて歩き出した。

 そういえば、空でも同じように抱えられたな・・・と思い出すと、任せてしまえばいいや。となる。

「アライラは、どういう状況なんですか?」

「見ればわかるわ」

 ・・・これは良くない予感がするぞ。

 集落の住宅エリアとな南を競歩でもしているのか?っと思える速度で通過すると、あっという間に南門に到着する。

 これが門か。と観察する暇もなく、マリーさんは駅の改札口を通過するかのように門を通過して行った。

 そうして、外に出ると肌寒い気温とは裏腹に、どこか青ざめたように元気のない草原が風に揺れている光景を見る。

 それと、門を出てすぐ右手側にサーカス団がショーをするための・・・。

「さ、ここよ」

 ここがアライラの住居だったーッ!?

「いやいや、なんかすごい大きいテントが出来上がっているじゃないですか!?」

 サーカス団もビックリの巨大テントに驚きを隠せない。

「お前が使っていた傘のような盾?のような槍の壁?を突き立てて、傘を開く。これでまず屋根を確保して、後は錫杖を支柱にするべく傘の周囲に数本突き立てていたわね」

「そしてアライラの編んだ布を被せて防水処理を施せば、テントの完成ですか・・・」

「そう、それ」

 さすが大道人だ。

 俺が思いつきそうなテントを見事に完成させてくれるか・・・素晴らしい。

 マリーさんがテントの中に入ると・・・中はちょっと薄暗い。明かりとなる陽射しなどは入ってこないようで、照明となるモノは・・・あ、俺の青い火だけか。

「おや? 主様がお目覚めになられましたか」

 ちょっとテントの奥を見ると、体育座りをしている巨大大道人がこちらを見ていた。

「・・・何をしているんですか? 大道人」

「はい。アライラー殿のお世話ですが・・・いかんせん。ここは私では少々屋根が低く・・・こうして体育座りでもしないと入らないのでございます」

 ・・・なるほど。

 この巨大大道人は、先日のヨーロロンに再挑戦する際に用意した物だ。

 あっさりと返り討ちにはされてしまったが、大道人の損傷はさほどではなかったため、『カタチナセ』で修復をしてから機能を停止させて魔改造ランドセルに収納して置いた。

 何かの拍子で出番があるかもしれない。と思ったことと、そうなったときに召喚するよりは取り出すだけで済めば手っ取り早いし、俺の負担も減ると思ってのことだ。

 まさか、俺が気絶している時にも使えるとは思っていなかったので、嬉しい誤算である。

「よろしければ、通常サイズの大道人を召喚して、私と交換してはいただけませんか?」

「分かりました。すぐに交代させます」

 こうして、通常サイズの大道人を召喚した俺は、巨大大道人と交代する前に情報の共有を行う事とした。引継ぎは大事だ。と前世の叔母が力説していたからね。

 ただ、情報交換のやり方は錫杖を交差させて祈るだけ。

 これだけの動作で情報は共有されたようだ。

「それでは、後をお願いします」

「承りました」

 そうして巨大大道人は体育座りをしたまま機能を停止する。

 背負っていたランドセルを取り出して、開いてから巨大大道人に触れる。これでランドセルへの収納が行われ、幽霊のように姿が消失した。


「さて・・・ところでアライラはどこに?」

「上におられます。ほら、蜘蛛の糸で編まれたハンモックにて」

 指で指し示されるのは、天上から下がるハンモック。ちょっとテントの入口から一番奥にあったので、気付かなかった。

 しかし、そのハンモックは微かに揺れており・・・蜘蛛の八本脚がハンモックからはみ出していた。

「どうやら、無事のようで・・・」

「そうでもありませぬ」

「え?」

 大道人から告げられた言葉に、ちょっと思考が追い付かない。

 特に大怪我を負ったような記憶はないが・・・もしかして、また記憶が欠損しているのかな?

「おーい。アライラー殿。主様がお見えになりました。ルッタ様ですよ」

 大道人が声を掛けると、ハンモックがひっくり返ってアライラが落ちてくる。

 ドッスン。と地響きが届くほどの音を立てつつ、なぜか着地に失敗しているようで・・・。

〈いだだあだあだだだ・・・しまったぁ・・・もぉう・・・〉

 ヨタヨタとした様子で、テントの奥から這うように現れたのは・・・。

「なんで包帯を巻いているんだ!?」

〈やっはろー。また二週間ぐらい起きないと思ってたよっと!〉

 いやッ!? そんな、のほほんと挨拶している場合ではないだろう!? ないよね!? 全身に包帯を巻いてまさかのミイラ蜘蛛とかいう新種のアンデットになっているんだが!?

 なんでこうなってんの!?

 あ、まさか・・・俺が気絶した後にまたなにかやらかしたのか?

「・・・・・で? なにやったんだ?」

〈いきなり辛辣になる!? 別になんにもしてないよ!〉

 嘘だね。

 そうやって、アライラは調子に乗ってバンダーガーを追撃した結果、返り討ちになった。ってところだろう。

〈これはマリーさんにやられた結果だからね!〉

 マリーさんが? そんなはずないだろ。っと、マリーさんへと振り返ってみると、露骨に顔を明後日の方角に向けていた。

 かすかに冷や汗のようなモノを流している。

「・・・マリーさん?」

 一声、特に感情を込めずに名前を呼ぶと・・・。

「わ、分かっている。分かっているから・・・説明を・・・するわ」


〇説明中

 ・・・・・

 説明終了〇


〈つまぁありッ!! 今回は、マリーさんにグシャっとされたわけなのーネッ!〉

 なるほど、俺が意識を失った後にそんな事があったのか・・・。

 ちゃんと最後まで意識を保てていたら良かったのだけれど、一点集束八連邪眼バスター・ビーム改を合計で三回も放ったからな・・・。

「まぁ、アレじゃない? 手に汗握る戦いを見た後で、ちょっと加減を間違えた・・・的な?」

 前世の叔母もプロレスとかを見ているとペットボトルを握りつぶしたりしていたし・・・ラッパ飲みしていた麦茶を盛大に溢して祖母にぶん殴られたり、母に蹴飛ばされていたり・・・。

 あ、なんか今は関係のない事を思い出しちゃった。

〈その加減を間違えて死にかけるって、マジ迷惑なんですけどぉ〉

「思い付きで分けわからん技を連発して死にかける俺にとっても、迷惑なんですけど?」

〈ささ、さっそく私の怪我を治してくださいな〉

 ・・・うん。まぁ、そうなるよね。

「じゃ、治すよ」

〈ホイホイ〉

 いつもの『カタチナセ』を発動して、アライラの身体を元通りに修復した。

 大道人の手助けもあり、包帯を外していつもどおりの姿を見せるアライラ。怪我などしていなかったようにいつも通りになっているので、俺は安堵する。

 チラッと見れば、マリーさんも安堵のため息を吐いていた。

〈んーッ! ちょっと運動してくるーッ!〉

 言うや否や、テントからガサササーッと飛び出していく。これを追いかけて、様子を窺った。

 どうやら、身体を上下に動かして、次に左右に動かして・・・終わりのようだ。

〈うん! これでよし!〉

「なにが?」

 俺が話しかけると、アライラはウキウキと体を動かしながら答えてくれる。

〈目的地は北の谷なんだったよね!? いつでもいけるぜぇい!〉

「いや、まだ行かないぞ」

 直後、アライラの眼が飛び出した。

〈なんで!?〉

 なんで? なんでってそれは決まっている。

「まずは、この集落周辺の調査だ」

 俺の答えに、アライラは言葉を失ったように呆然としていた。


「いいかい? まずは君のご飯となるモンスターがいるのかを確認するんだよ。前の村ではヨーロロンを主に狩猟して、君のご飯にしていただろ?」

 そうとも、人間である俺は、集落にある食材で食事を用意することはできる。

 しかし、怪獣サイズのアライラでは、必要とする食事は同サイズ前後のモンスターがもっとも適切であることは明白だ。

 マリーさんも、アライラの食事を人間サイズで大量に用意するのは嫌がった。なので、モンスターは狩らねばならない。

「目的の谷は、もうすぐそこにあるとは思うけれど、まずは体調を万全にする必要もあるだろ」

〈あるー?〉

「あるよ。どんなモンスターがいるかも不明なんだぞ? マリーさんが教えてくれるかも分からないし」

「そうね。初見の方が修行には向いているから、教えるつもりはないわ」

 ・・・初見殺しっていうのもあるんですよ? 事前情報を教えてくれてもいいのでは?

「そんな目で見ないでよ。特にルッタ。おまえは初見で敵と対峙した方が考えうる可能性を超特急で考え始める傾向にあるから、やっぱり修行に適しているのよ」

 そうなの!?

 俺、そこまでアレコレ考え始めていたかな? 割と勘に任せて動いている気がしたけれども。

「何も考えずに突っ込むアライラーは論外だけれど、考える事は重要だからね。どんな時でも、考える事だけは止めないように」

「あ、はい」

 ・・・うーん。そこまで考えて行動しているわけではないはずだけども。

〈なんか、私だけバカって言われている気がするのは気のせいかな?〉

「うん。バカなんだし、気のせいだよ」

〈そっかー、やっぱり気のせーってバカって言う方がバカなんだぞ! ばーか! ばーか!〉

 ふむ。

「では、俺はバカなのでまずは周辺の調査をしよう。君のご飯を探すぞ」

〈そんな事より調理器具をササッと作ろうよ! 谷まで飛んでけばすぐだってばよーッ!〉

 コレはアレか?

 もうすぐ目的地で、目的のモノが手に入るかもしれない。という期待から来る焦りかな。

「しかしだよ? 北の谷にいるだろうモンスターが、一筋縄でいかない奴だったらどうするの?」

〈薙ぎ払う〉

 だから、一筋縄でいかない奴だったらどうするんだ?って聞いてんだよ。薙ぎ払うってなんだよ? 薙ぎ払っても倒せない奴だったらどうするんだって話しなんだよ。

「そうやって、何度も返り討ちになったのが今日までだろうに!」

〈Oh・・・ダメか・・・〉

「なにが!?」

 話しを誤魔化そうったってそうはいかないぞ! だいたい―――――。


「いいんじゃない? 北の谷へ行ってみれば?」


 意外な事に、マリーさんがアライラの援護を始めた。

「え、えっと・・・マリーさん?」

「アライラーは、さっそくと谷を目指して北上しよう。とか言っているのでしょう?」

 さすがに、俺たちの会話を予測できたか。

「本人がやる気を出しているのだし、挑戦してみればいいわ。ムリだと私が判断した場合は、助けてあげるからさ」

 ・・・なにか、よからぬ狙いがあったりするのだろうか?

 いや、もしかしてアライラをグシャっとやってしまった事に対する贖罪とかそういう感じで、今回はアライラを援護しているのかも?

 どうだろう?

 しかし、マリーさんにこうも言われてしまえば・・・俺も嫌だと言い張ってはいられない。

 ダンジョン管理人として、すべての階層を巡っているマリーさんは、どこにどのようなモンスターがいるのかを知っている。

 それは、これから俺たちが向かうことになる北の谷に居るだろうモンスターも当然、知っているだろう。

 そんな人が、無理だと判断したら助けてくれるというのだ・・・。

「むぅ・・・分かりました。マリーさんが助けてくれるというのであれば、俺も嫌だと言い続けることはできません」

 悔しいが、ここは俺が下がるのがいいだろう。

〈よーし! さっそく行くぜ!〉

 しかし、引き下がれないモノもある。

「待った! 行くのは明日だ!」

〈なんで!?〉


「今日はしっかりと休むべきだからだッ! というか、二度寝したい!」

〈・・・えー〉


 ちょっとアライラと揉めてしまったものの、彼女のお腹が鳴ったことで『谷』へ行くのは明日で決まった。

 さすがに休みたいというのにご飯狩りに行くのも億劫に感じていると、マリーさんが狩りに出てくれた。以前も、しばらくはヨーロロンを狩ってくれていたから、大丈夫だろう。

 そうして、マリーさんは巨大なウサギっぽいモンスターを担いで帰ってきた。

〈因幡の白うさぎ?〉

「いや、そんな神聖なウサギじゃないだろ・・・ってことで、鑑定をよろしく」

〈ほいほい。鑑定〉


『ウッス。異世界バキマオーに生息するウサギの一種。見た目こそ愛らしいモンスターであるが、ひとたび戦闘になると強靭な脚力で一気に間合いを詰め、連続ジャブからのアッパーで相手の下顎を打ち砕く。必殺技は【伝説の左】と言われているが、見たモノはいないらしい。また、肉は普通に食べられる特に美味と言うわけでもないが、特徴的な長い耳が珍味であるらしい』


 つまり、ボクサーってこと? ボクシング系の戦闘ウサギってこと?

「筋肉質で美味しくないとかそういう感じなのかな?」

〈食べればわかるって! るっちゃんよろしくーッ!〉

 まぁ、なんにせよ。いつも通りの丸焼きだ。

 大道人に体毛と内臓の処理をお願いし、その間に俺はコンロモドキを作るべく錫杖を並べていく。村に設置してしまったアレも、持ち運びできるようにしたいところだ。

 アライラの邪眼で作業を手伝ってもらい、丸焼き機モドキは完成する。

「じゃ、焼いて行こうか」

〈上手に焼けますかーッ!?〉

 アライラの鼻歌と、大道人による肉焼き。

 香ばしい匂いが広がり始めると、俺もご飯が食べたくなってくる。

「・・・そういえば、ウサギってどんな味がするんだろうか」

「好奇心で、モンスター肉を食べてはダメよ?」

 マリーさんに釘を刺されて、あえなく断念。

 ・・・ウサギか・・・なんの肉に味が似ているんだったかな? インターネットで見たことあるような気がするんだけど、思い出せないな。

 いつか、食べる機会があるならば、ぜひとも・・・とは思うけれど。



 明日はいよいよ『北の谷』か。

 どんなモンスターが待ち構えて・・・いや、待て? その『谷』に向かう道中にだってモンスターがいるはずでは?

 つまり、もうしばらくは・・・一歩進んで一歩下がる・・・を繰り返すのでは?

「・・・調理器具は、もうしばらくお預けかぁ」

〈えッ!? なんでッ!!?〉



 


次回は、鉄材を得るために『北の谷』へと向かうお話になります。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


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