29 航空機動母艦バンダーガー
こんにちは。こんばんは。
思っていた以上に長くなってしまいました。
書いても終わらない・・・そんな感じでずっと書き続けていた話となります。
ルッタ視点だけだと中途半端になってしまった感じなので、マリー視点を最後に加えてあります。
多々、描写不足なところがあると思いますが、どうかご容赦ください。
最後まで、お楽しみいただければ、幸いです。
〈当機はー、まもなくー、ノットン縄張り上空に差し掛かりまーす〉
今、再び北を目指して移動を再開した俺たちは、最初の難関であったノットン縄張りに接近していた。なんとなく、飛び越えるのは危険だと思って、迂回などの方法を考えたものの・・・。
結局は飛び越えることができたので、今回も同様に飛び越えることとなった。
ここ最近は、新たな形態である『大道人・アライラー』の検討・・・検証? まぁ、なんでもいいか。アライラが諦めるまでずっと付き合っていたので、久しぶりに感じる。
ちょっと、身体が怠いが・・・三日ほどガッツリ寝て過ごしたので、だいぶ体調はいい。
「このクレーターを越えた先で、一度着陸しよう」
〈なんで?〉
「ノシェルスの森をちゃんと見ておきたいんだ。そうしたら、余計な事はせずに飛び越えよう」
〈おっけー〉
ここまでの旅は順調だ。
まだ村を出発してさほどの時間も経過してはいないが、とりあえず、ノットンはクレーターという満員御礼のライブ会場から、ほぼ外には出ないようなので少しばかり安心だ。
時折、群れから離れた個体がいるようなので、気を抜いていいわけではない。
それでも、空を飛んで越えている最中は、息を吐いて身体の力を抜ける時と言えるだろう。
しかし、俺の背筋にゾワッと来るほどの殺気を下方から感じた。
「アライラ! 緊急離脱ジェットだ!」
〈へ? あ! ジェーットッ!!〉
少しばかり反応が遅いけれど、紙一重で加速に成功したことで下方から飛んできた何かと接触することなくすり抜けられたのは、幸いだった。
そして、俺たちの上へと飛び上がったソレを見る。
「・・・アレは」
〈うげ!? ノットン雌の羽じゃん!!〉
アライラが邪眼カメラアイで確認すると、その物体を見て思い出したくないモノを思いだしたように声を荒げた。
と、羽から無数の宝石が分離して散布されると、一つ一つが淡く発光し始めて中空に浮遊し、一斉にこちらへと迫ってくる。
「回避だ!」
〈かいひぃーッ!!〉
光線にも似た細いビームが、アライラへと照射されるのを見て、即座に錫杖を槍に変えて投げつけた。だが、複数の宝石が細いビームの照準を槍に変更して集中砲火で融解させていく。
細いビームの火力は、半端じゃないようだ。
直後、足場が無くなったような感覚に下を見ると、アライラがビームを回避するための突飛な機動を実行したことで、俺が投げ出される結果になった。
「あ」
〈ちょーッ!?〉
ダメだー。これー。って思ったのもつかの間・・・マリーさんが俺の足首を掴んでアライラの背に叩きつける様に戻してくれる。
「油断するんじゃないの」
「ありがとうございます」
体毛が生えているとはいえ、アライラの身体は堅い殻に覆われているから、鼻を打ち付けたことで血が出てしまった。痛いな。
〈あぶなかったーッ!〉
「ほんとにね」
アライラを包囲するように、宝石がビームを照射しながら散開していく。
スポーツの祭典であれば、なんと美しいと思える光景だけれど、自分の命が掛かった戦闘の最中では無駄に美しい光景に苛立ちを覚えてしまう。
一方で、四方八方から照射されるビームを、航空機ではおおよそ再現できないバカみたいな機動能力で回避して見せるアライラ。
今、空を飛んでいるはずなのに『ぴょーん』と跳ねるようにして上下移動を行い、集中砲火を見事に回避していた。
こういう素で天才的な事をやるから、ため息が出てしまうんだよね。
〈ってかさッ!? なんで攻撃されてんの!?〉
今もなお、下方からノットン雌の宝石羽が飛んで来ると、さらに宝石を散布して照射ビームの量が増えていく。
この数を見れば一目瞭然だが・・・間違いなく群れの雌が総攻撃を仕掛けてきている。
〈こんな数はアニメでも見た事ないわーッ!〉
「そんなことよりも、回避を続けているわけにはいかないぞ! 反撃して数を減らさないと危険だ!」
〈どうすりゃいいのよ!!? こんな数ぅ!!〉
アライラが思考を放棄するのも分かるが、ブドウの房を彷彿とさせる宝石羽。そんな羽から散布される宝石の数は多く、それが群れ単位で散布されるとすれば・・・もはやビームのゲリラ豪雨と言える。
だが、そんな豪雨の中をギャーギャー嘆きながらも避けているアライラが、やっぱり凄いと思う。
避け方が奇抜過ぎて、攻撃している宝石が戸惑っている様にも見えるが・・・。
「遠隔操作による攻撃なのか?」
〈しるかーッ!〉
「まずは数を減らす。ビームを広域に拡散させて試そう。散弾銃。ビームショットガンを!」
〈よっしゃ! 邪眼ビームショットガン!〉
俺の考えは、決して間違っているモノではないはずだ。
ないはずなのだが・・・敵のビーム量が異常過ぎて、ショットガンの弾があっという間にかき消されていく。
「よし、次だ」
〈ダメやんけーッ!〉
そう言われても・・・俺はこういう異常事態に対応するほどの経験値など無い。ましてや、アライラのように漫画アニメ知識も乏しいから、こういう状況のシーンなど想像もできない話だ。
しかし、俺にとっての非常識が、こうして視界を埋めている以上は考えなくてはならない。
弾丸系の攻撃はダメだ。照射されているビームの量が多すぎてショットガン同様にかき消されるのが関の山。ならばバスター・ビームで粉砕するのも一手だろう。
・・・いや、宝石のビームは処理できても宝石に避けられてしまえば意味は無い。それに、溜めの時間もあるから隙ができる。
〈やば! 直撃!?〉
アライラの言葉に、すぐさまそちらを見る。
と、アライラがビームを棒状にして振り回すと、直撃するはずだった敵のビームを払い退けた。
「それができるのか!?」
〈え? 何が?〉
「アライラ! 最初に飛行形態を実践した際に使ったビームの翼膜は憶えているな!?」
〈え? あー、マリーさんに無駄ぁ!って言われてルッタが拗ねたアレね!〉
いや、拗ねてないし。拗ねてない。別に拗ねるところじゃないし・・・いや、拗ねてしまったのかな?どうなんだろ? ちょっと思い出せない。
って、余計な事を思い出させてくれるな!
「足を二本ずつ使って翼膜を四枚展開してくれ!」
〈回避しながらやるのってキッツいわ!〉
「大丈夫だ! 邪眼が自動でやってくれる!」
〈それもそうだった!〉
俺の指示通りに、翼膜を四枚展開してくれたので、さらなる指示を出す。
「では、四枚それぞれをビーム剣に見立てて、攻撃に転用してくれ!」
〈・・・そうか! 邪眼!ビームウイングブレード!!〉
こういう時の理解力がとても優秀なのは、彼女のいいところだよね・・・もっと別の場所で生かせばいいのに。とは思うけど。
俺がそんなことを考えている間に、四方へと伸びるビームの刃が照射される宝石のビームを切断して霧散させる。
〈そしてぇえ! 邪眼!! 回転すればなんとかなる斬りぃい!!!〉
えッ!? 回転するの!!?
俺が自分の耳を疑った直後に、アライラが円盤のように回転を始めたことで、さながらビームの刃を輝かせる巨大な手裏剣のようになる。
そして、この遠心力に抗えなかった俺は、再びアライラから投げ出されて・・・。
「だから、しっかりとしがみ付いていなさいよ」
「申し訳ありません」
マリーさんの腕が俺の腹に巻き付くように回されて、脇に抱えられる鞄のようにガッシリと抱えられた。なんだかちょっと情けない。
それにしても、マリーさんはこの遠心力の中でまるで動かない。
これ、アレだよね? ここだけ切り取ったら・・・ギャグだよね・・・シュール。
「言っておくけど、この程度で投げ出されている内は雑魚だからね?」
「精進します・・・」
そんなやり取りをしている中で、アライラは未確認飛行物体のごとく空を異常機動で飛び回り、こちらを包囲しようと動く宝石の群れを次々に切断し、破壊して数を減らしていく。
これだけの回転と異常機動の中で正確に宝石の位置を把握できているのが、また凄いと思う。俺には像も残らずに、黒い線が過ぎ去る様子ぐらいしか認識できないというのに。
〈ヒャアッハーッ!! 攻略法が分かれば楽勝だぜぇえーぃ!!〉
・・・なんでそう、すぐ調子に乗るかなー。
「アライラ! 調子に乗るなよ!」
〈分かってる分かってる! 真面目な戦い斬らせてもらいます!! すぱーん!〉
遊んでんじゃねぇよ。
〈っで? とりあえず、宝石はあらかた片付いたよ!〉
・・・え? もう? ちょっと早過ぎない?
いや、でも片付いたのであればやることは一つだけだ。
「それなら、通常形態に戻ってくれ!」
〈え? でもそれじゃあ、落ちるよ?〉
「顔を下に向けるんだ。こうなっては仕方ない・・・ノットンの群れを撃滅する!」
〈眼ッ殺!!〉
そうだ。
どうしてノットン雌から攻撃を受けたのかは分からないが、このままでは安全に飛び越えることはできない。羽とてまだまだあるだろうから・・・おかわり。が来る前に対処するべきだ。
なら、ここでクレーターのライブ会場をまるごと焼き払うのが効率的だろう。
「魔力の急速チャージから、一点集束、八連邪眼バスター・ビーム。これでケリをつける!」
〈了解!!〉
錫杖をアライラの頭に突き立て、地獄変を以て魔力の急速チャージを実行する。ただ、やはりコレはまだキツイ。腹の中で激痛が起こると、温かいモノが広がっていく感覚に頬が引き攣る。
歯を食いしばっている内に、魔力のチャージは完了した。
〈出力最大! 一点集束!! 八連邪眼! バスタァアーァ!!! ビィイムゥウ!!! 改ッ!!!!〉
え? 改? 『改』をつけるの? 付けてしまいましたか・・・アライラさん。
直後、口と鼻から血が噴き出し、眼と耳からも血が零れだしてくる。うぐっふ。急速チャージにコレは厳しい。
しかし、俺の状態と反比例するように、前に見た邪眼バスター・ビームとは明らかにビームの色が違っているビームが一点に集束し、眼を焼くような光でありながらも綺麗だと思わせてくれるそれが、ノットンの縄張り・・・クレーターを呑み込むほどの巨大なビームとなって着弾した。
宝石羽の第二陣が、一瞬で蒸発する様子を見た。
その先に集まっていたノットンたちも、掻き消えるように光の中に呑まれていく。
そこから発生する大爆発で、煙に呑まれるのは俺たちだった。
「げっほ! アライラ、煙から脱出を!」
〈うげっふ。分かってるよーッ! ちょっと待って!〉
飛行形態にて、煙から脱出する。
ノットンたちの様子が気になったので、アライラにお願いして煙の周囲を旋回してもらうことで、俺は下を覗き込む。
クレーターを丸呑みしたバスター・ビームの威力には、改めて恐怖を感じた。今まで使っていたモノよりも、遥かに威力が上昇しているからだ。
「凄い威力だ」
〈うへへ! パワーアップしてるよねーッ!〉
そのための『改』なのだから、当然とも言える。
でも、これだけの威力があれば、シャッビンカンもまとめて吹き飛ばせるはずだ。いや、この階層にいるモンスターであれば、ほぼ全て。と言う方が正解かもしれない。
そんな事を考えたのが、間違いだった。
煙を払い除けるようにして、両翼を広げるノットンが一匹。新たなクレーターの中心にて、その姿を現した。
「・・・は?」
〈ぇえ・・・〉
バッサバッサと、翼を上下に振りながら頭を動かして周囲の状況を確認している。と、顔を俺たちの方へ向けてきた。
ただそれだけで、殺される。という恐怖に背筋が凍る。
しかし、ノットンは口を開いて・・・欠伸を一つ。
「なんだアレ?」
〈手・・・振ってるように見える〉
片方の翼をこちらに向けて振ると、その場に座り込むように体を小さくして、ノットンは目を閉じて眠り始める。
あの特徴的な鶏冠を見る限り、ボスのようだ。
それが、最大出力で放った一点集束八連邪眼バスター・ビーム改が、まるで通じていないなんて・・・あり得るのか? あり得るんだろう・・・俺の眼がおかしくなっていないのなら、かのモンスターは欠伸して寝始めたのだから。
〈なんでアレ喰らって生きてんの?〉
「・・・それだけ、段違いで強いんだろうな。他のノットン。イケメンファイブのその他四匹だって消し飛んでいるのに・・・あのボス一匹だけは無傷みたいだし」
ハッキリと言えることではないけれど、あのボスは格が違う。という表現を越えた何かだ。
今の俺たちでは、太刀打ちできないだろう。強化された現段階で最強の一撃が通じないのだから、それだけは間違いない。
ええい、何か一つを解消出来たら、次の問題が発生するとか・・前世の母がそれで仕事はクソとか、よく愚痴っていたな。こういう事なのかな・・・。
少しずつ遠ざかっていくノットンボスを見つめ、前世の家族を思い出し始めた時・・・俺はある事に気が付いた。
ノットンボスが遠ざかっていく・・・。
「しまった! アライラ! 降下しろ! 上昇するな!」
〈え?〉
そう。
アライラは、旋回しつつ緩やかに上昇していたのだ。
先の大爆発で上空へとさらに押し上げられていたにも関わらず、さらに高度を上げていた。ただでさえノットンを刺激しないように飛び越えるため、航空モンスターが出現しないようにギリギリの高度を飛んでいたというのに・・・だ。
周囲を見回していると、太陽の方角からアンカーラが接近していることが分かった。
「くそ。来るぞアライラ!」
〈ちぃッ! 鳥が来たかッ!〉
先日、大道人・アライラーで糞まみれの火だるまにされていたもんな。
アンカーラが接近してくることに、アライラが邪眼ビームをマシンガンのように連射することで牽制を行う。
〈なーんで当たんないのかなーッ!〉
「前回も同じことを言ってなかった?」
アンカーラとの戦闘で、前にも同じようにビームをマシンガンのように連射していたが、命中はしなかった。その経験を活かせていないのか・・・特になにも覚えていないだけか。
〈くらえ! 邪眼ビーム・ミサイル!〉
ミサイルのようなビームの塊が邪眼から複数撒かれると、それらが光の線を残してアライラ以上に加速しつつ、標的であるアンカーラを目掛けて飛んでいく。
これに対し、アンカーラは翼を羽ばたかせて上昇すると減速しつつ尾をミサイルの方へ向ける。そして、キラキラと光る粉を撒いて再加速。
直後、ビーム・ミサイルが撒かれた粉と接触して爆散していった。
〈なんでーッ!?〉
「空中戦は、あっちの方が上手ってだけでしょ」
〈うわーッ! なんかメッチャ悔しい!!〉
ムキになったアライラが、アンカーラを何が何でも撃墜するために追いかけ始めた。
邪眼ジェットの勢いが増し、こちらを確認しつつ飛んでいるアンカーラへと接近していく。これは非常に不味いので、俺は止めに入る。
「止せ! ここでアンカーラと戦闘をしても大したメリットは無いんだぞ!」
〈私のご飯になる!〉
「だから、止せって言ってんの!」
〈私のご飯が大したことないのッ!?〉
当たり前だろ!って言うつもりはないけれど、ここでアンカーラを狩る時間と労力を考えれば、ノシェルスの森を越えて次を目指す方が有意義だ。
すでに航空モンスターと戦闘に入ってはいるものの、ゲームの戦闘とは違って移動範囲は限定されているわけではないはず。
なら、このままアンカーラを無視して北にある集落を目指した方がいいだろう。
「アンカーラを追いかけるのは、とにかく止めだ」
〈えーッ!〉
「前に鑑定で見たように、アレは偵察機に相当するモンスター。追い掛け回しても疲労が溜まるだけだよ」
〈・・・むーん〉
「それより、このまま目的地としている北の谷方面まで移動しよう」
〈え?〉
「現在、俺たちは航空モンスターと言ってもアンカーラ以外に遭遇したことがない。このことからも、もしかすると空は地上よりモンスターの縄張りで区分されていないのかもしれない」
〈おー?〉
「つまり、この空にはアンカーラ系のモンスターしかいない可能性があるってわけだ」
〈じゃあ、地上よりも安全に移動できる!?〉
「その可能性は十分にある」
もちろん。アンカーラ以外の航空モンスターが居る可能性は否定できないが・・・空中に巣を作れるとも思えないし・・・確か、アンカーラの場合は航空機動母艦とかいうモンスターと共生しているような文言が鑑定にて書かれていたはず。
だとすれば、アンカーラとて補給などで母艦となるモンスターの元へ帰還するはず。
あまりしつこくは追ってこないはずだ。追ってこないでくれ・・・。
「っというわけで、進路を変更だ!マリーさんの地図を開いて、北の集落を目指すぞッ!」
〈りょーかーいッ〉
アンカーラ追撃を止めて、俺たちは目的地までの途中にある集落を目指す。
空を自在に飛び回るモンスターと、そういうのに慣れていないアライラでドッグファイトなど無駄過ぎることこの上ないのだから、これが正しい判断だろう。
と、アンカーラが旋回してこちらの追撃に移ったようだ。
「追ってくるのか?」
〈えー・・・追えば逃げるのに、止めたら追いかけてくるってなんなのよー?〉
確かに、どういう目的があって追撃をしてくるのだろう・・・ぅん?
「なんだ?」
〈どうかした?〉
アンカーラの背中・・・体毛が一本・・・に見えるけれど、アンテナのように直立する何かが見える。ついさっきまで、そんな物は無かったはず・・・だけど・・・。
何か、マズい予感がした。
「アライラ! 邪眼八つで全身を包むバリアを展開しろ!」
〈え!? 落ちるよ!?〉
「いいから早く!!」
〈ぇえい! 八連邪眼バリアッ! 改!!〉
八つのバリアが、アライラを包むように重なって展開される。と、飛ぶためのあらゆる力を失って減速しつつ落下を始めた。
まさにその時だった。
アンカーラの遥か後方で閃光が瞬くと、洪水のような光る激流が真っ直ぐこちらに向けて迫ってきた。
〈はぁあ!!?? 何アレェーエッ!?〉
驚きに声が裏返っているアライラに構っている余裕も無く、俺は錫杖を投げて「業火」を発生させる。これによって、展開されているバリアに錫杖が刺さると同時に業火がバリアへと燃え移って拡がっていく。
そうして、自然落下を始めていたこともあって、光の激流に呑まれることなくギリギリでやり過ごすことに成功した。
バリアが次々に砕かれて行くのを見た時は、ダメかと思ったが・・・業火の助けを得てバリアを二枚ほど残して耐え切った。
いや、あのまま飛んでいたら直撃を受けて消し炭になっていたな・・・あ、マリーさんが居るからそれはないか? いや、頼るのはどうかと思う・・・けど、助けてくれると思うし・・・いや・・・。
そんな時、俺の背が優しく叩かれた。
「ほら、落ち着きなさい」
「あ、はい」
不思議と気持ちが落ち着く温かさで、一気に冷静になる。・・・と、心臓がバクバクとなっていることを自覚する。ちょっとパニックを起こしていたようだ。
「アライラ、大丈夫か?」
〈私は大丈夫よー。るっちゃんは?〉
「うん・・・大丈夫」
マリーさんのおかげで・・・だけれど。
「いや、今はそれよりも!」
思考が回復してきたようで、さっきの攻撃が何かを確かめることが最優先であると判断できた。
そのため、後方をすぐに確認する。
同時に、アライラの邪眼カメラアイも後方確認のために移動してくる。
「アンカーラが後退していく?」
〈んぁ! 逃げるぅ!?〉
いや、逃げるんじゃない・・・偵察の役目を終えたことで、母艦へと帰還する。
「アライラ! あのアンカーラよりも後方に見える黒い影が何か分かるか!?」
太陽を背に、アンカーラが遠ざかると豆粒以下になっていくというのに、影は空にできた穴のようにただただ巨大だ。
〈ちょっとまだ鑑定の射程外かなー〉
そうか・・・これ以上の接近を許すのは嫌なんだけど・・・いや、すでに飛行は再開されている。結構な速度で飛んでいるはずなのに、あの巨大な影はどんどん近づいて来ている?
「まずい! 近づかれている!?」
〈あ、そう言われてみると・・・ヤバくね!?〉
そうとも、大変ヤバい事態になっている。
このまま接近されては、戦闘を回避できない。さっきの巨大な攻撃も半端じゃない威力だったわけだし、逃げたいのだけれども・・・。
それはそれとして・・・何が飛んで来るのだろうか?
「なんだろうか・・・鷹かな? 鷲かな?」
空を飛ぶ大型の鳥と言えば、その辺がパッと思いつくけれ――――。
〈マンモスだッ!!〉
「は?」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・ぅん?
思考が停止してしまったが、アライラの言葉を受けて再度接近中の影を凝視する。太陽光を背にした影が、接近すると共に大きくなっていくので太陽が隠れていく。
これによって、黒い影に色が戻り・・・体毛の色は俺の知るマンモスではなかったが、その形は紛れもなくマンモスだった。
〈空飛ぶ巨大マンモスだぁあ!!!!〉
「なんでッ!!??」
空飛ぶ生き物は数多いるけれど、マンモスは空を飛ぶ生物ではな・・・そういえば、アメリカの映画に空飛ぶ象の作品があったような?
って、そんな脱線をしている場合じゃないよね!? 俺ッ!!
「アライラ! 鑑定を!」
〈よっし! 射程内の鑑定!!〉
『バンダーガー。異世界ハリドミイルマに生息する世界最大の空飛ぶ生物。【航空機動母艦バンダーガー】と呼ばれており、各国では季節ごとの風物詩となっている大災害級モンスター。星を巡る風に乗り、世界各地の空に出現しては共生しているモンスターに餌を収集させる。風の道は年ごとにランダムであるため、予測することが難しく、どの国も「こっちくんな」と神へ必死に祈り願うお祭りが開催される。体内には数百種とも、数千種とも言われる鳥や寄生虫が共生していると言われているが、詳細は不明。生態が何一つ解明されていないモンスターである』
「航空機動母艦って、称号みたいなものか?」
〈一狩り行く気も起きないヤツだぁ・・・〉
元の世界でも「こっちくんな」と言われるレベルのモンスターだったわけで、もうだいぶ接近されていると勘違いするほどに大きいバンダーガーは、山が浮いていると言っても過言ではない。
となると、怪獣映画のような異世界なのだろうか?
〈あ、増援〉
「なにっ!?」
見ると、アンカーラの影はすでに消えており、代わりに四つの影がバンダーガーから飛び出してくる。距離があるせいで、黒い点にしか見えないから・・・何が出てきたのか分からない。
こういう時、もうちょっと視力が良ければな。
・・・いや、常人よりも視力はいいんだろうか? 比較対象が俺以外だとマリーさんくらいになるので、分からないな。
「アライラ、鑑定はできるか?」
〈まかせろー〉
『ナンダーラ。異世界ハリドミイルマに生息するアンカーラの亜種。高速飛行による強襲に特化した鳥で、気性が荒く、好戦的な種である。主な役割は一撃離脱による敵地攻撃となる。目からビーム弾を連射し、舌は追尾型ミサイルとなっている。尾羽から粉を撒いてチャフにできるほか、糞型焼夷爆弾などで攻撃を行う。また、身体に寄生しているノミとダニを投下する』
・・・一撃離脱を得意とする高速飛行のモンスターか。
そうなると、俺たちの逃走を妨害する目的があるな。確かにバンダーガーの飛行速度はこちらよりも上であるようだが、まだ距離がある。
飛行形態を解いて八連邪眼ジェットで逃げるなら、十分に逃げ切れる可能性はあっただろう。
しかし、ナンダーラとかいうモンスターが発進したことで、それは無理となった。
「あの形・・・確か、コンコルドとかいう音速飛行機が昔にあったと聞いたことがある」
〈え? なにそれ知らない! そんなのあったん!?〉
「平成時代にはあったらしいよ」
〈へー・・・なんで今は無くなったんやろか?〉
俺が覚えている限りでは、使いどころが特になかったとか・・・維持費がかかる割に使用率が低かったとか・・・そんな感じの事が書かれていたような?
それらはともかく、ナンダーラはアンカーラと同じでΔ形状の鳥モンスターではあるけれど、圧倒的に長い。その形状がコンコルドという音速飛行機の形によく似ている。
だからなのか、とんでもない速度でアライラに追い付くと、あっという間に追い越していく。
「邪眼バリアを追加で展開だ!」
〈邪眼バリア! 追加展開!!〉
俺の指示で、即座に追加されるバリア。これに糞がベシャッとくっついて、新品のバリアが即座に汚れる。本当に「あっ」と言う間に糞が掛かったのだ。
〈やろう・・・何度も私の新品バリアを糞塗れにしやがってからにぃい!!!!〉
「そんな事より、バリアをパージするんだ!」
〈おっけぃ!〉
直後、糞塗れとなったバリアが切り離されて、空中に捨てられる。と、糞型焼夷爆弾が一斉に爆発してバリアを砕きつつ火で包んだ。
もう少し、切り離すのが遅かったら、先日の二の舞と・・・いや、三の舞となっていただろう。大道人・アライラーで再度火だるまになっていたわけだし。
そして、ナンダーラは確かに一撃離脱が専門のモンスターであるようだ。
アライラを追い越した後は、大きく旋回することで進行方向の調整を行っている。そういう面では、こちらが優位に立てるが・・・なにぶん、速いので追撃するのは厳しいな。
となると、バンダーガーの強力な一撃がまた放たれる前に逃げるのが一番だろう。ナンダーラも旋回中で俺たちへの再攻撃はもう少しかかりそうだし。
「アライラ。このまま集落を目指すんだ」
〈え!? 三回も糞塗れにされたのに、ここで逃げるっての!?〉
「そうだ。ここで戦っても意味は大して無い」
〈嫌だねッ! やられたらやり返すんだぃ!!〉
「今はあとにするんだ! 目的をはき違えないでくれ!」
〈むーん?〉
「俺たちは、アライラの食事を調理するための器具作りを目的に、材料があるという北の谷を目指しているんだよ!? 連中と戦うのは二の次だ!」
〈む、む・・・〉
「ここでするべき事は、恨みを晴らすことでも、借りを返すことでも、やられたらやり返すことでもない!」
〈むーん・・・むぅうん! わかったよぉお! 邪眼ジェット・改!!〉
ドンッ! という音と共に、アライラが加速する。先日のシャッビンカンから逃げる時とはまるで加速力が違う事から、コレならシャッビンカンからも逃げ切れるだろうと確信できた。
それにしても『改』ってつけただけなのに、これだけ能力値が上昇するのは・・・なんだかなー。
しかし、これで北にある集落までまっすぐ飛んでいける・・・と、思ったのは早計だった。
俺たちを追い抜いて、大きく旋回してきたナンダーラが・・・すれ違いざまに糞型焼夷爆弾をアライラにぶつけてきたのである。
「ちッ! 業火!!」
バリアの追加展開をしていなかったことで、飛行形態時のセット展開されているバリア一つしかない現状で焼夷爆弾を防ぐには、俺が業火を以て爆発前に焼き尽くす以外になかった。
「滅却!!」
結果的に、俺の爆弾処理は間に合ったのだが・・・。
〈やろおおおおおおおおおおおおぶっころってやるうううううううううううぐうううううわあああああああああああああおあおおおおおおおおおぎゃあああああああああああああがあああああああああ〉
あー。アライラが、ガチでキレてしまった・・・。
〈逃げんなぁあッごるあああああああああああッ!!!!!!!!!!!!〉
喉が確実に潰れそうな低い声で怒鳴り散らすと、飛行機では在り得ない旋回・・・というよりも反転をして一気に加速を掛け直す。
「・・・どうするつもりよ?」
「もう、説得は無理ですから・・・やります」
マリーさんに憐憫の眼を向けられつつ問われたので、覚悟を決めたことを告げる。
こうなっては、やるしかない。
先にノットンを壊滅させた最大出力にして最強のバスター・ビーム改で、だいぶ身体が辛いのだけれども愚痴ってはいられない。
なら、あの巨大怪獣マンモスをどうやって倒すかに思考を向けるのが、生存率を少しでも上げることになると信じよう。
あと、マリーさんには、ダメそうなら助けてください。と、お願いしておく。
言わないでも助けてはくれるだろうが、先にお願いしておけば・・・まぁ、アライラがボロ雑巾になる前に救助してくれるはずだ。
それでは、改めて【航空機動母艦バンダーガー】を見てみよう。
先の鑑定が言う様に、大災害級モンスターに間違いのない巨躯を持つ見た目だけならマンモスの謎モンスターは、これも先に述べたように山がまるごと浮いているようなものだ。
・・・え? コレを倒すの? ちょっと無理だと思うんですよ。
ノットンのライブ会場となるクレーターを丸ごと新しいクレーターにして見せた改良型必殺技。現状におけるこちらの最強も、こんな巨大な山を砕けるほど強くはないはずだ。
「アライラ! 勝算はあるの?」
〈そんなのどうでもいい! だけど、アイツらだけは! せめてクソ鳥だけは!! ぶっころってやるぅう!〉
・・・あ、そっちでいいんだ?
バンダーガーを相手にするのではなく、あくまでも焼夷爆弾を掛けてきたナンダーラやアンカーラが目的であるわけか。
ならば、連中をサクッと倒して離脱すればいいだけだ。って、簡単にはいかない。
ナンダーラに向けて、飛行時には使用していない邪眼でビームマシンガンを放つも、相も変わらず命中してくれないことに苛立ちを募らせていく。
これが無鉄砲に突撃することへ繋がっていくが、バンダーガーの体毛・・・その下で何かが微かに動いている事に、俺は気が付いた。
「アライラ! 一度離脱しろ!! 突撃するな!!」
〈うるせぇえ! ぶっころってやるんだああああ!!!〉
舌打ちを何度もしてしまうのは、もはや止められない。それでも、縛鎖閻魔錠を召喚してアライラの身体に巻き付け、その鎖で巻蛇槍貫撃を作って横へと投げる。
コレの準備をしている間に、バンダーガーの体毛・・・その下からは続々と細長い管のような生物が飛び出してくると・・・管?突起物?・・・のような部位をこちらに向けていた。
邪眼ビームマシンガンの弾を受けるバンダーガーの体毛は、命中直後は赤熱色に変色するものの、即座に冷却されて元の色に戻る。
そして、その下から顔を出している管のようなモノから、続々とビームのような弾が射出され出した。
〈きぇぇええ!!??〉
妙な悲鳴を上げてアタフタと回避行動もとらずにいるアライラである。
頭に血が上り過ぎて、絶対にこうなるとは思っていた・・・だから、鎖を巻いて槍を投げて置いた。
「業火! 噴射!!」
できるかどうかは分からなかったが、槍に繋がっている鎖を握りしめながら叫ぶと、投げて置いた槍の円錐形をした刃から業火が噴き出して加速がかかる。
この勢いでアライラの身体が横滑りし、バンダーガーの体毛下から現れたモンスターの攻撃を寸でのところで回避することに成功した。
〈あ、あっぶな・・・〉
「だから、突撃するなと言ったんだ!」
〈ご、ごめん〉
閻魔錠を引っ張って投げた槍を回収しつつ、俺はアライラに続けて言う。
「こうなったからには、俺の指示を聞けッ! いくら何でも無茶をし過ぎだッ!」
〈む・・・むーん。了解・・・〉
よし、このまま攻撃に転じ・・・るのは無理だ!
「回避だ! 一度離脱してくれ!!」
〈りょーかーい!!!〉
バンダーガーの体毛下から、思わず身震いするほどの数となる管状のモンスターが飛び出して、口のようなモノを開くとこちらに向けてビームのような弾を射撃してくる。
この砲火とも言える弾の数は尋常ではなく、安全を確保するためには距離を開くほかにないと判断した。
そうして、バンダーガーから離脱すると・・・今度はビームのような弾が全身から周囲にばら撒かれるように放たれ始める。
これはアレだ・・・戦争映画などで戦艦が見せる対空防御などで行われる機銃による弾幕に似ている。
時折、ビーム弾とは明かに違うサイズの弾が飛んできて、適当なところで爆発までしている。
あの管みたいなモンスターは、砲台か何かであるのは間違いなさそうだ。バンダーガーの鑑定時に数百種の鳥や寄生虫が・・・とかあったと思うので、そういうモンスターなのかもしれない。
「アライラ! あの機銃なのか砲台なのか分からないモンスターを鑑定してくれ!」
〈鑑定ぃ!〉
『パーシンガー(機銃タイプ)。異世界ハリドミイルマに生息している寄生虫の一種。見た目はミミズのような形をしているが、頭にはレンズ状の魔石が備わっている虫。寄生先に危険が迫るとビーム弾を発射して敵から身を守ってくれる益虫。大型生物でなければ寄生できないため、世界でも希少な寄生虫としてコレクターの間では人気がある』
『パーシンガー(大砲タイプ)。以下同文』
手抜き過ぎじゃない!?
なんだ、この鑑定結果!? タイプが違うだけだからと以下省略してきた!? どういう違いがあるのかを説明してくれてもいいんじゃないかな!?
〈物凄い弾幕なんですけどーッ!〉
鑑定の結果に憤りを覚えている間に、アライラはバンダーガーの弾幕から逃げるように動いていた。
ただの飛行機であれば、とっくに撃墜されていただろうが・・・アライラの常識破りな機動力にはさすがの機銃も予測不能で戸惑っているようだ。
いきなり上下に動いたり、ドリフト走行でもするかのように滑るような動作で飛んでいく。意味があるのか?って思える動作ばかりなのだけれど・・・。
「アライラ、無理をしても意味がない! とにかく接近しないで遠距離から攻撃を・・・っていうか、ナンダーラはどこだ?」
〈あ!? マジかッ!! 逃げられたッ!!?〉
頭に血が上っていたことで、もはや目的を半ば忘れていたようだ。
それにしても、どこに消えたんだろうか? 体内に収納された・・・ってことは無いと思うけれど、どこかにあのサイズを格納するスペースがあるのは間違いない。
しかし、バンダーガーが巨大過ぎて一見しただけでは見つけることなどできないだろう。
上から下までを入念に探索するにしても、山サイズのモンスターでは一周するだけでも一苦労になる。こうして弾幕が張られている中では、特に難しいだろう。
「・・・ここらで撤退しない?」
〈いやだーッ! 絶対にヤダーッ!!!〉
ですよねー。
逃げられたことで、諦めてくれるかも?って思ったけれど、恨みが根深いようでムリそうだ。
っと、そんな事をしているとバンダーガーから新たな鳥モンスターが出撃してくる。あまりにも唐突な登場に、どこから現れたのかも分からない。
そのモンスターは、アンカーラやナンダーラと形こそ似通っているが、容姿は大きく異なっている。言うならば左右対称・・・じゃなくて、上下対称と言うのが適切に思う。
その嘴はまっすぐとした形状をしており、眼が頭部の上下に二つずつ備わっている異形で、翼も上下左右で計四枚に足まで上下で二本ずつ。
一番驚いたのは、足が前折れでは無くて後方へと折れていることか。爪先から魔力が放出され、魔法陣を鷲掴みするかのように展開されている。
この魔法陣から炎が噴射されており、さながらロケットブースターのような効果で急接近してくる。バイオテクノロジーの産物と言われれば納得できそうなモンスターだ。
「アライラ! 鑑定を!」
〈鑑定!〉
『ヤンオーカ。異世界ハリドミイルマに生息している鳥の一種。上下対称の姿をした小型の鳥であるが、空中における戦闘に特化した機動力を誇る。上下の脚はロケットブースターの役割を担っており、可変式魔法陣機構をモンスターが再現した珍種で有名。世のモンスター学者がもっとも研究したいモンスターで殿堂入りを果たした垂涎物である。その機動力はあらゆる航空機を凌駕しており、バンダーガーの弾幕を突破して接近する敵を迎撃する掃除屋と言われている。武装はアンカーラとナンダーラに共通していると推測されており、この個体特有の攻撃能力は確認されていない』
〈つまりどういう事!?〉
「アライラと張り合える機動力を持ったアンカーラって思えばいい!!」
接近するヤンオーカから一度距離を取るべく、俺は再度離脱を指示する。これに応じてくれるアライラが一気に離脱を図ると、ヤンオーカが加速して距離を詰めてきた。
それと同時に、バレルロールをやって周囲に何かをまき散らす・・・と、散った物体が細かく分裂して火を噴き始め、コレが推進力となって加速してきた。
「おいちょっとまて!!」
〈ウンチミサイルぅう!!??〉
そう、連中がバレルロールで撒き散らした物は、鳥の糞。
それらが細かく分裂してそれぞれが火を噴いたことで、小型のミサイルとなってこっちに飛んで来る。っていうか、この個体特有の攻撃方法は確認されていないんじゃなかったのか!!??
あ・・・今、確認されたってことか。
「しかも追尾機能付き!?」
無数の糞が迫ってくる状況で、アライラが半狂乱になりながらも回避行動に移るのだが、糞ミサイルがこっちの動きに合わせて軌道修正を行っている様子に、最悪の事態であると理解した。
〈なんでこいつらは!!〉
言葉の続きを怒鳴り散らしている暇はない。
煙を引きながら、糞ミサイルが迫ってくるために死に物狂いで逃げ回るアライラだ。さっきの弾幕を回避する時とはまるで勢いの違うデタラメな機動を取っている。
〈うぉぉおおお!! こっちくんなぁああああああ!! くぁぁぁあああああ!!〉
意識が飛びそうになりながらも、俺はギリギリのところで周囲を確認する。正直、吐きそう。
だが、まずは糞が追いかけてくる現状を打破することが最優先だ。何とかしないと、色々と吐いて意識が飛びそうだ。
「アライラ! ビームウイングブレードで切り払え!!」
〈了解!! 邪眼ビームウイングブレード!!〉
ノットン雌の宝石羽を片付ける際に使用したビーム翼膜をブレード状に応用した攻撃方法。コレを使って迫る糞ミサイルを払い落としつつ、ヤンオーカと一戦交えるしかないと判断する。
〈いっくぞぉーッ! 邪眼殺法! 手裏剣機動・ビーム刃!!!〉
なんだか、とってもカッコいい名前の技を叫んでいたが、やっている事は先の一戦と同じだ。
「それ、回転すればなんとかなるーって言ってたよな?」
〈ふふ! カッコいい名前を考えておきました!〉
いつ、そんな事を考えていたんだろうか・・・分からん。
そして、今はそんな事を考えている時間も無い。手裏剣のように回転して糞型追尾ミサイルを切り払いつつ、ヤンオーカへと突撃していく。
〈ここで会ったが一万年と二千年ッ!斬りぃぃぃいいいい!!!!!〉
えぇ・・・。
いきなり何を言い出したのかと思いつつも、恨み詰まったビームの刃がヤンオーカを襲う。いや、その恨みはアンカーラやナンダーラに向けるべき・・・まぁいいや。
糞型焼夷爆弾とは違い、糞型追尾ミサイルというとんでもない攻撃を放ってきたヤンオーカの方が、遥かに汚い。いろんな意味で、ただ汚い。
しかし、ヤンオーカの能力値はアライラに同等であるようだった。
アライラの攻撃で、数匹のヤンオーカを切り裂いたところで、連中は動きを変えてきた。一斉にアライラから距離を取ると、上下合わせて四つの目から魔力弾を連射してくる。
手裏剣のごとく回転していることで、弾を切り払っていく。
直後、ヤンオーカは射撃を止めて口を開いた。
「なんだ?」
マリーさんに抱えられている状態だが、ヤンオーカの新たな行動から眼を離せない。いや、回転しているので離さないようにするのは無理だけど・・・。
と、開いた口からビームのような物が噴き出した。これと同時に、ヤンオーカの頭・・・いや、首が縮んで頭が体に埋もれるように変形する。
そうして両足の魔法陣からひと際激しい炎が噴き出ると、アライラ目掛けて一気に突撃してくる。
〈その首を斬り飛ばしてやるぅう!!〉
意気込みは良かったが、ヤンオーカの突撃は一匹だけではない。
四つあるアライラのビーム刃。これにヤンオーカが数匹で攻撃をぶつけてくる。開いた口から放出されているビームのようなモノだ。
激突した瞬間から、周囲に激しいほどの甲高い音が撒き散らされる。
〈と、止められた!?〉
この攻撃によって、回転していたアライラは動きを止められてしまう。
よく見れば、アライラのビーム刃とヤンオーカのビームがぶつかる事で干渉しているようだ。何か、肌をビリビリと指すような圧を感じた。
「なにか、力場が生じている?」
アライラの手裏剣機動を止めるほどの力が発生しているのは間違いないが、コレはビームそのものに干渉しているように思える。
「ビームを固形化して、アライラを磔の状態に抑え込んでいるのよ」
マリーさんが教えてくれる。
「ヤンオーカの特徴でね。エネルギーに干渉する力場を発生させて、エネルギーそのものを固形化することで拘束する技。こうなると技を解除してもアライラは脱出できないわ」
なんだって!?
これだと串刺しにされ―――。
「地の深淵に我が力を以て重ねて求める」
業火で焼き払うのも手ではある。
しかし、すでにアライラを串刺しにするべく最大の一撃を与えるために、最大火力で突撃してくる個体がいる。
よく見れば、他の個体とは少しだけ異なる姿をしている。おそらくは、コイツがチームリーダーだ。
アライラとの会話中に回収していた『地獄能・巻蛇槍貫撃』を構え直して詠唱を始めた。業火を放つよりも、確実にこの危機を凌ぐ術を直感で選択する。
「降り打つ罪を遮る鎖。槍は我らを護る盾なりて。錠蛇の傘よ。敵意を阻む壁となれ!!」
構える。
「地獄能・巻蛇傘盾壁鎖槍!!」
迫るヤンオーカへと槍を投げる。
俺が投げた槍は、これまでの対象を貫通する目的で作った物とは違い、守るための槍だ。投擲した直後に円錐形の刃が傘のように開くことで、こちらの姿を隠しつつ相手の視界を塞ぐ。
これと同時に、刃が回転する仕様であるため、開いた傘も回転しているわけだが、これとぶつかったヤンオーカのビームが鎖に絡めとられて周囲にエネルギーを散らしていく。
「業火! 噴射!」
業火を推進力にして、加速をかけたことでヤンオーカの口に傘が刺さり、傘の回転に巻き込まれる形でその頭が回転を始めると、身体も連動して回転を始める。
これに押し負けて、ヤンオーカは傘に押し退けられるようにして吹っ飛んでいった。
「よし!」
閻魔錠で繋いでおいた槍を引っ張り戻して、アライラを拘束している他のヤンオーカに向けて槍を再び投げる。
が、他のヤンオーカは即座に離脱したことで、仕留めそこなった。
問題は、その後だ。
ヤンオーカが離れたというこは、アライラの機動を止めていた力場が消失したことで・・・つまり邪眼殺法が再開される。
「あ」
〈あ〉
唐突に手裏剣機動が再開されたことで、アライラの回転で生じる遠心力に飛ばされる。そして、マリーさんに足首を掴まれて難をのが、れッ!!!!
顔をアライラの殻にぶつけることになった。が、とりあえず難を逃れた・・・マリーさんの視線がとても辛い・・・つらい・・・。
〈っで! どうするん!?〉
とりあえず、ヤンオーカへの追撃をしているアライラだが、目下には山のように大きなバンダーガーがいる現在。
ここでヤンオーカを倒したとしても、バンダーガーには後どれだけの戦力が居るのかも分からない。
「ヤンオーカはもういいの?」
〈うん。そこそこぶっころったしねー〉
どうやら、気が済んだらしい。
ならば、後は逃げるだけだが・・・ここからどうやって逃げる? ヤンオーカとの戦闘で、バンダーガーとの距離は相当近い。
遠くから見えていた山の全体像が、今や一部しか見えなくなっている。
見上げた先は、山の天辺が霞んで・・・いや、そもそも今いるのが山の天辺付近か? バンダーガーが大き過ぎて、把握するのが大変だ。
〈ルッタ! ルッタ! 私に一つ、案があるんだけどッ!〉
「却下」
〈ちょっと!? 早い! 却下が早いよ!!〉
「大道人・アライラーって言うんだろ?」
〈違うんだなーッ! コレが!!〉
・・・ほぉー。
「じゃあ、どうするの?」
〈敵が超巨大モンスターだと言うのなら! 体内に侵入して内部から破壊すればいいんだよ!!〉
・・・おぉ、なるほど。
確かに、これだけの巨体となれば体内への侵入も可能だろう。山に見立てれば、木々を伐採して地面を砕き、土を掘ることで内部に入れるわけだから・・・行けるかもしれないな。
内部に侵入して、こちらの最大火力を放てば倒せるかもしれない。
「よし、その案を採用します!」
〈よっしゃあ!! 全力全開だ!!〉
ヤンオーカへの追撃を止めて、バンダーガーへと進路を変更する。
加速を掛けて、他のヤンオーカを置き去りにしつつ一気に体内を目指して突撃していく。バンダーガーから大小様々な弾がこちらに向けて大量に放たれる。
砲火が集中しだして、土砂降りの雨みたいに迫ってきた。
「ええい! 業火!!」
アライラの身体に錫杖を突き立てて、業火を広げる。
ビーム刃が弾を切り払い、一切の減速をすることなく突進し続けるアライラ。ビーム刃を抜けた弾も業火で弾道を逸らすことに成功している。
〈くらえぇえ!!〉
弾幕を抜けて、ビーム刃が十分に届く距離まで迫った。その時だった。
体毛の中から得体の知れない物体が鞭のようにしなりつつ、先端が四つに割れてアライラの身体を鷲掴みにしてきた。
「なんだ!?」
〈んぇえ!!??〉
鷲掴みにされると同時に、アライラのビーム刃が力を失って消失し、それまでの突進を止められてしまう。
それはまるで腕のようであり、バンジーのような伸縮性の優れたゴムのようで、アライラの身体を鷲掴みにして受け止めただけでなく、四つに割れた管でがっしりと固定されて離れる事も出来そうにない。
パーシンガーに似ているようだけど・・・。
「アライラ! 鑑定を!」
〈鑑定!〉
『パーシンガー(投擲腕タイプ)。世にも珍しい四本指に見える頭部が分裂した個体。他の個体と異なり、全身の伸縮率が異様に高く、掴んだ相手を高速で遠くまで投げることが出来る。大型モンスターに寄生している場合は、接近した敵を掴んで投げ飛ばす防衛能力を持つ。ことバンダーガーにおいては、共生している鳥モンスターの発進時に投擲をし、帰還時に優しくキャッチしてくれる、また、特殊能力として魔力キャンセラーを有しており、捕まえた対象の魔力放出を封じることができる』
こいつが鳥モンスターを発進させていたのかッ!?
〈むきゃーッ! ビームが出ないんですけどぉお!!??〉
魔力キャンセラーという特殊能力で、アライラが使っていた手裏剣形態が封じられた。さらに邪眼ジェットも使用できないから、拘束から抜け出すことができない。
「くそッ! このッ!」
アライラの身体を拘束する四つに分裂した頭部。コレの一つでも破壊できればッ!と思って巻蛇槍貫撃を投げつける・・・あ、巻蛇傘盾壁鎖槍だった。
パーシンガー(投擲腕タイプ)の四つある頭の一つに命中はするものの、押し退けることは難しそうだ。
「ならば!」
すぐさま槍に巻かれている鎖を解き、パーシンガーに巻き付ける。錫杖を手元へと回収して、閻魔錠をさらに巻きつけつつ鎖を延長してパーシンガーの身体へと走らせる。
鞭のように伸びてはいても、バンダーガーの体内に寄生している以上は根元が存在しているはずだ。そこへ向けて走らせて、閻魔錠を体内へと侵入させることを狙う。
しかし、俺の狙いよりも早く、パーシンガーは野球の投手みたいに身体を動かして、アライラを外へ向けて投擲した。
物凄い速度だ。
さすがに音速は超えていないようだけれど、時速数百kmの速度が出ているのはと焦る。
〈おわわわわわわわわッ〉
「姿勢制御ッ!! 飛行形態を再開ッ!!」
〈ちょ、ちょっと待ってッ! ジェットが出ないッ!!〉
なにっ!? まさか、投擲されてもすぐには魔力キャンセラーの効果は切れないのか!?
バンダーガーに振り向けば、その姿がどんどん遠ざかっていくのが分かる。あ、鎖を延長しっぱなしだ。
意識が逸れた直後に、バンダーガーの巨体から生えている象牙が二本・・・嫌なほど危険な光を迸らせて光を明滅させていく。
と、邪眼からジェットが再噴射されて飛行形態が再開される。
〈くっそーっ! なんなんだよアレーッ!?〉
投げ飛ばされてちょうどいい。とも思ったが、バンダーガーの象牙から迸る光を見てその考えを止めた。
「アライラ! ファイターモードを解除して邪眼バスター・ビーム改の準備だ!」
〈え!? マジで!!?〉
最初の一撃。
あの光の激流が、あの象牙から発射された物であれば・・・おそらく、今回は外すことは無いだろう。最初は距離がだいぶあったので、自然落下で弾道から外れることが出来た上にバリアと業火で耐え切れたが・・・。
「時間がない! 急速チャージから行くぞ!!」
〈ちょッ!〉
間髪入れずにアライラに錫杖を突き立てる。
〈あいたーッ! もぉお!! やってやるぞぉい!!!〉
邪眼バスター・ビーム改のために魔力を供給する。
「一点集束だ!」
〈了解! 一点集束!! 八連邪眼!!―――〉
見れば、バンダーガーの象牙が発光していた。その先端にはエネルギーが集束しており、左右で互いにエネルギーを干渉し合って・・・一つに合体する。
〈バスタァアアッ!!! ビィイムゥウッ!! 改ッ!!!〉
アライラとバンダーガーの攻撃は、ほぼ同時に発射された。若干、アライラの方が早く発射されたものの、バンダーガーの一撃は『一点集束、八連邪眼バスター・ビーム改』より二回りも大きい光の激流だった。
正面から激突し合うものの、バスター・ビーム改が押し負けている。
〈むぐぐぐ・・・なんか壁に激突したみたいにビームが飛んで行かないんだけど!!?〉
「押し負けているからな」
〈なにぃい! ボタン連打! ボタン連打! 連射パッドは無いのッ!!?〉
「なんの話ッ!?」
だが、この状況をどうにかしなければ、バスター・ビーム改が押し戻されて負けてしまう。
バンダーガーの方が今の俺たちよりも遥かに強いのは確かだろうが、それでも拮抗できていない。しかし、あっさりと押し負けているわけではない。
力比べでジリジリと押し負けている感じだ。
「なにか・・・なにか・・・」
アライラの能力値で出せる最大の一撃で押し負けてるのなら、俺が外側からアプローチを掛けて逆転のきっかけを・・・。
外側・・・。
あ! 閻魔錠!!
パーシンガーを辿ってバンダーガーの体内へと侵入させようとしていた閻魔錠があったのを思い出す。鎖を拡張して伸ばしていたが、バスター・ビーム改と光の激流による激突で蒸発している。
しかし、縛鎖閻魔錠自体はバンダーガーの体表に今も残っているはずだ。
「地の深淵に、我が力を以て求める」
瞬間、俺の全身で肉が裂け、血が噴き出して周囲に飛び散っていく。
限界だと確信する。が、まだ倒れるわけにはいかない。
「走れよ鎖、巻き付け蛇よ、縛りて喰らえ、砕いて爆ぜろ! 閻魔の錠ッ!!」
感覚的なモノとなるが、バンダーガーの表皮を閻魔錠が象牙に向けて高速で移動していることを認識した。
そのまま象牙に巻き付いていく。
「地獄能・爆鎖撃砕閻魔錠ッ!!」
象牙の根本で、爆発が発生する。噴き上がる炎は業火。これがバンダーガーの身体へと飛び散って、燃え広がっていく。
と、光の激流が勢いを失って縮小してくと、アライラのバスター・ビーム改によって押し戻していく。
「追加だ! 押し返せ!!」
〈やってやるぜぇぇえッ!!〉
あと八連邪眼バスター・ビーム改の分を急速チャージを行う。
追加分の魔力を加え、勢いを取り戻したバスター・ビーム改が、そしてバンダーガーの象牙に激突した。俺が閻魔錠で爆砕した象牙だ。
俺の一撃だけでは象牙を破壊するには至っていないが、傷はつけられていた。
そこに八連邪眼バスター・ビーム改が激突したことで、砕けている部位に負荷が掛かったのだろう。ビーム着弾後の爆発で象牙が根本から折れた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
バンダーガーが悲鳴のように声を上げ、そして進路変更して撤退を開始してくれる。その一方で、折れた象牙は地上へと落下していく。
その様子が、変にゆっくりとしていて・・・。
「お? ぉ?」
視界がぐるりと回り、俺は・・・たおれ・・・た。
〇マリー視点〇
さすがにこれ以上は無理だと判断した。
ルッタとアライラーはよくやったと素直に思える。この【春の区画】にて最強モンスター5体の一匹。空の支配者『航空機動母艦バンダーガー』を相手に・・・だ。
私など、ここの管理人になった頃は、この五体に手も足も出なくて毎日泣いていたくらいだ。挑んでは返り討ちにされて、都度、ウィッチに助けられていたからね。
だからこそ、現状でアライラーの最強である『バスター・ビーム改』が押し負けているのを見て、これ以上の術は無いだろう。と判断したわけだ。
二人はよく頑張った。
私にも、アライラーのような相棒が居れば・・・と羨ましく思う・・・けど、アライラーよりも利口な子がイイとは切実に思う。
絶体絶命の状況を打破するべく、私が手を貸そうと立ち上がった時だ。
「地の深淵に我が力を以て求める!」
ルッタが詠唱を始めた。
同時に、身体から血が噴出する。どうやら、もう限界に達しているようだ。
無理もないか。最大火力のバスター・ビーム改と円盤のように回転して動き回る技・・・なんか技名を考えてあるようだけれど、これらを使い過ぎているのだからね。
特に、前に私が無駄と指摘したビームの翼膜をブレード状にして使う技だ。いわばバスター・ビームを継続しているようなものなので、短時間で高負荷が掛かるのは言うまでもない。
コレをノットン雌が放った宝石羽に、そしてヤンオーカとの戦闘で使い過ぎている。加えてのバスター・ビーム改を二度。
大道人・アライラーが使った技よりも遥かに過負荷となっていることでしょう。
「走れよ鎖、巻き付け蛇よ、縛りて喰らえ、砕いて爆ぜろ! 閻魔の錠ッ!!」
新しい技を使うのかしら?
しかし、何か異様な雰囲気だ。噴き出ている血が、さらに勢いを増していく。しかし、その勢いはルッタの能力値を高めていくかのようにエネルギーを含んでいる。
間違いなく、今、ルッタの身体から噴き出ているのはルッタの血ではない。私が予想したように、地獄にあるという血の池の血なのではないか?
「地獄能・爆鎖撃砕閻魔錠ッ!!」
その時だった。
技名を叫ぶ直前に、噴き出ていた血が引火する。
まるで燃料のように、血は地獄の炎へと姿を変えて、青い火がルッタの身体の裂けた傷口から直接噴き出している様に見えた。
その全身が、炎に包まれて・・・。
バンダーガーの左右にある一方の象牙で、爆発が生じる。
これによって、バンダーガーが放っていた一撃が不安定となり、その威力が弱まった。コレをきっかけに、ルッタはアライラーへ魔力を追加供給する。
「追加だ! 押し返せ!!」
「ぎっぎぎぎぎぃぃぎッ!!」
私自身・・・ちょっと信じられないモノを見たと言っていいだろう。
現段階で、バンダーガーの象牙を一本・・・へし折ったのだ。コレを偶然と片付けるのは無理だ。間違いなく、この二人だからこその結果・・・か。
あのバンダーガーを撤退させるなど・・・私が同じ結果を出せたのは・・・果たして何千年かかったことか。
限界を超えて、ルッタが倒れた。
私は落ちないように受け止めて、アライラーに言う。
「このまま北の集落へ向かいなさい。しばらくは、航空モンスターが出てくることは無いわ」
「ぎぎぎ?」
「何言ってんのか分からないから、私の指示通りに進みなさい!」
「ぎぎぎー!」
▽
マップを表示するように指示を出し、飛行形態でまっすぐに目的地を目指す。
現在、空のモンスターはバンダーガーの負傷で出てくることは無い。ゆえに、もっとも安全に飛んでいられる時間でもある。
しかし・・・。
「ぎぎッ!!?」
アライラの邪眼ジェットが魔力不足で停止すると、代わりと言わんばかりの煙が噴き出し始めた。
「魔力供給に制限がかかったようね」
「ぎぃぎ! ぎぎーッ!」
「うるさい! 進路そのまま! 墜落しつつも進めるだけ進め!」
とはいえ、魔力が切れるまでの間に集落へと十分に接近できている。あとはこのまま墜落したとしても集落までたどり着けるだろう。
地上を確認する。
本来なら、空を飛んでいるモンスターを捕食する奴がいる森を通過中のようだ。ただ、高度がまだ十分にあるため、連中の射程外にあるのが幸運だろう。
よし、順調だ。
・・・。
「アライラー。おまえ、この高度と速度から着地できる?」
「ぎぃ?」
・・・さぁ?って答えたのよね?
森を越えて、草原地帯へと飛び出した。ここは、地球で言うならば遊牧民が暮らす環境に近い土地だ。冬の区画から流れてくる寒気によって、かなり寒いけれども。
そして、目的地である集落も見えてくる。
「ふ・・・まぁ、よく頑張ったから、着地は私がやってあげるとしましょうか」
本来なら、私が手を貸すことではないのだが・・・バンダーガーを相手に頑張ったのだし、大人として手助けするのが筋というモノ・・・よね?
弾丸のように集落へと降下するアライラー。
その飛行形態による機首に移動して、拳に魔力を集束させる。
「身構えなさい。ちょっと手荒になるからね」
「ぎッ!?」
なにか驚いているようだが、もうすぐ集落へ到着するので無視する。
「じゃ、ちょっと先に行くからね」
「ぎぎぇッ!?」
アライラーの背から飛び出して、先に着地点に降り立つ。
そして、迫るアライラーに向けて張り手を放った。拳だとアライラーの身体が砕けてしまいそうだからね。こう、包むように受け止めてやるつもりで。
「シュッ」
力加減など、もろもろの調整で意識を集中させたから声が漏れてしまった。
しかし、これで上手く受け止めてやれる―――。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
私のイメージした様子とは異なり、アライラーの身体が奇妙な潰れ方をした。体を覆う殻が砕けて体液が噴き出している。
・・・変ね? こう、包み込むように受け止めてやったつもりだったのだけれど?
とはいえ、しっかりと着地は成功する。
「・・・まぁ、とりあえず・・・ここが、北の谷へと続く中間地点。北の集落よ」
「ぎ、ぎ、ぎー」
・・・マズい。
アライラーが死に掛けている様子を見て、急いでルッタが背負っているランドセルを開いて、収納されている大道人を取り出す。
先日、大道人・アライラーのために用意した巨大な大道人だ。
とりあえず、機能を停止させてランドセルに収納して置いたモノを取り出した。
「大道人! アライラーの手当てを!」
「・・・えーっと、何がどうなってこうなったので?」
「い、いいから早く! まずは手当よ!」
「あ、はい」
あとで解析した結果、アライラーの耐久値を大幅に上回る一撃だったと判明する。
つまり・・・力加減を間違ていた。
「・・・私って、そんなに強くなっていたのか」
比較対象・・・ウィッチぐらいしかいなかったからなぁ・・・練習しておこう。
そうしよう・・・。
次回は、新たな拠点での生活スタート。を予定しています。
ちなみに、アライラ―の〈眼ッ殺〉は調子に乗っている時のセリフなので、誤字じゃないです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




