表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/59

26 ・・・・・・・・・絶対安静

こんにちは。こんばんは。

マリー視点のお話となります。戦闘は特にありません。

ウィッチとの井戸端会議的な話としたかったのですが、書けませんでした。


最後までお楽しみいただければ、幸いです。


「バスタァァァァアアアアアアアッ!!!!」

 ルッタによって召喚された大型の地蔵が、鎖を巻いて円錐形にした刃を備える槍を左右の手に持って構えながら空へと上昇していく姿は・・・シュールだわ。

 そうしてアライラーが発動させた技によって、まるで水に溺れた虫のように中空でバタバタともがき苦しむノシェルスの群れへと穂先は向けられる。

 これが、円錐形だったそれが大口を開いた姿は、大砲の口と言うべきか、銃口と言うべきか・・・。

 バスタービーム改が左右の槍から放たれると、地蔵を中心に空に溺れていたノシェルスが次々に蒸発して消し飛んでいく。

「アキャッ!!!!!!」という悲鳴が聞こえたので、視線をアライラーからルッタに戻してみれば・・・全身から血を噴き散らして地面に倒れ込んだ。


「ちょっと! しっかりしなさい!」

 即座に駆け寄って、ルッタを抱き起こしてやると・・・白目を剥いて気絶している姿に恐怖する。まさか死んではいないでしょうね?

 そんな心配をしている間には、全身の至る所で肉が裂けて血が噴き出す。

 ・・・それにしても、血の量が異常過ぎる気がする。5歳児の血液量って噴水みたいに垂れ流しになるものだろうか?

「解析」

 噴き出ている血を解析すると・・・魔力が血液に転換された物だと分かる。

 これはノーマークだったが、どうやら自己の生存本能か何かで垂れ流しになっている魔力を血に転換しているようだ。もちろん、これはルッタがやっているというよりは、地獄変が自動で行っている。

 ・・・うん? 地獄変が魔力を血に転換している?

「血の池地獄の血と魔力を等価交換しているとか、その辺かしら?」

 ありうる・・・。

 地獄世界は私でも知らないことは多いけれど、その大部分が地球の中国や日本などに伝えられている地球に共通するものが多い。

 特に日本色が強いとは思う。

 ルッタの足りない血を、地獄の血の池から補充しているという事なのか?は、まだハッキリとしたことを言えないな。要、研究が必要だろう。

 それにしても・・・アライラーは随分と好き勝手に暴れてくれるものだわ。

「むッ! そこッ!!」

 撃ち漏らしがいたようだ。

 数匹のノシェルスが、大道人・アライラーの背後から強襲を試みるも、気配を察知したのか?と思うような反応速度で身体を捻りつつ槍の穂先を向けてビーム改を一射。

 その一撃を体に受けて、ノシェルスは全身から火を噴きながら弾けて散っていく。

「むむ! 逃げようったって、そうはいかないぞっと!」

 撃ち漏らした数匹の内、残りがアライラーから逃げるように飛び去って行く。これを追撃するために加速を掛けた。

 しかし、これ以上はダメだ。

 私が制止を促すために声を張り上げようとしたとき、ルッタがさらに血を吐き出したので、そっちの手当てを優先した。

 今やバックパックになったアライラーの眼より噴射されているロケットの推力は、ルッタへの負担でしかない。

 とにかく、すぐにでも止めに行くしかないだろう。

「ええい、面倒ごとばかりを・・・」

 とりあえずの応急処置を済ませて、ルッタを脇に抱える。次に血を噴き出しても即座に対応できるようにと、魔法術を準備したままでアライラーを追った。


「そぉら! これでぇえッ!!」

 加速して追い付いたアライラーは槍でノシェルスを突き穿ち、ルッタが使っていた青い火を放出して燃やし尽くしていく。

 ・・・そして最後の一匹に槍を投げて命中させた。

「あっはっはっは! ごめんねッ! つよくってさぁあ!!」

 アライラーが、どう聞いても調子に乗っている発言を聞いて、私はちょっとイラっとした。


 直後、四つの邪眼から噴射されていた火が消えると、煙が噴き出し始めた。


「あ・・・ぇえー?」

 地蔵の重量と高度。

 それらを踏まえてちょっと面倒くさい計算をしても、しなくても、落下する事実は変わらないアライラーは・・・。

 ノットンのライブ会場へと墜落していくのである。

「・・・なんでそうなるんだッ!? おまえはぁあ!!」

 私の怒声など、アライラーには届いていないだろう。

 だけれど、ノットン雌の怒声とアライラーの悲鳴だけは・・・私に届いていた。





「いいかッ!? おまえはッ、しばらくッ、そうしていなさいッ!」

「ぎぎぎー」

 もはや我が家となりつつある村の広場にて、据え置きになっている大道人がアライラーの溶断された身体に鎖を通して繋ぎ合わせている。

 さしずめ、医療的には縫合に近い処置を施しているわけだ。

 ノットンの縄張りを越える上で絶対にやってはいけない事。それはイケメンファイブのライブを妨害することだ。

 連中の雄共はどうとでもなるし、モットンは基本的に食料調達で不在が多い。しかし、消去法でも必ず残るのが雌の群れだ。

 イケメンファイブの歌と踊りに熱中するあの連中は、アイドルファンの暗黒面へと堕ちた集団だ。

 それらがキレると手が付けられなくなる。

 アライラーは、そんなノットン雌たちのタブーをコンプリートし、こうして大道人ごと細切れにされてしまった。

 運のいいことに、一命を繋いだ。

 おそらく、地蔵の背中に張り付いていたことで、背負いものとして誤認されたのだろう。おかげで致死ダメージは回避できた。悪運が強いとも言うか。

 

 一方で、大道人は粉々になるまで袋叩きにされていた。アライラーのせいで、もっとも災難な目に遭っていると思われる。

 とはいえ、アライラー自身にもしっぺ返しのように致命傷を受けているので、結局はバランスが取れているとも言えるか。

 でも、あの子らはもっとアライラーに怒ってもいいとは思う。

「大道人。アライラーを甘やかす必要はないからね! 痛めつけるつもりで手当をしてやりなさい!」

 私が言ってやるが・・・。

「ぎい、ぎぎぎぎぃ~ぃ」

 なぜかアライラーが激痛に悲鳴を上げるかのような不快音を放って反応してくる。

 そして、大道人は私に顔を向けながら、見せるように鎖を強く引っ張って体を繋げて見せた。と、アライラーが悲鳴?を上げながら地面を何度も叩いていた。

 まるでギブアップと主張しているかのようだが・・・つまりは「もう、やってる」という事かしら?

 うーむ・・・ん?

 私が考え事をしていると、大道人とアライラーは大人しくなっていた。

 ・・・それは良いことなのだが、強烈な視線を感じて考え事を中断する。

「どうかした? 大道人」

 すると、ジェスチャーを始めた。

 包帯を巻く動作のように見えるが・・・いや、包帯を巻きたいけれど、物が無いのか?

「アライラー。おまえに巻く包帯がないから蜘蛛糸を編んで用意しなさい」

「ぎぎぎぎっぎぎぎ! ぎぎぎぃぎぎぎぎぎぎーッ!?」

 なにを言っているのか、分からん。

「大道人。アライラーが何を言っているのか、分かる?」

 すると、両腕を交差させて『バツ』を作る。と、ひとさし指を立てて何かを始めた。なんの動作か・・・いや、アレか? 編み物?

「つまり、包帯が編めない。と?」

 首を上下に振って肯定してきた・・・ちょっとカワイイと思ったのが、悔しい。

 改めて、アライラーを見るが・・・なるほど、糸を出す尻の部分が溶断されているために使えなくなっているわけか。

 今は、大道人の出してくれた地獄の鎖・・・閻魔錠とか言っていたか?・・・で魔力を繋げていることで生存を繋いでいる。

 繋いでいるだけで、治療が出来ているわけではないか。

 しかし、そうか・・・包帯が作れないのか・・・。

「では、大道人。鎖で身体を包んでおきなさい。微動だにできないように吊るして置いてもいいわ」

 親指を立てることで、返答してきた。

 どこか怒気を抑えているように見えていたし、親指から殺気が迸って見えることから、さすがにアライラーの行動にはキレているようだ。

「じゃ、これからはルッタと地蔵たちに無理させないようにするには、どうすればいいのかを考えておきなさい。宿題ね」

「ぎぃーッ! ぎっぎぎぃーん!!」

 アライラーが助けを求めるように前足を伸ばしてくるが、大道人が怨念を迸らせながら頭を掴んで取り押さえている。

 ・・・はぁ。


「ぎーぃん!」





 今や我が家となりつつある村長宅。

 ここまで大道人とアライラーの攻防が聞こえてくる・・・「ぎぃー」という悲鳴と鎖の摩擦音。石の鎖だったと思うが、金属みたいな音がするのはどういうわけか?

 まぁ、いいわ。

 鬱憤が溜まっているのでしょうし、思う存分やらせておくのがいいだろう。

「まったく・・・」

「いやはや、巨大地蔵と大蜘蛛の大捕り物っぽい攻防を繰り広げているね」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

「ウィイッチィ!!!?」

「え? なに、その驚き方?」

 し、心臓が爆発するかと思っただけだ・・・はぁはぁ・・・はぁあ・・・。

 それにしてえも、いつも唐突に来る奴だな。というか・・・こいつは先日、しばらくは戻って来れないようなことを言っていたじゃないか?

「どうしたのよ? しばらく帰って来れないのでは?」

「そのはず・・・だったんだけどねぇ」

 いやー、困った困った。という笑みを浮かべて言葉を続ける。

「外で思いのほか、おもしろ・・・めんど・・・厄介な事件が発生してしまってね」

「思いっきり楽しんでいるじゃないの・・・」

 緊張感が無さ過ぎて、調子が狂わされるのよね・・・テキトーに聞き流していると、わりとヤバい話だったりするし。

 とにかく・・・。

「ちょっと、布団に寝かせてくるわ」

 脇に抱えていたルッタを寝かせてから、話を聞くとしよう。

「いやいや、まず先に治療した方がいいでしょう?」

 それはその通りだけれど、布団を用意する方が先だろう。

「応急処置はしてあるから、布団を用意して寝かせてからでも問題ないわ」

 いつも通りだ。

 ここに来てから、こういうことは度々起こっているので、慌てる事でもない。


「マリー。ルッタ君を私に渡せ」


 足が止まった。

 ただの一言で、全身から汗が噴き出る。

 静かな声だというのに、明らかに圧が籠る声音は悪寒と共に恐怖を煽ってくる。元。とはいえ、神のアバターであった私でも、死を覚悟せざる負えないモノだ。

 ルッタを改めて抱き上げ、ウィッチへと引き渡す。

「ふむ」

 受け取ったウィッチは、ルッタの額に手を当てて瞬間診察を済ませたようだ。

「ちょうどいい・・・か」

 何がちょうどいいのか?

 ルッタの頭を優しく撫でた後、指を鳴らして自身の背後に大型のカプセル型装置を召喚する。

 その装置は、アバターを修復するために用意された神々用の治療道具。かつて四つの区画を繋ぐ『中央区画』であり、今は【第五階層】となっている神々の港だ。

 この世界に入ってくる神々が使うアバターを精製する装置だったものだが、バグ進化したモンスター【神殺しの獣】によって再度入ることができなくなったために、用意された改造品だ。


 要するに、何かの拍子に誰かが死んで、戦力が減るのは避けたかったから。


「さて、マリー?」

 治癒装置にルッタを寝かせて、起動させる。

 装置の蓋が閉じ始めるのとほぼ同時に、装置内に魔力が充填を始めた。霧状の魔力が満たされると、身体の内へと浸透を始める。

 これで当面は大丈夫であると思ったが、私は背筋を這う悪寒に身を強張らせた。

「私が君にあの子らを任せたのは、一緒に遊ばせるためじゃないよ?」

 久しぶりのことだが、半ギレしている。いつぶりだろうか? 私の返答次第では、殴り殺される可能性が出てくる・・・あ、前回はランドセルを探している時に半ギレしていたな。

「こうならないように、指導させるためなんだけれど?」

 冷や汗を拭う事もせず、ウィッチを見る。

 いつものようにローブで顔を隠しているせいで、表情は口元ぐらいしか見えない。それでも、いつも無駄にニヤニヤしているウィッチが無表情になっている。

 本来、私は神のアバターだった存在だ。

 しかし、今はこのダンジョンを管理するために存在している身だ。そして、この世界でのウィッチは私よりも遥かに強い。

 多くの謎をローブで包んでいる?正真正銘の怪物は、苛立ちを込めて言う。

「君が、私よりも適役だと思ったからなのだけど・・・ムリだったかな?」

 ルッタの状態は、とても危険だった・・・常人なら。

 この第一階層に到達した時以上のダメージを負っていたが、今日までの繰り返しで身体も鍛えられていたから致死レベルというわけではない。

 気絶こそしたが、命に別状はなかったはずだ。

 ウィッチが半ギレするような状態だったというのが・・・どうにも―――。


「ま、私以外の人間と過ごす日常は久しぶり過ぎて、舞い上がっていたのは分かるけれどね」

「は?」

「仕事として君に預けたんだから、ちゃんとして欲しいのよ」

 再び、ニコニコと口元に笑みが戻る。

 この魔女・・・半ギレしていたのではなく、笑いを堪えているだけだった!

「おまえ! 私のどこを見て舞い上がっているとか言ってんだッ!?」

「うんうん。ほら、こんな感じでッ」

 そう言うと、どこからかスマホを取り出して、動画を再生して見せてくる。

 私がルッタの寝顔を眺めている様子・・・カメラを鼻息荒く構えている様子・・・いずれも鼻の下が伸びている情けない顔の―――。


「だあああああああああ、やめろボケェエエエエエエッ」


 スマホを取り上げようと手を伸ばすが、あっさりと回避された。こうなっては私が恥ずかしいデータを削除することは難しいだろう。

 いや、そもそもどうやって撮った!?

「ちょっとダンジョン内の記憶を読ませてもらってね。ちょうど、私がここへ来たときには、アライラーちゃんがおもしろ・・・いや、アホな事をやっていたしね」

 面白いことをやっていた。と言いかけたな・・・。

 しかし、私は歯軋りするぐらいしかできることがなかった。長い付き合いだ。こうなるとコイツには手も足も出なくなる。

「ま、ルッタ君は治癒装置でゆっくりと治療しよう。神の権能で瞬間治療しても、疲労までは癒えないからね」

「そ、そう・・・疲労までは、確かに考えが及んでいなかったわ」

 うーん。

 ルッタは、疲れていた? まぁ、このダンジョンで気の休まるときなど早々無いだろうけれど。

「あと、君には早急にやって欲しい事があるから、私としても都合がいい」

「・・・私に?」

 なんだ? ここに来て私にやって欲しい仕事だと・・・。

 ウィッチがどこからか旅行鞄を取り出して、コレを畳みの上に置く。と、鞄を開いて中を見せてくれた。

 そうして取り出す物は、350㎖缶ほどの大きさをしたカプセル容器。

 カプセル容器は、人間からすればプラスチック製に見える事だろう。しかし、神の権能を以て製造された特異物質であるようだ。

 この世界・・・というか、自然界でも人工物でも存在しない物質。神造品のカプセル容器・・・そして、中身の種は・・・。

「そう。この種は『チートシード』と言うそうだよ? 人間の生死を問わず、種を対象に押し当てることで魂を種に取り込むことができる。そうしたら、種の色が変わるので、別の身体に植え付けることで転生が完了する。って道具らしいよ」

 転生が、そんな簡単にできるようになると?

「いやはや、面白い物を考え付くと思わないかい?」

「いや、まったく面白くないぞ。これ・・・」

 ウィッチの言葉通りであれば、世界間での転生手続きが多いために起こる面倒な手順を省略できるのが嬉しい限りだ。

 だが、問題はその世界にいる魂が持ち出し放題という事になる。

「で? こんな世界間問題になりそうな道具を誰が持ち込んだのよ?」

「ローゼルザーン」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

「ロォッ!? おッ!? え!!?」

「はい! 深呼吸!」

 はー。はー。はー。

「いや、息を吐くばかりじゃなくて、息を吸いなよ」

 しまった! なんか呼吸のやりかたを忘れてしまったわ!?

「ゲッホ・・・意外な名前が出てきて、動転し過ぎた・・・」

「ぷくく。そんなにローゼルザーンって面白い子なの?」

 ウィッチが実に愉快そうにしているのが腹立たしい。私も動揺し過ぎた事を悔いることとなる。

「で? あの子、どういう子なの?」

「・・・一言でいえば、箱入り娘の世間知らずなお嬢様ってところね」

 ローゼルザーン。

 ある日、ダーゼルガーンを巡ってパーラハラーンと争っていた頃に、第三の女として登場した奴だ。

 あの頃はガキだったから、私たちは頭を撫でて無視してやったが、とにかく頻繁に割り込んでくるので、いるの間にか争うのが面倒になった。

 そんなある日―――。

「回想になる感じ?」

 圧が強い。

「・・・嫌なの?」

「うん。面倒くさいからさ」

 ニコニコしながら肯定するか。

「・・・じゃあ、聞くなよ」

「そうなんだけどさ? 解雇通告を受けただけで気絶した面白い子でね」

 解雇通告? なにをやってんの? あの子・・・。

「バイトだよ。この『チートシード』をばら撒くためのアルバイトを、ローゼルザーンが受けていたのだけれど、見事にクビになったわけだ」

「まるで話が見えないわ。説明しなさいよ」

「オッケー。サクッと教えてあげよう」

 ウィッチの話はこうだ。

 ダーゼルガーンが地球人を転生させたことに反応した悪神たちが、地球人・・・それも日本に限定して魂を大量に盗み出したのだという。

 地球の神々は、人間の魂を持ちだそうとした悪神の数名は逮捕したが、いずれも使い捨ての下っ端だったようで、大量の魂は行方知れずとなる。

 すると、こっちの世界で地球人と思われる言動をする現地人が出現し始めたのだそうだ。

 ローゼルザーンを始め、神としてはまだまだ新参者やお金が欲しい神達を雇って、『チートシード』という種を用いて転生を行っているらしい。

 最初の騒動は王都にて行われ、転生者をばら蒔く役としてローゼルザーンが颯爽と登場・・・か。

 しかし、ネフェルマリーに言いくるめられてあっさりと寝返った・・・と。


「で。雇用主から解雇されて気絶したローゼルザーンから、雇い主が回収する前に『チートシード』を全部、横取りしてきたんだ」

「なるほど・・・」

「ね? 回想とかいらないだろう?」

 ・・・そんなに回想が嫌なのか?

 結構、昔を詳細に思い出せるし、浸れるから好きなんだけれど・・・まぁ、他人の回想とか欠伸が出るほどつまらない事もあるし・・・。

「そういうわけで、君にコレを解析して対処方法などを見つけて欲しいんだ」

「・・・私じゃなくても、おまえなら簡単にできるでしょうに」

「いやいや、私の分野外さ。しかし、君ならできる。あと、私はこれから忙しい」

「どういうこと?」

「その種を用いた転生者は、チートスキルというこの世界には存在しない技を以て暴れる上に、並みの兵隊や騎士では太刀打ちできない実力もある」

 チート・・・そうか。

「現在、分かっているのは転生者を殺しても瞬時に種を作り上げて付近にいる生物に向けて射出するということだ。コレを即座に焼き切れる火力を出せないと対応できない」

 それは厄介だな。

 種を使った転生者を倒しても、種を射出することで新しい身体に転生できるのだろう。放置していれば、ほぼ永久に転生し続けることができると想像に難くない。

 そうなると・・・。

「現段階では、神々の改造アバターじゃないと処理は難しい。最低でも、宮廷魔法術師になれるだけの実力が求められるね」

「対応できるの?」

 外にいるだろう神・・・もしくは天使の数は限られているだろう。中でも戦闘が可能なアバターは十分に確保できているのだろうか?

「そこで私の出番なのさ」

「え? おまえが出るの?」

「そうだよ。正式に依頼を受けたからね。今度こそ、しばらくは帰ってこないと思う」

 ・・・え?

 ウィッチを雇う? 報酬は大丈夫なのだろうか? 相当な見返りが必要のはず・・・あ、でも割と気まぐれだったりするからな。

 なにか興味のあるモノで手を打ったのかしら?


「さて、次ッ」

 

 え!? 次ッ!?

「まずは報告書をちょうだい」

 ・・・報告書!?

「えーっと、ちょっと待って」

 私が報告書を取り出していると、ウィッチはちゃぶ台と座布団を用意して煎餅を含めた茶菓子を詰めた器を取り出した。

 相も変わらず、どこから取り出しているんだか・・・。

「ま、楽にしてよ。報告書を読ませてもらうね」

 取り出した報告書をウィッチへと提出し、私は敷かれていた座布団に座る。

 とりあえず、茶菓子の饅頭を手にして食べる。ウィッチが報告書をパラパラ漫画のように目を通していく。それで「ふむふむ」と頷いているのだから、読めているのだろう。

 口の中に残る餡子の余韻を楽しみつつ、お茶を啜って喉の奥へと流し込んでいく。

「はー。なるほどね・・・それでアライラーちゃんが空を飛んでいたわけか・・・いやはや面白い方向に力をつけたね」

 報告書を読み終えて、今までに見た事が無いほどのニッコリ顔でヘラヘラ笑っていた。

 その表情からは、何を考えているのかを読み取ることはできない。どのみち、誰にもコイツが考えていることなど分かりはしないけれどね。

「読み終わったのであれば、聞きたいことがあるわ」

「なにかな?」

「アライラーとルッタの事で確認をしておきたいことがあるんだけれど・・・まずはアライラーの方で」

「いいとも。答えられることであれば、答えよう」

 ・・・というか、私が何を聞きたいのか分かっている感じだな。

「あの『鑑定』・・・ダーゼルガーンが作った物から、おまえのお手製に入れ替えただろ」

「うん。入れ替えた」

 やっぱりか・・・。

 どうにもおかしいと思ったのよね・・・『万能邪眼』のメンテ時に、より詳細な解析を掛けて気づいたけれど・・・上手い具合に邪神製の加護で偽装されていたものだ。

「そもそも、ダーゼルガーンにあんな気の利いた解説ができるわけないと思っていたのよ」

「いやはや、その通りだね」

 神の加護を入れ替えるとか、とんでもない事をしてくれているけれど・・・今はいい。

 それよりも、ウィッチがそうした事が重要でしょう。ダーゼルガーンの用意した『鑑定』という加護が、それだけ欠陥品だったということか・・。

「なにせ、邪神君が用意した『鑑定』は・・・日本人だった君なら馴染み深いと思うな」

 私になじみ深い『鑑定』? いや、私じゃなくて日本人だった私に・・・か?

 えーっと?


「オープン・ザ・プライス!ってね」


 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

「は?」





 あいつ、マジでぶっ殺してやりたいんだが?

 ホントにマジでぶん殴ってぶっ殺して神殺しの獣に食わせてやろう。そうしよう。それがいい。

「いつもの通り、あまり詳しい話は聞けなかったか」

 アライラーとルッタの加護に関して、ウィッチに確認するように私が調べて得た情報を話した。

 気に入らない事に、答え合わせをする教師のような態度で頷き返してくるだけのウィッチに苛立ちを覚えたものの、私が調べて得た情報は肯定される。

 アライラーがダーゼルガーンより貰った加護の一つ『鑑定』は、本人が『お宝鑑定の鑑定』と説明したことで、値段と真贋の表示のみとなっていたらしい。

 さすがにダンジョンでは何の役にも立たないので、ウィッチが加護を解析して作り直した物を改めてアライラーに組み込んだという・・・なんでそんなことが出来るんだ?

 問いただしたところで答えないし、問いただしたけれど答えてくれなかった。

 そして、主力で使っている『万能邪眼』だが、万能と言ってもダーゼルガーンの知識量に限定されているから、出来ない事も多い。

 また、詳細なイメージよりも単調なイメージを重ねることで、邪眼が自動的に再現するために技を選択してくれる仕様となっている。

 ルッタがより詳細なイメージを・・・と考えているようだから、眼を覚ましたら教えないといけない。

「どう教えようかしら?」

 変に気を使った事をすると、気落ちしそうだからな・・・普通に教えるか。


「ぎぎ? ぎぎーぎぎ?」


 お? 考え事をしていたら村の広場に出たか。

「どうやら、まだ生きているようね」

「ぎぎぎぎぎ?」

「うん。何言ってんのか、まったく分かんないわ」

「ぎぎぎぎ? ぎぎーぎぎ? ぎぎぎぎぎ・・・ぎっぎぎぎぎぎぎ?」

「ぎーぎーうるさいわッ! 虫の鳴き声とか耳障りでストレスが溜まるっつの!!」

「ぎぎぎー・・・」

 ・・・そんなーって言っているように聞こえるわ。

 しかし、参ったな・・・ルッタが居ないと翻訳ができない。アライラーは私の言葉を理解しているが、私はコイツの言葉を理解できないので、どうしたものか。

「そこの地蔵・・・いや、大道人だったかしら?」

「はい、なんでしょう?」

「ルッタがしばらく起きないと思うから、代わりに喋ることはできないかしら?」

「はい。喋ることはできますよ」

「そうか・・・そう・・・」

 ふ、普通に応対してきたせいで、素で気づかなかった・・・。


「え? おまえ喋れるの?」

「はい。主様に強化をしていただけましたので、喋ることができるようになりまして」

 そういえば、道標人とかいう地蔵に魔力を追加したことで、喋るようになったという話を聞いたことがあるわ。

 それで大道人も喋ることが出来るようになっていたと・・・。

「なら、なんでもっと早くに言わない?」

「主様と声が同じですので、私が喋っては紛らわしいでしょう?」

 ・・・確かに。

 その声が二重で聞こえたりしたら、紛らわしくて混乱しそうね。

 だが、この地蔵が喋るという事は、最大の懸案が一つ解消できるというもの。どうしようかと困っていたけれど・・・。

「分かったわ。大道人!」

「はい?」

「ルッタの代わりに、救助用魔法術具でメッセージの代行を頼みたいのだけど」

「なるほど。承知しました。主様の擬似分身として、演じて見せましょう」

 ・・・擬似・・・分身ね。

 やっぱりそうなのか。ゴーレム的な石人形の類かと思ったけれど、ルッタの指示によく動いているから、もしかしたらと思ってはいた。

 ただ、地獄変の解析はどうにもうまくできないから、詳細が分からないのよね。


「よし。とりあえず、当面の問題は解消されたわね」

 メッセージを送れない事で、外では死んだと思われても面倒だ。

 地球ならDNA鑑定とかあるけれど、この世界にはそんな物はない。生きているという証明をするには、地道な生存報告を続けるしかない。

 とはいえ、あの子は度々気絶しているからなー。

「主に、あの子のせいで」

「・・・ぎ?」

 私は、アライラーを睨みながら思っていた事を呟いてしまった。

 まぁ、私が何を考えていたかまでは分からないだろうから、特に気にすることもないか。

「大道人。あとでメッセージ内容の相談をするから、返信の内容を考えて置いてちょうだい」

「承知しました」

 さて、これでしばらくは・・・『チートシード』の研究に集中できそうね。

 あんな物を用意してきたということは、転生者同士を戦わせて遊ぶつもりなのだろう。殺戮劇を好む奴らしい手法だ。それに、賭け事にも使えるし・・・連中め。

 

「ところで・・・大道人?」

「はい? なにか?」

「・・・アライラーは、なんで簀巻きになってんの?」

 石の鎖で身体の半分以上が巻き固められている様子に、私は聞いておくことにした。


「・・・・・・・・・絶対安静」


 今、長い沈黙からの答えを貰う際に・・・ニコッと笑った。

 その笑みを浮かべると同時に、地蔵の背後で『怨』という字が燃え上がったように感じられた。見間違いかもしれないが、凄味がある。

 まー、日ごろの鬱憤が溜まっているだろうしねー。

 

「ふむ・・・まぁいいわ。養生しなさいなー」

「ぎぎぎー」




次回は、ルッタとアライラーが大道人・アライラーの検証?をする話の予定です。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ