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25 〔壺外編〕02 ここで会ったが運命

 あけましておめでとうございます。

 新年のご挨拶をしたいために大急ぎで作りましたため、話しが長くなってしまった上にいろいろと雑になってしまいました。

 申し訳ございません。


 今年もよろしくお願いします。

 活気ある城下町を歩く私ことネフェリス・コイノーと、王国の第五王女であるアリスリア。

 目的地は、ローゼルザーンが宿泊しているホテルだったが今は別の場所を目指して歩いている。

 そもそもは約束通りにチートシードを買い取るため、こうして城下町を歩いているわけなのだが・・・。

「お、おい・・・アレ・・・いや、あのお方は」

「ままー、メイドさんー」「し! 見ちゃいけません!」

「お、また第四王女が降りているのか?」「今度は何軒で被害が出るか・・・賭けようぜ」

「まて、おまえら! コイノーのお嬢さんが隣に浮いている子供は・・・銀姫だぞ!」

「おいおい・・・店が塵も残さず消し飛ぶ闇魔法の銀姫さまかよ!」

 ・・・そうして、店を閉じて逃げ出す住民。

 私は、横をシレッと浮遊している若干三歳児のお姫様を見た。

「おまえ、なにした?」

「何とは酷いおっしゃり様ですね。あなたとアニスニア姉さまの後始末で、ちょっと瓦礫を消滅させただけですよ」

 あの闇魔法を使ったのかよ・・・闇に対する一般的なイメージが悪い方向にあるのは知っているだろうに。

「まったく・・・闇魔法を使用するだけで、堕天使だのと・・・闇属性の純天使であるというのに」

「だったら、まずは天使のような笑みを浮かべて見せろ」

「何をおっしゃいますか・・・日々明朗快活に第五王女としての責務を全うしているというのに」

「無表情で笑みを浮かべるな。やべー悪魔の微笑みにしか見えないわ」

 それと、三歳児とは思えないほどの活舌だ。スラスラと言葉を発し過ぎている。せめて、舌っ足らずな感じで喋っているのならば年相応って感じも出ただろうに。

 すでに、王女としては女王レベルの仕事をそつなくこなしているから、弁明しても効果は無い。

 ・・・むしろ、三歳児がやっている仕事の一割も満足にできない上の姉共はなんだ?

 まぁ、今はそんな事を聞いている時でもないか。

「で? ローゼルザーンはこっちでいいの?」

「はい。宿にいるのかと思えば、商業区画で屋台をやっているのですよ」

 先日の一件で、大々的に宣伝すると言った悪神の新商品『チートシード』であるが、コレのデモンストレーションとして地球から転生者を大量に持ち込んできたことが発覚した。

 私たちが敵対している連中は、この世界へ入り込んできた時点で分かるようにセキュリティを組んであるわけだが、連中はアルバイトを使って行動を起こしたのである。


 その結果、私たちと知り合いである新米女神のローゼルザーンがアホ面でやって来た。


 で、今まさにアイツが持っている商品を買い取るために城を出たわけだけど、どうやら約束していた宿屋を出て飲食系の屋台を開いているらしい。

 第五王女であるアリスリアの使い魔である白ヤモリを用いて監視していたことが、功を奏した。

 っということで、私たちは城下町でも飲食店が並ぶ区画までやって来ているわけね。


「いらっしゃいませ~。美味しい牛串はいかがですか~。新進気鋭の凄腕料理人が作る最高の牛串ですよ~ッ!! その腕前は、まさに料理界の魔王!! ご賞味あれ~」


 ふむ・・・あいつ、ああいう経験があったのか? それとも才能があるということなのか?

「割と板についているわね」

「はい、どこかでそういう経験でもしていたのでしょうか?」

 ちょっとこのまま眺めているのもいいけれど・・・しかし、可愛そうなほどに屋台は閑古鳥が鳴いているわ。

 涙目になって客を呼んでいる姿が、ちょっと憐れね。

「ほら、声を掛けましょう」

「もう少し、あの涙目を見ていたいわ・・・カメラとか無いかしら?」

「地球産のカメラなどありませんよ」

 くっそ・・誰か一眼レフカメラを開発できる勇者を呼べよなッ!

「ほら、もういいでしょう? 話しかけましょうよ」

「分かったわよ! ほら、分かったから服を引っ張るな」

 アリスリアに引っ張られるようにして、客が寄り付かない屋台へと向かう私。正直、これほどに避けられている屋台に近寄っては、それだけで悪目立ちしてしまうけど・・・。


「じゃ、牛串を二本もらいましょうか」

「あ! はいッ! いらっしゃ・・・お、お姉さま!?」

 

 私の顔を見るなり、大泣きして抱き着いて来た。

 やめろよ! 今の私は9歳で、おまえはどう見ても15歳ぐらいの娘だろうが!?

「ええい、鬱陶しい! 一体全体どうしたっていうのよ!」

 人目もあるんだから、少しは気を使え!

「うぇーん! おねえざまあ・・・・」

「は? ざまぁ?」

「ち、ちちち、違います! お姉さまとお呼びしたのですぅ!」

「お姉さまとか言うな! この見た目でお姉さまはお前だろうが!」

「見た目など些細な問題です。私にお姉さまをリスペクトする心あり! お姉さまに私を愛してくれる心があれば、すべては些細な問題なのです!」

 誰が愛するか!?

 今も昔も、私が・・・いや、今はどうなのだろうか・・・ダーゼルガーンへの恋心とか。

 ふと、考えてみると昔の私が呆然とするほど冷めている自分がいる。そして、地球での記憶を修復することに焦っているのが、私の本体だ。

 今後、どうするつもりなのか・・・。


「とりあえず、串を二本くださいな。クックルーク殿」

「承知しました。少々、お待ちくださいませ」


 ローゼルザーンでは話にならないと、アリスリアが私たちを無視して屋台で串を焼いている男。食の魔王『クックルーク』に話しかける。

 こいつは、ハースニングとは異なり、圧倒的に貧弱な魔王だ。料理系に特化した魔王と言える。

 いろいろと訳ありだけれど、こうして問題なく存在できているということは、本当に生物兵器としての情報量が大したことないのだろう。

「おまえは、いい加減に私から離れろ」

「あぁ~・・・お姉さまの香り・・・ぶほ」

 私は、気持ち悪さに思いっきりぶん殴ってやった。

 そして、適当な飲食用のテーブルに引きずって、ローゼルザーンを座らせる。

「で? なんでこんなところで牛串の屋台なんぞやってんの?」

「あ、はい・・・実は先日のお城でデモンストレーションを終えた後に、私たちは宿屋に戻ったわけでしたが・・・そこで雇用主の方から連絡があったのです」

 ふむ・・・あの連中の誰かが、確認の連絡を入れたのでしょうね。

「最初は、転生者による成果を喜んでくださったのです・・・しかし、お姉さまにサンプルとして商品の一つを渡したと報告したら、急に態度を一変されて・・・」

 また泣き出した。

 と、そこにクックルークがやって来て、ローゼルザーンの涙をハンカチで拭った。

 そして、アリスリアが牛串を食べながら憎々し気に言う。

「牛肉は、なぜにこのような美味なのでしょう・・・ヤモリ肉とて、決して負けてはいないはず」

「・・・牛と張り合うなよ」

 心底どうでもいい対抗心を燃やしていたので、放置した。

 涙を拭いている間に、クックルークが代弁する。

「余計な事をするな。などの罵詈雑言を言われ、その後にバイトをクビにするとして一方的に告げられたのです」

「つまり、バイトをクビになりましたぁあ!!」

 ・・・ま、あの連中は最初からクビにする気だったのは間違いないから、どのみち適当に難癖をつけて切っていたことだし、それは今はいいか。

「で? 種は?」

「わ、私・・・クビと言われたショックで気絶してしまって・・・目が覚めたら種は消えていまして・・・ご、ごめんなさい。お売りする物がありません! ごめんなさい!!」

 むぅ・・・抜け目のない。サンプル品は一つあるけれど、研究するなら同種の物があと数個は欲しいところだったけれども。

 しかし、そうなると・・・。

「で? なんで宿を出てこんなところで屋台をやっているわけ?」

 少なくとも、私たちが宿を訪ねるまでは待つべきだったろうに、こんな場所をレンタルして牛串を売るとか・・・。

 牛串は一番オーソドックスな商品であり、もっとも人気があるメニューだ。この店だけじゃない。屋台通りにはすでに複数の同系店が存在している。

 しかし、どれも立地が良い場所を借りている上に、老舗と言ってもいいほど住民から親しまれているから、新規開店の屋台は分が悪い。

 ローゼルザーンが自ら売り子として呼び込みをしたところで、この城下町では見かけない新参者となれば、だいたいは警戒して遠巻きにする。

 ま、料理の魔王とか言っている時点で、みんな警戒するからね。それだけこの国では魔王と言う言葉が嫌悪されている。

 伊達で数十冊におよぶ勇者伝説が残っているわけではないのだ。

「お姉さま方にお売りする品が無くなってしまった以上・・・自分で稼ぐしかないと思い・・・クックルークは料理の魔王ですから、絶対に売れると思ったのですが・・・まるで売れません」

 そうなるわ。

 しかし、どうしたものか・・・保護してやってもいいけれど、どういう理由で保護するかなぁ。

 私が頭を悩ませていると、アリスリアが袖を引いて来た。

「なに?」

「私に任せてくださいませ」

 ・・・別にいいけれども。

「ローゼルザーン様」

「ん? あんたは、こないだクソヴァルキリーの隣にいた・・・うん?」

「お久しぶりですね。前にお会いした時は、私がパーラハラーン様の眷属天使であった頃でしたから、気付かれないのも無理なきことと存じます」

 訝し気な顔をして、アリスリアを覗き込むローゼルザーンだが・・・思い出したような顔になって驚く。

「・・・アレ? あ、な、なんであんた・・・いえ、あなたが!? 光の眷属天使じゃ・・・」

「はい。光の女神パーラハラーン様の眷属天使第一席を今は退きまして、邪の男神ダーゼルガーン様の眷属天使第三席を務めさせていただいております」

「・・・ダーゼル兄さまの!? マジで!?」

「マジです」

 目を点にしているローゼルザーンに、無表情で答えるアリスリア。

 まぁ、急に言われても理解が追い付かないモノよね。

「説明を省かせていただくことをお許しください。いずれ、ゆっくりと時間が取れるときに経緯を説明いたしますので」

「あ、はい・・・」

 おいおい、まだ目が点から回復できてないな。

「さて、今後の生活ですが・・・クックルーク殿を魔王と呼称するのはお止めになった方がよいですよ」

「え? なんで?」

「この国では、1000年に一度の魔王復活で国が滅茶苦茶になるため、多くの民が魔王を忌避しています」

「そうなの!?」

「はい。それゆえに、ここで商売をしても売れませんよ。この串がいかに美味であってもです」

「そ、そんなッ! そんなーぁあッ!!」

 あ、泣き崩れた。

 それにしても、止めないと虚無の笑いを声を上げ続けていそうね。

「でも、うるさいから泣き止みなさい」

 小突くように、私はローゼルザーンの頭を殴った。

「あいたー! お姉さまの拳・・・ジンジンと私に浸透してくるぅう」

 やり直しだ。思いっきり殴ることにした。

「あぎゃーッ!」

 ったく。

「話が進まないので、やめてもらえますか?」

「はいはい。続きをどうぞー」

「では続けます。よろしいですか? ローゼルザーン様?」

「は、はい・・・お願いします」

 私が殴った部位を抑えて、ローゼルザーンは席に座り直す。私が殴ったことで、吹っ飛ばされていたからね。ちょっと強く殴り過ぎたか・・・。

「では、続けます。実は、私には身の回りを世話してくれる方が、こちらのネフェリス嬢しかおりません」

「はー?」

「ちょっと、第四王女アニスニア姉さまの奇行を止めるべく、派手に動き過ぎてしまったので常人たちにはドン引きされてしまいまして」

「えー」

 ま、ドン引きする話しよね。

 そもそも、奇行は第四王女のアニスニアに原因があるんだけれども・・・私とアリスリアはそれを止めるために動くしかないから、人間には同列に見えてしまうんだろうね。

「なので、専属の侍女と執事を募集中です。どうでしょう? ローゼルザーン様がよろしければ、私の侍女として雇われませんか?」

「よろこんで!!」

 そ、即決!?

 なんの迷いも無く、アリスリアの勧誘に乗ってきた・・・ダメだわ。こいつ。

「クックルーク! これは渡りに船よ! 生活費の安定入手が確定したわ!」

「・・・いえ、もう少し慎重に職務内容を吟味した方がよろしいのでは?」

「大丈夫! ダーゼル兄さまの眷属天使となったなら、絶対に信用できるわ! なにも心配ないわ!」

 ・・・あ、こいつダメだー。どこからそんな自信が湧くのか・・・いや、沸いているが正しいか?

 こいつにだけは関わりたくねー。

 クックルークもため息を吐いて諦めてしまったようだ。

「では、引き受けていただきますね?」

「うん! さっそくだけど雇用の契約をしましょう! あなたの気が変わらないうちにね! 後でやっぱり雇うのをやめたとか言うのは無しだからね!」

「はい。ローゼルザーン様こそ、退職願を出すのはダメですよ?」

「出すわけないわ! 私は邪の・・・いいえ、悪の女神ローゼルザーンですもの! そんな情けない事はしないわ!!」

 アリスリアが、これ以上無いほどニコニコしている。

「では、正式な契約は後程。ネフェリス様、これであなたとアニスニア姉さまが出張中の労働力を確保できました。ありがとうございます」

 ・・・これはヤバいな。

 いつになく、アリスリアが上機嫌だ。

「・・・ほどほどにしなさいよ?」

「えぇ・・・承知しておりますとも・・・ひひ・・・うふふふふ」

 ・・・あぁ、強く生きろ。ローゼルザーン。



 後日、私がネルゾイに向けて出発した後に働きだしたローゼルザーンは、ヤモリに泣き叫びながら気絶したそうだ。

 ・・・やっぱり危機管理能力がないじゃないか。ったく。


 



《ネルゾイ~。ネルゾイ~。終点、ネルゾイでございます~》

 はぁー。やっと着いたのか・・・。

《当車両は、6時間のメンテナンスとなりますため、お降りのお客様は、お荷物等のお忘れ物がございませんよう、お気を付けください》

 王都を発って早数日。

 寝台特急の最後尾となる車両が、丸ごと一つ王家専用車両に変更されたスペシャル仕様だ。そのおかげで、実に快適な旅ができた。

 寝台車のベッドって、貴族用の高級車両でもちょっと硬くて寝心地悪いんだけど、王家専用車両の布団はフッカフカだ。だから、列車の震動が伝わってくる中でも快適なのだ。

 まぁ、アニスニアにはどうでもいいモノなんだろう。

 コイツは寝相が悪いから床に転がって寝ているのよね・・・それでいて、布団に戻そうと近づくと攻撃してくるし・・・。

《また、万が一にお忘れ物をされた場合は、駅員ならびに車掌にご相談ください。本日は、ご利用いただきまして、誠にありがとうございました》

 ・・・さすがね。

 鉄道事業に携わっていた勇者だけあって、駅のアナウンスは日本語みたいな間延びした発音になっている。

 ここ。一応は英語に似た言語の国なんだけど・・・日本語に似た言語は第六国家なんだけれどね。

 勇者が日本の鉄道事業関係者だったから、こうもなるか・・・。

「ほら、とっとと起きなさいよッ」

「うー・・・ヤモリの串焼きは・・・もう、もう、お腹いっぱいですからぁ・・・」

「・・・はい。おかわりよ」

「ギャーッ!! もう! もういらないですよぉぉぉおおッ!! お? おぉ? ここは?」

 ここは、王族専用車両の王族専用寝室だ。

 護衛騎士が王族を守護するために寝室は車両の中心に据えられ、部屋を囲む廊下には近衛騎士が配置されている。

 また、騎士たちの寝床は王家専用寝室の前後を挟む形で設置され、昼夜交代で休憩を挟み、職務に励む。

 ま、アニスニアの護衛とかやる騎士が居ないから、今回は経験の浅い近衛を中心に教導官数名の遠足みたいになっている。

 気の抜けた護衛どもにため息しかでない。

 ま、食事は王家専用車両の後方に設置された厨房にて行うが・・・ちゃんとしたシェフはいないので私が用意することとなる。

 アリスリアから預かった牛串を超えるための試作品・・・『ヤモリ串』を大量に焼いてアニスニアに食わせ続けた。

 とにかく、絶えず食わせ続けなければならないので大変だったが、ついでに騎士共にも配り続けた。

「おはよう。ネルゾイに到着したよ?」

「・・・私、王女なんですよね?」

「どうした? 第四王女殿下?」

「・・・各駅停車だというのにッ! 駅弁を全然食べていません!」

「そんな予算は組まれていないわ。ネルゾイでお化け野菜を堪能するためには、他を切り詰めるしかないのよ」

「む・・・む・・・」

 駅弁。

 これも、かつてこの世界に召喚された勇者が駅の建造時に雇用を生むための策として定着した産業になる。

 地球の日本みたいに短距離に駅があるわけではない。

 そのため、次の駅までの距離を考えて駅弁なるものを考案した。と勇者伝説には残っているが、私は知っている。

 あの勇者は、列車旅で食べる駅弁の美味さを力強く語っていたからな。私も、当時の公爵家当主として事業を支援していた一人だ。

 しかし、専用車両には簡易なれど厨房が備えられており、ここで積み込まれた王族用の食品を調理するので駅弁など必要ない。

 本来なら、城勤めのコックが同行するけれど・・・ま、第四王女と第五王女だからね。仕方ないね。

「ほらほら、ここには仕事に来ているんだから・・・とっとと支度を済ませて下車するわよ」

「はーぃ」

 テンションが低い・・・ったく。

「ほら、コレを食べなさいよ」

 そうして、私が取り出す物はアリスリアから預かっていた切り札だ。

「・・・駅弁!?」

 そう、出かけに渡された物は、駅弁だった。

 ネルゾイに到着した頃には、牛串に対抗する新しいヤモリ串を食べ過ぎて、飽きていることだろうから・・・という事で、アリスリアが口直しも込めた駅弁を持たせてくれたのだ。

 なんだかんだと、優しい部分があるじゃないか。

「アリスリアが、最後に口直しで・・・と、私に持たせた物よ」

「わぁ~ッ! えへへーッ!」

 一瞬で眩しい笑顔を浮かべ、実に活き活きとした様子で駅弁を受け取る。

 しかし、この駅弁は私の記憶では見たことのないパッケージをしている・・・どこかの新作?っと思ったが、この世界は新しいモノを生み出す力がないので、それが可能なのは・・・。

「さっそく、いただきますッ!!」

 駅弁を閉ざす封を解き、蓋を開けた。

 その時だった。

 アニスニアの顔から感情が抜け落ち、私は「あー」などという声を思わず漏らしてしまう。


「・・・ヤモリ」


 その弁当は、ヤモリのかば焼き弁当・・・いや、うな重ならぬヤモリ重と言うべきか?

 弁当の端に紙が挟まっていて・・・私はそれを無言で引き抜くと、折りたたまれていたソレを開いたことで手紙だと分かる。

『ヤモリ肉の美味を追求するため、さらなる可能性を試作しました! ぜひとも感想をお願いしますね!』

 ・・・もはや病的としか言いようのないヤモリ愛。

 私は、憐みの目でアニスニアの肩に手を置いた。

「・・・がんばれ」

「・・・はぃ」





 王家専用車両から駅のホームへと降りると、一人の男が待ち構えていた。

「やぁ、少し時間がかかったようだね」

 名をベルドガナ・バンズガンズ。

 若干15歳にして、国に実力を認められて召し抱えられた宮廷魔法術師が一人。

 一言で言えば優男。どこか影のある微笑みを浮かべている様は絵になるため、多く女性たちを虜にした上に、宮廷魔法術師で唯一のファンクラブ持ち。

「待たせたわ」

「・・・ネフェリス・コイノー。君は現在、第四王女殿下の侍女だろう? 僕にも礼儀を尽くすのが仕事じゃないかな?」

「私、公爵家。おまえ、侯爵家。分かった?」

 そうとも、バンズガンズは侯爵の位にある。すなわち、バンズガンズ侯爵家となるわけだが、この国では三大侯爵家と数えられて、そのうちの一つ当たる。

 主に、軍事面で影響力を持つ家で、今代の当主であるボルドガナ・バンズガンズ侯爵は、かつての第二国家から受けた侵略戦争で多大な武勲を挙げた猛者である。

 そんな男の息子・・・長男は超ド級のクズ野郎で有名だ。

 貴族の子息令嬢が入学する学校にて、女生徒を暴行した挙句、低層を奪うなどの暴挙を繰り返し、退学となった経歴がある。

 つまり、バンズガンズ家の評判は最悪。

 当初、クソそのものと言っても過言ではない長男のせいで、次男であるベルドガナは周囲から嫌煙されていこともある。

 が、そこは内外より放出されるイケメン力で周囲からの評価を覆し、実力を示して今では宮廷魔法術師だ。

「はー・・・やっとネルゾイに到着ですかー」

 私の後ろから、遅れて降りてきた第四王女殿下が、ちょっと疲れが出た顔になっているが、それは列車での旅路で食べたもののせいだろう。

 まぁ、王都を出発してからずっとヤモリ肉を食べ続けていたのだから、疲れた顔にもなるか。

「第四王女殿下。お疲れのことと思いますが、今は王女としての務めを頑張ってくださいますよう・・・お願い申し上げます」

「はーい・・・はぁ」

 ダメそうね。

「ネフェリス。侍女の君がしっかりとケアしないから、殿下がこのようになるんだろう」

「私のせいにするな。食欲旺盛で抑えるのが大変なんだぞ?」

 王都より共に乗ってきた近衛騎士・・・の見習い・・・たち車両から続々と降りて駅を走り回っている。王族の安全を確保するために周辺警戒と報告、連絡、確認を繰り返しているようだ。

 まぁ、訓練目的の近衛騎士だから右往左往するのは当たり前だろう。

 教導の騎士数名が今後のスケジュールを確認しつつ訓練をどう続けていくかを話し合ってもいたし、敵性存在が出現した場合の対応もすでに決めているから、とりあえず準備が整うまでは駅のホームで待機しているとしよう。

 ・・・正直、王族を放置していおくのもどうかと思うけどね。

「あのー、口直しの食べ物はないですか? ヤモリ肉を食べ過ぎたからか・・・口の中にお肉が張り付いているような感覚があって気持ち悪いです」

 口臭が酷いことになっていそうね。

「のど飴でしたら、持っております」

 おや? ベルドガナめ・・・なかなかに用意の良い事で。

「いただきます♪」

 宮廷魔法術師のベルドガナから、のど飴を受け取った第四王女は嬉しそうに口の中へと放り込む。その飴が毒だったらどうする?って思うが、コイツには通用しないだろうから何も言わない。

「ところで、ネフェリス」

「なによ?」

 アニスニアに向ける眼差しには慈愛のような雰囲気を持っているベルドガナ・バンズガンズであるが、私に向ける眼差しには嫌悪と軽蔑が渦巻いている。

 それゆえに、声にも棘がある。

「対魔王兵器の開発は・・・順調なのかい?」

「・・・アイツが教えたの?」

 対魔王兵器開発計画は、私の管理下にある物ではない。

 先日、その経過報告を受けたばかりなので、正確な情報と言っていいものかも確証はない。少なくとも、関わっていない私が責任者であるダーゼルガーンを差し置いて答えていいモノではない。

「ああ。ダーゼル・・・いや、現代はユアヒム・レーン子爵令息だったな」

 アイツ・・・余計な事を教えるなっつの。

「彼が王都を発つ前に、僕に言っていたんだ。今度こそ、僕の相手に相応しいモノを用意できるから、期待して置け・・・とね」

 ・・・その自信はどこから出るんだ。あんのバカ。

「まったく、あの自信はどこから出てくるんだろうね?」

「バカだからよ」

「うらやましい限りだ・・・どこまでも能天気で・・・」

 いつまでも昔の事を・・・という気持ちは湧いてくるが、コイツからしてみれば当然の感情だろう。生まれ育ち、守ると決めた世界を私とダーゼルガーンが消し去ったようなモノだからね。

 ただ、魔王ハースニングを造るための工程だったわけだが・・・。

「ま、アイツも必死なのは・・・理解しろとは言わないけれどね。知っておいてちょうだい」

「・・・ああ、そうだね」

 ベルドガナは苦笑するが、私としては笑っている場合ではない。今現在で、そのダーゼルガーンことアバターのユアヒム・レーンと連絡が取れていないのだから。

「それじゃあ、話を変えよう。現状における悪神たちのアプローチはどのようになっている?」

「転生者よ」

「・・・まさか、魔王の量産化に成功したと?」

「いいえ、もっと面倒な事をやってきているわ」


 私は、手に入れた『チートシード』の事を思い出す。

 それと同時に、ベルドガナ・バンズガンズに連中の特徴を説明した。


「・・・なるほど、これまで君らが魔王対策で召喚していた地球人をね」

「そうよ。悪神共の事だから正義の心とかそういう類の人間じゃない。しょうもない性根の人間を続々と転生させてくるわ」

「彼女らのやりそうなことだな」

 今日までの周期にて、幾度か対面しているからこその感想か。

「ふ・・・僕には理解できない思考だよ」

「しなくていいし、できる奴はもっとヤバいわ・・・」

 そうとも、チートシードなどという道具を用意してきた時点で、連中の頭にあるのは殺戮劇だけだろうしね。

「で? あんたは戦えそう?」

「さぁ? 転生者の実物を見ない事には・・・判断できないよ」

 いつも通り、慎重な男ね。

「いかに僕が、魔王ハースニングであってもね」

 生物兵器『魔王』ハースニング。

 その復活に必要となる依り代の身体が、バンズガンズ侯爵家のベルドガナ・バンズガンズである。



 魔王という存在は、この世界に大きな負荷をかけてしまう。

 1000年に一度、封印から解いて復活させることで、サーバーメンテナンスのような事をしないと、封印を維持することが出来なくなるほどだ。

 しかし、復活させるにしても唐突に行うわけにはいかない。

『さぁ、今日からメンテナンス機関だから、魔王を復活させるぞー』と言って、魔王を復活させようものなら、サーバーが停止するほどの負荷が掛かる。

 このトラブルを回避するために、魔王の復活には人間時間で十年~二十年前ぐらいを目安に、少しずつ封印を解いて、この世界に生物兵器を慣らしていく手順を用いた。

 最初に復活するのが、魔王ハースニングの魂となる情報だ。

 バンズガンズ侯爵家は、魔王ハースニングを復活させるための依り代として用意された一族で、今代のハースニングはベルドガナという次男坊に転生した。

 彼、ハースニングは毎度のように外で活動できる身体を得ると、人間としての生活を満喫する。侯爵家で勉強して学者になったり、軍人になったり・・・そしてある時期から宮廷魔法術師で固定された。

 この世界の魔法術を学ぶのが好きであるようで、今では人間が使用できる四属性の魔法を自在に操れる神童などと言われていたり・・・。

 話が逸れたが、そんな実力のある魔王ハースニングが望むことが・・・自分の力を全て出し切って戦える相手だと言う。

 魔王としてこの世界に君臨しているが、当の勇者がへっぽこであるせいで、毎度のように適当に傷めつけたら勇者が謎の覚醒をして形成が逆転し、封印されるという芝居をやっている。


 ・・・たぶん、それが不満なのだろうね。


 しかし、魔王ハースニングの『全力』と戦える相手を用意するのは最難関だ。

 彼が満足するほどの性能を持つ存在を作るのなら、もう一体だけ『魔王』を作って投入する。という案もあるにはあった・・・しかし、そのための予算と計画を練っている間に悪神共が私たちの公開した魔王作成法を使って魔王を造り、この世界に投入してきてしまった。

 国家も増えて、だいぶ賑わっていた矢先のことで・・・こっちは新たな魔王造りに手が回らなくなってしまったわけだ。

 そうなると、安価で手軽に作れる『対魔王兵器』が理想的だが・・・そんなうまい話があるわけもなく。

 その第一弾・・・と言える代物が『勇者の剣』である。

 ネフェルマリーとパーラハラーンの女神二人が共同で開発した対魔王兵器。その性能は、魔王ハースニングを殺すことも可能・・・なスペックなのだけど、扱える勇者を用意できなかった。

 地球人を呼んでみても、封印するのがやっと・・・思いっきり芝居した上でだけど・・・な性能で落ち着いてしまい、こっちはお手上げ状態だった。

 そんな時に、ダーゼルガーンが立案したのが『対魔王兵器開発計画』である。どうにも自信があるような態度で語っていたが・・・計画が穴だらけなので相手にしなかった。

 関心はあったが、計画書を見て「コレはムリ」と結論が出たのでボツにした物だ。

 それを、自分で進めているのだから・・・アイツにしては珍しいことだ。

「ねっふぇりっすさーん」

「・・・ぅん? なに? どうしたの?」

「いえいえ、近衛の騎士さんが呼んでいますよ?」

 アニスニア服の裾を引っ張られたので、返事をすれば・・・駅のホーム出入口で近衛騎士が私に手招きをしている。

 呼ばれた以上は、無視するわけにもいかないので第四王女をベルドガナに任せて、私は近衛騎士と合流する。

「なに用でございますか?」

 侍女としての立ち居振る舞いを心掛けつつ問う。

「はい。殿下の移動準備が整いました。現在、駅のロータリーにてアルメルデ領の領主様と、ネルゾイ町長殿がお迎えに参上されています」

 ・・・へぇ。

「かしこまりました。それでは、王女殿下をお連れいたしますので、皆さま・・・所定の位置にてよろしくお願いいたします」

「はッ!」

 いいね。騎士の返答としてはやっぱりそういう掛け声よねー。

「あ、それとコイノー殿。こちら、お化け野菜の串焼き詰め合わせとなっております」

「・・・なんで?」

「は! 視察のしおりに記されておりました指示でございます。ネルゾイに到着ししだい、駅にて販売している野菜の串焼きを買えるだけ買い占めて、侍女殿に渡すようにと・・・」

 アリスリアだな・・・。

「分かりました。こちらの品は、私から王女殿下にお渡しいたします」

「よろしくお願いします!」

 それだけ言うと、駅の外へと走り去って警備に加わった。

 私は野菜の串焼きが入っている紙袋を抱えてアニスニアの元へと戻る。そして、今にも飛びつきそうなコイツを牽制しつつベルドガナに言った。

「迎えが来ているようだから、第四王女をエスコートしてやって!」

「・・・承った」

 獲物を狩る猛獣のような眼をしているアニスニアの前に割り込むベルドガナは、そして右手を差し出して言った。

「第四王女殿下。お手をどうぞ」

 目の前に差し出される手を凝視して、アニスニアは問う。

「私の目に見えない飴でもあるのでしょうか?」

「エスコートだよ! 宮廷魔法術師様の手を取って歩けってことだよ!」

 ボケにツッコミを入れる私であるが、コイツの食べ物しか頭にないバカっぷりにキレてしまった。

「それよりも、そっちの紙袋に入っている物をください!」

「これはまだだ」

「まさか、ネフェリスさんが独り占めしようと?」

「するか! お前を迎えに来たから、王女としての仕事をしろ」

「えー・・・そういうのは私の仕事じゃないですが?」

「第四王女の視察ってことで、こんな場所まで来ているんだぞ? お化け野菜を公費で食べるために働けよ。食いしん坊」

「・・・仕方ありません。お腹いっぱいのご飯を食べるために、我慢します」

 我慢をするところがオカシイだろ。

 色々と事情があるのは分かっているが、コイツを採用したパーラハラーンにバカ野郎と言ってやりたい。

 ベルドガナの手を取って、素直に歩き出すアニスニア。

 その眼はずっと、私が抱えている串焼きを詰めた紙袋にロックオンされている。・・・こっそり食べたりしないっつの。

 

 5歳児の子供を相手するベルドガナの紳士ぶりには驚かされる。

 背丈はもちろん、歩幅も合わせなければいけないというのに、屈みながらもズレることなくしっかりと歩いている。イケメンめ。

 駅のホームを出て、駅のロータリーへと到着すると二人の男が並んで待機していた。後ろには貨物として運んできた王族専用の送迎車が控えていた。

 ベルドガナが一礼すると、横に退いた。

 そして、入れ替わるようにアニスニアの前に迎えの男二人が踏み込んでくる。

「ようこそおいでくださいました。第四王女殿下」

「我ら一同。王女殿下のご訪問を、感謝申し上げます」

 地に跪いて頭を下げる二人の男。

 私は、アニスニアに「表を挙げよ」と言う様に耳打ちする。

「衣を揚げよ」

「おもてをあげよッだ! 間違えるなッ!!」

 思わずツッコミを入れてしまった。

「はっはっは! 幼くして何とも立派なお姿です!」

「なんとも可愛らしいことでございますね」

 ・・・さすがベテランということか? フォローが素早いな。

 それにしても、視察のためにアリスリアが特別カリキュラムを組んで、超加速で教え込んでいたはずなのだけど・・・まるで成果が見えない。

「私は、当アルメルデ伯爵領の領主を務めていおります。クローニ・アルメルデにございます」

「私は、当ネルゾイ町長を務めさせていただいております。ヨッタ・レノーダと申します」

 ふーむ。

 これがアニスニアにも出来たらなー。

「ほら、アニスニア様も」

「・・・え? なにを?」

「いや、挨拶されているんだから、あんたも挨拶しろよ」

「・・・あー・・・えーっと、初めまして! 第四王女のアニスニアです!」

 け、敬礼しているッ!?

 ・・・アリスリア? コイツにどんなカリキュラムを組んだんだ?って言いたいところだけど、こいつに何を教えてもダメだろうな。

 私が手を額に当てて天を仰ぎ見ていると、ちょっと戸惑ったようなクローニ・アルメルデの息遣いを耳に拾う。

 だが、場慣れもしているようで、アルメルデ伯爵は笑顔を見せて第四王女アニスニアに手を差し出した。

「車の用意も済んでおります。お手をどうぞ」

 領主と町長の後方に待機する王族専用車両の後部座席が、近衛によって開かれる。あとはアニスニアが差し出された手を取って、車までエスコートされるだけだ。

 しかし、アニスニアはその手を睨む。

「・・・私、お菓子とか持ってないです」

「お菓子の催促じゃねーよ。黙って手を取って、車まで誘導されろ」

「それより! 抱えている紙袋の中にある物をください! いい香りがします!」

「車に乗ったら、くれてやるよ」

 売り言葉に買い言葉・・・と言うのは違っていると思うが、気分は喧嘩を売られたから買った。というのが近いので、私はアニスニアに言い返したわけだが・・・。

 目の前から姿が消えると、車が揺れたので視線をそっちに移す。

「ネフェリスさーん! 乗りましたから! 乗りましたからね!」


 ・・・もうコイツ、廃嫡にしてしまえよ。


 私がため息を吐いていると、完全無視された長二人がため息・・・というか、強張っていた力を抜くように息を吐いた。

「いや、噂以上の姫様だな・・・」

「本当ですね。ビックリですよ・・・僕は」

 なんか、申し訳ない。

 心の中で謝罪をしていると、アルメルデ伯爵が王家専用車両へと乗り込んだ。この車は、貴族用馬車などで採用されている対面式の後部座席となっている。

 そうして、ベルドガナに背を押されて私も車に乗り込んだ。

「ちょっと、私は助手席に―――」

「いや、君はアニスニア殿下の隣だ。串焼きを手渡すように」

 こいつ・・・。

「かしこまりましたぁ」

「うん」

 こうして、車は発進する。

 目指すは、ネルゾイの町役場だ。

「いっただっきまーす!」

 そして私は、お化け野菜の串焼きをアニスニアに手渡した。



 車での移動となると、アニスニアは窓の外を見る。

 それによって、町の様子を知れるわけだが・・・コイツの目に映るのは戦いと食事などに関連した事柄だけであるため、手ぶらにしておくと外に飛び出していく。

 事前にネルゾイの様子を調べて置いたアリスリアは、お化け野菜などを用いた屋台や飲食店があることを考慮して、車での移動中は現地の食べ物を渡しておくことで大人しくさせることを試みた。

 これが正解だったようで、私がアニスニアにゆっくりしっかりと咀嚼するように促しながら野菜の串焼きを渡していくことで、町役場までの足止めに成功したのである。

 いつも通りであれば、勝手に飛び出して屋台や食事処で目をギラッギラッに輝かせながら食べ物を注文していたことだろう。

 うん。アイツに丸投げしたい。

 ちょうど町役場に到着したところで、串焼きは終了だ。

「おかわりは無いのですか?」

 食べたりない顔で、空っぽになった紙袋を見つめてくる。

 ・・・カメラがあればなぁ。その物欲しそうな愛らしい顔を写真にできるんだけどなぁ・・・。

「安心しなさい。町役場にて、続きを用意しているから」

「わぁ! ネフェリスさん! 今日はなんだか優しいですね!」

「私はいつだって優しいわ。おまえがバカなおかげで意地悪にならざる負えないのよ」

「最低ですね。そのワタシさんという方はッ」

「お前の事だバカ姫」

「私!? 酷いです! 私はバカじゃありま・・・ありま・・・あー・・・そういえば、ヴェルキリー時代の上司さんにも『バカ』と呼ばれていましたー」

 ・・・ヴァルキリーの汚点レベルな不祥事をやりやがったもんね。

「ほら、いいからネルゾイ町長のレノーダ殿についていきなさい」

「はーい」


 町役場の町長室へと案内される・・・予定であったが、王族を招き入れるには狭いということで、会議室を即興で飾りつけした部屋に通される。

 一級品の家具で整えられた室内は、まさに王族を迎え入れるに相応と言えるだろう。

「アルメルデ伯爵。礼の物は準備できていますか?」

「はい。事前に指示されました件は、すでに準備済みでございます」

「ならば、すぐにでも始めてくださいませ。アレがジッとしていられるのは5分程度でしょう」

「なんと!? ヨッタ! すぐにでも誰かにGOサインを!」

「畏まりました! シンリア君! シンリア君! 待機してくれている彼らにさっそく始めるようにと!」

「はい! すぐに!!」

 あ、慌ただしい。

 私は、すでに用意されていたティーセットを使って茶を淹れる。

 紅茶だと思う? 残念、ここでは緑茶しか置いていない。だが、玉露だ。しかも解析をしてみれば、第六国家アメツで品種改良された第一級の品であるようだ。

 こんな凄い物をどうやって仕入れたんだ?

 いや、今は茶を出すのが先決か・・・毒の類は含まれていないようだし・・・。

 地球でも、元々は緑茶が飲まれていたらしいのが大昔のイギリス?だ。ただ、緑が毒の色であることを嫌う様になり、紅茶になったという説があるらしい。

 いつぞやに、茶にうるさい勇者がうんちくを語っていたな。

 貴族の飲み物は紅茶というイメージがあるが――――うぬんかんぬん・・・・てね。私は、大変申し訳ない気持ちも湧かないぐらい興味がなかったので、受け流したから覚えていない。

「この度は、当ネルゾイの視察にようこそおいでくださいました。視察の日程などは、確認してありますので・・・すぐにでも向かうことは可能でございます」

「しかし、実は非公式で宮廷魔法術師のベルドガナ・バンズガンズ殿にお願いしたことがあるのです」

 うん? まずは視察日程の確認を行う手筈になっているはずだが?宮廷魔法術師に非公式でお願いしたい事があるだと?

 私が横目でベルドガナ・バンズガンズを見ると、少しだけ身構えた様子でいる。

 しかし、口を挟まずに聞く姿勢であることから、要求をまずは知ることに決めたようだ。

「ルッタ・レノーダの居場所を突き止めるため、そのお力をお貸しいただきたく・・・」

 

 ・・・ルッタ・レノーダの居場所を突き止める?


「ネフェリス嬢。陛下からそういった話があったのかな?」

「私は伺っておりません」

 そうとも、そういう話は事前に聞いていない。

 こうして、視察という名目でこの地やって来たのは、ネルゾイで収穫できるお化け野菜を食べるという目的のためだ。

「もちろん。これは非公式です。宮廷魔法術師様が同行された際に、直接お願いするつもりでおりました」

「それは困りますね。仕事の依頼となれば、まずは女王陛下に許可を得てからではないと」

「そこをどうかお願いしたいのです。以前に、岩盤調査で宮廷魔法術師様の派遣をお願いしましたが、聞き入れてもらえなかったのです」

 うーん。

 つまり、対魔王兵器開発計画によって『神代の大迷宮』と呼ばれている【災厄の壺】に落ちたルッタ・レノーダが、現在地を特定したいわけか。

 救助用魔法術具にて、生存が確認されていることは確かだろうけど・・・救助するためには居場所を突き止めるのは当然だな。

 この話は、長くなりそうだ。

 アルメルデ伯爵家に務める料理長とスタッフにより、ネルゾイ名物のお化け野菜を用いた料理が続々と運び込まれてくると、私は給仕に忙しくなる。

 すべては、第四王女アニスニア用の食事だからだ。

 大人たちが仕事の話をしている間を大人しくさせるためには、アニスニアがガツガツムシャムシャと食事を頬張っている必要がある。ということで、経費で大量の食材を買い込んでおき、現地の料理人にお化け野菜のフルコースを調理してもらって食べさせ続ける作戦だ。

 今回の視察経費は、アニスニアの食費で大半が浪費されているのは言うまでもない。

 頼むから、シェフが芸術的に盛り付けた品を・・・地球の日本は地方で食べられる『椀子そば』みたいに掻きこむんじゃない! 私の苦労も考えろ!!

 一通りの話が終わり、視察に出発するまで・・・私は皿を取り換え続けたのである。

 転職を考えよう・・・そうしよう。



 町役場に到着して、今日の予定は終了・・・とはいかない。

 視察先に近衛騎士の一部を先行させて安全確認を行ったり、移動中の安全を確保するための段取りを再確認したり・・・裏方とも言える護衛たちは右往左往しながら教導官の指示に従って走り回っている。

「運動会でもやっているのですか?」

「今後のために訓練を兼ねている。と説明したでしょう?」

「ふーん」

 興味無さ過ぎだろ・・・。

 伯爵と町長と宮廷魔法術師と護衛部隊の隊長による話し合いによって、今日の予定を再確認しつつ準備を進めてもらう。

 これから向かう先は、ネルゾイの要と言える場所・・・鉱山だ。

 事前情報によれば、鉱山にはレノーダ町長の兄二人が居るらしい。長男のヤッタ・レノーダと、次男のユッタ・レノーダが現場監督と現場責任者を務めている。

 どうも、レノーダ男爵が爵位を賜った頃には長男はまだ子供だったが、戦争で人手不足となった現場に駆り出されていたようで、現場監督という役職で最前線で採掘をやっているそうだ。

 頭を使う仕事より、身体を使う仕事の方が性に合っているとのこと。

 次男が生まれると、男爵の息子であるため貴族学校に入学したそうだが、成績は優秀とは言えず・・・現在は現場責任者として長男の補佐をしているとか・・・役職と職務内容が合っているのかは知らん。

 そして、三男の現町長だ。

 とにかく勉強ができて大変優秀な成績で学校を卒業した男爵令息。だが、彼の凄いところは伯爵令嬢の心を射止めてしまったことか。

 何があったのか? その詳細は不明だが・・・第一国家ハースニングの西地方も辺境と言われる領地を治める辺境伯家のご令嬢で、名をリソス・ティルイス。現在はリソス・レノーダ。

 アリスリアに渡された資料には詳細が書かれていたが・・・他人のラブロマンスとかゲロ吐きそうなので流した。あと、辺境伯とは離縁しているので今日まで一度も顔を合わせてはいないそうだ。

 

 ってことで、どうやら視察への出発準備が整ったようなので、護衛騎士に促されるままに町役場を出る。

 用意されていた王族専用車両に乗り込み、対面式の後部座席にはアルメルデ伯爵が再び同乗することとなる。宮廷魔法術師のベルドガナは助手席に乗り込み、私はアニスニアの隣で給仕だ。

 護衛の車が王家専用車両の前後を挟むように配置され、視察先となる鉱山へ向けて車は発進した。

 一応、アリスリアが組んだ視察予定通りに進んでいるようだが・・・。


 私であれば、このタイミングで仕掛けてくると思うのよね。


 そんな思考をした直後に、町で土煙が噴き上がるのとほぼ同時に爆音が轟いた。

「なんだ!?」

 アルメルデ伯爵が驚きに頭を振って周囲から異常を探しているが、私とアニスニアは速攻で車から飛び出していた。

「ネフェリスさん。物凄い勢いでこっちに迫ってくる何かがありますよ」

「そうね。この速度は人間ではまず不可能だから、例の転生者か神の改造アバターしかないでしょうね」

 護衛の騎士たちが車を急停車させて外に飛び出してくると、私たち・・・ではなく、アルメルデ伯爵の安全確保で動いていた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 王女殿下の安全が最優先ではッ!?」

「アニスニア様は大丈夫です! それよりも伯爵様の安全が最優先なのです!」

「なんでッ!?」

 ・・・ごめんなさいね。要人の護衛訓練は、アニスニアでは務まらないのでアルメルデ伯爵が対象となっているのよ。

 だって、私は悪神のアバターだし・・・。

 第四王女は元ヴァルキリー所属の戦闘天使様に改造されたアバターだからね。普通の護衛じゃ役に立たないんだなー。これが・・・。

「来ますよ!」

「よし!」

 私とアニスニアが身構えていると、町の角から高速で移動する物体が飛び出してきた。

 その姿・・・いや、その形状は・・・。

「バカな! 〇ン〇ルギーニだと!!」

 この世界では、まだ開発さえされていないスポーツカー。車高が低く、地べたを這うような角ばっていて平べったいボディの車。

 しかし、なんであんな物がこの世界に?って思ったけれど、チートスキルとやらで作った紛い物だろう。せめてモザイクを入れろ!

「うーん・・・食べたら美味しいでしょうか?」

「食べ物に見えるなら、眼球と脳みそを交換してこい」

 爆走するスポーツカーを前に、私が迎え撃つべく飛び出す。

 間違いなく、あのスポーツカーはこちらに向かって加速しているのだから、第四王女の侍女である私が真っ先に処理すべき案件だ。

 宮廷魔法術師のベルドガナは護衛と共にアルメルデ伯爵の安全確保に従事しているからね。

 私が飛び出したことで、スポーツカーはクラクションを鳴らしてくる。普通であれば、急いで逃げるのが常識だが、この野郎はさらに加速して轢き殺しにかかってきた。

「いい度胸だ! 子供を轢き殺そうってか!?」

 大人の身体であるならば、片足を振り上げて振り下ろす動作で踏み潰せる車高をしている。が、今の私は9歳児。さすがに片足ではキツイ。

 だから、両足でしっかりと跳び上がった後に、両足で車のフロントへと着地する勢いで地面に縫い付けるように踏みつぶしてやった。


 破砕音が響く中、高速に達していた車はフロントが地面に沈んだことで後輪が持ち上がり、前進する勢いのままに車体をへし折りながらひっくり返る。

 もちろん、私はすでに退避済みだ。

 しっかし、平べったい車だからこその美しいエビぞりとなったものだわ。ふ。

「く、くっそ・・・な、なにしてくれやがる!!」

 車の扉を蹴破って、這い出るように脱出してきた運転手の男。

 全身が血まみれになっているが、怒りで身を震わせつつも血走った眼で私を睨んできた。

「このクソガキが!! 道路では車の前に飛び出るなって教わらなかったのかよ!!」

「法定速度を守って、安全運転を心がけましょう。って教えてもらわなかったのぉ!?」

 挑発だ。

 前回のチート転生者もそうだが、どうにもガキ臭い奴が転生しているようだから、ちょっと言い返してやれば食らいついてくるだろう。という予想でやった。

 そして、私の狙いはドンピシャだった。

「口答えするんじゃねぇよ!! ガキが!! 俺が道路を走っているんだぞ!! 道を譲るのは当たり前だろ! 俺の前を走るな!! 道を塞ぐな! 邪魔するな!!」

 ・・・うっわ。

「道路はあんたのサーキットじゃないわ! ルールを守ってみんなで使うものよ!」

「ルールを守ってないのはお前だって言ってんだよ!! 他人に迷惑かけるなって話しなんだから! 黙って頷いていろよ!! 俺に迷惑をかけるなよ!!」

 ・・・こいつ。

「くそ! どいつもこいつも! 異世界に転生してもコレか!! なんでみんなして俺の邪魔をするんだ! 俺は! ただ気持ちよく走りたいだけなんだぞ!!」

 ダメだ。情報を聞き出したいところだけど、情緒が不安定・・・というか、気が狂っているように見える。

 素なのか・・・それともチートシードによる人格への影響なのか・・・要研究ってところね。

「あのクソ双子が・・・ここは俺のサーキット楽園じゃねぇのかよ!! クソが!!」

 双子?

 私の知り合いに双子なぞいない・・・となれば、ローゼルザーンと同じ新米の神か?

「チートスキル! モータースポーツ・フォーミュラ!!」

 先のスポーツカーが消滅すると同時に、男を覆い包むようにして出現したレーシングカーが突進してくる。

 初速から最高速度に達しているのか? タイヤがスピンする事も無く爆音と共に私へと向かって発進してくるのには驚いた。

 だが、そんなどれだけの速度で突進して来ようとも、体当たりなど私に通じるものではない。

「レーシングカーでッ! そんな無様を晒すんじゃないわ!!」

 私は、突撃してくるレーシングカーに拳を叩きこむ。

 拳と車が接触すると、車が圧し潰されることで圧縮され・・・ドライバーごと肉と鉄の混ざった塊に変えてやった。

「アニスニア!」

「はーい! 天撃一掃ッ!!」

 この直後、アニスニアが光の槍を手に空へと翳すと・・・肉の隙間から飛び出すように生えた茎と花が種を作る前に、光の柱が降って来て焼き尽くされた。

「うーん。ちょっと物足りないですねぇ」

 光の槍を光の柱と見紛うほどのサイズに大きくして、肉と鉄の塊に落としたわけだ。

「あんたは王女なんだから、本来は戦ってはダメなのよ」

「えー」

 

 その時、私とアニスニアを巻き込んだ結界が展開される。


「おー・・・結界ですね」

「ええ・・・結界ね」

 私たちの後方にいた護衛たちの姿も見えないことから、異空間の結界だろう。外からは中に入れない仕様となっているはずだ。

 周囲を警戒していると・・・二人分の足音が響いて来た。

「・・・あっちからですね」

「ふむ」

 アニスニアが指を差したので、そっちを見つめていると・・・確かに二人組の男女が歩いてやってくる。

 そして、実に嫌味ったらしい拍手をしてきた。

「アンタたち・・・どこの神かしら?」

 私が睨みつけながら問うと、二人は他人を小バカにしたような笑みを浮かべて会釈する。

「初めまして。悪神ネフェルマリー先輩」

「こうして、ネフェルマリー先輩のご尊顔を拝し奉れることを光栄に思いますわ」

 男と女のコンビ神。

 しかし、この二人・・・顔が同じであるために体形で見極めないと分からない姿をしているな。

「あ、もしかして双子神ですか?」

「知っているの? アニスニア」

「はい。私がヴァルキリー時代に担当した世界の創造神様でしたね」

 ・・・あ、なんか既視感が・・・。

 私の不安が、そして的中するのは不可避なのか・・・。

 二人の顔から小バカにしたような笑みを消して、憎々し気な表情で殺意を向けてきた。

「久しぶりだな。腐れヴァルキリー」

「よくも私たちの世界を滅茶苦茶にしてくれたわね」

 ・・・。

 ・・・・・・まだ、被害者は出てきそう・・・あー、いやだいやだ。

「滅茶苦茶と言われてましてもー? そもそもカジノ世界で違法な賭けカジノをそこかしこに点在させているのが悪いわけですし?」

「え!? 現地民に介入して世界の在り様をぶっ壊したんじゃ!?」

「いえいえ。ローゼルザーン?さんの世界はご飯が美味しかったのでアレでしたけど、この人たちの世界はギャンブルが世界の絶対法律という世界創造法に抵触する違法カジノ世界でしたので、規則に従って罰則を科したに過ぎませんよ?」

 私が二人を見ると、どこかバツの悪そうな顔で目を逸らした。

「こ、細かいことはいいんだぁあッ!!」

「そうよ! あんたのせいで、私たちが創り上げた世界が終了しちゃったことで、借金を背負うことになったんだからね!」

 ・・・今回は・・・アニスニアが正しいので、私は軽蔑の眼差しを双子に向けた。

「う・・・ね、姉さん。ダメだ。僕たちは前科者だから信用されない」

「く・・・悪の双子神として、華々しいデビューを飾ろうとしたら、まさか因縁のヴァルキリーがいるなどと」

 ローゼルザーンといい、こいつらといい・・・昨今の新米共はバカばっかりか?

「まずは自己紹介と行きましょう! 私は運命の双子神が姉! ソーリンファーン!」

「そうだね! 自己紹介は大切だよね! 僕は運命の双子神が弟! ソーリンフォーン!」

 なんか、二人で踊り出した。

 シャルウィダンス? ノー、お遊戯ダンス。


「ここであったが運命ね!」

「あの日の屈辱を返してあげるよ!」

 

 双子神が揃ってアニスニアに突進してきたので、私は「殺すな。でも殺っていいぞ」と指示を出す。

 ただ、戦いたがっていたはずのアニスニアは面倒くさいと言わんばかりに片手間で殴り倒した。

「弱過ぎて相手になんないですねー」

「あー、アバターが標準タイプじゃねー」

 アニスニアに殴り倒された双子は、顔を大きく腫らして涙目だ。私は、とりあえず正座させて話を聞くことにした。

「何の用?」

「あ、はい・・・ちょっと宣戦布告のつもりだったんです」

「しかし、にっくきヴァルキリーが居たので、思わず恨みを晴らしたくなりまして・・・」

 バカ過ぎる。

「で?」

「あ、はい・・・とりあえず、ご存じと思いますがチートシードを使った人間の転生者を嗾けますので、首を洗ってお待ちください」

 ・・・なんだその宣戦布告。

「転生者ですか! どこです? おかわりはあるんですよね!?」

 アニスニアが食いついた。

「うるさいわね! お前みたいな腐れヴァルキリーのために用意した転生者じゃないんだからね!」

「誰でもいいので、強い方をお願いします! 手ごたえ無さ過ぎてつまらないんですよ!」

 グイグイ行くなー。

「貴様! あの時もそうやってカジノを荒らしまわって!!」

「荒らす? ちゃんとルールに則ってお金を没収しただけですよ?」

「在り得ない! 絶対チート使ったよね!? こっちは結果操作までして妨害したのに、全カジノで負けることなく勝ち続けられる!?」


「・・・さぁ?」


「姉さん! やっぱりコイツ! ムカつくよ!!」

「激しく同意するわ! やっぱお前だけは絶対ゆるさない! 借金返済で私たちがどれだけ恥辱に耐えていると思っているのよ!」

「どうでもいいので、話を戻しましょう?」

 素で火に油を注げる神経だけは、大したものよね。

 戦闘狂だから、とにかく戦闘にありつけることができれば御の字な思考だし。

「もっと強い転生者は居るんですか?」

 笑顔で迫っているが、眼が笑っていない。

 この圧に負けた二人は、眼を合わせないように逸らしながら身を強張らせる。

「い、いや・・・ちょっとどれが強いかは・・・分からないし・・・」

「そ、そうね。シードガチャだから、SSRが引けるかは微妙だし・・・」

「え? なに、あのチートシードってそういうのがあるわけ?」

「え? はい、そうですよ」

「話によると、数万個用意したチートシードには、ノーマル。レア。スーパーレア。すげースーパーレアという四段階のレア度が設定されているそうです」

 今、なんか妙なレア度が存在していたように聞こえたが?

「その中でも、すげースーパーレアは頭がぶっ飛んだ殺人鬼が入っているそうですよ」

 聞き間違いじゃなかった・・・。

「仕事説明で自慢げに語っていたので、間違いないです」

 頭がぶっ飛んでいる殺人鬼・・・どんな奴だ? チェーンソーを手に暴れ回るタイプかしら? それとも高笑いしながら他人を追い掛け回すタイプ?

 ダメだ。分からん。

「なるほどーッ! それでは! その『すげースーパーレア』の転生者を! ぜひとも引き当てて、私の元に派遣してくださいね!」

「え?」

「は?」

 おいおい。

「ちょっと待ちなさいよ。さすがにそれは看過できないわ。被害に遭うのは現地民。人間たちなのよ?」

「別にいいじゃないですか? 減ってもいつの間にか増えているのが人間ですし」

 ・・・私と違って、今回が神の眷属天使初仕事だから、ヴァルキリー時代の感覚が抜けていないのか。

 しかし、いずれはその考えを改めてもらわないと困るな。

「アニスニア。今回は仕方ないとして聞き流してやるけれど、神に仕える眷属天使である以上は人間を含めた生物に宿る命を軽視することは許されないと知りなさい」

「・・・善処しますー」

 する気ねぇな。

「はぁ・・・まあいいわ。とりあえず、この二人を拘束・・・」

 私がアニスニアから双子神に意識を戻した時、二人は忽然と姿を消していた。

「・・・あ?」

「運命の神様ですからねー。あの時も、幸運を爆上げして逃げられてしまったんですよ」

 ・・・そういうタイプの神だったか。

 いや、運命というテーマにカジノ世界を創造していたと聞いた時点で気づくべきだった。

「おまえ、もしかしてあの二人って・・・」

「はい! 逮捕状が出ています! 違法カジノ世界運営法違反・・・アレ? なんか違ったかな? まぁ、そんな感じの罪を始め、色々と罪状があるらしいんです!」

 です!っじゃねえよ。

「だったら捕まえなさいよ! あんたヴァルキリーだったんだろうが!」

「でも今は、神の眷属天使?ですしー?」

 ・・・減らず口を。


「おまえ、より強い転生者と戦いたいだけだろ?」

「だーいせーかぁーい!」

 私は、アニスニアの顔面に拳を叩きこんでいた。





「―――ということで、転生者による襲撃の件は、以上よ」

 夜。

 レノーダ町長の家に宿泊することとなった私たち一行は、夕食にネルゾイ特産のお化け野菜と、それらを餌として育った牛のステーキを堪能した。

 いや、侍女たる私は賄い飯の丼物だったが、第四王女アニスニアはフルコースだ。

 レノーダ町長と町長夫人によるオモテナシを受けて、実に快適な時間を過ごせたとは思うが、アニスニアはただひたすらにステーキをおかわりしていたので、ため息しか出ない。

 昼間の視察は中止・・・にはならず、鉱山へとそのまま向かった。

 出迎えたのは現場責任者であるレノーダ男爵家の次男、ユッタ・レノーダだ。

 とにかくお喋りな男で、一息で大量の言葉を発するために聞き取るのが大変だった。特に自分語りが激しいのが難点だろう。

 兄に比べてれば筋肉が足りず、弟に比べれば知力が足りないために―――と、どうでもいい情報ばっかりだ。

 しかし、さりげなくそんな中に重要な情報も混ぜ込んでいるせいで、聞き逃さないようにする必要が出たことで、心底どうでもいい話を拾い続ける苦行に苛立ちを抑えるのが大変だった。

 また、もっと大変だったのは学者共だ。

 元々は、謎の鉱物で出来た岩盤の調査に来ていたチームが使っていた仮宿施設には、『神代の大迷宮』の話を聞きつけた学者たちで占拠されており、調査チームは外に追い出されて野宿しているという有様に愕然となる。

 一応、女王陛下の命令を受けた正規チームなのだけど・・・学者共には「知った事じゃない」ようで。

 私たちがルッタ・レノーダが行方不明となった場所まで見に行く話になると、連中も「我らも連れていけ」と騒ぎ出して手が付けられなくなった。

 が、ベルドガナが「女王陛下に進言して、国からの支援金などを打ち切ってもらう」と言うと、スゴスゴと引き下がっていく。

 研究にはお金が掛かる物だから、国からの援助が無くなれば困る奴は多いのよね。

 そうして、掘り直されたという場所まで赴き、ベルドガナの魔法術でルッタ・レノーダの痕跡を探してみるものの・・・案の定、何も出てはこなかった。

 

《なるほど、運命の双子神あらため悪の双子神ですか》

「そうよ。アニスニアに世界を滅茶苦茶にされた被害者・・・うん、被害者?の一組みたい」

 白いヤモリに向かって話をするというのも、なんだか不気味だ。

 まぁ、犬や猫に話しかける飼い主みたいな感じに見えるといいが、爬虫類に話しかける危ない奴に見えたら嫌だなとは思う。

 動物に話しかけるのは理解されても、それ以外に話しかけるのは理解されない場合が多いのは納得いかん。

 金魚とか、飼育している生物には話しかけたりするだろ?

《その件ですが、調べてみるとアニスニア・・・の前職は、どの世界にも臨時で派遣されていることが分かりました》

「臨時?」

《そうです。どうやら、正規の担当者が汚職をしていたことが判明して、ヴァルキリー本部では速やかに処分して不祥事を隠蔽していたようなのです》

「おいおい・・・品行方正が売りのヴァルキリーが?」

《ええ。なので問題を起こしたヴァルキリーが担当していた世界へ、臨時に派遣されたのがアニスニアだったようです。ただ、彼女も割と問題児だったので・・・》

「なるほど・・・」

《今、この問題が発覚した事でヴァルキリー部隊が慌ただしいことになっています。部隊管理者の神に対する責任問題が発生し、とにかくマスコミが騒ぎ立ててお祭り状態になっているようですよ》

「ヴァルキリーの創始者って・・・オーディンだっけ?」

《はい。記者会見で頭下げていたと、本体からも情報を貰いました》

「なにやってんだか・・・」

 地球においても、神々のやらかしは神話として残っているしね・・・今更な話でもあるけれど。

「ソーリンファーンとソーリンフォーン。どう対応するのがいいの?」

《逃がしてしまった物は仕方ありません。次は拘束してください・・・いえ、面倒であれば駆除していただいても大丈夫です。アバターが死ぬだけですから、再ログインできないように本体が対応します》

「分かった。それと、双子を逃がしたアニスニアの処遇は?」

《減俸期間の延長です。あと、私のヤモリ食品を今後もたくさん味わっていただこうと思います》

 ・・・拷問か?

「じゃあ、最後に・・・ローゼルザーンはどうしている?」

《ヤモリの世話もろくにできない役立たずは、気絶しましたよ》

 ブツッ

 ・・・通信が切れた。

「・・・がんばれ。ローゼルザーン」

 私は、ただ窓から空を覗き見て・・・祈ってやることにした。





 翌日。

「へぇー。お野菜って、こういう風に栽培されるんですねー」

 野菜串を詰めた紙袋を抱えながら、串の一本をモッチャモッチャと食べつつ感想を溢すアニスニア。実に行儀の悪いことだが、こうしていないとフラーッと食事処を求めて消えてしまうので仕方ない。

 それにしても広い畑だ。

 すぐ近くには・・・どう見ても難民キャンプにしか見えないテントが無数に並んでいる一画が見えるけれど・・・話によれば職を求めて他所からやって来た連中らしい。

 住民登録などは済ませているが、彼らを住まわせる家屋が圧倒的に足らないため、急ピッチでアパートおよびマンションの建築を急いでいるという。

 しかし、地球の様に高層マンションなどは作れないだろうから、最大でも三階建てが限度に思う。ともなれば、団地のような物が必要になるだろう。

 どうやら、この町は大変な時期であるようだ。

「このお野菜。引っこ抜いたらすぐに食べられるのですか?」

「いえ、お化け野菜は収穫直後は残存魔力が濃すぎるため、一定値以上の魔法術を行使できない者では昏倒してしまう恐れがあります」

「・・・獲れたて新鮮。その上、美味しい。とはよく聞きますが?」

「それは一般的な野菜になりますね。殿下がお召し上がりの野菜串も、魔力抜きという工程を経た物を調理しているのです」

「へー、そうなんですねー」

 ボリボリと人参串を頬張り始めて、レノーダ町長の話しなどどうでも良くなっている様子だな。

 ヨッタ・レノーダ町長による野菜畑の説明は続く。

 元々は瘦せ細った畑であり、碌な作物が育たなかったらしい。が、ルッタ・レノーダを授かってからは一変して、このように巨大な野菜へと成長するようになったという。

 やはり、魔力が豊富に得られると土地が豊かになるということなのだろうか?

 畑は野菜のサイズに合わせて拡張したらしく、さらに植える種類も増やしたという。これによって多種多様のお化け野菜が収穫できるようになり、アルメルデ伯爵領の各地へ出荷できるようにもなったらしい。

 昨晩の賄い飯は美味しかったからね。

「ネフェリスさん! ネフェリスさん! このお野菜をお城でも食べたいです!」

「・・・いや、私に言われてもね。とりあえず、城に戻ったらお化け野菜の入荷申請手続きでもしてみたらどう?」

「それで、お城でも食べられるんですか?」

「さぁ? 国の予算・・・財務関連とも話をして金勘定しないと、なんとも言えないと思うけれど」

「・・・面倒くさいから、別にいいです」

「おまえがやるわけじゃないんだから、女王にお願いしてみなさいよ」

「・・・お給料を減らされそうですねー」

「もう減俸処分中なんだから、気にするな」

「えー。お食事処で山盛りご飯を食べるのが楽しみなんですよ? お金が欲しいですよ」

「そう思うなら、王女としての仕事をちゃんとやれ」

「楽して生活したいですねー」

 このダメ王女。


「へぇー。仲がいいんだね」


 静かで、しかし背筋がゾッとするような声が響くと、私とアニスニアはキャンプ地の方へと向き直りながら身構える。

 アニスニアなど、大事に抱えていた野菜串の紙袋を投げ捨てている。まぁ、レノーダ町長が受け取ったので中身は無事だが・・・。

 護衛騎士たちが駆け寄ってくると、剣を抜きながらキャンプ地に近い畑の道に発つ一人の少年に叫んだ。

「貴様! 何者だ!」

「こちらにおられる御方をどなたと心得る!!」

「恐れ多くも! 第一国家ハースニングを統べる王族! 第四王女のアニスニアさまであるぞ!!」

 ・・・なんか、言葉がオカシイって思ったけれど、日本語風にすると歪になるな。

「・・・ふーん」

 少年は、あまり興味が無いという感じで反応してきた。

 それにしても、どことなく栄養不足なのかと思えるぐらいには痩せているように見える。幸薄い雰囲気が強く、色白な肌をしていて病的だ。

 しかし、それに比べては足取りもしっかりとしているし、力を感じさせる。

「近衛騎士! 周辺住民の避難と、アルメルデ伯爵ならびにレノーダ町長を連れて下がりなさい!」

 あの様子・・・おそらくは新たな転生者である可能性が高い。

 そうなると、ここで近衛騎士を配置しておくのは愚策だ。無駄死にさせることになりかねない。

「し、しかし・・・」

「私とアニスニア様で相手する! お前たちは下がりなさい!」

 私とアニスニアが常人を超越した存在であるということは、不本意ながら知れ渡っている。ならば、このままだと自分たちが危ないのだという事を悟らせるのは重要だ。

 騎士たちも、私の言葉を受けて戸惑うが・・・教導官から「指示通りに下がれ! キャンプ地にいる者たちにも避難を促すんだ! 急げよ!」とフォローしてくれたことで、騎士たちは下がってくれる。

「ネフェリスさん! アレ! 強いです!!」

「え?」

「くふふ! 私の肌がビンビンに感じ取っています! アレは強い! いいですねぇ! 本気で叩けそうですねぇえ!!」

 次の瞬間、アニスニアが一歩踏み込んだ直後に姿を消した。っと、錯角するほどの速度で謎の少年へと突進した。

 右手を拳にして、殴るために構える。

「・・・チートスキル。病太刀」

 同時、少年は足を開いて腰を落とし、左手は鞘を掴むように構えられ、右手は柄を掴むように構えられると、その手に一振りの刀が召喚される。

 単色だ。

 まるで穢れなど無いとでもいうかのような純白の鞘と柄。そして金色の鍔や縁。売れば生涯を遊んでく過ごせそうな最上級の一品に見える。

「百式居合術・・・病断ち」

 私の目に、刀を引き抜いた動作が捉えられなかった。

 そして、アニスニアは瞬時に拳を光で覆い、刀・・・いや、太刀に正面から殴りつける。

「やりますね!」

「く・・・」

 火花を散らせつつも、アニスニアが後退することで間合いを広げた。

 少年は太刀を鞘へ戻すことはせずに、基本の型で構え直す。その姿は・・・剣道のソレだ。

「少年! あんたは何者だ!?」

 少しでも情報が欲しい私としては、まず話をしてみることから始める。

「僕は、女神ルキス様に導かれ、この世の悪を打ち倒す者だ」

 ・・・中二病かしら?

「・・・いや、名乗るよ。僕は桃木太郎。前世・・・地球と言う異世界にて、桃太郎と呼ばれてイジメを受けていた男だ」

 桃太郎? たしか、日本の昔話にあった御伽噺だったかしら? 日本では結構な人気作品だったと思うが?

「令和の時代に、太郎って名前だったからね・・・犬みたいに扱われたんだ」

 ・・・人間て、とにかく誰かをイジメていないと気が済まない生き物なのかしらね?

「あぁ、でも安心して? 全員殺してやったんだ。本当は、自殺しようと思ったんだけど・・・女神ルキス様が僕を導いてくれたんだよ」

 女神ルキス?

 いや、そいつはおそらく・・・殺戮の女神ルキスロッコ。

 私たちが相手しているヤバい悪神の一人だ。


「女神様は言った! 自殺とは、自分を殺すことだ。それは殺人と同義。つまり、罪なんだ。自分を殺しても罪を背負うことになるのだから、他人を殺した方がメリットが多いと!」

 あのクソ女神・・・なんつー理論を展開してやがる!って、それがアイツの趣向だから質が悪い。

「僕は、ずっと我慢していた・・・だけど、女神様のお告げを受けて、納得した! 僕が死ぬ必要なんてどこにもないのだと!」

 浸っているなぁ・・・。

「ねぇ? もういいですか?」

 アニスニアが水を差す。

「あなたがどういう風に転生したとか、どうでもいいですから・・・楽しく戦いましょう!」

「・・・いや、それはそれでどうかと思うよ? 君、まだ5歳ぐらいでしょう?」

「そうですね。この肉体は5歳児です・・・が、私は戦闘天使! 戦う事こそ至上の喜びなのです! あ、それと美味しいモノを食べるのも楽しみなのです! あなた、何か美味しいご飯を作れたりしますか?」

「え? いや、僕は・・・って、そんな話をしている場合じゃない! 女神様の願いだ。君たちのように心の病を振りまく悪は、僕が斬り祓う!!」

 どっちもどっちって言いたいが・・・それにしても、この桃木太郎と名乗った少年は、これまで・・・と言っても数人だが、転生者の中では物腰が大変柔らかい。

 話もまともにできるようだし・・・上手くすれば悪神ルキスロッコの情報を得られるかもしれない。

「さぁ! 楽しみましょう! 殺し合いですッ!!」

「野蛮だな! ルキス様が危険視するだけのことはあるよ!! 悪魔!!」

 アニスニアと桃木少年は、同時に動いて、同時に攻撃を放つ。


 太刀と拳の応酬。それは高速の拳打と剣閃。両者の攻撃はわずかな光を線とした軌道を残すばかりで、激突を繰り返す。


 不意にアニスニアが蹴りを放つも、桃木少年も蹴りを出して受け流す。

 その動作には賞賛を送ろう。戦いなれているような動きは、素人とはとても思えない。前世ではイジメを受けていたと言うが、剣道の有段者だったのではないか?と思える。

 なによりも、アニスニアと競り合っているのが異常そのものだ。

「アニスニア! 下がりなさいよ!!」

 私が叫ぶと、アニスニアは飛び退いて戦闘を中断する。

 そして私のところまで戻ってきた。

「なんですか!?」

 実に不機嫌である。

「あんたね・・・王女なんだから、真っ先に戦うんじゃない!」

「えー、退屈なんですもん。いいじゃないですか」

「良くないから言ってるんだ。こういうのは、まず私が相手することで、敵の手の内を見るのが定石なのよ」

「新鮮味が薄れてつまらなくなるので嫌です」

 ・・・こいつは。

 気持ちは分かるけれども・・・立場というか、身分的にはボスキャラであるべきだろうに。

「聞き分けろ。私は侍女で、おまえは王女。まずは私から! おまえは後!」

 アレ? この言い方だと、私が戦いたがっているようにも見えるか? いやいや、これはあくまでも仕事の一環なのだから、別に戦わなくてもいいならそれに越したことは無い。

 あと、桃木少年から情報も得たいし・・・。


「そういう事なら、僕も子分を出すとしよう」


 え? 子分を出す!?

「チートスキル。お供三獣士・・・おいで、猿、鳥、犬」

 お、お供三獣士!? 猿、鳥、犬って、それは桃太郎に登場する三匹のお供か!

 直後、男の前に地中から飛び出すように姿を現したのは、日本猿。雉。白い犬の三匹だ。日本昔話ではすでに固定されたお供のイメージをそのままに再現している。

「いよっしゃ! うききーッ」

「ふ、待たせたな。ケェー」

「やっふー! わんわん!」

 喋ったぁああああああああ!?

 っじゃない! そういうのが居てもなんら不思議なことが無いのが御伽噺のいいところだけど、ここ、地球的に言えばイギリスとかその辺の国なんだから、そのチョイスはマズいだろ!

 って、これまでに何度も地球人を召喚しているから、割と今更な話ではあるんだけどね!

「それじゃあ、おまえたちはあっちのメイド少女を相手してくれ」

「まかせろー」「まかせておけ」「おまかせー」

 三匹が元気よく私に向かって吠えてくる。

 この私を相手するのに、獣三匹を差し向けるだと? 実に舐められたものだね。

 一応、アニスニアを確認する。

 その眼は、桃木少年に向けられていて、獣三匹は意に介してもいない。興味がないようだ。

「あ、ネフェリスさん。相手のご要望ですから、私はこのままあの人と殺し合いをしてきますね!」

 私の視線に気づいて、嬉しそうに宣言する。

「・・・わかった。油断するなよ」

「はーい」

 遠足が楽しみな子供の様に、ウッキウキで桃木少年へと再度突撃していくアニスニア。

 一方で、私の相手をすることになったお供三匹は、和気藹々という感じで世間話をしながらこっちに向かってくる。

「でさー、最近は柿を植えている家が少なくてさ―――」「まぁ、そりゃそうだろ」「ねぇねぇ! お肉が美味しく実る木ってないかな?」

「「あるわけないだろ」」

 ・・・。

「おい、そこの畜生トリオ」

「畜生?」「あれか? 悔しい時に叫ぶ奴」「ぷぷー。なにが悔しいのかなぁ!?」

 ・・・なんかムカつくわ。

「そこの犬畜生共! ふざけてんじゃねーぞ!?」

「こっわ・・・」「あー、不良娘って奴か」「親御さんが泣く奴ーッ?」

 やかましいわ! こっちはいつだって両親泣かせてるっつの!ってそういう話じゃないわ!!

「どうでもいいから、かかってこい。秒殺してやる」

「どうする?」「どうするっておまえ・・・」「いつも通りにやるだけわんわん!」

 三匹が顔を合わせて頷き合うと、一斉に襲い掛かってきた。

 まずは猿が足と腕を駆使して突撃をしてくると、跳び上がって間合いを詰めてくるので迎撃する。

 タイミングを合わせて殴りかかったものの、猿は上手く拳を受け止めてからさらに跳び上がって私の頭上を越えて行った。

 その後に、空から雉が急降下してきて足の爪で攻撃を仕掛けてくる。

 連携攻撃とは、なかなかにできる連中だと感心してしまった。お供とはいえ獣だから、もっと単調かと思ったけれど、伊達に鬼退治をしたお供という設定ではないようだ。

「わんわん! 喰らえーッ!」

 足元から、犬の鳴き声などが聞こえたので、その顔をボールを蹴るように蹴っ飛ばしてやった。

「ちぃ・・・できる」「く・・・強いぞ。この娘」「いったーい! なんで俺だけ蹴られてんのぉ!?」

 三匹が再び集うと、犬が顔を前足で抑えながら理不尽だと言わんばかりに声を上げていた。

「ばっか。お前は突進時に吠えるなよ」「そうだぞ。せっかく俺と猿で意識を上空に引き付けておいたのにな」「えぇ!? アレってそういうアレだったのぉーッ!?」

 隙あらば漫才しやがって・・・。

「でも、このメイド娘は強いぞ」「ああ。俺的にはもっとフリフリでフワフワなフリルを付けたメイド服が好みなんだけれどな」「アレって、メイド服なの? 喪服じゃね?」

 侍女服だよ。

 地球の・・・とりわけ日本だと妙にヒラヒラとしたデザインのメイド服が主流になっているが、実際にはアレで働くなど論外だ。邪魔過ぎてね。

 だからこそ、フリルなどの無駄な装飾が付いていないシンプルな作業服に仕上がっている。それが本来のメイド服であるべきなのだ。

 まだ、王族に使えるということで、多少の飾りはついているけれども・・・。それだって、仕事の邪魔にならないように配慮されている。

「―――てわけでメイド服は本来、あのように作業着として地味なデザインをしているんだよ」「ほぉ・・・萌え萌えキュん!のための服装じゃないんだな」「ふーん。あ、俺はオムライスにケチャップ多めでお願いね!」

 ・・・なんか、こいつらの相手は別の意味で疲れるんだけど。

 アニスニアはどうしているんだ?

「もっと! もっと激しく! もっと強く! 本気を出してくださいよ!!」

「く・・・なんて子だ・・・お供たち! 援護を頼む!!」

 ふーむ。

 あっちの方が戦闘らしい戦闘をしているなぁ・・・あと、アニスニア? その笑い方はやめなさいよ。悪の女戦士みたいで、ちょっと桃木少年を援護したくなるからさ。

「あ、やっべ」「桃木がピンチだ!」「夕飯は肉がいい!」

 援護要請を受けたお供たちが、私同様に二人の様子を確認すると慌てだす。一匹だけ夕飯のリクエストをしているけれども。

「しかたない! 合体だ!」「合体承知!」「いえーいッ!」

 ほぉ、合体・・・合体!?

 え? いや、どういうこと!?


「「「お供合体!!!」」」


 私が聞き間違いなのかと驚いている間に、三匹は飛び上がって空中へと躍り出た。

 その先頭を行くのは鳥である雉だ。

 翼が体から離脱し、その足も共に離脱する。と、下から頭と手足が分離した猿と犬の身体が背中合わせとなって連結する。

 獣が急にロボットみたいなボディへと変化していることに、眼を疑ってしまった。ホントにいつの間にか金属質の光沢がある装甲に代わっている。

 背中合わせに連結した胴体に続けて連結するのは猿と犬の頭だった。

 右肩に猿。左肩に犬。両者ともに下顎が開いて頭の中に収納されると、頭の首が肩に接続されてアーマーのようになる。

 下顎が開いた口の中に犬の前足が週で差し込まれると、続けて猿の腕が左右に差し込まれた犬の前足と繋がって一本の腕となった。無駄に凝ってるな!

 続けて猿の脚が股関節に左右で繋がると、犬の後ろ脚が猿の脚と接続されて一本の脚を成した。って、アレ? なんかサイズが動物から人間大になっているような?

 最後に雉が頭の位置に連結されることで、それが人型ロボットのようになっているのだと理解した。雉の頭が180°回転すると、後頭部の装甲が観音開きで開いて人型ロボットの顔が出現する。

 ただただ、驚きに身が固まってしまう。

 最後に、分離していた翼が重なり合って大きな剣の刃となると、雉の脚が連結して柄と鍔となり一振りの巨大な剣となって背中に接続された。

 

「「「三身一体!!! サルトリィヌ!!!」」」


 本当に合体したぁあ!?っていうか、なんで人型ロボットになるんだよ!? そういうのは土曜日か日曜日の朝番組にある特撮枠へ帰れ!!

「「「ふっふっふ。俺たちの格好良さに、見惚れているようだなッ!」」」

「意味不明すぎて混乱してんだボケェ!!」

「「「えーッ!? 俺ってばメッチャ恰好いいでしょう!?」」」

「アホかッ!? さっきまで動物だったのに、人型に合体したら鎧武者ロボットになるのはどういう了見だ!?」


「「「・・・仕様です」」」


「そっか、仕様かー」

「「「そうです! 仕様なんです!」」」

「誰か! ちょっとコイツを導入した責任者呼んで来い!! ぶん殴ってやるわ!!」

「「「んもぅ・・・アー言えば、コーゆーぅ」」」

 なんだ、その顔を左右に振りながら手まで振って「やれやれ」ってジェスチャーは!?

 だが、そうだった・・・。

 これこそが悪神の十八番。世界観wの突き崩す最低最悪の嫌がらせ・・・。かつて、私がこの世界にやったことと同じことだ。

 今ならよくわかる。

 パーラハラーンが頭を掻き毟るようにヒステリックを起こした理由が・・・。

 ・・・ふ。

 今まさに! 私が頭を掻き毟って発狂したいと思っているからねッ!!

「その無駄口を塞いでやる!!」

「「「そうはいかないッ! 防疫会場・隔離処置!!」」」

 瞬間、私の身体が動かなくなる。

 ただ動かなくなるだけじゃない。声も出ない上に目も動かない。油断した・・・まさか、こんな結界術のように私を封じてくるとは。

 それにしても『ぼうえき』と言ったな? 隔離処置・・・もしかして『防疫』のことか? なんでそんな名前を?

「「「君に恨みは無いが! ここで滅菌処理させてもらう!! いくぞっ! 検疫刀ッ!!」」」

 そんな事を言い通も、背中に背負った体験を引き抜いて空高くに翳して見せる。その記事の翼を連結さえた大剣が刀だと?

 いや、それよりも『検疫』? なんだその名前は・・・いったいなんの意味があって・・・。

 

 翳した剣の柄を両手で掴み、ゆっくりと円弧を描くように降ろしつつ猿の声が叫ぶ。

「無病息災ッ!」

 ゆっくりと円弧を描く剣が、そして足元まで下りるとそのまま円弧を描くように振り上げられていく。

「殺菌消毒ッ!」

 そうして頭頂まで昇ってくると・・・県が光り輝くと同時に、犬の声が響く。

「健康第一ッ!」

 も、もしかしなくても・・・こいつ・・・。

 私が、一つの結論へと至るとき、サルトリィヌは剣を背中に下ろしつつ上体を逸らして振りかぶり、右足を後ろに下げて身構えつつ、全身に力を込めていく。


「「「疫病ッ!!! 払い斬りぃいーッ!!!」」」


 閃光にも似た光を放ちつつ、力任せで高速に振り下ろされる剣・・・みたいな刀。その刃から形容し難いほどの清浄な力が放たれて・・・。

 私の左肩から右脚も太ももの半ばまでを切断して、消えた。

「って! 円〇殺法じゃねぇーかッ!!」

 思わず口から出た言葉が、実にバカみたいであることから私の思考回路がこいつらに汚染されていると思われる。

 地面に倒れ、もはや死ぬ以外が無い私の状態。

 口から血を吐いて苦しい思いをするが・・・このままでは死んでしまう。

 チラッと確認してみると、サルトリィヌは私の生死を確かめることなくアニスニアと戦闘中の桃木少年を援護するために駆け出した。

「ちッ・・・座標送信。欠損部位解析。システム、起動。コントロール、正常。治療準備、完了。蘇生、開始」

 切断された部位を繋ぎ合わせるために、かつて腕を修復した時と同じく損傷個所を覆い尽くす形で空間が湾曲する。

 その中から、私の損傷を修復するために治療装置が殺到してスペアパーツなどを繋ぎ合わせ始めた。

 しかし、腕の交換とは違って身体をバッサリとやられているため、蘇生作業に時間がかかる。

 それまで、アニスニアが持ち堪えらえるかが心配だが・・・。

「あはは! 二対一ですか!? どんと来いですよッ!! あはははあははははははははあはははッ!!」

「くぅ・・・」

「「「ちょっと待ってッ!? この子、目がイッちゃってない!?」」」

 ・・・確かに、アニスニアの目がどこを見ているのかも分からない感じに濁っている。

 危険な薬を使用していると言われれば、肯定してしまいそうな狂い方だが・・・アレが戦闘狂モデルの正常なので気にしたら負けだ。

「ほぉら!! 二対一なのですから、頑張ってくださいなぁあ!!!」

 右拳を振りぬいた勢いからの後ろ回し蹴りというコンボを放つことで、桃木少年とサルトリィヌを蹴散らすアニスニア。

 もはや5歳児など超越した怪物と化している。

 ・・・が、その眼が私を捉えると目を見開いて驚きながら叫び出した。

「ネフェリスさん!? どうしたんですかその状態!!?」

 二対一になった時点で気づいて欲しかったけれどね? おまえはそういう奴だもんねー。

 私が呆れ顔になっている間に、アニスニアが駆けつけてくる。

 そして四つ這いになって私の状態を確認するために顔を寄せてきた。

「あ、治療中でしたかー。心配するだけ無駄ですねー」

「おまえ、マジで死ね」

 この変わりっぷりには、ただただイラっとするしかない。

 感情豊かでコロコロと表情を変えるコイツが希少なタイプなのは確かだが、これは不良品扱いされても同意できる。

「どのくらいで完了できます?」

「最速でも30分くらいはかかりそうよ」

 アニスニアが悩むように沈黙すると、腕を組んで考え出した。

「おい? どうしたの?」

「いえ・・・二対一でも30分は遊べそうにないですし? どうしようかなーっと」

 手加減をして楽しむか、思いっきり本気を出して楽しむか。

 戦う事が大好きだからこそ、思い悩むこともあるのだろうけれども・・・。悩むところがそこなのか?って思うわ。まだまだコイツの思考は分からないことだらけだね。

 しかし、アニスニアの声は桃木少年に届いていたようだ。

「二対一でも、30分は遊べない・・・か」

「「「いやはや、言うだけの強さはあるよね? ヤバくね?」」」

 桃太郎モドキの少年と、お供合体ロボットが並び立つ。

「もとより、一人を複数で囲むような事をするつもりはないさ! 一対一だッ!!」

 ・・・前世の経験から来るポリシーか? プライドか?

 だとしても、桃木少年だけではアニスニアを相手するのは厳しいだろう。強いとはいっても、戦闘経験は圧倒的だろうからね。

「「「桃木! アレをやるのか!!?」」」

「そうだ! アレをやる!」

 ・・・アレって?

「いくぞ、サルトリィヌ!! チートスキル―――」


「「「「アルティメットッ!!!!」」」」


 四人分の声が重なり合って、一つの声であるかのように響く。と同時に、二人の身体が光り輝いてエネルギーが一つに束なっていく。

 次の瞬間、エネルギーが渦巻いて桃木少年を中空へと持ち上げると、それを追う様にお供合体ロボットが空へと飛び上がって分離する。

「おー」

 アニスニアが感心するように声を漏らしながら見上げる。

 中空へと舞い上がる桃木少年を囲むように、追従したお供合体ロボットのパーツが続々と変形していく。と、それらが少年の身体に取り付いて、鎧の様に繋ぎ合わさっていくと・・・。

 まさにパワードスーツとしか言いようのない鎧武者の姿となって変身を終えるのである。


「おまえは朝番組の特撮枠に還れッ!!!」

「ッ!? ど、どうしたんですか? 急に・・・」

 ついつい怒鳴り声をあげてしまったが・・・これが叫ばずにいられるか!?

 あぁ・・・パーラハラーン。これだけは理解した・・・ごめん・・・あの頃の私は、確かに極悪だったわ。

「発狂せずにはいられないわ・・・これは・・・」

「えぇ? なんです? カッコいいじゃないですか」

 おまえには分かるまい・・・この世界観完全無視を赤の他人にやられる神の苦痛がね・・・。

 私たちが会話をしている間に、変身は完了したようで・・・最後の名乗りを上げた。


「「「「桃太郎伝説!!!! 仙桃人!!!!」」」」


 ・・・なんだそれ?

 戦闘? いや、それだと普通過ぎるか? 桃太郎伝説を入れている事を踏まえると・・・仙桃・・・仙人の桃か? なんで!?

 それにしたって、ビジュアルがスーパーヒーロー過ぎる。

「わはぁ! なんて強そうな姿でしょうか!! かつてないほどに、滾ってきましたよぉ!!」

「「「「待たせたな。合体と変身による強化はしたが・・・これで一対一だッ!」」」」」

 アニスニアが目を輝かせて頬を赤く染めている。

 大好物を前にして恍惚としている様子だが・・・まぁ、コイツが嬉しそうにしているならそれでいいか。

「いいですねぇ! 実にいいですぅ! 全身から溢れている良質なエネルギー! あはぁ・・・ひひひひひぅひひひひ! 久しぶりです・・・本当に久しぶりです・・・全力で楽しめそうですねぇえ!!?」

「「「「えぇ・・・なんか、すごいキモイ子だなぁ・・・」」」」

 そりゃ、恍惚とした表情に舌なめずりされたら、誰だってドン引きするわ。


「さぁあ! さっそく始めましょうッ!! 殺し合いです! 楽しみましょう! そうしましょう!!」


 その手に光の槍を作り出して、音速を突破して突撃するアニスニアは、仙桃人へと一撃必殺の突きを放つ。

 対して、仙桃人は病太刀と検疫刀が合体してできた大太刀を横薙ぎに振るうことで、刺突技を掬い上げるように軌道を逸らしつつカウンターを放つ。

 しかし、アニスニアは跳び上がることで掬い上げるように横薙ぎされる大太刀の力に乗り、カウンターを回避しつつ仙桃人の頭上へと躍り出る。

 そして頭に突きを放つ。

 が、大太刀を振り抜いた勢いで身体を回転させつつ膝を折り、姿勢を低くしつつ大太刀を引き寄せて頭上へと滑り込ませると、アニスニアの刺突を見事に防いだ。


 ・・・マジか。仙桃人が想像以上に強い。


 アニスニアは攻撃を防がれたことで仙桃人より間合いを開きつつ彼に着地する。

 対して、次の攻撃を警戒する仙桃人は地に膝を付きながらアニスニアの姿を視界に捉えつつ、大太刀を構えて見せた。

「はぁぁ・・・本当に久しぶりです」

「「「桃木!」」」「分かっている!!」

 チュン。

 などという耳鳴りにも似た音が聞こえたかと思うと、アニスニアは槍を叩きつけるようにして仙桃人を強襲していた。対して、大太刀でしっかりと受け止めているのは拍手ものだろう。

「まだまだ速度は上がりますよ!?」

「「「「追い付いてみせるさ!!!!」」」」

 キャララララッ

 そんな甲高い音が響き散ると、アニスニアと仙桃人は超高速で槍と大太刀を切り結んでいる。

 金属の激突する音と風切り音が混ざったような音だと分かるまで、私の目と耳がおかしくなったと勘違いしてしまった。

 とんでもない速度で闘っている。

 お化け野菜を栽培する畑という闘技場で、両者は疾風となって駆け回りながら激しい切り結びを繰り返している。そして、切り結ぶたびに速度が上がっている。

 不意に、騎士や伯爵たちは無事に逃げたのか?と心配になって、周囲に目をやった。

 私の視界に人影は見えないことから、すでに安全圏へと対比しているのだろう・・・地面に寝転がっている私の視界では信憑性は薄いけれども。


 続けて響くのは爆音だ。

 アニスニアが光を弾丸に成形して射出し始めると、仙桃人も両肩のアーマーとなっている猿頭と犬頭を分離させてエネルギーを固めた弾丸を掃射することで応戦する。

 そして続きと言わんばかりに近接戦を再開し、射撃攻撃と近接戦闘が入り混じる中での激闘が繰り広げられると、畑がどんどん弾けて砕かれ掘り返されていく。

 こんな殺し合いの暴風雨の中で、私は無事だった。

 一切の攻撃が私の方へと飛んで来ることは無く・・・アニスニアが常に私の位置を確認していることに気が付いた。その確認作業を刹那で処理しているのだから、恐ろしい。

 戦闘狂でありながら、妙に冷静な思考をしている。

「ひひひひひひひひひひッ! 素晴らしいです! よくも私の本気速度に追い付けましたね!?」

 うんうん。

 どっちが悪役なのか分からなくなるから、変な笑い方とセリフをやめてちょうだい。

 しかし、仙桃人の方はだいぶ厳しいようだ。

 あれだけの高速戦闘を繰り広げて平然としているようだが、声も出せないほどに消耗しているのは雰囲気から読み取れる。

 アニスニアを追いかけつつ激戦をこなす必要があるのだから、当然か。

「褒めて差し上げます! 凄いですね! 偉いです! 第四王女アニスニアは、あなたにご褒美を差し上げようと思います!!」

 ご褒美?

「さぁ! 受け止めてくださいね!!」

 ・・・あいつ、まさか。

 私は嫌な予感を覚えて止めようと声を出そうとしたが、すでに遅かった。

 アニスニアの背に天使の羽が展開して黄金に輝き始めると、手にしていた光の槍が黄金に染まって強い光を周囲に放ち始める。

 その圧に、私は息が苦しくなるのを感じた。

 アレは、ヴァルキリーに搭載された『一投』という技だ。名前がシンプルなのは、まさに『一投』という意味そのままだから。

「「「あ、アレ・・・ヤバい」」」「ああ、やるぞ!!」

 仙桃人もお供合体ロボの声に自身を奮い立たせるように怒鳴る桃木少年。

 大太刀を空高くへと翳すように構えると、その大きな刃が開いて大剣のような両刃となる。そこから、波紋をなぞるように桃色の光が走ると、エネルギーが放出されて現状の刃を覆いつつさらに大きな刃を形成して固定される。

 両者の最大出力と思われるエネルギー同士が激突することで、荒れ狂う風が発生した。

 9歳児である私の身体が、この暴風によって浮き上がるほどの力が辺りに吹き荒れて、土も草も木も畑の柵も、抉り飛ばし倒して砕いていく。

 って、私の身体が為す術も無く飛んでいくんですけど!?

「っとと、大丈夫ですか? ネフェリス様?」

 まだ治療中で動けない私の身体であったが、これを受け止めてくれたのはヨッタ・レノーダ町長だった。え・・・居たの?

「な、なんで、逃げてない・・・」

「いえ、逃げたのですけれど・・・町長として、いえ・・・大人として! 子供を残して逃げるというのは、出来ませんよ」

 ・・・カッコいいけれど、ただの人間では無駄死にするだけだから逃げておけよ。

 私は、助かったけれど・・・。

「動けないのでしょう? どのタイミングであなたを回収しようかと見計らっていたのですが、飛んできてくれて助かりましたよ」

 ちょっとだけ、干した洗濯物が風で飛んでいく気持ちが分かった気がしたわ。


「一投」

「「「「仙桃剣!!」」」」

 高まりあった力と力が、ただ一言の簡素な言葉と共にぶつかり合って――――。


《夜の帳は降りました》

 鐘の音にも似た・・・オルゴールが奏でる音色が夜と共に空から降ってきた。

 昼の時間帯。

 青空が広がっていた空が、一瞬で夜の色に染まる。

 残された光は、アニスニアと仙桃人の激突する必殺の一撃同士となっているのだが・・・それら攻撃的な光が徐々に力を失っていくと、夜空に光る星明かりが地上を照らしていく。

 そして、月明かりを瞳にした夜そのものの色を体色として、夜空より現れるのは巨大なアリスリアだ。三歳児の姿ではない。1000年前のアバターと同じ二十歳ぐらいの女性姿をしていた。

 瞳となった月明かりが、アニスニアと仙桃人を照らして捉えると、夜色の巨大アリスリアが両手をそっと差し出してくる。

 これに吸い込まれるようにして空へと舞い上がっていく二人。

 

《入城下月、逆天暗納》

 差し出した手の上に転がるアニスニアと仙桃人は、身を起こして逃げようと動いているようだけれど、闇の縛りによって妨害されているようだった。

《一閃一夜、鏡転響闇》

 夜色の巨大アリスリアが、その手を静かに合掌していく。

 そして、世界から音が止んだ。


《草木も眠る、丑三つ刻》


 グシャ―――。

 ただ、その音だけが・・・草木も寝静まる世界に響き渡った。


▽▽


「あんた、あんな技をいつ開発したのよ?」

「この1000年を鍛え直したと、報告しましたよね?」

 白目を剥いて泡を噴いているアニスニアを背負い、私はアリスリアに問う。が、返答は大変シンプルな問い返しをされてしまった。

 あんな大規模結界魔法術を使うには、ただの改造アバターだけでは無理だ。

 神でも私やパーラハラーンに匹敵する能力が無ければ使用することなどできないだろう上位の技になる。

 少なくとも、ヴァルキリーでもない通常天使が使えるような技ではないのは確かだ。それをやってのけたという事は・・・コイツ、神に最も近い天使クラスに成長していたのか。

 それにしても・・・。

「おまえさぁ・・・そこまでかつて召喚した勇者に惚れこんでんの?」

「ほほほ、惚れていません。あの時、私が肩を並べて戦えるだけの力があれば・・・という悔しさばかりであったため、とことん鍛え直したまでです」

 ・・・ふーん。

 当時、公爵として勇者の冒険を後方支援していた私は知っている。

 こいつは私と勇者の面談中に、勇者の腕に自分の腕を絡めて胸を押し当てつつイチャついていたのを・・・。

 私も、これまでに見たことも無い恋する乙女な顔をしているコイツには驚いたものだ。これまでに召喚した勇者には仕事で付き合っているだけって風だったのにね。

 あー、そうだそうだ。口から砂糖が吐き出せそうなほど甘かったねー。

「なんですか? その眼は?」

「いや、別に・・・世の独身共を敵に回せるぐらい勇者とイチャついていたのを思い出しただけだし?」

「ししし、していませんよ!? そのようなイチャイチャなど! 常に私は仕事一筋で頑張ってきたのです! 勇者様とのコミュニケーションも仕事の一環として努力したのです!」

 うんうん。そうだね。

 はい、あーん。とかお口にお米が・・・とか、熱いスープをスプーンで掬ってフーフーとか・・・思い出したら苛立たしくなってきた。

 まぁ? 当の勇者がドン引きしていたけれども・・・。

 

 ・・・光の眷属天使だったころは、生真面目過ぎて融通が利かないほどだったのに、邪の眷属天使になったらここまで変わるのか。

 そういえば、コイツの詠唱は『邪気に塗れた天使は踊る』だったか? マジで邪気に塗れているな。

「ところで、ベストなタイミングでの登場だったわけだけれど、どうやって合わせた?」

「・・・ふふ。それこそ簡単ですよ」

 そう言うと、アリスリアは私の頭に手を伸ばして・・・何かを摘まんだ。

「こちら! 私が品種改良を重ねて完成させた一口サイズの小型種!! グミヤモリでございます!!」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・グミヤモリ!!!???

「ちょ・・・へぁ? は? え? 私の頭に張り付いていたの!?」

「その通りです。グミのごとく柔らかくて変幻自在の身体をしていますので、頭皮に張り付くことなど造作もありません。そして、使い魔でもありますため、盗聴盗撮発信機としても活躍できる優れもの! ただ、難点であるのは・・・移動能力が低く、自力で対象に張り付くのは難しいことですね」

 ・・・気持ち悪い。

「いつ、私の頭に張り付かせていたのよ・・・」

「視察に出発する際の見送りで挨拶をした時ですね」

 ・・・あの時か。

 今日まで全く気付かないとは、かなり高性能な犯罪道具だわ。

「すべて見ておりました。桃木太郎さんは強敵でしたね!」

「おまえ、後でぶん殴るからな?」

「お断りいたします」

 いい笑顔だ。

 

 私はあからさまなため息を吐いて見せて、アリスリアへの抗議とする。

「それは横に置いておくとして、こちらの桃木さんを転生させた女神のことですが・・・」

「ああ・・・女神ルキスね?」

「そうです・・・ネフェリス様の見解は?」

「十中八九・・・殺戮の女神ルキスロッコよ」

 そう、殺戮の女神ルキスロッコ。

 かの女神は、現在では悪の女神であるが、もとは殺戮をテーマとする女神だ。その名の通り、殺戮が大好きな女神で隙あらば殺戮を楽しもうとするヤバい奴である。

 これまでにも幾多の世界を作っては、殺戮劇を楽しむだけ楽しんで使い潰す奴だ。その悪逆非道によって、あっと言う間に悪の神々入りもした。

 では、そんな殺戮愛好者が今回のチートシードを用意した一人であるとすれば、何を狙ってのことか?を考える。

 そして、そこまで悩むことなく答えを出した。

「奴の目的は、殺戮劇の鑑賞。まずは、チートシードを用いて転生者を国中にばら撒き混乱に陥れる。その後、シードを用いた転生者たちを殺し合わせるバトルロイヤルを鑑賞するために動くはずだわ」

「・・・え? 悪趣味なことですね」

「そうよ。悪の趣味なんて、どれも似たり寄ったりよ」

「・・・ネフェルマリー様もですか?」

 ・・・。

 ・・・・・・。

「私は違うわ! 私は・・・えーっと、趣味? なにかあったかな・・・趣味・・・趣味・・・」

「もういいです」

 ずっとこの世界の救済と破損した記憶データの修復しかしていないから、趣味が何だったか忘れただけよ。いや、ちっとも思い出せない。あとで本体に問い合わせるか?

「ええい。それよりも、運命の双子神を捕まえるほうが先よ!」

「それですが、白ヤモリを放っていますが・・・上手く身を隠しているようです。見つかりません」

 ち・・・運気を操作して幸運で逃げているな?

 しかし、運気操作は後々自分に不運を招くことになるから、運命の神々はなるべく使わないはずなのだけど、あの連中はバリバリ使っているのか・・・。

 いや、だからこそ借金を背負って泣きべそをかいていたのか・・・。

「まぁいいわ。その内、姿を現すだろうから・・・視察中は白ヤモリで捜索をお願いよ?」

「分かりました。では、アニスニア姉さまの代わりとして、私が後の仕事は引き受けますよ」

 それは助かる。

 アニスニアでは本当に仕事が大変だからな。

 常に給仕をし続けないといけないのは、ただただ辛い。

「それに、詳しい話は桃木太郎さんにも聞けますし、まずは帰るとしましょう」

「そうね・・・」

 そうして、転生者である桃木太郎を担いでいるレノーダ町長の後ろを歩く。


「あのぉ・・・それで、これらは一体・・・どういうことがどうなった感じなのでしょうか?」


 レノーダ町長からの問いを受け、私はアリスリアを見た。

 当然の疑問に対して、どのように返すのか? お手並み拝見と行きましょうかね。

「はい。実はですね・・・」

 アリスリアは、こちらの情報を伏せつつ言い訳をゴリ押しした。

 さすがに、それで納得できる人間などいないだろうけど、王女殿下のゴリ押しなのだから深追いするなという忠告だと理解してもらい、話しは終了する。

 ・・・なんか疲れたな。



 アニスニアが白目を剥いたまま目覚める様子は無かった。

 これによって、視察が続行不可能と・・・なることはなく、アリスリアが代行することで続行となる。

 周りは、三歳児のアリスリアに仕事を代行させるのはどうか?っとなったが、王都から来た私たち一行はそれで話を通した。

 魔法術で浮遊し、大人顔負けの対応力で視察に臨むアリスリアは、視察先の大人たちが身震いするほどの観察眼で鋭い質問を繰り返す。

 まだ三歳児。という先入観から、老練な女王がごとき様子に戦々恐々とし、アニスニアを接待するだけの簡単なお仕事が・・・気を抜けば自分の身が危うい事態に代わった事を自覚したようだ。

 なお・・・鉱山に押し寄せていた学者たちもアリスリアの一言で片付いた。

「では、こちらに居座っている皆様方は、女王陛下の命で滞在している調査チームを妨害した罪で逮捕しましょう。国からの援助は打ち切り、強制労働刑で10年間の労働奉仕などいかがですか?」

 効果は抜群だった。

 三歳児でありながら、流暢に会話する姿も恐怖を煽る効果があったな。

 私の胃が痛む思いであったが、仕事がスムーズに進むので文句は無いのだが・・・疲れる。

 

 ルッタ・レノーダの行方に関しても、宮廷魔法術師のベルドガナが救助用魔法術具を介して調べてみたところ、この土地の遥か地下にいることが分かった。

 深すぎてベルドガナの魔力でも詳細な位置を掴めないほどの地下にいるという事実が明らかとなったわけだ。

 そうして、数日に及ぶ視察は全工程を完了した。

 アリスリアのおかげで、本当に滞りなく終了できた・・・こうして、私たちは帰路につく。

 列車にて、窓の外を眺めながら・・・不意に思い出した疑問をアリスリアに尋ねてみた。

「ところで、桃木少年の話しなのだけど・・・」

「はい? なんでしょう? レノーダ町長に預けてきたのを気にしておられるのですか?」

「そうじゃないわ・・・」

 結局、あの少年は処理しないでレノーダ町長に預けることとなった。

 アニスニアや私との戦闘を目撃して、その実力をネルゾイの発展に使いたいと言ってきた。最初こそ、私たちは渋ったが・・・いろいろと見聞きされているために強い事も言えず・・・。

 口止め料の代わりに預けることとした。

「いや、それも気になるところだけど・・・目を覚ました彼と話をして、一応、大丈夫そうだったから置いてくるって言ったのはおまえだろ」

「その通りです。私も王都からネルゾイまでの転移を行った上に、大技を放ってしまって魔力もほぼ尽きていますし、種まで焼き切れそうにありませんし・・・連れ帰るのも手間ですし・・・」

 それは、そうだけども・・・。

「いや、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて、あいつはやけに病気系統な技を使っていたけれど、なんか知ってる?」

 お供三匹コントとか、合体ロボットとか、パワードスーツとかで忘れがちになっていたが、防疫とか疫病払いとか、使う技がやけにアレなテーマだった。

「・・・ふむ。それは地球での話となりますが、桃という果実には万病を打ち払う力があると―――」

 長くなる話だった。

 嬉々として語り始めたアリスリアであるが、長いせいで寝るまで続いた。どうやら、1000年前に召喚した勇者への未練で、地球のことも勉強したようだ。

 そうして得た知識を披露できる機会を得たことで口が止まらなくなったらしい。

 王都に到着するまで、寝る時間以外ではずっと地球の話を聞かされ続けた。侍女としての仕事ができなくてマジ困った。

 

 城に帰還すると、女王アルファニアから最初の一言。

「ユアヒム・レーンはどうした!?」

「・・・・・・・・・・・忘れてた」

 

 女王は、そうして発狂した。





次回は、マリーとウィッチの井戸端会議・・・みたいな感じのお話にしたいと思っております。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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