20 これからどうしようか・・・
こんにちは。こんばんは。
ルッタとアライラーが、より強くなるために次の行動へと移るためのお話となります。
また、壺外編との絡みも含めていますが、時系列大丈夫かな?っという不安がいっぱいで冷や汗がとまらないです。
どうぞ、最後までお楽しみいただければ、幸いです。
日が昇る。
朝が来る。
そんな空を疾走するように、アライラという弾丸は飛ぶ。
〈目標地点まで、あと・・・何秒!?〉
・・・そこは3秒とか・・・もしくはカウントダウンするところじゃないかな?って思うんだけれど。
俺は、錫杖に錠の頭と鎖の身体を持つ蛇である縛鎖閻魔錠を巻いて『地獄能・巻蛇槍貫撃』を手に、アライラの上から飛び降りた。
紐無しバンジーをするほど、俺は肝が据わっているわけでもないので、もちろんアライラの蜘蛛糸を体に巻き付けている。
この糸がまた凄い強度を持っており、粘度を調整することでアトラクション用の紐にも転用できることだろう。・・・もしかして、ダンジョンから脱出できたらこれで商売ができるのではないだろうか?
ひゅーん。・・・という表現が合っているかは不安であるが、地面がものすごい勢いで迫っていることに意識が飛び出そうだ。
このダンジョンに落ちた最初の時は、周囲が暗く大きな穴であったことからも差して気にならなかったが、こうして広大な空間を見渡せる場所から地面に向けて落ちるというのは、とてつもない恐怖を覚えてしまった。
とはいえ、今日が初めてというわけではない。
こうして飛び降りるのは今日で四回目となるが、俺の『天才』という加護のおかげで飛び降りる恐怖にも慣れ始めている。やはり、要求した加護に間違いはなかった・・・と、思う。
そんなこんなで考え事をしていると、あっという間に地表が迫ってくる。そこには、ヨーロロンの群れも確認できた。
「軌道修正。右にちょいちょい、後ろにちょい」
〈りょーかーい〉
俺の肩に張り付くようにして、アライラの視界となるカメラアイがくっついている。
最初に飛び降りた時に、軌道修正の指示が上手く伝わらなかったことで、大変な目に遭った。これを反省しての措置がこれだ。
俺の視界とほぼ同じ視界を得ることにより、俺の指示が分かりやすくなったことで、目標への軌道修正も容易になった。
指示通りに軌道が修正され、直下には一匹のヨーロロンが草を食している。
「よし、獲れる」
槍の穂先から青い火を放出し、円錐形に巻かれた鎖が一気に搾り上げられることで、針のように細く鋭く尖る。
糸の放出が止まり、バンジージャンプで使用される紐のように「ぐいーん」と伸びることで、残りの距離を稼ぐ。
これが伸び切った時、俺が構えた槍でヨーロロンを串刺しにする時だった。
「縛鎖閻魔錠!」
槍が刺さったのを確認して、俺がすぐさま合図を送ると穂先が解けて鎖に戻る。
次の瞬間には、ヨーロロンを簀巻きにでもしたように鎖が体に巻き付いて、ガッチリと捕獲してくれる。
「よし! 撤収!!」
〈あいあーい!〉
ぎゅーんっ。という表現で合っているかは定かじゃないが、俺の身体がアライラの蜘蛛糸によって急速に上昇していく。
空中へと回収される俺とヨーロロンであるが、被害に遭わなかった群れの各個体が逃亡を阻止しようと唾を吐きかけてくる。
しかし、それらを先日習得した『業火』にて焼き払って防いだ。
「うん。新しい防御手段もだいぶ使えるようになったな」
ホッと一息つきながら、俺は追撃を諦めたヨーロロンを見つて、ただ思う。
バンジージャンプを参考にして、高高度から飛び降りることでヨーロロンへの一撃離脱戦法を行うこととしたのは、大変上手く行っている。
しかし、先のアンカーラのような航空モンスターが出現する高度を探るのは大変だったし、初日のバンジージャンプは蜘蛛糸の長さと伸縮性を把握できていなかったことで、地面に激突しかけた。
・・・俺の場合、地面に激突したらギャグのように人型の穴ができるのだろうか? それとも俺の身体が弾け飛んで肉片をまき散らすこととなるんだろうか?
どっちも嫌だなぁ。
ま、このようにして、アライラのご飯を確保できるのは大した進歩だと思っている。ただ、俺個人としてはこういう攻め方は好きではない。
正面から「今日もお肉を貰いに来たぜ」とかなんとか言いつつ、圧倒的な力で群れを蹂躙し、一匹だけ仕留めて帰る。そんな無双をしてみたいなー。
〈るったー? もうすぐよー?〉
はいはい。俺は頭上を確認する。
空に浮遊するアライラが、身を小さくするために畳んでいた八つの足を開いて、器用にも足の先をキラキラと点灯させて構えた。
ま、とりあえずは仕留めた獲物を簀巻きにしたままアライラに渡す。
その八つの足でガッツリと鎖で巻いたままのヨーロロンを抱きしめて、アライラは上機嫌に鼻歌をし始めた。
それから、俺は蜘蛛糸を辿って、彼女の背によじ登る。
最初こそ邪眼の補助を受けて、背に乗せてもらっていたのだが・・・自分の鍛錬も含めてやってみようと、自力で登ることにした。
やってみると、コレが物凄い難しい。自分が非力であることを再認識し、筋トレにもなると思って継続していくつもりである。が、『天才』の加護が効いているのか、もう登れるようにはなった。
〈うひひー! 上空からの一撃離脱・・・強襲戦闘の基本だね! ヨーロロンの奴らめぇ・・・地上戦ではフルボッコにしてくれたが、今は違う!〉
「うんうん。帰って朝食にしようね」
〈あーい!〉
もう少し、このやり方を繰り返してみてから、改善点などを洗い出すとしよう。
そうすれば、より効率的にアライラのご飯を確保できるようになるはずだ。いろいろと罪悪感も覚える戦法ではあるけれど、しっかりと美味しい丸焼きにして食べてもらうとしよう。
「・・・アライラ。なるべく早く、村に帰ってくれ」
〈うぇ!? 出発進行!! 当機は、急ぎ村に帰りまーす!〉
邪眼二つから推進力となる火が噴射され、中空で静止していたアライラの身体が村に向けて反転すると、一気に加速した。
・・・この戦法には、重大な欠陥がある。
「ファイターモード・・・魔力のドカ食いをどうにかしないとダメだなぁ」
俺の首から、肉が裂けて血が噴き出し始めた。
〈な、慣れるまでが大変だね・・・〉
そう。こればかりはなかなか慣れない。
体にかかる負担が大きい事を考えれば、もっと改善することは多いはずだが・・・正直、魔力の使い方とかよくわかんないのが現状だ。
魔力自体は『枯渇しない魔力』という加護で、魔力の源泉と呼ばれるほどあるのだけれど、俺自身では使用することが出来ないという欠点があり、地獄変という特種なアイテムを介することで使用できる。
つまり、魔力の使用に関しては、ほぼ地獄変任せになっている。
「マリーさんに、ちょっと講義をお願いして・・・ゲフッ」
〈る、ルッタ!?〉
血を吐いた。
・・・うーん。この血を噴いたり、血を吐いたり・・・これらの状態には、もう慣れている。
そんな自分が、ちょっと怖いと思った。
〇
ぐったりとして布団に潜っている俺に、マリーさんは言う。
「まったく・・・」
・・・おはようございます。大変、不機嫌ですね?
「私は言ったはずよ? ファイターモードとかいうのは、短時間だけにしろ。と」
俺の頬を指で突いてくる。
「だと言うのにおまえは、一週間の安静が解けた途端に、航空モンスターが出現する境を探るべく高高度を行ったり来たり、ヨーロロン狩りの効率化を探るために行ったり来たり・・・バカなの?」
だって、空飛ぶアライラに乗りたかったんだもん。
ビッシビッシ。と俺の頬を指で何度も突いてくるマリーさんは、言葉とは裏腹に楽しそうにしている。当の俺はと言えば、キツツキとかいう鳥に突かれている気分だ。
キツツキの実物を見たことも無いけど・・・。
「わずか三日で、このザマとはね。もっと身体を労わりなさいよ」
ビシッと、頬に人差し指が食い込んでくる。
「・・・痛いのです」
「子供のほっぺは、やはりいい。いつまでも突いていたくなるわー」
俺は、その指を手で叩き弾いた。
それから、しばしマリーさんと睨みあう。
「で? どうなん?」
「まぁ、一日寝て過ごしたので、身体が幾ばくか軽くなったと思います」
俺は、今より十日・・・いや、正確には十一日ぐらい前かな? 面倒だから十日前でいいや。
俺は、今より十日前にアライラが空を飛ぶ能力を得たことで、不意の航空モンスターと遭遇戦となり、それまでにもアレコレと消耗していたところに重なった連戦後に倒れた。
心肺が停止して死にかけたそうだけど、マリーさんが蘇生してくれたので助かったらしい。
・・・まぁ、心肺が停止しても生命力が高すぎて三日は生存できるとか言われたけれど。というか、頭が吹き飛んでも一日は生存しているとか言われて、俺、もう人間やめてるのかな?っと不安になった。
・・・まぁ、超人になっているようではあるけれども。
まずは一週間。
俺は村長宅で寝込んでいた。どうにも、俺の身体が大変酷い状態だったようで、マリーさんが完治するまでは一切の活動を禁止と言い渡されたのだ。
その間に、マリーさんがアライラのファイターモードという『高機動空中戦闘形態』・・・だったかな?・・・と名付けた空を飛ぶ能力を解析してくれた。
そして、ダメな点をいくつか指摘してくれた。
ダメな点はいくつかあるが、その中でも一番ダメだったものが『翼膜』だった。
曰く「邪眼一つで浮遊できるうえに、姿勢制御、高度調整、その他諸々ができるのなら、翼膜とか必要すらないでしょう?」と言うことだ。
・・・よくよく考えてみると、その通り過ぎて反論もできない。
このビーム翼膜は、俺に相当な負荷を掛けていたらしい。
邪眼ビームを常時放射している状態であることから、バスタービームに相当する負荷が長時間身体に掛かっている状態で、使用時間が増えれば増えるだけヤバいらしい。
さらに、この『ファイターモード』と呼ばれる飛行形態は、身体を浮遊。推進力となる邪眼ジェット。これら三つ分の邪眼でもそれぞれがバスタービームを使用しているのと同等の負荷をかけているのだとか。
翼膜も含めれば、五つの邪眼で常時バスタービームを放っている状態で、使用時間が延長されるたびに八連邪眼バスタービームの負荷を跨いで超えていくらしい。
マリーさんは分かりやすい例えとして、連鎖コンボに失敗して負けているのよ。とか言っていたな。ばよえーん演出の連鎖コンボを極めて負荷を溜めるなとも言われたが・・・ばよえーんて?
まぁ、俺が例えを聞いてまるで意味を理解できていないのもお構いなしに話をつづけたので、深くは考えないことにする。
ともかく、ファイターモードでの負荷が大き過ぎることで、俺は自滅したというわけだ。
で、コレの改善を考えろとも言われた。
寝込んだ状態でいろいろと考えたのだけど、そもそも、俺自身があらゆる知識不足で何も想像できない状態だ。
・・・アライラみたいに、もう少しテレビとか漫画とか見ておくべきだったからな?
そのような事は詮無きことってやつか。
「ふん、まぁいいわ。今日は余計な事をせずに安静に過ごしなさい。私は仕事に戻るわ」
「・・・仕事? 見回りに出るってことですか?」
「いや、そっちは休業よ。今は、おまえとアライラーを何としてでも第四階層まで下りられるように鍛えることが、私の仕事!」
・・・えぇ。
「・・・だけども、おまえが幼過ぎて私の予定がどうにも進まなくてね」
「それは、邪神のくそったれに言って下さい」
「ふ、それもそうね」
苦笑しながら、俺の額に手を乗せて・・・それから優しい感じにひと撫ですると、部屋を退室していく。
・・・静かになった部屋の中で、俺は天井をボーッとしながら見つめた。
こうして静まり返ると・・・いや、止めよう。
「そういえば、救助用魔法術具に着信があったな」
不意に思い出した前世の生活。
幼い頃は、母と叔母が些細なことで喧嘩していたことが、今でも思い出せるぐらい好きだった。
・・・しかし、そんなことを思い出していると、こっちの世界での暮らしを思い出して、救助用魔法術具に着信があることを思い出す。
洞窟迷宮では、これの着信音には迷惑を被ったが・・・俺のメッセージがあちらに届いているならば、きっと返信であるはずだ。
着信は・・・確か、216件も溜まっていたはず。
ランドセルを引き寄せて、時間割表を入れて置く透明アクリル窓付きポケットの窓をタップする。
そうして、ランドセル内の道具一覧を表示して、救助用魔法術具の項目にカーソルを合わせた。
『受信件数 217件』
・・・一件増えた? それとも、俺の記憶違いだったかな?
ふむ・・・とりあえず、この一番新しい着信を再生してみて・・・それからどうするか決めるとするか。
――メッセージ再生――
『あー、あー、テストテスト。これでメッセージの録音は始まっているのか?』
『はい。使用説明書の通りであれば、すでに録音は始まっていますよ』
『む・・・む・・・なんだか、緊張するものだな』
『分かります。どこにいるのかも分からない相手に向けて、こうしてメッセージを録音するというのは、緊張しますよね』
『うむ・・・うむ・・・で? もう話をしても大丈夫なのか?』
『はい、どうぞ』
『うむ・・・えー、ルッタ。おまえの希望通り、領主である私が・・・ぅん? なんだか最初の言葉としては違う気もするな』
『まぁまぁ、とりあえずは気になさらず、思うままに伯爵様の胸の内というモノを、あの子に伝えてやってください』
『う、うむ・・・そうだな。では改めて・・・ルッタよ。おまえの希望通りに、現!伯爵で現!領主であるこの私、クローニ・アルメルデがッ! 我が父より魔法術具を取り上げたぞ。感謝せよ。そして、ネルゾイ町長の自宅に移設した。おまえの実家だ。さて、要望にあった我が父の頭をカチ割るということだが、すまない。それをやると色々な問題が増すだけなので勘弁・・・いや、許せ。今回のメッセージは私からとなるが、次回からはお前のご両親から送ることと・・・ケホッ・・・ゴホッゴホッ』
『あぁ、クローニ様。そんな一気にしゃべる必要はないと思いますが・・・』
『す、すまん・・・どうにも仕事が増える一方でな。一息で出来るのならば、そうした方がいいと思って前のめりになりがちだ』
『息子が、ご迷惑をおかけします』
『気にするな。我が両親のせいで仕事は元々多過ぎたが、ルッタのおかげで無事に三倍になった程度だ』
『程度で済みますか?』
『なにか良い栄養剤とか無いか? 疲れが取れなくて困っている』
『まずはしっかりと寝ましょう。休日を設けられないのであれば、毎日しっかりと寝るべきですよ』
『む・・・ぅむ・・・しかしだな・・・』
『ささ、今の間だけでもお休みください。あとは、私がやっておきますから』
『そうか? そうだな・・・親子だものな。挨拶も済ませたし、後は任せる。せっかくだ。そこのソファで休ませてもらうぞ』
『ええ。どうぞ』
『ふぅ・・・ソファとは、こんなにも柔らかくて・・・すぅ』
『――――――あなた? 毛布をお持ちしましたよ』
『助かるよ。クローニ様にかけてやってくれ。それと、疲労が取れるまじないもね』
『はい、お任せあれ』
『・・・さて、ルッタ。おまえが生きていると知れて、父さんは嬉しいよ。っと、父のヨッタ・レノーダだけれど、覚えているかな? 最後に会ったのは5歳の誕生日だから、まだ覚えていてくれていると信じているぞ』
『生まれてまもなく、前伯爵様に取り上げられてしまいましたものね。っあ、母のリソス・レノーダよ』
『そうだね。1歳の誕生日に「誰?」と言われた時は、ショックだった』
『えぇ・・・本当に・・・』
『おっと、気落ちしている場合じゃないな。えーっと、近況報告としては・・・えー、ルッタが落ちたと思われる場所は『神代の大迷宮』と呼ばれる古のダンジョンなのではないか?との推測が立てられたんだ。考古学者のユアヒム氏を始めとして、国の学者らも同意したことで、ほぼ確定状態になっている。特に外では見たこともない危険な生物がいると聞いて、学者たちが大盛り上がりだ』
『そうねぇ・・・クローニ様のお屋敷に、国中の学者が大挙して押し寄せたと聞いた時は、さすがに気の毒でした』
『まったくだね。大迷宮の入り口はどこだ!?って、クローニ様の鼻先に息を吐きかけるほど迫ったと聞いたから、さぞ大変だったことだろう。まだ何も分かっていない状況だというのに』
『あまりの熱気に、気絶したと聞いてお見舞いに行きましたもの』
『その後も大変だった。クローニ様が使えないとか言ってネルゾイまで来ると、こっちの許可もなく勝手に鉱山に侵入して入口探しを始めるんだからね』
『あー、お見舞いに出た私の車とすれ違った団体様のトラックは、学者様方でしたか』
『君が見舞いに出かけた一時間後ぐらいに、押しかけて来たよ・・・アレは大変だったなぁ。現場指揮と監督をしている兄さんたちが手に負えないほどの勢いだったし・・・』
『挙句に移住と、遺跡研究の施設を建造するよう迫ってきているのでしょう?』
『それには僕もまいっているよ。ただでさえ、近年の好調で人が集まっているから、アパートやマンションなどの建築を進めているというのに・・・』
『元々が閉山予定の町だったのですから、そうもなりましょう?』
『どうしたものかなぁ・・・町の外はテントだらけだし、畑や牧場を荒らす者まで出てくるし・・・』
『極めつけは、第四王女様の視察でしょう? 頭が痛くなりそうね』
『それを聞いたクローニ様が、血を吐いて倒れたのが数日前だったりするんだよね』
『あらまぁ・・・それは・・・』
『まぁ、王女様の視察という形で、宮廷魔法術師の方が来てくださるそうだから、ルッタの居場所をより正確に探れるかもしれないぞ』
『なるほど・・・さすが女王陛下ですね。宮廷魔法術師を一人だけ送れば、周辺貴族が文句を言うでしょうけれど、王女様の視察に同行させるならば、護衛として・・・と言い訳もできる』
『そういうことだね。ただ、お化け野菜と呼ばれている野菜類を大量に用意しておくようにと言われたんだけど・・・お土産として確保しろってことなのかな?』
『さぁ? でも、この町では一番の特産品ですし、お化け野菜を食べて育てた牛も絶品の肉質ですから、王女様に試食いただくためにも用意しておくべきでしょう?』
『・・・そうだね。なんにせよ、宮廷魔法術師様がいらしてくれるのだから、文句はないさ』
『そうね・・・あ、ところでメッセージの送信はしたの?』
『あ! しまった忘れてた! えーっと、どこまで話をしたかな?っというか、無駄話を一杯しちゃったな。これって編集とかできるんだっけ?』
『えー・・・私も使ったことないから分からないわ』
『んー。ま、いっか! っていう感じの近況だ。なかなか仕事が忙しいばかりだよ!』
『雑な繋げ方ね』
『しー。うんうん、それでだ。ルッタ。仮に大迷宮に居るのであれば、出来うる限りでいいので、迷宮内で得られた物は持ち帰って欲しい。古代の通貨とか、壁画の一部とか、モンスターの死骸とか、なんでもいい。学資たちがうるさ・・・要望しているので、出来うる限りで構わないからね。命の危機に荷物を死守する必要はないぞ。一番重要なのは、ルッタが無事に帰還することだからね』
『とりあえず、このメッセージ後は当面、送らないわ。あなたからの返信が届き次第、一日一回のメッセージを送るからね』
『できる限り、早い返信を待っているよ』
『母・・・いえ、お婆ちゃんたちも言っていたと思うけれど、こちらでも大迷宮から脱出する術がないかを探しているからね。決して無理をせずに身を守りつつ、脱出する術をあなたも探してちょうだい』
『では、身体に気を付けて、また再開できる日を信じよう。とにかく、まずは返信を頼むよ? もう、ルッタのお爺ちゃんお婆ちゃんが心配して、夜しか眠れないと嘆いていたからね』
『・・・それは、たいして心配をしていないのでは?』
『あ、言われてみるとそうかもしれ―――――ッ』
ブツッ
――再生終了――
・・・うーん。これで終わりか。
「無駄に長いメッセージだったけど、とりあえずの近況は知れたか」
俺がこの大迷宮へと落ちた後がどうなったのか知りたかったけれど、学者が押しかけて来たというのはまた想像もしていなかったな。
どうも、ユアヒム・レーンは普通に生活しているっぽいし、優雅に考古学研究をしているのだろう。そんな姿を想像するだけで、殴りたくなるなぁ・・・なるなぁあ。
ま、それは置いておくとしよう。
クローニ・アルメルデ伯爵。
俺が前伯爵邸に軟禁・・・いや、お世話になっている頃は時々やって来ていた人だ。俺の様子や前伯爵夫妻の様子を確認する目的もあったんだろう。
不自然にならないよう、孫娘を連れてきていた。
あ、貴族って割と早く結婚するようなんだよな。息子さんが十六歳で嫁を迎えて、長女が生まれたという。現在は長男も生まれて夫婦円満だそうだ。
あのお嬢様は元気かね? 俺が勇者伝説の本を読んでいると、必ず邪魔してきた子だ。が、前伯爵夫人によって図書室からつまみ出されてばかりいたな。
・・・まぁ、前伯爵夫妻はあまり他人に慕われるような人柄ではないからな。
敵も多いから、クローニ伯爵様はさぞ苦労なさっているのだろう。
それにしても、実の両親か・・・どんな顔していたっけかな?
父と母。正直、アルメルデ前伯爵家に滞在している実の祖父母の方が覚えているが、この世界における実の両親は年に一回くらいしか顔を合わせないので覚えていない。
俺が『歩く魔力の源泉』であったことで、身の安全のために前伯爵家に保護されていたため、実の両親とはまるで接点がないのである。
さて、そんなあまり覚えのない両親の事は置いておくとして、返信をどうしようか。
ここまでの生活や、アライラの事、マリーさんの事、伝える事は多々あるわけだが、伝えてはいけないことも多々あるはずだ。
こういう場合は・・・。
「マリーさんに相談だな」
〇
〈は、はじめましてーッ! あ、あら、アライラーでっす!〉
「いや、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
俺は、アライラの居る村の広場で、救助用魔法術具の返信をアライラに手伝ってもらうことにした。まずは練習だ。話す内容を考えつつね。
〈いやいや、でもさー。私が挨拶とかしてもいいもん? 魂は人間なれど、身体はモンスターだから人語とか喋れんのですよ?〉
「大丈夫。むしろ人語を理解して、友好的な存在であるとアピールしてほしいんだよ」
地下深くへと落ちた後、アライラーと名付けたモンスターと出会い、危険な生物から身を守ってもらいつつ、一緒に大迷宮を探索しているのだとメッセージに送るつもりだ。
そのためには、彼女がモンスターであることを示しつつ、人語を理解して友好的に行動してくれることを伝える必要がある。
〈ルッタが私に操られてるとか思われない?〉
「大丈夫さ! 君がとにかく賢くて、俺の言葉をしっかりと理解し、指示に従って動いてくれるのだと向こうに理解してもらえればいいんだからね」
〈・・・なんかペット扱いされてね?〉
「そこは目をつむってほしい。モンスターと友好関係にあるというよりも、主従関係を築いたと解釈されるほうが、納得させやすいんだ」
〈まー、そうねー。人間てそういうところあるもんねー〉
申し訳ないという気持ちはあるが、俺とアライラを見ていない人間を納得させるためには、主従関係にあるという解釈をしてもらう方が都合がいい。
マリーさんに相談をした結果、メッセージの返信にはアライラを参加させて、主従関係を築いたという風に紹介するのが望ましいと言われた。
また、マリーさんに関しては絶対に話をしてはいけない事も注意された。
理由としては、ダンジョン管理人という存在であると、外の連中が「壺内に入れろ」と要求してくるのは確実だからだという。
そもそも、管理人と言ってもモンスターを従えているわけではないし、檻に入れて監視しているわけでもない。壺の中で異常を管理するのが仕事なのだ。
環境に異常が発生する。モンスターに異常が発生する。諸々で異常が発生した場合に、確認、報告、処理をする。 それがマリーさんの仕事であるらしい。
【災厄の壺】と呼ばれている通り、この世界にとっては【災厄】を全て封じ込めた壺なのだ。少しでも異常が発生して、外へと出て行った場合・・・世界がどのようになるのかは予測も難しい。
ただこれだけは言える。
大ムカデの姿をした多脚式戦車であるギガトレンクが、一匹でも外に出れば、外の世界は対抗できる人が居なくて詰むだろう。
・・・いや、魔王封印のために女神とか男神とかがアバターを用いて、外にいるのであれば処理できるのかな? マリーさんはヨーロロンを余裕で倒せるし・・・【神殺しの獣】が相手でなければ余裕か。
〈ルッタ? どうかしたん?〉
「あ、いや、ちょっと考え事をしてた」
アレコレと考えることはあるけれども、今はメッセージの返信を優先しよう。
「それじゃあ、あと五回ほど練習してから本番にしよう。台本はとりあえず練習しつつ修正していくからさ」
〈ま、まかせんしゃい!〉
声、裏返ってるよ。
▽
〈ふぁぁぁぁああああ・・・おわたー〉
「お疲れ様。いい感じにメッセージを返信できたと思うよ。ありがとう」
アライラはその場にぐったりと倒れ・・・いや、足を投げ出すように伏せっている?の方が正しいかな? とにかく、地面にべったりと張り付くようにしている。
〈でさー、この後はどうする予定?〉
「そうだね。とくには考えていないんだ。マリーさんには安静にしておくようにと言われているし」
メッセージの返信を終えた後は、ただ暇を持て余すだけとなる。
ここで特訓だと言って、アライラと一緒に空へ飛び出したいところではあるが、身体の負担を考えるとダメだろう。しっかりと休むべきだ。
〈そっかー。なら、私は寝るぅ・・・だいじ?〉
「うん、大丈夫だ。何かあれば起こすから、それまで寝ているといい」
〈ふぁい・・・おやすみー〉
それだけ言うと、すぐさま寝息が聞こえて来た。
緊張していたようだから、疲れたんだなと思う。
「そうだな・・・俺も寝よう。ぐっすりと眠って、また明日から特訓だ」
「まぁ、待ちなさい」
頭に手が乗せられて、撫でられた。
その手を掴んで頭から離しつつ振り返ってみれば、マリーさんがいる。
「まぁ、待ちなさい」
「まだ何も言っていないでしょう?」
返答していないからなのか? 同じ事を言われたので、とりあえず問い返す。
「そうね。なんか固まっているようだったから、一応反応を確認したのだけども」
俺が驚いて固まっていると思ったから、もう一度声をかけ直したということか。
「それで? なにかご用でも?」
「ええ。お前たちの今後についてちょっと話をしたいのだけど」
それは、アライラにも関わる話ということかな?
しかし、彼女はすでに寝てしまったので、話しができる状態ではないのだが・・・。
「とりあえず、私が勝手に予定を立てている状況なのだけれども、ルッタ。おまえはこれからどのように第一階層であるこの【春の区画】を攻略していくつもりなのか。考えていることはあるのかしら?」
・・・これから、この区画を攻略する・・・順番と言うか方法というか、どうするのか?を聞かれているとしても、どう答えればいいのか。
正直、マリーさんが居なければ早々に死んでいることは確かだし、仮にいなかった場合はどうなるのかを考えれば、ここで行き詰まっていたことだろう。
ヨーロロンの時点で苦戦を強いられている状況だし・・・なぁ。
かのモンスターが洞窟迷宮で戦ったギガトレンクとかいうムカデモンスターと同レベルというのも驚きだし、ここから先はアレら以上の強敵ばかりになるのだろう。
では、どのようにして都を目指していくのか?
このダンジョンを攻略するには、定番とはいえ階層を降りて行かなければいけないのだから、この区画の中心にある都へと行かねばならない。
そこには、都を守護する【神殺しの獣】とカテゴリされた神獣クラスのモンスターがいるという。
「・・・そうですね」
どう考えても、今の俺とアライラで都に到達することは無いだろう。
ならば、やはり地道に強くなっていくしかないと思う。正直、Lv上げのように数値で示してもらえるならば目安も楽になるんだけど・・・この世界にはそういうのが無いからな。
なら、強くなるためにまずやる事はなにか?
アライラとのこれまでを振り返って、今、俺がやるべきことは・・・。
「鍋!」
・・・何を言っているんだ? 俺。
「鍋?」
「え? あ、えーっと・・・はい! 鍋です!!」
マリーさんも目を点にしている。
しまった。ついつい思い出すことを直近の出来事からにしたのがマズかったかもしれない。
「鍋なら、この村にある店で買うことができるけれど?」
あ、そっちになっちゃいますよね。
「いえ、そっちの鍋ではなく。アライラが食べる料理のための鍋・・・というか、調理器具一式が欲しいと思っています」
「アライラーが食べる料理?」
「そうです。先日、アンカーラを倒した後に、鶏肉ならば唐揚げが食べたいと言っていたのですが、道具がないので無理だからと丸焼きにしました」
そうとも、アライラが空を飛んだあの日のことだ。
「あぁ・・・なるほど。確かにアライラーも元は人間だし、様々な料理を食べたいと考えるのは当然か」
「はい」
「・・・なるほど、アライラーが食べる料理・・・ふむ、確かにそれを作れるようになれば、一石二鳥かもしれないか」
・・・なにが一石二鳥なのでしょうか?
俺はどういうことか?と尋ねようと思ったが、マリーさんはブツブツと思考を呟き始めて俺が視界にはいらなくなったようだ。
〈うーん? 唐揚げが食べられるん?〉
「え? あー、そうだね。もしかしたら唐揚げを作れるようになるかもしれないぞ」
〈マジ!? 食べる!食べる!〉
「いや、まだ道具もないので無理だけど」
〈むぅーん・・・残念・・・〉
寝ていたかと思えば、唐揚げという言葉に反応して起きるとは・・・よほど唐揚げが恋しいらしい。
「いいわ! 鍋および調理器具を作るために材料を採りに行きましょう!」
・・・え!?
「あの、自分で作るしかないのでしょうか?」
「ないわ。村を含めてどこの鍛冶工場で注文しても、人間用の道具しか作ってもらえないからね。アライラー用となれば、自分で用意するしかない」
そっか、やっぱりそうなるか・・・。
〈それで? どうすれば道具の材料は手に入るのん?〉
「それでは、どうすれば調理器具の材料は手に入りますか?」
アライラの言葉を翻訳しつつ、俺の問いも含めてマリーさんに問う。
すると、マリーさんはニヤッと不穏な笑みを浮かべて教えてくれた。
「この【春の区画】が北地域にある。谷が採集場所としては申し分ないわ」
この第一階層でも北。
その場所にある『谷』が材料の採集場所か。
もともとは春夏秋冬で時計回りに並んでいたということで、春の気候にあるこの場所でも北は冬に隣接していることで寒いはずだ。
防寒着などを用意する必要があるだろうか。
・・・着の身着のままだし、用意しておいた方がいいだろうな。
とはいえ、この服にも温度調整機能が魔法術で付与されているから、ある程度の寒さであれば問題はないはずだ。問題は、どれくらい寒いか?だけれども。
「決まりね! 明日、出発するわ! 今日はしっかりと休んでおきなさい!」
〈オーッ!〉
・・・あ、明日までに防寒着は用意できるかな?
せめて、三日ぐらいは準備に欲しいのだけれども・・・この二人には言っても無駄だろうな。
はは・・・。
次回は、北を目指す旅路にて、彼らが遭遇する新しいモンスターとの戦いを予定しています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




