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19 〔壺外編〕01 悩みの種は尽きない

 こんにちは。こんばんは。

 だいぶ時間が掛かってしまいましたが、【災厄の壺】の外で起きている出来事の始まりとなるお話になります。

 番外編として作っていましたが、壺の外でのお話なので〔壺外編〕と変更しました。

 まだ設定がしっかりと出来上がっておらず、いろいろと不出来なお話になってしまっていますが、今後、少しずつ修正していければと思っております。


どうぞ、最後までお楽しみいただければ幸いです。

 侍女の朝は早い。

 そうとも。仕事なのだから朝早くに起き出して、雇用主が起床するよりも早くに活動しなくてはいけないのだから、朝は早くないといけないのだ。

 しかし、それとは別に人間であると夢を見ることがある。

 その夢が、どこか懐かしいモノであり、ずっと見ていたいと思えるような夢であると、なかなか起きられなくなるのは当然の事でしょう?

 そう。だから私は悪くない。

 夢を見るというのは、人間の必要な機能であるわけだから、朝早くに起きられなかったことは、私が悪いというわけではないのだ。

「だから、私は悪くないわけよ」

「言い訳は、それで終わりですか?」

 第一国家ハースニング。

 国の中枢であり、国を治める王族が住まう場所・・・城。そういえば、この城の名前はなんだったかしら?

「ネフェリス・コイノー」

「はい。レーフェル・オーレン侍女統括長・・・様? 殿?」

 どうにも、自分が偉い身分の家柄出身だと、役職上では上の立場になる人間を様付けで呼ぶべきか悩むわね。

「侍女統括長でよろしい」

「はい。侍女統括長」

 なかなか貫禄のある老婆だことで。

 なーんか、昔どこかでこんな感じの老婆に説教されたことがあるんだよなーって思うが、最近になって修復できた地球での記憶部分に、この侍女統括長に似た貫禄を持つ女性教師を思い出した。

 昭和という時代にありながら、高校の教師という職を全うし、不良生徒と真っ向から向き合っていた女傑な先生。

 うーむ。たしか、高校時代には不良共をボッコボコにして病院送りにしてやったら、その先生に説教されたのよねー。あの不良共・・・なにが「俺の女になれよ」だ。調子のんなっつの。

「聞いているのですか?」

「はい。ちょっと、この状況に似た出来事があったと思って、思い出していました」

「話を聞きなさい!」

 ・・・なぜ、怒られるのか? 私が悪いかららしい。

 悪の女神ネフェルマリーが、今代の魔王封印作業を補助するためにアバターを誕生させて早9年。

 魔王復活予定日は、あと約10年後。

 いつも通りであれば、この時期で20歳ぐらいになるよう調整しているが、今回は遅くした。

 理由は、前回の封印作業で大失敗が発生したからだ。

 魔王封印の道中で、召喚した勇者を死なせてしまうという大失敗。その原因は、勇者をナビゲートする天使・・・ではなく。その上司である邪の男神。

 ということで、例年通りであれば後方支援程度に済ませている私なのだけど、今回は勇者と共に魔王封印作業へ同行することとなった。

 そのために現在9歳の少女なのだが・・・なんで侍女なんてやる羽目になったのか?

「ネフェリス。コイノー公爵令嬢!」

「・・・はい? なんでしょうか? レーフェル・オーレン侍女統括長」

「話を聞きなさい!」

「申し訳ありません。なぜ自分が侍女をやることになったのか?と、自問していました」

 そうとも、なんで幼気な少女である今の私が侍女なんてやる羽目になったのか?

「今のあなたは、この城で働く一人の侍女なのです。いつまでも公爵令嬢の気分でいられては困るのですよ」

「そうですね」

「どこに注目しているのです? 私の眼を見て答えなさい」

「そうですね」

「・・・まったく。コイノー公爵家の女は、毎度毎度と」

「なんか、そこまで憎々し気な事があったのですか?」

「知らないのですか? あなたの祖母がやらかした―――」

 呆れた様子で、何があったのかを聞けそうだと思っていると、タイミングの良いことに私とは別の侍女が統括長の部屋へと飛び込んでくる。

 その様子は、実に大急ぎで駆けて来たと言わんばかりで・・・。

「ほ、報告いたします!」

 だいたい、こういう時の報告って、私絡みの案件だったりする。

「第四王女アニスニア様が! 城を飛び出して城下町へ降りられました!」

 やっぱりー。

「またですか・・・はぁ・・・ネフェリス・コイノー公爵令嬢殿・・・」

「了解しました。ネフェリス・コイノー。直ちに職務を全うします!」

 そうだった。

 私が侍女として働いている理由・・・それは、問題児の王女を御するため。

 この国の軍人がやる敬礼をして、私は駆け出した。

「頼みましたよ」

 と、そんな事を言っている統括長の横を通り過ぎて、後ろの窓を蹴破りつつ城の外へと飛び出す。こっちのほうが近道だし、わざわざ城の出入り口に移動していては遅くなるだけだからね。

 そんな合理的な思考の元で行動したというのに、今や後方になった侍女統括長室からの声を拾う。

「もういやだ・・・今度こそ退職願を受理していただかねば・・・」

「お、お待ちください! 本当にお待ちください! マジで辞めないでください統括長!!」

 ・・・統括長よりも悲壮感を出して止めに入るのは、なんなんだ?



「さーて、アイツはどこにいるのかな?っと」

 町の屋根を飛び降りつつ、人だかりの出来ている飲食店を探して回る。

 第四王女様は、必ず食事処に居るからだ。

〈東門前にある五月雨食堂にて、敵と交戦中ですよ〉

 うああああッ!? いつの間にか、私の肩に白ヤモリが乗っているぅう!!って驚くのも疲れてしまったわ。そりゃ最初は驚いたけれど、もう慣れた。

「いつの間に、私に白ヤモリを取り付けた?」

〈あなたが侍女統括長室の窓を蹴破るときに、飛び移らせておきました〉

 あの時か・・・。

「で? 敵って?」

〈詳細不明です。見た限りでは、王都城下町にて働いている平民と思われるのですが、どうにも異様な様子ですね。言っている事も不明瞭ですし、手にしている武器もどこから入手したものか〉

 平民? それがなんでアイツと戦うことになるのか?

「・・・あの連中か?」

〈まだ断定はできませんね〉

 お? 五月雨食堂で爆発するように煙が上がった・・・。

 ずいぶんと派手に暴れているようだけど、ただの平民相手にそこまで暴れる必要性があるだろうか? 普通に考えれば、瞬殺で終了しているはずだけども。

「手こずっている?」

〈はい。予想外の事で大変楽しそうにしています〉

 なんで楽しそうにしているんだか・・・ったく。

「急行する」

〈お願します〉

 城下町の屋根を伝って現場まで直進する。

 そうして、現場に到着したところで声を張り上げた。

「おらーッ! 野次馬は散れーッ!!死にたいのかーッ!!」

 これだけ激しい戦闘になっているというのに、肝が据わっているのか未だに結構な数が集まっていて、どっちが勝つかを掛けている奴がいる。

 しかし、私が怒鳴り散らしてやると、全員が顔を青ざめさせて私に悲鳴を上げた。

「コイノー公爵令嬢だ!」

「逃げろ! 巻き添えを喰らうぞ!!」

「ごめんなさーい!」

 ・・・ちょっと待てお前ら? なんで私を見て逃げるんだ? こんな幼気な少女である私を見てさ!?

〈ほら、野次馬は散りましたし、中に入りましょうよ〉

「その前にアイツら全員から聞き出したいことがあるわ」

 そうとも、なんで私を見て逃げるんだ? むしろ、第四王女を連れ帰っているのは私だぞ?

〈あなたが引き取りに来ると、必ず二次被害が出るからですよ〉

「どんな二次被害が出るってのよ?」

〈食堂が爆発して、周囲に重軽傷者が出ます〉

 ・・・そ、そうだったかなー?

「それは、アイツが抵抗するからでしょうが!」

 そうとも、私が悪いわけではない。

 ええい、なんか腹立ってきた。こうなったら騒ぎの中心に八つ当たりをして発散してやる!

 苛立ちを拳に込めて、私は食堂の中へと突入した。


「とっとと死ねよ! チュートリアルキャラがッ!!」

 平民が常用する安っぽい服を着た平凡な顔立ちをしている男が、まさに噛ませ犬のようなセリフを吐きながら剣を振るっている。

 その剣が、光を凝縮させて棒状に固めたような武器を手にした幼女を斬り殺さんと迫るが、柔肌にさえ刃は届かずに払われる。

「死ぬのはあなたの方ですよ!」

 黄金色の髪の毛を翻しつつ、その小さな手の中で光の槍を回しながら攻撃を放つこの国の王女。

 ルビーのように赤い瞳と、透き通るような白い肌をした現在5歳児である第四王女様は、物凄い凶器に満ちた目をして、どこか歪んだ笑みを浮かべながら連撃を繰り出して、男を後方へと押し込んでいく。

「ほらほらどうしましたかぁ!? 立派な剣と身体能力はお持ちのようですが、戦い方がなっていませんねぇえ!!」

 こっわ。

 第四王女アニスニア。今代の女王が四人目の娘は、城はもちろん王都でも有名な問題児で、私はコイツを取り押さえて連れ戻すことが主な仕事として侍女をやっている。

 侍女本来の仕事はおまけだ。

「で? 私にどうしてほしい?」

〈とりあえず、戦闘を止めていただきたいと思います〉

 戦闘を止めると言ってもねぇ・・・どうしたものか?

 アニスニアの指摘通り、大した身体能力で卓越したアイツの攻撃に対応しているが、戦い方が素人のそれだ。素直過ぎて動きを見切るなど造作もない、

 しかし、あの男が手にしている武器は・・・。

 

 その時、私の頭に電流が走ったかのごとく、男が手にしている武器の情報が流れた。


「こんの! バカ野郎!!」

 地球での記憶にて、その武器に関する知識があったのだ。

 だから、大急ぎで男の剣へと飛び掛かり、蹴りを放って刃をへし折った。

「な!?」

「んぁ! ネフェリスさん!?」

 突然の乱入者に戸惑いを隠せない二人だが、私はさらに追撃をして男の手から剣を奪い取る。

 そして、それを男に見せるように突き出しつつ怒鳴った。

「おまえ! なんの誤魔化しもせずに〇スター〇ードを振り回すんじゃない!! やるならパチモンにデザイン変更をするか、モザイクを入れてから振り回せや!!」

 この一瞬が、最も白けた瞬間だと、私は自覚した。


「なんだ、おまえ?」

「どうかしたんですか? 急に・・・」

 うん。恥ずかしいのでフェードアウトしたくなってきた。

 さっきまで殺し合いをしていた二人が、私を凝視して可哀想な奴を見る目になっているのが、何よりも居た堪れない。思わず怒鳴り散らしてしまった。

 しかし、男の方が何か気が付いたような顔になって、私に声をかけてくる。

「おまえ、もしかして転生者か? 俺と同じ転生者だろ!?」

「はぁ? 転生者? 私が?」

 うーん。まぁ、このアバターだけを言えば、転生者というのも間違いではないと思うけれど、この男が言う転生者とはまた異なる物だろうし・・・なんだかなぁ。

「そうだ。おまえも俺と同じで不幸な死に方をして、神様に転生してもらえたんだろ? だから、その剣の名前を知っているんだ。間違いないな?」

「まぁ、地球にも居たことはあるから知っているだけで、別に転生者という分類ではないのだけど・・・」

「はぁ? まあいいや。ここに来たのは、このチュートリアルキャラを倒して、冒険を始めるためだろ? 協力して倒そうぜ。チュートリアルなのに強いんだよ。このガキ」

 ・・・完全に勘違いされているなぁ。

「ちょっとアニスニア。こいつとはどういう事があって戦闘になったわけ?」

 とりあえず、男が戦っている理由は見えた。

 なら、次はアニスニアが戦っている理由を聞いておかないとね。

「この男は、私のチキンカツレツどんぶりをひっくり返したのです! いただきます!ってタイミングで! 襲い掛かってきたのです! この恨みを晴らさず、何を晴らせといいますか!!?」

 ・・・うん、そういう子よね。お前はさ。

 目が濁って、もはや殺すまで止まることはないだろうね。

「おまえ、そいつの仲間なのか!?」

「そうね。おまえの同類ではなく、こっちの仲間よ」

「くそ! 数的不利って奴か!」

 状況が自身にとって不利であるとすぐに理解した。

 決してバカと言うわけでもないようだが・・・。チュートリアルキャラと言っていたところで、なにやらきな臭いモノを感じる。

 少し考え事をしていたら、男は新しい剣を引き抜いた。

「チートスキル! 勇者の剣!!」

 チートスキル?

 男が勇者の剣と言いながら引き抜いたものは、地球でも有名な架空の剣だ。主にカリバーって叫んで辺り一面を焼き野原にする聖剣。

 マジかー。それは勇者の剣じゃないんだけどなー。

 私が呆れていると、男は剣を天高く掲げるように突き上げて、魔力を流し込む。

 すると、剣が変形して膨大なエネルギーを空高くに放出し、巨大な刃の形に収束される。

「アニスニア。塵も残さずやってどうぞ」

「任せてください!」

 光の槍にエネルギーを込めて、アニスニアは叫ぶ。

「私の食事を邪魔する者はッ!! 其の魂ごとデストロぉぉおおおおい!!!」

「チートスキル! 絶対勝利の一撃!」

 アニスニアの突き技と思わせてぶっ放すビーム砲と、巨大な刃を振り下ろす攻撃のぶつかり合いは、しかし、ぶつかり合う前に男が消し飛ぶことで霧散する。

「こ、こんな・・・俺は、しゅじん・・・こう・・・」

 かすかな断末魔を耳で拾いつつ、私はビーム砲の先へ回り込み、そして空に軌道修正するべく蹴り上げた。このまま直進を許したら、とんでもない損害が出るからに他ならない。

「はぁ、手加減ってもんを知って欲しいわ」

〈こうなる前に、あなたに何とかしてほしかったのですけれど〉

 私の肩に張り付いている白ヤモリが、残念そうに声を出す。

 最初こそ「何を言っているんだ?」って思ったが、ちょっと背の高い建物に昇って見下ろしてみれば、ビーム砲に巻き込まれて建造物がそこそこ消し炭になっていた。

「・・・私しーらない」

 しかし後日、私の給料とアニスニアの給料から損害分の一部が引かれていた。

 これがしばらく続くらしい。

 はぁ・・・。





「まだ、三割程度か」

 この世界では大昔の事となる『神々の時代』にて、災厄をまるごと封印する壺の中で、災厄を管理する仕事を押し付けられた。

 あの時、舞台となった試験大陸と周辺海域を世界から切り離し、災厄である異世界モンスターを全て封印するための作業が始まると、【神殺しの獣】による力が消えた事で切断されていたアバターとの回線が回復し、すぐさま可能な限りの情報を回収した。

 本当にわずかな時間であったから、出来ることは限られていた。

 大急ぎでアバターを完全な独立生命体として組み直し、今後の自分に支障が出ないようにもした。

 その甲斐もあって、今のネフェルマリーは大きく弱体化することなく、現状を維持できた。一安心と胸を撫でおろし、回収したアバターの記憶を読み取っているときに、妙な事に気が付いた。

 どういうわけか、覚えのない地球での生活を語る自分がいることに気が付く。本体自体は、地球に送ったアバターを回収した覚えがまるでなかった。

 が、調べ直してみると、地球に送っていたアバターは寿命を終えて帰還していた。

 しかし、当時の私は邪の男神ダーゼルガーンと光の女神パーラハラーンが世界創造をするという話を知って、嫉妬と怒りで暴走していた。

 ゆえに、帰還していたアバターを再設定して、そのまま二人が作る世界に送り込んでいた。

 記憶情報のバックアップも取らずに。

 それが判明してから、壺の中に消える前のアバターより回収できた記憶データを徹底的に調べて、地球の記憶を回収しようとしたけれど・・・。

 記憶データは破損していた。   



 あー。今にして思えば、もうため息しか吐けないわ。



「おや? お疲れのようですね」

 職場で紅茶を淹れ、コレをソファに腰かけて飲んでいる私。

 一方で、部屋の主はとても神経質になって部屋の掃除にいそしんでいた。

「まぁね。減給になったから、なんもやる気起きないし」

「そうです。食欲も激減ですよ」

 嘘を付くな共犯者。焼きたて熱々の串焼きヤモリを食べまくっているのによく言うわ。

「自分たちの不手際なのですから、当然でしょう? 消し炭となった家屋の再建には国の予算を投じることとなりますし、責任はとっていただかないと」

 

 私の名前は『ネフェリス・コイノー』である。

 この国では唯一無二の公爵家。その令嬢だ。いわゆる高貴な家柄の息女ってやつかな?

 現在、悪の女神ネフェルマリーは、同じく悪の神々でも一部の連中と敵対関係にある。そのため、本来は敵である光の女神パーラハラーンに協力している。

 私の敵は、この世界を破滅させたいようなので、敵の敵は味方理論で長く付き合って来た。

 で、私専用アバターを世界に介入させる依り代の一族が、コイノー公爵家である。これは光の女神パーラハラーンに用意してもらった。

 世界を創造した奴自身は、国を治める王族でアバターが生まれるようになっている。そして、眷属天使たちも同様に王族として生まれることができ、今代の王女は全員天使である。


「さぁ、ご飯ですよ」

 部屋には所せましと並んでいる飼育籠。

 その飼育しているヤモリに餌を与えていき、大変活き活きとした時間をお過ごしのようだ。

「あんたさぁ・・・」

 今代で侍女として雇われている私が仕えている主人。 

 その人物は、第五王女のアリスリアという今代の女王が生んだ五人目の娘にして末っ子だ。

 串焼きになった食用ヤモリを食べまくっている第四王女アニスニアの妹で、コイツと同様に国では有名な『対の銀姫』などと呼ばれている。

 第四王女アニスニアは、黄金の髪の毛とルビーのように赤い瞳。透き通るような白い肌をした母親と父親にまるで似ていない色の特徴を持って生まれた。

 第五王女アリスリアは、白銀色の髪の毛とエメラルドのような緑の瞳。太陽で焼いたような褐色の肌をした母親と父親にまるで似ていない色の特徴を持って生まれている。

 これにより、金姫と銀姫の異名を持ち、第五王女は第四王女の『対の銀姫』と呼ばれている。

 

 そう、そしてこの二人は王家始まって以来の問題児としても有名で、侍女も騎士も逃げてしまうほどドン引きされている。

 

「前にも聞いた気がするんだけども・・・」

「はい? なんでしょう?」

 私は、この籠の中で飼育されている体長50cmほどのヤモリと、体長10cmほどの白いヤモリを指さして言った。

「なんで、アバターでこっちに来ると、必ずヤモリを飼いだすんだ?」

 生まれて数日後には、どこからか持ち込んだヤモリの飼育籠が部屋に置かれはじめ、侍女が片付けようとすると魔法術を飛ばしてキレるアリスリアに逃げ出す。

 そうして、誕生して一週間もすると、部屋の中はヤモリの飼育籠だらけになっていて、侍女たちが泣きながら職を辞するわけだ。

 騎士たちも然り。アリスリアの気味悪い趣味に騎士としての本分を放棄して、いつの間にか誰も彼女を世話する者はいなくなる。

 女王アルファニアでさえ「ちょっと、爬虫類は・・・ちょっと・・・ムリ」と言って、世話を放棄するほどだ。

 

 なんで私が、毎度毎度のごとく世話係にならなきゃならんのだ?って話しなのだが、哀しいかなすでに慣れてしまっている私だからこその役職になっている今日この頃。


「毎回同じ質問をされますが、毎度同じ返答で申し訳ありません」

 そう言うと、アリスリアは白いヤモリを籠から取り出して手に乗せ、私に見せてくる。その仕草は、三歳児のトテテとした足元もおぼつかない感じの走り方で、実にイイッ。

「ほら、この子の瞳をよく見てください。つぶらな瞳とはコレを指す言葉なのですよ」

 マニアやオタクにありがちな、前のめりな説明だ。マジで好きだからこそ、興奮気味に解説できる。魅力を相手に伝えたいのだという熱意が伝わってくる。

 私の記憶にある生物で、これにもっとも似ているのはニホンヤモリっていう種類だろう。アレもたしか白っぽい肌と体長が10cmくらいだったはずだ。

「私が長年の品種改良によって完成した使い魔用の白ヤモリです。この子はわずかな隙間だって入れますし、長距離の単独活動も可能。見たモノ聞いたモノを記録することもできますし、通信にて映像を音声付きで流すこともできる優れものです」

 三歳児であることを忘れているぞー。なんと流暢な早口か。

「何よりもこの滑らかな肌の白と、黒い瞳は、まさに宝石のごとく美しいでしょう?」

「いや、ぜんぜん」

 白ヤモリをテーブルに置いて、今度は大きな籠の方に手を伸ばすと・・・体長50cmほどのヤモリを取り出して、私に差し出すように見せてくる。

「この子も、私が長い年月をかけて品種改良をした食用ヤモリなのです」

「食用?」

「はい! この良き肉付きをご覧ください。指で押せば弾力と張りを堪能できるうえに、食べて栄養満点。酒に漬けて滋養強壮。頬ずりすれば癒し効果にストレスも吹き飛ぶ。まさに至高の一品!」

 ・・・遠慮するわ。

「いかがです? 食べてみますか? 七輪と炭は常備してありますから、今すぐベランダで焼いて参りましょう。ちょっと内臓を取る手間がありますが、そこは魔法術でチョチョイのチョイですから」

「うん。いらない」

 さすがに食べたいとは思わないし、頬ずりしたいとも思わない。

 しかし、コレを漬けた酒は飲んでみたい。地球に居た頃に、なんか呑んだような記憶があるような気がするのだ。もしかすると、記憶の修復に何かしらのきっかけを得られるかもしれない。

「そうですか・・・残念です。アニスニア姉さまは、アレあのように美味しそうに食べてくれているのですが・・・」

「さすがにちょっと飽きてきたんですけれどもー」

「は? 飽きた?」

「もぉー、美味しすぎて飽きがこないのですよねー! 最高に美味しいからまるで飽きませんねー!」

「ふふ。アレあのように、給料が減ってからは毎日のようにここで私のヤモリを美味しそうに食べてくれるのですよ。うふふ」

 ・・・コイツが一番、怒らせると怖いからなぁ。

「食べてみたくなったなら、ぜひお声をかけてください。今すぐにでもご用意しますので」

 今すぐ食べろと脅し文句を言っているのがよくわかるから、マジこえぇわ。だから気づかなかったことにしよう。

「・・・ご用意しますけども?」

 ・・・くそぉ。

「食べたいなー。食べてみたくなったなー」

「ただいまご用意いたしますね! あなたもきっと、ヤモリの素晴らしさを理解できます!」

 鼻歌交じりに、食用ヤモリを魔法術でチョチョイのチョイと下ごしらえしていく。物凄い無駄のない作業だ。手慣れている。

 まったく、鼻歌をしている顔はめっちゃ可愛いのに。

 その手でヤモリを焼いているのが、絵面的にいろいろとヤバいので見ていられない。


 この国の王族は、代々女性しか生まれない特殊な血筋をしている。


 長い年月で、魔王による呪いのせいとなっているが、実は創造主である女神がそういう風に設定した一族と言うだけの事。

 本人曰く、女神なんだから女だけでいいわ。男は彼だけでもいいもの。この世界では彼が王で、私が王妃になるの。と、夢見ていたようだが・・・いまだに叶っていない。

 そんな今代の女王が生んだ王女たちが、下記の通り。


 第一王女、アイライア。現在16歳。

 第二王女、アコラコア。現在12歳。

 第三王女、アトリトア。現在8歳。

 第四王女、アニスニア。現在5歳。

 第五王女、アリスリア。現在3歳。

 

 女王アルファニアが生んだ5人の娘たちであるが、そのうち上三人の娘たちは普通の王女をしている。今代の女王が女神であるため、全員が天使ではあるのだが。

 まともな王女様であるために、多くの侍女や騎士が、次期女王になってもらうために日夜、教育と世話と護衛を熱心にやっている。まさに王女様の役割をしっかりとこなしている。

 その一方で、誰一人も仕える者がいないのが、下二人の王女だ。

 

「はい。できましたよ」

「はや!?」


 丸焼きとなったヤモリには串が刺してあり、手に持って食べられるように配慮されている。

 コレを取って、さっそくといただくこととする。まぁ、別に今日が始めて食べる物ではない。すでに何度か食べさせられているので、今更だ。食べたいとは思わんけども。

「で? アニスニアを襲撃した男は、どういう存在だったか分かったの?」

「いえ・・・あ、かの男性自体は身元が割れました。ニークという南西の鍛冶師見習いをしている方で、ちょっと性格は悪いですが、仕事は真面目な方だったそうですよ」

 アリスリアが自分の執務机から、一束の資料を取り出すと私に差し出してくる。

 コレを受け取って、中を確認してみると・・・確かにアリスリアが説明してくれた通りの平民男性であったようだ。

「じゃあ、本体の調査では?」

「はい。残留情報からも、肉体はニーク氏と一致しており、改造の痕跡も見当たりません。しかし、異常であったのは魂の方でした」

「魂?」

「そうです。ニーク氏の魂とは異なる魂が、なぜか体に入っていたようで、魂分析を行った結果では、地球の人間・・・それも日本人の魂であると判明しています」

「・・・なんたってそんな? 転生したと?」

「いえ、ダーゼルガーン様の対魔王兵器開発計画における少年以外の転生は申請されていないので、ありえないと返答します」

「・・・すると、誰かが憑依させて魂を上書きした?」

「それを可能とする存在の反応もありません。いつもの5人であれば、特別警戒網が敷かれているので我々に気づかれずに侵入することはできないでしょうし」

 ううむ。

 あの連中ではない新しい神の誰かが参戦してきたというのか?

「アニスニアが苦戦していたのは、どういうわけだったの?」

「あの男、結構強かったですね!」

 どこか死んだ魚みたいな目でヤモリを食べていたアニスニアが、齧りながらもこっちの話に介入してきた。やはり、戦闘好きだけあって興味はあるようだ。

「そうですね。私もヴァルキリーであるアニスニアと互角に戦えていた事には驚きましたから、本体の方で解析をしました」

 

 そう、第四王女アニスニアは『ヴァルキリーシリーズ』の一つで『バーサーカーモデル』という戦闘狂天使である。

 前回の魔王封印作業にて召喚した勇者が、途中で死んでしまうという事件が生じた事で、今回はより強力な護衛を付けることが決まった。

 ヴァルキリーの主な仕事は、神々によって創造される世界を調査して神々の法に抵触するような事をしていないか調べる事だ。しかも抜き打ちで。

 現在では、かの災厄【神殺しの獣】の発生を警戒するべく、あらゆる世界を巡回していると聞く。

 第一王女アイライアに聞いた話では、とある女神の創造した世界に臨時で派遣されたのだが、現地の人間と交流を持ってしまったことで、職をクビになった。

 ヴァルキリーの戦闘能力は非常に高いため、放置しておくと悪用されかねないので非戦闘型にリサイクルされるのだが、それに待ったをかけて引き取ったのが光の女神パーラハラーン。

 そうして、眷属天使の新人として迎え入れ、今代の勇者護衛に投入されることとなる。

 

 が、このアニスニアは不良品扱いされるだけあって、とにかく食べることが好きな奴だ。戦闘狂なのだから戦うことが好きというのは分かるのだが、生まれてからは母乳じゃ足りないとか言って城の厨房で料理はもちろん、食材を生で食べ尽くす奇行を繰り返した。

 しかも、戦闘用アバターだからこの世界の住人では止める事ができず、王女らでも無理なので女王アルファニアが直々に止めないといけなかったりする。

 

 で、私が侍女として雇われることとなったわけだな。


「本体の方ではどのような解析結果になったのよ?」

「はい。人間の身体とは思えない身体能力を発揮しており、何かしらの改造を施されていた可能性があるとして、改造された日時の特定を行っているところです」

 そうなると、何者かが浚ったことで仕込まれたと考えるのが自然か?

「また、あの男のような敵が現れるのでしょうか?」

「なに? アニスニアは、また戦いたいの?」

「はい! この世界の人間は雑魚ばかりで張り合いがありません。アレくらい手ごたえがあると、やりがいがあると実感できます」

 うーん。戦闘好きめ。

「アニスニア的には、あの男はどう感じた?」

「? 強いと感じた・・・以外でですか?」

「そう。戦ってみて、感じたモノってなにかなってさ?」

「そうですねー。チートスキルとか言って、面白いモノを見せてもらえたことでしょうか?」

 ・・・いや、そういうのでもないんだけど。

 そういえば、あの男はチートスキルって技を発動させていたな。

「アリスリア」

「はい。チートスキルですね? それに関しても調べを進めていますが、どうにも妙でして」

「妙?」

「そうです。あの男が使っていた剣は、ご指摘通りに地球の某ゲーム会社が販売している冒険ゲームに登場した剣であることは調べがつきました。しかし、それらを構築している金属が、どういうわけか地球に存在していない金属で精製されていました」

「そりゃあ、あの男が最初に使っていた剣は、精霊が変じたものであるわけだし」

「いえ、そういう類ではなく。あの剣は植物が鉱石に変じたものだったのです」

 植物が?

「砕かれた剣の一部を解析してみると、鉄成分に混ざって植物の遺伝子情報が残っていまして、これが私の知る限りでどの植物にも似たものがないのですよ」

「新種の植物ってこと?」

「そうなるかと」

「異世界モンスターの類ではないの?」

「ええ。それは大丈夫です。かの破片からは【神殺しの獣】に通じるものは確認できていません」

 だとすると・・・誰かが物として作った植物という事か? 生命体と言うわけではないのだとすれば、異世界モンスターとして認識されずに持ち込めるかもしれないけれど。

「闇の鎖は光を縛る」

「ひゃがーッ! なんでバレたんですかーッ!!」

 ・・・は?

「あなたは要監視対象でもあるのですよ? アニスニアお姉さま」

「でもでも、二人は難しいお話をしているし、私は光波分身でカモフラージュしつつ―――」

「腹にヤモリを食べ込んだ人物と、質量を持った分身程度の違いは見極められなくてどうしますか?」

「くぅ・・・さすがアリスリアです! 今から殺し合いをしませんか?」

「しません」

「しょーっく。姉妹のスキンシップをしたいのにー」

 姉妹のスキンシップで殺し合いされたら、私が溜まったもんじゃないんだが?


 第五王女アリスリアは、私一人ではアニスニアを止めるのに時間がかかり、町の被害が拡大する一方であった事から、急遽予定を変更してアルファニアが生んだ五人目の王女だ。

 もともとは、適当な貴族の娘として生まれ、ダーゼルガーンが進めている対魔王兵器開発計画によって完成する予定の『ルッタ・レノーダ』を魔王封印作業時にナビゲートする役割があった。

 それが、王女という身分に変更されて、仕事の内容は継続となる。

 魔王封印作業が始まるまでは、アニスニアの制御が主な仕事内容だ。私も多少楽が出来て助かる。

 しかし、アリスリアは結構容赦がない。

 肉弾戦を不得意としているが、主に闇属性の魔法術でアニスニアを抑え込む実力を持つ。光と闇の対となる関係にある。

 生まれた時から念話で会話が可能だったりと、かなりの化け物具合から、人間はみな不気味がって近づかない。さらにヤモリの飼育で逃げられてしまった。

 ゆえに、この二人に付き合える私が、二人の侍女として日々多忙に追われている。

 

 ・・・これで過労死していない私って、実は相当な化け物の一人だったりするのか?

 いやいや、そんなわけない・・・ないよね?


 それにしても、スキンシップ・・・か。

「そういえば私、今代のダーゼルガーンアバターと会ったことないんだけど?」

「ユアヒム・レーン子爵令息ですね。レーン子爵家は、この国でも珍しい学者貴族の血筋です」

「それは分かるわ。アイツは何故か学者系を好むからね」

「はい。その上で子爵ですから、アルファニアお母さまとは身分が合わないとして結婚できず、今回も盛大に殴られていました」

 ・・・そりゃキレるわな。

 今もアイツは猛アプローチを掛けているというのに、あの男は何かしらで逃げ回っている始末だ。

 私はと言えば・・・地球で過ごした記憶の修復にかかりきりで、いつの間にか情熱が冷めてしまっているように思う。

 昔ほど、奴に執着していない。

 ・・・ま、長く追い掛け回して来たけれど、奴はまるで答えてはくれないのだからね。

「いつも通りのようだけど、例の計画は順調に進んでいるの?」

 私の問いに対し、アリスリアは口を閉ざしてジィっと私を見つめてくる。

「え? なによ?」

「はい! 例の計画というと、対魔王兵器開発計画のことですね!?」

 口を閉ざしてこっちをジィっと見つめて来るほど、なにか上手く行っていないのか?と思っていると、アニスニアが目を輝かせて割り込んできた。

「ダーゼルガーン様、渾身の一品! ぜひぜひ手合わせしてみたいものですね!」

「おまえな。一応は魔王を倒すための兵器なんだから、味方だということを理解しろ」

「そうです! 魔王! ぜひとも手合わせしたいと思っています! あと十年後ぐらいなんですよね!?」

「そうね」

「楽しみですよ。女神様でも倒せないという実力。この身でたっぷりと味わいたいです!」

 なるほどね。

 戦うことに喜びを見出す存在であるのがバーサーカーモデルと言うのは知っているが、作り主である私からしても、コイツではハースニングには勝てない。

 情報量が違うのだ。

 アイツは、素の状態で外に置いておけば、この世界に過負荷を与えて崩壊させてしまうほどに危険な存在だ。そして、それに見合うだけの能力を持つ。

 対魔王兵器開発計画が、どのように進めていくのかもよく分からない今、アイツの現在を知って置くのは重要だろう。

 私は、アニスニアを押しのけて、アリスリアに再度問う。

「で? 開発計画は順調なの?」

「それに関しては、今夜に報告があるものと思われます」

「・・・今夜?」

「そうです。ウィッチ様が、対魔王兵器開発計画の進捗を報告に来られるとのことで、今晩は王家専用の会議室に集うよう命令を受けています」

 ・・・え?

「ちょっと待て、私はそんな話を聞いてない」

「はい。私から伝えて置けと言われましたので、今、お伝えしました」

 あんのクソ女神が・・・。

「ちょっと、アイツをぶん殴ってくるわ」

 イラっと来たので、長きに渡る因縁に決着を着けにいざ参ろうか。

「おやめください! 私もちょっと襲撃者の男に関する調査などで、お伝えするのを忘れていたのです!お母さまが悪いわけではありませんから!」

 私の腹に腕を回して、必死に説得をしてくるアリスリア。

 ふむ・・・悪くない。

「仕方ないわね。今回は許してやるわ」

「ありがとうございます」

 ・・・また機会が合ったら抱き着いてもらおう。く、カメラが欲しい・・・カメラ? なんで?


「ところで、その対魔王兵器さんはどちらにいらっしゃるのでー?」

 アニスニアの問いに、アリスリアが即答する。

「はい、かの兵器は『ルッタ・レノーダ』という少年でして、アニスニア姉さまと同い年になります。住まいは第一国家ハースニングの北方。アルメルデ伯爵領にあるネルゾイと呼ばれる町です」

 ふむ・・・。

 ネルゾイという町は、古くから鉱山を有している土地で、国の鉄資源を支え続けている場所だ。

 そして、今代のコイノー公爵であり、ネフェリスである私の父が「あの家とは関わるな」と言って来たぐらいには、危ない家らしいが。

「彼は、転生時にダーゼルガーン様から『天才』『枯渇しない魔力』『金に困らない』という三種類の加護を得ているということです」

 ・・・なんだその加護は?

 なんかこう・・・堅実というか、夢が無いというか、地味過ぎる気がする。

 あのチートスキルとか言っていた男の方が、よほど夢のある能力を開花させていたと言えるな。

「このうちの『枯渇しない魔力』が作用して、彼は『歩く魔力の源泉』と呼ばれるほどに、この国では有名なのですが、ご存じありませんか?」

「はい! 知りません!」

 ま、そうよね。食べ物と戦う事以外に興味がない子だものね。

 私の父も、かの少年には一度会ってみたいと口に出していたから、かなり重要な存在だ。

「彼は魔力が常に身体から湧き出ている状態で、それによる効果なのかは判断できませんが、ネルゾイ周辺の土地がこの数年で回復したのです。閉山が決まっていた鉱山でも鉱石の採掘量が増加し、痩せていた田畑でも作物の収穫量が増加したと、報告があります」

 それだけの豊饒をもたらす子供だ。

 他の領地を治めている貴族連中からすれば、まさに喉から出が出るほど欲しい人材だろう。

 アルメルデ領でもネルゾイには仕事を求める人間が、国の各地から集まっていると聞くし、人が集まっていることで商人もこぞって集結しているというから、景気も良さそうだ。

 ただ、元々は閉山予定だったこともあって、町自体は受け入れ態勢が追い付いていないという。

「へぇー」

 アニスニアの奴・・・まるで興味がない顔でいる。

「興味、ありますか?」

「ない!」

 やっぱりか。

「強いんですか!?」

「そこは、まだ分かりません」

「なら別にいいです」

 仕方ない奴だな・・・。

「ネルゾイでは、他の領地ではまず獲れない『お化け野菜』というものが収穫されていると聞くわ」

 私が、父より聞いたネルゾイの話をしてやると、アニスニアは興味を持った目を向けてくる。

「なんでも『歩く魔力の源泉』が垂れ流している魔力の影響で、成人男性よりも大きな大根。10歳程度の子供より大きい人参。などなど、多くの巨大野菜が収穫できるそうよ」

「きょ、巨大野菜・・・ごくり」

 今では町の観光資源となっているとか聞いたわね。

「しかも、そんな土地の野菜で作ったエサを食べている家畜は同種の二倍近く、大きく育つそうで、それはもう良質な肉が食べられると噂になっているわ」

「同種の二倍・・・良質な肉・・・じゅる」

「ね、ネフェリス様・・・その辺でおやめください」

 あ、しまった。

「ちょっと、ネルゾイに行ってきます!」

 私とアリスリアで掴みかかって、背中に羽を展開したアニスニアが飛び出そうとするのを食い止める。

「何をするんですか!!」

「さすがに、今すぐはダメに決まってんだろうが!」

「そうです! まずは視察などの日程を組まなければなりません!」

 くっそ。迂闊だった。

 私が余計な事を言わなければ、アニスニアが暴走をし始めることもなかっただろうに。

「私の食事を邪魔する者は・・・」

「やるしかないか!」

「仕方ありませんね!」


 どーん


「・・・なんです? 今の爆発?」

 アニスニアが、城の揺れと爆発音で一時的に正気を取り戻す。

「城の中で起きた爆発のようだけど・・・」

「ちょっと待ってください。今、使い魔に調べさせます」

 アリスリアが白ヤモリを使って城の状況把握を始めた。一方で、アニスニアはアリスリアの報告を待つように待機している。

 これはおそらくヴァルキリーでの訓練で染みついているプログラムなのだろうな。

 助かった。

「ッ! どうやら軍所属の兵士が一人、城内にて爆薬を炸裂させて暴れているようです」

「は? 軍の兵士が?」

 王家の近衛騎士とは別に、国を守るための戦力である軍隊も存在しているわけだが、どうやらその一般兵が暴れているという。

「・・・どういう事か? どうやら先の平民と同様の輩であるようです」

「自称勇者?」

「いえ、勇者は自称していませんが、魔王城攻略開始だ。とか言って警備兵や侍女が次々に鉄砲で撃たれているようです」

 無差別ってわけ? そいつは厄介な・・・。

「前回と同類であるならば、アニスニアとそこそこ戦える奴だからすぐに向かった方が良さそうね」

「そうですね。アニスニア!」

「うん?」

「あなたは先行して、敵性存在を抑えてください。私とネフェリスもすぐに追いつきます!」

 使い魔である白ヤモリをアニスニアに手渡す。

「了解です! 第四王女のアニスニア! 敵をデストロイです!!」

 羽が光を放ち、一瞬で部屋を飛び出していく。

 そうとも、壁をぶっ壊して光の弾丸も同じ破壊力と速度で突撃していった。

「・・・侍女統括長の気持ちが分かったわ」

「・・・後程、謝罪をしてくださいね」

 うん。しとくわ・・・。



〈おやめなさい!〉

 白ヤモリの見る現場の状況を映しつつ、私とアリスリアは城の廊下を走っていた。いや、走っているのは私だけで、アリスリアは魔法術で浮遊している。

 で、男に相対しているのは、第一王女アイライアのようだ。

 それに、護衛騎士が二人ほどいて御付きの侍女は周囲で怪我をしている者を救護しつつ、動ける者に運び出してもらっている。

〈へぇ、まずはボス1ってとこか?〉

 男は、この国の軍服に身を包んでいるそこそこの年齢なおっさんのようだ。しかし、軍人として鍛えている様で、腹は出っ張っていないし、背筋も曲がっていない。

 筋肉も目立つほどではないが、それでも鍛えた肉体であるということは見て分かる。

〈ボス1? 何を言っているのか存じませんが、あなたのやっていることは国家への反逆。テロ行為というモノですよ!〉

〈・・・へぇ。あんた、美人だな。俺の女にしてやってもいいぞ?〉

 男が実に下卑た顔をすると、アイライアは目を鋭く細めて睨みつける。

〈私を、第一国家ハースニングが第一王女アイライアと知っての言葉か!?〉

 強い口調で問い返す。

〈・・・あ? 国の王女? ここ、魔王の城じゃないの?〉

 男は首を傾げて見せる。

〈なにをバカな! ここは国の象徴たる城であるぞ!!〉

〈そうだ! 1000年前に魔王を封印した勇者様の名を冠する城だぞ! 国の兵士であれば知らぬはずが――〉


〈うるせぇよ。野郎は死んでろ〉


 銃を構え、引き金が引かれる。

 炸裂音と共に、その銃口から放たれる弾丸が、二人の護衛騎士を襲う・・・ことは無かった。

 天井を突き破り、光を収束させた槍を振るって弾丸を消滅させる天使が登場する。

〈第四王女のアニスニア! お仕事片付けご飯をいただきます!!〉

 あいつは、普通に登場することが出来ないのか・・・。

 つか、名乗り口上もなんかこう・・・ダサい。

〈なんだ? おまえ?〉

〈デストロぉおい!!〉

 槍で男を一突きに攻撃を仕掛けるが、男は銃でその一撃を受け止めた。

 それだけで、護衛騎士やアイライアが驚愕する。

〈あっぶねぇな。ガキがこんな光るデカい針を振り回すんじゃねぇよ!〉

〈おじさん手ごたえ良いですね!!〉

〈誰がおじさんだ!! おれは15歳だ!〉

 ええ!!って驚いたけれど、それは現場にいるアイライアたちも同様のようだ。

〈・・・15歳なんですか? アイライア様! あの人って15歳なんですか!?〉

〈え? えーっと・・・どう見ても・・・その・・・〉

 アイライアが言葉に困っているのがよくわかる。

 ハッキリと言っていいモノか・・・しかし、王女たるもの人を見た目で断定するのはよくない。とか考えているんだろうな。

〈うるせぇんだよ! 転生したらこんなおっさんだったんだ! 文句あんのか!〉

 そうか、こいつも先日の奴と同類か。

〈そうだよ。なんだってこんなおっさんに転生してんだっつの。こういうのは王子とかいいとこの貴族様に転生するってのがお約束じゃないのかよ・・・クソが〉

 どうやら、本人でも想定していなかった転生先で、だいぶ不満を募らせているようだ。

 舌打ちを何度も繰り返し、自分の手を見つめながら不満そうにしている様子は、確かに子供のような拙さを感じられる。

 そんな苛立っている転生者に、アニスニアが問いを投げた。

〈転生って、アレですよね? 生まれ変わるーってやつですよね?〉

 男は、アニスニアを睨みつけながらも答えた。

〈そうだよ。当たり前だろ? それと、転生ってのは神によって選ばれた人間のみが出来る人生リスタートボーナスなんだ。つまり、俺は神に選ばれた男ってわけだ!〉

 銃を構え、そして引き金を引く。

 炸裂音が響くと、アニスニアが槍を振るって弾を滅した。

〈ち、鉄砲の弾を簡単に防ぎやがって〉

〈その程度は当たり前ですよ。できない方がオカシイです・・・ね? アイライア姉さま〉

 不意の問いかけに、完全に虚を突かれた状態のアイライアは、しどろもどろになって否定した。

〈で、出来るわけが無いでしょう! 普通はできませんからね! あなたが普通じゃないというだけのことなのですよ!〉

〈・・・へー〉

 アニスニアが興味も無さそうに答えている。

 自分で振った問いの答えを、興味ないと返すかのように生返事・・・ったく。

〈き、聞いておきながら、なんですか!? その態度は!!〉

〈そういえば、お姉さまは大して強くないのを思い出しましたので、もういいです〉

〈む・・・むかつく・・・あ、と、という言葉はこういう時に使うのですねぇ?〉

 王女としての顔を維持するために、ちょっと乱暴な言葉を口走ってしまったようだけど、上手く誤魔化したようだ。

 騎士たちも「その通りでございます」「アイライア様には似つかわしくない言葉ですが、用途は正しいと思われます」とフォローしている。

 なんとも、混沌とした状況だぁね。



「さて、お喋りは終了だ! チュートリアルもここで終わりにしてやるぜ!」

「いいタイミングね!! 私も茶番を終わらせに来たわ!」

 転生者の後ろに回り込める通路を通ってきたことで、転生者をアニスニアと挟み撃ちにできた。

「さぁ! 覚悟しな! このネフェリス・コイノー公爵令嬢様が! おまえをボッコボコにしやるよ!」

 私が転生者の男に怒鳴り散らしている横で、アリスリアが念話をアイライアに送る。

〈ここは私たちが引き継ぎますので、アイライア姉さまは皆と共に引き上げてください。それと、この辺には近づかぬように結界で覆っていただきたく〉

〈分かりました〉

 という念話を行って、第一王女は騎士と侍女と怪我人を連れて下がっていく。

「・・・ち、またガキかよ。しかもなんだ? メイド娘? 俺にはロリコン趣味はねーんだぞ?」

「安心しろ。私もおっさん趣味はないから」

「おっさん言うな! 俺はまだ15歳だ!!」

 やはり、見た目からおっさん呼ばわりされるのは嫌みたいね。

「質問があります」

 アリスリアが手を上げながら声をかけると、男は少しだけ怯んだ様子で「な、なんだよ」と質問を許可した。

「あなたは転生者とのことですが、どういう経緯で転生することとなったのでしょう?」

「は? あ・・・ああ、そりゃおまえ・・・志半ばで死んだからだよ」

「志半ばですか?」

「そうだ。俺は銃が好きでさ。サバゲ―とかそういうイベントに参加するのが好きだった。いつかは世界の紛争地域で傭兵をやり、英雄と呼ばれる男になると決めていた!」

 ・・・うわぁ。現実が見えてないガキそのものじゃないのよ。

「そんなある日の事だ。俺はいつの間にか死んでいた」

 えぇ・・・。

「俺の前に現れた神様は、俺が死んだとだけ教えてくれたが、どんな死に方だったのかは教えてくれなかった」

 考えられる可能性は二つ。

 とても悲惨な死に方をした。もしくは、どうしようもなく間抜けな死に方をした。だな。

 こういう場合、死んだときの記憶を削除している場合が多いのだが、それは転生させる際にやる気を削ぐような事にならないようにする配慮でもある。

 自分のやりたい事をやれるのであれば、別にどんなふうに死んだかなんてどうでもいい。って思考の人間であれば尚更だ。

「でもま、異世界で銃を撃ち放題にしてくれるっていうから、こうして転生されてやったんだよ」

 やっぱ、そういうタイプよね。

 なんていうか、救いようのないガキだなぁ・・・コイツ。

「つーわけで! この魔王城は俺のためのチュートリアルダンジョンであるそうだから、サクッと攻略して世界を大冒険するんだ! そして俺は傭兵となり、英雄になる! 最高だ! ワクワクするぜ!」

 私は、アリスリアを見た。

 どうやら私と同じ感想のようで、これ以上の話を聞くだけ無意味であると判断している。その上、慈悲を掛けてやる必要もない。

 で、アニスニアを見れば退屈そうに欠伸をかみ殺している。

 アイツからすれば、他人の過去話とか心底どうでもいいでしょうしね。

「チュートリアルのボスキャラは、おまえらガキ3人てのは驚いたが、考えてみればガキも殺せないようじゃ傭兵をやるのは無理ってことだよな? そして、英雄にもなれないってわけだ」

 チュートリアル・・・ね。

 誰に吹き込まれたのかは知らないが、サクッと終わらせてしまった方がいいでしょうね。

「ってことで、まずはお前らが死ね!」

 男が私とアリスリアを見ると、殺意剥き出しの笑みを浮かべて続けて叫ぶ。

「チートスキル! ダブルハンドガン!!」

 さっきまで手にしていた銃が消滅すると、両手にハンドガンが召喚されてコレのグリップをしっかりと握る。

 そして、引き金を連続で引くことで、弾丸を連射してきた。

 オートブローバック式と言ったかしら? 銃が好きと言うだけあって、正確に構造を把握しているのか、それともイメージでそういうモノと思い込んでいるのか。

 どちらにしろ、召喚された銃は日本のドラマや映画などではお馴染みのトカレフに似ている。

「・・・なんで死なない?」

「そっちの子が言っていただろ? その程度の鉄砲弾を防ぐなんて当たり前だってね」

「そうですね。この程度の弾丸であれば、何発撃ち込まれても問題ないです」

 私は両手を使って弾を全部受けとめ、アリスリアは魔法術で弾丸を全て中空に制止させる。

 これくらいはできて当たり前なのだ。

 あくまでも、私たちの場合だけれども。

「お? 戦闘再開ですか? 私が相手しますから、二人は見物してていいですよ!」

 鼻息荒く、待ってましたと言わんばかりに腕を振っている。

 手ごたえのある敵との戦いを、存分に楽しみたいのだろうよ。

「アニスニア姉さま。この方は生け捕りにしてください」

「え? 活け造りですか? ちょっと面倒くさいです。ミンチじゃダメなんですか?」

「は? 生け捕りにして欲しいのですよ」

「えー・・・まぁ、仕方ないですね。アニスニアはお姉ちゃんですから、やってみましょう!」

 ・・・そういえば、アイツ―――。

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! コイツでどうだ!!」

 男がハンドガン二丁を捨てて両手を腰だめに構えて新たな銃を召喚する。

「チートスキル! サブマシンガン!!」

 直後、パラララって勢いで弾丸が巻き散らかせれることとなり、廊下のあらゆる物が壊れていく。

 が、私とアリスリアはその場を動くことなく弾丸を捌く。

 そして、アニスニアが槍を振り回しながら男に迫った。

「よそ見厳禁飴玉上手い!」

 ・・・ちょっとなに言ってんのかわかんないわ。

「クソッ!」

 銃口をアニスニアに向け直すものの、対応が遅すぎて銃を蹴り上げられている。

 その隙にすかさず拳を叩きこむアニスニアは、槍で蹴り上げたサブマシンガンを叩き滅した。

「・・・どうしました? もうちょっと真面目にやって欲しいのですが?」

「く、クソッタレ! チートスキル! 対戦車ライフル!!」

 うお!? なんか大きくて無骨でいかつい武器を取り出して来た。

「くたばれ!」

 至近距離での発砲。

 しかし、それもアニスニアは人差し指と親指で摘まむように受け止めた。

「うーん。こんなもんですか?」

「そ、そんな馬鹿な・・・」

 まぁ、戦闘天使ならだれでもできる芸当だしなぁ。

「期待外れでした。あーあ」

 相手に対する完全な期待外れに、アニスニアはやる気のない一突きで、男の頭を貫いた。

「あ!」

 アリスリアがそれを見て声を上げ、そにビクッと震えたアニスニア。

「え? どうしたんです? なんで驚いているんですか?」

「わ、私は生け捕りにしろと言ったんですよ?」

「・・・あ、ごめんなさい。活け造りにするんでしたね! 殺したらダメでした」 

 ここで、アリスリアは気づいたようだ。

「アニスニア姉さま? 活け造りではなく生け捕りと言ったんです。生きたまま捕まえるという意味です」

 言葉を説明すると、アニスニアは首を傾げて言った。

「活け造りですよね? いけどり?」

 やっぱりそうだ。

 アリスリアは知らなかったのか・・・。

「あのね、アリスリア。アニスニアは言語を含めて王女としての教育をほぼ全部サボっているから、語学も戦うことと食べる事以外ではほぼ知らない状態なのよ」

「・・・はぁ?」

 私の説明を、ポカンとした顔で聞いたアリスリアだが、説明を理解した途端に闇のオーラが全身から噴き出した。

「・・・勉強を、サボっていた?」

 アニスニアが、汗を滝のように流して後退る。

「ち、違うんですよ。私は戦闘がメインでこっちにいるんですから、お勉強よりも鍛錬を積み、来る魔王封印の日まで自己研鑽をですね・・・」

 逃げようとするも、アリスリアが瞬間移動でもしたかのように移動して、アニスニアの手首を掴み阻止した。

 そして、何とも愛らしい笑みを浮かべつつ、一切笑っていない眼でアニスニアに迫る。

「そうですか。分かりました・・・では、自己研鑽の邪魔にならぬよう、一時間で一週間分の勉学をこなしてもらいましょう。カリキュラムはお任せください。本体は後輩たちへの教育経験も豊富です。なになに、みんな泣いて項垂れるほど感極まって励んでくださいましたから、ヴァルキリーのあなたなら余裕でしょう?」

 ・・・ふむ。白銀の髪に褐色の美幼女に詰め寄られて、タジタジになっている黄金の髪に白い肌の美幼女・・・これは、カメラに納めるべき構図! か、カメラはどこか!!?

 誰でもいい! 私にカメラを!!


「しゃーん」


 ゾワッとした。

 何かヤバい圧を受けて、私は即座に転生者に向き直って身構える。

 この感覚は、どうやら王女二人も感じ取ったようで、さっきまでの上司と部下なやり取りを即座に切り替えて、歴戦の戦士を思わせる顔になっていた。

 アニスニアの一撃で、頭を貫かれて絶命している転生者の男。

 その体が突如として盛り上がり、ストローで一気に吸い上げられた紙パックのごとく萎んでいく。

「アニスニア!! ソレを消し飛ばせ!!」

 直感。

 そう、私の直感が「アレを消し炭にしないとヤバい」という警告を発し、この場でそれを確実にやってのけることが出来るアニスニアに、命令を出せと指示を出して来た。

 だから、その通りに声を発した。

 同時に、アニスニアもヴァルキリーとしての判断力で、私の声に合わせて即座に動き出す。

 その槍に魔力が集約し、一気に膨張すると先の勇者を自称した転生者を消し飛ばした物と同じ・・・いや、アレ以上の威力を込めたビーム砲を放つ。

「天上一貫! 槍天一撃!!」

 私は、眼を疑った。

 アニスニアが技を放つまでの間は、数秒程度だろう。

 その数秒で、萎んだ男の頭。アニスニアが貫いた頭の穴から植物が飛び出して来た。蕾が飛び出してくると、花を咲かせてグルリと私の方を向く。

 そうしているうちに、アニスニアの一撃が放たれて・・・花は一瞬で枯れると種を作り、そして、私に向けて射出してきた。

「チッ!!」

 舌打ちをするのとほぼ同時に、私は射出された種を白刃取りの要領で受け止める。

 この手で種を叩き潰すつもりで、渾身の力を込めて両掌を叩き合わせてやった。が、コレが悪手なのだと即座に理解した。

「アリスリア!!」

「天刃必至! 天剣一閃!!」

 闇色の刃が飛来し、私の腕・・・二の腕を半ばから切断してくれた。

 これに合わせて、すぐさま後方へと飛び退く。

 僅差。

 紙一重とはこのことか? 私が腕を切断されて即座に飛び退くと、残された両腕の断面から植物の根が飛び出して来て、行き先を探すようにグニャグニャと蠢き溢れる。

「それを地面に落とすな!!」

 植物の根である以上、城の中と言えど地に落ちれば土に根を張る可能性が高い。

 あんな分けわからん植物を下手に根付かせてしまえば、今後にどのような事が起こるのかも想像ができない。

 だからこそ、ここで消滅させる必要がある。

「闇の暗幕を今開けよう! 邪気に塗れた天使は踊る!!」

「光の陽射しを今当てよう! 戦に輝く天使は振るう!!」

 アリスリアとアニスニアが、同時に槍を構えて天使の権能を起動した。

「そこの萎んだ死体ごと、全部を焼き払え!!」

 私が指示すると、二人は目くばせだけで連携する。

「天撃一掃! 装天浄化!!」

「邪気滅殺! 装天焼却!!」

 二つの槍が交差して、指定された範囲を光と闇の力が渦巻くように暴れ回り、そうして燃やし、灰も残さずに消滅させる一撃を放つ。


「「終撃一閃・光闇極天葬」」


 なるほど、光と闇が合わさって最強・・・んん・・・ちょっと自分が恥ずかしくなった。

 ま、私が何を考えていたところで、この子らに知られるわけもないが。

「ネフェリスさん! 両腕がなくなっちゃいましたけど・・・」

「大丈夫なのですか? 魔法術による復元などできませんし、代替物を加工して繋ぎ合わせるというのは、現段階では不可能ですよ?」

 アニスニアとアリスリアが歩み寄って、私の失われた腕を覗き見てくる。

 そうして心配してもらえるのは、嬉しいもんね。

 

 だが、私がなんの対策も用意していないわけがない。


「ふ・・・大丈夫よ。こんなこともあろうかと! スペアパーツは製造してあるからね」

「・・・スペアパーツ?」

 目を点にしているアニスニアとアリスリアを見て、私はニヤッと笑った。

「座標送信。システム接続。空間連結。断面スキャン。構築。デバイス、正常。コントロール、正常。蘇生プログラム・・・開始」

 私の腕、切断された面に空間歪曲が生じるとコレを押しのけるように別空間から金属製のカプセルが飛び出してくる。

 コレが腕の断面と接続され、廃熱口から熱を放出して腕の蘇生作業が開始される。

 あらかじめ用意されていた腕が、切断面に合わせて加工され、私の切断されている腕の面と合致するように調整されると、金属製カプセルが空間歪曲の中へと引っ込んで、私の腕が元通りになっていた。

 服の袖は切断されたまま修復はされないが、幼き美少女の腕はコレこの通りに蘇生完了だ。

「ふっはっはっは! どうだ? 何事も予備は大事ってね!」

「思いっきり規約違反ですよ! この世界におけるアバター運用の違反行為です!!」

「悪の女神に、それ言う?」

「誰だろうが、この世界に入る際のルールは合意しているはずでしょう!!」

「私は世界運営側の神なんだし、別にいいでしょ? こうして異常事態にも対応するわけだしさ」

「そ、それは・・・うぅぅ」

 そうとも、相手が真性で頭のオカシイ悪の神なのだから、ルールを逸脱してでもやらないとならないことは多い。そもそも、連中がチートをやってくるのだから、こっちも相応に対処しなければダメだろう。

 ・・・だから、私は悪くない。うん。悪くない。

「と、とりあえずは保留にしておきます。この件は本体に緊急案件の一つとして報告させていただきますよ」

「いいよ」

 どうせ許可は下りる・・・はず。

 ・・・下りなかったらどうしよう?

 

「いやはや、さすがですねぇ・・・ネフェルマリーお姉さま」


 ・・・この声は?

 私、アリスリア、アニスニアは声が響くと共に通路の入り口を見る。けれど、誰の姿も見えない?

「あ、こっちですこっち。上になります」

 上を向いてみれば、屋根に大穴が空いていた。

 その上からこちらを覗き込むように、年若い・・・と言っても15歳くらいの女がこっちを見下ろしている。

 そういえば、アニスニアが天井に大穴空けて飛び込んでいたっけね。

「ふっふっふ。改めまして、さすがですねぇ。ネフェルマリーお姉さま」

 ・・・こう、平民服を着た町娘っぽい恰好の女であることで、誰だかよくわからなかった。でも、アレって確か、普通に世界に入る際の初期アバターだったような?

「どちら様でしょうか? 見たところ、この世界に新規ログインされた女神さまのようですが?」

 世界の運営側だから、相手の情報を見ることができるのか。

 アリスリアが本体に掛け合って、突如現れた神のアバターに問いかけるけれど、コレに女は一笑する。

「あら? 私の顔をお忘れですか?」

 前髪を掻き上げて、顔をよく見せてくれる。

 そして、私はそいつが誰なのかを思い出した。

「・・・はぁ。おまえ、普通に入って来いよ」

 チラッと横を見ると、アリスリアが思い出したような顔をしつつも「うわ・・・最悪」という感情を隠しもせずに硬直している。

 アニスニアは「・・・弱そうですね」とつまらなそうにしていた。

 女は、軽いステップで屋根の上から飛び降りてくる。が、着地時に骨が折れるような音がしたと思ったら、そのまま倒れ伏して声も出ずに悶絶している。

 ・・・そりゃ、標準的なアバターは人間ベースだから、着地ミスすれば足の骨だって折れるわな。

「・・大丈夫?」

 私が手を差し出すと、女はボロボロと涙を流して掴んできた。

「お、お久しぶりです! じゃ、邪の女神・・・ローゼルザーン・・・改め、悪の女神ローゼルザーン。ここに参上しま・・・ひぎぃいいいい! 足痛い! 足痛い!」

 この女、そうとも、邪の男神ダーゼルガーンの父の兄の長男の次女の長男の娘・・・である。


 ・・・あー、頭が痛いなぁ。  

 




「ネフェリス様。そろそろ会議の時間です」

「あー、そうね」

 辺りは、すっかりと夜になった。

 アニスニアが部屋の壁をぶっ壊してくれたことで、この時間まで空き部屋にヤモリの飼育籠を移す作業に追われて、私は休憩も出来ずに作業をしていた。

 いや、何匹いるんだよ!って途中で発狂したけれどね。

 

 昼間の事件は、とりあえず犯人死亡で後片付けとなった。

 一兵士でしかない彼が、どういう経緯で城内にてテロ行為を行ったのか?に関する調査は当然始まっているが、それはそういう機関の仕事であるので私は知らない。

 私たちが壊した施設に関しては、城の修繕を手掛ける大工の仕事になるので、私は知らない。

 しかし、部屋の戸締りをして廊下に出てみれば、戦闘となった辺りには灯りが密集しており、修理作業がすでに始まっていることを見て取れる。

 大工と思われる従業員と、それらを監視ならび護衛する衛兵らが忙しそうにしていた。

 

 私は、アリスリアとアニスニアの前に立って、懐中電灯・・・ならぬ懐中念灯を取り出し、廊下の足元を照らしながら王家専用の会議室に移動を始める。

 廊下には等間隔で灯りが設置されているものの、その光量は地球で言うところのガス灯とほぼ同じ程度で、廊下を明るく照らしてくれてはいないのだ。

 LED蛍光灯のような抜群の灯りを用意しろって思うが、そもそも自分たちで技術発展が望めない世界なので、これは仕方ないと思うことにする。

 現行の灯りとて、過去に召喚した勇者が魔法術でランタン擬きを作り、また別の勇者が「蛍光灯がない!?」と驚きながらも、専門ではないと言いつつ四苦八苦して作ったものが懐中念灯だ。


 懐中電灯をモデルにした念じることで灯りが付く仕掛けの魔法術具。懐中念灯である。


「どうかされましたか?」

 私の後ろで、アニスニアと手を繋ぎながら付いてくるアリスリアが、私の様子に気が付いて声をかけてくる。

 うん、手元にカメラが無いのが口惜しい。

「いや、そろそろ地球の蛍光灯とかその辺がこの世界にも欲しいと思っただけよ」

 言うと、アリスリアは少し考えるような顔になって、しかしすぐに納得したような顔で頷いた。

「確かに、欲しいですね。勇者召喚もピンポイントで技術者を呼べるわけではないですし、ここまで文明が発展できただけでも大した物だと思います」

「そりゃそうだけども・・・」

 地球で言うならば、大昔のヨーロッパ時代。

 糞尿は窓から外へと捨てられ、衛生観念など皆無なせいで疫病は蔓延し、当初はこの世界に関わるのがとても嫌だった。

 つか、あの頃は誰かが捨てた糞を頭から被った事もある。

 水だって浄水していないから腹を下すし、一時期は子供から大人まで飲料水としてビールが常飲されていた時代もあった。・・・マジか!ってドン引きしたわ。

 今となっては懐かしい。

 異世界から勇者を召喚しても、魔王は倒せないのだと分かる。と、ダーゼルガーンの思い付きで技術者を呼ぶことになって、これが現代にまで繋がった。

 インフラ整備。衛生観念の教育。医療知識と設備の改革。機械技術の獲得。料理技術による食の種類も拡充され、生活はより豊かになって安定した。

 今、この国にある物は全て、地球から召喚した勇者という技術者たちによってもたらされた物ばかり。

 発展こそないが、これらを維持しているだけでも褒めるべきか。

「早く、この世界が独自に発展していけるようになるといいんだけどね」

「創造神二人が、まぁ・・・アレですので・・・」

 ・・・ごもっとも。



「少々、遅れてしまいました。申し訳ございません」

 会議室に入ると、すでに女王アルファニアと第一、第二、第三王女の平凡天使三姉妹は席についていた。

 そして、この場には異質な存在感を放つ魔女も同席している。

 相も変らぬローブで顔を深く隠し、全身も覆い隠すようにしている胡散臭い奴だ。フォースの導きとか言い出しそうね。

「よい。昼間の騒ぎは聞いている。事後処理、ご苦労でしたね」

 私が会議に参加する連中を見回していると、女王アルファニアが、頭を下げているアリスリアとアニスニアを労う。

 こういう時のコイツは、実にできる女王っぽく見えるんだけどな・・・。

「さぁ、席に着きなさい。会議を始めますよ」

 促され、アリスリアはまっすぐにゲストであるウィッチの元へと進む。

 そして、頭を下げた。

「ご無沙汰しております。その節は、大変お世話になりました」

 ウィッチは、最初こそ無反応であったが、何か心当たりを思い出して笑みを浮かべるとアリスリアを観察するように顔を向ける。

「あぁ、あの時の王女ちゃん? 久しぶりだね。いやはや見違えた。まるで別人だ。アバターからも伝わってくるよ。相当、鍛え込んだね?」

「はい、この1000年、己を徹底的に鍛え直しました」

「そっか、雪辱を晴らせるといいね」

「はい、機会に恵まれることを、ただ祈るばかりです」

 ・・・1000年前の失敗か。

 別にアリスリアが気にすることでは無いと思うけど・・・まぁ、私が当事者であれば悔しくて引きずっているだろうから、何も言わないでおこう。

「ネフェルマリーも久しぶりだね。今代はずいぶんと愛らしいじゃないか」

「まぁね。私も前回の事で自分の立ち位置を変更する必要があると思っただけよ」

「そっか。それはなかなかいい案だね」

 褒められてもね。

 なんかぜんぜん嬉しく感じないわ。

「それより、対魔王兵器はどうなってる感じ?」

「うんうん、それはこれから会議にて報告をするよ。ささ、君も席に着いたらどうだい?」

「・・・分かっているわよ」

 促されるまでもなく、私は席に座る。

 第三王女の隣に第四王女が座り、第四王女の隣に第五王女が座る。

 そして私は、侍女であれば仕えている王女の後ろに控えるべきなのだろうけど、今日は女神ネフェルマリーとして参加するのでウィッチの隣に座った。

 

「それでは、会議を始める」


 え?

「ちょっと待った。ダーゼルガーン・・・いや、ユアヒム・レーンだっけ?っがいないようだけど?」

 そうだ。

 この女だらけのメンバーで唯一の男があの野郎なのだけど、室内を見回してみても男の形さえない。あいつは居ないとダメだろう?ってことで待ったをかけた。

 しかし、女王アルファニアは私をチラッと見てから、ただ一言を発するだけだった。

「ウィッチ殿」

 呼ばれた魔女は、苦笑する感じで返事をする。

「わかりました。では、まずユアヒム・レーンこと邪神君の現状をご報告しましょう」

 アリスリアもそこは気にしていたようで、全員がウィッチに注目する。

「今、彼はアルメルデ前伯爵の屋敷にて、地下牢にて拷問を受けているよ」

 ・・・は?

「拷問?」

「そう、拷問」

 いや、そんな楽しそうに肯定されても・・・どう、リアクションすればいいわけ?

 私が頬を引きつらせていると、アリスリアが手を上げてから質問を投げた。

「なにがどうして、拷問を受けることとなったのでしょうか?」

「それでは説明しよう! 彼のおもしろ・・・波乱万丈な拷問への道のりを!」

 ・・・魔女は説明をする。

 実に話を盛っているのが分かる説明で、聞いている私がため息を吐きたくなるぐらいには面白おかしい語り方だった。

 しかし、余計なアクセサリーを抜けば、内容は実にシンプルだ。


 予定通りに対魔王兵器『ルッタ・レノーダ』は【災厄の壺】に落とせた。

 しかし、崩落する際に『ルッタ・レノーダ』によってアルメルデ家の護衛騎士に向けて叩き出されたことで、子供を見捨てたと誤解されてしまう。

 結果、激怒したアルメルデ前伯爵夫妻によって『崩落に巻き込まれて重傷』という事で地下牢にて監禁されて、拷問を受けている。らしい。


「先日、私の分身に無理をさせて面会してきたのだけれど、これがまた見事に身体中が穴だらけにされていてね。まるでハチの巣と見紛うような姿だったよ。殺さずにアレだけできるのは、もはや職人芸に等しい。ぜひとも技術を伝授してもらいたいな」

 想像していた以上にヤバい事になっている様なんだけど・・・。

 自力で脱出できないというのはおかしい気もするけれど、なにか考えがあっての事なのだろうか?いざとなれば神の権能でも使って脱出もできるだろうに。

「さて、どうしよう? ユアヒム君を救助した方がいいかな?」

 ウィッチの問いに、パーラハラーンは首を横に振った。

「その必要はない。彼とて神のアバターなのだから、自力で脱出することは容易のはず。でありながらも拷問を受けているという事は、何かしらで理由があると予想できる」

 そう。

 なにか考えがあっての行動であれば、余計なことをするわけにもいかない。

「そう? ならしばらくは放置しておくとするよ」

 なんだ? ウィッチの奴は何か愉快そうに笑みを浮かべているが・・・。

「では、続けてウィッチ殿に対魔王兵器開発計画の進捗を報告してもらう。よろしいか?」

「お任せください。女王陛下」

 まぁ、1000年前の魔王封印作業の失敗で、一番キレていたのはパーラハラーンだったし、アイツとの距離を見直しているのかもしれないか。

 

「それでは皆様、対魔王兵器開発計画の進捗をご報告させていただきます。お手元の資料をご確認ください」

 ・・・いつの間にか、席についている者たち全員の手元に紙の束が置かれていた。

 表紙には『対魔王兵器開発計画報告書』と記されていて、ウィッチにもこういう事ができるのかと感心してしまう。

 が、表紙を捲ってまず目に飛び込んだ『結論。対魔王兵器は現状で欠陥品である。以上』と書かれていたことで、ため息しか出てこなかった。

 チラッと王女らを見てみれば、アニスニアが「うーん」と唸りながら報告書を睨んでいる。おそらくだが、語学の勉強をサボっているせいで何が書いてあるのかも読めていないのだろう。

 その点、他はしっかりと勉強をしているので、報告書をスラスラと読んでいる。

 私も、しっかりと読んだ方がいいだろうと、ページを捲って報告書の続きを読み始める。

「まず初めに、対魔王兵器として邪神くんが転生させた少年『ルッタ・レノーダ』は―――」

「ウィッチ様」

 説明を始めたウィッチの言葉を遮るように、手を上げたアリスリアが声を発する。

「・・・なにかな?」

 若干不機嫌そうにしているが、アリスリアの眼を見て無視をしないことにしたようだ。

「対魔王兵器『ルッタ・レノーダ』という少年の話は、事前に報告もありましたが・・・こちらに記載されている『アライラー』というモンスターはどういう事でしょう? ポインダーを使用した対魔王兵器の補助は聞いておりません」

 え? ちょっと待って、どこの話を・・・あ、このページの話しか・・・あの短時間でここまで読んだのかよ。相変わらず事務仕事の早い奴だ。

「そうだね。順を追って説明しようと思ったけれど、まずはアライラーについて説明しようか」

 話によれば、地球にて対魔王兵器となる人間が見つかり、現地の神々とも話し合いをして、いざ転生するための事故死を狙った行動が実行された。

 朝の通勤通学ラッシュとなる時間帯を狙い、彼が駅のホームに現れるタイミングを計算して到着する電車から飛び出し、階段を登ってきた彼に体当たりをして転落させる・・・という作戦であったらしい。

 しかし、ここで計算違いが生じた。登ってきたのは少年ではなく・・・なぜか恰幅の良い少女で、実行犯である当人も『なんで?』と困惑しつつ、止まることも出来ずに激突したという。

 その結果、なんの関係もない少女が、狙っていた少年を下敷きにしつつ転落し、二人一緒に事故死となった。

 で、どうせならと少女も使ってしまおう。ということで、【災厄の壺】に対魔王兵器を落とすための使い捨てにすることを閃いた。

「・・・私、聞いてないのですが?」

「奴め・・・」

 アリスリアとアルファニアが、眉間に皺を寄せて頭痛に耐えるような表情で項垂れた。

 そりゃそうよね。計画に変更があるなら、事前に連絡しろって度々説教しているものね。パーラハラーンは。

「しかし、なるほど・・・突然、ポインダーを改造した悪神対策の蜘蛛兵器を量産しようとか言い出したのは、コレが原因でしたか・・・」

「え? なによそれ?」

 アリスリアが報告書を睨みながら呟くことも忘れて普通に愚痴った声を聞き、私が問い返す。

 どうやら、自分では呟いているつもりだったようで、私に問い返されて顔を赤くしつつ、問われたのならば返答しなければと、口を開いた。

「この世界での時間軸で言いますと、約5年ほど前にダーゼルガーン様が眷属天使の第十二席までを招集して、ある計画を発案されたのです。それは『対悪神兵器量産計画』というものでして、異世界ケッテモのポインダーをベースとして、魔改造しようというものでした」

「バカだ」

「はい、バカです。全員一致で却下しました。作るなら勝手にしろと、資金なども自分でどうにかしてくださいと・・・。こっちだって抱えている仕事は多いのですから、くだらないことで招集などして・・・と思っていましたが、まさか、すでに試作機を造っていたとは」

 そりゃ確かに、眉間に皺も寄るわ。

 私が同情していると、女王アルファニアが息を呑んでとんでもない事を言い出した。

「しかし、このアライラーという蜘蛛モンスター・・・数値上のスペックだけならば、魔王ハースニングを超えているようだぞ?」

「はぁ!!?」

 私は急いで報告書を読み進める。と、アライラーとかいう蜘蛛の能力を数値化した資料を見つけて私の記録にあるハースニングの数値と比べていく。

「そんなバカな・・・」

 そこには、確かに全能力値が魔王ハースニングを凌駕している事を示していた。

「そうなんだ。アライラーちゃんは、現時点での能力値だけならば魔王ハースニングを倒せるだけの性能に到達しているんだ。しかし彼曰く『対魔王兵器? バカ言え、アレは使い捨てだぞ』って、まるで関心を示さなかったけれどね」

 バカはおまえだぁあ!!って怒鳴り返してやりたい・・・。

 あら? アルファニアが頭を抱え始めちゃったか・・・。

「しかし、問題はあの子が現状で引き出せている能力値にあるんだ。次のページに、その計測値が記されているから、確認してほしい。酷いモノだよ」

 言われた通りに、次のページを確認すれば・・・実戦での戦闘能力値は、先の数値の半分以下。三割に届くかどうかという・・・なにこれ? どうしてこんな数値に?

「邪神くんはね。アライラーちゃんの魂を正規の手続きで転生させずに、魔改造したポインダーに憑依させて魂を上書きするという処理をしているんだよ」

「はぁあ!?」

「た、魂一つで、ここまで能力値が落ちるのですか・・・」

 し、信じられん。

 人間と蜘蛛では体の構造がまるで違う。ましてや、地球の人間と異世界のモンスターだ。体を十全に使うためには、ちゃんとした転生措置を施さなければいけない。

 あらゆる生物が、本能と言う事前に組み込まれたプログラムによって体の動かし方を知っている。

 人間の赤ん坊だってハイハイはもちろん、二足歩行だって放っておいてもできるようになる。蜘蛛だって蜘蛛の子散らすというように、動き回れるのだ。

 知っているからと言って、すぐにできるわけではないが・・・実際に動作訓練をすることで最適化を繰り返し、そうして当たり前のように動かせるようになる。

 転生というのは、そのための措置だ。

 本来であれば、記憶を引き継ぐことは無いが・・・引き継がせること自体はできる。

 わずかな手間を惜しんで、こんな欠陥品を造るなど・・・ハースニングを造った時よりもひどくなっているように思う。

 

 と、こうなると『ルッタ・レノーダ』はどうなのだろうか?

 報告書を確認すれば・・・生命力と耐久力以外は人間を超えた程度の能力値。これ、総合的にアライラーという蜘蛛モンスターはもちろん、魔王ハースニングにも及ばないわ。

 ただ、生命力と耐久値が異常だ。なぜ、この二項目だけをここまで高めたのだろうか?

「さて、コレこういう事がありまして、ルッタ・レノーダ君は兵器としては欠陥品。さらにアライラーちゃんも欠陥品。ということで、私の独断で二人を組ませることといたしました」

 ・・・組ませる?

 いや、確かに組ませるのが一番いいだろう。

 かの『ルッタ・レノーダ』は国でも有名な『歩く魔力の源泉』と呼ばれている子で、魔力を常に垂れ流しにしている。

 一方で、このアライラーは性能を三割も引き出せていないとはいえ、今後次第ではより能力を引き出せる可能性は十分にあると思える。

 特に、邪神が造った『万能邪眼』はポインダーの強みを使えないアライラー最大の武器だ。問題はコレを運用するための魔力が足りていない。

 邪眼一つを使うと、魔力の回復には24時間の休憩・・・もしくはモンスターを捕食して魔力を補充するしかない。

 しかし『ルッタ・レノーダ』から魔力を補給することが出来れば、邪眼の再使用時間をなくせる上に、邪眼による攻撃を撃ちたい放題にもできる。


 なによりも、この両者が組んで襲って来たならば、私は相手にしたくないと思う。それぐらいには厄介な相手になる。

 まぁ、ハースニングの奴なら、笑いながら「戦ってみたい」と言うだろう。

「そういうことで、二人が第一階層に到達するまでは見守っていたのだけれど、コレがなかなの凸凹コンビ具合でさ。見てて微笑ましかったよ」

「では、第一階層には到達できたのか?」

 女王アルファニアが、額を手で抑えるようにしつつも女王的な声音で問う。

「はい。結構、際どい状況ではありましたが・・・彼らは第一階層に到達しました。つまり、対魔王兵器開発計画は、その第一段階を無事に終えたのです。女王陛下」

 ウィッチが静かに、そして軽やかに頭を下げた。

 女王であり、世界を創造した女神に対する礼節を通したというところか? それとも、この計画を中止されないようにしたいのか?

「・・・今後、対魔王兵器は魔王ハースニングを倒すに至る存在となりえるのか?」

「断言することはできません。しかし、彼らには可能性があると確信しております。少なくとも、【災厄の壺】を脱出できたのであれば、魔王ハースニングに劣らぬ存在となる事でしょう」

 沈黙する。

 ここで問題になるのは、ルッタ・レノーダ単体で魔王に劣らない兵器に至るのかどうかだ。アライラーという蜘蛛モンスターがセットであれば、話しは変わってくる。

 かつて、この世界では異世界モンスターがバグ進化を起こしたことで【神殺しの獣】になった。

 すると、このアライラーも【災厄の壺】から外に出した場合、バグ進化によって【神殺しの獣】となる可能性がある。

 それはつまり、私たち神にとって致命的な事態だ。

「・・・いいだろう。計画はこのまま続行とする」

「ありがとうございます」


 まぁ、まだアライラーを外に出すと決まったわけでもなし、対魔王開発計画が無事に完了したわけでもない。 

 ルッタ・レノーダが計画の途中で死亡する可能性だってあるのだから、今は様子見が良いのだろう。

 この判断が、間違いだった・・・とならなければいいのだけど。

「では、次の議題だが・・・ウィッチ殿」

「はい、例の悪神連中が動き出したようです。地球の神々より接触がありました」

 ウィッチ・・・この世界だけでなく、地球にまで分身を放っているのか。どこまでも規格外な奴だ。私たちのアバターを模倣しているのだろうか? ちょっと後で聞いてみようかな?

「アリスリア。先日と昼間、ここ最近で発生した事件との関連はあるか?」

「はい。今日の昼間に起きた事件にて、接触してきた女神との会話を録画してあります。今から再生いたします」

 白ヤモリを取り出したアリスリアが、机の上に乗せる。

 そして、天使の権能を起動させつつ、白ヤモリに魔力を供給することで、ヤモリの眼から中空に映像が映し出され、声が室内に響く。

 一応、防音の有無を確認したが・・・どうやら会議室内の音が外に漏れないように結界を張ってあるようだ。

 当然と言えばそうだけど、ふと気になったら確かめたくなる性分でね。

 

 さて、始まるか・・・。




 ▽回想(白ヤモリの映像)▽



「ごきげんよう先輩。改めまして、邪の女神・・・じゃなくて、悪の女神となりましたローゼルザーン。ここに参上しました」

「まぁ、とりあえず涙拭けよ」

 私がハンカチを取り出してやると、まだボロボロと零れている涙を拭くように手渡す。

「お、お姉さまのハンカチ! 一生の宝にさせていただきます!」

 私からひったくるように受け取ると、涙を拭かずにポケットにしまった・・・いや、くれてやるとは言ってないんだが?

 足も治療してやったし、とりあえずは大丈夫そうだが・・・さて。

「ずいぶんと久しぶりだけど、ここしばらくは何をしていたのよ?」

 そう。

 コイツはダーゼルガーンを巡ってパーラハラーンと殺し合いをしていた頃に出会った小娘なのだが、どういうわけか私の事を『お姉さま!』と呼んで付きまとって来た時期がある。

 なんで、そんなことになったのかは覚えていない。

 そんなことよりもパーラハラーンを殺してダーゼルガーンを奪うことしか頭になかったからだ。

「はい! 実はダーゼル兄様とネフェルマリーお姉さまに倣い、魔王作成に励んでおりました!」

 おっふ!!

「ちょ、おまえ・・・『魔王』って、生物兵器なんだけれども? え、作ってたの?」

「はい! なのでしばらく掛かり切りとなった上に、貯金も使い切ってしまいまして・・・えへ」

 まぁ、そうよね。

 世界創造って結構お金がかかるのよね・・・私もハースニング作った頃は資金集めに奔走したものだったし、アレは大変だったわ。

 うんうん。苦労した―――

「えへへ・・・しかしですね・・・えぇ、しかしですね・・・」

 ん? なんか様子が・・・。

 ローゼルザーンが小刻みに震えだしたと思えば、血の涙を流して右手を大きく振り上げ、攻撃してくるのか!?と身構えつつ見守っていると・・・。

「そこのヴァルキリーッ!!!」

 人差し指を突き立て、第四王女アニスニアを憎々し気に睨みながら指を向けた。

 これに、『きょとん』としているアニスニア。

「・・・私です?」

「そうです! おまえですよ! 私が兄様とお姉さまの『魔王』作成に倣って作った世界を運営していたというのに! ある日突然、監査とか言ってやってきて!!」

 ・・・あー、ヴァルキリーのお仕事だものね?

「美味しいご飯をくれるなら、手伝ってあげますよ?っとか言って、人間と交流した挙句に戦争に参加するとか、なにやってくれてんですか!!」

 えー。

 私とアリスリアが『おまえはなにをやってんの?』って目を向けつつ、アニスニアは首を傾げている。覚えていないのか? 覚えていないのでしょうね・・・。

「どうしてくれるんですか!! いい感じに戦争が泥沼化して、どの国も殺し合いが止められなくなって、世界で一番強い人間、『覇者』が生まれる寸前まで行っていたというのに!!」

 そうそう。

 私とダーセルガーンが魔王ハースニングを造り上げた時も、そうやって世界中で戦争をしていた。そうして、世界最強の『覇者』が誕生し、さらに―――。

「たかが『おにぎり』一つで『覇者』を消し飛ばしてぇええええええんんんんんん」

 えー。

 アリスリアが「彼女がクビになったのはそういうことでしたか」と項垂れている。


 泣きじゃくりながらも、ローゼルザーンは怒鳴り散らした。

「どうしてくれるんですかぁあ!! 魔王までの最終段階目前だったというのにぃ!!」

 これにはアニスニアも狼狽えて、こっちに助けを求めてくる。

 ため息を吐きつつも、私はローゼルザーンに問う。

「で? おまえの世界はどうなったの?」

「う、う、うぐ・・・ずず・・・はい。このヴァルキリーは、あちらこちらの国から料理を貢がせては、美味しいモノをくれた国に力添えをして戦争に参加したのです・・・そうしたら、そ、そうしたらぁ」

 また泣き出した。

「悲しいのは分かるけれども、とりあえず説明を終えるまではシャキッとしなさいな」

「ばび・・・お姉ざま・・・そうしましたら、どの国もより美味しい料理を作るために研究を始め、戦争のための費用を料理研究につぎ込み・・・コイツに献上する料理対決をするようになったんですぅ!!」

 あー。

 創造した世界が、予定した道を外れて独自に進み始めてしまったわけか。

「そ、それでも・・・一応はコイツがどこかしらの国を滅ぼすので、修正できると思い、頑張ったんです。がんばっていたのですけれど、唐突にコイツの上司とかいうヴァルキリーが現れて『大変申し訳ありませんでした』とか言うだけ言って、逃げるようにコイツを回収していったのです」

 ・・・いや、それ、ヴァルキリー部隊の不祥事じゃん? そんな話を聞いたことないが?

 ちょっと後で調べてもらおう・・・本体に。

「その後は、もう、修正も出来なくなりました。どの国も料理で世界の覇権を競う料理バトル戦争になり、今や『殺し合いより旨い飯』が世界共通語として・・・言ってて虚しい・・・」

 そりゃ、まぁ・・・。

「仕方ないので、覇者を魔王にするための魔族を開放して再び殺し合いを・・・と思ったのですが、そんな魔族まで『殺し合いより旨い飯』とかいうわけわかんないスローガンに汚染されていて・・・初登場でいきなり魔界料理を披露すると、人間たちに世界征服を宣言すると同時に、世界中に魔族料理店を開店し、全人類を虜にするという暴虐・・・暴虐なんでしょうか?」

「使っている食材は?」

「人間側で流通している安全新鮮高品質の食材です」

「平和だわ。おめでとう」

「魔王が造りたかったんですよぉおおおお!!!!」

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・ご愁傷様です。

「しかし! 私の思惑とは違う道となりましたが! 魔族を倒した覇者が現れたのです!!」

「え!?」

「ご紹介しましょう!! 私の世界で誕生した『魔王』を!!」

 ま、魔王!? まさか、そんな修正不可能な世界で魔王を造ることなど!?

 だけど、ローゼルザーンが自身を持って宣言するのだから、間違いなく魔王なのだろう。紹介すると言ったが、まさかすでに投入されているということか。

 私はローゼルザーンが登場した天上の大穴を見上げる。

 アリスリアもアニスニアも、同様に見上げて『魔王』の登場に身構えた。


「ご紹介に預かりました。料理人・・・クックルークと申します。恥ずかしながら、魔王などと大層な役職を名乗る羽目になりました」


 ・・・普通に廊下からやって来た。

 しかも、容姿が地味過ぎる。モブキャラで野次馬に混ざっていても気づかないだろうな。

 それに、魔王? ハースニングと比べるまでもない常人のように見える。情報量も人間よりは多めのようではあるけれど、魔王と言うほどではないし・・・。

「どうです!? 私が苦心して完成させた魔王でございます!」

「・・・いや、まぁ・・・うん。失敗作でも魔王なら魔王でいいと思うわ」

「じがだないんでずよぉおお!!!! ぞごのヴぁるぎりーのぜいで、ぜんどうのうりょぐにどっがじだばじゃがげじずみになっだんでずがらあああああああ」

 つまり、料理というカテゴリのみで構成された魔王であって、私とダーゼルガーンで公開した論文通りには作れなかったというわけか。

 私とアリスリアは、再びアニスニアを『お前はなにをやっているんだ?』という眼で見た。

「え? えーっと・・・ごめんなさい?」

「あやまっでずむがあああ!!! おがげでわだじはむいぢもんでずよぉおおお!!!」

 ・・・ぐだぐだ、だわ。

 すると、アリスリアが私に耳打ちしてくる。

「あの方、先日の自称勇者が暴れていた時に、野次馬に紛れていましたね」

「え? そうなの?」

 すると、私たちの声を拾ったクックルークという料理魔王が肯定してきた。

「はい。先日の騒ぎは見ておりました。デモンストレーションの様子を見ておくように、ローゼルザーン様に命じられていましたので」

 デモンストレーション?

「そうなのです!」

 あ、泣き止んだ。

「実はお姉さまに、こちらの商品をご紹介したく、本日はご挨拶に伺った次第なのですよ!」

 ・・・迷惑なんだが?

 そうは言っても、何を売りたいのか気にはなるので、黙って聞くことにする。

「ご覧ください! こちらの商品が、お姉さまにご紹介する逸品! チートシードでございます!」

 350mlほどのサイズをしたカプセルを取り出すと、中には植物の種が入っているようだった。異世界植物かと思ったけれども、即座に解析をしてみれば、生物の類ではない『種』のようだが・・・。

「こちらが、本日ご紹介する商品になります。ななななんと! こちらの商品は人間の転生をスパッと手早く行えるようにする優れものなのです!」

 ・・・転生を?

「現在、異世界の人間を転生させるためには、創造神との間にアレコレと面倒な手続きをしなければいけないのは、ご存じですよね?」

「そうね。人間に限らず、あらゆるモノの持ち出しは、しっかりと手続きを踏むのがルールね」

「はい! それら面倒な手続きを短縮するスーパーアイテムが、こちらの『チートシード』なのです。この種に人間の魂を込めるだけで、人間の魂を察知されることなく世界の外に持ち出しできる上に、適当な人間に植え付けることで転生が完了するのです!」

 ・・・なんだと。

「おまえ、その種を誰が造ったのか知っているのか?」

 私は怒気を強めて問う。

 ローゼルザーンの商品紹介が事実であれば、これは相当な危険物だ。

「いえ、造った方は存じません。ただ、バイト募集で給料が良かったので応募したら、このように採用してもらえたので、しかも売り上げ次第ではボーナスまで出るのです! これはやるしかないですよ!」

 くぁーッ!!!

「それ、思いっきり嘘だからな! おまえ、マジで騙されているからな!?」

「え? そんなわけないじゃないんですか! 大丈夫です。これでも危機管理はできる女ですので!」

 ダメだーッ! こいつはダーゼルガーンよりもダメダメだーッ!!

 そもそも、自分の魔王が予定通りに完成しなかった時点で危機管理できてない事を自覚しろ!!

「まー。いきなりこのような品を紹介されても困ると思いますので、こちらを商品サンプルとして差し上げます。試供品てやつですね!」

 言うと、私が拒否する前に種を入れたカプセルを渡して来た。

「使用時の注意ですが、カプセルから出した状態で人間の死体などには近づけないでください。魂を取り込んで転生準備を始めます」

「準備が終わったらどうなる?」

「転生準備が終わると、種の色が変化しますので・・・そしたら適当な人間に押し当ててください。そうすれば、後は勝手に根を張って魂を転生させてくれますので」

 すると、クックルークが手袋を寄越して来た。

「転生準備を終えた種を扱う際は、こちらのグローブをお使いください。素手で触ると、種が自動的に根を張り始めますのでお気をつけください」

 ・・・くそ。

「ローゼルザーン」

「はい?」

「転生準備が終えている種はまだあるの?」

「はい。雇用主から預かっております。デモンストレーションでド派手に宣伝すると」

 マズいな・・・。

 とはいえ、ここで放置するわけにもいかないか。

「デモンストレーションは当分控えてくれる? このサンプルを試して、良い品であると確認できたら、おまえの持っている種を全て買い取るわ」

「え!?」

「転生準備を終えている種も含めて、全部買い取るから、連絡先を教えて頂戴。いいね?」

「は、はい! ありがとうございます! お姉さま! このご恩は決して忘れません!!」

 ・・・いや、そんな・・・まぁ、いいや。

「当面の生活費が無いのであれば、種を購入する前金てことで・・・」

 私は、今所持している財布袋を取り出して、ローゼルザーンに手渡す。コレを受け取った瞬間に大泣きし始め、宿の名前を教えてもらった。

 クックルークとかいう魔王にも確認し、間違っていないようなので後日改めることとする。

「それでは、お姉さま! お待ちしていますね!!」

 ローゼルザーンは嬉しそうに、クックルークを連れて去っていく。


「・・・城にて拘束するのが良かったのでは?」

 確かに、普通に考えればそうなのだけれど・・・。

「いいや、あの連中が関与しているのであれば、少なくとも種の位置情報は確認しているはず。下手に城に拘束すれば、遠隔操作で種を暴れさせるとか・・・やられる危険性が大きい」

「なるほど、確かにそういう連中ですものね」

 ・・・そういう奴らだからこそ、使い捨ての駒を雇うのよね。

「それよりも、アイツはアルバイトだと言っていたから、おそらくは他にも同様に雇われている奴がいるはずよ」

「・・・確かに、すぐに警戒態勢を強めましょう。とはいえ、すでに後手になっていますが」


 ・・・そうね。いったいどれだけの転生者が現れるのか。

 悩みの種だけは、尽きてくれないようね。




 △回想終了(白ヤモリによる再生終了)△


 

 ウィッチが、お腹を抱えるようにして大爆笑していた。

 そこまで笑わなくてもいいのでは?っと、思うものの・・・この魔女にはツボだったようだ。

 一方で、女王アルファニアはと言えば・・・両手で頭を抱えつつ、机に突っ伏すようにして唸っていた。その身も震えていることから、だいぶ参ったようだ。

 アリスリアからはすでに文書か口頭での報告は受けていたのだろうけど、実際の様子を見て想像以上に酷い有様に頭が追い付かなったということか?

 まぁ、アリスリアも疲れたようにため息を吐いているし、私もうんざりしているところだ。

 

「だ、ダーゼルガーンを! ユアヒム・レーンを至急連れ戻す!! アルメルデ伯に連絡をしなさい! 今後の対策はアイツに責任を取ってもらいます!! 急げ! それから、各領地に自称勇者を騙る不審者が現れる可能性を連絡! 警戒態勢を強化するように!! すぐに行動しなさい! 急げ! いそげいそげ!!」


 椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がった女王アルファニアが、今にも泣きそうな顔を気力で引き締めつつ上の三姉妹に命令を飛ばす。

 ま、私はアリスリアとお金の準備をして、ローゼルザーンから種を買い取る準備をしましょうか。

「ネフェルマリーッ! あ、いや、ネフェリス・コイノー! あなたはネルゾイに出張してユアヒム・レーンを引き取って来て!!」

「はぁ!? なんで私が!!?」

「宮廷魔法術師の彼も付けるわ! 前伯爵が渋るようなら、殺してでもユアヒムを回収してきなさい! これは女王命令だ! 拒否権は無い!!」

 な、なんだとこのクソ女神!!


「はい! はいはい! ネルゾイなら私も行きます! いきます!」


 沸騰しかけた私の頭も、アニスニアが手を上げて立候補してきたことで、一気に冷める。

 それは女王アルファニアも同じだったようだ。

「いえ、アニスニアは城に残って転生者対策に従事してもらいます」

「そうそう。とりあえず、おまえはくんな」

 トラブルメーカーでしかないこの娘っ子を連れて行って、果たして無事に帰ってこれるか? 無理だ。

「いえ! 私も行きます!!」

「なんで?」

「お化け野菜を食べたいです!!」

 ・・・昼間のアレを覚えていたのか・・・しまったぁ。

「お、お化け? どういうこと?」

「ネルゾイ! 行きます! 私の食事を邪魔する者は―――」

「待ちなさい! 王族がそのような場所に行くとなると、いろいろとしなければならない手順というのがあるのです! 今は早急な対処が必要な時で―――」

「デストロイです」

「あーもー!」

 アニスニアがキレた顔で槍を取り出して来たので、私とアリスリアとアルファニアが総出で取り押さえる。さすがのヴァルキリーも私たち三人を同時に相手できないようだ。

「むぐぐぐ・・・さ、三対一は・・・ムリです・・・」

「ええい、こうなれば視察の日程を組むしかないわ!」

「ええ! それ本気で!?」

「しかたないでしょう! ここで抑えても、私たちの見てないところで勝手をする子なのだから! ネフェリスと彼を筆頭に、近衛騎士を付けてネルゾイへ視察に行ってもらうしかない!」

「私がおもりすんのか!?」

「よろしく」

「くそが! おまえマジで死ね!」

「あなたが死になさいよ!」

 アニスニアを取り押さえながらも、私と女王アルファニアは言い争いを続けた。

 とにかく口汚く罵り合うばかりで、アリスリアが仲裁することでとりあえずは矛を収めることにした。アニスニアも視察となればお給料が出る上に現地の料理は経費で食べられると教えられて大人しくなる。

 こういう時のアリスリアは大変手際がいい。

 

 しかし、そんな私たちを見て、ウィッチが大爆笑していた。


 あぁ、もう!!

 ・・・殴りたい!! その笑顔ッ!!!



 次回の〔壺外編〕はネルゾイにて大暴れ?を予定していますが、本編の更新が全然できてないので、本編の合間に少しずつ作っていこうと思います。

 それと、王女の名前はアライラーの名前候補だったものに手を加えたものとなります。我ながらふと思いついた名前でしたが・・・後程、新しく名前を修正するかもです。

 次からは本編の更新を頑張りたいと思っていますので、今後ともよろしくおねがいします。

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