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18 これが私の力! 新たなる力だ!

こんにちは。こんばんは。

7月は怒涛の忙しさでまるっきり手が付けられない状態だった私です。

8月になり、やっと一区切りがついて・・・そう、一区切りなのです。お盆が終わったらまたどうなるかわかりません。

ということで、急ぎ作ったこのお話・・いろいろと荒だらけか思いますが、最後までお楽しみいただければ幸いです。

「普通のランドセルですね」

「見た目だけならね」

 村の東門を抜けて、ヨーロロンと他モンスターが群れているエリアまで来る。すでに通いなれた道となったこの場所だが、まだ群れを前にすると緊張する。

 とはいえ、今日はマリーさんがサクッとヨーロロンを狩ってくれたので、俺が丸焼きにしてアライラに渡すだけで済んだ。


 マリーさんも弁当箱を取り出して、みんなでご飯にする。


 その傍らに、ランドセルのチェックを行っていた。商品箱から取り出したランドセルは、赤い色をしていた。

 留め具を外して開いてみれば、俺が小学生の時に使っていたモノと少々デザインが異なっていることが分かる。幾分か古いタイプのようだ。

 しかし、教科書などを入れるメインや、時間割表を入れて置く透明アクリル窓付きポケットは同じようなので、安心した。

 

「物は試しね。まずは何か道具を鞄に入れてみなさい」


 言われた通り、俺は手に持っていた錫杖を試しにランドセルへと入れてみる。と、錫杖だけがフェードアウトするようにランドセルの中へと消えていく。

 こういう場合、異空間へと繋がる穴などが出現して錫杖を飲み込むように消したりするものだと思っていたが、動画編集ソフトでありがちなスゥーって感じに消えて行った。

 念のため、錫杖を再召喚してから、もう一度ランドセルに入れてみる。と、特に何かが変わるでもなく、波紋が広がったりとか、空間が歪むとか、そんなことは起こることもないまま、錫杖だけがフェードアウトして消えていく。


「・・・地味ですね」

「そうね・・・地味だわ」


 マリーさんも興味津々という顔で覗き込んでいたが、俺と同じで予想よりもはるかに地味な収納に難しい顔をしていた。


「ウィッチの奴が、それはもう上機嫌で魔改造していたから・・・それはもう派手な感じの何かが起こると思っていたんだけども」

 物を収納するだけなのに、そこまで派手な何かが必要だろうか?

「ま、無駄な演出よりも実用性を重視したということかもね」

 そうであるなら、俺としてはありがたい事だ。


 マリーさんは、商品箱に入っていたランドセルの使用説明書と思われる小冊子を開く。内容文を確認するように、ランドセルを見た。

「ウィッチの解説によると、ここの透明アクリル窓が内容物を確認するためのタッチパネル式画面になっているようよ」

「・・・は?」

 何を急に言い出すんだ?って顔で返事してしまった。


「アイツが同封した『魔改造ランドセル。取り扱い説明書』によれば、指でタッチするだけで画面が反応してくれるそうよ」

 俺は、マリーさんが手にしている小冊子を見る。

 マリーさんも、俺の視線に気が付いてたようで・・・無言で小冊子を差し出してきた。

 素直に受け取って、俺は拍子を見る。


『ウィッチちゃん特製! 魔改造ランドセル取り扱い説明書♡』


 なんかもう、それだけでウィッチという人物像が想像できたので、特に中を見ることもせずにマリーさんへと返却した。

 きっと理解不能なことが起こるに違いない。そうとも『ちょっとー? 質問とかないのー?』なんて文字が表紙に浮かび上がっていたりしない。


 ・・・。


 それから、マリーさんに教えてもらった通りに透明アクリル窓をタッチする。と、確かにタッチパネル式画面のように光出すと、収納内容を表示してくれる。

『地獄石の錫杖 ×2』

 アレって、ただの石じゃなくて『地獄石』っていう石なのか・・・ってことは、地獄鉄とかそういう別の物があったりするのだろうか?

 まぁ、そういう事は次に道標人を召喚した時にでも確認するとしよう。今はランドセルの機能チェックに戻る。

 

 とりあえず、ランドセルをもう一度背負ってみることにした。

 村を出る前にも背負っているが、あの時はアライラとマリーさんに嘗め回すようにカメラのシャッターなどを切られたので、機能面に意識など向けられなかった。

 しかし、今回はちゃんと背負った時の感覚を確認しなくてはいけない。

 

 基本的にランドセルというのは、小学一年生から小学六年生まで使えるように設計されているため、少々大きいサイズで仕上がっている。

 それゆえに、小学一年生の頃はランドセルが大きくて、アンバランスにも見えるものだ・・・が、それがまたカワイイから困る・・・というのが前世の叔母談だ。

 まぁ、今は背負い心地を確認するのが先だ。

「軽い。それに動作を阻害しない設計? 腕を動かしてもベルトを邪魔に思わないのは凄いな」

 信じられないほど、俺の動作を阻害しないランドセルだ。

 サイズこそ、今の俺には大きい物の・・・試しにラジオ体操をしてみれば邪魔と感じない上に、違和感さえ覚えずに動ける。


「うんうん。やはりお前くらいの子供には、ランドセルが良く似合う」

 なんか、鼻の下伸ばしているけど・・・もう隠す気もないのかな?

「それに、ウィッチの魔改造品であるから、防御力も最強クラスだと思うわ」

「防御力ですか?」

「そうよ。そもそもランドセルには子供が転倒した場合のクッションという役割もあるわ。特に背中から転んだ場合に、後頭部を強打する恐れがあるでしょう? そういう危険から守るために、ランドセルというのはひと際頑丈に作られているのよ」

 ・・・納得できるような気もするけど、それって公式なのかな?

「そんなランドセルだからこそ、魔改造によって防御力も上がっている・・・そうよね?」

 小冊子を確認しながら問いかけている・・・俺に聞いている? でも、なんか小冊子を凝視しているし・・・。

「うん。どうやら防御性能も魔改造済みのようね」

 あ、記載されているんですね?

 そんなこんなで、魔改造ランドセルの機能をマリーさんが小冊子片手に調べつつ、俺が確認していく。

 腰に巻いているポーチを中身ごと入れてみると、収納後に分別してくれるようだ。ポーチとは別に中に入れていた道具類が並んで表示されていく。


『救助用魔法術具 ×1 着信アリ 216件』


 ・・・そこまで表示してくれるんだ。

「そういういえばそんな物もあったな・・・」

「なにが?」

「え? あ、いえ・・・救助用魔法術具の事をすっかりと忘れていまして・・・」

「あー、これ? 着信が216件とあるけれど?」

 ・・・アレから何日が経過したっけかな? とんでもない数の連絡が届いているようだけど、このうち何件が実のある内容だろうか・・・。

「これはですね・・・」

 俺は、とにかく事情を説明することにした。


 どういう魔法術具であるのか。現在、どのように使われているのか。向こうから送信してくる連中が連続で送ってくるから、うんざりしていたけれど・・・途中から着信音がしなくなったな。

 別にアライラに音を遮断してもらったわけでもなかったけれど・・・。

「ふむ。まぁ、洞窟迷宮でそんな着信音が断続的に響けば、モンスターも群がってくるでしょうね」

「そうなんです。夜通し鳴っていた時は、徹夜でモンスターを排除しました」

 返信してからの数日は、本当に大変だった。

「ここに来てからは着信音も聞いてませんでしたけど・・・」

「それはおそらく、未読の着信が100件超えたからでしょう。その手の魔法術具は、未読のメッセージを保存するために余計な魔力消費を抑える仕組みになっていたりするわ」

「・・・着信音は余計な魔力を消費するものだったんですか」

「そりゃそうでしょう? 呼び出しをしてもメッセージを再生してもらえないなら、呼び出し音など無駄だし」

「・・・確かに」

 聞くのも面倒になって、あとはもう無視し続けていたからな。


〈ごちそうさまーッ!〉

 アライラがヨーロロンの丸焼きを食べ終えたようだ。

 俺も早々に食べ終えないと・・・と思っていると、アライラが身を小さくして食後の睡眠をしようとし始めた。

「まぁ、待ちなさい」

 そんなアライラの前足を鷲掴みにして、マリーさんが握りつぶすような力を手に込める。

〈あだだだだ!!! なにすんのーッ!?〉

 マリーさんの手荒な妨害を受けて、アライラが跳び起きる。

 そして不満そうなオーラを邪眼で放出しつつ、睨みつけるのだが・・・マリーさんの全身から放たれている『お母さんオーラ』に怖気づいて後退りし始めた。

 もうちょっと、がんばれ。

「寝るのは夜ッ!! お腹がいっぱいになったというならば!!」

〈いうならばッ!?〉

 ならば?





〈ねーッ! やる意味あるぅ!? 本当にぃ!?〉

 うーん。

 まさか、どれだけ暴れ回っても起き上がれないとは・・・。

 ひっくり返った状態から、身体を起こす特訓をするようにマリーさんから指示を受けたアライラは、最初こそ拒否をしていた。

 しかし、マリーさんが放つオーラに気圧されてしまったことで、アライラはしぶしぶとひっくり返った状態から自力で起き上がる特訓をすることとなる。

 そうして、アライラは自身で思いつく限りの方法で起き上がろうとするも、ゴロンゴロンと達磨のようにひっくり返ったまま揺れている。

 ちなみに、大道人がゆっくり丁寧にひっくり返した。


「んー・・・何かが足りていないのでしょうね」

 今や見慣れてしまった宙に浮くモニターを凝視するマリーさんは、これも同じく見慣れたキーボードを叩きながら、起き上がれないアライラを解析しているようだ。

「こうしてデータを集めてみると、最後の一押しが足りないようにも見えるが・・・」

「何かが足りていない原因に心当たりはないのですか?」

「そうね・・・アライラーはひょう・・・ゲフッゲフッ転生前が人間であるから、蜘蛛という種族違いということで、蜘蛛と人間の違いによる弊害が出ているのでしょうね」

 なるほど。確かにそんなことを前にも言っていたけど・・・結局そこになってしまうわけか。


「蜘蛛の本能的な部分で情報の欠損がある・・・これを補修するには・・・面倒だな」

 なんか面倒くさがっている。

 しかし、ブツブツと何か言っているな・・・「亜種のさらに希少種」とか「今までに一度として見たことない」とか・・・。

 断片的な情報から推測すると、アライラの元となる蜘蛛のモンスターは、異世界の出身で、アライラの転生元はその種では亜種に分類され、分類される中でもさらに希少な種であるというわけかな?

 今までに一度も見たことがないということは、見回り業務中に見たことが無いという事だろう。

 ・・・アレ? アライラってゲーム的に言えば超低確率で出現するレアモンスターなのか?

 

〈ねーッ! どう頑張っても起き上がれないんですけどぉお!!〉

「うるさい!!」

 マリーさんがキレた。

「なにを言ってんのか知らないけどね! どうせ起き上がれないとか言ってんでしょうがね! 先日のように戦闘中にひっくり返された時に備えて、シュバッと起き上がれるようにしておくのは重要でしょうが!」

 親が子供に説教する雰囲気だ。懐かしい。

 前世で母が叔母に説教していた様子が思い出されるな・・・ん? 俺が説教された覚えがないな。

〈邪眼で起き上がればいいだけじゃん!! 魔力も邪眼も使用禁止で起きろとか! なんなんなんなんなん!!!!!!!!〉

 マリーさんが首だけを動かして俺に視線を向け、睨みつけてくる。・・・ので、アライラの言葉を通訳する。

「邪眼で起きればいいだけ。魔力も邪眼も使用禁止で起きろとか、なんなんですか?と言っています」

 ちょっと内容を変更して伝えた。

 すると、マリーさんは片方の眉根を上げて、言う。

「なら、邪眼で華麗に起き上がって見なさい。できたならば、もう何も言わないわ」

〈言ったな! やってやるぞーい!!〉


 俺は、魔力の供給を通常通りに戻してやる。

 そうして、魔力が通常通りに戻ったことを確認したアライラが、元気よく叫んだ。

〈八連! 邪眼ジェーット!!〉

 爆発音を轟かせながら、地面を抉りつつ滑るように加速すると、離陸して空を飛びあがっていく。のだが、放物線を描いて降下を始めた。

 その放物線を延長した先には・・・ヨーロロンの群れがある。

「ワザとやっているんでしょうか?」

「バカと天才は紙一重。のバカな例よ」

 着地寸前には、身体を捩じるように動かして回転を加える。

 そうして拍手喝采の着地を決めた・・・と本人は思っているのだろうが、そこはヨーロロンの群れ中心で、熱烈な歓迎を受けることとなる。


〈華麗に着地!って、ぎゃああああああくちゃあああああああああああぶべええええええええ!!!〉


 そう。唾の集中砲火だ。

 身体中を凹凹にされた上に悪臭で、目と口から毒々しい液体が噴き出している。

 しかし、そんな状態でも反撃の邪眼ビームを放っているが、膨張して増殖した毛によってビームを散らされてかすり傷も負わせることが出来ていない。

〈たすげでぇえ!! だずげでぇえええええええええ!!!〉

 俺もマリーさんも、すでに助けに走っている。が、ちょっと遠すぎる。

「しょうがない子ねッ!」

「・・・」

 マリーさんは、ちょっと楽しそうだった。





 追いかけてきたヨーロロンを、マリーさんの幻覚を見せる魔法術で見事に別方向へと誘導して、袋叩きにされていたアライラを救出することに成功する。

 あちこちの殻が砕けて陥没し、八本足など複雑骨折しているのが見て分かるほどのダメージを負っている。歩くことはもちろん、立つこともできないだろう状態だった。

〈びゃーん! なんで私ばっかりこんなんなーん!〉

「もう少し落ち着きを持って行動するべきだってことだよ」

 ため息しか出てこないが、これで反省してもらいたいところだ。無理だろうけど。


〈るっだー。なおじてー〉

 全身の至る場所で殻が砕けて体液が漏れ出ている状態は、出血しているのとそう変わらないし、ボロボロの姿は痛々しいので、すぐさま修復した方がいいだろう。

「すぐ終わらせるから、ちょっと我慢しろよ」

〈なるべく痛くない方でよろしくー〉

 その頭に錫杖を突き立てた。

〈あいたーッ! ルッタのバーカッバーカッ!〉

「アライラのあほー」

 言いつつ、魔力を流し込んで技を発動する。


「カタチナセ」

 アライラの全身に魔力が行きわたったところで、俺が転生してから使える謎の技『カタチナセ』を発動した。

 彼女の全身に行きわたっている魔力が反応し、全身の損傷を瞬く間に修復していく。

 わずかにサイズダウンしたようだが、微々たるもので済んだようだ。新品のように傷一つない殻を取り戻し、毒々しい緑色の体毛が艶を取り戻す。

「・・・何? 今の」

 そんな声が、俺の背後で唐突に響いたので、俺は悪寒と共に振り返る。

 と、両目を見開いたマリーさんが俺の眼前に待ち構えていた。

「・・・何? 今の」

 同じことを繰り返し問いかけてきたので、生唾を吞み込んんで答える。

「えーっと、その・・・カタチナセという・・・俺が転生してから使うことができる謎の技です」

「はぁ?」

 いや、そんなホラーみたいな迫り方をされても・・・。


 すると、マリーさんは唐突に自分の左手人差し指を右手で握ると、へし折った。

「なっ! なにを!?」

「ほら、ちょっとこの折れた指を修復してみなさい」

 えーっ!? そのためだけに自分の指を折ったの!? さ、さすがにちょっと・・・。

「ほら、痛いんだから早く修復してみなさい」

「わ、わかりましたよ! ちょっと失礼します」

 そう言って、俺は折れているマリーさんの指に触れる。

 魔力を流し込み、折れている部位を満たしたところで・・・。

「カタチナセ」

 技が起動し、マリーさんの折れた指を元通りに修復して見せた。

「これは・・・いや、まさか・・・しかし・・・でもアレ以外には・・・おかしい・・・ありえない。でも、いや・・・でも・・・いや・・・」

 なんか急に人を殺しそうな目つきになってブツブツと呟き始めた。


〈る、ルッタ? マリーさんはどうしたのん?〉

 アライラに問われたので、振り返ってみれば・・・アライラはソロリソロリと逃げている。

「どうやら、俺のカタチナセという技に興味を持ったみたいだ」

〈そ、そっか・・・データ取りとか言って、私の足をもう一回へし折るとか言わないかな?〉

「・・・君が大人しくしていれば、大丈夫じゃないかな?」

〈そ、そっか・・・ちょっと大人しくしとくー〉

 そう言うと、身体を小さくして・・・。

「はいはいはいはい! 寝ようとするな!」

〈ヤダーッ! もう疲れたから寝るーッ!〉

 そういうわけにはいかない。

 まだ問題の解決には至っていないのだ。自力で起き上がるのは無理そうだから、邪眼を使って起き上がろうという話になったのに、結局制御できずにヨーロロンの群れへと突撃したのだからな。

 少なくとも、この問題だけは解決しておかないといけないだろう。


「疲れているのは俺も一緒だ! それでも、まずはひっくり返った時の対処方法を見つけるぞ!」

〈えーっ! もう無理! 邪眼使ってんの上手くいかなかったし!〉

「八連邪眼で飛び上がれば、そうもなるだろ?」

〈そうさせるのは! 私に良案をくれないルッタでしょう!!〉

「大道人。アライラをヨーロロンの群れに投げ込め」

〈ごめんなさい〉


 さて、考えよう。

「で? 実際問題、邪眼ジェットの加速などは加減できないのか?」

〈難しんだよ。勢いに身を任せるのが、私のスタイルなのさ!〉

 ・・・悩ましいスタイルだな。

「八連じゃなくて、邪眼一つとかで調整できないのか?」

〈むぅん? さぁ? やったことないからわかんね〉

 ・・・なるほど。

「アライラ、あっちにヨーロロンの群れがあるから、ちょっと邪眼一つでジェットしてくるといいよ」

〈ちょっと邪眼一つで飛べるか確認するわー。もちろん、村の方角目掛けて!〉

 と、顔を村の方角に向けて邪眼を光らせる。

〈邪眼ジェーット!〉

 そうして、ヨーロロンの群れに向かってまた飛び上がった。が、今度はさほど飛距離が伸びなかったので、ヨーロロンに気づかれない距離で着地する。

 一度、後方を確認するように回ってから、必死の様子で逃げかえってきた。

〈びゃーん! またフルボッコにされるかとおもっだーっ!〉

「君、バカだろ」

〈バカって言う方がバカなんだぞ! バーカバーカ!〉

 自分の眼が推進力となり、お尻側へと前進するのはこれまでに何度もやっているのだから、飛ぶ前に気づくだろうに・・・。本当に勢いでやっていく奴だな。


「でも、これで一つ分かった。八連邪眼でジェットする必要はない」

 火力があり過ぎて、一気に飛び上がれてしまう八連邪眼ジェット。しかし、邪眼一つであれば、速度も飛距離も出ないことが分かったわけだ。

 ・・・実践せずとも分かりそうなことだけど。

〈むぅん・・・〉

 アライラは、どことなく不貞腐れた様子でいる。が、言い返してこないところを見ると、一応は理解したようだ。勢いで八連邪眼ジェットを使う必要は無いという事に。

「でも、邪眼一つとはいえジェットで上手く起き上がれるかが疑問だな」

 体を飛び上がらせるのではなく、浮かせるぐらいでクルリと回転できる技を身に着ける必要があると思うんだが・・・浮かせる・・・あ。

「アライラ。君、邪眼で自分を浮かせることはできないのか?」

〈・・・ん? 浮かせる?〉

「そう。洞窟迷宮だと、荷物を浮かせたり、俺を浮かせたり・・・というか、村ではヨーロロンの解体時に浮かせていたな」

 今の今まで忘れていた・・・自分でも不思議なほどに。

〈あー、そう言われてみると、自分にやったことないかなー?〉

 俺自身でも記憶を振り返ってみるが・・・アライラが自分をフワフワと浮かせている姿は記憶にない。覚えていないだけか? いや、無いはず。

「うん。とりあえずはやってみよう」

〈そうねー。やってみるー〉

 アライラの邪眼が一つだけ光ると〈むぅん・・・むぅん・・・〉と唸りながら何かを溜めるように力が全身に籠っていくようだ。

 しかし、何を溜めているんだろうか?

〈ところで、浮遊って英語でなんて言うっけ?〉

「・・・なんだっけ?」

 突然の問いに俺自身も即答できなかった。

 思い出そうと頭をフル回転させていると、アライラの身体がフワフワと浮き上がり始める。

〈おふー・・・イメージできてたから技が発動したっぽい?〉

 目の前でアライラが浮いている事と、浮くを英語でなんというのか?で思考がうまく切り替える事が出来ず、俺は呆然としたまま見上げていた。

 フワフワ

 フワフワフワフワ

 フワフワフワフワフワフワ

「どこまで浮くつもりだよ!?」

〈おー・・・この浮遊感。たまらんほど眠気をさー・・・すやー〉

 俺はアライラに錫杖を投げつけた。

〈あいたー!〉

「いいから降りてこい!」

〈もぅ・・・わがままだなー〉

 殴りたい。その・・・その・・・蜘蛛の顔を擬人化させるほど、俺の想像力は高くないようだ・・・くそ、なんか気力が削がれてしまった。

 ほどなくして、アライラは高度を下げて留まる。

 高さはちょうど俺の頭上くらい。フワフワと全身が浮いており、風に時折揺れているようだ。

「・・・うん?」

 浮いているアライラの姿を見上げる俺は、そのシルエットが何かに似ていると思った。

 

 何かに似ている・・・その似ている何かを必死で思い出す。


「そう、この形・・・この形状・・・」

 俺は、杖で地面を抉りつつシルエットを描き込んでいく。蜘蛛の三角形に似たお尻の形状、台形っぽい頭の形状・・・そして八本足を放射状に・・・。

「あ、戦闘機!」

〈ぅん?〉

 そうだ。この形は、戦闘機を簡略化して描いた時の形状に似ているんだ。足を放射状に描いたが、飛行機の翼風にすれば、脚を翼にできる。

「アライラ! 思いついたぞ! 戦闘機になるんだ!」

〈え? トランスフォームしろと?〉

 ・・・ちょっと想像したら大惨事になったので、想像をやめた。

「そうじゃなくて、邪眼の力を使うんだ。まずは邪眼で浮いている現状を維持」

〈ふむふむ〉

「次に視界をお尻側に変更できるか?」

〈・・・視界をお尻側に?〉

「そう。八連邪眼ジェットもそうだけど、君は進行方向を確認できない状態なわけだし、飛ぶとなればやっぱり視界は確保したい」

〈・・・言われてみれば、ちょっとまって〉

 アライラの邪眼がゲーミングPCのようにピカピカと光って綺麗に見える。

 俺は視界の変更が出来た次の説明をできるように、内容を考えておくことにする。それと同時に、アライラの翼となる部位をどうするかも、地面にシルエットを描きつつ考えた。


〈あー! めんどくせッ! 邪眼! 全天周モニターカメラ! アイ!!〉


 邪眼の一つが顔から飛び出して、フワフワとアライラの背に移動してきた。・・・え? なにそれ?

〈おー、私の背中ってこうなってるんかー〉

 見えているというのか? 邪眼が一つ独立して浮遊しているというのにか?

 体に沿って移動する邪眼が、俺の方に接近してきた。

〈あはー。とりあえず、視界確保できたよ?〉

「・・・俺の想像以上にぶっとんだ視界確保だな」

〈いやー。それほどでもーッ!〉

 褒めてない。とツッコミは入れないこととする。

「まぁいいや。それじゃあ次だ」

 俺は、視界が変わった事で身体の左右も認識が変わっているだろうと予測し、これをアライラに確認することとした。

「視界が変更されたことで、左右の認識も変わっていると思うんだけど、どうだ?」

〈へ? 普通に動くけど?〉

 浮いている身体を左に傾けると、お尻を前方として左に旋回を始めた。そして、右にも旋回を始める。

「・・・そっか」

 先ほど、彼女が『全天周モニターカメラアイ』なる技を発動したことで、前後左右の認識までもを丸ごと入れ替えたということだ。

 彼女自身がそれを意識してやったというよりは、視界の入れ替えイメージにセットで組み込まれたのだろう。

 万能って、マジ万能・・・羨ましいな。


「さて、そこまでで使用している邪眼は何個だ?」

〈へ? 浮くに一個。視界に一個。だから二個じゃね?〉

 ・・・そうか。さりげなく三つ使っているかもと思ったけど、二つでそこまでできるのか。

「じゃあ次だ。左右の脚をそれぞれ体と水平になるように、ビシッと伸ばしてみてくれ」

〈むぅん?・・・こう?〉

 手足をビシッと伸ばすように、アライラは八つの足をビシッと伸ばしてくれた。

「そうしたら、脚と脚の間に膜を張るんだ」

〈まく?〉

「そう、恐竜とかの翼膜とか、魚のヒレとか水かきとか、その辺を思い出してみて欲しい」

〈んー? アレかー。ちょっと待ってね〉

 邪眼が二つほど光ると、左右の脚それぞれを結びつけるように、ビームの翼膜が展開される。その輝きは実に美しいと見惚れてしまった。

〈とっとと、風を受けて上昇するぅ〉

 さっそくと、翼膜が風を受けて膨らんでいる。ちゃんと俺の意図通りに機能しているようだ。

〈むぅん・・・名前をどうしようか。ビームウイング・・・なんかダサいなー。翼膜・・・翼膜って英語でなんて言うんだっけ?〉

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・うん。

「それは後で考えよう。次だ! もうすぐ完成するからな!」

〈お、次はなにすればいい?〉

「体にバリアを張って欲しい。戦闘機のような流麗な形状のバリアだ。コレを全身に被せるように展開して欲しんだ」

〈・・・んー。ちょっと待って・・・戦闘機・・・戦闘機・・・〉

 彼女のイメージが重要なので、ここは何も言わないでおく。俺が余計な事を言って、イメージが崩れても困るからだ。

 それに、すでにイメージはできつつあるようだ。小声で〈どのVFがいいかな・・・やっぱり初代? 私的には――〉とか言っているので、大丈夫だろう。

 ・・・はて? 戦闘機の型番にVFなんてあっただろうか?

 

〈よーし! こんな感じでどうだーッ!〉


 アライラが邪眼の力を起動させて、全身に流麗な形状のバリアを纏って見せる。

 どうなるかと思っていたが、想像以上に綺麗な戦闘機風バリアになっていてホッとした。これなら、俺でも航空力学とかいう名前くらいしか知らない問題も解決できるだろう。

 万能邪眼が自動でなんとかしてくれるからな・・・はぁ・・・。

「さて、これで残りの邪眼は何個だ?」

〈む? えーっと・・・浮くで一個。視界で一個。翼で二個。バリアで一個だから・・・五個!〉

 そのバリアも一個で出来ているのか・・・凄いな。

 でも、これで使える邪眼はあと三つ。十分だ。

「よし、残る三つはまず一つを戦闘用に使用する」

〈空中戦! 激熱だぁあ!!〉

「そして、残る二つでジェットをするんだ」

〈ぅおおお!!! 二連! 邪眼ジェーット!!〉

 テンションが上がりまくったアライラは、勢いのままに二連邪眼ジェットを使用する。

 爆音を発して、彼女はまさに戦闘機のように空中へと飛び出していく。一方で、俺は爆音と共に生じた衝撃波?のような何かに全身を殴られるような感覚で吹き飛ばされていた。

 意識が飛ばなかったのが不幸と言える。痛くてちょっと体が起こせない。

〈ひゃっほーッ! ごきげんだぜーッ!〉

 ・・・ま、いっか。

 アライラの楽しそうな声が聞こえてくるので、文句を言うのは止そう。おっと、頭から血が噴き出ているようだ。彼女の推進力となっているジェットの燃料は、俺の魔力なので、ドカ食いされているのかな?

 

〈よし! これを『高機動空中戦闘形態』と名付ける! 通称! ファイターモードだ!!〉


 ・・・それ、ファイターモードだけでよくない?

 ちょっと痛みが治まったので、上半身を起こしてアライラを見る。

 初めて飛んだとは思えない見事な飛び方だ。背面飛行って、熟練した技術がないと危険な飛び方だった気がするけれど、アライラは〈ヒャッハー〉と言いながら軽々とやっていた。

 勢いに任せているだけのことはあるな。

〈これならば! やれる!!〉

 唐突に、不穏な言葉を発するアライラに、俺は嫌な感じを覚えた。

 と、彼女はクルッと旋回して加速すると、この場から飛び去って行く。その先へ視線を向けてみれば、ヨーロロンの群れだ。

 嫌な予感がしたので、錫杖を口元に寄せて叫んだ。

「アライラ! 何をする気だ!?」

〈そうだルッタ! 私はヨーロロンにフルボッコにされた借りがある!!〉

 ・・・あ、はい。

〈この恨みぃい!! 晴らさでおくべきかぁあああああああんんんんん!!!!!〉

 本音に力を込め過ぎだろ・・・。


 俺ががっくりと肩を落としている間に、アライラはヨーロロンの群れ上空へと到達していた。邪眼二つとはいえ、飛行機だけあって地形を無視しているから、速い。

 ヨーロロンもアライラの接近に気が付いて、視線を向けている。

 これから戦うぞ。っていう様子ではないが、なんか飛んでいる物を見つめているようだ。一応、警戒しているということか。

 アライラはヨーロロンの群れ上空にてしばし滞空していたが、クルッと体の向きを上に向けて加速した。垂直上昇している。

 すると、飛行形態を解除して通常のアライラへと戻る。


〈くらえぇぇぇえええ!!! 全力全開!! 八連邪眼!! 借りは返すぜバスタァアア!!! びぃぃいいむぅぅうううう!!!!!〉


 演歌歌手か?って思うほどに、魂を込めた絶叫にて放たれるバスタービーム。

 視界を光で潰しにかかるほどの光量が放射され、巨大な柱のようにヨーロロンの群れへと降り注ぐ。のだけど・・・。

「ふむ・・・撃つのが遅すぎて、ヨーロロンに退避されているわね」

 マリーさんが腕を組んで呆れた様子の声を漏らしていた。

 

 そうだ。

 

 ヨーロロンはアライラがバスタービームを準備している間・・・〈借りは返すぜ――〉の辺りから目が光り出していた事もあるんだろうけれど、ヨーロロンは引き潮のようにサーっと密集を解いて余裕の徒歩にて退避していた。

 で、アライラは視界がビームの光で埋まっていて気づいていないようで・・・バスタービームを放っていたわけだ。

 ヨーロロンが大地に刺さる光の柱と見紛うようなビームをジーっと見つめていた。


 直後に発生する爆発。


 キノコ雲という地球でも見ることが出来る爆発時の煙が上空へと昇り、衝撃波と音が俺とマリーさんの元まで飛んでくる。

 錫杖を地面に突き立てて踏ん張る俺とは正反対に、マリーさんは腕を組んだまま余裕の仁王立ちでアライラを見上げている。

 コレが実力差か・・・。


〈わーっはっはっは! 見たかねルッタ君!?〉

 アライラの問いに、俺は「え? あ、うん」と答えていた。

 正直、爆煙から飛び出してきたアライラは、再びファイターモードという形態になってさらに垂直上昇を行っている。

〈コレが私の力! 新たなる力だ!!〉

 なんか力を込めて叫んでいるが・・・バスタービーム自体はヨーロロンに命中もしていないんだよな。

 俺が、事実を教えてあげるか迷っていると、マリーさんが呟く。

「マズい・・・あのまま上昇するか」

 何がマズいのだろうか?


〈ヨーロロンの奴らめ! 地上戦ではフルボッコにしてくれたが、今は違う!〉

「ルッタ。アライラーを止めなさい」

「え?」

「あのまま上昇するのは危険よ。ある程度の高度に達すると、航空モンスターとエンカウントするわ!」

 航空モンスター? そんな物までいるのか?


〈高機動空中戦闘形態ッバンザーイ!!〉

「飛行初心者のアライラーではまず勝てないわ! すぐに引き返すように・・・いや、もう遅いか」

「な!?」

 俺がすぐに視線をアライラへと戻し、その上昇先を見る。

 すると、黒いノイズのようなモノが蠢きながら空中を移動している様子を見つけた。


〈ファイターモードッバンザーイ!!〉

 俺は、錫杖を口元に寄せて叫んだ。

「アライラ! 進行方向に敵だ! 来るぞ!!」


〈え?〉

 間抜けた声と同時に、アライラの進行方向にて蠢いていたノイズが黒い物体となって姿を見せた。光学迷彩の類か、ダンジョンにおけるモンスターとのエンカウント演出なのかは不明だ。

 しかし、その物体はΔ形状をしており、まるでステルス戦闘機のような印象を受ける・・・が、両翼が上下に羽ばたきの動作をして見せたことで、敵が鳥であると知れた。

 その鳥と、アライラが正面衝突寸前で互いに身を捻りつつ回避したことですれ違う。

〈あぶな! ぶつかるかとおもったーッ!〉

 そんな声と共に、航空機ではまず不可能な急旋回で向きを変えたアライラは、出現したΔ形状の鳥を追いかけ始める。

「アンカーラか。まずは斥候というわけね・・・ルッタ、アライラーを呼び戻しなさい。まだ間に合うわ」

「アライラ、戻れ! 未知の敵である以上は情報収集を優先するべきだ。合流するぞ!」

〈鑑定すればいいんでしょうが! それ鑑定!〉

 俺の錫杖から、アライラの鑑定結果がウインドウ表示される。


『アンカーラ。異世界ハリドミイルマに生息する偵察を得意とする鳥。航空機動母艦バンダーガーにて共生する一種。制空権に侵入する者を感知すると、調査のために出現する。光学迷彩に等しい特殊能力を有し、人類のあらゆるセンサー機器をすり抜けることができるため、偵察されていることも気づかないことが多い。主要な武装は魔力を弾丸上にして毎秒数百発放つ連射式魔力弾。追尾性攻撃への迎撃能力と、糞型焼夷爆弾などを持つ』


〈なんだ偵察機かー〉

「鑑定したなら武装を一覧を見ろ! 厄介なものがあるだろうが!」

 先のヨーロロンでも同様に、相手を舐めてかかっているのがよくわかったので、俺は急いで合流することに決める。このままでは危険極まりない。

「大道人! アライラと合流する! 運んでくれ!」

 大道人の手に乗って、平原を駆け抜ける。のだけど、空を縦横無尽に飛んでいるアライラとどのようにして合流するかに悩む。

 

 一方で、アライラは航空機ではまずありえない旋回の仕方でアンカーラを追尾しつつ攻撃を行っている。飛行形態で使用していない邪眼で何度もビームをミサイル状にして発射していた。

〈ビームミサイル! マイクロビームミサイル!〉

 どういうわけか、ミサイルは普通に放ってアンカーラを追尾させているのに、マイクロビームミサイルとかいう技を使用する時はローリングしながら放出していた。

 バラバラと小さな弾頭のように見えるビームをミサイルとして発射している。

 アンカーラを包囲するように飛んでいくビームミサイルの類だが、そういう武装への対処を備えていることはアライラの鑑定にも示されていた通りだ。

 

 尾から放出される粉がビームミサイルに接触すると、ミサイルを穴だらけにしてビームを霧散させていく。そうやって、アライラの放つビームミサイルをことごとく無力化していた。

〈ならば! ビームマシンガン!〉

 視界確保で使用している邪眼のように、邪眼単体を体から射出して身体を這うように移動させ、アンカーラをロックオンしてから、ビームを細切れにして連続射出する。

 確かにビームマシンガンのようだけど、アンカーラは上昇と下降、旋回などで上手い具合に回避して見せる。

〈むきゃー! 当たんないじゃんかー!〉

 ・・・え? 空中戦なんだし、早々に当たるようなモノではないと思うが。

 それにしても、敵の後ろを取るという好条件をキープしているというのに、アライラは仕留めることが出来ずにいる。

 それだけ空中戦はアンカーラに分があるということか。


 不意に、アライラの攻撃が止まったタイミングで、アンカーラが上昇を始める。

 これを当然のように追いかけるアライラであるのだが、不意にアンカーラのお尻から何かが放出された。ブリっという擬音がしっくりきそうなモノだ。

〈うげー! アイツ!? 脱糞しやがりましたぁあ!!!〉

 ・・・もうちょっとオブラートに包むべきだろ。

 合流できそうにない状況で、ただ成り行きを見守るだけの俺だが、アライラへのツッコミは追い付かないのでやらない。

 

 アンカーラが放った糞を回避するために、上昇するアンカーラを追いかけることをやめて高度を下げる事でやり過ごすことを決めたアライラ。

 糞がアライラを通過する軌道に乗って、そのままやり過ごせると思われた時・・・糞が爆ぜた。

〈ぎゃあああああ!!! 新品の装甲に鳥の糞があああああああん!!!〉

 ・・・車とかに乗っていると、ガラスなどに鳥の糞がベチャっと来ることがあるよな。

 だが、俺は即座にアライラの鑑定結果を思い出し、叫んだ。

「ダメだアライラ! 飛行形態を解除してバリアを多重展開しろ!」

 アライラの呑気な反応を聞いて判断が鈍ってしまったのが命取りとなる。急いで指示を出したものの、彼女は〈え? なんで?〉という手遅れな反応を返してきたのだ。

 

 次の瞬間、アライラを覆う装甲代わりのバリアに付着した糞が、複数の瞬く光を放ってから一斉に爆発を起こす。

 ただの爆発ではない。

 そのままアライラの全身を包むようにして炎が広がり、バリアを砕きつつその全身を焼き尽くすために広がっていく。


〈ぎゃぎゃぎょぎゃぎぇぎゃぎゃぎぇぎゃぎゃッ!!!〉


 飛行形態を維持できずに解除したアライラは、炎を振り払うように暴れつつ邪眼からビームを乱射していた。完全にパニックを起こしている。

 空を飛んでいた速度そのままに下降していく彼女を追って、大道人を走らせる。

「届くか!?」

 墜落するアライラの上空から、アンカーラが余裕の旋回を見せて降下を始めた。アライラを仕留めに掛かるのだろう。

「そのまま走りなさい!」

 マリーさんの声を受け、俺は姿を探して視線を動かす。と、垂直に空を駆け上っていく女性を見つけた。まるで忍者走りのような駆け上り方だ。

 ・・・空って、垂直に駆け上れるものか?

「アレは私が面倒見ておくわ!」

 言いつつ、アンカーラも驚いたような顔で降下を中断しつつ加速してマリーさんとの衝突を回避する。すれ違った後にはマリーさんの空振りした拳が見えたので、直に殴りつけるつもりだったのだと言葉も出てこない。

 しかし、あんなことができるマリーさんが、拳を空振りするのは不自然だ。

 面倒見ておくと言っていたから、こっちの状態次第では引き続き相手をさせるつもりなのかもしれない。となれば、まずはアライラの救助が最優先か。


 放物線を描いて墜落してくるアライラを、大道人に頑張ってもらってどうにかキャッチすることに成功した。

 石像だというのに、大きく呼吸を繰り返していることからも、俺の感覚野が反映されているんだろう。というか、俺がまさにゼーハーゼーハーと視力を尽くしたマラソン選手のように呼吸を繰り返している。

 息を整えようとしているうちに、アライラを燃やす炎が大道人にまで燃え移り、俺の身体にまで広がってくる。

 ここで気が付いた。

「この炎・・・痛みと熱量は本物みたいに激しいくせに、まるっきり体が焼けていない?」

 物凄い痛みと熱に、今にものた打ち回りたくなる辛さがあるのだが・・・正直、今日までの大怪我三昧で、どこか慣れてしまっている俺には、冷静に現状を分析する余裕があった。

 アライラを見ても、物凄い勢いで炎は身体を燃やしているが、毛の一本も炭化していないのだ。

 しかし、現在進行形で燃えているアライラ自身は、すでに意識が無いに等しい状態になっている。声すらも発することが出来ていない。

「そういう攻撃か」

 思い込み。

 以前、前世の母が言っていた。

 思い込みを利用して、傷一つつけることなく対象を殺す術があるのだという。嘘か本当かは実験してみたいけれど、できないのでモヤモヤすると愚痴っていた。

 しかも情報源が刑事ドラマだというから質が悪い。

 

 今回のアンカーラが行った攻撃は、痛みと熱を実際に体感させることで、自分の身体は燃えている。このまま焼かれて死ぬ。という思い込みに誘導する攻撃だと理解する。

 それで本当に死ぬのかどうかは定かじゃないが、アライラはすでに意識が無い状態になっているから、効果は十分に出ていると言えるだろう。

「そうか・・・燃やしてしまっては食べられないから、こうやって狩りをして餌を持ち帰るんだな」

 敵が鳥であり、航空モンスターということを考慮して、この攻撃のメリットを考える。と、精神的に死んだと思い込ませることで事実上の死を誘発し、綺麗な状態の死体を巣に持ち帰るわけだ。

 鑑定結果からも共生しているようだし、仲間内で餌をシェアするということか。


 ならば、この他人を騙す炎を、俺の火で焼き払ってやるのが一番だろう。

 

「地獄変」

 巻物である陰陽道・地獄変を召喚し、コレを閉じる紐を解いてアライラへと投げる。

「地の深淵に我が力を以て求める」

 巻かれた紙が一気に解放されてアライラを包帯のように巻き包んでいくと、アンカーラの炎が地獄変にまで燃え移っていく。

 その瞬間に、地獄変に記された文字が光り輝いた。

「かの火は偽りを誘う罪なりて」

 錫杖を鳴らし、俺は左手だけで合掌の所作をする。

「盛る炎は命を騙し、揺れる炎は悪意の偽り」

 錫杖が、激しく鳴る。

「燃える騙りを焼き払え! 罪を喰らう猛火をここに!!」

 地獄変が青い火を一気に燃え上がらせて、アライラを燃やすアンカーラの炎を焼き払っていく。それらが完全に青一色に染まりつくすとき、俺は左手をアライラに差し出しつつ握った。

「業火! 滅却!!」

 一瞬の明滅と共に、青い火が消し飛んで一切の傷も無いアライラの姿が戻ってきた。すぐに状態を確認してみるが、どうやら生きているようで・・・一安心だ。


 不意に自身を確認すれば、俺と大道人に燃え移っていた炎も消えている。


「アライラ! 大丈夫か!!」

 彼女を焼いていた火は消えた。

 あとは焼かれていた本人が意識を取り戻すかどうかだが・・・。

「・・・ガチャ10連一回でSSRが当たったぞ」

〈はぁあ!! 私が何十回10連やっても当たんないのに!?〉

 ・・・。

 ・・・。

〈なんだ夢か〉

「その流れはもういいよ」


 ワシャワシャと足が動き出して、意識を取り戻したアライラだが・・・大道人に地面へと降ろされるとその場でヘニャっと蹲ってしまった。

〈ウンチに焼かれた奴がいるってー。何を隠そうこのわたしー〉

「なにも言ってないだろ」

 どうやらだいぶ疲弊しているようだ。

 ただただぐったりと地面に臥せっている。まぁ、糞型焼夷爆弾というのが割と精神的に辛いものがあるしな。

 不意に空を見上げてみる。

 マリーさんがアンカーラを相手していたはずだが、その後どうなったのか?

「空って、歩けるモノなのか?」

 アンカーラの足を掴んで、地面を引きずるような様子で上空から歩いて降りてくるマリーさん。

 ここだけくり抜くと、騙し絵というか・・・空に歩いている人を張り付けたコラ画像にしか見えない。それだけ目と情報処理をしている自分の頭がおかしくなったと思える光景だった。

〈・・・あの人、神様のアバターとかいうけど、人間じゃないよねー〉

「確かにな」

 常識外れな場所で常識はずれな超常現象に遭遇する。

 むしろ、常識という縛りを殴って叩きのめすだけの意識が無ければ、この先へ冒険することは難しいのかもしれない。

 ・・・できるかな? 俺に。

「ほら、とりあえず今日のアライラの夕飯ね」

 そう言って、マリーさんはアンカーラを地面に叩きつけた。

 すでに絶命しているようだ。

「じゃあ、まずは血抜きして・・・それから羽を毟って・・・」

 実際、俺は鳥の解体もやったことが無いので、魚を捌いた時の手順を鳥に当て嵌めていく。基本的な解体作業というのは、どれも同じ・・・だと思いたい。

 こういう時、すでに肉として提供されているお店があればなって思う。

〈ルッタ! 鳥ならアレが食べたい!〉

「・・・アレ?」

 なんか嫌な予感がする。


〈唐揚げ!!〉


 


 

〈ルッタのバーカ! バカバカバーカ!!〉

「うんうん。バカな俺には唐揚げの作り方分からないから、丸焼きな」


〈ルッタは天才! かわいい! キャーッ! カッコいい!!〉

「うんうん。天才で可愛くてカッコいい俺は、アライラ用の唐揚げを作るために必要な鍋と油と唐揚げ粉が無いことを分かっているから、丸焼きな」


〈お願い! るたえもーん! 私は唐揚げが食べたいのーッ!!〉

「んもぉ! しょうがないなーッアライラは! ハイッ!! 鳥のまるやき~」


〈いやーっ!! 私の唐揚げがぁあああああああああああん!!!!!〉


 ・・・え、なにこのやり取り?

〈ルッタ? なんか血が噴水のようにド派手に噴き出てるけど大丈夫?〉

 アンカーラの丸焼きを渋々と食べているアライラが、俺にそう問いかけてきた。

 なんのことかと自分の手を見てみれば、血に塗れている。そして、雨でも降って来たのかと上を見上げてみるが、晴天一色。

「俺、血を噴いてんの?」

〈うん。どこのテーマパーク?ってぐらい派手に〉

 自分でもよく分からんが、どうやら俺は血を噴き出しているらしい。

「ふむ・・・がんばり過ぎたのかな?」

 思えば、今日は地獄変をだいぶ使いまくった。

 アライラの飛行形態で魔力をドカ食いされたりもした・・・ような気がするし、業火という新たな技を習得?した?のかな?

 あ、ダメだ。

 なんか思考がおかしくなり始めてきた。

 というか、視界も歪んできた。

「ちょっと休む。大道人、後を頼むよ」

 なんか、血相を変えたマリーさんが駆け込んでくるけれど・・・アライラはまたなんかやったのかな?

 その場に座り込んで、目を閉じる。このまま寝ることにした。だいぶ疲れたのだ。

 アライラの飛行形態。航空モンスター。まだまだ考えなければいけないことは多く、これからも常識破りに挑まねばならないと思えば、疲労も重なるというものだ。

 


 まぁ、後はマリーさんにお願いして、俺は寝ることにする。

 明日は・・・アライラに乗せてもらって、空を飛んでみたいな・・・ふふ。


 うん、楽しみだ・・・。








「ふぅ・・・間に合った・・・はぁ」

 マリーは、汗だくになった顔を腕の袖で拭いながら、ルッタの蘇生措置を終えた。


次回は・・・番外編?を予定しています。

外で活動しているネフェルマリーのアバターを主人公にした「その頃、外ではこういうことが」というお話を予定しています。

なるべく早くに更新できるよう・・・がんばります。

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