15 二人の力試し
こんにちは。こんばんは。
『15 二人の力試し①』は削除いたしました。
改めて書き直した物となりますので、どうかよろしくおねがいします。
カシャッ
どこか遠くから、そんな音がすると思っていると・・・今、俺は眠っているのだと自覚した。
カシャッカシャッ
連続で音が鳴っている。どこかで聞き覚えのあるような気もするが、果たしてどこだったか?
カシャッカシャッカシャッ
ええい、うるさいな。
まだ眠いのだから寝かせてほしいのだけど? 誰だ? こんな嫌がらせをしてくる人は・・・。
カシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッカシャッ
「うるさい!!!!」
あまりの騒音に、被っていた布団を払い除けて身を起こす。
すると、俺の視界に一眼レフのプロ仕様カメラを構えたマリーさんが、キリッとした様子でシャッターをまたしても切り出す。
「そうよ! その顔! ステキ! 可愛い! もっと怒り顔で視線をこっちに!」
「他所でやれ!!」
俺が右腕を振ってカメラを払い除けようとしたが、マリーさんはスゥーっという動作で後退して回避する。
「ってことで、はい。おはよう!」
「・・・・・・・・おはようございます」
肩で息をしつつ、呼吸を整えて朝の挨拶をする。
「で? 何をしているんですか?あなたは・・・」
「寝顔撮影」
なにをしているんだこの人は・・・。
「ふう。まさかまたこうして子供の寝顔写真を撮れるとは・・・いいモノよね。子供の寝顔」
この人・・・自分が地球で過ごした時に、自分の子供に同じようなことをしていたのか・・・。そういえば、前世の叔母が似たようなことをやってたな。スマホだったけど。
「さて、起きたなら支度をしなさい」
「・・・支度?」
え、何をいきなり?
「そうよ。今日はヨーロロン狩りに出るわ」
・・・ヨーロロン狩り? ヨーロロンて、あのアライラの朝ごはんにマリーさんが狩っている奴?
「・・・えっと?」
「アライラーのご飯を狩りに行くって言ってんの。OK?」
なんで急にそんなことを?
「あ、はい・・・わかりました」
俺としては、ただ、そう答えるしかなかった。
〇
マリーさんの案内を受け、東門から村の外へと出た俺たちは平原へと来ていた。
南を見れば林が・・・林? アレは森って言わないか? とても背の高い木々が立ち並んでいるのだけれども・・・マリーさんに問い合わせてみたら、あそこは林で、もっと奥に行くと森になるらしい。
ちなみに、大きな木はそういう種類のモンスターだからだそうだ・・・モンスターなのか。
そして北を見てみると、丘などがそこそこ確認できるうえに、遠くには岩肌が見える荒野っぽいのが見える。うっすらと白いのは雪だろうか?
〈なんか・・・変な場所だね〉
「ああ、勝手なイメージだけれど、村の周囲は木々で囲まれた隠れ里・・・的なイメージだったから余計に違和感だらけだよ」
〈うんうん〉
アライラが頷いてくれるのでホッとする。
彼女の背に乗って、のっそのっそと平原を移動しているわけだが、結界の外がこのようになっているのは驚いた。
でもよくよく考えてみると洞窟迷宮を脱出した直後に、この第一階層を見渡したはずだったんだが・・・今の今まで忘れていた。
目が覚めたら日本か?ってぐらい見事な和式住宅で寝ていたからだろうな。
〈お、あそこにヨーロロンが群れてるー。ほら、あそこ!〉
「え? どこ?」
アライラが前足で示してくれる方を見るが、俺には豆粒程度の大きさにしか見えないため、判別するのが難しい。
マリーさんの指示もあり、ヨーロロンの群れがいる方へとさらに移動したことで、俺にも判別できるぐらいにはなった。
〈それにしてもさー・・・平和じゃね?〉
「ああ、静かだよね」
なんか、ヤバいモンスターがいっぱいいるような事を言われていたから、外は弱肉強食の世界なのだと思ってビビっていたけれど、こうして見る限りでは長閑な場所だとしか思えない。
確かに、ヨーロロン以外のモンスターも見ることはできるが、この場所では少し遠いようで細かい判別がつかない。
〈あっちには馬っぽいのがいるねー〉
「馬っぽい?」
〈うん。目がヤギみたいで、下顎にもヤギっぽい髭が生えてるから、ヤギっぽい馬なやつー〉
どういう動物なんだろう?
〈そっちの方にはウサギ・・・ウサギ? いや、ネズミかな・・・んー? 何だアレ?〉
アライラでも見た目で判別できない謎生物までいるのか・・・。
「ほら、気を引き締めなさい。観光に来たわけではないのよ?」
手を叩いて、俺たちの注意を自身に向けてくるマリーさん。
言われた通りに、緩んだ気を引き締め直す。とりあえず、周囲から奇襲を受けないように警戒を再開した。
「この周辺は、村に張られた魔除けの結界で、モンスター・・・危険な奴が住み着いていないのよ。だけど、あのように弱めのモンスターは身の安全を確保するために住み着いているの」
なるほど、村に近寄りたくはないけど安全のためには我慢するわけか。
生存本能が成せる境地なんだろうね。
「ちなみに、この周辺にいるモンスターは、どれもネフェルマリーがこの世界に持ち込んだモンスターよ。嫌がらせ目的の奴らね。処理が難しい連中で食べるのも一苦労だけど、今のおまえたちでは狩るのも一苦労するでしょうね」
それは挑発ですか?
実に安直な挑発ですけれど、それで乗るような俺ではありません。
〈やってやろうじゃん!〉
さっそくアライラがやる気を滾らせてしまった! しかも、勢いのままに突撃しそうだ! 止めないと!
「待て待て!! 相手は群れで行動しているんだぞ!? いきなり突撃したら袋叩きに遭うだけだぞ!」
そうとも、ただでさえどんな攻撃をしてくるのかも確認できていないのに、群れに突撃するなんて自殺行為だ。まぁ、マリーさんが毎朝狩りに行ってくるから、雑魚なんだろうって印象はあるけど。
〈大丈夫! バスタービームで一撃殲滅だ!!〉
・・・確かに、割となんとかなってしまいそうだから恐ろしい技だな。
「でも、あの威力をぶっ放したら、ご飯が全部蒸発してしまうだろ?」
〈・・・むぅん・・・むぅん〉
器用にも前足を組んで唸り出すアライラ。
どうやら『バスターで一掃する』=『消し炭にする』という考えはなかったようだ。
「まぁ、待ちなさい」
俺たちの会話を観察して、何を話しているのかを察したのか? マリーさんは言う。
「今回は、おまえたち個々の実力を見せてもらいたいから、こうして連れてきたのよ」
そう言うと、指を鳴らして中空にウインドウを複数、開く。
それらにはアライラの図と俺?の図が表示されていて、折れ線グラフや円グラフに棒グラフといった図も表示されていて、数値化しているように見える。
「今後、おまえたちをどのように鍛えていくか。ということを決める上でも、現段階の能力を測定しておきたいの。いいね?」
いいね?もなにも、決定事項でしょうに。
〈むぅん・・・師匠枠? むぅん・・・〉
あー、確かにそういう人っているよね。最後は「私の屍を超えていけ!」な展開とかあったりして。
でもまぁ、鍛えてもらえるならありがたいよな。
俺、正直単独でこのダンジョンを攻略しろって言われたら『ムリ』としか答えられないし。ここまで来るのも、アライラが居てこそだったからな。
「そういうわけだから、まずは準備運動をしなさい」
・・・準備運動?
「マリーさん、準備運動というと・・・?」
俺が間抜けた顔をしていたのだろうか? マリーさんがため息交じりに答えてくれる。
「ラジオ体操とかその辺でいいわ」
・・・そうか、ラジオ体操か・・・ラジオ体操・・・ん? なんにも思い出せないな。
「アライラ、ラジオ体操って覚えてるか?」
〈んーにゃー。なーんも! うへへ!〉
そうだよね。こっちに転生して早5年。一度もやっていないのだから覚えているわけもない。そもそも、地球に居た頃だって小学生ぐらいの時に夏休み中ぐらいしかやっていないはずだし・・・。
二人で体操の内容を思い出すために話し合いを始めると、マリーさんが手を鳴らしながら割って入ってくる。
「はいはいはい! 今から私がやって見せるから、しっかりと真似しなさいね!」
〈はーい!〉
「はーい」
ということで、マリーさんの体操を追うように真似して、しっかりと体を温める。
途中で、そういえばそういうのもあったなーってなるけれど、あんまり感慨深いことは無く、ちょっと懐かしいという程度で終わった。
さて、しっかりと体も温まったので・・・。
「じゃ、まずはアライラーからヨーロロンの相手をしてもらうとしましょうか」
そう言うと、マリーさんが指を鳴らした。
それが何を意味するのか分からないが、群れの中からヨーロロンが一匹ほど出てくると、俺たちが陣取っている地点まで接近してくる。
その様子は、何かを追いかけているかのように感じられた。
すると、何かを見失ったような様子で周囲を見回し、俺たちを見てビックリしつつも逃げようと踵を返す。
が、なぜか迷うような様子を見せてこっちに向き直った。
「・・・あの?」
俺が、ヨーロロンの様子に違和感を感じて、マリーさんに確認をしようとするも、アライラが前に出た。
「じゃ、アライラー。やってみなさい」
〈よーし! やってやる! やってやるぞヨーロロン!!〉
「なんて?」
「やってやる。やってやるぞヨーロロン。って言ってます」
〈もうちょっと、感情を込めて通訳してよね〉
やだよ。なんか芝居がかってるんだもん。恥ずかしいじゃないか。
マリーさんが「やれやれ」といった感じで手を振ると、真面目な顔になって俺に言った。
「ルッタ。アライラーへの魔力供給は最小限に抑えなさい」
〈え! なんで!?〉
「なんでですか?」
アライラの言葉を通訳しつつ、俺も同じ疑問を持ったので問うことにする。
「個人の実力を見せてもらうと言ったはずよ。そのためには、ルッタからの魔力供給があるとダメでしょう。アライラー本来の実力を、見せてもらうとしましょうね」
〈ぐぬぬ・・・ええい! ままよ!!〉
キシャーッて擬音がしっくり来るような構えを取る。
前足を振り上げて、自身を大きく見せようとする生物の大多数がやる威嚇の基本的行動だ。俺がされたら動けなくなること間違いないだろうな。
しかし、ヨーロロンは前傾姿勢で身構えて見せた。
「じゃ、戦闘開始ね」
マリーさんが言うと、ヨーロロンとアライラはゆっくりと横移動を始める。
西部劇の決闘みたいに、銃を構えて横に動くシーンを連想してしまうが・・・何が起きるというのか?
〈さぁこい! モフモフしちゃうぞ!!〉
いきなりそんなことを言い出したかと思ったら、リズムに乗るように体を左右に動かし始めて、奇怪な踊りをし始めた。
〈にがーさないぞ♪ ヨーロロン♪〉
なんで急に歌い出したのだろうか? それにどんな意味があるのか?などと考えてしまった上に、アライラの踊りを注視してしまったのがダメだった。
不意に、アライラが上に跳ねた。
これを追って視線を上に移動させつつ顔を上げ始めた時、俺の顔に生暖かくて少しだけ粘性のある液体が激突してきた。
視界が明滅し、身体が宙に浮く感覚と共に背中に圧が掛かると、全身が捻じり切られるような痛みを覚えて、意識が飛ぶ。
が、即座に強烈な異臭を鼻と口で受けてしまったことで、意識が覚醒し、俺は身を起こした。
「ぐ、ぐざい!!!」
涙が溢れるほどの強烈な臭いに、俺は噎せ返る。
「まったく。何をしているの? おまえは・・・」
マリーさんが駆け寄ってくれると、すぐに指を鳴らして何かを施してくれた。
これには覚えがある。魔法術による何かしらの技が発動して、俺に何かしらの効果を与えてくれた感覚だ。つまり、魔法術を発動したのだ。
「まだ臭い?」
「え、いえ・・・取れました」
どうやら、洗浄という魔法術を使ってくれたようだ。
外の世界でも魔法術師なら身の回りを清潔にする場合に使う技だったと思う。世話になっていたアルメルデ前伯爵さまのお屋敷に居た使用人も使っていたような覚えがある。
「ふむ。さすがの耐久力ね。どこにも怪我がないわ」
・・・え? いやそんなことはないでしょう? 全身が捻じれるような痛みがあったんですし。
と思いつつも、地面が抉れているのを見て、俺が転げ回ったことで出来た抉れであると推測し、先ほど全身を襲った捻じれるような痛みは転げ回ったことによる痛みなのだと理解した。
「あの・・・ところで何が起きたのでしょうか?」
そう。
俺の状態が特に問題ないと分かったのであれば、次はなんでこんなことになったのか?だ。
「ヨーロロンの攻撃よ。突進すると見せかけて唾を吐き出す技があってね。アライラーはコレを回避して見せたけど、おまえはあの子を追って視線を外してしまったから反応できずに直撃したのよ」
・・・顔に掛かった液体は、ヨーロロンの唾だったのか!
「ほら、アライラーが苦戦しているから、よく見ておきなさい」
「え!?」
俺がアライラの方を急ぎ確認すると、ヨーロロンと激闘を繰り広げていた。
〈邪眼ビーム!〉
目の一つから発射されるビームがヨーロロンに命中するも、その体毛が爆発的に膨張と増殖を行って毛の量が激増すると、ビームの熱で焼け焦げて炭となる毛が瞬く間に生え変わっていく。
「あの再生速度は・・・」
「アレが、ヨーロロンの特徴よ」
アライラが一気に間合いを詰めてヨーロロンに殴りかかるものの、全身の毛を膨張させて綿毛玉のようになった上に、頭と足を引っ込められたことで防がれてしまう。
〈なんじゃとて!?〉
殴るとバウンドボールのように弾んでダメージを受け流しているようで、まるで効果が見れない。
地面に転がり落ちたのを見て、頭と足をポンッと出すと一気に駆け出した。
一心不乱という様子でアライラの懐へと飛び込むと、再び綿毛玉のような状態になって地面に蹲るように楕円形となる綿毛玉が、爆発したように跳ね上がる。
これによって、アライラの頭が下からの攻撃を受けて持ち上がり、身体をひっくり返されてしまった。
〈わきゃーッ!!!〉
悲鳴を上げながらも、すぐに身を起こそうと身体をバタバタと左右に振ったり、八本足を振り回して遠心力で起き上がろうとするも上手くいっていない。
「無様ね」
えー・・・ヨーロロンがあんなに強いとは思っていなかったんですが。
〈こ、こんにゃろーッ!〉
アライラが起き上がれないのを見たヨーロロンが、ここで決着をつけると言わんばかりに毛を膨張させつつ増殖させて槍のように鋭い角を作り上げた。
そんな事までできるのか・・・。
〈ひゃー! お、おきれないよぉー!!!!〉
「アライラ! 邪眼ジェットだ!」
思わず叫んでしまった。
〈それだ!! 邪眼ジェーット!!!〉
邪眼が一斉に火を噴くと、その体が跳ねるように起き上がって・・・その勢いのまま地面に腹側から叩きつけられた上に、地面を抉りながらどこかへ飛んでいく。
〈ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!!!!!!!!〉
さすがのヨーロロンも足を止めてアライラを見送っていた。
距離的には数十mほど地面を抉りつつ飛んでから止まるアライラは、見て分かるほど足をブルブルと震わせながら立ち上がる。
〈うぐぐぐぐぐぐぐ・・・ムキャーッ!!! どう見たって雑魚モンスターなのに! なのにぃい!!〉
地団太を踏んで泣き出した。
「まぁ、一対一ならギガトレンクと互角に戦えるモンスターなのよね」
・・・え? うそぉ・・・。
〈こんちくしょーっ! 必殺! 八連邪眼!!ってエネルギー不足ぅう!!??〉
どうやらアライラが八連ビームを放とうとしたようだけれど、魔力不足で放てなかったようだ。ビームを一回に、邪眼ジェットで魔力を使っているから、当然と言えるな。
そして、その一瞬が命取りだった。
ヨーロロンが前傾姿勢から唾を吐き飛ばし、アライラの顔に命中する。
その顔が凹ッと・・・前にも見たことあるけど、凹ッと・・・いや待て、俺もアレを食らったんだよな? え、俺の顔大丈夫? もしかして凹ッとなってない?
思わず自分の顔を触って確かめてしまう。ヨーロロン。怖い。
それから、マリーさんを見た。
「・・・ん? なに? どうしたの?」
「俺の顔・・・大丈夫でしょうか?」
「・・・あ、あー。大丈夫よ。凹っとしてないから、安心しなさい」
そ、そうか。よかった・・・。
〈くちゃああああああああああ!! コイツのつばぁあ! くちゃああぅげぁろぉろろろろ!!〉
アライラが目や口からヤバい色の液体を吐き出し始めた。
そうだよな。アレ、すんごい臭いんだよ。胃の中身を吐き出してしまいそうなほどに臭いんだよな。
「ふむ。この辺りで十分ね」
ヨーロロンが悶絶しているアライラを見て、最後の一撃を放つことにしたようだ。
先に作った体毛の角を構え、一気に駆け出して加速する。この一撃で、アライラを仕留めるという事だろう。
そうはさせない。
「地の深淵に・・・」
「あー、任せておきなさい」
そんな声が聞こえたと思ったら、いつの間にかヨーロロンの角を掴んで動きを止めているマリーさんが視界に現れた。
一応、横を確認すると・・・いない。
「ほら、洗顔したからもう大丈夫でしょう?」
ヨーロロンを片手で止めつつ、アライラに向けて指を鳴らす。これで魔法術を起動させ、ヨーロロンの唾を洗い落としたようだ。
〈うっぐ・・・んへー・・・なんか楽になった・・・〉
アライラが立ち上がって前足で顔を撫でている傍らで、マリーさんが片腕でヨーロロンを持ち上げていた。
そこから、地面に一度だけ叩きつけると、即座に眉間へと人差し指を突き立てる。
その動作を、俺は目で追うことが出来なかった。ヨーロロンの眉間にマリーさんの人差し指が刺さっている様に見えるから、そういう攻撃をしたのだと解釈する。
〈い、一撃・・・だと〉
アライラの呟きを聞き、俺はヨーロロンを見た。
白目を剥いたまま微動だにしなくなっている。気絶したか・・・もしくは絶命した。
「・・・なるべく逆らわないようにしよう」
思わず呟いてしまった。
ヨーロロンの眉間から人差し指を話、体毛の角を手放したマリーさんが息を吐いた。
「さて・・・二人の実力は見せてもらったから、休憩にしましょうか」
ん?
俺はマリーさんへと駆け寄って、尋ねる。
「あの、俺がまだ戦っていないのですけど?」
「おまえは、不意の攻撃を避けられなかったでしょう? それで十分よ。むしろ、挑戦するのはやめておきなさい。死ぬわ」
・・・た、確かに回避できなかったけれども。
それでも、やって見なくては分からないじゃないですか!とは言えなかった。
ヨーロロンとアライラの戦闘を見た今、その運動能力は俺では追随もできない。マリーさんの言う通りだろう。挑戦したら死ぬだけだ。
思い返せば、俺が戦ったモンスターって動きの鈍い奴ぐらいだったな・・・。
道標人とは道中、何度か鍛錬をしたけどね。
「さ、ここを一度離れましょう。来た道を少し戻って、朝ごはんにしましょうか」
「はい」
〈はーい!〉
〇
村まで戻ることは無かったものの、俺の労働に変わりなどない。
来た道を少し戻って、適当な場所にレジャーシートを敷く。そうして登山リュックから弁当箱を取り出しつつ食事の準備を始める。
俺はといえば、今しがたマリーさんが仕留めたばかりのヨーロロンを丸焼きにしていた。
とはいえ、ここには村に設置した焼き台があるわけではないので、大道人を召喚してヨーロロンを抱えてもらいつつ、火炎放射器のように錫杖から青い火を放って焼き上げる。
で、アライラに渡した。
「はい、おまえの分」
一つの仕事を終えて、レジャーシートに座ると差し出される小さい弁当箱。
子供用サイズのお弁当箱だ。前世でも似たようなサイズの弁当箱を持って遠足に行った気がする。
竹のコップに水筒からお茶を注いでくれるが、俺は手渡された弁当の蓋を開いて中を確認していた。
〈おー〉
「おにぎりに唐揚げと卵焼き、タコさんウインナーか・・・プチトマトやほうれん草の胡麻和えもある」
顔が思わずにやけてしまうラインナップだ。
〈むぅん・・・いいなー。私も久しぶりにおにぎりとか食べたいなー〉
「え、いやそれは・・・君に合せたサイズとなると、お米がだいぶ必要になると思うけれど」
〈私サイズのおにぎり・・・うへへ。想像するだけでバカじゃね?ってなるね!〉
「あはは! 確かに! よくもそんなサイズを握ったもんだってね!」
アライラは大きい。
そんなアライラを満足させるおにぎりともなれば、当然同サイズのおにぎりを用意しないといけないだろう。大道人を複数呼び出して作るか、大道人をさらに大きくして握るか・・・。
「ほらほら、それよりも朝ごはんを食べましょう。ほら、いただきます!」
「はい! いただきます」
〈いただきまーす!〉
なんだか懐かしい味のするおにぎりを頬張る。
アライラもお腹が空いていたのだろう。凄い勢いでヨーロロンの丸焼きを食べていく。
「では、ご飯を食べながらでいいから聞きなさい」
マリーさんが手の上にウインドウを表示すると、俺たちにも見えるように画面を映してくれる。
「朝食を終えたら、今度はおまえたち二人でヨーロロンと戦ってもらうわ」
二人がかりか。
「先ほどの戦闘で、おまえたち個々の能力はだいたい分かったわ。・・・で、そこから導き出される答えは、戦闘をアライラーが担当し、ルッタが魔力供給と指揮をするのが、やはりベストね」
そうなりますよね。
前からそう言われていたけど、改めて確認したらやっぱりそれが一番だったわけですね。
ちょっと自分が情けないと感じる。
しかし、そうと分かれば『歩く魔力ポンプ』の称号を獲得・・・したくないけど、恥じない活躍をして見せる必要があるな。
〈・・・戦闘を私で、魔力と指揮がルッタ?って、洞窟迷宮の時からそんな感じでやってたよね?〉
そう、もうすでにそうやってここまで来ましたね。
〈ってことは、いつも通りでおっけー?〉
「そう、いつも通りでおっけー」
ムシャムシャボリボリとヨーロロンの丸焼きを一気に平らげるアライラ。
見れば、先の戦闘で負ったはずの怪我が完治している。フラフラとした足取りもガッチリと大地を掴むように立ち上がり、今にも気力十分と言う感じが見られる。
〈よーっしゃ! そうと決まればさっそくリベンジだい! ルッタ! ひあうぃごー!〉
「まだ食べてるよ」
春の風は吹き抜きて・・・。
〈むぅん・・・はやくー〉
アライラに急かされてしまったので、ちょっと食べる速度を上げる。
そんな時、ふとマリーさんを見た。
俺とアライラを眺めながら、優し気な顔で微笑んでいる。のを即座に真顔に戻して誤魔化していた。
〇
休憩を終え、再びヨーロロンの群れが近くに見える場所まで戻ってくる。
アライラは先と同様にやる気十分だ。俺も唾を吐きかけられた恨みを晴らすべく、活を入れる。
「さて、さっきも言った通り、今度は二人がかりで挑みなさい」
〈おーし! ささ、ルッタ! 乗って乗って!〉
急かしつつも姿勢を低くして俺が乗りやすいようにしてくれるアライラ。俺も錫杖を握り直してアライラへと乗る。
「準備はいいかしら?」
〈オッケーッ!〉
「はい、いつでもどうぞ」
俺たちの返答に、マリーさんは頷いてから指を鳴らした。
その動作で、どうしてモンスターが一匹だけ群れから出てくるのか不明だが、チュートリアルっぽいからと細かいことは気にしないこととした。
十分な距離まで迫ってくると、先と同様で逃げようとしつつ諦めたように身構えてくる。どういう行動なのだろうか?
しかし、俺の考えを遮るように、マリーさんの声が響く。
「では、はじめ!」
先制攻撃は、あの唾だ。
すでに見た技であるからこそ、アライラは即座に跳んで回避してくれる。そこに邪眼ビームを一発だけ撃ち放つ。
コレも、先と同様で体毛を膨張と増殖させて頭と足を引っ込め綿毛玉形態となって防ぐ。
これがヨーロロンの基本防御技というわけだ。
〈あの体毛がめんどい!〉
「ならば根こそぎ刈り取るぞ!」
俺は錫杖を鳴らしてアライラへの魔力供給を増やしていく。
〈散髪のハサミとか使うん?〉
「ちがう。もっと手っ取り早く済ませよう」
ハサミでチョキチョキと毛を切っているような時間はないでしょうに。
「ビームをドーナツのように繋げて円盤状にするんだ。コレを平べったくして回転させる。電動ノコギリの丸ノコみたいな感じでビーム刃を作るんだ」
〈電動ノコギリの丸ノコって言われても、私知らないんですけどーっ!〉
「え! DIYとかで家庭にもあったでしょ!?」
〈うち、そんなの無かったと思うわ〉
とか話をしていると、ヨーロロンが突進してきたので、さらに飛び跳ねて間合いを取る。
「あーもー! それならアレだ! 光の巨人が投げるアレ!」
名前が思い出せないな・・・なんて言ったかな・・・。
〈お? オーッ!〉
どうやら、イメージを掴めたようだ。
〈どぅおりゃあ!!〉
ヨーロロンに向き直って着地したアライラは、器用にも前足を水平に寝かせて顔前に前足の先を屈伸させると、右前足を縦に戻してヨーロロンへと振り卸した。
〈邪眼! スラッシュ・ビーム・ドーナッツ!!〉
・・・輪っかならリングの方がいいんじゃないかな?
目の一つからビームが射出されると、ぐるりと輪を描いて連結し、ドーナツ状のビームとなって回転を始める。
遠心力なのか分からないが、回転したドーナツビームは平べったくなって刃物のような鋭さを得た。
「これアレだ。チャクラムって武器だ」
〈そう! それだ!〉
空気を切り裂いてヨーロロンへと飛んでいくチャクラムだが、敵もバカじゃない。直視てくる攻撃を受けることなどせずに、横っ飛びで回避して見せた。
〈が、甘い! 邪眼! しかも脳波コントロールできる!!〉
何それ!? 技名なの!?
俺の疑問を他所に、ビームチャクラムが軌道を変えてヨーロロンへと再度襲い掛かる。これに、ヨーロロンも目を点にしていたが、即座に対応してきた。
避けても追いかけてくるというのなら、迎撃するまでという結論に至ったのだろう。
体毛を膨張させて増殖し、それらで角を次々に作り上げていく。綿毛玉だったヨーロロンの防御形態が、ウニのような姿に変わった。
これと共に自身に回転を加えることで、迫ってくるビームチャクラムを迎え撃った。
回転するビームチャクラムと、回転するウニ形態のヨーロロン。
チャクラムは確かに毛を切り裂いているものの、ヨーロロンの再生される毛の角とウニ形態での高速回転でビームが確実に散らされていく。
〈うぐぅ・・・私のビームどー・・・チャクラムが!〉
そしてビームチャクラムが敗北し、ヨーロロンはシュタッと防御形態を解除して仁王立ちした。
恐るべし、ヨーロロン。
家畜系のモンスターだと思っていたが、異世界のヤギは怪獣よりも凶悪だったようだ。
〈・・・ねぇ、アレ〉
「ああ、そうだな」
俺とアライラは、頷き合った。
見れば、ヨーロロンの眼がグルグルと回っているのだ。足元もブルブルと震えていることから、目を回して今にも倒れそうなのだと見切る。
「今だ!」
〈狙い撃つぜぇえ!!! 邪眼スナイパービィーム!!〉
チカッと何かが瞬いた直後、ヨーロロンの額には穴が空いていた。
スナイパービームという事は、狙撃したということだろう。目にも留まらない弾速のビームで一気に仕留めたという事だろうな。
頭を貫かれたヨーロロンは、そしてゆっくりと地に伏した。
〈わーい! わーい! 倒したぞぉん!〉
「・・・ははは」
素直には喜べないけれど、アライラが大喜びしているので口には出さないようにした。
それにしても、こんな序盤から苦戦を強いられてしまうとは思ってもいなかった。アライラが愚痴っていた通りで、どう見ても雑魚モンスターに分類される見た目しているんだよなぁ。
都を目指すにしても、これ以上のモンスターが道中を闊歩しているわけなのだから・・・いろいろと見直していく必要が出て来たぞ。
地獄変による俺が扱える技。アライラの邪眼運用。俺たちの連携。諸々を見直して、しっかりと鍛錬を重ねる必要が出てきた。
急いで都を目指しても、早死するだけだろう。
「よくやったわね」
マリーさんが出てくると、先ほど仕留めたヨーロロンを持ち上げて何かを確認している。特にヨーロロンの額をじっくりと見ている。
「これはダメね。どう頑張っても肉は臭くなるだけか・・・」
・・・ん? なんだろうか?
「ルッタ。コレもおまえが丸焼きにしてアライラーに食べてもらいなさい。くれぐれも、おまえは食べてはダメだからね? わかった?」
「は、はい。わかりました」
なぜ、食べてはダメなのだろうか?
「さて、このまま次の個体を誘導するわ」
・・・え!?
「まだやるんですか!?」
「当たり前でしょう。お前たちコンビの能力をじっくりとモニタリングさせてもらうわ!」
えぇ・・・一匹狩るだけでも大変なのに、さらにやるのか・・・。
〈げぇ・・・連続でやるん? ちょっと休憩とかないの?〉
「休憩したいと、アライラも言っています!」
「却下。次が来たわ!」
いつの間に!?
それにしても、指を鳴らしただけでどうやって群れから一匹だけを誘導しているのだろうか?
「あの、どうやってヨーロロンを一匹だけこちらに誘導しているんですか?」
「一匹とその他を決めて、幻覚作用の魔法術を使うのよ。群れ全体には何も変わらない風景を見せ、一匹には好物の食べ物などを見せて誘導するわけね」
あぁ・・・そういう手順を踏んでいるのか。
魔法術なら確かに、そういう事もできるか・・・自分が使えないから分からないけど。
「で、こちらまで誘導したら、退路は無いぞ。という幻覚を見せて戦わせるわけよ」
それは・・・ヨーロロンが可哀想な気がする。
〈ふーん。私でも真似できそう〉
「そうね。やり方は後で教えてあげるから、次からはアライラーがやりなさい。私が居なくても修行ができるようになるわ」
それは確かに便利だ。
「さ、それでは二戦目・・はじめ!」
〈いきなり!〉
「やるしかないぞ!」
今日は、散々だった。
個体によって戦い方違うというのもそうだが、三戦、四戦と回を重ねるごとにヨーロロンが強くなっていって、その都度苦戦を強いられてしまった。
ビームチャクラムを邪眼で操ってぶつけるも、体毛の膨張と増殖で巨大な角を作り、コレをドリルのように回転させてぶつけられたことであっけなく叩き落とされたり・・・。
体毛を膨張させると、毛を針のように硬化して射出してきた。地味に痛い上に刺さった箇所から肉を斬るように巻き付いて来たので、青い火で焼き払いつつ地獄能・巻蛇槍貫撃で反撃して仕留めたり。
毛を針のようにして射出するまでは一緒だったが、綿毛玉になって転がりながら突撃した来たと思ったら、不規則にバウンドを繰り返して加速していく個体までいた。
中空でどうやってバウンドしているのか?と最初は目を疑ったが、毛を針のように射出して撒いておいた毛を利用してバウンドしていると気づいたので、アライラのビームを散弾銃のように散らして毛を一掃しつつ、地獄門・縛鎖閻魔錠で拘束してビームで仕留めたり。
「上出来ね。今日は―――」
〈ぐわあああああああ!!! まとめてやっちゃるわぁぁああいいぃ!!!!!!〉
「待て! 待って! マリーさんが! ちょ! アライラぁあああああ!!!!!」
最後にはハイテンションが限界突破して暴走したアライラが、ヨーロロンの群れに突撃して袋叩きにされて大変だった。
一匹でもまだ苦戦するのに、多対一など・・・ムリだった。
俺は、今召喚できる最大数がいくつかも分からないので、ありったけの魔力を込めて地獄道・地蔵菩薩大道人を呼び出し、ヨーロロンの群れに総力戦で戦った。
呼び出せたのは六人だったが・・・。
うち一体が袋叩きにされて意識が飛んでいるアライラを担ぎ上げて、群れから逃げることに成功し、残り五人の大道人が足止めのために大激戦を繰り広げた。
もちろん、彼らが使う技は、全部俺の魔力だ。
俺は、全身から血を噴水のように垂れ流して、村に着いた頃には虫の息だった。
「・・・結局・・・こう、なる・・・の・・・ゲホッ」
次回はマリーとウィッチの世間話を予定しています。
番外編を作り始めたのですが、なかなか書き進めないため、ここで一部分だけ出しておこうかと思います。
読んでいただき、ありがとうございました。




