13ダンジョン【災厄の壺】
こんにちは。こんばんは。
話しの進め方が、なんだか分からなくなってきている今日この頃です。
目が覚める。
視界に飛び込んできた最初の情報は、天井。
木目が美しい天井は、一本の大木を縦に切って、カンナ掛けしたのだろう綺麗な年輪を楽しめる材木を贅沢に使用しているようだった。
知らない天井だ。って言おうか悩んでしまった。
でも、なんかどこかで見たことある天井でもあったから、なんか言葉が出てこなかった。
「・・・いつ、日本に帰って来たんだ?」
そんな事を呟いてしまうぐらいには、あまりにも日本的・・・和式住宅の一室だった。
畳に使われている井草の香りと、まさに絵画を張り付けたと見紛うほどきれいな襖。これを見て日本だと思わないのは、地球人ではないだろうな。
日の光が差し込む方へ視線を向ければ、美しい日本庭園が「おはよう」とでも言うかのように、春風の心地よい風を運んでくれる。
心が洗われるよう―――
〈るったー、れったー、ろったー、らったー、りったー・・・〉
アライラの声が聞こえる。
なぜだろう。なんだかすごくホッとしてしまった。
「はー・・・とりあえず、合流するか」
〇
木造建築である家屋を出てみれば、ここはまるで白川郷のような村だった。
しかし、空を見上げてみれば、結界と思われる膜のようなモノが村全体を覆うようにして展開されている。見た限り、二重結界のようだ。
〈あー、いー、うー、えー、おー〉
「君は、何をしているんだ?」
この村には、広場がある。
運動公園とも言えるくらいに広く、しかし、人の姿は見えない。
〈おー。ルッタじゃん? どうかしたん?〉
「それは俺のセリフだね。朝起きたら君が俺の名前に続けて妙なことを言っているから、気になって様子を見に来たんだ」
〈あー、それな。これだよ〉
そういって、アライラは足元を前足で指し示すように動かす。
「・・・文字?」
〈そうそう。あのおばさんが、言葉が喋れないなら文字を書けばいいじゃない。っていうから、文字の練習。しばらく使わないと、ひらがなも忘れるんだということを知りました!〉
まぁ、あるよね。
それにしても・・・書いては消して、書いてを繰り返しているようだ。
ごはん。という字が大変力強く、土がむき出しの地面に彫り込まれている。お腹が空いているわけか。
「それで? そのおばさんはどちらに?」
「お姉さんと呼びなさい」
・・・心臓が口から飛び出ていくかと思った。
「というか、アライラー。おまえ、私をおばさんと呼んでいるのかしら?」
〈うぇぇ・・・これはあれだ・・・ほら、あれあれ・・・えーっと、言葉の綾ってやつだ!〉
・・・。
「なんて言っているのかしら?」
「え? あ、えーっと・・・言葉の綾です。と」
「そう。ほら、おまえの朝ごはんよ」
とか言いつつ、思いっきりアライラに叩きつけていた。
〈ふぎゃー! ビッグサイズなモフモフに困惑と癒しを頂戴しましたぁん!〉
アライラがそんな感じで、朝ごはんだと叩きつけられた動物の死骸にどこか癒しを受けつつ抱きしめ始める。動物に張り付いた虫の構図だが・・・アライラが巨体過ぎてモンスターパニックが起こりそうな光景だ。
「体は、ちゃんと動くようね」
そんな声を掛けられて、俺は背筋を伸ばすように姿勢を正して、向き直った。
「治療してくださって、ありがとうございます」
礼儀正しく、しっかりとお辞儀をしてお礼を述べる。
それから顔を上げて、相手を見た。
甘栗色の長い髪を春風に靡かせている美女がいる。春物の少し薄地なトレーナーと体に張り付くようなデニムパンツを着こなし、モデル業でもしているような抜群のスタイルをしている。
この人は、誰だろうか?
「えっと、初めまして。ルッタ・レノーダと申します」
名乗るのは常識だろう。
助けてもらったのだし、今後も良好な交流ができるようにするには、最初が肝心だ。
「私は、昨日名乗った通りだけど・・・まぁ、もう一度自己紹介はしておきましょう。私の名はマリー。悪の女神ネフェルマリーの元アバター。そして【災厄の壺】でウィッチに雇われているただ一人の管理人よ」
え? この人、俺が出血過多で倒れた時に助けてくれた人と同一人物なのか!? 登山用ウェアを着用していたからか、印象がまるで違う。
「あ、俺はその・・・第一国家ハースニングは北地方にある鉱山の町ネルゾイの出身でして」
「第一国家ハースニング?」
「え? あ、はい。そうです」
「ふーん」
なんだろう。あぁ、そういうことね。っていう感じで嬉しそうな笑みを浮かべだした。
「話は、少しだけ聞いているわ。ダーゼルガーンから加護を授かった子供でしょう? しばらくは私が面倒を見ることになったから、これからよろしく頼むわ」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
「ええ、それよりも、おまえはまずアライラーの食事を用意しなさい」
「え?」
さっき、この人が叩きつけた動物が、彼女のご飯なのではなかろうか?
〈ルッター。焼いてー〉
あ、そうか。いっぱい焼いてあげるからと、約束していた。
「昨日は、食事を用意してあげなかったから、お腹を空かせているみたいなのよ。この村で出せる食事では、腹を満たせるほどの量は出せないからね。材料は、さっき狩って来たから使いなさい」
「ど、どうも。すぐに焼きたいと思います」
俺は、小走りでアライラの傍へ移動する。
〈お肉ー。焼いて―〉
「わかったよ。それよりも、まずは鑑定をしてくれ。こんな動物は見たことないし」
〈ほいほい、鑑定〉
『ヨーロロン。異世界バキマオーに生息しているヤギの仲間。ユニークミートの一種で二重の味を楽しめる人気食材。下処理と焼き加減で牛と羊どちらかの味を楽しめる。達人レベルになると、牛と羊の味を交互に楽しめる特殊な調理法で仕上げられ、店は連日満員御礼だったが、シェフは過労死した。それでも食べたいと、自分で調理法を会得する者が多い。それほど人気のヨーロロン』
ヤギなのか・・・頭が牛で、モコモコの毛は羊のようなのに・・・ヤギなのか・・・。
〈むぅん! 牛と羊の味を楽しめる!! ルッタ! 焼いて焼いて!〉
そりゃあ、すぐにでも焼いてあげたいけど。まずはやらないといけないことがある。しかし、そのためには俺よりも背丈の大きい助っ人が必要だ。
ヨーロロンのサイズは、アライラと同等。俺が並ぶと、サイズ比較で使われる一円玉のような気分になる。
「まず、下処理をしないとダメだろ。ほら、血抜きとか体毛を毟るとか」
〈おー! 確かに〉
「で、アライラは血抜きとかできる?」
〈え、私?〉
「そう、こいつのサイズが大きすぎて、ちょっと俺じゃ無理なんだけど」
〈むむむ・・・ふ、私の邪眼の出番が来たようだな!〉
「よろしく」
〈任されよ! 邪眼! 血抜き術!〉
ズバッと、ヨーロロンの後ろ脚首が切られ、首元にも切れ目が入ると血が噴き出てくる。
「お見事」
〈ふ、またつまらぬものを切ってしまった〉
・・・せめて斬鉄剣を手にもってから言って欲しいものだ。
「よし、次は逆さづりにして欲しい」
〈逆さづり?〉
「そう、血を抜くのであれば、頭を下にして吊り上げておくのが望ましい。あ、でも結構時間かかるな。ご飯、しばらく我慢できるか?」
〈できるわけがない!〉
「そっか、なら邪眼でまず逆さ吊りにしつつ浮遊させてほしい。それから、邪眼でヨーロロンに残っている血を外に押し出してくれ」
〈任された!〉
アライラが邪眼で作業をしてくれている間に、俺は調理助っ人となる地蔵さんを呼び出す準備に入ることとする。
「地獄変」
手に、巻物が召喚されるので、続けて錫杖に・・・。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
突如、俺の右手首を掴んできたマリーさん。
そういえば、この人はさっきまで何をしていたのだろうか? 見ると、中空に未来的なウインドウが開いてパソコンの画面にも似た映像を表示している。
なにか、測定でもしているかのような図形や字の羅列がチラッと見えた。
「おまえ、さっき地獄変とか言ったわね!」
「はい、言いました」
「そしてこの巻物・・・ダーゼルガーンめ、まさか陰陽道・六神変を持ち出したというの!?」
・・・また知らない情報が。
「しかもよりによって地獄変ですって!?」
大きさ的には27インチのモニターくらいあるウインドウに視線を戻し、憎々し気に手元に現れた未来的な電子キーボードを叩き始める。
「それでこの負荷か! なんで地獄変の使用者が極稀なのか、知らないわけないだろうに!」
・・・もしかして、俺が受け取った地獄変て・・・かなりヤバいアイテムだったりするのかな?
なんか使うのが怖くなってきたが、とりあえず錫杖を。
「地獄道・地蔵菩薩錫杖術」
巻物が一瞬で石の錫杖へと姿を変える。これで、俺の準備は整った。
「おまえ!! ちょっと!! 身体は大丈夫なの!?」
飛び掛かってきたマリーさんに、今度は服を引っぺがされる。
「な、何をするんですか! やめてください! 事案ですよ! 犯罪ですってば!」
「やかましい! あんな高負荷が掛かって、身体に異変が起きていないわけがない!」
な、なんの話なんだ!?
そうして、着ていた服を剥かれて、下着・・・パンツ一枚にされてしまう。
「おかしい・・・どこにも異常がない」
「はい。俺はいたって正常です」
「それは無いわ。お前が地蔵菩薩なんとかと言った直後に、人間なら身体が破裂しているだろう負荷が内臓にかかっているんだからね」
・・・は?
「しかし、こうして診察してみても、変化が無い。これが正常というならば、世界の常識はお亡くなりになったわ」
そこまで?
「ううむ。まだ何かあるわね。もう一度、調べ直してみるか。エラーデータも外部デバイスが起動したのに合わせて読めるようになったし」
〈ルッタ・・・あのおばんは何しているの?〉
「さぁ?」
ブツブツと独り言をつぶやき始めて、中空に浮かぶモニターを睨みつけながらキーボードを叩いている。なかなかどうして、危険な人のようです。
「とりあえず、続けるか」
服を剥かれたままだが、着るとまた強引に剥かれそうなので、このまま作業を続けることにした。春の気候は、まだ寒いな。
錫杖を鳴らし始めると、マリーさんが目を血走らせながら俺の傍に寄ってくる。
変質者のそれと何も変わらない。
「そのまま鳴らしていなさい」
「は、はい」
全身をくまなく睨まれて、俺は萎縮しながらも錫杖を鳴らし続ける。
しかし・・・この感じは、やはり前世の母に近いモノを感じるな。それでいて、服を強引に剥いてくるような行動力は叔母に似ている。
そうか、前世の母と叔母を足して2で割り忘れたような人なんだ。
・・・面倒くさいことこの上ないじゃん。
〈いつまで鳴らしてるん?〉
「うーん・・・マリーさんがイイというまでかな?」
すでに大道人を召喚するのに必要な魔力は錫杖に込め終わっている。今は、無駄に魔力を込め続けている状態だ。
〈別に、待つ必要なくない?〉
「いや、ああいう人を相手する場合、下手に勝手をしない方がいい。不機嫌になると手に負えないことがあるからな」
〈なんか詳しい?〉
「前世の母があんな感じだった」
〈ふーん〉
アライラがなにかイラつき始めている。
それも当然か、お腹が空いているのに、お預け状態になっているのだから、今にもマリーさんに攻撃を仕掛けそうな雰囲気がある。
「マリーさん、そろそろいいですか?」
「え? あー、そうね。次へ移行して構わないわ」
よかった。アライラが暴れ出す前に次に進める。
「地の深淵に、我が力を以て求める」
錫杖を鳴らし、地に突き立てる。
「地獄道・地蔵菩薩大道人」
マリーさんが、俺を睨んでいる。
物凄い目力が、俺の全身を圧し潰すように向けられている。
「ふむ・・・これも問題なく発動できる・・・頑丈というレベルを超えているわね」
なんの話なのだろうか?
まぁ、なんにせよ。これで調理が始められる。
血抜きはできているので、次は内臓を取り出すのがいいだろう。魚の捌き方だと、そんな感じだしな。牛とか豚とかを解体する経験などしたこともないから、よくわからないけどそれは仕方ない。
洞窟では松明代わりだった青い火を刃の形にして錫杖を長刀のようにする。
これでヨーロロンの腹を裂いて、内臓を取り出していく。結構なグロいシーンではあるが、そんなことを気にしていては調理などできない。
「アライラ、内臓を処理できるか?」
〈ほいほい、邪眼! 汚物は消毒だビーム!〉
今回、内臓を料理とかして出す気が無いので、処分することにした。
それにしても便利な目だ。あんなテキトーな技名で、内臓を炭にできるんだからさ。俺も欲しい。
さて、内臓を取り出し終えた腹の中を洗浄する。
これはアライラに頼まず、俺が行う。青い火を通して、腹の中を焼いていく。汚物は消毒だファイアとでも言うか・・・いや、恥ずかしいので却下する。
ここまでやったら、ヨーロロンの口から錫杖を刺しこんで、肛門まで貫通させる。
大道人がその作業をしている間に、新たに錫杖を召喚した。大道人と同じぐらいのサイズで召喚し、錫杖の先を少し砕いてY字型になるよう調整する。
コレらを地に突き立てて、物干し台のようにした。
「よし、ヨーロロンの準備ができたなら、ここに置いてくれ」
物干し台のように突き立てた二本の錫杖に、ヨーロロンを貫通する錫杖が置かれる。これで、焼き台は整ったな。
次は、火だ。
錫杖を複数召喚して、コンロのように等間隔で並べていく。
ヨーロロンを見上げながら、火が万遍無く通るように配置を調整して、安全な位置まで退避してから着火した。
「では、大道人はゆっくりと肉を回してくれ」
こうして、肉焼きが始まる。大道人がゆっくりと錫杖を回し始めることで、火は均一に肉の奥まで通ってくれるだろう。
ぐーるぐーると回る肉を見つめながら、アライラは言った。
〈・・・上手に焼けました!〉
「まだ」
〈・・・・・・ウルトラ上手に!や「まだだ」
体が上下に動いているアライラ。もう、我慢も限界とでも言うのか・・・その口から粘性の強い唾液が垂れだしているのが見えたので、少し離れた。
それが、地面に落ちるとジュワッと煙を吹いたので、だいぶ離れた。
ジリジリと過ぎていく時間。
そうしていると、ヨーロロンに刺した錫杖が鳴り始める。
「そろそろか」
大道人に肉を回転させるのを止めてもらい、俺は焼けた肉に錫杖を刺した。奥まで到達したところで錫杖を引き抜き、肉の焼け具合を確認する。
「よし、これなら大丈夫かな。アライラ、おまたせ」
言うや否や、アライラは大道人に飛び掛かっていた。
その様子が、怪獣映画のようなワンシーンを彷彿とさせ、恐怖心が煽られる。一方で、大道人は微動だにせずにアライラに飛び掛かられるのを受け入れた。
「あ、アライラ・・・それだと渡し辛いと思うし、いったん降りて」
俺が言うと、アライラは言う通りに大道人から降りた。
そして、大道人は絶妙に嫌そうな顔をしている。なんとなくだが、顔が青ざめているようにも見えるのは、目の錯覚だと思いたい。
大道人が丁寧にヨーロロンの丸焼きを差し出すと、アライラは前足二本を使って丸焼きを抱え込むようにして受け取った。
〈いただきまーす!〉
そうして、ガツガツと食べ始める。
〈うん! うん! おいひぃ! おいひぃい!〉
結構なお腹の空き方だったのだろう。それはもう勢いよく食らいついている。見ている俺が苦笑いしてしまうほどだ。
「味の方はどうなのかしら?」
俺の横に、マリーさんが移動してきた。
「彼女曰く、おいしい。らしいのですけど・・・肉を焼いただけなので、言うほどじゃないはずなんです」
「そう・・・」
風が通り抜ける間が空く。
「あの・・・」
「みなまで言うな。聞きたいことがあるのでしょう?」
「はい」
「聞きましょう。ついてきなさい」
大道人いアライラを見ててもらい、俺はマリーさんの後に続いた。
〇
連れてこられたのは、俺が目を覚ましたお屋敷だった。この村で一番大きな屋敷で、村長のお屋敷なのだと教えてもらう。
その居間にある囲炉裏を挟んで、対面で座る。
「さて、聞きたいことは何かしら?」
「いろいろとありますが、まずはこのダンジョンに関する情報を教えてください」
次から次へと、新しい情報が出てくるので、まずはダンジョンに関する情報を得たいと思った。そうしておけば、今後のダンジョン攻略に役立つと思ったからだ。
神とか地獄変とか、そういうのは後回しでいい。
「ふむ・・・この【災厄の壺】について聞きたいと」
「はい! できれば、脱出方法とか攻略方法とか、そういうのを教えていただきたい!」
「・・・脱出方法? まぁ、二つくらいしかないわ」
「二つもあるんですか!?」
「ええ、最下層である第五階層に降りて、転送機で外に出る方法と、この【災厄の壺】のオーナーであるウィッチに連れ出してもらう。の二つね」
・・・やっぱり、一番下まで下りないといけないのか。それと、オーナーのウィッチとはどういう人物なのか・・・今は聞かないことにする。
「では、第五階層までをショートカットできますか?」
「一度、自力で降りていればできるけど・・・今のおまえではムリね」
やっぱりか。一度は自力で降りていることが条件になるのは、分かり切っていたことだ。
「まずは基本情報から教えましょう。この【災厄の壺】というダンジョンは、第一から第五までの階層が存在しているわ。その上、各階層の繋ぎには洞窟迷宮が存在しており、そう簡単には階層に降りることはできないようになっているの」
まぁ、それも予想はしていた。ミルフィーユのように重なっているんだろうなって思っていたとも。
「で、このダンジョンにはお前が生活していた外の世界とは全く異なる世界。つまりは異世界のモンスターが大量に存在しているのよ。食料になる奴からならない奴まで幅広くね」
それも、ある程度は予測できていた。
アライラの鑑定によって出る結果には、必ずと言っていいほど『異世界●●●』という具合に表示されていた。この世界に関係しているのであらば『当世界』などと説明されるはずだ。
「なぜ、異世界モンスターが・・・って思うでしょうが、それも後で教えてあげるわ」
「はい、お願いします」
「で、ダンジョンにはこの村と同様にいくつかの集落、村、町が存在し、各階層に都が一つだけ存在しているの」
都か。
「一つの区画が有している土地面積は、地球の日本にある北海道と同じぐらいね。もともと、ひし形の陸地を四つ作り、それらを東西南北に並べて中央区画で連結させた一個の大陸だったのよ」
・・・ひ、一つの区画が・・・北海道と同じ土地面積!?
「四つの区画でそれぞれに春夏秋冬の環境を作り、自然現象や動植物が正常に機能するかを確認するための陸地でもあったわ。なにせ、地球の丸写しに魔法術とかいう創造神独自の追加要素があったから、動作確認をしたかったのでしょうね」
「しかし、北海道と同程度の陸地を連結させたとしても、大陸というほどの規模にはならないのでは?」
「当時は、この世界に他の陸地は存在していなかったからよ。それに、島国っていうよりは大陸って言った方が語呂もいいでしょう?って、あいつ等が言っていたわ」
アイツら・・・って創造神の二人ってことか。
「で、現在は第一階層と呼ばれているけど、当時は春の区画と呼ばれていたのだけど、各階層は春夏秋冬の順に並んでいるの。第二階層は夏、第三階層は秋、第四階層は冬。という具合にね」
「では、この区画から下層へ降りるためには、どうしたらいいのでしょうか?」
「都を目指しなさい。各区画にある都よ。ここでは『春の都』と呼ばれる都市が区画中央に存在しているわ。かつては、区画管理センターとして機能していたお城もあるのよ」
なんか、異世界のダンジョンというよりはアトラクションのような印象が強い場所だな。
「その都の地下に、第二階層へと続く洞窟迷宮への入り口が存在している。けれど、今は閉じているわ。オーナーか管理人である私でなければ、開かないようになっているからね」
「では、管理人専用通路などはないのでしょうか? 夏の区画へと直接移動できる通路のようなものなどは・・・」
「ないわ。見回り用に短縮経路はあるけど、洞窟迷宮を素通りできるような階層を直接つないだ道など整備されていない。自力で突破しなさい。ここに来れたのだから、できるはずよ」
「ま、まぁ・・・がんばります」
そんなに甘くは無いか・・・仮にあったとしても、教えてくれるとは思えないしな。
俺が気落ちしていると、マリーさんが難しい顔になって俺に問いかけてきた。
「ところで、お前は今、何歳なのかしら?」
「え? はい、5歳です」
そう、忘れがちだが、俺はまだ転生してから5歳を迎えたばかりなのだ。なのに、ここまで死んでもおかしくない怪我を何度かしているのは、どうなんだろうか?
「変ね・・・すると、おまえがここに落ちたのは3歳か4歳ぐらい?」
「いえ、おおよそになりますけれど、2週間ほどまえです」
「・・・は?」
「え?」
「いや、待ちなさい。第一階層までの洞窟迷宮を2週間でクリアする? あり得ないわ。あの迷宮とて北海道と同じだけ広いのよ? 整備された道もなければモンスターだって出る迷宮を、2週間で攻略などできるはずないわ。道路が整備されている北海道じゃないのよ?」
・・・まぁ、その・・・そうなりますよね。
「えーっと、ですね。説明します」
俺は地蔵菩薩道標人という道案内に優れた地蔵を呼び出し、アライラと一緒に洞窟迷宮を攻略するため頑張ったことを説明する。
マリーさんが驚いたのは、俺たちがショートカットで使った隠し通路の話だ。
本来であれば、管理人権限が無いと絶対に開かない見回り用の短縮通路であるらしい。これを地獄変の技でこじ開けたと言って、驚かれた。
「しかし、よくもそんなショートカットして、ギガトレンクを倒せたものね」
「まぁ、俺の魔力とアライラの邪眼があったからこそです」
「なるほど、ギガトレンク最終決戦合体モードに移行する前にケリをつけたわけか。なかなかやるじゃないの」
・・・最終決戦合体モード? え、なにそれ・・・そんな形態があったというのか? あのムカデに? 想像もつかないんだけど・・・。
俺が、おそらくは見当違いの合体モードを想像して、頬を引きつらせていると、マリーさんはなにか勘違いをしたのか、少し恥ずかしそうにしながら咳払いをする。
「さて、話が逸れたけれど、最後に重要な情報を教えてあげましょう」
「重要な情報!?」
これはしっかりと聞かなくては。
「都を目指せとは言ったけど、実は、都には他のモンスターが接近できないように守護モンスターを配置してあるのよ」
「守護モンスター?」
なんか、そういうのを聞くとお決まりの四神とかを連想してしまうが。
「あら? ここに落ちてきたというのなら、壺の口で遭遇したのではない? 地球の日本なら缶ビールでお馴染みの『麒麟』だけど、それによく似たモンスターがいたでしょう?」
アレか!? アイツが守護モンスターなのか!!
「一応、あいつもこの世界では『麒麟』と呼ばれているのよ。それと同じく、この区画で都を守護しているモンスターには『青龍』という名がついているわ」
四神だった・・・。
「ハッキリと言っておくけど、アレらはモンスターとは段違いに強いから、倒すとかまず無理よ。私だって遭遇したなら全力で逃げるからね」
「では、どうやって都に入れば?」
「倒さずに、都へ入ればいいのよ。守護モンスターは、侵入を防ぐために居るけれど、一度中へと入ってしまえば敵と認識しなくなるわ。そういう風に調整していたからね」
つまり、ウィッチが用意したということか。
「まぁ、管理人の私でも権限を使えば命令を聞かせることはできる。ただ、嫌そうな顔されるから使わないけれどね」
その一瞬だけ、疲労困憊のような顔をした。
守護モンスターがそれだけストレスになるのだろうか・・・今から不安になったんですが。
「さて、必要な情報はあらかた教えてあげられたかな?」
うーん。もっと詳しい話を聞きたいところだけど・・・当面の目標は『春の都』を目指すことになるだろう。
事前情報として、都を守護するモンスターがいること。麒麟似の怪物と同類の『青龍』という怪物がいるという事が知れた。
あとは、青龍がどのような攻撃をしてくるのか?を知ることができるといいのだが、教えてもらえるのだろうか?
「それでは、青龍はどのような攻撃をしてくるのでしょうか?」
「・・・そうね。あいつは仕事に手を抜く奴だから・・・本気の攻撃は見たことないのよね」
手抜きするんだ。守護モンスターと言っても、性格があるわけか。
「私が襲われたときは、風の属性を乗せた発光する珠を複数飛ばして、包囲してからの照射攻撃をされたわね」
〈むぅん・・・それはファンネルだね〉
声のした方を見れば、丸焼きの残りを口に放り込んでボリボリと噛み砕きながらこちらを覗き見ているアライラがいた。
「・・・アレは、威嚇でもしているのかしら?」
「いえ、マリーさんが言った攻撃方法は、ファンネルだと・・・言っています」
「ほぉ・・・」
何か、感心したような顔でアライラを見ると、マリーさんは不敵な笑みを浮かべて・・・言った。
「ここで終わるか、続けるか!?」
〈ッ!!? まだだ! まだ終わらんよ!〉
・・・?
「アライラーは、なんて?」
「え? あ、はい・・・まだだ、まだおわらんよ・・・と」
「なるほど・・・いわゆるオタクという奴ね。懐かしい響きだわ」
「懐かしい・・・のですか?」
「そうよ。私・・・というか、本体である悪の女神ネフェルマリーは、地球の日本でバカンスにアバターで生活していたことがあるのよ」
「え・・・」
「大戦後の日本で生まれたわ。ちょうど終戦日の翌日だったかしらね。それから日本人女性として目まぐるしい時代の荒波を生き抜き、孫がひ孫を連れてきて、その子供に名づけをしてやったくらいまでは、よく思い出せるわ」
なんか語り出した・・・。
「昭和から平成にかけての娯楽なんて、それこそ少なかったからね。テレビはよく見たものよ。ドラマもアニメもね」
〈ほぉ・・・興味深い〉
アライラまで、なんか目を光らせている。
話が通じそうな人に出会えて、興奮気味なんだろうか?
「それより、ルッタ。おまえはどうなの?」
「え、いえ、俺はあまり・・・ネット小説なら家事や勉強の合間に読む事ぐらいできるので、ある程度は知っているのですが、TVアニメなどになると・・・金曜のロードショーとか、ニュースで今注目の~とか紹介でもされていないと、見ないです」
「・・・ふむ。それが一般的でしょうね」
〈これだから最近の若い奴はダメなんだ〉
アライラ? 君だって最近の若い奴だろう?
「ちょうどいいわ。私の地球で過ごした武勇伝を聞かせてあげましょう!」
「・・・え」
〈あ、私ちょっと用があるから、これにてご免!〉
「おいまて! 逃げるな! アライラ!」
「まぁまぁ、アライラとは会話が成立しないし、私の話を聞きなさい」
「・・・はい」
その後、マリーさんは語った。
青春時代にスカートめくりをしてきたクラスメイトを校舎二階から投げ落とした話や、番長だか何だか知らないけど、不良どものまとめ役と殴りあって病院送りにした話。
社会人、結婚、主婦業・・・昭和時代のありようを聞かされ、平成になってからの変わりようなども聞き、目まぐるしい人生だと思った。
特に、旦那さんに一目ぼれして猛アタックの末に結婚したという話を聞いてて顔が青ざめた。
話し方が大恋愛の末ということだったが、俺が聞いた限りで余分な情報を剥いでいくとこうなる。
『ストーキングされまくって、ノイローゼになった男性が断崖絶壁から飛び降りようとしたけど、すでに断崖絶壁の底に先回りして待ち構えているの見て、諦めた』という状況だ。想像したら泣けてきた。
「あら、もうこんな時間ね。おやすみなさい」
俺は、気絶するように寝むっていた。
次は、神様たちの事情・・・的な話をしたいです。
読んでくださり、ありがとうございました。




