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11そして、第一階層へ

こんにちは。こんばんは。

書いていたら、長くなってしまいました。

切るところも思いつかなかったので、そのまま載せることにしました。

 洞窟迷宮を進んで、もう何日目となるだろうか?

 祖父母からのメッセージが届いたのは、俺が地下深くに落ちてから二週間後であることは分かった。

 それからの日数については、俺にも分からない。

〈るったー。また鳴ってるー〉

「分かってる・・・俺の返信が向こうへ届くのが七日後だとすれば、この受信音が止むのもあと数日のはずだ・・・そうあって欲しいな」

〈むぅん・・・〉

 あれから、魔法術具は結構な頻度でメッセージを受信した。

 一応、全部聞いてみたのだが・・・祖母らによる勇者伝説の朗読だったり、酔っぱらっている祖父らによる何を言っているのかも分からない話ばかりだった。

 脱出する手段を探している様子は、メッセージからは受け取れないのだが・・・どうせ部下にやらせているんだろう。

 本人たちは、孫が心細い思いをしているだろうからという事で、声を届けてくれているらしい。

 ・・・迷惑この上ないな。

 これらの受信音で、何度虫の群れに襲われたことか。

 これまでに見た群れだけでなく、新しいのも混ざっていたけれど・・・。対処はアライラのビームなので俺自身は特に大変ではなかった。

 その後に、俺がモンスターを焼いて、アライラが食べるという流れだったけれど。

 着信拒否をしたいが、そもそもが救助目的の魔法術具なので着信拒否などは備わっていない。捨ててしまいたいところであるが、そうするとダンジョン脱出後の身分証明とかその辺が面倒になるので、悩ましい限りだ。

 

 シャラン


 俺が祖父母のしょうもないメッセージにどう対応するかで悩んでいると、地蔵菩薩道標人が錫杖を鳴らした。

 そして、アライラをペチペチと叩き始める。

〈どうかしたの?〉

 足を止めて、問いかけた。

 周囲を見回してみるが、特に変わり映えもしない洞窟だ。これまで、道標人は分かれ道などで錫杖を鳴らし、道を示してくれていたが・・・。

 道標人がアライラから飛び降りると、地面に文字を書き始める。

『ここに隠された通路がございます』

 錫杖を振って、指し示す場所は洞窟の壁だ。

 しかし、指摘されてみると妙に小奇麗な壁に思えた。周囲はゴツゴツとした岩肌という感じなのに、道標人が示す場所だけは研磨されたように凹凸が無い。

 俺もアライラから飛び降りて、道標人の示す壁に歩み寄る。

「鍵穴のような物も見当たりませんが、ここが隠し通路になっているということですか?」

 道標人が頷いている。

〈隠し通路ってことは、ショートカットもしくは隠しボスとの戦闘かな?〉

 ・・・え? 隠しボス?

〈やっぱ定番だよね。実は序盤ではまず倒せないようなボスキャラがいて、ゲーム後半になるとそいつを倒さないと先には進めないってなる奴!〉

『残念ですが、ここはただの道になります。第一階層なる場所へのショートカットとなりましょう』

 道標人が、地面に言葉を書いてアライラに教える。

〈そっかー。でもでも、こんな洞窟からおさらばできるなら、それもアリだね!〉

 いや、隠しボスとかやめて欲しい。ここがショートカットになる通路であるなら、それに越したこともない。

〈で? どうやって開けるん?〉

「そうだな。壊して開くのかな?」

『お止めください。攻撃しても開くような物ではありませぬ』

 やっぱり、そうなるよな。

 だとすると、開けるためには何かしらの手順を踏まなくてはいけないわけだが・・・。

「アライラ。こういう隠し通路を開けるための条件として、ゲームだとどんなものがある?」

〈え? ゲームだと・・・迷宮内にある必須アイテムを回収するとか、数か所に設置してあるスイッチを操作するとか、迷路みたいなダンジョンなら、通路を正しい順路で通らないと開かない。とかいろいろあるよ〉

「そっか、全部を検証するのは無理だな」

 本当に、この洞窟迷宮という場所がどれほど広いのかも分からないから、隠し通路を開く条件など探してもいられない。

 あとは、何かしらで無理矢理にでも開くしかないが・・・。

「道標人。この通路を開く術はありますか?」

『あるには、ありますが・・・』

 わざわざ言葉を濁すように書かなくてもいい気がする。

『主殿の魔力供給を少し多くしていただければ、可能でございます』

 なんだ、そんなことでいいのか。

「わかった。量は道標人に任せます」

 錫杖を道標人に向けると、道標人も自身が持つ錫杖を重ねるように合わせてくる。

 合わさる錫杖が共鳴するように、青い火が混ざり合い、錫杖から道標人へと俺の魔力が流れていく。

「はー、これで喋ることができますな」

「・・・は?」

「いやはや、主殿の魔力供給量が少ないせいで、今まで喋ることが出来ませんで」

「・・・俺が雑魚だから喋ることができなかったのでは?」

 そうだとも、確かに雑魚過ぎてうんぬん言われたのを俺は憶えているぞ。

「はい、雑魚ゆえに私を召喚する必要最低限の魔力しか用意できなかったわけですからね」

「どういう意味ですか?」

「ふむ。要するに、水分補給は1ℓペットボトル分の水で事足りるはずなのに、主殿がクソ雑魚なせいで、もう1ℓほど必要になってしまった。ということですな」

「・・・今、クソ雑魚と?」

「おや、ひどい言葉ですね。空耳でしょうか? お疲れでは?」

「あなたと会話するのが、一番の疲労になりそうです」

「はっはっは! またご冗談を!」

「殴りたい・・・」

「どうぞ? 拳を自ら痛めるなど・・・それが人の業というモノでございますか?」

「・・・泣きそうだ」

「どうぞ。時には思いっきり泣くのも良いものです」

〈おー・・・ルッタの声が〈ルッタの声が〉ステレオみたいに〈ステレオみたいに〉聞こえてくるよ〈聞こえてくるよ〉〉

 ・・・君は君で、どうやったんだ? そのエコー。

 いや、それよりも・・・。

「俺の声と同じ?」

〈うん。ルッタとお地蔵さん、喋り方は違うけど、声は同じだね〉

「この声が?」

〈うん。その声が〉

 ・・・俺、こんな声しているのか?

 うーん。子供の声だからだろうか? とても澄んだ声音をしているように思える。前世で聞いた子供の声と言えば、結構耳に刺さるような声だった気もするけど・・・。

 声変わりをしたらどうなるんだろう?

 まぁ、それはまた後で何気ない会話の中でやるとしよう。

「さて、戯れもほどほどにしましょうぞ。話も進みませぬゆえ、よろしいか?」

「あ、はい」

〈そうねー〉

 道標人は錫杖を鳴らしながら隠し通路があるという壁に触れる。

「この先へ進むための技がございますが、そのために必要な魔力を供給してくだされ。発動と維持は私めが行いますゆえ」

「わかりました」

 言われた通り、俺は錫杖に魔力を込めていく。錫杖を鳴らして必要な分が溜まるのをただ待つだけだが、汗が出てきた。

 すると、道標人が自分の錫杖を俺の錫杖に重ねてくる。

「地の深淵に、我が慈悲を以て説き申す」

 俺とは違う詠唱・・・しかし、説き申すというのは・・・。

「地獄門・地蔵合掌開門壁」

 地中より出現する石像の腕。

 アライラもサンドイッチにできそうな大きい両腕が出現すると、音を鳴らすことなく静かに合掌する。

 合掌する手から青い火が溢れ出し、この火が壁に燃え移っていく。

 すると、壁が押し込まれるようにして窪み始めた。青い火が一層の荒振りはじめ、周囲に地響きを発生させていく。

「主殿、魔力の供給を止めないでくださいませ。正規の手順で開いているわけではありませぬゆえ、魔力の消費をし続けねば押し返されて閉じてしまいます」

「俺を魔力供給に専念させ、道標人が技の維持に努めるという役割分担なのでしょう?」

「はい。今の主殿では、魔力供給の維持と技の維持を同時にはできま・・・いや、できることにはできましょうが、通路を開くまで二つを維持するのは難しいですからね」

 確かに、魔力の供給と技の維持を同時に行えと言われれば、まだ無理だろう。ここまでだってアライラに戦闘は任せっきりで、やって来たことと言えば魔力供給ばかりだ。

 俺自身、まだ地獄変をさほど使ってはいない。

 今はまだ、道標人の姿を見て技の使い方というモノを学ばせてもらうとしよう・・・そう思わないとなんか悔しくなるし・・・。

 壁が押し込まれていくと、何かにハマったような音を鳴らした。

 その直後に、壁が渦を描くように四つへ分離して、スライドしつつ壁に収納されていく。まるでSF映画でよく見る宇宙船の扉みたいな動作だった。

「さぁ、中へお入りください。今にも閉じようとしていますゆえ、悩んでいる時間はありませぬぞ」

 促されて、素直に従う。

 小走りで中へと入る俺に続き、アライラも中へと入ってくる。しっかりと中へ入ったのを見届けた道標人も続き、全員が入ったことを最後に確認しなおしてから技を解く。

 直後、開いていた扉が音を立てて閉じた。

 

 バシュー。ドォン。


〈ひゃー、ボス部屋に入った時の音そっくり!〉

 アライラが目を輝かせながらワクワクと体を上下に動かしている。

 蜘蛛って、そういう動きするよな。どういう条件でやるのか知らないけれども・・・。

「・・・アライラー殿」

 道標人が、通路の先を見据えながら声を濁す。

〈うん? なんか呼んだ?〉

「はい、この奥にいる者の気配はお分かりいただけますかな?」

〈うーん?〉

 この奥に居る者? 人か・・・いや、この場合だとボスモンスターか?

 俺がそんな事を考えていると、アライラの体毛が一斉に逆立ち始める。凄い逆立ち方だ。

〈・・・ヤバい。なんかこう、具体的に言えないけどヤバい。この奥にいる奴ら、かなりヤバい気配がプンプンする。後ろが閉じてなかったら飛び出してたかも〉

 アライラがそこまで怖がるほどヤバい何かがいるというのか?

「引き返した方がいいのであれば、もう一度開門壁で開くという手もある」

〈え?〉

「君を以て、『ヤバい』と言わせるほどに危険な場所であるとするならば、今の俺たちでは時期尚早であるかもしれないからね」

 そうとも、異世界に転生したとはいえ、無敵で無双できる・・・わけではなかったのだから、無理は禁物というものだ。

 ゲームのようにコンティニューできるわけじゃないのだから・・・できるのかな? いや、無理だよな・・・さすがに。

〈ううん! 行こう!ルッタ!〉

「アライラ・・・」

〈死んでも戦闘不能になるだけで死にゃしないだろうし、死んでもコンティニューできるって!〉

「・・・は?」

〈よぉっしゃいくぞーッ!〉

「待て待て待て待てぇえ!!」







〈ふぅ・・・ここまで敵の影なし〉

 ずぅっと続く一本道をただ歩く。

 さすがにアライラも周囲への警戒を強めて、歩く速度はゆっくりとしたものだった。

 俺も道標人も錫杖を鳴らしつつ魔力を溜め続けながら、敵の奇襲に備えて身構え続けていたが・・・特になにが起きるでもなかった。

 それにしても、この隠し通路が開く条件とはなんだというのだろうか?

 アライラの話を聞けば、確かにそうかもしれないとは思うが、明確な答えというわけでもないように思える。

 この通路がそもそも違和感を覚える。

 ショートカットになると言われれば嬉しいと思うが、ゲーム的に考えればここでショートカットがあるのは不自然だろう。

 ここで気になるのは第一休憩地だ。

 休憩地といいながら、地底湖だったことがもっとも気になる。アライラの鑑定結果を思い返してみれば、第六まであるように書かれていたはずだ。

 アレほどの規模である地底湖が休憩地になるということは、この洞窟迷宮はかなり広いのではないだろうか?

 もしかして・・・正しい順路として第一から第六までの休憩地を探索することで、下へ続く道が開くギミックだったのか?

 そうであるとすれば、第六に到達する頃にはモンスターもより強力なモノになっていて・・・なんてことに?

 ありうる・・・俺が現状で雑魚らしい・・・認めたくないけど・・・。

 こんな俺を魔王復活までに強くする方法として、このダンジョンに落としたのであれば、この洞窟迷宮をしっかりと攻略して下に降りられるようにするのがクソ神の狙いだったのではなかろうか?

 すると、ここでショートカットしたのは早計だったのかもしれない。

〈お、なんか広い空間に出るっぽいよ!〉 

 通路の出口が見えたことで、アライラが移動を速める。

「アライラー殿! 飛び出し厳禁にございますぞ!」

 道標人の一喝で、アライラは急停止した。

〈やっべ! 入ったら出られないボス部屋っぽい雰囲気がプンプンするぜぇ・・・〉

 ゆっくりと一歩を踏み込んで、中を覗き込むアライラ。

〈ソロリッ・・・ソロリッ・・・〉

 なんか言っているが、俺は気にせずに身を乗り出して中を覗き込む。

「穴だらけだな」

 道標人も同様に身を乗り出して覗き込んでいるが、中はハチの巣と見紛うほどに穴だらけの空間だった。ハチの巣ではないと確信できるのは、穴が丸いからだ。

「はて? これは何の巣穴でございましょう?」

〈うーん。虫には詳しくないからなー。蜘蛛だけど〉

「まぁ、地球での知識はあてにならないからな・・・今日まで遭遇したモンスターはどれも異世界のモンスターばかりだったし・・・」

 ・・・アレ? そういえば、なんでアライラの鑑定で表示されるモンスターは、どれもこれも異世界●●●という感じだったのだろうか?

 あのクソ神は・・・当世界の・・・と表記されていたはずだ。

 もしかしなくても、このダンジョンに居るモンスターは、この世界で生まれたモンスターでは無いというのか?

 こことは異なる世界から、わざわざモンスターを持ち込んで・・・。

〈ルッタ! ルッタ!〉

「え!? あ! え? なに?」

 考え事をしていたから、アライラの声に反応するのが遅れてしまった。

〈どうしたの?〉

「いや、ちょっと考え事をしていた・・・で? 何かあったのか?」

〈そうそう、ほら、あそこ! この部屋の中央!〉

 アライラが前足で指し示すのは、東京ドーム並みに大きな施設が、部屋の中央に設置されているというモノ。

 機械的で物凄く違和感がある。

「あのドームに、下層へと続く道がありますな」

 道標人の言葉を聞いて、俺は目を丸くした。

「え、あんなに大きな施設が次へ続く道なのですか?」

「はい。アレを通ればすぐに・・・とは行きませぬが、どうにも複雑な迷路が続いているようですな。いやはや、私でも迷ってしまいそうですね」

 それはヤバいな。

〈で、ここで足踏みしてても進まないし、突入しようよ!〉

「ああ、そうだな。ここまで来た以上、今更引き返すのもないからな」

 突入することは反対しない。

 しかし、どのようなモンスターが出てくるかは、ある程度予想しておきたいんだよな。

「突入する前に、アライラに聞きたいことがある」

〈うん? なに?〉

「この穴だらけを見て、君が5年間のサバイバルで似たような場所を見たことは無いか?」

〈似たような?〉

「そうだ。なんとなく雰囲気が・・・でもいい!」

〈そういわれると・・・アレに似ているかなぁ?〉

「アレ?」

〈うん。ムカデっぽいモンスター〉

 ・・・ムカデ? 百足と書いてムカデと読む・・・あの?

〈アイツは厄介だったなー。ビームがね。こう・・・ブシャーって感じで防がれて、バシャーって感じに無敵だったんだよね〉

 ・・・想像しづらいな。

〈背中には、ガトリング砲が乗っててさ・・・ごごごごごごごご!って感じでもう!弾幕がすごいのなんの! アレはどうやって倒すんだよ!ってなってとにかく逃げたね!〉

 そうか、その当時は鑑定も何もしていなかったんだったか。

「道標人。どう思いますか?」

「わかりませぬ。安易な推測は危険でしょう。対応を間違える恐れがあります。とはいえ、一応はムカデという虫モンスターが出ると思って、中へ入るしかないでしょうな」

〈うにゃー! 突入するぞーい!〉

 仕方ない。これ以上は情報も得られそうにないしな。

「アライラ! モンスターが姿を現したら、鑑定するんだ! 情報の有無は重要だからな!」

〈りょーかーい!!〉

 返事をしつつ、アライラはボス部屋へと飛び込む。

 これと同時に、俺たちがいた通路の扉がシャッターでも占めるようにガシャンと閉ざされて、見ればこの部屋のあちこちで、次々に穴の一部が閉じていく。

 つまり、閉じた穴はここへと繋がる通路だったわけか。

「主殿! 構えてくだされ!」

「わかった!」

 錫杖を構え、敵の登場に身構える。

 はて・・・敵はどこから現れるだろうか・・・。

〈・・・あらー。ここってば集合住宅だったりするん?〉

 アライラの呟きにも等しい声を聴いて、俺は穴を改めて見直した。

「な・・・」

 それら穴からは、触角が飛び出していた。

 見渡せば、すべての穴から昆虫の触角が飛び出している。

「アライラ! ドームまで移動するんだ! 足元の穴からも触角が飛び出ているぞ!」

〈うわーん!〉

 大急ぎで部屋の中央にあるドームの上に飛び乗るアライラ。

 そうして改めて見渡すと・・・オレンジ色をした長い触角が穴から飛び出して動いている。情報を収集するかのように、ユラリと揺れ動きながら。

 そして、穴からゆっくりと黒い球形の頭が出てくると・・・ピンク色をした光が波紋のように頭部を明滅させた。

 そして、頭を俺たちに向ける。



ピィィィィィィピュァァァァァキュァァァァァギュアアアアアアアアアア



 耳障りで、どう表現すればいいのかも分からない音がそこかしこから鳴り響き、部屋全体を埋めるように空気を震動させ、ムカデ団体様が一斉に穴から飛び出してきた。

「なんだ!? あれ、ムカデか!?」

「いいえ、ムカデの姿形をしておりますが、ムカデではございませぬ! アレは、機械仕掛けの兵器にございます!」

〈鑑定!!〉



『ギガトレンク。異世界ラナトコノにて建造されたムカデ型高機動戦車。侵略者たる人類を撃滅するために開発された遊撃用戦術兵器。その背には汎用接続機構を搭載しており、作戦内容によって武装切り替えが自由に行える。主に大砲を用いるものの、多種にわたる武装を取り揃えている。また、防御システムには対物反射装甲。ビーム拡散力場。重力相殺装置。などがあり、約10年ほど戦況を膠着状態にすることができた』



「なんだその欲張り兵器!」

〈なにこの欲張り兵器!!〉

 一体、どういう異世界なんだ? こんなとんでもない兵器を造って実戦に投入するとか。

「二人とも! ムカデが構えますぞ!!」

 道標人の言葉で、鑑定結果に目を奪われていた意識がムカデに戻る。

 見れば、一斉に飛び出していたムカデが10匹ほどに減っていた。しかし、穴から触角が飛び出ていることを見れば、おそらくは邪魔にならないよう引っ込んだということだろう。

 ギガとつくだけあって、その大きさは尋常じゃない。

 オレンジ色の触角や足から見ても、大ムカデがモチーフなのは推測すら不要だろう。

 そして、そのサイズたるやアライラを連結させたような規模になる。これだけ大きくて長いムカデが穴の分だけ飛び出せば、渋滞を起こして身動きすらできなくなるだろう。

 作戦行動を邪魔しないために10匹を残して引っ込んだのは間違いない。

 一番遠くのムカデは、背に巨大な大砲を取り付けていた。

 戦車というだけのことはある。体の一つ一つに同じ規模の大砲が取り付けられていて、回転してこちらに照準を合わせてくる。

〈あの大砲! 戦艦ヤマトの主砲じゃね!?〉

「え? アレは波動砲って言うんじゃなかった?」

〈リアル大和の方!〉

「あ、そっち?」

 せっかくアニメの方を知っていたのだけど、リアル大和は歴史の授業でちょっと習ったくらいしか知らないから、主砲とか言われてもわからないんだよね。

「砲撃が来ますぞ!!」

 爆音を轟かせて、砲撃が連続して行われる。 

 その全てが俺たちへと注ぎ込まれると、アライラはドームの上を器用に駆け回って砲撃を回避していった。

 一方で、ドームは砲撃を受けたというのに無傷で、この程度では次の道は開かないか。

 高速で動くムカデの二匹ほどが、戦車らしい砲身をこちらに向けて、同時に斉射してくる。

〈邪眼! 受け流しバリア!〉

 回避するのが難しいと判断したアライラが、邪眼でバリアを展開すると、砲撃を受け流してやり過ごした。凄いな。

 さらにドームへと迫るムカデ四匹が、四角い筒のようなものを動かして・・・ミサイルを放ってくる。

「アレは、高速誘導弾とかそんな名前のミサイルだった気がする!」

〈テレビで見たことある形だね!〉

 邪眼ビームでミサイルをすべて撃ち落とし、アライラはドームの上で周囲を見回した。

〈ここは兵器の博覧会ですか!?〉

「いいえ、違います」

 次から次へと、10匹のムカデが交代で攻撃を仕掛けてくる。

 ガトリングガンを装備したムカデによる弾幕は、受け流しバリアを結界にすることで防ぎきる。ガトリングの弾切れと入れ替わるようにして、ミサイル発射装置を切り離したムカデがドームに上ってくると、アライラに近接戦闘を仕掛けてきた。

 一匹の触角は水を放出していて、鞭のように振り下ろされてくる。

「地獄門・地蔵合掌大道壁!!」

 俺ではなく、道標人が発動して真剣白刃取りのように受け止める。

「く、いけませぬ! 水切りカッターの要領でござますぞ!」

 石の手があっという間に削れて崩れて、合掌壁が瞬く間に破られていく。

 その一方で、真っ赤に熱した触角が反対から振り下ろされてきたので、俺も地蔵合掌大道壁で受け止める。

 が、こっちは超高熱の攻撃であるために、石の手が真っ赤に染まって溶け始めた。

 先の道標人が受け止めたものとは違い、溶けるまでに時間がかかっているから逃げる隙があった。

「アライラ、こっちから脱出するんだ!」

〈あいあーい!〉

 大急ぎで、ムカデの包囲網から逃げ出すアライラは、飛び退きながらムカデに顔を向ける。

〈反撃の邪眼ビーム!〉

 鑑定結果からも、ビームは通じないはずだが・・・実際はどうか?

 ビームがムカデに着弾すると、一瞬だがムカデの姿が歪む。この直後、ビームが弾けるようにして拡散し、ムカデを素通りした。

「あれがビーム拡散力場とかいうやつか」

「であれば、対物反射装甲とやらも見ておきましょうぞ!」

 道標人が錫杖を槍投げのように構える。

「地の深淵に我が慈悲を以て説き申す」

 ユラリと、錫杖が火を灯す。

「地獄門・縛鎖閻魔錠!」

 錫杖から無数の錠の頭に鎖の身体をした蛇が飛び出して、錫杖に巻き付いていく。

「地の深淵に我が慈悲を以て重ねて説き申す」

 重ね技?

「噛み砕け錠蛇、巻き穿て縛鎖、地獄能・巻蛇槍貫撃!」

 地獄能・・・それが確か、応用技の呼称だったはず。どう使うのか分からなかったが、そうやって組み合わせて使う技だったのか。

 錫杖に巻き付いた閻魔錠が、円錐形の螺旋状に巻きついて見せると、コレが高速で回転を始める。

 まるで歯医者で使われる治療用ドリルのような音だが、道標人はムカデの一匹にコレを投げつけた。

 対物反射装甲と言うからには、必ず弾かれてしまうだろうと思っていたのだけど。

 道標人の投げた一撃は、弾かれたりすることなくムカデの装甲を貫通した。それだけでなく、高速で回転する円錐形の刃によって体が捻じれ巻き取られ、ミキサーのように擦り卸されて爆散する。

「うわ! すごい爆発力だ」

 繋がっている身体一つ一つが爆弾であるかのような火力に、俺は顔を覆う。

「うーむ。地獄変の一撃ですから、対物反射装甲なる物が反応しなかったのでしょうか?」

〈どうだろー?〉

 微妙なところだ。

「おそらく、連中の想定は銃弾や砲弾の類だと思うので、バカでかいドリルのような槍は想定していないのではないでしょうか?」

〈おー! きっとそれだー!〉

 なんか、しっくりこないが、今はその程度でいいと思う。

 それよりも・・・。

「アライラ! 新手だ!」

 一匹が倒されたことで、また10匹ほどが穴から追加で飛び出してくる。

 それらが背負っている兵器は、大砲のような形はしているのだが・・・どういうわけか電気機器がゴテゴテと外付けされているようだった。

 これまでに見覚えのない装備を背負っているムカデ戦車が、そして隊列を組んでしっかと足場を固定すると、砲身をこちらに向けてきた。

 直後、電子機器が一斉に稼働して、砲身に電気が迸る。

 それらが耳障りな音を放ち始めて、雷雲のように明滅を始めた。

〈げ! アレってば超電磁砲じゃん!?〉

「え、レールガン?」

 確か、地球だとまだ研究段階の代物だったはずだが・・・。

〈緊急離脱ジェーット!〉

 八つの眼から火を噴いて、急加速から一気にこの場を離脱する。

 ほぼ同時に、光瞬く何かが俺たちの居た場所に着弾して大爆発を起こしていた。目にも留まらぬとはこのことだろう。なんて速度で爆弾を撃ち出だしているんだ・・・。

 しかし、そんな超電磁砲の弾が着弾した場所から新手のムカデ戦車が飛び出してくる。本当に集合住宅なんだな・・・このボス部屋。

「ムカデ戦車の数も増えてまいりましたな」

 道標人の言う通り、こっちは反撃らしい反撃もできずに逃げ回っているだけなのだが、ムカデ戦車がどんどん穴から再度飛び出して来て戦列に加わっていく。

 そんな時、ムカデ戦車の集団から少し離れた位置で、集合している別のムカデ戦車の群れを見つけた。

 体の連結を解いて、一匹のムカデ戦車と合体しているその群れは、巨大な砲台を作り上げていく。

「アライラ! あっちに合体して巨大な砲台になった奴がいる!」

〈んえ!? むぉう! なんじゃあれ!?〉

 アライラが向き直ってみると、面食らったように驚いていた。

 そんな事をしている間に、巨大な砲台の根本でエンジンのような物が激しく動き出し、何かが回転を始めて光が増していく。

 それから、砲口にエネルギーが充填されているのか、妙に熱が上がって変色を始めていた。

〈ローエングリンか!!〉

「え? え?」

 アライラが何を言っているのか分からなかったけれど、一つだけ確かなことはアライラの動作に合わせて砲身が動いていることだ。

 ほかのムカデ戦車たちも、アライラの足を止めるために砲撃をしているから、あの巨大砲で仕留める気なのだろう。

 再びドームの上に着地したアライラは、砲撃から身を護るために結界を展開する。

〈むぅん・・・この弾幕じゃ、逃げられないよ!〉

 もはや、アライラが跳び上がるだけの隙間すら埋める勢いで弾幕は張られ、ドームから飛び降りようにも、ムカデ戦車が待ち構えている。

 少なくとも、味方の一撃に巻き込まれないように離れてはいるようだ。

 巨大砲から白い煙が排出される様子から、すでに発射寸前であると分かった。

「道標人!」

「承知!」


「「地獄門・地蔵合掌大道壁!! 六重壁!!!」」

 

 大道壁が一つ飛び出ると、それより一回り大きな大道壁が一つ目の壁を飲み込むように重なり、俺と道標人が発動した六つの壁が重なり続けていく。

 合計で十二の地蔵合掌大道壁が重なって、巨大な壁となった。

 これが、ムカデ合体戦車から放たれる巨大砲の一撃を受け止める。

 目を焼くような光と、肌を焼くような熱波が一帯を襲うなか、大道壁はその熱量によって融解を始めてしまった。

 これではすぐにでも突破されてしまうだろう。

〈うわぁーん! だれだぁーッ!こんなムリゲーを最序盤のボス部屋に配置した奴はぁあ!〉

「落ち着け!」

〈もういやだーっ! ゲームはもっと簡単で単純でハイスピードバトルアクションがいいんだい!〉

「何の話だ!?」

〈敵の攻撃を受けて仰け反ったり、吹っ飛んだりする古臭いアクションゲームなんて今時流行るかっつーの!〉

「・・・それは愚痴なのか?」

〈リズミカルに! そしてド派手なアクションで敵を殲滅するゲームが一番面白いんだ!〉

「今する話じゃないよね!?」

〈ルッタがバカ過ぎて話になんない!!〉

「ぶっ飛ばすぞこなくそ!!」

 こんな状況で、なんのゲームか知らないけど愚痴る方がバカだっつの!

「アライラー殿。この現状を打破する手があるのでございますかな?」

〈・・・あるよ〉

 なんだって!?

 さっきの愚痴で、どこに現状を打破するような話があったんだろうか?

〈とりあえず、あの特装砲を何とかすればいいんでしょ?〉

「ああ、いい手があるのか?」

〈大丈夫。見た感じ、ルッタに魔力を供給してもらって放ったバスタービームの方が威力は上だから、競り勝てるよ〉

「・・・いや、バスタービームでは拡散されて威力を減衰させられる可能性が高い」

〈んむ・・・そっか・・・そういえばさっきビームが通じなかったっけ〉

「ああ、バスターであれば連中の対応力でも追い付かないだろうけど、威力減衰ぐらいはできるだろうから、打破には至らないだろうな」

〈むぅん・・・〉

「何かないか? 君の知る限りで敵を一掃できるとんでも兵器とかひと際物騒な兵器の類とか」

〈ぶっそうな? ぶっそう・・・あ・・・あるわ〉

「あるのか!?」

〈うんうん! クソ神様が言っていた物騒なモノがある!〉

「・・・え?」

 ちょっと待って、あの神が言っていた物騒なモノって・・・えっと、なんだったか・・・。

「主殿、時間もありませぬ。アライラー殿の案にかけましょう!」

 俺が考えていると、道標人が説得してくる。何か切羽詰まっているようだが、彼が指で示している方を見ると、第二、第三のムカデ合体戦車が巨大砲を準備していた。

 本当に考えている時間などなかった。

「アライラ! バスタービームを撃った時と同じように、魔力供給を始めるぞ!」

〈うぃ! っでぇえ!!!いだーい!〉

 錫杖を彼女に突き刺して、無理矢理となるが魔力供給を開始する。

「あとでいっぱいモンスターを焼いてあげるから、我慢してくれ!」

〈はーい〉

 すでに二つも巨大砲が増えていることと、エネルギーの充填が始まっていたことで、こっちの魔力供給は出遅れている。

 ならば、あっちよりも早く供給を終わらせなくてはいけない。

 

「ゲホッ・・・」

 

 口から、血を吐いた。

「ッ!? いけませぬ! その幼い身体で、それほどの供給速度は! 負荷に耐えられませぬぞ!」

「そういう、わけにも、いかないでしょう?」

 体が耐えられないからと、供給速度を抑えてしまっては、敵の砲撃に対応できない。なら、俺の身体がどうにかなってしまうとしても、ここで妥協は許されない。

 俺一人ならそれもいい。だが、アライラも巻き込んでしまうわけにはいかない・。

 喉に、熱い液体が遡ってくると、口から一気に飛び出していく。

 手で口を塞いでも、決して留めることが出来ない。

〈ルッタ?〉

「大丈夫だ。君は、思いついた必殺技に全力を出してくれ」

 視界が赤く染まった。

 眼球の血管が破裂したのかとも思ったが、どうやら涙が出る穴から血が噴き出てきたようだ。鼻からも血が垂れだしている。

 俺が蹲って踏ん張っていると、アライラが声を張り上げた。

〈よっしゃあ! エネルギー満タン!! やるよ! ルッタ!!!〉

「ああ! やってくれ!」

 見れば、第二、第三の巨大砲もエネルギーが充填し終えたようで、発射寸前だった。しかし、それよりも早くアライラの八つある邪眼が光を一気に膨れ上げて、黄金に輝くミサイルが発射される。

〈全力全開!! 八連邪眼!! 反応弾!!〉

 ・・・反応弾!?

 俺の魔力供給を受けて、アライラの全力を乗せた・・・反応弾!?

「アライラ! 結界を張れ!! 俺の魔力を全部吸い上げて! 最強の防御結界を張るんだ!」

〈え? え?〉

「早くしろ! 間に合わなくなるぞ!!」

〈もぉ! 八連邪眼! プロテクトシャットサンクチュアリ!!〉

 ・・・前回はウィズワールドとかつけてなかったか?

 アライラが放ったミサイルは、それぞれに巨大砲へと飛んでいく。

 結界が張られ、守りが固まった直後に、三方向から白い光が迸った。それらが部屋を染め尽くし、影さえも消滅させて真っ白な世界を作り上げていく。

 その中で、ムカデ戦車が真っ黒に塗りつぶされてボロボロと崩れていく様子を見る。

 その中で、ムカデ合体戦車が発射し損ねたエネルギーを暴走させて爆発する様子を見る。

 この一瞬だけが、何もかもをスローモーションにしたように、世界が崩れて消えていく。

 しかし、俺たちは直下へと落下した。

「運が良かったですな」

「何が起きたんですか?」

「アライラー殿の放った爆弾の破壊エネルギーで、足場だったドームが消え失せ、通路が開いたのでござますよ」

 そうか、それで結界もあったおかげで俺たちは死ぬことなく脱出できたというわけか。

〈いやー! でも上からすっごい音がしてるんですけどぉ!〉

 見上げてみると、何か光が瞬いては爆音を轟かせている。どんどん入口は遠のいていくが、次の瞬間には何か真っ赤な光が輝いて見えた。

〈どっせーい! 着地! 10点!かける100で一千万点!〉

 どうやら穴の底に到着したようだ。

 見ると、この穴は何か機械仕掛けが施してあったようだ。見たところレールのような物があるから、エレベーターかエスカレーター的な装置があったのだろうか?

 しかし、上からどんどん妙な轟音が響いてくる。

「道標人・・・上の方で光る真っ赤な物はなんだと思いますか?」

「そうですな・・・」

 上を見上げて、そして答えてくれる。

「爆炎とかでございましょう。ハリウッド映画によくある洞窟脱出時のアレのごとく・・・」

 言っていて、笑っていられなくなった。

「アライラ! 走れ! 全速力だ!」

〈うぇ!? なんで!?〉

「ここからは脱出タイムアタックだ!!」

〈爆発落ちとかサイテーッ!!〉

 アライラが全速力で走り出した。

 洞窟の通路を猛スピードで駆け抜けてくれるが、これでは分かれ道などがあったらタイムロスになる。

「道標人! 閻魔錠を延ばして正解の道を先行させてください! それでアライラを誘導するんです!」

「承知!」

 道標人はすぐさま錫杖を構えて技を発動した。

「地獄門・縛鎖閻魔錠!」

 錫杖から延びる閻魔錠が、アライラよりも早く通路を飛んでいくと正解の道へと誘導する鎖となってくれる。

「アライラ! 道標人が誘導してくれるから、君は抵抗せずに身を任せるんだ!」

〈はいはーい!〉


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 それがアライラの足音ではなく、後方から迫る爆炎だと気づくのに少し遅れた。

 振り返って見れば、灼熱色の爆炎がアライラよりもはるかに速く迫ってくる。それだけの威力が、アライラの放ったミサイルにはあったということだろう。

 これでは追い付かれてしまう。

「アライラ! このままだと追い付かれる! ジェットで加速するんだ!」

〈えーっ! ジェットはダメだよ! 顔を後ろに向けてお尻を前に向けるから、いざという時に曲がったりできない!〉

「道標人!」

「はい! 閻魔錠をもう一匹使用すれば、アライラー殿の操作も可能ですぞ!」

「というわけだ! 迷っている時間はないぞ!」

〈もぉ! どうにかしてよね!〉

 アライラが跳ねると、顔を後ろに向けて叫んだ。

〈緊急離脱ジェーット!〉

 八つの眼が火を噴いて、一気に加速する。その速度は、爆炎を一気に引き離していく。

「地獄変」

 道標人が、空いている左手に巻物を召喚した。

「地獄道・地蔵菩薩錫杖術」

 巻物が石の錫杖へと姿を変えると、これをアライラに突き立てた。

〈あいたーッ!〉

「申し訳ありせぬ! もうしばらくの辛抱を!」

〈くっそーっ! わたしばっかりこんなんー!〉

「地獄門・縛鎖閻魔錠」

 アライラに突き立てた錫杖から新たに閻魔錠を召喚して伸ばしていく。それが、先に行かせた閻魔錠を追うように飛んでいく。

「アライラー殿! ここから先は私が誘導いたしますゆえ! あなた様はこの速度を維持してくださいませ!」

〈りょ、りょーかーい!〉

 物凄い速度で、洞窟を突き進む。

 少しでも壁に身体を擦れば、間違いなくすり身になるだろう。そんな中を道標人の誘導によって分かれ道などを速度を落とすことなく通過していく。

 引き離したかのように思えた爆炎も、グネグネとした道を通過するたびに追い付いてくる。そして、直線になると引き離せるが、また曲がり道になると追い付かれる。

 広い空間へと飛びだした。

〈ゴール!?〉

「違う! おそらくは休憩地だ!!」

 地底湖のような水場があることから、そうだろうと思うが・・・俺たちが飛び出した穴の向こうから爆炎が噴き出てくると・・・壁一帯に亀裂が入って火を噴き出し始める。

 それらが、壁を粉砕して空間へと飛び込み、瞬く間に火の海に飲み込んであらゆるものを破壊していく。

 それでも勢いが衰えずに迫ってくるから、本当にとんでもない威力だったと理解した。

 休憩地の出口へと飛び込んで、再び狭い洞窟の中を高速で突き進んでいく。

 右へ左へ、上へ下へ、鎖がミシミシと音を立てつつ、アライラを見事に誘導してくれる。ここまで行き止まりにぶつかっていないことからも、道標人の案内は適切だった。

 しかし、そろそろ俺が限界だった。

 腹が裂けるような痛みを覚え、抑える・・・が、腹は裂けていない。

 代わりに、口からよりどす黒い血が吐き出され、股下も血で濡れ始める。肛門から漏れ出ているようだった。

 これ以上は、本当に俺の身体が耐えられないようだ。

 そんな時、フワッとした浮遊感と共にアライラの身体が垂直になって、降下を始めた。長い直線の穴へ入ったようだ。

「この先が、出口にございます」

〈到着!?〉

 正直、俺の身体がダメになる前でよかった。呼吸が苦しい。血が肺に侵入したか・・・。

「私めもここまでになりますが・・・なかなか刺激的な良い旅路でございました」

〈はい?〉

「ああ、ここまでの道案内を、ありがとうございました」

 声が掠れてしまうが、呼吸が苦しくて思うように声が出てこない。

 しかし、地蔵菩薩道標人は、道案内のために召喚した地蔵さんだ。役目を終えれば、還るのみ。

「良いですか? この先へ飛び出した後は、すぐに水場を探して降りてくださいませ。呑気に飛んでいては、未知のモンスターに襲われますゆえ」

「ええ、わかりました。肝に銘じます」

 俺は、まっすぐ道標人を見る。

 道標人も、俺を見ている。

「はい、主殿。私は道標。また道に迷うた時に、お呼びくださいませ」

「はい。また、お願いします」

「しからば! これにてご免!!」

 言うや否や、道標人はアライラの上から穴の底へ向けて一気に飛び込んでいく。

 あまりにも唐突な行動に、俺は唖然としてしまった。が、それとは逆に上方から爆炎が追いかけてきた。どこまでもしつこい。

 閻魔錠を頼りに、道標人を信じて穴を降下していく。

 その時、俺はこの穴の構造を理解した。

 底は九十度曲がっている穴だ。最初にドームから落ちた穴と同様で、このままでは底に激突してアライラの身体は木っ端みじんになる。

 外へと通じる穴へと通るためには、直角に曲がらなければならない。

 だが、この速度でそんなことは無理だ。


――私は、道標ですので――


 アライラの身体が、底へ激突する寸前に何かが支えてくれた。

 本来ならありえない直角に曲がるという軌道を見事に支えてくれると、最後の横穴へと押し出してくれる。

「そうか、そのために飛び込んだのか・・・」

 爆炎が降り注ぎ、わずかな地蔵の影とも思えるソレが飲み込まれて消える様子を見る。

 そうして、暗い道が一気に光溢れる世界へと、俺とアライラを送り出してくれた。





 洞窟を抜け、俺とアライラが飛び出した先は・・・空だった。

 山から飛び出したのだろう。直後に山が砕けて爆炎が噴き上がる。まるで噴火のような音を轟かせて、黒い煙を吐き出していた。

「・・・空だ」

〈おーぅ〉

 太陽が昇る空、雲の隙間から覗く青が美しく、さわやかな春の空気が満ちている。

「アレは・・・桜?」

 薄桃色の花が風に揺れ、桜の大木が地面を埋め尽くす大地。

 青々とした草原と、穏やかな水の流れを見せる川。

「地獄門・縛鎖閻魔錠」

 アライラから錫杖を引き抜き、錠の頭に鎖の身体をした蛇を放つ。目標は見つけたばかりの川だ。

 ここに閻魔錠を打ち込んで、アライラを誘導する。

 正直、あまりにも環境が激変したことに驚いてしまったが、川を見た瞬間に道標人の言葉を思い出した。

 そうして、アライラは減速しつつゆっくりと着地する。

〈ぶはー! 凄いねぇ・・・フィールド型ダンジョンだよ〉

「フィールド型・・・ダンジョン?」

 着地して、アライラはすぐに川へと駆け寄ると、頭を川に突っ込んで水を飲んでいた。喉が渇いていたんだろうな。俺も水が飲みたいです。

〈そうそう。地下に続くダンジョンでも、まるで外のように広大な大地が広がっているダンジョンがあるんだよ。そういうのをフィールド型ダンジョンっていうの! 洞窟よりは過ごしやすいよね!〉

「そりゃそうだ・・・こんなに、穏やかな、かんきょう・・・なら」

 血が、全身から噴き出た。

〈ルッタ!?〉

 とうに限界は超えていた。

 今まで持ち堪えていたのは、俺の意地と根性と気合と・・・よくわからんが、とにかく頑張った結果だ。しかし、さすがに体の至るところが裂けて血が噴き出し始める。

 道標人の言う通り、魔力供給をし過ぎた。この体では、まだ耐えられなかったわけだ。

〈ど、どうすればいい!? ルッタ! 私は何をすればいい!?〉

「し、止血・・・それと、邪眼で、治療・・・天才外科医のように・・・たの・・・」

 視界が回る。

 意識が飛びそうだ。

 体がもう、動かない。

 俺は――――。



「何をもたもたしているの!!」

 倒れかけた体が支えられ、下顎を掴まれると強引に上へ向けられる。

「ほら123!!」

「い、1、2・・・」

「違う! 呼吸をしなさい! ほら、123!!」

 こ、呼吸のことだったのか。

「ハッ、ハッ、ハッ」

「そう! 犬のように123!」

「ハッハッハッ」

「ほら123!」

「ハッハッハッ」

「はい、深呼吸!」

「すぅぅぅぅぅぅ」

「そこだ!!」

「げぼふぉ」

 鳩尾に、空手で言うところの抜き手という技を叩きこまれる。

 これで、俺は血と共に空気と胃の中身まで吐き出して、噎せ返った。

「よし、気道確保」

 いや、無茶苦茶だ・・・あ、いや、この感じ・・・前世で叔母にやられたような・・・。

「こら! そこの蜘蛛!!」

 ビシッという音が聞こえそうな指の立て方と指し方に、アライラがビクッとしながら一歩後退する。

「おまえのご主人様だろうが! 固まっていないで止血ぐらいはしろ! 包帯よ包帯! 蜘蛛糸でつくれるでしょうが!!」

〈は、はい!〉

「あ? 威嚇とはいい度胸ね? 駆除してやろうか?」

 しまった。アライラの声は俺にこそ日本語で聞こえるが、他人であれば「ぎぃ」としか聞こえない。だから、この人は返事を威嚇されたと勘違いしたんだ。

「ま、まってください! 彼女はあなたの指示に応じていますから、まってください」

 声を出すのがしんどいが、ここで声を出さなければ、アライラが危ない。

「あら、そうなの?」

「はい、そうです」

「ち。紛らわしい声をだすな」

「ぎぃぎぎぎぃぃぎぎぃ」〈理不尽過ぎない?〉

「あ? 喧嘩売ってんの?」

「違います」

「ちッ」

 な、なんなんだこの人・・・なんでこんな・・・場所にいるんだ? それに、日本語まで。

「ほら、とりあえず治療するから・・・いや、血の臭いにモンスターが集まってくるから、場所を変えるとしましょうか」

「あ、あの! あなたは一体・・・なんなんですか?」

 俺が顔を上げて問いかけた時、その人物の姿を改めて見た。

 その人物は、登山用の服に身を包んでいた。ついさっきまで雪山にでもいたのか?と思えるほど、雪が体に残っている。

 しかし、その恰好は地球の登山用品フル装備だ。どういうことだろうか・・・。

「まぁ、とりあえず自己紹介ぐらいはしておきましょうか」

 登山用ゴーグルを額に持ち上げて、その女性は俺を見下ろしながら続けた。

「私はマリー。悪の女神ネフェルマリーの元アバター。そして、今は【災厄の壺】にてウィッチに雇われているただ一人の管理人よ」

 ・・・。

・・・・。

・・・・・・・・・・ちょっと、情報量が、多いです。

「あ、こら! 気絶するんじゃないの!」

 申し訳ありません・・・ムリです。



次は、なんにも考え付いてないです。

長くなって申し訳ありません。

読んでくださり、ありがとうございました。

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