01 プロローグ
初めまして。
初投稿となりますので、至らぬ点は多いかと思われます。
昨今のブームに、自分も書いてみたくなったので挑戦してみることにしました。
更新頻度は高くないと思うので、ご容赦ください。
「・・・いつまで落ちればいいんだ?」
体感時間で数十分は落ちている。どこまでも暗く、どこまでも深い穴の底へとただ落ちていく・・・やめてほしい。俺はまだ地球の日本より転生してから5歳になったばかりなのだ。
そう、5歳児なのだ。
いくら何でも異世界大冒険には早すぎる年齢だろう? たいていの場合は、15歳ぐらいまで修行とかをして力を身に着けたりしてからになるだろうに。
と、取り乱しても仕方ない。
転生時に自称神様からもらった加護は三つ。『天才』『枯渇しない魔力』『金に困らない』というものだったから、この状況で落ち着いていられるのは天才の加護が効いてるに違いない。
・・・もっと別の加護を要求するべきだっただろうか?
そうこうしていると、下方に瓦礫の山が見て取れた。底に到着したようだ。
この目も真っ暗な縦穴の環境に適応したようだ。はっきりくっきりと見えている。ならば、着地準備をするべきだろう。
「頼むぞ。地獄変」
この手に持っている石の錫杖を、底に向かって投げた。
瓦礫の山に突き立つ石の錫杖は、俺の体から魔力を吸い上げていく。と、青い炎を噴き上げて縦穴を照らしてくれる。
そして、エアマットのように形状を変更して俺を優しく受け止めてくれた。
跳ねたりはしない。
ふわりと体は浮くようにして瓦礫の上に降ろしてくれる。
瓦礫の山に突き立った石の錫杖を回収して、俺の魔力を使って火を灯し、周囲を照らしてみる。
「なにか、ここで戦闘でもあったのかな?」
壁にはいくつもの裂け目が存在し、クレーターのような凹みや焼け焦げた跡が見て取れる。その激しさに、どんなモンスターが暴れていたのか?と思わずにはいられない。
そんな俺の耳に、わずかだが反響する音が届く。
当然、音がどこから響いてくるのかを知るために、周囲を探索した。
「・・・あっちの裂け目か」
モンスターの攻撃でできた裂け目かと思えば、どうやら大きな横穴だったようだ。
俺は走る。巨大な横穴を駆け抜けて、その先をこの目で確認する。と、そこにはとんでもない広さの地下空間が存在していた。
底は見えるが、少なくとも50階建てのビルみたいな高さと、東京ドーム二つ分はあるように見える吹き抜けの空間だ。
そして、この場所は戦場だった。
地球の日本でも伝承される生物・・・麒麟。
そんな空想上の生物に酷似した巨大な怪物が、これまた巨大な蜘蛛のモンスターと戦闘をしていた。
サイズがおかしいだろう? 蜘蛛の大きさは対峙している麒麟似の怪物と比べれば半分ほどの大きさだが、見下ろしている俺にもしっかりと姿がわかるぐらいには大きいのだ。
「蜘蛛・・・でいいんだよな?」
タランチュラのように体毛が生えている八本足の昆虫だ。サイズが異常であるが、間違いない。その体毛もまた奇抜といえるだろう。毒々しい緑色だ。ポイズングリーンって色はあるんだろうか?
糸を四方八方に飛ばし、麒麟似の怪物が放つ攻撃を回避しながら糸を繋ぎ合わせ、これを怪物の捕獲に使うための網にしてぶつける。
わずかな足止めとなっているようだけど、麒麟似の怪物は全身の鱗を逆立てて糸を切断していった。
粘着性の糸であるようだけど、鱗の切れ味に負けてしまったように見える。
一方で、蜘蛛は壁を駆け上りつつ糸を放出していく。そうして、麒麟似の上へと駆け上ったところで壁からジャンプした。その動作が、ムーンサルトと呼ばれる体操の技に似てることに引っ掛かりを覚える。
この動作によって、放出していた糸を一気に手繰り寄せたようで、ボールのようにまとめて固めた。
麒麟似の怪物は、口を開いて電気の塊としか見えないブレス攻撃を放つ。
一方で、蜘蛛のモンスターは尻から糸を放射して壁にぶつけると、自身を壁へと退避させることでブレス攻撃を回避して見せた。かなり賢い虫だ。
そうして、ブレス直後の口へと固めておいた蜘蛛糸の塊を放つ。
麒麟似の怪物は、急いで口を閉じていたようだが、紙一重で糸の塊が口の中に入り込んだようだった。吐き出すような動作で頭を激しく動かしている。不快なのだろう。
その隙を逃さずに、蜘蛛のモンスターは壁からジャンプして麒麟似の背に組み付いた。
頭を背に叩きつけた・・・ように見えたが、どうやら牙を背に刺そうと食らいついたようだ。しかし、鱗を貫通できずに何度も嚙みついている。
毒牙なのだろう。なんか怪しげな色の液体が、麒麟似の背を伝って落ちていく。
この瞬間、麒麟似の怪物が大声を上げた。
まるで「不愉快だ!」と叫んでいるようにも見えた。
空間が震度5に近い揺れを起こし、俺は落ちそうになったのでその場に伏せた。
直後、麒麟似の怪物が額より生やしている角から電気が迸った。かなり痛そうな音を放ちつつ、周囲を電光で染めるほどの出力で放出されている。
これに、蜘蛛のモンスターは震えながら呆然としているようだった。
電気の迸りを見て、「ヤバい!」と言うかのように右往左往し始める。どのように動くべきかの判断ができていないようだった。
俺でも「げげ! どどどどうする!?」ってアテレコできそうなほどの動揺ぶりだ。電撃を避けるための回避動作が、あまりにも遅過ぎた。
迸る電撃は、回避のために麒麟似の背から飛び退いた蜘蛛のモンスターに直撃し、その体を半分近く消し炭にしていく。
電光に呑まれて黒く焦げつつボロボロに崩れていく体。
残ったのは足と頭だ。まだ生きている様に見えるけれど、痙攣しているようだ。電気を受けたのだから当たり前ともいえるか。
「・・・行くか」
俺は、意を決して落下する蜘蛛の後を追うように飛び降りる。
見れば、麒麟似の怪物はトドメの一撃を放つために口の中で電気を溜めているようだった。
間にあうか? いや、間に合わせるしかない。
この手に持つ石の錫杖を鳴らす。それはもう、周囲に人がいれば「うるさい!」と怒鳴られるほどに鳴らし続ける。
「地の深淵に、我が力を以て求める」
俺の体から、大量の魔力が錫杖へと流れていくのがわかる。
心臓の動悸も激しくなっているが、これは極度の緊張からかもしれないので、よくわからない。
落ちていく蜘蛛のモンスターと、トドメの一撃を準備する麒麟似の怪物。その間にこの身を割り込ませる。幸い、蜘蛛の背後は壁だ。
「地獄門・地蔵合掌大道壁!!」
俺が技を発動させるのと、麒麟似の怪物が電撃のブレスを放つのは同時だった。
視界が電光一色に染まる中、両端から石像の手が出てきて電撃を優しく挟みながら合掌する。これにより、電撃は挟み潰されて霧散しつつ、電気は石像の腕を通って壁に流れていく。
だから、続けて技を発動させる。
「地の深淵に、我が力を以て重ねて求める!」
ちょっと声に力が入ってしまったが、大急ぎで発動させないとどうなるかわからないので、急ぐ。
「地獄道・地蔵菩薩大道人!!」
背後の壁から、石像が形を成して出てくる。
技名の通り、バカでかいお地蔵さまである。あの麒麟似の怪物に負けないサイズを用意したので、相当大きくなってしまった。あ、魔力の使い過ぎで体中が痛い。
だが、痛がっている場合でもない。
俺は、すぐに身を翻して落下中の蜘蛛に接近する。それから、体毛を適当に掴んだ。どこを触ればいいかもよくわからないので、とりあえず手が届いた場所の体毛を鷲掴みにする。
それから、手にしている錫杖を底に向かって投げた。
最初に落ちてきた時と同様で、錫杖から炎が噴き上がってからエアマットのような形状になってくれる。そうして俺を受け止めてくれるのだが、この手に掴んでいた蜘蛛のモンスターも共に支えてくれた。
で、さすがに俺の腕力では持ち続けられないので、着地と同時に手放す。
土煙を上げるほどの衝撃で、底に着地する蜘蛛のモンスター。
ほどなくして、巨大地蔵が降ってきた。
とんでもない振動で、俺は転んでしまった。が、すぐに身を起こして確認のために上を見る。
「・・・膠着状態か」
こちらを見下ろす麒麟似の怪物と、見上げる巨大な地蔵・・・すまない。光の巨人でない。石の巨大地蔵だ。シュールな気がする。
俺は、緊張からだと思われるが、息を呑んだ。
まるで、それを合図にしたかのように、麒麟似の怪物は踵を返して上昇していくと、俺が出てきた横穴とは別の横穴へと姿を消してしまった。
これはつまり、撤退してくれたというわけだ。
「よかった・・・助かった」
心底安堵した。
正直、この巨大地蔵を維持するのはキツイ。この5歳児の体には拷問に近い。
それに、あのまま戦闘続行となれば、果たして生き残れたかどうかもわからない。麒麟似ということは、相当な戦闘能力を持っていることは間違いない。対して、俺はまだ転生して幼いために、自身の能力も把握しきれていないのだ。
もう大丈夫だろう。
巨大地蔵は、そのまま後退して壁に背を預けると、ただの石へと戻っていく。誰が作り残した彫刻か?って後世の学者が混乱しそうな場違い感は否めない。
「ぎー」
生物的な音が聞こえてきたので、そっちを見やる。
俺が助けた蜘蛛のモンスターが、こっちを見つめながら鳴いていた。
「試してみるか」
いつぶりだろう。転生してから使う機会などなかった日本語を使うことにする。
ただ、久しぶりなのでまずは発声練習から始めよう。
「あ、い、う、え、お」
瞬間、蜘蛛は緊張したように全身を震わせて、足が落ち着きなく動いている・・・いや、蠢いている様子にちょっと引いてしまう。
こうして間近で見ると、蜘蛛ってキモイ姿をしているんだな。
「えーっと、君は、地球から、転生した、人間ですか?」
俺の問いかけに、蜘蛛は足を何度も振り上げては振り下ろして反応を示す。肯定しているんだろう。首を縦に激しく振るような動作だ。
しかし、これだと質問しても反応がわかりにくい。
「あの・・・俺が質問するので、正しければ一回。間違って入れば二回。足を一本だけ動かして、地面を突いてくれ」
トン。と、返事をしてくれた。
俺の言葉を理解してくれているようだ。地球からの転生者で間違いなさそうだな。よかった。
「さて、君の様子を見る限りだと、間もなく死ぬと思うけれど、死にたいですか?」
トントンと、前足を二回振って地面を突く。
「一応、助けることはできるけれど、かなり痛いと思うんだ。それでもいいかな?」
トン。と、前足を一回振って地面を突く。
「わかった。なるべく速攻で終わらせるけれど、我慢してくれよな」
俺は錫杖を振り上げつつ、蜘蛛のモンスターまで歩み寄る。それにしても大きい。見上げるほどに大きな蜘蛛だから、とりあえず大きな目と目の隙間に石の錫杖を力いっぱい突き立てた。
「ぎーッ!!!」
痛いのは分かるし、驚いているのもわかる。だが、こうしないと蜘蛛を生かす処置ができないのだ。だから、どうか我慢してください。
突き立った錫杖が光を放ち、俺の体から大道人を召喚した時と同等の魔力が急激に吸い上げられていく。これはキツイ。
そうして、錫杖が溶けるように形を失うと、俺から吸い上げた魔力ごと蜘蛛の頭の中へと消えていった。
直後、蜘蛛の身体がドロリと溶けだして蠢き始める。大変気持ち悪い様子に、俺も顔が青くなっていただろう。
だが、ここからが大変忙しい。
「地獄変」
この手に一本の巻物を召喚する。
「地獄道・地蔵菩薩錫杖術」
巻物から赤黒い炎が噴き上がると、これが石の錫杖へと姿を変えて、俺の手に収まる。
俺の体から魔力を吸い上げて、身体が溶けている蜘蛛を元の姿、形へと治すために魔力を流し込んでくれる。
そうして、俺は麒麟似の怪物と戦っていた姿を思い出しつつ、技を発動する。
「カタチナセ」
今、残っている身体の何割かを欠損した半身に回して大まかな形を整える。それから、記憶通りの姿を取り戻せるように成形した。
全体的にサイズダウンしてしまうが、そこは仕方ない。
あと、なるべくキモかわいい感じになってくれるようにイメージも上乗せしてみたが、これはダメだったようだ。
その姿は、蜘蛛の姿をそのまま再現して完全回復してしまった。サイズダウンはしたけれど。
それでも、5歳児なら数人はまとめて丸呑みできそうなサイズだ。正直、怖い。
〈ハッ!?〉
蜘蛛が意識を取り戻したようだ。
自分の身体を確認するように、八本足で横歩きをし始める。お尻を振って、その感覚をしっかりと得られたことに感動しているようだ。
〈やった! やったぁ! 治った! なおったぁあん! よがっだよぉおん〉
涙声で歓喜する様子に、端から見れば不気味な動きをする蜘蛛にしか見えないと、伝えづらかった。
「どうだ? なにか違和感はあるかい?」
地面を二回ほど、前足で突く。
〈うんにゃ! 大丈夫! すんごい痛くって、殺す気かクソがぁあ!って思ったけど、ちゃんと治してくれてよかった!〉
発音自体は生物的だが、声の質は機械音声のようだ。まぁ、それも仕方ないか。
「クソで悪かったね。あのように錫杖を突き立てないと、俺の魔力を流し込んでやれないんだ」
地面を一回突いて、蜘蛛は俺をジッと見つめてきた。
〈・・・ん? 言葉が通じている?〉
正確には通じていない。端から見れば「ぎー」という発音を連続で鳴らしつつ不気味な動作をしている蜘蛛にしか見えない。
しかし、現状で俺のみには蜘蛛の言葉が翻訳されて届く。まぁ、正確には翻訳ではないが。
「ああ、君の言葉はちゃんと通じているよ」
〈んあ!? 念話! 念話か!〉
残念だけど違う。
「残念だけど、念話じゃない。強いて言うなら糸電話に近い」
俺は説明する。
蜘蛛の頭に錫杖を突き立てたことで、今現在、頭の中には錫杖が入っている状態なのである。それは、俺から魔力を供給できるようにするためだ。
これにより、魔力が糸のように俺と繋がっている状態であるので、この糸を通じて蜘蛛の言葉が届いているというわけだ。
これを説明する。
〈ふーん、糸電話かぁ・・・作ったことないなぁ〉
「俺もない」
とりあえず、こうして無事に会話もできるようで、一安心だ。
〈ところで、君の名前はなんていうの? あと、なんで転生したん?〉
・・・ああ、そうだったな。まずは、自己紹介と転生までの経緯を説明しないとな。
「俺の名前はルッタ。ルッタ・レノーダ。対魔王兵器として、この異世界に転生した」
次は、転生までの流れを書く予定です。
読んでいただき、ありがとうございました。