1-92.期末考査1
すみません、ネネは登場しません。次回登場します。
「あー、まじで勉強したくねーわ。」
カイが窓の外の新緑の木々を見ながらそう言った。
「てめーとは初めて意見が一致した気がするぜ・・・」
サヤカとカイは勉強に追われる日々に嫌気がさしていた。クマ高校は対抗試合が終わると四月に文化祭があり、そしてそれ以降は行事が一切ない。要するに五月、六月は年一回の考査に向けて勉強する時期なのである。そして、七月の最初の週に期末考査があり、そこから夏休みが始まる。
「そうだけどさー、勉強も大事だよ。」
イオが笑って二人にお茶を入れてあげる。
「いやー、イオの笑顔見ると生き返るわー。」
「あんがと。」
サヤカはお礼を言う。
「どういたしまして。」
イオとサヤカはカイの発言をスルーする。
「ちぇ、無視かよ。」
ぼそりとカイは舌打ちをしていた。
ネストのリビングにはイオ、サヤカ、スミレ、カイ、ケリンがいた。ネネは諸事情で外出中だ。
「ほら、二人も。」
イオはスミレとケリンにも忘れずにお茶を注いであげる。
「ありがとう。」
「イオちゃんありがとう。」
「どういたしまして。」
スミレは勉強は嫌いではなかったが、なかなかできるようにはならないのであった。ケリンも同様である。二人とも努力家であった。
「実技なら大丈夫なんだけどな。」
「そうだね。」
ケリンが同意する。
ソフィアのメンバーはいろいろあって、実技だけは得意なのである。ネネが苦手な人に魔法を教えたり、実践に近い形の訓練をレイリから受けたりした結果である。しかし、その分学業が疎かになっていたのだ。
「君たち、実技はずば抜けてできるのに筆記は全然だね・・・」
臨時の担任のアルベール先生からも呆れられてしまったほどである。ちなみに、アルベール先生の担当は三年生なのだが、この時期は就職活動をしており、ほとんど授業は行っていない。だから、臨時の担任ということでソフィアを教えているのである。
そうは言っても、全員が全員勉強ができないわけではない。ヘイド、ネネ、マコトはもうすでに試験勉強を終えている。そして、まあまあできるのがイオである。その他は勉強の才能は全くと言っていいほどなかった。
ケリンとスミレはまだいいのだ。スミレはネネ様の隣に堂々と並べるようになるという一心で勉強に励んでいるし、ケリンは真面目なのできちんと取り組んでいる。
問題は馬鹿二人組であった。サヤカは天才型なのだが、勉強は嫌いであり意欲がなさすぎる。カイは頭脳的には普通なのだが、やはりサボり癖がついており、勉強のやる気がない。
そして、一番かわいそうなのはイオであった。ネネ、ヘイド、マコトに問題児たちの勉強を見るようにと頼まれていたのだ。
正直、イオは断ろうと思っていたが、マコトに頼まれてしまったので仕方なく受けてしまった。
「ほんとさ、イオって損な性格してよねー。」
イオは独り言をいう。
「イオちゃん、ちょっと教えて。ここの整数の問題なんだけど。」
「ああ、これは最小公倍数を文字でおいて・・・」
こうして勉強会は進んで行ったのだった。
「カキン。」
剣が交わる音が聞こえる。
「うおおおお。」
ヘイドが力任せにマコトを押し倒そうとする。しかし、マコトはヘイドの剣を流した。ヘイドの体勢が崩れる。そして、マコトはヘイドの喉元に剣先を突きつける。
「参ったよ。」
ヘイドが体の力を抜く。そして、そのまま闘技場の床に倒れ込む。
「ヘイド、ストレスでも溜まってるのか?」
「・・・何でそんなことを聞くんだ?」
「いや、少し力みすぎている気がしてね。婚約もしたのに、浮かない感じだし。」
「・・・・」
マコトは少し言い過ぎたかと思う。闘技場の席では使い魔のディアがマコトをにらんでいた。
「少し意地悪なことを言ったかな。単刀直入に聞くよ。ネネを諦めきれないのか?」
その瞬間、ディアがマコトにものすごい速さで殴りかかろうとする。ヘイドはまるで分っていたようにその攻撃をかわした。
「ご主人様にそんなこと言わないでください。」
ディアは攻撃がよけられたのに苛立ちながら、それよりもマコトの態度に苛立ちながら、手の上に暗黒球を用意していた。
「ディアやめろ。」
ヘイドが立ち上がる。
「ですがご主人様・・・」
「やめろ。」
「もう少し頭を使ったほうがいいんじゃないか、ディア?君の行動は僕の言葉を肯定しているようにしか見えない。」
「くっ。」
「マコト、俺の使い魔をいじめないでくれ。」
「すまんな。それで、どうなんだ?ヘイドがネネのことを知ってる。」
「へ?」
ヘイドは呆けてしまった。忍ぶれど、みたいな感じだ。どうして知ってるのか?俺はそんなにわかりやすかったか?ちゃんと誰にも言っていないのに。
「ご主人様―、だいぶわかりやすかったですよ。」
ディアは客観的事実を知らせる。
「そうか・・・」
ヘイドは露骨にがっかりする。もしそうであるなら、ネネは俺の気持ちに気付いているはずだ。それなのに、ネネはもうユグノーのものになってしまった。近くにいたのに、届いたかもしれないのに。始めはネネが俺の気持ちに気が付いていなかったから、仕方がないと思っていた。
しかし、気が付いていたとすれば、それはもはや俺のせいでしかない。あの帆船レースの夜告白しておけばよかった。いや、告白できる機会なんていくらでもあったのに。俺は易々とその機会を手放してしまった。もちろん、受けてくれるかどうかはわからない。今考えれば、ネネは俺の気持ちを知っておきながらユグノーと婚約したのだから、俺は何とも思われていないのだろう。
後悔はしたはずだった。ネネの婚約が発表されてから。しかし、今以上に後悔はしていなかった。すべては俺の怠慢のせい。手の届く場所にあると勝手に思い込んで安心していた俺のせいだ。
「その様子だと、本当に諦めていないようだな・・・」
「そうだ・・・」
ヘイドは断言した。
「誰にも言わない。ただほんの少し気になっただけだ。」
マコトはヘイドの肩をポンと叩き、競技場を後にしたのだった。
忍ぶれど、というのは
忍ぶれど色に出でにけり我が恋はものや思うと人の問うまで の和歌を指しています。




