1-90.転生者4
「えっと・・・冒険者がダメなら、勇者とか?」
「勇者?」
レイリが尋ねる。
「もしかして、魔王を倒すっていう勇者かい?」
「はい、そうですけど・・・」
「残念ながら、勇者という職業も存在しないよ。魔王ならいなくはないけど。」
「えっ、何で魔王はいるのに勇者はいないんですか?」
「必要ないからだよ、昔はいたんだけど。その時の魔王は今の魔王じゃなかったし。」
「勇者なんかいたっけ?レナ。」
「レイリが興味なかっただけでしょ・・・」
「まあいいや。」
僕は戸惑っていた。勇者がいなくて魔王がいる世界って終わってない?もしかして、魔王が世界征服しちゃったみたいな。勇者は絶滅して神々に捨てられた世界みたいなノリかな?
意外にも曹の予想は間違っていなかった。
「もしかして、この世界終わってます?」
「うーん、まあ、そのうちやばくはなりそうな感じかな。」
「もしかして、魔王が世界征服した後みたいな感じですか?」
「うん、それは・・・そうだね。」
オワタ。この世界終わってるぞ。何で僕はこんな世界に来てしまったんだ。いやいや、僕はこの終わった世界から人間を救うんだ。僕が勇者になってやる。
曹はベーリーポジティブだった。
「よし、わかったぞ。僕が勇者になってこの世界を魔族の脅威から守るんだ。」
意気揚々と曹は立ち上がった。しかし、周りの反応は冷ややかなものであった。
「えっ・・・」
「うわー。」
レナもレイリも引いていた。
「中二病ってイタイね・・・」
レナが思わず毒を吐く。
「魔族ってだいぶ時代遅れな発想だな。」
レイリの着眼点は別のところにあった。
「時代遅れとは?」
曹は段々恥ずかしくなって席に座った。
「魔族なんてものはほとんど存在しないんだよ。僕がまだ小さい頃はあったんだけどね。帝国ができてから交配が進んで純系の魔族なんていなくなったんだよー。」
ちなみに昔いた魔族も見た目はほとんど人間と変わらなかった。唯一違うのが魔力量だ。魔力量が魔族のほうが人間よりも多かったのだ。しかし、その代償として魔族は意外にも短命だった。平均寿命が五十歳前後だったのだ。その点に関しては人間は当時でも八十歳とエルフには劣るものの比較的長いものだった。
今日では人間は三十パーセントくらいは魔族の血を引いているらしい。医療体制の整備や回復魔法の充実によって平均寿命は八十歳前後となっている。
しかし、エルフとドワーフと人間の交配はこの二千年間であまり進んでいない。もともと、エルフとドワーフはヴィア大陸に多く存在しており、集住もしていた。帝国の支配下に入ったあとも変わらずそのままその場所に住み続けたのだ。今はエルフ自治区、ドワーフ自治区としてある程度独立した存在になっている。
そもそも、エルフと人間のかかわりは薄い。ドワーフはそうでもないのだが。あとはやはり寿命の差というものが大きい。エルフ、ドワーフは両者ともかなり長命で平均寿命は百六十年くらいで長生きすると二百年程度は永らえることができる。
彼らとしては愛するものに先立たれてその後、百年近く一人で暮らしていくのが嫌なのだ。もちろん、再婚という手はあるが、エルフとドワーフには誠実な人が多いそうなのでそのような話はあまり聞かない。
話がだいぶそれてしまったが、戻そう。
「なるほど、人間は知らないうちに魔王に支配されてしまったのですね。」
レナとレイリがこいつ何言ってるんだという顔をする。
「少し、昔話をしよう・・・」
「あっ、この世界の設定話すイベント来た!」
「イベント?」
「レイリ、放っておけ。それでね、昔々あるところに先代魔王に王位を譲られたまだ未熟な魔王がいましたとさ。その魔王の国に当時列強の一つであったクルメ帝国という国が攻め込んできました。
そして、あろうことか、ただのクルメ帝国の暴走で始まった戦争は世界大戦へと発展しました。何でだろうね?」
「レナがそれを言う?どうせ裏で煽ったりしたんでしょう。」
レイリが突っ込む。
「レイリは黙ってて。」
「そして、世界全体はその魔王の国、当時はノイン帝国と呼ばれた国を敵とみなし、戦争を仕掛けて、結局いろいろあってその魔王が世界を統一して世界帝国と呼ばれる今の帝国を作ったわけだよ。うんうん、我ながらよくまとまっている。」
「いや、いろいろ説明省いたでしょ。」
「まあ、そんなことは置いといて、理解した自称主人公君?」
「あっ、はい。要するに魔王は悪くないと言いたいということですか?」
「うんうん、そう魔王は何も悪くなった。」
「私は一番の悪者は魔王だったと思いますけどね・・・」
レイリがぼそりとつぶやいた。
「レイリも大概悪者だったと思うんだけどな。」
「魔王が統一した後はどうなったんですか?」
「普通に今まで二千年間平和だよ。」
「ん?」
ちょっと待てよ・・・地球の国で一番古いのは、確か日本って言われてるよな。大和朝廷が五世紀くらいの話だから実質千五百年くらいだし、大日本帝国滅んでるしな。イギリスとかでも精々千年くらい。中国は何度も滅んでるし、アメリカも建国三百年くらいだし。
となるとこの帝国すごくね?よく滅ばなかったな。世界帝国って大体滅ぶイメージあるんだけど。(作者注:その認識は間違っていません。アレキサンダー大王の帝国もローマ帝国もロシア帝国もオスマン帝国も滅んでいます。大体、大国ほど滅びやすい傾向にあると考えられます。)
「それってだいぶすごくないですか?」
「そうなんですよ、すごいですよね。作った人まじ天才ですよね?」
なぜかレナがぐいぐい距離を詰めてくる。
「そうですね。」
僕は目を逸らして返事をする。
横でなぜかレイリが少し笑っていた。
ネネ:私主人公なのに出番なくないですか?
作者:何ですか、自称主人公さん。(真似)
ネネ:次は出してください(上目遣い)
作者:どきっ。(少し間をあけて)次々回くらいになるかな・・・




