1-86.帝都での春4
ネネはその後、ユグノーと合流しまた挨拶を延々とした。そして、やっとネネは食事にありつくことができたのだった。
「お腹すきました・・・」
ネネは席に着く。目の前には取ってきた食事が並んでいた。
「そんなに食べるのかい?」
ユグノーも料理を取って来ていたが、ネネほどではなかった。
「ええ、今日はいろいろ疲れましたし。」
しかし、この人と食事をしなければいけないのですか・・・婚約者だから当然ですけど。ネネはなぜかユグノーとの食事に抵抗を感じていた。本能が告げていたのだ。このままでは危ないと。
メインのお肉をナイフで細かく切って食べる。うん、肉の味がしておいしいですね、ソースにもあってますし。ネネは美食家ではあったが、食レポの才能はなかった。何せ、高校に通う前は週三回以上高級レストランで食事をしていたのだ、当然舌も肥える。量の多い料理にも慣れていたし、ネネはいくら食べても太らない体質だった。
「あい、あーん。」
ユグノーが彼のフォークをネネの口元へ持っていく。
「食べないといけないのですか?」
ネネは冷めた口調で聞く。そして、冷たい視線をユグノーに送る。
「婚約者なのだからいいじゃないか。」
「・・・」
ネネは黙って彼のフォークにあった肉を食べた。
「おいしい?」
「普通です。冷めてますし。」
このようなパーティーでは料理が冷めることもある。ネネは温かい料理を選んで持ってきていたが、ユグノーはそうではなかった。
いつまでこの地獄が続くんですか?ネネは内心悲鳴を上げていた。
「ほら、あーん。これが最後だから。」
私は大食い選手権でもやらされているのでしょうか。
ユグノーはネネにあーんをして食べさすことが気に入ったようで、自分の料理のほとんどをネネに食べさせていた。そして、彼の料理がなくなったら終わりだと思っていたのに、彼は、
「取ってくるね。」
と言ってまた一人前取って来てネネに食べさせていたのだ。
「もう無理です。」
「そんなこと言わず、ね?」
ネネはユグノーの拷問に耐えられず、席を立ってユグノーから逃れた。
「ここまで来れば大丈夫でしょうか・・・」
ネネは広いパーティー会場の端に立っていた。パーティー会場は途轍もなく広かった。当分の間は見つからないでしょう。それにしても、お腹いっぱいです。私を豚にでもするつもりでしょうか、あの人は。ユグノーは好意でやっているのかもしれませんけど・・・いや、あれは拷問です。好意によるものではありません。うん絶対に。
「あれ、ネネ?」
ぼーっと突っ立ていたネネに声をかけるものがいた。
「ヘイド?ここで何してるの、あなた主役でしょ。」
「それをそっくりネネに言い返したいよ・・・」
「ああ、私はたった今あーん地獄から逃れてきただけですよ。」
「何それ。」
「ユグノーが延々とあーんをしてくる地獄です。」
「それは・・・地獄だね。」
ヘイドは他に言葉を探したが、地獄としか称しようがないものだった。
「ヘイドは?」
「まあ、俺も同じようなものか。リテラがちょっと積極的過ぎて困って、距離を取っているだけ。」
ヘイドは少し言葉を濁した。
「それは地獄ですね・・・まあ、兄弟だから似てると言えば似てるのでしょうけど。」
「それにしても、ユグノーさんがあーんなんて想像できないな。僕の印象だと冷徹な感じだったんだけど。」
リテラとヘイドは小さいころからよく遊んでいたが、ユグノーはネネたちより三歳年上でヘイドはユグノーに関わることはほとんどなかったらしい。リテラから聞く話だと、少し気難しい人だけど、やさしいと言っていた。兄弟仲はそこまで悪くないらしい。
「そうですか・・・」
話題がなくなり、二人の間に気まずい空気が流れる。
ネネは俺のことをどう思っているのだろう?結局リテラと婚約することになったし、裏切ったとか思われているのかな。そもそも、先に裏切ったのはネネなわけだし・・・というか、そもそも俺たちは一回も付き合っていないのだから何も問題はないじゃないか。
それでも、リテラという婚約者がいても、ヘイドはネネのことが諦めきれずにいた。何しろ初恋にして、今もまだ恋をしているのだ。ヘイドにとって初恋は特別なものだ。それは誰しもにとってもそうかもしれない。だが、彼は人一倍、初恋は永遠という幻想を抱いていた。もちろん、その恋が実れば、実れる範囲内にあれば、それは現実となるかもしれない。しかし、今のネネとヘイドの状況では全く無理であった。むしろ、義理の兄弟という微妙な関係にさえなるのだ。
ヘイドはそれを理解しつつも受け入れられなかった。ネネの婚約でさえ受け入れられなかったのだ、到底受け入れられるものではない。確かに、ヘイドは幸せかもしれない。リテラはヘイドのことを愛してくれている。少なくともそうは見える。いつからリテラは俺のことを恋愛対象としてみていたのだろう。どこで俺は間違えたのだろう。ネネとあった時から?リテラに惚れられた時から?それよりもっと前から?
自問しても答えは出てこなかった。いつもなら、ディアが慰めてくれる。使い魔は主人の心情変化には敏感なのだ。ネネへの想いが筒抜けなのは少し嫌だが、使い魔なのだから仕方がないと割り切っている。
「ご主人様は、かわいいから大丈夫ですよ。」
ディアはよく俺を慰めてくれるときに膝枕をしてくれる。そして、強引に胸を触らせたりしてくる。それは半分くらいしか、慰めにはならないのだが・・・まあ、ヘイドの心を落ち着かせてくれること確かだった。
「脈ありだと思いますけど・・・」
ディアはよくそう言っていたが、今思うと気を使っていたのかもしれない。
ネネはヘイドほどではないが心の中が荒れていた。
ヘイドに嫌われてしまいましたかね・・・まあ、もとはと言えば私が婚約したのが悪いんですけど、わざわざあの女狐と婚約しなくてもいいじゃない・・・今度コテンパンにする機会があれば本当にコテンパンにしてやりましょう。やはり、ヘイドは私に愛想をつかしたのかしら、恋はすぐに醒めると言いますしね。当の私は全く醒める気配がないのですけど・・・
そもそも、私の片思いだったかもしれません。ヘイドは昔からリテラが好きだった?
でも、だとしたらクマ高校に入って私と同じアルティに入った理由がありませんし、リテラのことはやはりあまり好きではないのでしょう。もしかしたら、私はリテラが彼のことを諦めさせるために利用された?
ヘイドはそんなことをする人ではないはずです・・・わかりませんね、あんなに色気のある使い魔を連れておきながら手を出していないようですし。もしかして、女性に興味がないのかもしれませんね。では、最初にあった時の初々しさは何だったのでしょうね。やはり、醒めてしまったのでしょうか?
二人の思考は平行線上にあった。そして、自問しても答えが見つからないものなのは確かであった。
「ヘイド。」
「ネネ。」
二人の声が重なる。
「何でしょう?先にどうぞ。」
「えっ、ネネこそ何を言おうとしていたの?」
「ヘイドは・・・」
ネネが聞こうとした瞬間に二人の会話は遮られる。
「ヘイド、こんなところにいたの?ほら、私と踊りましょうね、ね?」
いつになくテンションが高いリテラがいた。
「ネネ、こんなところにいたんだ。もう逃げられちゃったと思ったよ。」
「逃げたんですよ。」
そして、二人はアタランタ家の兄弟にそれぞれ拉致されていったのだった。
レイリ:二人の恋が叶う日は来るのでしょうか?
レナ(アレ):うちの娘だから無理してでも叶わせそうだね、ね?(威圧)
作者:いくらネネでも無理じゃないですか?
レナ:いやわからんよ。(威圧)
作者:そっすか、考えておきます。
レナ:よろしく、うちの天使をさ。
レイリ:(やっぱ、アレ様すごくね・・・)
作者:あっ、はい。(冷や汗・・・)




