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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
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1-84.帝都での春2


「腰回りはきつくないですか?」

「ええ。」

 メイドはネネのドレスの調節をしていた。


「ネネ様もうそろそろお時間です。ユグノー様をお連れしました。」

 チャコが控室の扉をノックした。

「わかりました。」

 ネネはそう答えて扉を開ける。そこにはチャコとユグノー・アタランタがいた。今日はネネとユグノーの婚約披露宴である。すでに、世間には公表されているが、正式に婚約したことを発表する場である。ちなみにフタバはお留守番である。別れるとき、少し寂しそうにしていたが、流石に連れてくるわけにはいかなかったのでおいてきた。

 婚約披露宴はダザイフの郊外にある、サンシー宮殿の光の間で行われる。この宮殿は世界最大の宮殿で宰相家の権威を示すものとなっている。毎年、パーティーなどが行われている。しかし、ネネは初めてここに来たのだった。


「今日もとてもお美しい。」

 ユグノーは微笑を浮かべてネネを褒める。

「ありがとうございます。」

 ネネも微笑みかえす。

「では行きましょう。」

 ユグノーは手を差し出した。ネネは彼の手を取り進んでいった。


 今日の主役はもちろんネネとユグノーだが、もう一組婚約発表を行うことになっている。それはリテラとヘイドだ。

 聞いた時は驚きましたけどね・・・政略結婚なので仕方がありません。それにしても、リテラにしてやられたというべきでしょうか。まあ、ケンブルク家がアタランタ家から婚約の申し出があれば受けないわけがないのですけど。

 アタランタ家は代々宰相を務めている。帝国の帝位はアレの後継者が継ぐはずであったが、跡継ぎがいないまま他界したので、宰相家が実質皇帝をしている。十貴族も権力を持っているが、宰相家以上の権力を持っている家はない。世界の最高権力者は宰相なのである。

 

だから、十貴族のケンブルク家ですら、アタランタ家の要請には応じないといけない。また、ケンブルク家はアタランタ家の仲はいいのでなおさらである。

アタランタ家の要請を唯一無視し得るのは、アンジェラ家だけだ。アンジェラ家は二千年前から政治権力を全て失ったので、要請に応える必要がない。また、世界のGDPのうち、約六割をアンジェラ財閥が占めている。アンジェラ家が持つ経済力は計り知れないものなのだ。帝国では長年、政治のトップはアタランタ家、経済のトップはアンジェラ家とすみ分けをしていた。今回の婚約は両家の態度を百八十度転換したものであったので、世間を驚かせたのだった。


 それに、ネネはアンジェラ家の当主、そしてユグノーもアタランタ家の当主であるので、本来は二人の婚約は有り得ない。どちらかの家がなくなることになる。そして、帝国では男性の氏を継承するのが一般的であるので、アンジェラ家がアタランタ家へと吸収されるような構図となっている。世界史でいうところのイサベルとフェルナンドによるスペインの統一みたいなものだ。一見、アンジェラ家にとって不利な内容である。しかし、ネネは婚約する条件として、あるものを要求した。


 それはアンジェラ家の政治権力の回復である。具体的には十人衆会議での発言権、議決権である。帝国の政治の仕組みは基本は三権分立であるが、議会にあたる帝国議会はすべて政治貴族によって構成されている。司法、行政は一般から登用している。

 

そして、帝国の最高議決機関は十人衆会議である。これは十貴族である、ヒエダ家、アタランタ家、アンジェラ家、ケンブルク家、テロメア家、コロイド家、ムカイ家、トレニア家、ハナニラ家、ネクローシス家である。しかし、ヒエダ家は途絶え、アンジェラ家は発言権がなかったので、実質八家で支配していた。議決方法は過半数の賛成で、他の機関の決定よりも優先される。

だから、ネネはアンジェラ家が十人衆会議での発言権と議決権を得ることで政治権力を回復しようとしている。そして、アンジェラ家が吸収されるという問題についての解決策は考えているのだった。


今のところ、アタランタ家はネネの手のひらの上で踊らされているということである。しかし、アタランタ家としてはアンジェラ家の経済力は魅力的であるが、これは屈辱的な婚約であることは間違いないだろう。政治権力を一時的に回復させてしまうということ、そして、アンジェラ家は十貴族とはいえ、政治権力を持っていない家。アタランタ家から見るとただの商人みたいなものだ。


 それにも関わらず、今回の婚約が成立したということはアタランタ家が余程危機的状況にあるかということの裏返しでもあるのだ。

 後世の歴史家たちは『イーストファリア条約によって帝国崩壊のカウントダウンがはじまり、この婚約によって帝国は時限爆弾を抱えてしまった。』と評している。


 そんなことはさても知らず。披露宴は進行していく。少なくとも、帝国の内情を把握している者はこれから好転するだろうという希望を抱いていた。アンジェラ家による財政支援があれば今の赤字を解消できるだろうという希望を。


「ユグノー様、ネネ様が入場されます。」

 アナウンスが会場に響き渡り、正面のドアが開かれる。そして、ネネとユグノーは腕を組みながら入場する。二人とも美男美女ということもあり、参加者の視線が二人に集中する。二人は空いた手を振って声援にこたえる。

「お似合いだわ・・・」

「ユグノー様、素敵・・・」

 会場はざわざわしていた。


「続いて、ヘイド様、リテラ様が入場されます。」

 ネネたちが出てきた扉から、ヘイドとリテラが同じように腕を組みながら出てくる。違うところと言えば、リテラがヘイドにべったりとくっついていたことだ。

「こちらもお似合いですなー。」

「幼いころから一緒でしたものね。」

 などという声が聞こえる。


 そして、一旦会場が静まると、一人の男性が前に出てきた。それは帝国の宰相、パース・アタランタだった。

「集まってくれてありがとう。今宵は思い存分、踊って食べて話してほしい。しかし、その前に発表しなければならないことがある。」

 パースは咳ばらいをした。

「おほん、私、パース・アタランタはここに我が息子ユグノー・アタランタとネネ・アンジェラの婚約をここに宣言する。二人とも帝国の繁栄のために大いに尽くし給へ。」

 会場に拍手が巻き起こる。パースは静かになったところでまた話し出す。

「めでたいことにもう一つ発表することがある。我が娘、リテラ・アタランタとヘイド・ケンブルクの婚約をここに宣言する。」


 こうして、婚約披露宴は始まったのだった。


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