1-78.対抗試合14
ケリンとエスタドスは相変わらず膠着状態だった。ケリンは他の魔法を発動させようとしてみるが、ネネやマコトのように器用ではないので、身体強化と防御魔法で精一杯だった。そこで、ケリンは防御魔法の発動をやめて 、草魔法のバインドと発動させた。エスタドスの足元から緑色の植物が生えてきて、足に絡まる。
ケリンはそれを確認すると、少し体を引いた。エスタドスは踏み出そうとするが、バインドのせいで踏み出せずそのまま倒れ込んでしまう。そこにケリンは容赦なく切りつけた。もちろん歯は潰してあるので、エスタドスは気絶した。
「おお、エスタドス選手が気絶したのじゃ。本日初めの脱落者じゃな。」
「そうやけどな、まだあそこの戦場ではうちらのほうが数が多いんや油断せーへんかったら、あそこでは勝てるやろ。」
もちろん、これは盆地の外側の山々で全体を俯瞰するように設置されて観客席にしか聞こえていない。だから、やっている本人たちは誰が脱落したか、していないかはわかっていない。
脱落者の回収は先生たちが素早く行い、脱落と判定された場合は戦闘を継続してはいけないことになっている。
もし全員が脱落した場合、残ったチームのほうが勝ちになるので過去にはそれを狙って全員が籠城するという作戦を取ったチームもあったらしい。食料の関係上三日で攻めるほうも守るほうも疲弊し、引き分けに終わったそうだ。
サヤカはエスタドスが脱落したことを確認すると、ネネに向かって発行信号を送った。所謂モールス信号の簡易版である。戦況をネネに伝えたり、ネネが他の人に戦況を伝えたりするために使っており、全員が一通りの暗号を覚えている。
「あら、二班から発行信号ですね。」
ネネは光っているほうの暗号を解読した。
「三回短く光ったので敵側の脱落者一名ですね。」
しかし、まだ二対三、油断はできません。
「よくやったぞ、ケリン。」
「ありがとう、でも油断大敵。」
ケリンは相変わらず真面目だった。
サヤカはケリンのほうに近づいた。そして、両チームは森の中で少し開いたところで向かい合わせになった。
「全く困ったものですね、チャチャ様に合わせる顔がない。」
ラスクがそう言った。
「本当に嫌ですわ、私が戦わないといけないなんて。」
オデッサは流石に指揮を執っているだけではいけないと気が付いたようだった。始めからそうしていればこのようなことにはなっていなかっただろう。
「出てくるのが遅いんだよ。まじで。」
ヨユンはオデッサを批判した。
「私は面倒ごとは嫌いなのです。どうせ、相手は魔術大会にも剣術大会にも出ていない雑魚だけですから。」
ちなみに、クマ高校は優秀なアルティが城取合戦に出場するが、キョウ高校は成績上位者が出てくる。クマ高校はチームワークを重視し、キョウ高校は個々の力を重視しているということだ。
まじか、あいつ出てくるのかよ、マコトだから余裕であしらっていたけど、俺には無理だな・・・もう二人は、一対一では勝てるかもしれねーけどよ。
「まじいな。」
「だいぶ。」
ケリンもサヤカに同意する。
「俺が二人引き寄せるから、その間に各個撃破頼めるか?」
サヤカは敵に聞こえないようにこそこそとケリンに伝える。
「はい、なんとか頑張ります。」
「よろしくな。」
「はい。」
ケリンは幸いにも剣を持っており、敵は誰も剣を持っていない。ケリンが懐にさえ入れれば勝機は十分にある。二人の作戦は決まった。
敵は作戦会議もすることなくそのまま突っ込んできた。ヨユンが前方に出てきて、残りの二人は動かなかった。
「ケリン。」
「はい。」
二人は作戦通り、二手に分かれた。ケリンは向かってきたヨユンの相手を、サヤカは動かなかったオデッサとラスクの相手をすることにした。
サヤカは威嚇程度にファイアーボールを二発、二人に向かって打つ。
「消えろ。」
言霊の魔法によってあっさりとオデッサの方は消され、ラスクは防御結界によってほとんどダメージは受けていないようだった。
「私たち二人を相手取るわけですか、舐められたものですね。」
「そうですね、しかし、これは好機、頑張りましょう。」
サヤカの攻撃は失敗に終わったようだが、ヘイトは集められたようだった。
そこからは防戦一方だった。サヤカは攻撃を試みるも、オデッサの言霊の魔法によって無効化され、全くダメージを与えられない。そして、もう一人のラスクには攻撃は効いているようだが、戦況に影響するほどのダメージは与えられていない。
一方、ケリンはヨユンの防御を突破できないでいた。近づいても魔法で牽制されてしまうし、何より魔法によってダメージを受けてしまう。
一進一退の攻防が続いていた。一応、ケリンも土魔法のメタルロックを放っていたが、命中率は悪く、当たっても大したダメージにはなっていない。そして、相手も同じようにエレキボールなどの雷魔法を放っているが、ケリンは身体強化で素早さを上げて回避していた。
「早くケリをつけないと・・・」
ケリンは焦っていた。横で戦っているサヤカが押されていたからだ。
「くっそ、当たらねーな。」
ヨユンはヨユンで苦労しているらしかった。
そこで、ケリンは賭けに出た。まず、防御魔法をなくし、もう一つの魔法の準備をした。「この魔法は一度使ったらもう一度は使えないので注意してください。」
ネネが親切に魔法を教えてくれていた時そう言っていたのを思い出した。
「いや、別に何回でも使えるのですが、一度見られるともう効果はないので、猫だましみたいな感じですね。」
ケリンはヨユンの防御を突破しようと走り出す。そして同時に唱えた。
「フラッシュ。」
ケリンの前に差し出した右手がパッと一瞬まぶしく光る。
「魔法の継続時間は一秒弱です。その時は絶対に目を閉じてください。自分の魔法で目が見えなくなるのは洒落になりませんからね・・・」
ネネの言葉が頭に響く。
ケリンはタイミングよく目を開けた。相手は視界が奪われているようだった。ケリンは一気に相手の魔法が飛んでくるであろう軌道を避け、突っ込んでいく。
「目が、目が・・・」
ヨユンは目を押さえている。戦いどころではなさそうだが、魔法をケリンのいた方向に向かって打っていた。それはケリンに当たるはずもなく、ケリンは相手の懐に入って、エスタドスを倒したときと同じ要領でヨユンの首に剣で切り込み、見事気絶させたのだった。
城ではネネが天守閣の最上階でケリンのフラッシュの光を観測していた。
「どうやらケリンはフラッシュを使ったようですね。特訓した甲斐がありました・・・」
そう、独り言を言っていた。
しかし、そこからは二人の逆転というわけにはいかなかった。サヤカはヨユンが倒されたときはもうすでに二人に追い込まれていた。
「ふふ、もう終わりにしましょう。」
「そうですね。」
「くっそ、ケリンすまん。」
オデッサの爆発魔法によってサヤカは意識を失った。
「サヤカがやられた・・・」
一人になったケリンはラスクに近づこうとしたが、流石に二対一では歯が立たずあっさりと敗北してしまった。
「二人も脱落するとは想定外ですわ。」
「仕方がありません、早く相手の城に向かいましょう。」
ラスクは残念そうにそう言った。
「あら、二人向かってきていますね。ということはサヤカとケリンは脱落したということでしょう。まあ、仇はちゃんと取りますから・・・」
そう思っていた時、中央の山の中腹から発行信号が見えた。
「どうやら、ヘイドとスミレは山を越えられそうですね・・・」
ネネは少し安心した。
「ネネ様、信号見えたでしょうか。」
「ネネのことだ、敵に悟らせないように返さないだけで見ていると思う。」
二人は相手の城へと足を進めて行った。
次回はカナたちの戦いを書きたいと思ってます。
裏設定です、読まなくても支障はありません。
ソフィアの人々
1.ネネ・・・得意魔法は暇の魔法、転移、結界魔法。属性としては闇が得意。光は大の苦手。その他は普通に使える。魔力量は相対値1000、普通の人と比べれば多いが、魔法使いとしては少ない。
2.マコト・・・氷魔法一筋。しかし、その他の魔法も遜色なく使える。魔力量3000
3.スミレ・・・水魔法が得意。その次に雷、風と続き、炎、草は全く使えない。魔力量400
4.ヘイド・・・闇が得意、しかし、その他の探知、身体強化なども得意。他の魔法は今頑張って覚えている。光も使える。魔力量600これからもっと上昇予定。(入学当初は0だった。)
5.カイ・・・風、雷が得意。その他も使える。魔力量600、意外に才能がある。
6.イオ・・・光魔法が得意。闇、水魔法はほとんど使えず。その他は普通。魔力量800
7.サヤカ・・・炎魔法が得意。水、草は全く使えず。その他は普通。魔力量500
8.ケリン・・・身体強化、土と草が得意。その他はあまり得意ではない。魔力量200、ケリンが魔法に苦手意識を持っているのは魔力量の小ささ故。
その他
1.チャチャ・・・箱庭の魔法(結界系)、思考加速、光魔法が得意。その他も普通に使える。魔力量5000、ネネが負けたのはこれのせいと言っても過言ではない。
2.リテラ・・・風、炎、時間停止魔法が得意。その他も普通に使える。魔力量4000、多い割には変換効率が悪く、ネネに負けてしまう。
3.カナ・・・思考加速、水、光が得意。無口な故『無口の魔法使い』と呼ばれている。魔力量6000。
魔力量は暫定です。今後コロコロかわるかもしれませんし、成長すると思います。




