1-77.対抗試合13
『カナ、敵が三人、十字方向から接近中。』
『ん。』
カナは森の中を走っていた。そして、ネネに言われた方向に意識を向けると確かに人の気配が感じられた。
『戦闘に入っていいけど、増援が来たら即時撤退せよ。』
『ん。』
押して、後ろのカイとイオに敵がいるということを無言で伝えて、三人は走りながら臨戦態勢に入る。
『決して囮だということを悟られないように。』
『ん。』
囮と悟られたくないならこのまま強行突破したほうがいいのでは?と思うカナだったが異議を唱えることはなかった。
「もらったー。」
茂みから現れた敵がイオに襲い掛かるが、彼女はそれを軽くあしらった。しかし、他の敵はそうもいかないようだった。
三人はその敵を一瞬で戦闘不能にして、止まった。
「相手の動きが早いみたいだねー。」
「そうだな、まあ、俺様の足元にも及ばないけどな。」
カイはわざと挑発しているのかはわからないが敵を挑発した。
敵はその安い挑発には乗らずいまだに身を木々の中にひそめていた。城取合戦の舞台は未開発の盆地で両陣営の城は少し高くなっているところに聳え立っていた。二つの城同士の距離は直線距離で三キロメートル、しかし、盆地の真ん中に少し低い山のようなものがあって相手の城の位置は見えない。
相手の城の中にある魔石に触れば勝ちでその魔石は城の最上階に設置されている。城取と言っても別に城を制圧しなくとも魔石にさえたどり着けば勝ちという試合である。ちなみに箒の使用は禁止されている。また、ディアやフタバのような使い魔も存在するため、使い魔の参加も認められていない。
ネネたちの作戦はこうだった。まず、ネネを城に残し、その他は攻撃に出向く。攻撃班は三組でカナ、イオ、カイが一班、ケリン、サヤカが二班、スミレ、ヘイドが三班で一、二班は囮で敵の意識を引き付ける。そして、三班が本命でばれずに城までたどり着き、魔石を触るという手はずになっている。三班の侵攻ルートは敵の警戒がもっとも薄いであろう山越えのルートであり、囮の班のルートは山を迂回するようなルートである。
そして、今は森でカナたちが戦闘に入ったようである。ネネは天守閣から森を見下ろしていた。カナたちが敵と出会ったのは相手の城との中間地点くらいだから、概ね計画通りですね・・・しかし、三人かあ、微妙いな。
敵もこちらと同じ八人、城の防衛は最低人数で恐らくチャチャ一人のはず・・・中央の山越えのルートは使わないはずですし、戦力分散は愚行だと思っているはず、だとしたら、ケリンとサヤカの班の敵は残りの四人である確率が高い。
これはまずいですね。まあ、索敵してから考えましょう。
先ほど戦力分散は愚行と言っていたが、この人数では何とも言えない。確かに一般論として戦力集中がよい。特に戦争においては。だが、個人の力量がものをいう次元になっては話は別になってくる。何千、何万規模の兵士が動員される戦争においては個人の力量が全体に及ぼす力はたかが知れている。戦争は兵士の質と数でやるものだ。しかしながらこの状況下では一人欠けると全体の戦況に大きな影響を与えてしまう。だから、この状況での戦力分散は一概には愚行とは言えない。
ただ、四対二は流石にまずいのだった。
そう思っているとやはりケリンとサヤカが敵と遭遇したようだった。
頑張ってください。ネネは影ながら応援していた。
「くっそ、これは多すぎるぞ。」
「そうだね。」
ケリンは敵と剣を交わせていた。しかし、しゃべれる余裕はあった。
「敵は二人よ、早く終わらせるわよ。」
指揮を執っているのは、魔法大会でマコトに敗れたオデッサであった。
「しっかしよー、こいつらつえーっす。」
ケリンの相手をしていたエスタドスは弱音を吐いた。
ケリンは身体強化の魔法を使って剣を扱っていたが、エスタドスは何もしていないように見えた。
基本的に魔術師は近接戦に弱い。城取合戦ではヘイド、ケリン、カイ、ネネなどが帯刀しているが本職はみんな遠距離攻撃の魔法である。それに対して、キョウ高校は剣術科も存在し、体術を重んじる面もあるので一部の生徒は近接戦に特化している。
ケリンはエスタドスと互角の勝負をしていた。カランと剣が激しく打ち合う。お互いに必死の様子だ。ケリンの額に汗が流れた。
「ほんと、すごくないっすか。俺と互角に渡り合えるなんて。」
「僕はこのアルティの中では底辺だよ。」
「それは恐ろしいっすね・・・」
ケリンは少し距離をとって走ってエスタドスに切り込んだ。それに負けじとエスタドスも同じように走った。そして、二人の剣がぶつかり合った。そして、その態勢から二人とも動かない。いや、動けないのだ。
ここで油断したら負ける。二人ともそう思っていた。
一方、サヤカはケリンよりも苦労していた。二人の魔術師を相手にしていたのだった。幸い、指揮官であるオデッサは後ろで指示をしており、慢心しているのか攻撃はしてこない。
油断を誘っているのか、と思っていたが、ケリンとエスタドスが膠着状態になっていても攻撃しようとしないので、ただの馬鹿だろうとサヤカは結論付けた。
「おいおい、二人がかりっていうのはちと卑怯じゃねーか。」
もちろん、卑怯でもなんでもないことをサヤカは知っているが、相手の集中を乱したい一心で話しかける。
「黙れ、すぐに片づけてやる。」
キョウ高校のヨユンはそう言った。彼は少し小柄で太ってもなく痩せてもなく普通の体型だった。髪と目はこの地域では一番多いとされている黒色だった。
ヨユンはファイアーボールをサヤカに向けて放ったが、サヤカはそれを難なく避けた。そして、サヤカのもう一人の相手はラスクだった。彼はチャチャの信奉者の一人で盲目的にチャチャを信じている。恐らく命を捨てることも辞さないだろう。彼は背が高く、眼鏡をかけており、ステレオタイプの秀才だった。
「だめですよ、ヨユン。ネネ様は力を合わせてとおっしゃっておりました。連携すればすぐに倒せる相手です。」
そう言って彼は眼鏡の位置を直した。
「はいはい。」
反骨精神旺盛のヨユンだったが、ド正論だったので素直に従った。
サヤカはやらっれぱなしも癪なので、雷魔法のエレキボールをヨユンに放った。それは、彼の腕に命中した。
「くっそ、痛って。」
サヤカは連続して攻撃しようとしたが、それはラスクに阻まれてしまう。サヤカはラスクの草魔法を避けて追い詰めたヨユンから距離を取ってしまった。
その隙にラスクは治癒魔法でヨユンの腕を回復していた。
「ありがとうな。」
「これくらい当たり前です。さあ、倒しましょうか。」
「うん。」
二人はサヤカの前に立ちはだかったのだった。




