1-76.閑話 復活魔帝と吸血鬼
ノーズ大陸、サッポロにて。
「久しぶりだね。」
灰色の髪をしている女性がソファでくつろいでいた。そして、その前には金髪の吸血鬼がいた。
「アレ様、まさか復活なさっていたとは・・・」
「今はレナって名乗ってるから、レナって呼んでね。」
「かしこまりました。」
「別に敬語じゃなくていいんだけどね。最初に会った時の威勢はどこに行ったのかな?」
「その節は誠に申し訳ございませんでした。」
「あの時レイリが来てなかったら僕の殺す量が増えてたからね、むしろありがたかったよ。」
「はあ・・・」
「そんなに緊張しなくてもいいよ、今は殺さないからさ。」
「いつもそんな感じですよね・・・」
レイリは困った顔をしていた。
「まあ、ノーズ大陸をまとめようとしてる人がこんなんじゃ舐められるよ。」
「それもそうですね、あ、それもそうだね。」
レイリは言い直した。
「うんうん。」
レナは満足そうだった。
「アレはこれからどうするのー?」
「だから僕はレナと名乗ってると言ったでしょ。」
「ごめん、レナ。」
「まあ、いいよ。ああ、僕はこれからどうするつもりもないよ、強いて言うなら世界の意思を今度こそ叩きのめすくらいかな。」
「ふーん。」
「そもそも、僕は死んだことになっているからね。今更死人がしゃしゃり出てもいいことないでしょ。それに役者は揃ってるみたいだし。」
「そうだけどさ、あ、レナみたいに影響力がありすぎたら傍観というわけにもいかないよね?」
「最終的には僕がラスボスとして出るしかないよね。全く困ったもんだ。」
「確かにそうだねー。」
「全く、シモエにも文句言ってやりたいよ。ちゃんと僕を殺していればこうはならなかったのに・・・」
「へ?レナはシモエに殺されること知ってたの?」
「あ、うん。だって絶対謀反起こしそうだったじゃん。僕的にはやることやったしあのままシモエに皇帝の座を譲ってもよかったんだけどね。」
「は、へ?じゃあレナはわざと封印されたと?」
「うん、だって僕完全に邪魔者だったでしょ。本当はシモエに殺されたかったんだけどね。僕は自殺もできないし。」
「シモエは知ってたの?」
「もちろん知らないよ。でもあんなに人を殺してたら絶対に誰かが謀反を起こすでしょ。歴史が物語ってるよ。」
「確かに・・・」
思い返せば、二千年前アレは世界を統一した後、絶対君主として君臨していた。本人にそのつもりはなくとも恐怖政治のようになっていた気がする・・・
「でしょ。僕はそうやって歴史の表舞台から降りたんだよ。」
「でも、あの後シモエはだいぶ反省したよ。隠ぺいしたとはいえ大体察しはついてたし、結局三年くらいで息子に家督を譲って隠居してたしね。」
「まあ、そうなるよな、性格的に。」
「そのあとはだいぶ安定したんだけどね・・・」
「じゃあ、今は?」
「そろそろ崩壊って頃合いかな。」
「僕は創って二千年間寝て、起きたら崩壊間近ってほんと災難だな。」
「本当に百年前くらいまでは平和だったんですけど・・・」
「あとどれくらいで帝国は崩壊するの?」
「もって二年かなー。」
レイリは呑気に答えた。
「偉く余裕そうだね。」
「まあ、だいぶ前から独立の準備はしてるし。」
「ノーズ帝国の復活かい?」
「そうなるね、私は基礎だけ作って隠居かもしれないけど。」
「その時は僕が殺してあげるよ。もうレイリを殺せるのなんて僕くらいでしょ。」
「いやあ、そうでもないんだなー。有望そうなのはいる。」
「ふーん、じゃあデスゲームの始まりだね。最後に残ったら僕と戦うと。」
「私は降りさせてもらうよ。」
「大丈夫だよ、時が来るまでは殺さないからさ。」
「それ二千年前から言ってない?」
「あれれ、そうだっけ?」
レナはとぼけていた。
「まあ、いいけど・・・」
本当に私のこと殺すつもりあるのかな。
「それより、二千年前から生きてる人は他にいるの?」
「ああ、ほんの数年前まではエレが生きてたけど、他は早々に死んでいったよ。ああ、あと黒龍と転生しまくってる自称予言者がいるけど。」
「あいつらまだ生きてたのかよ。本当に邪魔だよね。」
「特にあの予言者は厄介だな・・・」
「そうだよね、僕としては消滅させたはずなのに生き残ってるってどんなけしぶといんだろ。」
「私もあいつだけは正体がわからない・・・」
レイリは残念そうな顔をしていた。
「まあ、悪魔の一種だろうね。精神体なのは確かだけど。」
「「はあ・・・」」
二人は同時にため息をついた。
「エレに預けていた子は元気にしてる?」
「あ、うん。大分元気だよ、艦隊を壊滅させちゃうくらいには。」
「それは随分と僕に似たものだね・・・」
「それな、私もレナとネネくらいだよ、そんなことしたのを見たことあるの。そっから戦後処理をさせられて、ほんとに手玉に取られたよ。」
「それだけ、元気なら大丈夫か。僕がもう少ししっかりとしていればエレを手放すなんてことさせなかったのに・・・」
レナはエレが消えたことは把握していた。
「会いに行かなくてもいいの?」
「今更本当の母親だって会いに行っても迷惑なだけだ。本当は普通に育ててやりたかったのだがな。」
「仕方ないと思うけど。」
「僕よりもエレのほうがいい母親だったと思う。」
レナは自分を卑下しそう言い聞かせていた。
「もう一人の方は?」
「えっ、もう一人いたの?」
「そう言えば伝えてなかったけ?」
「うん。」
「まあ、知らないのならいいけど。」
「大体調べてはあるけど、私が死んだあとどうなったの?」
「うーん、レナが死んで?死んでじゃなくて封印されてから、十人衆会議は正常に機能していたけど、発言力を一番持っていたのは宰相家だったね。そして、時が経つにつれてその権力は大きくなっていった。帝国の統治機構自体が盤石なものだったし、千年は耐えて、そこでヴィア事件が起こって、帝国支配が揺らいだけどその時は世界魔法協会を設立させて、魔法教育の徹底管理をしたから、事件は収まった。
そして、百年前の反乱、ジャーベルの乱によってカントー地方が独立しそうになったから、帝国政府は自治権を与えて反乱は収まったけど、大貴族と宰相家によって結ばれたイーストファリア条約によって領主制が復活して、今は地方分権が進んでいる。
さらに、現状は財政破綻寸前でそれに今の宰相、パース・アタランタは暴君じゃないけど暗君で重税を課すばかり。崩壊は目と鼻の先ってこと。」
「財政悪化の原因は?」
「世界の寒冷化による全体的な不作、それによる経済の低迷。それと魔物の被害が増加して、そのための戦力増強のためのお金。世間一般では宰相家や貴族の浪費とも言われてるけど、大した量じゃない。」
「ふーん。」
「ああ、あと紙幣の増刷によるインフレも今後予想されると思うよ。宰相のやつ、金がないなら刷ればいいって帝国立造幣局長に言ってたし。」
「名言だな、金がないなら刷ればいい、って。」
「もしかしたら、アンジェラ財閥の陰謀かもしれないけどさ。」
「ふーん、まあ、私には関係ないか。帝国の末期だということは理解したよ。」
「それはよかったね。」
レイリは笑って、自分でいれたお茶を飲み干した。
次回からは城取合戦です。五話くらい予定してます。(変更する可能性大)




