1-65.封印されし者3
カイは恐る恐る目を開けた。もうまぶしくはなかった。輝いていた水晶は跡形もなく消えていた。そして水晶があった台座の上に一人の女性が立っていた。
その女性はカイの目を釘付けにしてしまった。彼女は美しい灰色を少したなびかせて、その灰色の瞳を開いた。肌は透き通った絹のように白く、言葉にできないほど美しかった。
「久しぶりだね、新鮮な空気を吸うのは。」
カイはその場で呆然としていた。そして、目の前の女性が裸であることに気が付き、頬を赤らめたが、目線を逸らすことはしなかった。
「ところで、僕を開放してくれたのは君かな?」
彼女は薄紅の唇を動かしてそう言った。そして、そのままカイに近づいてきた。カイは漸く正気に戻った。
「はい。」
そうはっきりと答える。
「そう・・・」
そして、カイが彼女の裸体を凝視しているのを見て微笑んだ。
「欲望に忠実な少年は嫌いではないよ。」
彼女はカイの耳元で囁いた。そして、黒いドレスを魔法で作った。
「ところで君はなんのために私の封印を解いたのかな?」
カイは一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。
「ご飯を作ってもらうためです。」
「ぷっ、はっはは。ご飯を・・か。」
彼女は急に笑い出した。
「これは想定外だね・・・まあ、封印を解いてくれたお礼だ。精一杯腕を振るわせてもらおうじゃないか。」
「お願いします。」
「オッケー。」
彼女は指をパチンを鳴らした。そうすると、どこからともなくブランケットが現れて、洞窟の床に敷かれた。
「ここでピクニックと行こうじゃないか。」
彼女はそう言って作ったばかりの靴を脱いで、ブランケットの上に座った。
「君たちも座り給え。」
カイは目の前の状況がまあ理解できていなかった。でも、なんか食べられるようだし、いいかと疑問を切り捨てた。そして、靴を脱いでブランケットの上に座った。
「とりあえず、温かいスープは欲しいよね・・・」
彼女はそう言って二人分のオニオンスープを魔法で即座に用意した。
カイは魔法で食料を作れないと思っていたので驚いたが、それよりもお腹が空いていたので、渡されたスプーンで勢いよくスープを飲む出した。
「おいおい、君やけどしちゃうよ。僕も頂きます。」
彼女も同じようにスープを飲んだ。
「はあ、あったまる・・・」
一息ついた。そして、彼女はカイを見た。カイはすでにスープを飲み干してしまっていた。
「美味しいのならいいけど・・・」
「美味しいです。」
カイは即答した。
「君、スープが付いちゃってるよ、ふふ。」
彼女はハンカチを取り出して、カイの頬を拭く。
カイは思わず赤面してしまった。
「初心だねー。」
彼女にはどこか大人の余裕があった。
「じゃあ、次は前菜かな。」
彼女はカプレーゼを魔法で作った。
「わあ。」
「ほらお食べ。」
彼女は半分カイに差し出した。カイは添えられたフォークを握り、また勢いよく食べた。
「おいしいかい?」
「はい。」
「うん、偉い、偉い。」
彼女はカイの頭をぽんぽんした。そして、彼女は上品にカプレーゼを食べた。
「ところで君、名前は?」
「カイ・・です。」
「カイ君ね。」
「あの・・・あなたの名前は?」
「うーん・・・レナ?とでも名乗っておくわ。」
「それは、本名ですか?」
「さあ、どうでしょうね、ふふ。」
「ねえ、さっきから俺のことずっと忘れてない?」
「おお、虎、めっちゃうまいぞありがとな。」
「そうならいいけどさ・・・」
「ヴィイいたんだ。」
「おい、ひどすぎるだろこの仕打ちは。一応、あっ、レナの使い魔だぞ。」
「そう言えば、そんなのもいたわね・・・」
「もうヤダ帰りたい。」
ヴィイはそう言って拗ねてしまった。
「もう、冗談に決まっているじゃない。」
「ならいいけど・・・そう言えば昔も空気と扱い変わらなかったけ。」
「窒素じゃないだけましじゃない?」
レナと名乗った女性はそう言ってヴィイをからかった。
「もう・・・」
カイは同情したが、自分に関係なくねと思った。
「そろそろメインでも作ろうかな。」
彼女はそう言って、魔法で料理を作った。
「ほらお食べ、カルボナーラだよ。」
彼女はカイの分の料理を差し出した。カイはフォークでパスタを口に入れた。胡椒のほのかな香りとソースが絡まったパスタが絶品だった。
「おいしい・・です。」
「君に喜んでもらえて本当に良かった。」
そう言って、彼女は微笑んでヴィイを膝の上に乗せて撫でた。首元を撫でられたヴィイはそこそこ、ああ、この感じ懐かしい・・・とあくびをしていた。
伏線を少し回収していくつもりです。




