1-6.エレ・アンジェラ6
冬になって、雪の日も多く、何もせずに家で過ごすことが多くなった。もちろん、晴れている日にはスケートの練習をしたのだが。そんな中、正月というものがやってきた。お正月の朝にお母様は新年のあいさつをしてきた。
「明けましておめでとうございます。」
私は寝ぼけた顔で目をこすった。
「何?」
「あれ?去年やらなかったけ?」
「覚えてません。」
「そういえば、去年は餅がなかったからやらなかった気がする。」
お母様は自問自答した。私はこの行事のことを知らなかったが、餅というもちもちして歯に詰まりそうなものをみそ汁に入れて食べるということだ。これを雑煮というらしい。私は餅をのどに詰まらせないように注意しながら、ゴクリと飲んだ。見た目よりかははるかにおいしい。
こうして、私は新年を迎えたのだった。特に三が日は何もすることがなくゴロゴロと家で過ごしただけだった。そして、一月四日にお母様がこう言ってきた。
「スキーに行きましょう。」
「スキー?」
私はスケートと雪遊びくらいしかウィンタースポーツを知らなかった。
「そう、スキー。たぶんスケートが好きなネネならすぐに好きになると思うわ。」
お母様は早速準備を始めた。お母様はだいぶ前から、スキーに行く準備をしていたようで、板や靴を事前に作っていた。今から考えると靴を作ったお母様はすごいなと感心する。私はお母様に全身スキーウェアというスキー専用の服を着せられ、表に出た。家の近くにある丘で、お母様からスキーの仕方を教わる。
「まず、ストックはこう持つのよ。」お母様は見せながら私にそういった。私はお母様の言うとおりに器具を使えるようになった。
「次は止まる練習よ。止まる方法は二通り、鼻字と回転して止まる方法よ。」
お母様のスキーレクチャーが一時間ほど続いた。私は小さな丘で基礎をしっかりと固めていった。何度もスキー板をもって丘を上がっているうちに体が熱くなって、汗をかいた。
休憩をはさみながらお母様は丁寧に指導してくれた。
そして、次の日。
「さあ、山へ行くわよ。」
お母様は私が起きる前から準備をしていたらしく、私が服を着るだけで、もういつでも出かけられるような状態になっていた。どうやらお母様はスキーが大好きらしい。家を出ると、お母様は、荷物をもって私を招いた。
「さあ、こっちに来て。」
「はい。」
私はお母様の近くに行った。
「じゃあ、飛ぶからね。落ちないように気を付けね。興奮して暴れないように。」
「飛ぶ?」
「うん、そうよ。」
私はお母様の言っていることがわからなかった。しかし、お母様は私を抱えるとひゅうと宙に浮いた。私は驚いた。私は人間が飛べるなんて知らなかった。お母様は飛べる素振りを今まで私に見せたことがなかった。
「どうやって飛んでるの?」
私は当然の質問をした。
「これは魔法で飛んでいるのよ。」
お母様は飛びながら答えた。
「魔法?」
私はその時以前お母様が魔法を使っていたことを思い出した。お母様は日常的に魔法を使わない。前見たのは私が魔物に襲われて、お母様がそれを倒すのに使ったのだ。その時のことは怖くて鮮明に覚えている。お母様が炎の玉のようなものを手のひらから出してそれを魔物に当てたのだった。
「そう、魔法よ。ネネももう少し大きくなったら教えてあげるわ。」
「それは、どのくらい大きくなってから?」
私は初めて魔法を学んでみたいと思った。
「そうね、六歳になってからかしら。」
私は次の夏にはもう六歳になる。
「早く六歳にならないかな。」
「あっという間よ。」
お母様に抱かれながら飛ぶのは気持ちよかった。体が軽く感じられ、風が程よく当たって気持ちよかった。空から見る銀世界はきれいなものだった。地上でさえ、きれいだなと思うのに。上空から見ると森に所々木々がないところがあった。お母様に聞くと答えてくれた。
「それはね、ギャップと言って風などによって木が倒れたところです。そこは遷移を経て又森となっていくのですよ。」
お母様は段々と高度を上げていった。どうやら目的の山が近いようだ。顔を上げて前を見てみると、大きな山がすぐそこに聳え立っていた。そして、お母様は山の中腹の平野になっているところに降り立った。スキー靴が雪に沈んだ。ぼかぼかして歩きにくい。
「じゃあ、スキー板付けてね。」
「はい。」
私はスキー靴をスキー板の上のバインダーの上にのせて、かちゃりとスキー靴をはめた。お母様も手慣れた様子で靴をはめていた。そして、準備体操をして滑り始めた。
「まずはお母さんについてきて。」
お母様はサインカーブを描くように、緩やかな斜面を降りて行った。私はそのスキー板の跡がついたところをなぞってお母様のもとへ滑った。
「おお、いい感じ。」
お母様は私を褒めてそういった。私は嬉しかった。
その後もお母様の後をついて山を滑り降りていった。そのうちにだんだんと慣れてきて、フォームがきれいになったり、ストックの扱いが上手になったりした。しかし、やはりお母様はうまい。これは経験の差というものだろうか。私は何事においてもお母様に追いつけないように感じた。私とお母様は何度か山を滑り降りては登りを繰り返した。そして、私の体力が持たなくなっているのに気が付いたお母様が一番下まで滑り切ってこう言った。
「帰りましょうか。」
「はい。」
私は疲れた返事をした。実際、私は一日中体を動かしていたので疲弊していた。しかし、それと同時に私は楽しいと思いで満たされていた。私はなぜお母様がスキーを私にしようと言ってきたか分かった気がする。