1-64.封印されし者2
もう、どれくらい進んだんだ?カイは暗く、フタバの灯りしか頼るものがない洞窟で一人ぼやいた。丸々二日間くらい歩いている気分だった。もちろん、道中眠くなったら寝て、のどが乾いたら水を飲みということをしていたが、食べ物は魔法では作ることができず。洞窟に入ってから何も食べずに歩いてきた。実際には魔法で食料は作ることはできるが、それには精密な作業が必要であり、カイにできるものではなかった。
「腹が減った。」
目の前にいるシロがうまそうに見える・・・これはやばい。
そう思ったとき、目の前に扉が見えたような気がした。
「何だ、幻影か。本当にやばい・・・」
否、それは幻影ではなかった。フタバの光がだんだんとその扉を照らしていく。
「おお!」
カイは歓喜した。人工物があったのだ。もしかしたら食料もあるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、カイはその扉の前に立った。足は棒のように感覚がなくなっており、カイは疲弊しきっていた。
「ん?なんか文字が書いてある。」
扉には古代文字で何かが書かれていた。
「古代文字か、学校でやったけど、全然覚えてねーな。」
知っていることを手掛かりに読んでみた。
「私はこの・・・世界・・・・・もの・・・・・した。この・・進む・・・ず。もし・・・・門番・・・・示すべし。」
さっぱりわからねーな。まあいっか。
カイは何も考えず扉を開けてしまった。
そこには、石レンガで囲まれた大きな部屋があった。そして、灯りはないのに、部屋が明るかった。そして、その部屋の中央には大きな黒い虎が佇んでいた。
「ほう、こんな展開は二回目だな・・・」
「ん?」
「いや、こちらの話だ。それにしても二千年ぶりか、こうやって誰かと話すのは。俺って大体こういう役回りさせられてるんだよな・・・」
その虎はなんだか寂し気に語り始めた。
「そんなことより、食べ物はねーのか?」
「随分と偉そうだね。あいにくだが、ここには食べ物はないよ。この部屋に入る前に扉の注意書きを読まなかったのかい?」
「くっそ、どうすればいいんだ。」
カイは虎の話など聞いてはいなかった。
「あ、そうだ。ないならこいつを食べればいいじゃないか。」
何か名案を思い付いたような口調でカイはそう言った。
「どうせ、俺なんて無視されるのか・・・」
その虎は嘆いた。
「おめー、俺の食料調達を手伝え。」
フタバ、ぷいと明後日の方向を向いてしまう。命令されるのが嫌なようだ。
「相変わらず、主従そろって・・・仕方ない。おめー、俺の食料調達を手伝ってください。」
いろいろと言葉がおかしいがフタバは手伝ってくれる気になったらしい。
「あんがとよ。じゃあ、行くとするか。」
カイは駆け出した。目の前の獲物を食べるために。
「何でこういつも俺の話を聞いてくれないだよ・・・」
虎は悲観的だった。
カイは雷魔法で小さなエレキボールをいくつか放った。それらは逃げる虎を追いかけて直撃する。そして、フタバもまた雷魔法で大きな雷を虎に打ち込む。正直、フタバのほうがカイよりも強かった。
「おめー、ナイスだな。」
「なんか、足が麻痺してる・・・」
しかし、虎も強い。動けなくなっただけで、できることは多い。
虎は無数の暗黒球をフタバとカイに向かって発射する。フタバはその場所で防御魔法を展開するが、カイにそんな高度な芸当はできなかった。カイは狭い部屋を逃げ回る。そして、数秒後やっと防御魔法を展開した。
虎の攻撃はまだ止まない。フタバはこのままでは不利だと悟り、無数の雷でできた刃、通称雷刃を虎に向かって連射した。
虎は防御魔法を使ったが、無数の雷刃には耐えきれず、体中が雷刃によって切られ、出血している。
「くっ、魔力が正常に供給されていれば・・・」
「ふっふふ、飯の時間だ。」
カイは前の肉の塊を目にしてよだれを垂らしている。
「俺なんか食べてもおいしくないぞ。」
「それは食べてみねーとわからねーじゃねーか。」
「あれだ、食料はないが魔法で美味しいものを作ってくれる人のところなら案内できる、だから、俺のことは助けてくれ。」
虎は泣きそうになってそう嘆願した。
「おい、虎、本当か?」
「ああ、嘘だったら俺を食べていい。」
「どれくらいだ?」
「それは、めっちゃおいしいに決まって・・・」
「時間だ、そいつの場所には本当に行けるんだろうな?」
「ああ、それなら奥の扉を抜けたところにいる。」
「虎、案内しろ。」
カイは急かした。
「はいはい、俺って大した出番ないよな・・・」
大きな黒い虎は、体を小さくした。そして、ただの黒猫になってとことこと歩き出した。
「まだ名乗っていなかったが、俺の名前はヴィイという。」
「俺はカイだ、さっさとしろ。」
「はいはい。」
ヴィイと言われた虎、今は黒猫は奥の扉の前について、唱えた。
「開けゴマ。」
安直すぎだろと思ったがなぜかカイは親近感がわいた。
扉の先には大きな空間が広がっていた。部屋の中央には少し縦長の大きな水晶のような鉱石があった。そして、それは青白く光っていた。
「何もねーじゃん。」
「その人が眠ってるのはあの水晶の中だ。」
一人と三匹はその水晶に近づいた。
「バチン。」
ヴィイが見えない結界によって跳ね返された。
「俺が行けるのはここまでだ。とりあえず水晶に近づいてくれ。」
「虎、逃げたら殺すからな。」
「だから、俺の名前はヴィイだって・・・」
カイはそれを無視して水晶の近くまで来た。
「どうすんだ?」
「ああ、その水晶に触れて魔力を流し込んでくれ。」
「あいよ、」
カイは魔力をその水晶に流し込んだ。その水晶は魔力を吸収してどんどん光を発していく。
「これ本当に大丈夫なんだろうな?」
「うん。そのまま続けて。」
カイの魔力がさらに吸われていく。そして、水晶が臨界点に達した。水晶は光り輝いた。カイはまぶしくて手で目を隠したが、無駄だった。その光は一瞬にしてカイたちの視界を奪ったのだった。
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