1-61.対抗試合4
少し過激な描写?があります。
午後は魔術大家だ。これにはマコトとネネが出場する。
「ネネとは当たりたくないな。」
「私もですよ。」
ネネとマコトはそう言ってくじを引いた。対戦相手は剣術大会や箒レースと同様にくじで決められる。
ネネが引いたくじには「1」と書かれていた。
「私、一番でした。マコトは?」
「僕は三番だった。」
「じゃあ、一回勝てば、当たっちゃいますね。」
「そうだな・・・」
一番のところにネネの名前が書かれる。そして、次の瞬間、二番のところにリテラの名前が書かれた。
「はあ、」
ネネはため息をついた。リテラがめっちゃ凝視してきたが、とりあえず無視しといた。
「さあ、対抗試合、午後は魔術大会やで。杖以外の武器は使用禁止で、場外か戦闘不能になるか、降参するかで勝負が決まりや。殺したら反則な。」
「テレサ校長、雑じゃわい。」
「何や、間違ってはないやろ。」
「そうじゃが。」
「じゃあ、第一試合はネネ対リテラや。」
ネネは舞台に上がった。リテラはネネよりも少し後に上がってきた。
「今回は絶対に勝たせてもらうわ。」
リテラは自信満々にそう言った。
「では、いつしかのリベンジマッチと行きましょうか。」
ネネは負ける気などしなかったし、なかった。
「生意気な。」
リテラは早速魔法を放った。その火球はネネを目掛けて飛んできていた。
無演唱ではなかなかの威力ですが・・・
ネネはその場を動かずにその魔法を右手で受け流した。私に通用するものではありません。
リテラは少し驚いたようだったが、想定内であったようだ。
「あなたにハンデを上げましょう。このままではつまらないですからね。そうだ、私はこの場から一歩も動かないというのはどうでしょうか?」
「私をなめているの?」
「はい。」
はたから見るとネネはとても性格が悪く見えた。しかし、リテラにとっては好都合ではある。
「いいわ、」
リテラは誇りよりも勝利を優先したらしい。
乗ってきましたね。これで少しは退屈しのぎにはなるでしょう。ネネはリテラを完全になめ切っていた。
リテラは火球を走りながら連発する。しかし、それはネネによって受け流されてしまう。
しびれを切らしたリテラは、時間停止魔法を行使した。
時間停止魔法とは自分以外の時間を停止させる魔法である。もちろん、世界中のもの時間は停止することができない。リテラは有効範囲を舞台を覆う程度に設定した。外から見ると、ネネとリテラの動きが止まったように見える。
時間が停止された世界ではほとんどのものの運動が停止してしまう。それは、リテラの周りの気体分子やリテラが着ている服も停止してしまう。これまでのリテラならそれでもよかった。
時間停止の有効的な使い方に術式構築の時間に当てるということができるからだ。時間停止空間内で術式を構築して、時を戻したとき魔法を発動させると、一瞬で強力な魔法を使うことができる。
そして、二つ目はあらかじめ時間停止空間内で魔法を行使して、時を戻す瞬間に相手に当たるようにする。相手にとってはいきなり前触れもなく、魔法がぶつかってくるので悪質なのだ。しかし、これは前回のネネとの戦闘で見破られている。
三つ目の運用方法は時間停止空間内で自分や周りの気体分子や服などの時間を戻して、自身が移動できるようにするということだ。ある種の瞬間移動と考えてもいいだろう。しかし、これを行うのは精密な魔力操作が必要になる。これは、実践では役に立つが、今のような魔法のみという局面ではあまり意味がない。
リテラは、強力な魔法をネネの周りに発動させた。そして、その後に、結界魔法をネネの周りに施した。これで、ネネは脱出することができなくなり、結界内でエネルギーが保存されるので、魔法攻撃を全て食らうということになる。
普通の人間なら即死の攻撃である。しかし、リテラは戦力過剰と思われるくらいに魔法を発動させていく。リテラは十分に戦力差を理解していた。そして、ネネが自分の魔法で死ぬことはないと判断したのだった。
リテラは恐る恐る時間停止を解除する。前回の数十倍ほどの魔法攻撃がネネを襲う。そのすべてがネネに攻撃するためのエネルギーへと変換される。しかし、ネネは動けなかった。いや、動かなかったと言ったほうが正しいだろう。
リテラの展開した結界魔法内であらゆる属性の魔法が炸裂する。結界内は炎魔法によって高温になり、水魔法が水蒸気となり、高圧となる。雷魔法によって、あらゆる物質が単原子分子として存在する、人間には生存不可能なアネクメーネへと姿を変える。結界内で爆発が起こり、光で何も見えなくなる。
「ネネ様。」
観客席のスミレが絶句した。
「ネネちゃんすごいことになっちゃってるね。」
イオが他人事のように言う。
「ネネのことだから大丈夫と思うけど・・・」
信じてはいるものの、不安そうにヘイドは成り行きを見守る。
中の圧力に耐えられなくなったのか、結界が崩壊した。爆風が会場を吹き荒れる。
リテラは爆風に抗いながらネネの様子を見る。
「いや、死ぬかと思いましたよ。」
水蒸気の中から徐々にネネの姿が見えてきた。
その瞬間、リテラは負けを悟った。冷汗がリテラの首筋を流れる。そして、あたらめて思う、自分は正真正銘の化け物と戦っているということを。
ネネを覆っていた霧が晴れ上がる。高温で結界内だけが溶けた舞台の上にネネは立っていた。ネネの服は高温化で防御魔法が及んでいない部分だけ蒸発してしまっており、ほぼ裸だった。どうやらネネは気が付いていないらしい。ネネの美しい裸体に会場のすべての人が釘付けになる。
「ネネ様―、ほぼ裸ですよー。」
スミレは自分の恥を忍んで、ネネにその事実を告げる。
ネネは自分の体を見る。なんかスースーすると思っていたんですが、服が蒸発してしまいましたか、まああんなの食らって蒸発しないものがあったら欲しいです。ここって、衆人環視?
あ、やばい。落ち着け、落ち着け、裸なんて見られても減るものじゃない、しかも、ほぼ裸なだけであって完全な裸ではない。見られても恥ずかしくない。うん、恥ずかしいという感情は他者の視線の内面化にすぎません。うん、私は何も間違っていない。一層のこと記憶でも消してやりましょうか。皆殺しにでもするのも悪くない・・・
客席には顔を赤らめて、思わず見とれてしまう男子諸君が数多いた。もちろんヘイドもその一人ではあったが。
ここは平静を装って。ネネは瞬時に服を作成した。もちろん魔法で。セルロースを空気中の物質から作るって結構難しいですよね。失敗してデンプンが出来たら大変ですし。
ネネは白いワンピースを一瞬にして作った。染色?私は黒色が好きなのですが、アニリンブラックで染色する余裕なんてありません。
決して面倒くさいわけではないです。
その間、リテラはじっとネネの美しい裸体を見つめていた。もう少し見ていたら何か新しいものに目覚めそうだったが、その前にネネが服を作成したので、ギリギリセーフだった。
ネネは気を取り直した。自分が動かないと言ったことが仇となってしまった。
「流石と言うべきでしょうか。こんなに激しい攻撃を浴びたのははじめてかもしれません。」
素直にリテラを称賛する。しかし、リテラにとってそれは嫌味以外の何物でもなかった。
「まさか、耐えるとは。」
もうここまで来たらリテラは呆れるしかない。そこには隔絶された壁が存在するだけだった。目標は見えた。ならそれに近づくのみ。ネネは知らず知らずのうちにリテラの心に火をつけてしまった。いつか、それが自分を追い詰めるかもしれないとは知らずに。
いくら、心に火がついたと雖もその差は一朝一夕で埋まるものではない。リテラはそれは理解していた。しかし、ここで降参するのは癪だし、強者と戦うことなどあまりない。だからこそ、ここで経験値を稼ぎたかった。
「降参はしないのですね。」
「ええ、」
リテラは何かが吹っ切れたようだった。
「いい顔してますよ。」
ネネは褒めたつもりだったが、リテラには誉め言葉としては届かなかったようだ。
「いいでしょう。殺さない程度にいたぶってあげますから。」
ネネは不気味な笑みを浮かべた。
「あっ、ネネ様が本気です・・・」
「リテラ大丈夫だろうな。」
ヘイドは今度はリテラのことが心配のようだ。
「殺しはしないと思うがな・・・」
サヤカは時折ネネが見せる、その邪悪な片鱗が好きではなかった。その時のネネは、優しさを失ったような、圧倒的強者として佇んでいる。それが、ネネ本来の性格、サヤカが思っているネネの像とかけ離れている。だからサヤカは忌むのだった。いつか、ネネがその感情に飲み込まれてしまうのではないかと。
「ネネちゃん、楽しそうだね。」
そう言ったのはイオだった。
「楽しそう?」
「あれは弱者をいじめるときに生じる快楽みたいなものな気がするー。」
イオは鋭かった。サヤカの予感は少なからず当たっていたと言える。
しかし、それはいつも立場、アンジェラ家の当主として、ソフィアのリーダーとして、自分の弱いところを見せるわけにはいかなかった。だから、ストレスが溜まっていて当然と言えば当然だった。
ネネは暗黒球を手のひらの上に作った。もちろん、リテラを殺さない程度に。念には念をとリテラに防御結界を施す。
この暗黒球の存在に驚いたのは、リテラではなく、ヘイドであった。これは、ヘイドがディアとの特訓で獲得した技の一つで、魔力エネルギーを相手に直接ぶつけるもので、非常に強力なものだ。さらに相手の魔力を吸収するという効果も持つ。ちょっとチートな技なのだ。
なんで、ネネが・・・ヘイドはなんだか負けたような気分になった。
そこからはただの蹂躙だった。ネネが無数の暗黒球をリテラに打ち込む。もちろん、ダメージは入るが、致命傷にはならない。暗黒球が休まることなく、リテラに襲い掛かる。
ネネはリテラのひどい仕打ちに会っている。ネネは倍返しだと言わんばかりに手を休めることはない。そして、気が済んだのだろうか、最後に気絶するほどの少し大きい暗黒球をリテラに投げつけて、試合が終了した。
シュリーフェン:なんかさっきこの町の人が皆殺しにされる予言を見たんだけど・・・
アルベール先生:あっ・・・あれか。




