1-58.対抗試合1
今回から、短めにします。
「さあ、はじまったでー。対抗試合。なんとー、今年も司会はなあ、この私、キョウ高校校長のテレサと・・・」
「わし・・・コバルト。」
「で、お送りするんや。ええやら、すごいやろ。いあやー、今年も盛り上がってるなー。」
「そうじゃな、なんせ、今年は魔法使いの称号を持つものが、二つの高校で八人いるからのう。」
「そやねん・・・なんと八人も。前代未聞やなー。名簿見たとき腰抜かすと思ったわ。いや、ほんまに今年は面白くなりそうやな。」
「では、その魔法使いの称号を持つ者の紹介じゃ。まずは、クマ高校から。ネネ・アンジェラ、暇の魔女じゃ。次に、リテラ・アタランタ、空の魔女じゃ。そして、カナ・ダンフリーズ、無口の魔女じゃ。そして、最後にレオン・バーミンガム、草の魔法使いじゃ。」
クマ高校の応援席から歓声が上がった。
「はーい、ありがとうコバルト。うちからは、チャチャと、オデッサと、アデンと、ファーゴやで。」
キョウ高校の応援席から歓声が上がった。
「それじゃあー、勝っても負けても文句なし。対抗試合始めるでー。」
みんな盛り上がって声を上げた。会場が大声で埋め尽くされた。
「まず、一日目、初めの種目は箒レースじゃ。ルールは簡単、一番最初にゴールに着いた選手が決戦に出場じゃ。各高校四人ずつ、計八人が争う。八ブロックあるので決勝進出は八人じゃ。頑張りたまへ。ただし、コースから離れたり、他の選手を箒以外で妨害するのはなしじゃ。」
「ルール説明は以上やでー。私の方からは得点の話をするは。例年通り今年も得点制やねん。箒レースは一位から八位までの得点が入るねん。一位は八十点、そっから十点ずつ低くなっていくって感じや。」
「それでは、箒レース、スタートじゃ。」
「さあ、第一レース、全長五キロのコースが会場に現れました。」
会場はサッカーフィールドと同じくらいの大きさだった。その中に魔法によって、複雑なカーブや急上昇あるコースが現れた。もちろん、この会場では入りきれないので外にもコースが伸びている。このコースは毎回のレースごとに作り替えられるようになっている。
「さあ、選手の紹介をするで、クマ高校からは、リテラ・・・・」
選手紹介がテレサ校長によってなされた。
「パーン。」
ピストルの音が鳴り響き、選手は一斉にスタートした。
「さあ、一斉に選手たちがスタートしたで。先頭はリテラ選手。流石、空の魔女の名は伊達ではないんやなー。うちとしては頑張ってほしくないんやけどな。」
「テレサ先生、実況中じゃぞ?」
「ほんや、ごめんごめん。」
「続くはキョウ高校のオリ選手じゃ。しかし、やはり、リテラはすごいのう・・・あっと言う間に距離を広げてしまっておる。これじゃと盛り上がらんじゃろ。少しは考えろ。」
「リテラ選手、このコースの難所のジグザグ路に入ったみたいやな。」
文字通り、ギザギザしているコースなのだが。角度がすごいのだ。wが延々と続くようなコースだった。いくら何でも、このコースではリテラでも減速せざる負えないようだった。
「おっと、リテラ選手やっと空気を読んでくれたようじゃな。」
しかし、他の選手も減速していて、相対的にはリテラとの差は縮まっていない。
「リテラ選手、最終コーナーを曲がったやん。そして、ゴール。」
「一位はリテラ選手。決勝進出じゃ。」
このような、感じでレースは進み、決勝となった。
「リテラ、決勝も頑張ってね。」
リテラを応援するためにヘイドは選手控室を訪ねていた。
「うん、ありがとう、ヘイド。でも、抱きしめてくれたらもっと嬉しいかな。」
わがままをいった。でも、ヘイドは聞いてくれないと思っていた。
「いいよ。」
「!?」
リテラは冗談のつもりで言っていた。まあ、してくれるのはめっちゃ嬉しいけど、心の準備が・・・
そんな、リテラの内心も知らず。ヘイドは抱きしめた。
暖かい、落ち着く。くせになりそうだった。
「はい、これでいい?」
「うん・・・」
気が動転していた。不意打ちだった。折角、少しも冷めてないけど、忘れようとしていた、ヘイドへの思いがふつふつとまた沸き上がってきた。
「そう言えば、お兄さん、婚約したんだね。」
「・・・ん、ああ、そう。」
「相手はネネなんだってね。」
「そう・・・何で私があんな奴と姉妹にならないといけないのよ。」
リテラは明らかに不快な顔をした。
「これってさ、なくすことできないのかな?」
リテラはふと考えた。ヘイドがこんなことを言ってくる理由を。ヘイドはネネのことが好き。ネネが婚約した。そして、この話をなくしたい。
けれど、私にとってはチャンスじゃないか?恋敵は婚約した。となれば、まだヘイドが私を好きになってくれるかもしれない。
「無理だよ。これはいろいろ複雑な話だから、私が何を言っても無駄。」
ヘイドは残念そうだった。
「そう・・・ごめんね。変なこと言って。」
「ねえ、ヘイド・・・私と婚約しない?」
「え?」
「婚約。」
「いや、聞こえてはいるよ。何で急に?」
「私もそろそろ、そういう事を考えないといけない時期かなって。あと、得体のしれない人と婚約させるとか嫌だし。」
「ごめん、まだ、気持ちの整理ができてなくて。」
「ヘイドはネネが好きだったんでしょ?」
「うん・・・まあ、そうだけど。」
それはもう一般常識であった。
「でも、もうネネは婚約しちゃった。じゃあ、ヘイドはどうするの?このまま捨てられたままでいいの?」
「よくないけど・・・」
「私は、ヘイドに幸せになってほしいの。私なら、もっとあなたを幸せにできる。」
「・・・」
「幸せになって、いい男になって、ネネを見返させて、後悔させてやりましょうよ。どうして、ヘイドのことを選ばなかったのか、思い悩むくらい。」
「うーん。確かに見返したいけど・・・婚約は・・・」
「リテラ選手、まもなくレースが始まりますよ。」
「はーい。」
「がんばってね。」
「うん。」
リテラは部屋を出て行った。
「婚約か・・・でも、嫌だな。」
自分が裏切られて嫌なことを他人にしたくはない。俺が婚約したところでネネが何かをするとは思ないけど。それよりも、諦め切れないのだ。ネネのことを。
そんな彼の思いは空しく、一か月以内でリテラとヘイドは婚約することとなってしまうのだが。まだ先の話だ。
「さあー、始まったでー。箒レース決勝戦。」
マイクに向かってテレサ校長が叫ぶ。盛り上がっているようだ。
「まあ、まあ、落ち着くのじゃ。」
「そやな。じゃあ選手紹介と行こか。決勝に選抜されたのはこの八人やー。」
「クマ高校からは、リテラ、スミレ、ノーフォーク、ナイジェじゃ。頑張れ!」
コバルト校長は得意げに選手紹介をした。
「うちからはなー、ラスク、バロバッサ、ヨユン、そして、ファーゴ。」
「ネネ、スミレが出てるぜ。」
サヤカはネネをつついた。
「さっき予選通過してましたよ。」
「ええ、まじで。見てなかった。」
「仲間でしょうが。」
「なんか、あいつさ。ネネの近くにいないと存在が薄いというかなんというか。」
「言わんとしてることはわかります。」
「ネネちゃん。スミレちゃんが手を振ってるよ。」
ネネはスタートラインを見た。そこでは明らかにスミレがネネに向かって手を振っていた。
ネネは手を振り返して、頑張ってね、と叫んだが、声までは流石に届かない。
「めっちゃ嬉しそうにしてるな、あいつ・・・」
サヤカが、半ば呆れてその様子を見ていた。
「さあ、レースが始まったで。一番前に躍り出たのは誰やったけ?あれ。」
テレサ先生は相変わらずテキトーな実況をしている。
「スミレじゃよ。」
隣にいるコバルト校長がすかさずフォローする。
「そして、それに続くのはリテラ選手。彼女はなんと宰相家のお嬢さんやそうや。」
競技場からは歓声が上がった。
「続く三番目はファーゴじゃ。彼は数の魔法使いと呼ばれているが、それが箒レースどう関係があるかはわしにもわからん。」
「おっと、リテラ選手、前の誰それを追い越したで、すごいな。」
レースは伯仲していた。先頭集団がものすごい速さでコースを駆け抜ける。見事一位に躍り出たリテラだったが、後ろの二人も速いので、距離は広げられないでいる。
そして、そのままレースは終盤戦へと突入した。
「おっと、今、ファーゴ選手がラストスパートをかけたようやな。二位の誰それを追い抜いたで。」
「スミレじゃ。」
「そやったな。」
「リテラとファーゴが並んだようじゃな。」
そう、二人は今、完全に並走していた。そして、ゴールまではあとわずか百メートルもない。
「さあ、もうすぐゴールや。どっちが勝つんや?」
二人同時にゴールラインを超えたように見える。
「どっちや、どっちが勝ったんや?」
「まあ、落ち着け、テレサ。」
隣でコバルト校長が諫める。
「ネネ、今のどっちだった?」
サヤカは隣のネネに聞いた。
「たぶん、リテラのほうが若干先だったと思う。」
ネネは探知魔法でそうであると察知したのだった。
「そうか、やったな。」
「うん。」
「えー、審判からの報告によると、一位はリテラ選手じゃ。」
クマ高校側から歓声が沸き上がる。
「二位はな、うちのファーゴ、三位はスミレやったかな?」
名前をやっと覚えたようだった。
「四位は・・・」
「今日の種目は以上じゃ。皆、明日からも頑張るのじゃな。」
こうして、一日目の競技は終了した。
試合の後、ネネ、イオ、サヤカはスミレを迎えに行った。
「スミレちゃーん。」
イオが会場から出てくるスミレに向かって大きく手を振った。
「お疲れ様。」
「お疲れ。」
「負けちゃいました・・・」
スミレは元気がなさそうだった。
「スミレ、よく頑張りましたね。」
ネネは抱きしめてから、頭を撫でてあげた。
「ネネ様―。」
スミレは声を上げて泣いた。
「わたし、ヒック、悔しいです・・・」
スミレって意外に負けず嫌いなのですね。泣いているほうがいつもよりもかわいいけがします・・・気のせいでしょう。
スミレの体が震えているのがネネまで伝わってくる。
「今日は一緒に寝てあげるよ。」
どこぞのおかんや、と自分でも思ったが、口にはしない。
「いいの?」
スミレの瞳は涙で潤っていた。
「うん。」
スミレは笑顔になった。ひとまず安心だ。
スミレの気持ちが落ち着いたところで、ネネたちは宿舎のほうに帰ろうとした。
「ネネ君、」
そこにいたのはアルベール先生だった。
「何でしょう?」
「ちょっと来てもらえないかな?」
「あ、はい。」
「ということで、行ってきます。みんなは先に戻っといて。」
「了解だ。」
ネネは、スミレたちが宿舎のほうへ向かうのを見送った。
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