1-56.キョウ高校
「もうカタストロフィから一か月ですね。」
ネネは空を見ながらつぶやいた。ネネとサヤカはカモ川の河川敷に寝ころんでいた。雲の間から時々日が差してまぶしかったが、夏の割には涼しく心地のよい午後であった。
「そうだな。ほんと、最初はまじでビビったぜ。いきなり知らないところに放り出されてよ。」
サヤカはネネの横に肘をついてネネの方を見た。
「その割には満喫したんでしょザオウ温泉。」
「めっちゃ気持ちよかったぜ。なんてったって、転移させられてからそこら辺、歩いてると露天風呂にさまよいこんだからな。」
「それで、その場で服を脱いで入るのもサヤカらしいですけど。」
「そりゃ、目の前に温泉があったら選択肢は一つだろ。」
「まあ、そうですけど。」
「でも、まさか男湯だとは思ってなかったけどな。」
「え、そうだったの?」
「だって、俺が入ったときは誰も入ってなかったからよ。」
「普通は確認しません?」
「入るほうが大事だ。」
「サヤカはお風呂が好きですよね。」
「俺は一人ででっけー風呂に入るのが好きなんだよ。」
サヤカは笑った。彼女の金髪が日に当たり、輝いていた。
「だから、あんまり一緒にお風呂に入ってくれなかったんですね。」
「まあ、そう言うことだ。」
サヤカの返事はぎこちなかった。
「で、どうしたんですか?まさかずっと男の人が入ってこなかったわけでもないでしょう。」
「ああ、まあ、そこは俺がちゃんと対処したからよ。大丈夫だぜ。」
さらにサヤカの返事はぎこちなくなった。
「嘘ですね?」
「兎に角、終わったことだし。」
サヤカの顔は赤くなっていた。何かあったことは確かですね。
「気になります・・・」
「それよりもだな、カイとヘイドはまだ見つからないのか?」
サヤカはあからさまに話題を逸らした。クマの町が消滅した事件と二千万人が転移した事件のことをいう。アンジェラ財閥は詳細を公開せず、大規模な魔力災害である、カタストロフィが発生したとだけ報道した。魔力災害は魔法の力による災害で魔物の大量発生や魔力がたまりすぎて大爆発を引き起こすものなどあり、謎が多い。だからこそ今回のこともカタストロフィとアンジェラ財閥は報道したのだった。
死者は約二千人、行方不明者は約八千人となっている。死者の多くは転移先での生活ができなかった、魔物に襲われたなどである。しかし、行方不明者のほうが多く、アンジェラ財閥に保護されていない人も八千人いるということだ。ここにカイとヘイドが含まれる。
「そうですね・・・どうせなら、カイには野垂れ死んでてほしいんですけどね。」
「ネネは相変わらずカイのことが嫌いだよな。」
「そう言うサヤカも嫌いでしょ?」
「いや、俺はそんなことはねーだんよ。たまにイラっと来ることもあるけど。」
「そうなんですか。」
「あいつ、なんだかんだ言っていいやつだしな。」
「私にはそうには見えませんけど。」
「じゃあ、なんでアルティに誘ったんだ?」
サヤカは不思議そうに聞いた。
「才能があったからですよ。」
「それだけか?」
「それだけです。」
ネネはサヤカを見つめた。
「じゃあ、俺を何でアルティに誘ったんだ?」
「言わなくてもわかりますよね?」
「さあ、どーだろーな。」
サヤカは微笑んだ。
「好きだからです・・・」
ネネは恥ずかしそうに小声で言った。
「え?なんつった。聞こえない。」
「絶対聞こえてますよね。」
「聞こえなかったし・・」
「はあ・・・好きだからに決まってるじゃないですか。」
ネネは大声でそう言った。道行く人が一瞬振り向いてしまうほどの声で。
「え?聞こえないなー。」
「もう、いい加減にしてくださいよ。」
ネネの拳は恥ずかしさのあまり震えていた。
「可愛いじゃん。」
サヤカは笑った。
「やっと、授業が再開されますね。」
「そうだなー、一生なくてもいいんだがな。」
サヤカはさらりと本音を漏らした。
「キョウ高校ですけどね。」
「まあ、大元はアンジェラ財閥が経営してるんだから、変わらなねーじゃねーか。」
「そうですけど、クマ高校とキョウ高校では授業形態が大きく異なるんです。クマ高校は八人という少人数で一人の担当者がすべての教科を教えますが、キョウ高校では一クラス四十人の大人数でそれぞれの教科に担当者がいます。教室数の関係上、対抗試合が終わるまでは五つのアルティを合併した一クラスでの授業がこれから行われるのですよ。」
「要するに、人数が多いからさぼっててもばれにくいってことだな。」
「うん、そうです・・・って違います。これからは他のアルティともかかわらなければいけないということです。ああ、面倒くさい。」
「それは面倒なのか?友達も増えるしな。いいことだと思うんだがな。」
「見てみればわかりますよ・・・」
ネネは明らかに面倒くさそうだった。
「そ、そうか。」
「なんかうちのアルティだけ人数少なくないですか?」
スミレは小声でネネに聞いた。部屋には五つのアルティが集まっておりそれぞれがかたまって座っていた。教室は前に黒板があり、個別に机が四十個用意されていた。席は自由らしい。
「ヘイドとカイが行方不明だからね。」
「他のアルティはみんな揃っていて羨ましいです。」
「まあ、仕方ないよー。これ以上いなくなったらもっと大変でしょ。」
スミレの隣にいたイオが話に入ってきた。
「確かに困りますね・・・」
「それにしてもマコトは?」
ケリンがあたりを見回して言った。
「そう言えばいないねー。トイレかな?」
イオは背伸びをしてマコトを探した。
「げげ、あいついるじゃねーか。」
サヤカは嫌そうな顔をした。
「げげって・・・そんなこと言う人初めて見た。」
ネネはくすくすと笑った。
「そりゃ、俺だって使うの初めてだぜ。でもなー、あいつがいたらそうも言いたくなるは。」
「あいつって?」
「あいつ。」
ネネはサヤカが指さしたほうを見た。そこには空色の髪に紺碧の瞳、ツインテールをしている、見覚えのある少女がいた。リテラ・アタランタである。帝国で一番権力を持っている宰相家、アタランタ家のご令嬢だ。
「げげ、って言いたくなりますね。」
「だろ?」
「まあ、関わらなければいい話なので。」
ネネとサヤカは素早く目を逸らした。しかし、彼女は視線を感じたのだろうか、私たちのほうに歩いてきている。
「やば・・・」
リテラがネネの目の前にやってきた。ネネはそっぽを向いた。
「ねえ、ヘイドは?」
彼女は威圧的な口調でそう聞いた。
「ヘイドは行方不明です。」
流石に無視はできなかったので、ネネは素っ気なく答えた。リテラは少し悲し気な顔をした。
「そう・・・戻ってきたら私に伝えなさい。」
「はあ、戻ってきたら言いますね。」
リテラはすぐに去っていった。
「何だよあいつ、めっちゃ上から目線じゃねーか。」
「そうですけど、前よりましになったと思いますよ。表情もなんかやわらくなっていましたし。」
「そうだな、前よりかはましになったか。」
担当教科の先生が入ってきたのでネネたちは席に着いた。授業は、それなりには面白かった。しかし、前のようにアットホームな感覚で受けれるものではなく、少し緊張感があった。ちなみにレイリ先生はあのことがきっかけで、教師を辞めた。来年度からは新しい先生が来るらしい。
「なんか肩こりましたね。」
隣に座っているスミレが言った。今は昼休みでネネとスミレは庭園の片隅にある日陰のベンチで二人でお弁当を食べていた。
「そうね、やっぱ私は少人数制のほうがいいかな。」
「なんか、椅子硬くないですか?」
「そこ?まあ、重要だけど。」
「だって、ネネ様、クマ高校はクッションついてたじゃないですか。」
「確かにそうですね。」
クマ高校は予算に余裕があったのか、長椅子にクッションがついていた。
「いつまでここにいるんですか?」
「新校舎が完成するまでですね・・・二月末には完成すると思うんだけど。」
アンジェラ財閥が主導となって、クマの町の再建が進められている。もちろん、もとあった場所は海になっているので、クマの南約三十キロくらいのところに新しい街を建設しているのだ。チャコが言うにはアンジェラ財閥の先端技術を取り入れて造るのですごい町ができるらしい。
「そうなんですか・・・」
スミレはまだキョウの町に慣れていないようだ。
「その前に対抗試合ですけどね。」
「対抗試合って何するんですか?」
「キョウ高校とクマ高校が戦うんだよ。」
しかし、それはスミレが求めていた答えとは違かった。スミレはため息をついた。
「ネネ様、そうではなくて、どのような競技をするのかということです。」
「ああ、そう言うことね。確か、箒レース、剣術大会、魔術大会と・・・」
「城取合戦じゃ。」
急に知らない声が聞こえた。ネネとスミレは思わず顔を上げた。そこには、白髪の黒い瞳をした。ショートヘアのネネにそっくりな少女が立っていた。気配に全く気が付きませんでしたね、声を発するまでは。私の魔力感知に引っ掛からないって只者ではないですね・・・
「ネネ様、見てはいけません。ドッペルゲンガーです。」
スミレは慌ててネネの目を覆った。ちなみにドッペルゲンガーを見ると死ぬと言われている。
「え、わしのドッペルゲンガーじゃと。もう、わしは死んでしまうのか。」
ネネはスミレに目を塞がれたまま、座っていた。むしろ、動じていたのは白髪の少女だった。彼女は世界の終わりでも向かえたような顔で、頭を抱えていた。
「スミレ、いい加減にしなさい。」
ネネはスミレの手を払った。
「わし・・・死んでない・・・」
白髪の少女はきょとんとしていた。
「突っ込みどころが満載なんですけど・・・私はあなたのドッペルゲンガーではありません。」
「おお、それは・・・よかった。」
その少女は胸を撫で下ろした。
「それに何で一人称、わし何ですか?」
「それはのう、おじいがそうだったからじゃ。」
「そうですか・・・」
これはあまり突っ込んではいけないやつですね、そもそも、親?が例えば俺とか言っていても普通の子供は真似しないですし、わしと言っていれば止めるはず・・・それなのにそうではないのなら、彼女は面倒くさそうな人種の可能性が高いです。
「なんじゃその軽蔑と哀れみが混ざったような眼は?」
「別に大したことではないので。」
「絶対、わしに対してよからぬことを思っているのじゃろ。」
ネネはネネと同じくらいの歳の女子がおじいさんのような言葉遣いをするのが、新鮮で逆にいいかもしれないと思ってしまった。
「なるほど、ギャップ萌えと言うやつですね。」
ネネは自己完結した。
「何じゃそれは・・・まあいっか。」
「で、誰ですか?ネネ様にこんなに似ているなんて・・・羨ましい。」
いや、流石に羨ましいはないでしょ・・・
「そうじゃろ、羨ましいじゃろ。」
なんだか、その少女とスミレはどこか分かり合ったのだろうか、急にネネが疎外されているように感じるほど、意味が分からなかった。
「どちら様ですか?」
「ああ、そう言えば自己紹介をしてなかったのう・・・わしはチャチャ・モースじゃ。キョウ高校の一年生でなんとじゃ、首席なのじゃぞ。すごいじゃろ、ひれ伏してもいいのじゃぞ。」
ネネの予感通り、面倒くさい人種であった。しかし、どこか憎めないようなところがあった。
「私はクマ高校のネネと申します。一年生です。」
「同じく、一年生のスミレです。」
二人は丁寧に挨拶をした。
「もしやして、おぬし、ネネ・アンジェラか?」
チャチャは屈んで、ネネの顔をじっと見た。近いです・・・
「そうですよ。」
「なるほど、噂に聞いていたよりは大人しいやつじゃな。つまらん。」
この人の感性とは何なのですか・・・
「どのような噂なのですか?」
「そうじゃな・・・宰相家の娘をぼっこぼこにしたり、平気で他の船をぼこすか沈めたり、船を空に飛ばしてみたり、とかじゃな。」
「あー。」
「嘘ではないですね、ネネ様。」
「確かに。」
「もっと奇想天外なやつだと思っていたのじゃがな。」
「聞きますけど、普段から奇想天外な人って見たことあります?」
「うむ・・・あんまりないのう。わしにだって船を沈めたり、浮かせたりすることくらいはできるのでな。周りの者たちがやばいと噂しておっただけじゃ。」
さらっとやばいこと言いますね・・・この人、でも、本当だったら私よりも実力は上の可能性もありますね。
「じゃあ、そう言うことで。」
ネネは会話を終わらせた。
「では、さらばじゃ。お主が対抗試合を盛り上げてくれると期待しておるからのう。」
上から目線ですね・・・
「さようなら。」
チャチャはどこかへ去っていった。
「何だったんでしょうね。」
スミレはつぶやいた。
「今回の対抗試合、一筋縄ではいかなさそうですね。それにしても、フタバはどうしているのでしょうか?」
「フタバってネネの使い魔の?」
「そう言えばスミレの使い魔は?」
「カタストロフィのあと、数日したら私のもとに帰ってきましたよ。」
「フタバは全然戻ってこないんですよ。」
「おかしいですね、どっかに囚われているとか?何かの任務にいるとか?」
「任務?」
ネネは聞いた。
「使い魔は自分の主人のためにいろいろなことをしてくれます。それをまとめて任務と言うのですが、例えば、校長先生のネズミのように主人のもとではなく他の場所に長期間いて、その役目を果たすということがあります。」
「でも、私は命令した覚えはないのですが。」
「ネネ様、使い魔は命令せずとも主人が望むことを実行することがあります。」
確かに、フタバは今まで命令されずとも行動したことがありますね。帆船レースで天気を変えてしまったこととかありましたね。
「そうですね。」
「それに、ネネ様の使い魔はとても不思議です。だから、普通の使い魔とは違う行動にでるかもしれませんし、高い知能を持ち合わせてるかもしれないのです。」
「確かにあの子は不思議で、かわいいですね。」
「だから、待ってて上げてください。」
「そう・・・ですね。」
しかし、気が晴れはしなかった。
ちょうどその頃、ヘイドとディアはアンジェラ鉄道のマーシャ特急に乗っていた。
「速いのになかなかつかないな。」
ヘイドは車窓の広大なヴィア海を見つめた。
「ご主人様、キョウまでは二日かかりますよ。イズモからキョウまで2200kmくらいありますから。」
「そんな遠いの?」
「ですから、すぐにはつきません。」
ディアはヘイドの前のソファに座った。ヘイドたちは寝台個室にいた。列車の中だというのに小さなホテルのようになっていた。一人掛けのソファが二つ。ベッドが二つ、トイレ、洗面台までついていた。お風呂は一車両、大浴場専用車があった。夕方になったら行ってみよう。
「それにしても、びっくりしたよね。クマの町がカタストロフィによって丸々なくなっちゃうなんて。」
「何か引っかかるんですよね。」
ディアは外を眺めた。
「何か言った?」
「いいえ、こちらの話ですので。」
「この一か月本当に長かったな。」
「そうですねー、私としてはもっとご主人様を独占したかったのですが・・・まあ、毎日ご主人様の寵愛を受けれたので、少しくらいはあの野郎に預けてもいいでしょう?」
「さっきから何言ってるの?」
ヘイドは呆れた顔をした。
「ご主人様は本当に立派になられました。」
ディアはしみじみとした声で言った。
「あんなにスパルタな特訓したら誰でも強くなるよ。」
ヘイドはこの一か月間ずっとイズモの隠れ里の迷宮で特訓をしていた。そして、一か月でやっと三十階層まで到達し、やっと、学校に戻ることを許されたのだった。
「そうですね・・・もっとご主人様をしごきたかったです。」
ディアは今日一の笑顔をした。
「ディアってさ、サディストだよね。」
「私はそんなことありませんよ。ご主人様の従順な僕です。」
「だったら、朝五時に叩き起こして、過酷な特訓をしている俺の姿を横で笑顔で見て、楽しそうにして、膝枕なんてしないだろ。」
「さあ、記憶にございません・・・というか最後のは関係ないでしょう。」
「はあ・・・」
「兎に角、ご主人様は今やネネの野郎と対等に渡り合えるぐらい強くなったってことです。それに勉強もできるし、非の打ちどころがない男ですよ。唯一あるとしたら、私と結婚してくれないくらいでしょうか・・・」
「さらりと変なこと言わないで。」
「私は本気ですよ。ご主人様でなかったら襲っています。」
ヘイドは改めて、ディアの主人であってよかったと思った。
「そう、でもネネには何も敵わないんだよ。この前のクマでも、俺は足手纏いになるからって一緒に行けなかった。それにネネは俺より勉強できるし。」
ヘイドは寂しそうに窓の外を見つめた。ヘイドの心の中とは対照的に外には、青い海、澄み切った空が煌びやかに広がっていた。
「そう言えば、もうそろそろ、キョウ高校との対抗試合だそうですよ。」
ディアは話題を変えた。
「対抗試合か・・・」
ヘイドは机に置いてあった煎餅をかじった。ぼりぼりと味を噛みしめた。
「ご主人様が強くなったのをお披露目するよい機会ではありませんか。」
「それもそうだな。」
ヘイドは心を切り替えた。いつまでもくよくよしているわけにはいかない。
「ネネたちは元気にしてるかな?」
「あと少しの辛抱ですよ。」
「そうだな。」
列車はもう海沿いを走っていなかった。沿線の木々がものすごいスピードで過ぎていく。ヘイドはもう一つ煎餅を手に取り、食べた。
「ヘイド様が二日後にはキョウに着くようですよ。」
「まさか、それを言うために私を呼び出したわけではあるまいな、チャコ?」
ネネはアンジェラ財閥本部の社長室にいた。入れられたお茶を片手に、キョウの町を見下ろしていた。ガラス張りの窓には、ネネの姿が若干映っている。
「縁談がございます。」
「どこからだ?」
ネネはチャコの方を向いた。そして、椅子に座った。
「宰相家からでございます。」
「思ったより早かったな。」
「いかがいたしますか?」
チャコはネネの顔色を伺いながら聞いた。
「チャコ、おぬしならどうする。」
「私ならですか・・・私なら、お断りいたします。このまま行けば、アンジェラ家と宰相家の対立は免れません。」
「では、なぜ宰相家が長年政治に関わっていないアンジェラ家に縁談を持ち掛けてきたと思う?」
「理由はいくつか考えられますが、一つは先代のエレ様がお亡くなりになって、若いお嬢様が当主となっていることでしょう。お嬢様にご兄弟はおりませんので、このままいけば、宰相家がアンジェラ財閥を相続することができるようになります。
もう一つは、テロメア家が中央政治に参加しなくなったことでしょう。これにより、中央政府は弱体化いたしました。それを、アンジェラ家という十貴族に発言権を与えることでましにしようとしているのでしょう。しかも、アンジェラ家は帝国の経済で頂点に君臨するもの、その協力が得られれば、今の帝国の財政状況をどうにかできるのかと考えているはずです。」
「その通りだ。だが、我々にとっても悪い話ではない。中央政治に参加できるようになれば十人衆会議にも出席することができるようになる。そして、帝国の法は十人衆会議だ。これの過半数を手に入れられれば、帝国を解体することができる。だから、私はこの縁談を受けようと思う。」
「真でございますか?」
「だが、婚約という形でな。理由は私がまだクマ高校を卒業していないからとしておけ。」
「本当にご結婚なさるのですか?」
「私が好きでもない男と結婚すると思うか?」
「いいえ。」
「そう言うことだ、これは公にするまで他言無用だ。そして、私が結婚するつもりがないことも他言無用でな。」
「かしこまりました。」
チャコは部屋を出て行った。ネネはチャコから渡された資料に目を通していた。そして、お茶をもう一口飲んだ。
そして、二日後正式にアンジェラ家のネネとアタランタ家、又の名を宰相家というの、ユグノーとの婚約が発表された。
それは今までの歴史上考えられないことであり、世界中に衝撃を与えた。だが、それは帝国政府がそこまで弱体化しているのを暗示するものともなったのだった。
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