1-5.エレ・アンジェラ5
時は経ち、秋が過ぎ、冬が来たのだった。冬になると、森には雪が積もり、湖には氷が張り、何も寒いだけではない。私は湖に氷が張るとすぐにお母様と一緒にスケート靴をもって、湖まで向かう。私は冬で一番スケートをすることが好きなのだ。
「お母様、早く早く。」
「そんなに急がなくても氷は解けませんよ。」
「いいの。私は一刻も早くスケートがしたいのです。」
「あらあら、少しわがままになってきたかしらね、まあ、乙女としてはこれくらいの強引さがあったほうがいいかしら。」
お母様はよくわからないことを言ってついてきた。私は雪の積もった森の小道を転ばないように注意しながら、早歩きをした。積もりたての雪がさくさくと音を立てて、私の足跡を刻んだ。どうやら、この小道は動物たちも使っているらしく、私の前にも兎の足跡や鹿の足跡がついているのが見られた。
湖に行くとそこは夏とは全く別の景色であった。山々には雪が覆いかぶさり、一面雪景色となっていた。湖の水は凍って、スケートができるようになっていた。
「お母様、スケート靴を出して、早く早く。」
私はお母様をせかした。
「はいはい。」
お母様は靴を鞄の中から取り出した。前々から思っていたのだが、お母様の鞄は何でもはいる。文字通り何でも入るのだ。持って入れられるものなら。前にお母様に聞くと、どうやら空間魔法が施されているらしい。お母様が昔に作ったと聞いた。私はどのような仕組みか知りたかった。
「どういう仕組みなのですか?」
「きちんと勉強していけば、いつか分かるわよ。」
私はお母様にスケート靴をはかせてもらい、氷の上に立った。お母様も急いで靴を履き私の後をついてきた。
「ひゃっほー。」
私は叫びながら氷の上を滑った。私はこうして勢いよく氷の上を走って風邪を感じるのが大好きだった。お母様は私よりも体重が重いので走り始めはゆっくりだが、加速するととても速い。
「お母様、勝負です。」
「おお、来たな。」
お母様は私の行動を予想していたらしい。
「じゃあ、あそこからスタートです。」
私は湖畔にあった大木をを指さした。
「たとえネネでも容赦しないわよ。」
お母様は大人げない発言をしながら、ウォームアップに湖の上を普通の速さで滑っていた。私もお母様と同じように氷になれるように滑っていた。
「そろそろいい?」
「はーい。」
私はスタート地点に向かった。
「ゴールはあのちょっと先にある岩でいい?」
「うん。」
「じゃあ、ネネがスタートの合図を出していいわよ。」
「わかりました。」
私はスタート位置につき、お母様と並んだ。私は頃合いを見計らって、
「よーいどん。」と言った。
その瞬間、私たちは一斉にスタートした。かつかつと靴の刃が氷にあたる音がする。だんだんスピードが増してゆくごとに向かい風が強くなる。やはり、スタートを出した私のほうが少し早く出れた。そして、身軽な私ははじめはお母様に勝っていたのだが、半分くらいのところで追い抜かれてしまった。
「ああ。」
私は嘆いた。
「お先―。」
お母様はそう言って先に進んでいった。歩幅の問題もあるのだろうか。お母様と私の間の距離は増してゆくばかりだ。そして、お母様は大差で私に勝った。私はお母様がゴールしてから三秒後くらいにやっとゴールした。私ははあ、はあと息が荒くなっていた。しかし、お母様の息は全く切れていなかった。
私は悔しかった。たとえお母様と言えども同じ人間なのだから、勝てないはずがない。私はそう思った。
「こんなのでばててちゃいつまでも勝てないわよ。」
お母様は五歳児相手にちょっとばかりスパルタなことを言った。
「また、明日も勝負して。」
「いいよ。」
「じゃあ、今から練習します。」
私はそれから毎日練習をして、お母様と勝負した。しかし、私が勝つことは決してなかった。