1-55.レイリの思惑
「まだ、敵が気づいていないうちにスクリューを破壊しろ。」
ネネは六人の影にテレパシーでそう伝えた。影は世界各地で活動しているアンジェラ財閥の諜報員だ。今回のことも事前に察知はできていたらしいが、裏をとれなかったのでネネの耳には入らなかったらしい。テレパシーとは魔法の一種で魔力波を発することで相手に自分の思念を伝えることができる。
「御意。」
影たちは一斉に敵に気付かれないように艦隊に突入していった。影たちは探知魔法に引っ掛からないように自分に結界を張って外部と魔力が等しくなるように調整している。
今ネネはナガ湾上空三千メートルにいた。レイリの艦隊らしきものを撃破するためだ。キョウとの時差は十時間で、ナガ湾は夕方だった。沈んでいく太陽が力強く海を染めていた。空には雲がなく、きれいだった。
「どうやら、スクリューを破壊できたようですね。」
ネネは寝起きで少しだるかった。
「それにしても・・・寒い・・・」
上空三千メートルで、ナガは緯度が高く、おまけに北半球は冬なのだから当然と言えば当然なのだ。
そう、さっき優秀な影たちと一緒に艦隊の上空に転移したのだ。敵も流石に上空からの奇襲は予想してないだろう。彼女は浮遊魔法を解除した。
「今から私が一番大きい戦艦を攻撃する。周りの駆逐艦、護衛艦を頼む。」
「御意。」
ネネは自由落下に身をゆだねていた。冷たい空気が嫌というほど、顔面にぶつかってきた。これは気持ちいを通り過ぎて、痛かった。ネネは全身を結界魔法で覆い、風圧を軽減した。彼女は頭を真っ逆さにして、海面に飛び込んでいっていた。
その光景は天使が降臨するような美しい光景だった。しかし、それはどちらかというと天使と言うよりかは悪魔と言ったほうが適切かもしれない。少なくとも、戦艦にいた人々にとって、それは悪魔以外の何物でもなかった。
ネネは落下中に戦艦の様子を確認した。
「テロメア家の旗ですね・・・これは思い存分やれますね。」
一方、テロメア軍は油断をしていた。そして、不意を突かれたのだった。
「船長、船速が落ちています。このままだと、一分以内に停止してしまうかと。」
「原因は?」
「スクリューに問題があるようです。」
「自動修復機能を発動。」
「完了まで一分ほどです。」
「サメにでも食われたか?」
「ワニですかね。」
船長室いた人々は笑った。
「それ、どっちも同じじゃねーか。」
しかし、三十秒後には冗談を言っていられない状況になるのだった。
この攻撃に最初に気が付いたのは、この作戦の総司令官だった。彼は容姿端麗で部下からも慕われていた。驚くべきはその若さでたった二十歳でテロメア家の軍事を任されていたのだった。
「全艦に通達、直ちに対空戦闘準備。」
彼がそう言い放ったのはスクリューに異常が発生してから数秒のことだった。しかし、もう手遅れだった。
影たちは一斉にその青年が乗っていた戦艦の周りの船を攻撃した。突然、膨大な魔力が放たれた。それは大きな光の筋となり、船の防御魔法を貫いた。そして、船に直撃した。それは天からいくつもの光が放たれているようだった。その光の中にいたものは一瞬にして、跡形もなく消えた。まるではじめから存在しなかったように。運よく光に当たらなかった者は、畏怖した。船は貫かれ、水しぶきが舞い上がる。残った部分ももう長くはない。船はどんどん沈んでいる。あるものは唖然とし、あるものは生けよと藻掻き、救命ボートに走っていた。あるものは船を修復しようとしたが、それはかなわなかった。生き残っていた、魔法使いたちは一斉に箒に乗って空中に脱出した。
空にはどうしようもなく、無力な魔法使いであふれていた。レイリは大量の魔法使いをこの作戦に投入していた。魔法使いとは優秀な魔術師で、それには世界魔法協会の試験に合格する必要がある。レイリのもとには魔法使いの称号はないが、それに匹敵する、もしくはそれ以上のレベルのものが千人以上いた。そのほとんどをこの作戦に借り出していたのだ。それを持っても影は見つけることができなかった。
「全艦に通達、直ちに船から脱出、航空部隊は応戦。」
青年はそう指示した。そして、自ら外に出て、浮遊魔法を使った。
彼は運がよかった。というよりかは、その戦艦は運がよかった。青年はすぐに空から猛スピードで近づいてくるネネを見つけた。そして、戦艦の上空に防御魔法を展開した。
ネネは構わず、戦艦に向かって魔法を放った。そして、自分は減速した。その魔法は影の魔法と同じ太い光の筋を放った。しかし、それは青年の防御魔法によって跳ね返されてしまった。
ネネははっとした。
「あれ?跳ね返されてしまいましたね。」
彼女は空中に浮かんでいた。そして、その前には青年がいた。下の海ではどんどん船が沈んでいって、空中の魔法使いが数多いた。
その中の一人がネネに気が付いたらしく魔法をぶっ放した。それに続いて、多くの魔法使いが氷魔法やら、雷魔法やら、あらゆる魔法で攻撃してきた。
「蠅が鬱陶しいですね・・・」
彼女は下等生物を見るような軽蔑の目で魔法使いたちを見下ろした。
ネネは指はパチンと鳴らした。それと同時に魔法使いと匹敵する量の黒い魔法の球がネネの後ろに現れた。もう一回、ネネは指を鳴らした。そうしたら、その黒い球は魔法使いたちを目掛けて一直線に飛んでいった。あまりにも一瞬のことで抗うこともなく、魔法使いたちは撃墜され死んでいった。ネネのだるそうな表情が少しマシになった。
海は落ちた魔法使いのところだけ紅に染まった。ネネはその色は嫌いではなかった。ボートの上で生き残っていた人たちの顔は真っ青になった。そう、海上は一瞬にして地獄と化したのだった。
もう、一番大きい戦艦以外は沈められていた。ネネは戦艦も破壊していいと影に伝えた。
「やってくれましたね。」
ネネがガン無視していた青年が冷静にそう言った。彼は下の魔法使いたちが死んでいったのに、顔色一つ変えずに浮かんでいた。
「どちら様で?」
ネネはこの青年から不思議な気配を感じ取った。
「名を尋ねるのであればそちらから名乗るのが礼儀というものでしょう。」
「これは、失礼。私はネネ・アンジェラだ。」
ネネは丁寧に礼をした。しかし、内心いらっと来ていた。
「僕はシベリウス・チンダルです。まさかここにネネ・アンジェラがいらっしゃるとは・・・何用で?」
聞いたことがないですね。普通の人ではない・・・嫌な感じがします。そして、むかつく。ネネは寝起きで体がだるかった。
「テロメア家に世界を手に入れられるのは困りますので。」
「何をご所望ですか?」
「この艦隊の壊滅と賠償金、そして、テロメア家の二年間の帝国政府への発言の禁止ですかね。」
青年は腕を組んだ。
「そうですね・・・艦隊の壊滅はもうできてますがね。」
彼は笑った。人の死を何とも思っていないらしい。推定六万人くらいはもう命を落としただろう。
「逆らうとどうなるのですか?」
「殺すだけですよ、あの蠅どものように。」
今日のネネは機嫌がよくなかった。高校がなくなり、二千万人を転移させ、アンジェラ財閥本部まで歩いて行き、仮眠を経てここに至る。
「ところで、どうしてわかったのですか?我々が動いていることが。」
「クマ高校の魔力核融合炉の爆発が事故ではなかったからですかね。」
「レイリ様は確かあなたを一番最初に高校に返させたはずなのですが・・・運が随分よろしいのですね。」
青年は清々しい表情で嫌味を言った。
「いえ、私が一番最初に着きましたよ。」
「では、なぜ生きているのですか?僕が仕掛けた罠とあの建物の構造上脱出は不可能なはずなのに・・・」
「あなたですか・・・クマの町を消し去ったのは。」
「ええそうですよ。レイリ様がおっしゃったとおりに。」
「じゃあ、ここで死んでもらうしかないですね・・・私、久しぶりに怒っていますので、オバーキルしないか心配です・・・」
ネネは目を見開いた。その眼は殺気に満ち溢れていた。しかし、その眼に睨まれてもなほシベリウスと名乗った青年は物怖じすらしなかった。その青年はポーカーフェイスだった。
「それはそれは、僕もなめられたものですね。言っておきますけど僕結構強いですからね。一応魔王だし・・・」
「別に相手が誰であろうと関係はありません。」
ネネはオーラを全開にした。彼女から溢れた魔力が多く、紫色のオーラがゆらゆらと覆った。美しい黒髪もまた風によってゆらゆらと揺れて、威圧感が増した。そして、彼女の目は紫色に変わった。
彼女はもはや別人だった。全身から殺気があふれ、その眼つきは人ではなかった。だが、彼女はこのようなときが一番美しい。
ネネはさっき魔法使いたちに放った黒い魔力の塊をあらゆる方向からシベリウスに打ち込んだ。しかし、防御魔法によってすべて反射された。
シベリウスもやられたままではなかった。ありったけの水魔法をネネにぶつけて、空中に作った大きな水の塊に閉じ込めた。そして、その中の水を洗濯機のように回した。
しかし、一瞬にしてその水の塊は形が崩され、海へ落ちて行った。
「水魔法ですか。」
ネネは笑った。とても不気味に、悪魔の微笑みのように。
「しまった、あれを無効化されるとはな・・・」
まだ、シベリウスは余裕のようだった。
「では、こちらもお返しといきますか。」
ネネは空中に水の塊を用意した。そして、シベリウスにその塊をあてて、洗濯機のように回した。だが、中のシベリウスは平然としていた。ネネはわかっていた彼に水は効果がないということを。
彼女は右手に雷魔法、左手に炎魔法を用意した。そして、まず、雷魔法を四方八方から水の塊にぶち込んだ。それは高電圧だったので、電気が水の中を通り、シベリウスに直撃した。
シベリウスは苦しそうなショックを受けたが、致命傷と言うわけではなかった。そして、高電圧の電流を食らっていても平然としていた。ネネは十秒間水に電気を流し続けた。水は分解して水素と酸素を発生した。そして、ネネは水の塊とその周りの空気を完全結界で閉じ込めた。
そして、ネネは炎魔法を結界内に大量にぶち込んだ。その瞬間、結界内でボンと大きな音がして、内部で激しい爆発が生じた。そう、水素爆発である。そして、同時に多量の熱と水が反応して、水蒸気爆発も起こった。結界内は高温、高圧の灼熱地獄と化した。そして、なかのシベリウスは言うまでもないが、ゆでだこ状態となって、失神してしまったようだ。
ネネが結界を解いた瞬間に海へ真っ逆さまになって落ちて行った。
「肉体が無事とは驚きましたね・・・」
ネネは熱風を浴びながら感心していた。そして、いつもの凛々しい姿に戻った。影たちが仕事を戻ってネネのもとに集まってきた。
「終了いたしました。生き残った者はどうなさいますか?」
「放っておいてやれ。」
「は。」
「お疲れ様、じゃあ、帰ろっか。」
ネネはそう微笑んだ。そして、七人は上空から姿を消した。
そのころ、スミレとマコトはノーズ大陸のサッポロにいた。サッポロはノーズ大陸第一の都市で、人口は約五千万人とクマより多かった。町は活気にあふれており、街灯が町を灯していた。サッポロはキョウとの時差は十二時間で時刻は夜六時、太陽が沈んで少し経ってからだ。
スミレとマコトはサッポロのテロメア家本家の屋敷に来ていた。
「緊張する・・・」
「そうだな・・・」
スミレはがちがちだった。マコトは慣れているのか平生と変わらなかった。
「でも、相手はレイリ先生でしょ?」
「そうだけど・・・授業の時と同じだとは考えないほうがいいよ。」
「それもそうだよね。まさか先生がクマの町を爆発させて、それに帝国政府を滅ぼそうとするなんて、私たちの知ってる先生じゃない。」
二人は通された部屋のソファでそのようなことを話していた。
「レイリ様、お客様がお見えです。」
「こんな夜中に?」
レイリは食事中だった。目の前には豪勢な料理が用意されており、彼女はステーキを食べていたところだった。
「それが、アンジェラ家の者でして・・・」
レイリはナイフでステーキを切った。そして、フォークでそれを口に放り込んだ。
「アンジェラ家ね・・・」
レイリは明らかに嫌そうだった。
「戦後処理に参ったとおっしゃっていました。」
レイリは思わず、フォークを落とした。それは皿に当たり、かちゃりと音をして、そのまま床に落ちてしまった。
「今、変えのをお持ちいたします。」
執事は近くの棚から新しいフォークをレイリの食卓に置いた。
「いかがいたしますか?」
「うーん。戦後処理か・・・相手はどこまでわかってるんだろー。」
「対応が早すぎますね。」
「そうだよねー。とりあえず、ご飯食べたら会うから。」
「こちらでございます。」
眼鏡をかけたやせた執事にスミレとヘイドは案内された。どうやらレイリ先生が漸く会ってくれるらしい。
執事がドアを開け、マコトとスミレは部屋のなかに入った。そこには、赤い美しいドレスを着飾ったレイリがいた。レイリは二人を見て、呆然とした。しかし、頑張ってそれを表情に出さないように対応した。
「どうぞ、おかけください。アンジェラ家の使いさん。」
レイリはアンジェラ家のというのを強調した。
「失礼します。」
二人はレイリの前のソファに座った。
「今日は夜分遅くに失礼いたします。一刻を争う案件でしたのでこの時間に伺いさせていただきました。会ってくださってありがとうございます。」
マコトは心にも思っていないことを笑って言った。
「流石にアンジェラ家となると断れないからねー。でも、一体なぜ君たちがここにいるのかなー?」
レイリは少し迷惑そうな感じだった。というより、だいぶ迷惑だっただろう。
「それは先生こそなぜここにいらっしゃるのでしょうか?」
レイリはクマ高校の教師として、まだナハにいるはずだった。
「・・・」
レイリは黙っていた。
「もう、腹の探り合いはやめましょう。」
スミレはこの嫌な雰囲気にしびれを切らしたのだろうか。懐からネネから預かった手紙を取り出し、レイリに渡した。
「ネネ様からの手紙です。今すぐ読んでほしいということです。」
「レイリ様。」
レイリは執事に手紙を渡した。彼はどこからともなくペーパーナイフを取り出して、封を切った。
レイリは手紙の中を見た。
「親愛なるレイリ・テロメア様
この手紙を受けっとった理由は何となく察しているでしょう。しかし、答え合わせといきましょう。あなたは魔帝アレの当時の臣下、レイリであり、この国に仕えてきた。いや、二千年とは長いですよね。しかも、アレに代わってシモエ・アタランタが天下を取った。だが、あなたに不満はなかった。アレの願いは世界平和であり、それを管理するものは誰でもよかった。
そして、百年前あなたはイーストファリア条約により、衰退しつつあった帝国の力をそいだ。具体的には地方分権にした。そうしないと、帝国は崩壊してしまうから。他に方法はなかったと思います。しかし、それはただの延命治療であり、根本の解決ではなかった。だから、今あなたは帝都を攻めて、帝国を自分のものにしようとした。自分なら今の揺らいでいる帝国を新たなものとして立ち直すことができる。
それを達成するために邪魔だったのが、私ですね。お母様が亡くなってから、もう二千年前から生きているのはあなたくらいになっていたのも、帝国を攻めようとした理由の一つですかね。
アンジェラ家は経済力においては右に出るものがいない。そして、政治の世界のトップのアタランタ家を今回の魔力核融合炉の爆発と帝都侵攻で倒してしまおうとしたわけですね。しかし、残念ながらテロメア海軍はこの私が倒しておきます。
ネネ・アンジェラ 」
レイリは手紙を見て笑った。
「なるほど、私はネネをなめすぎていたか・・・しかし、戦後処理とは大きく出ましたねー。まだ、私の海軍が負けたわけでもないのに。」
「ネネ様が負けるわけがない。」
スミレは強気に出た。
「そうかなー。」
「ネネのことだ、ここで僕たちが何を言っても意味がない。僕たちは戦後処理の円滑化のためにここに来たのだから。」
「マコトは・・・もう、頭がいいんだから。」
スミレは拗ねていた。
「で、君たちは私に何を求めるのかね?」
レイリは手紙から目を逸らしてマコトとスミレ見た。
「ここは私に言わせて。」
スミレは駄々をこねた。
「仕方がないな。いいよ。」
「ありがとう、えっへん。アンジェラ家は以下の四つをテロメア家に対して要求する。一つ、魔力核融合炉の爆発による経済損失に対する損害賠償。金額は後日算出するそうです。一つ、二年間のテロメア家の帝国政府への干渉を禁止する。具体的には十人衆会議への出席禁止などだそうです。一つ、十人衆会議でのアンジェラ家と賛同すること。そして最後に一つ、アンジェラ家、そして他の貴族への敵対行動を二年間禁止する。以上です。」
スミレは席に着いた。
「うむ。しかし、さっきも言った通り勝敗は決していない。」
レイリは渋った。しかし、アンジェラ家に作戦のことがばれて、ネネ・アンジェラが生きているのであれば、負けたようなものだ。
「そうですよね。」
スミレは弱気になった。
その時だった。ネネがスミレの真上に現れた。そして、そのままスミレに落下した。
「きゃあ。」
スミレとネネはそのままソファに倒れ込んだ。スミレは何が起こったのかわからずに混乱していた。隣ではマコトが引いていた。
「くんくん。」
スミレは落ちて来たものの匂いを嗅いだ。
「これは・・・ネネ様の匂い。」
スミレはその状況を堪能していた。そして、落ちてきたものに抱き着いた。
「スミレ・・・そこはお尻。」
ネネは顔を上げて、スミレの上からどいた。
「ネネ様―。」
ネネの顔を見てスミレはほっとしたようだった。
「終わったのか?」
マコトは聞いた。
「ああ、終わったよ。」
ネネは身だしなみを整えた。
「ご無沙汰しております、レイリ。」
執事とレイリは流石に驚いていた。
「転移魔法が使えるようになっていたとは。エレの娘と言うだけはあるな。」
「ということで、私たちの勝利です。」
スミレは誇らしげだった。
「あなたの海軍はぼこぼこにしてきましたよ。」
ネネはそうレイリを見下ろした。
「参ったな。本当の戦後処理になってしまったじゃないか。」
「では、認めるんですね。」
「手紙に書いてあることは大方合っているよ。これからどうするつもりだい?」
「それはもちろん条約締結ですよ。もちろん拒否権はないですよ。」
「あの条件でか?」
「はい。」
ネネは鞄から魔法紙を取り出した。魔法紙とは余程のことがない限り破れたり汚れたりしない紙だ。
「負けた側言うのもなんだが、甘すぎるぞ。」
「ええ、知っています。」
ネネは不気味な笑いを浮かべた。
「まあ、わかっているならいい。」
紙を机に置いた。その紙にはすでに内容とネネのサインが入っていた。
「サインしてくださいな。」
レイリはその内容をじっくりと読んだ。特に変な内容は書いてないか。その後、レイリは執事からペンを受け取りサインをした。
「はい。これで条約は締結されました。これは秘密条約なのでくれぐれも内密に。」
「わかってる。」
ネネは紙を複製して、片方をレイリに渡した。
「破った場合、アンジェラ家は全力でテロメア家をつぶしにかかりますからね、レイリ先生。」
ネネはなんだか嬉しそうだった。
「はい。」
レイリはとてもつまらなそうな顔をしていた。
「ネネはさー、どこまでこの世界のこと知ってるの?」
「人並みですかね・・・」
なぜ、そのようなことを聞くのでしょうか?何か、あるのでしょうか。
「まあ、いつか、話す日が来るかもしれないねー。」
何だか、少し後味が悪かった。
「ネネ様、めっちゃ緊張したんですけど、頑張ったんですよ、私。」
「ありがとう。」
三人はテロメア家の館を出た。
「マコトもお疲れ様。」
「これ、相手が先生じゃなかったらもっとやばかった。」
「まあ、いい練習になったでしょう。」
「確かに。」
二人は納得したようだった。これから、もっとそういうことを頼むようになりますからね。しかし、今日のところは上出来でしょう。
「レイリ先生が実力行使に出なくてよかった。」
「ん?」
「たぶん、私、レイリ先生と戦ったら死ぬから。」
さらりと大事言う。
「そうだろうな。僕でも勝てない。」
「マコトまで?先生ってそんなにやばいの?」
「うん。」
町の灯りがきれいだった。三人は人通りが多い通りを歩いていた。
「どこ行くの?」
スミレは聞いた。
「サッポロに来たんだから、やっぱラーメン食べないと。」
ネネは気持ちを切り替えた。
「そうか、サッポロと言えばラーメンか。」
マコトはそう言った。
「私、おいしい店知ってるから。」
三人の笑い声があたりに少し響いた。




