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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
55/129

1-51. クマ高校の地下

ネネたちがナハから戻ってきたところです。

「なんかひっさしぶりだな。」

 サヤカは白い吐息を浮かべた。


「そうですね。」

 ネネはそう言った。

「しかし、いつ見ても立派なお城だよな。」


 ヘイドはクマ高校の校舎を眺めた。クマ高校はクマ城を改装して造られたものだ。だから、天守閣が存在する。

「もしかしてさ、イオたち一番乗りじゃない?」


 イオは上機嫌でスキップをしていた。

「そうですね。大学の人は少しいますけど、私たちが一番最初にゴールしましたからね。」

 校舎内には大学生もいたが、高校とは別の棟で授業しているのであまり関わり合いはない。大学生は大概天守閣から離れた研究所で研究しているのだ。


「今だったら立ち入り禁止のところ、入ってもばれねーんじゃね。」

「そんなところあるの?」

「例えば校長室とか、女子更衣室とか。」

「まあ、ある意味立ち入り禁止だな。」

 マコトが口をはさんだ。


「それより、マコト、なんか天守閣の方に大きい魔力を感じませんか?」

 ネネはフタバを抱きかかえながらそう言った。

「ああ、ちょっと行ってみよう。なんだか嫌な予感がする。」


 校内には誰もいなかった。先生たち、生徒たちはみんなまだナハにいる。ネネたちが一足先に戻ってきたのだった。

「それにしても静かですね、ネネ様。」


 スミレはネネに寄り掛かった。

「そうですね、あと、そんなにくっつかれると暑いです。」

 外は十二月だったので寒かったが、中は暖房が効いていてコートを着ていると汗ばんで来る。



「何だこら?」

 大広間に一番最初に入った、カイが言った。見ると、大広間の窓ガラスはすべて割れており、おいてあった長いテーブルは裏返しになって壁に横たわっていた。窓際の床には粉々になったガラスの破片が散乱していた。そして、大広間の中央には巨大な穴が空いていた。


「一体何があったんだ。」

 ヘイドは立ちすくんでいた。

「反応はこの下からですね。」

「行くか?」

 マコトは穴のほうに歩いていった。


「行くしかないでしょう。」

「ネネ様、私も行きます。」

 スミレはネネの手を引いた。

「いいのですか?危険かもしれませんよ。」

「大丈夫です。私はネネ様に地獄の果てまでついていくと決めていますから。」


 地獄の果てまでって、それは地獄ですね。

「まあ、いいでしょう。」

「じゃあ、僕とネネとスミレ以外はこの入り口を見張っててくれ、十二時間たっても戻ってこなければ、捜索隊を送ってくれ。」

 マコトはそう言った。


「俺も行く。」

 ヘイドは拳を握った。何か嫌な予感がしたのだ。

「ヘイド、あなたは・・・ごめんだけどついて来てはいけない。」

 ネネは冷静に判断した。

「どうして?」


 ヘイドはうつむいた。なんとなく答えは察していた。

「あなたは魔法がまだ使えるようになったばかり・・・だから。」

「でも・・・」

 その時、ケリンがヘイドの肩を持った。

「ヘイド、我慢して。」


 たったそれだけの言葉がヘイドの胸に刺さった。それはとげのように鋭く、しかし、暖かくもあった。

「わかった。」

「ごめんね。」

 ネネは申し訳なさそうにした。


「行くぞ。」

 マコトは穴の中に入っていった。

「誰か、先生に連絡しておいてください。」

 ネネとスミレも穴に飛び込んだ。



 その竪穴は大広間からだとそこが見えないくらい深かった。ネネは底が見えるとすぐに二人に浮遊魔法をかけた。三人は無事に穴の底に着地した。

「おーい、大丈夫か?」

 ヘイドの声が上から聞こえてきた。


「大丈夫です。」

 ネネは答えた。

「にしても暗いな。」

「そうですね。」


 ネネはフタバから発せられる微弱な光を頼りにあたりを見回した。

「もしかしたら、ネネの使い魔、光ることができるんじゃないか?」

「やってみたことがないのでわかりませんが。」

「そう言えば、ネネ様は使い魔をお使いになりませんよね。」

 スミレは不思議そうにそう言った。


「私はこの子がいればいいから。では、やってみますね。」

 ネネは深呼吸をした。これから初めてフタバに使い魔としての仕事を頼む。

「フタバ、周りを灯してくれませんか?」


 フタバはぷかぷか浮かびながら頷いた。その瞬間、フタバは輝きだした。彼女自身が輝いている。その白い雪のような肌がより際立って見える。紫色の髪も透けたように輝いている。

「綺麗・・・」

 スミレは思わずつぶやいた。

「ありがとう。」


 ネネは彼女の紫色のつやつやとした髪を撫でた。

「じゃあ、行こうか。」

 

そこは廊下のようだった。壁は石で覆われていて、所々ひび割れがあった。

「ここは一体何なのでしょう。」

 スミレはつぶやいた。


「ここは恐らく二千年前使われいた、王城の施設じゃないかな。」

 マコトは答えた。

「とりあえず進みましょう。」

 ネネは廊下の奥のほうへ歩き出した。


 廊下は一本道であった。そして、五分くらい歩くと一筋の光が先に見えた。三人はその光の中に歩いていった。


 暗い廊下を抜けるとそこは雪国であった。いいえ、雪国ではなかった。そこは、軍港であった。

「何だろここ?」


 スミレは唖然としていた。何か想像とは違っていたからだ。

「海軍基地でしょうか?」

「当たりらしいな。」


 軍港は地下であるはずなのに明るかった。そして、そこには無数の戦艦があった。

「二千年前の船でしょうか?」

「そうだな・・・」

 マコトは停泊している戦艦の一つに近づいて行った。


「素材は鉄のようだな。」

「地下にこんな軍港があったなんて。」

「クマ城は要塞として機能していたらしいですからね。」

「こんなものがいっぱいあると政府に知られると大変なことになるぞ。」


 戦艦は確認できるだけでも三十艦以上ある。

「後日、アンジェラ財閥の調査団を送り込む。」

「一体どうするつもりなのですか?」

 スミレは恐る恐る聞いた。

「来るべき日に備えるだけですよ。」

 マコトは笑った。それをネネとスミレは気づかなかった。


軍港は地下のほかの施設にも繋がっているようだった。

「今からどうする?」

「そうですね・・・とりあえず侵入者の行った道筋を辿りましょうか。」

「そうだな。」


 長年使われていなかったのか、床には埃がたまっており、そこには足跡があった。

「この足跡ですね。」

 スミレは床の足跡を指しながらそう言った。


 三人はその足跡を辿って軍港を出た。その足跡はもっと深いところへ向かって言っているようだった。軍港があった階から階段を二度ほど降りたところでその足跡はある部屋に入って、出ていったようだった。


「この部屋は?」

「設計図保管室って書いてある。」

 マコトは部屋の扉の表示を読んだ。

「まんまですね。」


 ネネは扉を開いた。部屋の明かりがついた。部屋の左右の壁にはファイルの入った棚が奥のほうまでずらりと並んでいた。部屋は足跡だらけだった。そして、所々ファイルが無くなっているところがある。

「どうやら、侵入者の目的はここだったようですね。」


「設計図なんて盗んでどうするの?」

 スミレは聞いた。

「来るべき日に備えるため、だよな、ネネ?」

「おそらく・・・これは困ったことになりましたね。」

 ネネは考えこんだ。


「そうだな。」

 マコトは部屋の中を見回していた。

「しかし、盗まれたものは仕方ありません。」

「ネネ様とヘイドはさっきからなんの話をしているのですか?」

「スミレにももうじきわかるよ。いつか、時が来たら話す。」

 マコトはそう言った。


「本命はこれではなかったのでしょうか?ならばこれ以上奥に行く必要はないはずなのですが。」

「魔力につられていったか?」

「私たちも行ってみましょうか?」

 ネネはずっとこれよりもっと地下にある魔力反応を気にしていた。マコトも同様である。

「そうだな。」


 その足跡をまた三人はフタバの明かりを頼りにしながら、暗い、寂れた廊下を進んでいった。足跡はその突き当りの部屋に入っていったようだ。


「魔力核融合炉 危険 関係者以外立ち入り禁止」

 こう、扉に書かれていた。

「やばそうだな。」

「ええ、でも、行くしかないでしょう。」


 ネネは真剣な顔で扉を開けた。その部屋にはより深いところに行くための梯子以外何もなかった。

「これを降りればいよいよ最深部だな。」


 マコトはどこかこの状況を楽しんでいるようだった。それに対してスミレは緊張しかしていなかった。


 梯子を下りきったところにはまた、扉があった。

「これより先、危険 関係者以外立ち入り禁止」

 ネネはこれを華麗に無視して中に入った。


 そこには広大な空間とそしてその中央にまぶしく光り輝く太陽のような巨大な球があった。それは何重もの結界によって覆われていた。その球は時には赤、紫、青と定期的に輝く色を変えていた。その球は天井と床によって支えられていた。


 フタバはその巨大な球のほうに飛んでいって、近くで眺めていた。

「これは何でしょう?」

 スミレはおびえながらもこの球に目を奪われていた。

「やばいものなのは確かですね。」

「なんかコントロールパネルがあるぞ。」


 マコトそう言ったときだった。球の内側の結界がパリンと音を立てて崩れたのは。球はだんだんと大きくなっているようだ。そして、より強い魔力反応が感じられた。

「やべーな。」


 ネネはコントロールパネルへと急いだ。

「エラー発生 直ちに生体認証にてログインしてください」

 コントロールパネルにはそう表示されていた。

「生体認証?」


「個体名:ネネ・アンジェラ 生体認証によりアクセスが許可されました。」

 コントロールパネルにそう表示された。どうやら、声が生体認証されたようだ。それにしても、私はいつ何時これに登録したのでしょうか?しかし、そんなことは今はどうでもよかった。


 ネネはコントロールパネルからホーム画面を開いた。

「エラー発生 魔力核融合炉爆発まで推定五分。」

 その時、また結界が割れる音がした。


「緊急停止はできないのか?」

 マコトはネネの隣にいた。

「そうね。」

 ネネはコントロールパネルの緊急停止ボタンを押した。


「エラー 結界が破損しているため緊急停止できません」

「くそ。」

 マコトはこぶしを叩きつけた。


「なんかやばいですよ、これ、だんだん大きくなっていっています。」

 スミレはネネたちのところに来た。

「爆発まで四分か。」

 マコトはひどく冷静だった。


「もし、これが爆発したときの被害は?」

 ネネはコントロールパネルに話しかけた。

「推定被害:半径三十キロ以内の生命体の完全消滅。」

「やばくね。あと四分で私たち、いやネネ様が死んでしまう。」


 そこは言い換える必要はないと思うのですが。

「マコト、結界を張ることはできますか?」

「できるが、それでも時間稼ぎにしかならない。」

「違いますよ。このクマ全体を覆う衝撃吸収型結界です。物質のやり取りはできるが、魔力のやり取りができない結界をお願いします。」


 マコトはネネが言っていることを理解した。

「注文が多いな。展開まで三分かかる。」

「十分です、それまでに私がどうにかします。」

「ネネ様、何を考えているのですか?」


「このクマは今日をもって消滅します。」

「じゃあ、私たちは?」

「大丈夫ですよ。私がどうにかします。」

「爆発まであと三分ですよ。」

 

ネネは本気を出した。ネネは魔力を全開にした。彼女から溢れた魔力が多すぎて、紫色のオーラがゆらゆらと覆った。美しい黒髪もまた風によってゆらゆらと揺れて、威圧感が増した。そして、彼女の目は紫色に変わった。

「半径三十キロ以内のすべての人間をマーク。」


 ネネは広域探知魔法で半径三十キロ以内にいる人を全員認識した。総勢二千万人だ。これはきついですね。流石の私でも・・・

 それでもネネは覚悟を決めた。たとえ魔素が尽きようと、これだけは成功させる。

「爆発まであと一分。」

 コントロールパネルに表示された。

「マコト、いけますか?」

「オッケーだ班長。」


「展開してください。」

 マコトは広域結界を展開した。

「完了だ。」

「ネネ様、爆発までもう三十秒もありません。やっぱり私たちは死んじゃうのですか?」

「そんなことはありません。そんなこと、私が許しません。私はもっともっと世界を、世界の真実を知らなければならないのですから。」


「ネネ様・・・」

 部屋の中央に置かれた球はまさに太陽のように赤く光っていた。そして、それを抑える多重結界は一枚となっていた。もう限界のようだ。


「マーキング対象物、ランダム転移。」

 ネネのオーラが一瞬にして消えた。体が動かなかった。そして、目の前の核融合炉は臨界に達したのだろう。それは、最後の結界が割れた瞬間に制御を失った。そして、白い強い光を放って、爆発した。


 そして、ネネの目の前は真っ白になった。




 スミレは目を開けた。さっき、爆発に巻き込まれて、どうなった何だっけ?スミレはどこかの草原に寝ているようだった。空には星空が広がっていた。さっきまで昼だったはずなのに。もしかして、もう死んで天国に来ちゃったのかな?


 スミレは起き上がって辺りを見渡した。そこには草原ではなく、山が広がっていた。

「天国って山だったんだ。」

 スミレは独り言を言った。


「何言ってるんですか?馬鹿なんですか?」

 冷たく、そしてまた懐かしい声、いや、さっきまで聞き慣れていた声が聞こえた。

「ネネ様!」


 スミレはほっとした。そして、安心したせいであろうか、涙がほろほろと流れてきた。

「私死んじゃったって思ったん。ヒック。ネネ様、ヒック、本当に私たち、ヒック、天国にいるんじゃないですよね?ヒック。」


 スミレはそばに座っていたネネに突進した。ネネは突き倒されて仰向けになった。スミレはネネを抱きしめた。

「私、ヒック、怖かった。本当に、ヒック、怖かった。」

「あのー、痛いです。」


 ネネは空気を読まなかった。もはや、空気は読むものではなかった。スミレはネネから離れようとしなかった。

「大好き・・・」

「どさくさに紛れて何言っているんですか?」

 ネネは笑ってそう言った。


 近くで寝ていたマコトも漸く起きた。

「あれ?ここは天国か?」

「マコトもですか。このネタ流行ってるんですかね?」


 ネネはまだスミレに抱き着かれたままだった。

「天国でもいちゃいちゃしてるんだなあ。」

 マコトは真顔でそう言った。


「天国じゃないですよ。」

「じゃあどこなんだ?」

「ここはキョウの近く、クラマ山です。」

「だから夜なのか。」


 キョウとクマは地球の反対にあるので今は夜の三時くらいだった。

「そうです。」

「それで、成功したのか?」

マコトは聞いた。


「ええ、半径三十キロ以内の人はランダム転移させました。今頃世界のどこかで目を覚ましているでしょう。」

「クマの町は?」

「たぶん跡形もないでしょう。」

「はあ・・・」

 マコトはため息をついた。


「二人にお願いがあります。」

 ネネはかしこまった。

「何ですか、ネネ様?」


「私の味方になってくれませんか?」

 ネネは頭を下げた。

「何言っているんですか?私はいつでもネネ様の味方ですよ。」

 スミレは笑顔で答えた。さっき泣いていたのが嘘のようだ。


「ありがとう、スミレ・・・」

 マコトは少し考えていた。

「僕も、ネネの味方をしよう。」


「本当に意味が分かっていっていますよね?」

「うん、僕の覚悟はアルティ決めの時に決めている。」

「あのさ、今更なんだけど、どういうことなの?」

 スミレはまだ気が付いていないようだった。


「今、世の中が大変になっていることは知っていますよね?」

「うん。」

「長い目で見ると、恐らく今は帝国の崩壊の時期なんです。」

「うん。」


「そして、帝国が崩壊すると群雄割拠の時代になります。」

「へえ。」

 ここでマコトが口をはさんできた。

「そして、ネネはその群雄の一人になるつもりだ。最悪世界中を敵に回すかもしれない。」

「マコト、私の言葉を・・・」


「今、ネネを選ぶともう鞍替えはできないということだ。」

「最後まで言ってしまいましたね。」

 スミレは真剣な顔をした。


「私はネネ様を信じています。」

 ネネは嬉しかった。しかし、不安になった。

「スミレ、マコト、気持ちは嬉しいけど、普通の人じゃ背負いきれないことをこれからやっていかなければならないの。本当に大丈夫?」

 スミレとマコトは笑った。


「愚問だな。」

「ですね。」

「僕たちが、ネネの負担を軽くするんだよ。」

 ネネは本当にうれしかった。そして、微笑んだ。

「ありがとう、本当に。」


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