1-46.帆船レース10
そのころ、ランティスの船では、
「敵船離脱していきます。」
「なぜだ?」
「俺たちが怖くなったからだろう。わーはっは。」
「そんなすぐに諦めるような生徒たちじゃありませんよー。感じませんか、この魔力の高まりを?」
レイリ先生がそう言った。
「あと、助けてほしい時は言ってくださいね、それまでは助けませんから。」
「そんなこと起きねーよ、先生。」
「それはわかりませんよー。」
「船長、このあたりの海面が荒れています。」
「まさか・・・」
その波たちは段々と渦を巻き始めた。
「直接攻撃が無理なら間接的に攻撃ですか・・・」
「そうだ。でも、このままだとうちの船もやばいかも。」
「はああ?」
渦は段々と大きくなっていく。
「舵が切れません。」
「やばい。水面に移動魔法を使え、逆向きにな。」
どうやら、三年生一番のアルティこのまま倒れるつもりはないらしい。しかし、時すでに遅し。
「敵船、どうやら逆らう方向に魔法をかけている様子。」
「もう遅いですね。波だったときに気付いておけば助かったかもしれませんが、お気の毒に。」
渦は成長して、大きな渦潮になった。もはや、敵船は逃れようがない。しかし、その渦はまだまだ大きくなっている。
「このままだと確実に飲み込まれる・・・」
「制御しろよ。」
「もう疲れた、あとは船長よろしく。」
マコトは座り込んだ。どうやら魔法を使いすぎたらしい。
「無責任ですね、しかし、仲間の尻ぬぐいもリーダーの役目ですかね。」
ランティスでは、
「渦は収まる気配がありません。」
「見たらわかるわ。あとゴールまで十海里くらいだというのにここでくたばるのか?」
「このままだと、飲み込まれるのは時間の問題です。」
「最後にあがいてみる。みんな海面に向かってファイアーボールを撃て。」
しかし、その努力も空しく船は渦から逃れることができない。そして、渦の中心に達した。船体が悲鳴を上げた。
「助けてください、先生。」
ここで、ランティスの敗北が確定した。
「はいはい。みんな集まってください。」
レイリは船員を集めた。その間にもう船の半分は沈んでいる。
「フライト。」
レイリ先生は船員に浮遊魔法をかけた。全員空中に体が浮き、間一髪で沈んでいく船から脱出した。船は大きなギシギシという音を立てて沈んでいった。
「ああ、折角作ったのに。」
そのころ、ソフィア号では、
「渦に巻き込まれます。」
「やばい。」
「イオ、死にたくないよ。」
「いざとなれば頼ってくださいね。」
「さてどうしましょうかね。」
ネネはなぜか落ち着いていた。しかし、このままいけばランティスの二の舞だ。そのとき、ランティスの船員が飛んで船から脱出するのを見た。そのとき、ネネは閃いた。デッキの床に手を当てた。一か八かだ。
「フライト。」
私は船に浮遊魔法をかけた。船は段々と海面からその船体を離した。
「え、まさか・・・」
「まじ?」
そう、無事に船は空中へと脱出したのだった。それは斬新な光景だった。そしてどこか冒険心をくすぐるものだった。普段見えていない部分が見える。不思議だった。海の上を浮かぶ船が空に浮かんでいたのだ。
「わー、すごいよ。サヤカちゃん。」
イオはサヤカのほうを向いて言った。
「さすがだな。」
しかし、ネネはそれを楽しんでいる暇はなかった。頭をフル回転させながら魔力消費量を抑えて操縦していた。渦から脱出すると私はすぐに船をそろりと海に浮かべた。
「進路276度、船速そのまま。」
「アイアイサー。」
何とかして、脱出できた。ネネは床にそのまま座り込んだ。
「おつかれ。すごいよ、ネネは。」
ヘイドが私を褒めてくれた。何だろう、変な感じがした。突然胸がしまって、息がしづらくなった。疲れているのかな。
そのとき、アルベール先生が私たちの前に立った。
「よくやってくれたものだよ。まさか、私のランティスの船を沈めてくれるとはね。」
「レイリ先生がいると聞いたので手加減をしなかっただけですよ。」
マコトが割り込んできた。
「は、は、は、そうだね。彼女がいると何をしても大丈夫かもね。」
「快適な船旅はお送りいただけましたでしょうか?」
ネネは胸のドキドキが落ち着いたので、立ち上がった。
「ああ、もちろん、私でさえ学ぶことが多くあった有意義な船旅だったよ。」
「それはよかったです。」
そして、ネネは微笑んだ。




