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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
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1-45.帆船レース9


このあと、嵐もなく順調に航海でき、ナハ港まではあと五十海里となった時、午前中に見張りをしていたケリンが前方に船を見つけた。それは一位を走っている三年生一番のアルティのランティスだった。同じく、ナビゲーションパネルにも同様の反応があった。


「やっと、私のアルティに追いついたようだね。」

 ネネの隣にいたアルベール先生がそう言った。

「あなたのですか。」

「ああ、自慢のアルティだよ。あと、あの船にはレイリ先生も乗ってるからね。」

「それでは思い存分攻撃して沈められますね。」

「おお、怖い。」

「茶化さないでください。ちょっと挨拶でもするから、ヘイド、手伝って。」

「うん、いいよ。」

 私とヘイドは一つの大砲に向かった。


「ここからじゃ絶対に当たらないよ。」

「いや、当てるんですよ。射角30度に調整。」

「はい。」

「このまま保ってね。」

 私は球をつめた。


「初速度660m・s、投下時の爆破術式、設定、完了。追尾術式、設定、完了。発射!」

 砲弾は目にも止まらぬ速さで発射していった。音速よりも早いから発射した音を聞くのは砲弾が着いた後だろうな。四秒くらいで着くだろう。


「着弾しました。」

「いやー、驚いたよまさかここから撃つなんて。」

「レイリ先生がいるのならこんな攻撃でも相手はどうにかなるでしょう。一筋縄ではいかなそうですねし。」


「私の生徒はタフですからね。精々楽しんでください。」

「では、お言葉に甘えさせてもらいますね。」


 砲弾は着弾し、爆発までしたが、被害は最小限にとどまっているらしい。だが、船足は確実に落ちている。

「マコト、どのくらいで追いつく?」

「半時もすれば追いつくでしょう。」

「わかった。総員、戦闘準備。」

「はい。」


 船は急に慌ただしくなった。ネネはもう一度砲弾を撃ったが今度は不意打ちではないので、防御魔法によって落とされた。


「同じ手は通じませんか。」

 相手の船の被害は大したことはないようだった。たぶんすでに修復済みだろう。

「向こうは撃ってきませんね。」


「それは、普通に考えたら撃てないからだと思う。」

 ケリンが言った。

「そうなんですか?」


「そうなんです。でも、ネネ様とかマコトとか見てるともう何をしても驚かなくなる。」

 半分呆れたような顔をした。

「私ってもしかして・・・・おかしいですか?」

「あの・・・・誰も言わないんで言いますけど、だいぶおかしいです。」


「でも、授業でこのような魔法をみんな使っていたので。」

「正直、普通にこのアルティのレベルが異常に高いんですよ。僕は魔法は得意なほうですが、このアルティだと下から三番目ですよ。」

 ケリンは笑った。


「あら、でもたぶん世の中にはもっとすごい人がいっぱいいますよ。」

「そうですかね。」


「そうなんですよ。でも、ケリンも頑張ってると思いますよ。」

「・・・」

「あら?」

 ケリンは目をそらした。


「僕、そんなこと言われ慣れてないんですよ。」

「私は事実を述べただけですから。」


「敵船、魔法使用圏内に入りました。」

 スミレが言った。


「よーし、この間みたいにやられるだけじゃねーからな。」

 カイが意気込んで言った。今回の戦闘ではネネ、マコトが防御、スミレがホイール、イオ、、ケリン、サヤカ、カイは魔法攻撃、ヘイドは砲撃をすることになった。


「魔法攻撃準備。」


 みんなが一斉に構えた。今回は速攻ではないので各自演唱を始めた。演唱魔法とは二種類に分けられて一つは速攻型、そしてもう一つは遅延型である。速攻型はあらかじめ杖などの魔道具に術式を登録しておき、魔力がある人が登録した言葉を唱えるとそれが魔法となって放出される。

ファイヤーボールなどがその類だ。簡単な言葉ですぐに魔法が使えるが、威力が劣ったり、一つの魔道具に登録できる魔法は精々五から六個なので慎重に選ばないといけないし、緊急時には役に立たなくなるかもしれない。遅延型は長い演唱が必要だが、登録は不要で、威力が強い。ちなみにネネ、マコトは無演唱で魔法を使えるためより速く魔法を使うことができる。


「撃て。」

 それぞれ得意魔法を打ち出した。しかし、相手の防御魔法は厚く攻撃が当たらない。

「くっそ。防御魔法さえなければ。」


 向こうも黙っているわけではない。砲撃や攻撃魔法を受けているがネネとマコトによって悉く撃ち落された。戦力は均衡状態を保ったまま、十分が過ぎた。

「船長、僕一人で防御できるから、そろそろとどめさしてよ。」


「何で私なんですか、マコトがやってください。」

「目立ちたくない。」

「私もです。」

「船長は魔法使いだろ。」

「本当は私よりも強いくせに。」

「・・・・」

「何ですか。」


「いや、ばれてたのか。」

 マコトは笑った。

「はい。見たらわかりますよ。」

「いつくらいからだ?」

「最初に声をかけたときからですかね。」


「仕方ないな、また僕に仕事をさせるのか、ホンド瀬戸の時みたいに。」

「優秀な仲間を存分に活躍させるのもリーダーの役目ですからね。」

「はあ、うまく言いくるめられたな。」

「私は嵐の時に十分働きましたから。」

「船長はよくやってくれてると思う。」

「じゃあ、任されてくれますか?」


「よし、任せろ。」

 マコトは防御魔法を解いた。そして、攻撃しているみんなのほうに歩いて行った。

「攻撃中止。」


 これ以上、勝手に攻撃されても邪魔でしょうね。相手の魔法は止む気配はないが、私の防御魔法で足りますかね。

「行くよ、船長。」

「存分に暴れてくださいな。」


「任せたぜ、精々この船が沈まないようにしてくれよ。船長ならできる。」

「一体何を・・・」

 そのとき、ネネはマコトが何をしようとしているのか分かった。

「面舵一杯。」

「アイアイサー。」


 スミレは舵を切った。迷いがない。普通だったら戸惑うのに。信頼されているおかげかな。マコトは無演唱で敵船の真下に魔法をかけた。私たちの船は敵船から離れていく。そのとき、敵船の脚が落ちた。そして、海面が荒波を立て始めた。風は吹いていない。


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