1-43.帆船レース7
まだ、頭がぐらぐらしますね。でも、デッキでの空気はおいしい。嗅ぎなれた潮の香りがする。海は波が高く、よく揺れる。ネネが風を引いたのは二日前のことであり、そこから記憶があまりない。漸く二日経って意識が戻り、普通に生活できるようになった。なぜか朝起きると部屋にスミレがいた。
彼女は看病をしていただけだと言い張るが、スミレのことだから私がねている間にキスでもしたのでしょうか。残念ながら他の船員は私の部屋には入っていないらしいです。スミレが病気がうつるといけないという名目でお見舞いや看病を制限したそうな。まだ、足が筋肉痛です。
ネネは、ふらついた。
「大丈夫ですか?」
そこに例のスミレが現れた。そして、倒れかけていたネネの体を支えてくれた。
「ああ。」
ネネは適当に返事をしてしまった。
「やはりまだ寝ていたほうが良いのでは?」
「いや、心配無用だ。」
ネネは自力で立った。
「おう、かわいい船長さんはもう元気になったのかい?」
カイが相変わらずのようにそう聞いてきた。
「うん。まだ、筋肉痛は少ししますけど。」
「それは俺様にお姫様抱っこしてほしいってことかい?」
「あ、全然違いますので。」
「船長が弱ってるから今なら言いたい放題かな。」
「あとで、殺しますよ。」
「乙女がそんなことを言うんじゃないぜ。」
「はあ、疲れますね。」
「やはり、寝ていたほうが・・・」
「いや、そういうわけじゃないないので。」
そこにサヤカがやってきた。
「おお、ネネ。元気になったのか?」
「うん。お陰様で。」
「よかったなー。俺もお見舞い行こうとしたんだがな。そこのスミレが頑なに行かせてくれなくてな。」
「仕方ないことです。ネネ様を独占できるのはこんな時しか・・・」
もはや何も言う気になれません。
「はは、船長を独占したいだなんて。」
「あん?てめえ、いたのかよ。また船長にちょっかいかけてたんじゃねーだろうな。」
どうやらサヤカはカイがいたのに気づいていなかったらしい。
「おめーみたいにショーもねことはしてねーよ。」
「じゃあ、何してたんだよ。」
「俺はただ船長にお姫様抱っこを・・・」
「それをちょっかいって言うんだよ。まじ、語彙力ないのかよ。」
語彙力はどっちもどっちだと思いますけどね。
「はあ、てめーのほうが語彙力ねーだろう。」
二人はそのあと、三分くらいいがみ合って、
「話がつうーじねーな。」
「おれもだ。ふん、今日のところこれくらいにしておいてやる。」とまあ、よくわからないことを言ってどっかに言ってしまいました。毎度のことなのですけどね。
そのあとネネはデッキでハンモックを出して、日向ぼっこをして残りの日を過ごしたのだった。
ちょうど、昼を過ぎたころだろうか。ネネに一つの影がかかった。
「元気になったようだね。」
アルベール先生は低い威厳のある声でそう言った。
「はい、お陰様で。何か御用ですか?」
「いや、ちょっと話したいことがあってね。」
「何ですか?」
「ナハについた後、君に会いたいという人がいるんだよ。私の知り合いでね。」
「なぜ私に会いたいのですか?」
それは不思議だった。別に魔法使いならほかにもいる。もしかしたら他の人も呼ばれているかものしれない。
「君が特別だからだよ。」
特別、そう、誰しもこの言葉を希求しているかもしれない。アイデンティティがなかなか判明しない人は他の人と差を求めたがる。この一例が特別だ。ネネは自分は特別だと思ったことはない。なぜならその特別と言われるのは、私の生まれ、育ち、魔法などであるが、私が努力して勝ち得たものではない。その中で唯一私が認めようと思うのはお母様の子であるということくらいだろう。
「私は特別ではありません。」
「そうかな、少なくとも私には特別に見えるが。」
「冗談をおっしゃらなくてもよいのですよ。」
「まあ、そういうことにしておこう。で、どうだね?」
「その方は一体誰なのですか?」
「それは、シュリーフェンという人だよ。」
私はその人の名前を聞いたことがあった。確か予言者とか言っているそうだ。なんだか胡散臭いが会ってみますか。
「いいでしょう。」
「じゃあ、そういうことで。あ、あと、ハンモックは早めに片付けておくことをお勧めするよ。」
「お気遣い、ありがとうございます。」




