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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
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1-41.帆船レース6





無事に瀬戸を通過した後にはヘイドは魔法の使い過ぎでへとへとになっていた。瀬戸を通過するとネネはコマンドを発動した。

「ナビゲーションモード発動。」

 ナビゲーションモードとはあらかじめチャートと目的地を登録すると自動で船が動くという仕組みであり、船員の負担軽減のためにヘイドが開発したものだった。

 それにしても本当に作ってしまうとはヘイドはすごいですね。ヘイドは魔法はディアが来てから少しずつできるようにはなってきたが、まだ戦力外だ。その代わり、魔法についての知識はすごく、魔力さえ供給すれば船でも動かせるようなものを作ったのだった。ちなみにこれは探知魔法も兼ねていて半径十キロ圏内の海の状況が常にホイールの横にあるボードに表示されるという有能すぎるものだった。

「お疲れ様です。疲れたでしょうから寝ていいですよ。」

 そのとき、誰かが拍手する音が聞こえた。アルベール先生だ。

「いやはや、まさかあのレッドリザードを一年生が倒すなんて、流石レイリ先生が担当されているアルティですね。そして、置き土産も見事でしたよ。氷だけではないんですね。」

「お誉めにあずかり光栄です。」

「どういう何ですか?氷だけではないって?」

ケリンが聞いた。

「それはそこの参謀君に聞いてみればわかりますよ。」

「アルベール先生はいやらしいですね。」

「ただ素直に評価しているだけですがね。」

 アルベール先生は笑った。

「あのままレッドリザードを氷漬けにしているとあのアルティは自分たちの相対順位を上げるためにあそこで他のアルティを襲ってくれるってことですよ、ケリン。」

 私はマコトの口を煩わせないように言った。

「それは卑怯だな。」

 サヤカは許すまじとでも言いたいのでしょうか。

「散々卑怯なことをされたでしょうが。しかもこれなら私たちの手を煩わせなくて済むんですから。」

「それはそうだな・・・・」

 サヤカはどこまでも真っすぐありたいらしい。ネネはやられたらやり返したいし、やられた分働いてもらえるのならそれでいい。

「さあ、もう皆さん休んでくださいな。」


 アルベール先生は部屋に戻った。そして彼は眠れそうになかったので、椅子に腰かけた。

「いやはや、面白いですね。実に面白い。この子たちの実力は本当のものですね。教師陣でも負けてしまうくらいに。才能が恐ろしい。次なる乱世でも活躍してくれるのでしょうね。」

 彼はグラスにワインを入れて、グラスを上げた。

「ソフィアに幸運あれ。」

 彼はそのワインを一気に飲み干した。


 その後の航海は難なく順調に進んだ。敵に遭遇することもなかった。船は順調に西へと予定通りの航路を進んでいた。ナガシマ南部を通り過ぎ、クロノ瀬戸を通過、ようやく外海のノオン洋に出たのだった。そこから、風は強くなり進む速さが上がった。船の上での生活は快適だった。ヘイドが作ったシステムによってお風呂、トイレ、明かりなどがすべて魔力によって動かされてなんの不自由もなかった。

 そんな中、私は二回目の作戦会議を開いた。メンバーは前回と同じく私、ヘイド、マコト、サヤカである。

「作戦会議ってする必要あんのか?」

 サヤカは面倒くさそうな顔をした。

「あるだろ?」

ヘイドがそう言った。

「まずは現状報告を、マコト。」

「はい、前回の戦いにおいて死者、負傷者ともになし、船体の被害もすべて修復済み、魔力制御システム及びナビゲーションは正常に動いております。そして、不確かな情報ですがわがアルティは現時点で三位の模様。」

「何の情報だ?」

「アルベール先生によるものであります。一位は三年の『ランティス』、二位は一年の『空』であるそうです。」

「空ってあのリテラのいるアルティだよね?」

「ヘイド、私はいちいち小物ことは覚えていませんよ。」

「もう、ネネったら。」

「俺が判断するにその情報は正しいと考えられる。アルベール先生の胸ポケットにねずみが入っていた。恐らく、コバルト校長の使い魔で、全教員が校長経由で情報が得られるのだろう。」

「なるほど、使い魔か。それなら可能かもしれないな。」

「これからのことだが、風魔法で船の速度を上げたほうがよいと思うのだがどうだろう?」

「それは名案だけど、みんな大丈夫なのか?魔力を消耗しそう。」

 ヘイドはそう言った。

「その心配があったから聞いたのだ。」

「僕は賛成かな、一時間交代でやれば負担にはならない。恐らく一位との差はかなりのものな気がするからね。」

「俺も賛成だぜ。どうせやることなくて暇してるんだしな。」

「ヘイドは?」

「みんながいいならいいと思う。」

「じゃあ、それで決定ですね。あと、マコト私の仕事取りすぎです。」

「すまん。」

「次は嵐の時の対応についてですね・・・・」

 会議はその後三時間続いた。


「いや、疲れたな。」

「そうですね。」

私は微笑んだ。

「本物の海軍とかだったらどんな感じなんだろうな。」

「少なくとも私には無理ですかね。ヘイドはどうですか?」

「うーん、俺は頑張ればいけるかな。でも、やりたくはないけどな。」

「まあ、ヘイドがやることなんて天地がひっくり返るまでないと思いますよ。」

「そもそも今の海軍はお飾りみたいなものだしな。」

「ええ、いつ隙をつかれてもおかしくないのですがね。」

「まあ、それは帝国の権威がすごいってことじゃね。」

「今、結構揺らいでますけどね。ヘイドも貴族だからわかるでしょう。」

「ああ、公にはなっていないがな。増税をまたするそうだ。」

「民衆の不満が高まるのも時間の問題ですね。」

「全くだ、そして跡取り問題で宰相家はもめている、リテラかユグノーでな。あとは最近魔物の被害が大きくなっている。これが増税の主な原因なんだがな。」

「でも、帝国が崩壊する決定打がないですね、一応権威はまだありますし。」

「二千年間、世界を支配した帝国が一夜にして滅ぶなんてないだろう。」

「現実を見て、ヘイド、帝国が滅びるのは時間の問題です。その時ヘイドはどうするのですか?」

 私は真面目な顔でそう聞いた。

「・・・」

 ヘイドは黙っていた。


 その夜、ヘイドは眠れなかった。昼間の言葉が気になったのだ。

「俺はどうするのか、か。」

 俺は帝国につくべきなのか、それともそれに対抗する勢力につくのか、それとも別の選択があるのか?

「ネネはどうするのかな?」

 ヘイドは黒い天井を見つめた。船がゆらゆらと揺れていた。気が付くと朝だった。




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