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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
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1-37.帆船レース2




 デッキに上がるとみんなが忙しく出港準備をしていた。生鮮食品の積み込みや追加の砲弾の積み込みなどに追われていた。出向時刻は午前八時だ。あと、三十分もない。私も荷物運びや船の最終調整に入った。船のあらゆる場所に異常がないか確認していたのだ。しかし、私は船倉のチェックを怠ってしまった。

 そして、レース開始一分前となった。錨を上げる準備、帆を広げる準備が整った。

 次の瞬間ピストルの音が、

「パーン。」

と辺りに響き渡り、旗が下ろされた。

「出航、総帆展けえ。」

私は思いっきり叫んだ。みんなが聞こえるように。すべての帆が一瞬にして開いた。そして、私たちの船ソフィア号は前進を始めたのだった。

「進路325度、ウド半島をギリギリで抜ける。」

「アイアイサー。」

スミレはホイールを回して、進路を決めた。風は東風、横帆に比べて少し遅れますね。ソフィアはスタートはうまく切れたので今暫定八位くらいの位置で走っている。そして、その前を走るのが横帆の船たちだ。リテラのアルティの船も見られた。

「このまま、風向きは夕方まで変わらないだろう。作戦会議を始める。ヘイド、マコト、サヤカ。会議室に来て。」

ネネはそう言って会議室に降りて行った。


「これからのことだが、どうする?」

「おそらく、他のアルティは攻撃に転じると思われる。ホンド瀬戸はとても狭い水道なので攻撃もしやすい。万が一封鎖されたら戦闘するしかない。」

ヘイドは真剣な顔をしてそう言った。

「俺は封鎖されるに賭けるぜ。この学校の連中は汚い手ばっか使うからよ。」

「ルール違反じゃないしね。」

「選択肢は二つです。戦闘を避けるためにハヤサキ瀬戸を通過するか、戦闘覚悟でホンド瀬戸へ向かうか。ハヤサキ瀬戸はホンド瀬戸に比べてだいぶ広いので見つかる心配も少ないです。」

「俺はホンド瀬戸に行くぜ。どうせどっかで戦う羽目になるんだったら早いほうがいいだろ?」

「サヤカは威勢がいいですね。」

「あん?あったりめーだろ、こっからは戦争だ、戦争。」

「僕もホンド瀬戸に行くべきだと思う。そっちのほうが時間短縮になるし、本来予定していた航路だから。」

「俺はハヤサキ瀬戸がいいと思う。そこで戦って沈んだら終わりだしな。」

 慎重なヘイドはそう言った。こういうところは慎重なのである。サヤカの時はあと先考えずに飛び出していったのですが。

「あとは、船長?どうする。船長が決めたことだったら文句を言わずに従うからよ。」

「では、本艦は進路を維持、予定通りホンド瀬戸へ向かう。ホンド瀬戸の詳細なチャートはあるか。」

「はい。」

 マコトはすぐにチャートを用意した。

「一番細いところはここだ。幅は八十メートルもない。」

「ここで襲われるのか?」

「周囲は平野だから身を隠せそうにもないしな。でも、敵は入り口で待ち構えているはずだ。」

こ のようにして綿密な作戦が練られた。そして、作戦会議が終わりそうになった時、スミレが血相を変えて会議室に入ってきた。

「大変ですネネ様。海水が・・・」

 ネネたちは急いで船倉に降りていった。私が船倉に着いた時にはもう穴は塞がれてはいたが、海水が膝の高さまで入り込んでいた。

「すみません、私がもっとしっかりしていれば・・・」

 スミレが申し訳なさそうにそう言った。

「大丈夫、俺が応急処置はしといたからよ。本当は魔法が使えればいいんだがな。」

 カイが海水をジャバジャバとさせながら言った。

「カイにしてはしっかりしてるのですね。」

「ポンプは?」

「今、イオが持ってきている。」

「交代で排水すれば昼ごはんまでには大丈夫になるだろう。」

「お待たせー。」

 イオがポンプを持ってきてくれたのでひとまずは安心だ。それからは、ケリンとカイが交代で排水をしてくれたので、船倉の海水はなくなった。幸いにも濡れて困るものはおいていなかった。

「一体どうやって穴が開いたんだろ?」

ヘイドはみんなで食事をしているときに不思議そうに聞いた。

船の中の食堂は大きなテーブルが一つしかなく、それをみんなで囲む。魔法が使えないので、テーブルの上にはランプが吊るされている。外から明かりも少しは入ってくるが窓は小さいものだった。

「さっき見て来たけど、穴は魔法によってつくられたものだと見て間違いない。恐らくどこかのアルティの妨害工作だろう。昨晩、時間差で発動する魔法を仕組んでおいたのだろう。一応ルール違反ではないから。」

 マコトが解説をした。

「くっそ、汚ねーな。」

 サヤカが悔しそうに言った。

「魔法が使えるようになったら私が元通りに直しておきますね。」

「一大事になんなくてよかったじゃん、ね?」

 イオがそう言った。確かに魔法の威力がもう少し大きくて、気づくのがもう少し遅れたらこの船は沈んでいただろう。

「そうですね。終わったことですし、いいでしょう。」

 私は少し気持ちが明るくなった。

「これからが問題なんだけどな。」

 ヘイドが話題を変えた。

「風が思った以上に弱いのでチェックポイント到着は恐らく深夜一時から二時くらいになる見込みだ。その時は全員起きて戦闘態勢に入れ。」

 ヘイドはざっと作戦を説明した。

「最後に、チェックポイントに着いたらネネは船体の修理をして、そこから敵の位置を把握する。それまでは待機だ。あと、光は絶対に漏らさないように。お風呂については、午前三時から六時まで男子、七時から九時までを女子に入るように。だよな、船長。」

「そうですけど、私の仕事を奪わないでください。」

 ネネは少しほほを膨らませた。


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