1-30.使い魔1
次の日、『ソフィア』のみんなは、レイリ先生に言われた中央棟六階の八番教室へ行った。授業は朝八時半からだ。教室はだだっ広く、とても八人が教わるような場所ではなかった。机は黒板の近くに二つだけ置かれているだけで、あとは何もない。先生は私たちを五人掛けの机に座らせた。
「はーい、おはよーございます。」
レイリ先生はハイテンションで挨拶をした。
「おはようございます。」
「じゃあ、今日から本格的に授業を始めますねー。一番最初の授業はですねー、何かわかりますか?」
「使い魔の召喚。」
ヘイドは隣のネネとローが聞こえるくらいの声でぼそりと言った。しかし、レイリ先生はそれを見逃さなかった。
「はい、そのとーり。使い魔の召喚です。みんなはまだ未熟な魔術師だけど、使い魔がいるとなにかと便利なんだよねー。あとは召喚される使い魔の種類によって自分の得意魔法がわかるんだよー。」
魔法の種類には大きく分けて、炎、水、氷、雷、草、土、風、光、そしてその他の未分類魔法がある。例えば、リテラの時間を止める魔法もそのうちの一つだ。
「地獄耳だね。」
ヘイドはネネに話しかけた。
「そうですね。」
ネネは笑って答えた。
「では、使い魔の召喚は熟練の魔術師及び魔法使いがいないとできないんだけどー、なんでかな?じゃあ、ヘイド。」
「えー、召喚には使い魔を魔法によって移動させるので膨大な魔力が必要になるので、俺たちにはできないのです。ちなみに使い魔との契約はたとえ魔力が少なくてもできます。」
「うん、そーだね。じゃあ早速やっちゃおうか。その前にすでに使い魔と契約してる人はいない?」
誰もなにも言わなかった。
「どうやらいないよーだね。じゃあ、イオから。」
「はーい。」
イオはレイリ先生がいる、教室の開けたところに歩いて行った。レイリ先生はイオの両肩に両手を置いた。
「今から私の魔力を送りますねー、私の魔力を感じたら召喚魔法を使ってくださいねー。呪文は『Mi porti un giornale, per favore.』ですよー、失敗してもいいですからね。」
「はい。」
イオは少し顔をこわばらせた。
「Mi porti un giornale, per favore.」
イオは呪文を唱えた。緑色の光が彼女の手のひらから出て、ゆっくりと床に落ちた。その瞬間、その部分がパッと光り、教室が光に包まれた。そして、光がなくなるとそこには緑色の大蛇がいた。
「成功ですよー、よくできましたね。じゃあ、あとは契約するだけです。契約の呪文は、『voglia di accompagnaraLa.』ですよー。」
「voglia di accompagnaraLa」
イオがそう言うと、今度は白い光が使い魔に向かって出て、イオと蛇がその光によって結ばれた。そして、数秒経つとその光は消えた。
「これで、契約完了よー。あとはかわいい名前を付けてかわいがってあげてね。使い魔は主人の考え、心情などが理解できるから、愛情もって育ててあげてねー。」
「わかりましたー。」
イオは満足そうにした。そして、恐る恐るその蛇の頭を撫でた。そして、大事そうに抱えて、席に戻ったのだった。
「そういえば、イオの得意魔法は草の魔法よー。」
同じく、一人一人これと同じく、順調に使い魔を召喚していった。カイは風魔法のフクロウ、スミレは土魔法の犬、サヤカは雷魔法のモモンガ、マコトは氷魔法のシロクマ、そしてケリンは水魔法の亀。
レイリ先生曰はく、ケリンの亀はなかなか使い魔としては珍しく、貴重なものであるらしい。
「亀は千年鶴は万年っていうからねー。」
そして、いよいよネネの番だ。
「ネネは私の助けがなくてもいいわね。」
「あ、はい、そうですね。」
ネネはそう言って、構えた。
「Mi porti un giornale, per favore.」
ネネの手のひらから紫色の光が飛び出した。ここまでは普通だったのだが、その紫の光はネネから二メートルくらい離れた空中で静止して、ネネが魔力を加えていくごとに大きくなった。そして、限界に達したらしくその光は爆発した。光が爆発しただけなので、ただ辺りが紫の強い光に覆われただけだった。ネネは反射的に目を閉じてしまった。
ネネはゆっくりと目を開けた。そうしたら、ネネの目の前には空中に浮いている、幼女がいた。年齢は七歳くらいの容貌であった。彼女の周りにはキラキラと光る紫色の光が複数存在し、彼女の周りを不規則に漂っていた。彼女は真っ白な肌、紫色の目、ロングヘアをしていた。
いとおしい、ネネははじめにそう思った。先生やみんなは驚いていたが、一言も発することはなかった。ネネは、その幼女の小さくて可愛らしい手を握った。
「voglia di accompagnaraLa」
二人は白い光で結ばれ、契約は無事に完了した。
「これは?」
「長いこと生きてるけど、こんな使い魔見たことないねー。少し、心当たりがあるものもあるけどねー。」
レイリ先生は感心はしていたが、驚いてはいなかった。それに対して、他のみんなは驚いていた。
「流石ネネ様。」
「なんかスゲーな。」
「人型の使い魔って聞いたことがないな。」
「さっきから何を・・・」
「こっちへいらっしゃい。」
ネネは彼女の片方の小さな手を握りながら、自分の席へと戻った。
この時、ケリン、ヘイド、イオが首を傾げた。
「ネネは何に話しかけているの?」
イオは聞いた。どうやら三人には見えていないらしい。
「この子ですけど。」
「どこにいるの?」
ヘイドはそう聞いた。
「ヘイドまで、何を言い出すんですか?」
ネネはあきれたようにそう言った。
「ネネの使い魔が見える人?」
スミレ、サヤカ、カイ、マコトが手を挙げた。
「なるほどねー、ますます面白い。たぶん体内の魔力量が多い人は見えてるのかな?それとも生まれが関係してるかもしれないねー。まあ、面白いものを呼び出してくれたものだねー。」
「見える人と見えない人がいるということですか?」
「うん、そうだねー。理由は詳しく調べてみないとわからないけどね。」




