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カミトキ  作者: 稗田阿礼
第一章 学園編
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1-2.エレ・アンジェラ2


 月日はアッという間に流れて、私は五歳になった。三歳の時のことはよく覚えていないけど、いまだに魔物はトラウマになっている。あの事以来お母様は私を遠くには連れて行かなくなった。私とお母様はこのアソの大森林の中央で二人で自給自足の生活をしている。


「お母様、今日は卵二個だけでした。」

私は朝起きると、鶏小屋に行って卵を取る。四羽しか親鳥はいないので、日によっては卵が一つもなかったり、いっぱいあったりとする。

「そう、じゃあ夕飯に卵は使えないわね。ありがとう。もうすぐしたら朝ごはんできるからね。」

 お母様はキッチンで味噌汁を作っていた。

「私は何かすることはありますか?」

 私はお母様に聞こえるように大きな声で言った。

「そうね、じゃあお茶碗にご飯をよそってくれる?」

「はい。」

私は釜から炊けたご飯をお茶碗によそった。


「いただきます。」

「はい、いただきます。」

今日の朝食はご飯、味噌汁、漬物、焼き魚だった。

「ほら、味噌汁は音を立てて飲まないの。行儀が悪いわよ。」

「ごめんなさい。」

私は謝った。


「今日は何したい?」

 ご飯を食べ終わるとお母様はいつもそう言う。私は食べるのが遅いので、ご飯を口に入れながら答えた。

「えーと、うーん、湖で泳ぎたいです。」

私たちが住んでいた家の北には大きな湖があって、夏にはよく水遊びをしに行く。

「じゃあ、お弁当作らないとね。」

「やったー。」

私は喜んで、ついコップに入っていた、緑茶をこぼしてしまった。

「ネネ、行儀が悪いですよ。」

お母様はそう言って、テーブルの上のこぼれた緑茶をふいた。朝食後、私はいつも通り畑の手入れをして、水やりをした。私は畑仕事が好きで、たまに畑に夢中になって牛や鳥の餌やりを忘れてお母様に叱られることもある。


その日は太陽が結構高くまで登ったころ、私は仕事を終えて、お母様のところに行った。

「お母様、仕事は全部終わりました。」

「こっちもお弁当用意できたわよ。コレクサの湖に行きましょう。」

「おー、」

私ははしゃぎながら、お母様の後をついて行った。湖までは徒歩一時間くらいで、歩きなれた道ではあったが、私は知らないことがたくさんあるので新発見も多い。途中で、小さな池のほとりの枝にとまっている青くてきれいな鳥を見つけた。

「お母様、あの鳥は何ですか?」

「あれはカワセミよ。珍しいわね。」

 お母様はもの珍しいそうにその鳥を眺めた。

「なぜあのようにくちばしがとがっているのですか?」

「あれはね、魚を捕まえるときに水面の抵抗を最小限にするためよ。」

「ていこー?」

「ごめんなさい、ネネ、ちょっと難しい言葉を使ってしまったわね。要するにおさかなさんを捕まえやすいようにするためよ。」

「そうなのですか?」

「ネネは相変わらず何にでも興味津々ね。あの人みたい。」

「あの人?」

「いや、何でもないわよ。ただの独り言だから。」


このようにして、私たちは湖に着いた。お母様は湖畔に持ってきた折り畳み式の椅子を置いて、一息ついた。湖に向こう側の森が映って綺麗だった。

「やっぱり、湖は涼しいわね。」

この日は初夏のことであったので、泳ぐにはまだ時期は少し早かったが、歩いていると暑くなるような気温ではあった。私は気温などは気にせずに湖に入った。

「冷たい。」

やはり湖は冷たかった。しかし、一度入ると出て行くほうが寒くなってしまうので、私は湖の中を泳いでいた。

「わあー。」

湖の中はとても澄んでいて綺麗だった。小さい頃からよく通っているので泳ぎは得意だった。私は平泳ぎをして、足の届くところまで泳いでいった。

「あんまり、深いところ行っちゃだめよ。」

「はーい。」


お母様は本当に暑いときしか湖に入らない。しかし、一年前私が溺れてしまったときは服のまま湖に入って助けてくれた。それから一ヶ月くらいトラウマになって泳ぐの嫌いになったけ。でも、暑いのは嫌だから、お母様と一緒に入るようになって泳ぐのが怖くなくなった。私は足のつくところで泳いだり、ぷかぷか浮いたり、魚を見たりして遊んでいた。そうしていると、お母様が私を呼んだ。

「お昼にしますよー。」

「はーい。」

私はタオルで全身を拭いて、お母様のところへ行った。手のひらがふやけてしまっていた。

「今日はおにぎりとおかずですよ。残さず食べてね。」

「いただきまーす。」

「はい、どうぞ。」

私とお母様はご飯を食べ始めた。お母様は私といるときはいつも笑顔でいる。特にご飯のときはそうだ。

「どう?美味しい?」

 お母様は幸せそうな顔をして私にそう聞く。

「おいしい。」

私は決まってそう答える。普通にお母様の料理はおいしいのだ。


「ネネ、あなたは幸せ?」

お母様はよく私にそう聞いてくる。初めに聞かれたときは幸せの意味がわからないで、きょとんとしてしまったが、今は理解している。私は毎回この問いを投げかけられたとき私自身に問う、果たして私は幸せなのかと。そして毎度同じ答えに行きつくのだった。わからない。

「わからない。」と答える。初めの頃はお母様は驚いていたが、今はもう普通の回答だ。

「そうなのね。」

 お母様はうつむいた。そして、笑顔を取り繕う。


 午後に私はもう一度湖に入って遊んだ。お母様はその間大概読書をしている。前に一度お母様の本を見せてもらったが、難しくてよくわからなかった。私は読み書きはできるのだが、まだ難しい言葉はわからない。前読んでいた本は、世界の歴史についての本だったらしいお昼を食べて一時間くらいするとお母様は私を呼ぶ。

「そろそろ帰るわよ。」

「はーい。」

私は湖から出て、服を着替える。家に帰ると私たちはお風呂にはいり、夕飯を済ませた。


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